ゼロの使い魔 -KING OF VAMPIRE-   作:歌音

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第16話/優しい魔皇は闇に堕ちる

 

 

 

次狼と力の決闘騒動の後の夜…

 

渡は自分の個室で静かに父の形見であるヴァイオリン『ブラッティーローズ』を眺めていた。

 

「………」

 

そんな渡の姿を見て耐えかねたキバットは尋ねる。

 

「渡…どうしたんだ?任務が始まってから変だぜ」

 

「…僕が?」

 

渡は苦笑する。

 

「やっぱりキバットにはわかっちゃうね」

 

「当たり前だ。いったい何年お前といると思ってるんだ?23年だぞ」

 

「…そうだね」

 

渡は沈黙の後、静かに口を開く。

 

「ねぇ、キバット。父さんと母さんは…お互いの事を大好きだったよね」

 

「ん?まー、そーじゃねーか」

 

「…兄さんだって深央さんを愛していたし…深央さんだって、最後には兄さんを愛してた」

 

「渡?」

 

キバットは渡が考えている以上に深刻な事がわかった。

 

禁句(タブー)になっている兄とある女性の名前まで出てきたのだから。

 

「そう…大丈夫だよね…僕の勘違いの筈なんだ…」

 

自分のご主人様と人生を共に奏でると決意した人から、あんな音楽が流れるはずがない。

 

渡はそう強く思いこむ。

 

その時、一階から騒音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこいつら!」

 

一階で大勢の傭兵達がルイズ達を囲んでいた。

 

次狼は傭兵の一人を蹴り飛ばし、踏みつけて周りを見回す。

 

「大勢、いる、な」

 

力が一人を持ち上げて、固まっている所に思いっきり投げつける。

 

「外にも結構いるよ。どうやら街中に潜んでいた傭兵が全員ここに来ているみたい」

 

ラモンはルイズ達を守りながら、部屋にちょっとした水のフィールドを張っている。

 

こうすることにより、水の波紋を感じ取り、敵の数と行動を感じ取っている。

 

「やっぱり、この前の連中はただの物盗りじゃなかったようだ。アルビオンの貴族が後ろにいるという事だな」

 

キュルケが、杖をいじりながら呟く。

 

「…奴らは、こちらにちびちびと魔法を使わせて、精神力が切れたところを見計らい、一斉に突撃してくるわよ。そしたら、どうすんの?」

 

「僕のゴーレムで防いでやる」

 

ギーシュがちょっと青ざめながら言った。

 

キュルケは、淡々と戦力を分析しながら言った。

 

「ギーシュ、アンタの『ワルキューレ』じゃあ、一個小隊ぐらいが関の山ね。相手は手練の傭兵達よ」

 

「やってみなくちゃわからないだろ!」

 

「あのねギーシュ。あたしは戦のことなら、あなたよりちょっとばっか専門なの」

 

「僕はグラモン元帥の息子だぞ。卑しき傭兵如きに…」

 

「ストップだ。ギーシュ、勇んで向かっていくのもいいが、矜持と虚栄が違うように、無謀と勇気も違う」

 

「お、お師様」

 

次狼はギーシュを諫める。

 

「いいか、お前のワルキューレは筋は悪くない。錬磨すればさらに強くなれるだろう。だがな、まだ操り方が雑すぎる」

 

次狼の指摘にギーシュは沈黙する。

 

「いいか、お前は様々な戦い方をこれから見続けろ。それを参考にして作戦を練れ。自分を鍛えて強くなれ」

 

次狼は全員の一歩前にでる。

 

「強くなる事を望む事は、『戦士』の第一歩だ。それを忘れるな」

 

「…は、はい!」

 

次狼の言葉と真剣な眼差しに、ギーシュは心を打たれた。

 

こんなにも、己に真剣に向き合ってくれた人は初めてだったからだ。

 

(いつか…いつか僕もこの人のように…)

 

ギーシュと次狼の遣り取りにワルドは口元を歪める。

 

(…この男…気にくわない)

 

ワルドは憎悪の視線を次狼に向ける。

 

「みんな!」

 

渡が二階から駆けつけてきた。

 

「丁度よかった。渡、少し力を出すぞ」

 

「じ、次狼さん」

 

「俺とリッキーが突破口を開く。このまま一気に港に迎え。俺達はドランで行く。シエスタが準備しているからな」

 

