「ふぇ~」
「お~」
キュルケとギーシュはキャッスルドランから見える景色を簡単の声を上げた。
「すんごく高く飛べるのね、この城」
「城が飛んでるって、信じられないけどね」
キュルケとギーシュは城内を見渡す。
最初からいた3人は相変わらずカードゲームに勤しんでおり、タバサはシエスタの出した紅茶とクッキーを堪能している。
「竜の中なんて信じられないわね」
「そもそも竜を城に改造しようなんて発想自体が信じられないよ」
「…普通、こんなすごい竜を捕まえるなんて無理よね。それにそれを従わすのも…」
キュルケは改めて自分の想い人の凄さを実感した。
「そういえば最初ダーリンは鉄の馬で行くつもりだったのよね」
「あ、ああ。キバット伯爵に聞いたんだけども、あれって、『機械』なんだ…」
「うそっ!」
キュルケ達の知識では『機械』とは風車や水車、滑車の事だ。
「なんでも、ワタル陛下の国では機械技術が発達しているらしい。その機械にさらに魔法の手を加えたのがあの鉄の馬らしいよ」
「ふ~ん…それも気になるけど、なんでダーリンは…」
「おい、そこの2人とチビッ子」
『は、はい』
急に次狼に呼ばれて二人は緊張し、タバサも振り向く。
「暇なら付き合え。たまには人数の多い方が暇潰しになる」
『あ、はい』
6人はラ・ロシェールの街までトランプに勤しんだ。
「渡…なんでキャッスルドランを出したんだ?はっきり言って隠密には向いてないぞ?」
「…すごく…すごく嫌な予感がするんだ?」
渡はワルドを思い出す。
彼の心から聞こえたのは…
「そんな訳ない…そんな訳ないんだ…」
「渡?」
彼はルイズの婚約者。ルイズを幸せにする人…だから、ルイズを…はずがない…
「あれがラ・ロシェールの街か」
「凄いよね。空飛ぶ船があるなんて」
「そう、だな」
次狼・ラモン・力の3人は考え事をしている渡とキバットのお喋り相手をしているシエスタ、呆気にとられている3人無視して街を見ていた。
何故港町が山の中にあると言うと、この世界には空を行く船と海を行く船の二種類があり、今回彼らが乗るのは、空の船旅。
「で?」
「こいつら?」
「どうする?」
3人はロープでグルグル巻きになっている男達を見る。
全員気絶していた。
流石にキャッスルドランで直接街にいくわけにはいかず、キャッスルドランは山間に隠した。
それでも呼べばすぐにやってくる。
ここまでシルフィードとマシンキバーできたのだが、途中でこの連中が襲ってきたのだ。
ただ…一分もしない間にこの3人にボコボコにされた(しかも人間体で)。
「渡」
「どうしました?」
「あまり好みじゃないんだが、食っちまうか?」
次狼犬歯を見せて笑う。
ゾクゥッ!
その時、事情をよく知らないキュルケ・タバサ・ギーシュは底知れぬ恐怖に怯えた。
「ダメです」
「次狼様。私のご飯に不満でも?」
渡の制止とシエスタの威圧感のある笑顔…
(こ、こら次狼!)
(ご、飯、抜きに、されたら、どうする!)