「ふん」

 

「…わかりました。でも…」

 

「ああ、極力殺さん。安心しろ」

 

それを聞いたルイズは、

 

「ちょっとバカ狼と筋肉ダルマ」

 

「あん?」

 

「な、んだ?」

 

「…死ぬんじゃないわよ」

 

それを聞いたワルド以外の全員は目をパチクリさせて、笑い始めた。

 

「な、何よ!人がせっかく心配してんのに!」

 

「いやいや、ご主人様の有り難きお言葉に感動しているのさ。さてと…」

 

次狼が牙を見せ、笑う。

 

「はじ、める、か」

 

力の体から紫の雷気が迸る。

 

「アオォォォォォォォォォォッ!」

 

「ウガァァァァァァァァァァッ!」

 

次狼は青い炎に体を包み、ガルルの姿に!

 

力は紫の稲妻を浴び、ドッガの姿に戻る!

 

その変身にワルドは少し怯む。

 

(こ、こいつら…奴らと同じ『化け物』!?)

 

「ハァッ!」

 

次狼の姿が消える。すると、周りの傭兵が見えない攻撃を受けて倒れていく。

 

「ふん、がー!」

 

力が大理石で出来たテーブルを持ち上げて、それを投げた!

 

傭兵達に大混乱が起きる。

 

突如現れた化け物のその強さに!

 

「みんな、行くよ!」

 

全員走り出した。

 

 

 

 

 

 

桟橋に向かった一行は、アルビオン行きの船を何とか出港させることに成功する。

 

船長は最初ごねていたが、ワルドが貴族だと分かると、料金を上乗せすることを条件に出港を承諾。

 

話では、明日の昼過ぎにアルビオンの港スカボローに到着するだろうとのことだ。

 

「さてと出港するぞ!」

 

船が動き出す。

 

「何とか間に合ったね」

 

「そうでもないよ、お兄ちゃん」

 

「え?」

 

ラモンが指を指した方をみると、傭兵達が向かってくる。別働隊だろうか結構な人数だ。

 

このままでは船に乗られてしまう。

 

「どうするダーリン」

 

「戦う?」

 

「ワタル…」

 

「仕方ないなぁ~。とう」

 

ラモンが船から降りる。

 

「僕がやっつけとくから先に行ってて。僕もドランで行くから」

 

「ラモン君。一人で大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。僕だって強いんだから…」

 

ラモンは妖しく笑い、

 

「あいつらを死なない程度に溺れさせるよ」

 

元の姿、バッシャーにと姿を変えた。

 

「…気をつけてね」

 

「うん。お兄ちゃんこそね」

 

バッシャーはアクアフィールドを張る。

 

船が出航し、一同は敵を罠にはめるバッシャーを見て、アルビオンへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

船で一夜を明かした後、ルイズは甲板でラ・ローシェルの方角を見ている。

 

「大丈夫かしら、あいつら…」

 

「大丈夫だよルイズちゃん」

 

「ワタル?」

 

「次狼さん達が強い事は僕が一番よく知ってる。だから大丈夫だよ」

 

「そうそう。ドンとまっときゃいいさ」

 

「うん…そうね」

 

そんなワタルとルイズの会話をワルドは耳を澄まして聞いていた。

 

(あの3匹があの『魔獣使い』の下僕という事か…あの竜の城や三匹には驚いたが今の奴は裸も同然…たやすいな。『奴』の言ったとおりだ」

 

ワルドは心の闇を押し隠しながら二人から離れ、後甲板に指揮を執りに向かった。

 

「だ~り~ん!」

 

「ん?キュルケちゃん?」

 

「…来たかお邪魔虫(ボソッ)」

 

声のするほうを見ると反対側からキュルケが手を振っている。

 

「ほら、こっちきて見て!絶景よ!」

 

渡は少し魅かれて反対側に向かう。渡が来るとキュルケは目的地のアルビオン大陸を指差して言う。

 

アルビオン大陸の大河から溢れた水が空に落ち、その時にできたできた白い霧が大陸の下半分を包んでいた。

 

正に絶景であった。

 

「綺麗だ…」

 

「ああ、渡。俺達これからもこういう景色を目に焼き付けていこうな」

 

「うん、キバット」

 

感動する渡とキバット。

 

しかし!鐘楼に登った見張りの船員が、大声を上げた。

 

「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!!」

 

全員が見ると、この船より一回り大きい船が一隻近付いてきている。

 

舷側に開いた穴からは大砲が突き出ている。

 

「大きな大砲がついてるね」

 

渡はひょいっと言い、ルイズが眉をひそめた。

 

「いやだわ。反乱勢…貴族派の軍艦かしら」

 

後甲板で、ワルドと並んで操船の指揮を取っていた船長は、見張りが指差した方角を確認する。

 

黒くタールが塗られた船体は、まさに戦船。

 

こちらに、数十個もの砲門を向けている。

 

「アルビオンの貴族派か?お前たちのために荷を運んでいる船だと、教えてやれ」

 

見張り員は、船長の指示通りに手旗を振った。

 

しかし、黒い船からは何の返信も無い。

 

副長が駆け寄ってきて、青ざめた顔で船長に告げる。

 

「あの船は旗を掲げておりません!」

 

船長の顔も青ざめる。

 

「してみると、く、空賊か!?」

 

「間違いありません!内乱の混乱に乗じて、活動が活発になっていると聞き及びますから…」

 

「逃げろ!取り舵いっぱい!!」

 

船長は船を空賊から遠ざけようとしが、

 

ぼごん!

 

鈍い音がした。

 

どうやら威嚇射撃に大砲をぶっ放したようだ。

 

砲弾が雲の彼方へ消えていく。

 

黒船のマストに、四色の旗流信号がするすると登る。

 

「停船命令です、船長」

 

船長は苦渋の決断を強いられた。

 

どう見ても火力の差は圧倒的…助けを求めるように、隣に立ったワルドを見つめる。

 

「魔法はこの船を浮かべるために打ち止めだよ。あの船に従うんだな」

 

ワルドは落ち着き払った声で言った。

 

船長は項垂れながら命令した。

 

「裏帆を打て。停船だ」

 

 

 

 

貴族という事でルイズ、ワルド、キュルケ、タバサ、ギーシュは空賊に捕らえられてしまった。

 

渡とキバットも捕まった。

 

渡を引っ張っていった船員は後の述懐にで

 

『あの男を見ると、何故か連れていけって言われたみたいになって連れて来たんだ』

 

と訳のわからない事を話していた。

 

牢屋に暫くぶち込まれていると、

 

船員がやってきた。

 

「おらぁ!貴族様方よ!お頭が面見たいって呼んでっから、来い!」

 

(あれ?)

 

渡はその言葉を言った船員に疑問を浮かべた?

 

 

 

 

 

「あまり、殺しはしたくない。だからお前らを救助した、そこまではいいな?」

 

空賊の頭領の部屋は、質素な造りではあったが、置いてある道具は全て一級品だった。

 

そう…『空賊の頭領』にしては立派過ぎるほどに。

 

「と、トリステインの大使として言うわ!!即刻、私達を解放しなさい!!」

 

ルイズ大きな声で頭領に向かって言う。

 

「ほほぅ?大使、ねぇ?お前さん達、貴族派かい?」

 

空賊のお頭がニヤリと笑って机の上の足を組み直した。

 

「あぁ、僕達…」

 

「王党派よっ!!誰が、あんな貴族の風上にもおけない薄汚い連中になんか!」

 

「る、ルイズ!?」

 

流石の渡もビックリした。

 

いくらルイズでもこんな時に挑発するとは思っていなかった。

 

(キバット…)

 

(おう)

 

渡とキバットはいつでも変身できるように身構える。

 

「ハハハ!正直はいいことだがね、お嬢さん!命が惜しいならそんなことは言うもんじゃねぇな!俺達が貴族派ならどうするつもりなんだ?」

 

「反乱軍に名乗るぐらいなら、舌を噛み切って死んでやるわよ!」

 

「ルイズ!!」

 

部屋に緊張が走る。が…

 

(あれ?この人…)

 

渡が何かに気付いた。そう、頭領の『心』から、

 

「…最後のチャンスだ。貴族派につかねぇか?お前らをもってけばそれなりの金になるし、お前らも勝ち馬に乗りゃ稼げるぜ?」

 

「お断りだわ!死んでも、最低の連中になんか与するものですか!!」

 

その言葉に空賊の頭領が机から足を降ろして立ち上がろうとする。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

突然、頭領は笑い始める。

 

「ハハハハハ…いやいや、突然笑いだして失礼。その気概がある貴族があと5人でもいれば、こんなことをしなくても良かったのだがね」

 