「す、すまん。聞いただけだ」
素直に謝った。
実はこの3人。こちらに来てからライフエナジーを欲する衝動には駆られていない。
たまに食べたいという気持ちにはなるが、『飢え』は襲わない。
理由は二つ。
この世界は魔力に満ち溢れていて、呼吸をするだけで、その代用ができること。
そして…ルイズだ。
ルイズの内なる強大な魔力が渡を通して、準使い魔でもある次狼達に魔力を供給している。
その為、『飢え』は襲わない。
「仕方ない。街の衛兵にでも引き…」
「その必要はない」
突如、空からワルドとルイズの乗るグリフォンがやってきた。
「こらワタル!なんであんな目立つモンで来るのよ!」
「ご、ごめん。ほら、極秘任務でも次狼さん達がいた方が安全だからね」
「も~、事前に許可取りなさいよね」
ワルドは次狼・ラモン・力に笑顔で挨拶をする。しかし、威圧感を出している。
「初めまして。私はワルド子爵。貴族の方々のようだが…」
「次狼だ」
「ラモンです」
「力、だ」
3人もにっこり笑って挨拶がワルドの何倍もの威圧感を出している。
「こ、これからよろしく…どうやら、彼の従者のようだね」
「そうだ。で、この物盗りどもを衛兵に引き渡すをやめろとはどういう事だ」
「僕達は、大事な任務の途中だ。野盗などに構っている暇はないよ」
次狼の眼が凶悪に釣りあがる。
「これはこれは、騎士様の言葉とは思えんな。こいつらを捕まえるだけで安心する民衆がいるだろう」
ワルドはこれにカチンときたのか、
「君に『騎士道』の何たるかがわかるとは思えないが?」
「ご立派な『騎士道』なんて俺にはわからん。だが…」
次狼はいつになく強力で、誇り高く、圧倒的な眼と『牙』を見せて、
「『戦士の誇り』は知っている」
「ぐっ…」
ワルドは言い返せなかった。
自分の目の前にいるタキシードの男は、自分にはない何かを持っている。
しかし、『今のワルド』にはそれが理解できなかった。が、決して言い返せるものではなかった。
二人から離れてルイズはラモンをちょいちょいと呼ぶ。
(なんでバカ狼の奴ワルド様と張り合ってんの?)
(張り合ってるんじゃなくて、許せないんだと思うよ)
(ナニが?)
ラモンはニンマリ可愛く笑って、
(それは気づかなきゃダメな所だから教えない)
(ケチッ!)
「この連中は衛兵に引き渡す。文句はないな」
「…わかった。僕も手伝おう」
ワルドはそういって、次狼達の手伝いをし始めた。
「今日は俺達の奢りだ。どんどん喰え」
「おじさ~ん。メニューを上から順番に持ってきて」
「2人前、ずつ、な」
ラ・ロシェール一の高級宿『女神の杵』亭。ここは一階に食堂兼酒場、二階に宿泊部屋があり、内装も豪華な貴族御用達の大きな宿である。
その食堂兼酒場で3人の太っ腹な言葉が轟く。
衛兵に物盗り達を渡した次狼達はそこそこの金額を礼金として貰い、大金というほどでもないのでパッと使う事にした。
それがこの夕食である。
「ほれチビッ子。お前は魚喰え、魚」
「タバサちゃん、はいお肉」
「いっぱい食べて、大きく、なれ」
「シエスタもいつも働いているんだ」
「今日はゆっくり、いっぱい食べてね」
「食べろ、食べろ」
以前この3人はタバサの仕事を手伝った事があり、それから何かと3人はタバサを気にしている。
タバサは目の前に出された料理をどうしようかと思いながら、まんざらでもなかった。
シエスタも喜んで食べている。
「はぁ~、急ぎの任務なのに…こんな所で足止めなんて…」
料理を口に運びながら、ぶつぶつと呟くルイズに、ワルドが嗜めるように言う。
「仕方がないさ、ルイズ。船乗り達にも都合があるのだから」
この宿に入る前に、ワルドは桟橋で乗船の交渉をした…だが、船乗り達に明後日までは船を出すことができないと言われた。
「浮遊大陸か…本当にこの世界は神話のような国があるな」
「僕達の世界にも昔あったのかな?」
「さあ、な」
3人は話しながら料理を食べる。
「あたしはアルビオンに行ったことないからわかんないけど、どうして明日は船が出ないの?」
キュルケが不思議そうに尋ねると、ワルドがそちらに顔を向ける。