そう言いながら頭領はボサボサの髪の毛に手を伸ばして、それを取り払う。

 

どうやら鬘だった様だ。

 

ついでに髭もベリッと取る、

 

付け髭だ。

 

「ほぅ――」

 

ワルドは何かに気づいき、ニヤリと口の端っこをもたげた。

 

「自己紹介がまだだったね。アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。アルビオンへようこそ!気の強い、可愛い大使殿とそのご一行!」

 

「えっ…えええええええぇぇぇぇぇっ!」

 

ルイズがスットンキョな声を上げる。

 

(やっぱり)

 

(わかってたのか渡!?)

 

(うん…この人から聞こえて来る音楽でね。でも…)

 

渡は少し悲しい瞳をして、

 

(もしかしてこの人…)

 

「あ、あの、失礼ですが、あなたがウェールズ殿下であられる証は――」

 

「ハハハ、確かに空賊じゃない証拠が必要だったね、可愛い大使殿!ちょっと失礼を…」

 

ウェールズはルイズの左手を右手で持ち上げて、自分の左手をそっと添える。

 

すると、ルイズのつけていた『水のルビー』から、虹が伸びる…

 

「ほら、『風のルビー』と反応している。君の『水のルビー』も本物のようだね!これが王家の間にかかる虹の橋で本物の証っていうわけさ。納得、いただけたかな?」

 

2つの指輪でできた虹の橋は色彩を変えながら輝いている。

 

「た、大変、失礼をばいたしました!」

 

ルイズがさっと頭を下げる。

 

「いや、気にすることは無いさ。僕だって、君達を疑ったわけだしね!それで、用とは何かな?大使殿」

 

ルイズは事のあらましをウェールズに伝えた。

 

「なんと!姫は結婚するのか?あのアンリエッタが?私の可愛い従姉妹が?」

 

ルイズが、アンリエッタから預かった手紙を渡す。

 

それを見たウェールズは…

 

「そうか…そういう事情ならば、あの手紙はお返しせねばなるまいな」

 

『………』

 

「ウェールズ殿下…」

 

ウェールズの心の内をなんとなく渡とルイズ、そしてキュルケとタバサは気付く。

 

「…それで、ウェールズ殿下。件の手紙はまさかこの船に?」

 

ワルドがウェールズに尋ねる。

 

「ハハハ、まさか!多少面倒だが、ニューカッスルの城までご足労願いたわねばね」

 

 

 

空賊船もといイーグル号がニューカッスルに到着すると、キュルケ・タバサ・ギーシュを残して、渡・キバット・ルイズ・ワルドは王子の部屋に案内された。

 

ルイズとワルドは元より、渡とキバットが同行を許されたのは当のウェールズもわからなかったが許してしまった。

 

ウェールズの部屋は、イーグル号の船長室以上に質素な部屋であり、無駄な飾りがまったくなかった。

 

ウェールズは部屋に入るとすぐに机の引き出しを開き、この部屋には不似合いな宝石がちりばめられた小箱を取り出す。

 

鍵を使い蓋を開けると、そこにはアンリエッタ姫の肖像が描かれていたのが見えた。

 

「…宝箱、でね」

 

ウェールズの『心の音』はアンリエッタの手紙を読み終わった時のように寂しい音を奏でる。

 

その後、箱の中からボロボロに擦り切れた手紙を取り出し、ゆっくりと読み返し始めた。

 

笑顔に隠された寂しさの音が、どんどん強くなるのを渡とルイズは感じる。

 

読み終わると、ウェールズは手紙を丁寧に…丁寧にたたんで、封筒に入れてルイズに手渡す。

 

「ありがとうございます」

 

ルイズは深々と頭を下げて、手紙を受け取る。

 

「…殿下、失礼をお許しください。恐れながら、お聞きしたいことがございます」

 

「ん?何だい?」

 

「ただいまお預かりいたしました手紙の内容、これは、もしや――」

 

「ルイズ!」

 

ワルドはルイズが言葉を続けようとするのを止めようとする。

 

でも、王子様はほんの少し悩んだ表情を見せた後、はっきりと…

 

「ハハハ、お察しの通り、恋文だよ。ゲルマニアの皇帝と婚約するとなれば、邪魔になる類のものさ」

 

「こいつぁ驚いた。まるで芝居だな」

 

…キバットはいつもの憎まれ口をいうが、どこか寂しそうだ。

 

「姫様は、殿下と恋仲であらせられたのですね?」

 

「昔の話だ」

 

ワルドがルイズを止めようとするが、

 

ゾクゥッ!

 

「ぐ…」

 

突如襲った悪寒に体が止まる。

 

それは渡からの威圧だったが、ワルドは気がつかなかった。

 

「殿下、亡命なされませ!トリステインに亡命なされませ!」

 

「それはできんよ」

 

寂しい笑顔でルイズの言葉をすぐに否定するウェールズ。

 

「明日の朝、非戦闘員を乗せて出航する『イーグル号』に乗ってお帰りなさい。君達の乗っていた貨物船の乗組員も同乗するよ」

 

「そんな!殿下と姫は!殿下と姫は…」

 

「…そろそろパーティーの時間だ。我が王国最後の客として、君達には是非出席して欲しい」

 

そんなウェールズの姿を渡は悲しそうに見ていた。

 

 

 

 

最後のパーティーは王の言葉の後、盛り上がり始めた。

 

贅を尽した料理がテーブルに所狭しと並び、上質の酒が振る舞われ、これでもかと言う程に着飾ったアルビオン貴族達が、ダンスに興じている。

 

彼らの顔には、悲壮感など欠片もありはしない。ただ、最後の晩餐を心から楽しんでいる。

 

「………」

 

「ダーリン…」

 

「ワタル…」

 

そのパーティーを険しい顔で渡は見ていた。

 

キュルケとタバサ、そしてギーシュはそんな渡の姿を見ている。

 

渡は今、心から悲しんでいることがわかっていた。

 

「ねぇ…」

 

「なに?ダーリン」

 

「ルイズちゃんは?」

 

ルイズが雰囲気に耐えきれず、ホールを後にした事をキュルケは伝える。

 

「僕もいくよ。行こキバット」

 

「お、おう」

 

「ま、待ってダーリン」

 

「私達も行く」

 

「ぼ、僕も…」

 

「あんたはダメ。さすがに全員いなくなるのは不味いでしょ」

 

と、ギーシュは置いていかれた。

 

 

3人は部屋に戻ると、ルイズを見つけた。

 

「…………」

 

ルイズは、涙を湛えた瞳で双月を眺めていた。

 

頬には涙の跡が残っていて、目も赤い。

 

ホールを飛び出してから、恐らくずっと泣き続けていたのだろう。

 

その様はあまりにも儚く、小さい…

 

ルイズがこちらに振り向いた。

 

「……!」

 

ルイズは、渡達に気付くと目元を服の裾でゴシゴシと拭う。

 

だけど涙は止まらない。

 

次第にルイズは顔をくしゃりと歪め、抑えきれない涙を隠すように渡の胸に飛び、泣き続ける。

 

泣きながらルイズは呟く。

 

「…どうして? どうして、ウェールズ皇太子は死を選ぶの…? 姫様が逃げてって…自分を頼ってって言ってるのに…どうして聞き入れないの?」

 

「………」

 

「…あんなにも心は姫様を求めているのに…どうして…どうしてよ…?」

 

キバットも、キュルケも、タバサも何もいえなかった。

 

「…早くトリステインに帰りたい。もう嫌よ、こんな国…誰も彼も自分勝手で…他の人の気持ちなんて、これっぽっちも考えてない。貴族派の恥知らずな奴らも…あの王子様もそうよ…残される人の気持ちなんて、どうでもいいんだわ…」

 

「ならさ…僕等も他人の気持ちを考えるのをやめようか」

 

『え?』

 

渡の突然の言葉に3人と1匹は驚く。

 

「だからさ、僕達も他人の気持ちを考えるの止めようよ」

 

「ど、どういうこと」

 

渡はルイズに笑顔で答える。

 

「明日ここの人達を全員眠らせてイーグル号に乗せて、亡命させて、戦争をできなくしちゃおう」

 

『!?』

 

渡の発言は驚きだった。

 

「乗るのに足りなかったらドランに乗ってもらおう。それから…」

 

「ちょ、ダーリン!ちょっと待って!」

 

「そんなことしたらワタルが大変なことになる」

 

「それがどうしたの?」

 

渡は首を傾げる。まるで自分に迷惑をかかるのはかまわないといったかんじだ。

 