「明日の夜は月が重なるだろう?『スヴェル』の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づく」
空を漂う浮遊大陸であるアルビオンとラ・ロシェールとの距離は日によって異なり、船はアルビオンが最も近づく時でなければ出ない。
空を行く船には、『風石』という燃料鉱石が必要で、最短距離分の量で航行しないと、船乗り達が赤字になる。
「まあ、商売は大事だしな。お忍びだから強権を突きつける事もできない。おい、騎士様のポケットマネーで赤字分だせねぇのか?」
「ぽ、ぽけっとまねー…ああもしかして、自費ってことかい?そ、それはちょっと…」
「ふん、貴族でも金持ってないんだな」
どうやら次狼はとことんワルドの事が嫌いらしい。
ワルドもワルドで決闘を突きつけたいところだが、その気配を出す度に次狼から発する威圧感によってとめられてしまう。
(もうすぐだ…もう少し待てば『力』が手に入る。その時に…)
ワルドは内心そう思いながら、辺りを見る。
(そういえばあの使い魔がいない…)
ワルドは渡の事も気になっていた。
あの穏やかな顔の青年…どうみても彼が自分より優れているとは思えない。
『情報』でも単なる『魔獣使い』と聞いている。
だが、彼の事がつかめない。ワルドは渡に決闘を申し込むつもりだった。しかし、攻撃を仕掛けるイメージを出すと、途端に自分の視界がブラックアウトする。
まるで…
(ふっ、考えすぎか…まあ、アルビオンに着けば全てが決まる。それまで必要以上に波風を立てなくてもいいか)
「お~い、酒とジュースが足りんぞ」
「あっ、僕はこのワインを」
「私も」
「こら、君達子供でしょ。アルコールはダメ」
「アンタだってそうじゃない!」
「僕128歳」
『えっ!?』
ちなみに、後で結構な値段を請求されて、礼金から大幅に飛び出た為、結構財布が軽くなった。
まだ城には沢山あるが…
渡とキバットは少し暗い演出をしている部屋で一人の女性といた。
「ふふっ、あなたのような素敵な殿方と過ごせるなんて…」
女性は渡にゆっくりと抱きつく。
「最高の夜にな…」
「遅くにすいません。フーケさん」
「…ちょっとはノッとくれよ」
女性…フーケは口調を戻して、渡から離れた。
「危険な事を調べてもらってすいません。大丈夫でしたか」
「まあ、アンタからはタンマリ貰ってるからね。ヘタな仕事はしないさ。ほら」
フーケは分厚い紙束を渡す。
「これがここ数年、トリステイン、アルビオン、ガリア、ゲルマニアで起こった目の前で消えた人間の情報だよ。ちゃんとアンタのつけた条件、『空飛ぶ牙』の目撃証言もある」
「こ、こんなに?」
「ああ、昔から噂や子供の躾話があって、私も聞いた事があったからね。悪い子は空飛ぶ牙に食べられるって」
「渡。こりゃ『あいつら』か、似た奴らがこの世界にもいるってのは決まったようなもんじゃないか」
「そうだね…」
渡は少し、悲しそうに俯く。
「フーケさん。態々こんな所までありがとうございました」
「いや、いいさ。こっちとしても好都合だったし」
「好都合?どうしてだ」
「蝙蝠ちゃんは突っ込むね。実はアルビオンに私の住んでるところがあるのさ」
「フーケさんの…護りたい人達もですか?」
「…ああ、ホントに不思議な奴だね。そんなことまで分かっちまうなんて。私の妹と家族がいるんだよ」
フーケはちょっと照れくさそうに笑う。
「…フーケさん。僕はあなたの音楽を聴いた時、家族を護りたいと思う心と、復讐の音色を聞きました」
「………」
「復讐はできるだけなら、やめてください。何も…何もなりませんから…」
渡の言葉と表情にフーケはバツの悪そうな顔をして
「考えとくよ。これからはノンビリ暮らせそうだしね。またご贔屓に」
「はい」
「ああ、それと…」
フーケは渡に近づく。顔を近づけるとその綺麗な顔に渡は少し顔を赤くする。
「あのワルドって男、気をつけなよ。あんまりいい噂聞かないからさ」
「そ、それはどういう…」
むちゅう
「!!??」
「これはこの間牢屋にいれられた仕返しさ。じゃあ、またねご主人様♪」
「わ、渡!しっかりしろ渡!」
フーケは真っ赤になって固まっている渡をほっぽって、部屋から出て行った。
翌朝、本日は完全な自由行動である。
渡達はこの際だから観光する事にした。
異世界の街は中々楽しかった。
知らない果物を食べたし、見たこともない屋台料理も食べた。
キュルケとシエスタが服屋でタバサを着飾っていたし、力が力自慢の船乗り達がやっていたアームレスリング勝負に飛び入り参加して圧勝。
次狼を興味深そうに見ていたギーシュが、次狼から『戦士の心得』を聞いて感嘆していたし、ラモンの『作戦』を深く聞いていた。
ルイズはワルドと一緒に回っていた。しかし、
(ワタル…)
その瞳はよくワタルを映した。それがワルドにはあまり心地よくない。
そして一行が宿に帰ってくると、
「みんな、ちょっとこっちに」
ワルドは皆を『女神の杵』亭の中庭に案内した。
「ここはかつての練兵場であった場所でね」
練兵場…つまり、兵士の訓練所だ。
現在では宿の物置場となっており、端の方に樽や木箱が積まれている。
だが、それでも十分な広さがあった。
「昔、かのフィリップ三世の治下には、ここでよく貴族が決闘したものさ」
「ほう」
「へえ」
「ふむ」
一番に反応したのは三魔騎士だった。
「古き良き時代、王がまだ力を持ち、貴族達がそれに従った時代…貴族が貴族らしかった時代…名誉と誇りをかけて僕達貴族は魔法を唱え合った。でも、実際はくだらないことで杖を抜き合ったものさ。そう、例えば女を取り合ったりね」
ここでワルドは渡に決闘を突きつけようとした。
この邪魔な『魔獣使い』本人はあまり強くないという情報だ。
貴族の強さを見せ付けるチャンス…
「あれ?次狼さん、力さん。どうしたの?」
「えっ?」
みると広場の真ん中で次狼と力が対峙している。
ラモンはその真ん中だ。
「ここ、で、長き、戦いに、決着をつけ、る」
「ふん。おもしろい」
「ルールは相手がまいった。または気絶したら負け。あと『戻ったら』負け。それでは~」
「ちょ、ちょっとあんた達!何しようと…」
いつの間にかキュルケとシエスタが何かを持たされている。
何か白い板で、『1R』と書かれている。どこから出したんだろう。
「レディ~、ファイ!」
カ~ン。
タバサが持たされたゴングを鳴らし、戦いが始まった。
「ふん」
力が次狼を力任せに殴りかかる。
次狼はそれを持ち前のスピードで交わす。
力の拳は勢い余って、
ドゴンッ!
地面を殴りつける。地面がクレーターのようにへこんだ。
次狼はそのまま、人間を遥かに超えたスピードで攪乱し、
「ハァッ!」
ドガッ、ザシュッ、バシッ!
拳打撃・切り裂き・蹴りを加えるが、力は平然と
「き、くか!」
そのまま力はダブルラリアット。それは一瞬風を呼び、
「くっ」
次狼に一瞬の隙を作らせる。
そのまま力は次狼にダブルラリアットを喰らわせる。
「グガァッ!」
しかし、次狼はそれに逆らわず、吹き飛ばされた。
そしてそのまま壁に激突…
トスッ
なんと壁に着地。
「ゼリャァ!」
ボコンッ
そのまま強靭な脚力を利用して、壁に穴が開くほどの勢いで力に向かって飛ぶ。
途中で蹴りの構えを取り、
ゴスッ!
見事に力にヒット。
力は踏ん張って耐えたが、少し地面を削ってバック。
次狼は華麗に着地。
「少し、効い、たぞ」
「ふん」
二人はニヤリと笑って、同時に地面の石を拾って、
バシュッ!ドゴン!ガンッ!
『邪魔をするな!』
魔法で二人を止めようとしたワルドにぶん投げた。
威嚇だったので当たりはしなかったが、力の石は当たったら体に穴が開いていたし、次狼の石はワルドの頬を掠めて血を垂らした。
ワルドは口をパクパクさせているのを見て二人は仕切りなおしとばかりに構えると、
「あ・ん・た・た・ち…」
プルプル震えていたルイズがどん底のような声を上げる。
(まずい!)
そこにいるワルド以外の全員が感じ取り、一斉に逃げ出す。
ただ、互いに標的に集中していた次狼と力だけが逃げ遅れ、
「いい加減にしろ~!」
ドッガ~ンッ!
ここ最近一番の爆発が、次狼と力、ついでにルイズの極大爆発を感じ取れなかったワルドも吹っ飛んだ。
後で迷惑量を渡が宿に払うハメになった
こうして、ラ・ロシェールでの時は過ぎていった。