「きっとそれをしたら僕はウェールズさん達に恨まれる。でも、アンリエッタさんもウェールズさんと再び会う事ができる。彼女も喜ぶし、彼も時間が経てば再び笑顔を取り戻す事ができる」

 

渡はルイズの瞳を真っ直ぐ見る。

 

「死んでしまったら、全てを失う。でも、生きていればいくらでも取り戻せるんだ。だから…」

 

「…ワタル…」

 

「トリステインがダメなら『僕の国』に…キャッスルドランに亡命すればいい。いつでもアンリエッタさんに会えるように…」

 

「…ダメよ…ワタル…それだとワタルが…」

 

一国の決定を阻止する為に、王族を無理矢理誘拐し、亡命させる。

 

そんな事をすると渡は…

 

「大丈夫」

 

渡は優しい笑顔で…

 

「僕は『魔皇』だよ。人に恨まれたり嫌われたりするのは慣れてるから」

 

優しい魔皇はそういった。

 

その言葉に3人の心が辛くなる。

 

(どうして…)

 

(この人は…)

 

(こんなにも…

 

(『優しいのに…』)

 

 

 

 

ルイズが眠った後、渡とキバットは『明日の準備』をする為に部屋を出た。

 

すると、待ち伏せていたかのようにそこには、

 

「やあ、使い魔君。こんな遅くにどこにいくんだい?」

 

「ワルドさん」

 

「あん、騎士の旦那か?」

 

渡はワルドを見る。

 

「あなたこそ、どうしたんですか?」

 

「いやぁね。君に伝えたい事があってきたんだ」

 

「僕に?」

 

ワルドは渡の瞳を見て、

 

「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」

 

「え?」

 

その言葉に渡は固まった。

 

「こんな時に、こんな所でか?」

 

「是非とも、僕達の婚姻の媒酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。皇太子も快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕達は式を上げる」

 

「その事は、ルイズちゃんには言ってあるんですか?」

 

「いや、まだ言ってはいない。だが、彼女が僕の求婚を断るはずがないだろう?」

 

「そうですね…」

 

ワルドはルイズの婚約者…婚約者の求婚を断るわけがない。

 

「一つだけ、約束してください」

 

「何をだい?」

 

「ルイズちゃんを幸せにしてあげてください」

 

その言葉にワルドは一瞬眼をキョトンとするが、

 

「アッハッハッ!当たり前じゃないか!まかしておきたまえ!」

 

その言葉を、渡は『信じた』

 

 

 

 

 

 

 

翌日、礼拝堂。

 

駆けつけた渡が見たものは、ワルドに体を貫かれたウェールズの姿と、ルイズの驚愕と絶望の顔だった。

 

「ふん、来たか使い魔」

 

ワルドはウェールズの体を渡に向かって投げつける。

 

風の魔法がかかっていて、かなりの勢いだが、渡はウェールズの体を難なく受け止める。

 

ワタルの手の中で体温がなくなっていくウェールズ。

 

「どうして…どうしてこんな事を…」

 

「ふん…僕が全てを手に入れる為さ。ウェールズの命を取る。それが契約だったからね」

 

「そんな…ワルド…」

 

ルイズの眼には絶望の色が映る。

 

「さてと、どうするんだい、使い魔君?頼みの魔獣共もいない。命が惜しければ一緒に付いて来たまえ。虚無の使い魔の力を見せ…」

 

「黙れ!」

 

ゾクッ!

 

渡の怒声が礼拝堂に響く。

 

その声に礼拝堂にいる者全てが恐怖を感じる。

 

ワルドへの憎しみ、呪いがこもった声だった。

 

「キバット…」

 

「おう…ガブッ…」

 

渡がウェールズを抱えたままキバに変身する。

 

「そ、その姿は…!?」

 

「…この人には、愛する人がいた…」

 

キバの両肩の拘束具から黒い闇が溢れる。

 

「…愛する人の為に、頑張っていた。守りたいモノの為に、頑張っていた…それを…それを…」

 

全身の拘束具から黒い闇が溢れ、キバの体を包む。

 

「許さない…」

 

全身を包んだ闇が…

 

「許さない!」

 

吹き飛ぶ!

 

闇の中から現れたキバは姿を変えていた。

 

闇の鎧、闇の爪、そして常闇の色…

 

歴代の『黄金のキバの鎧』を着た者の殆どが成り下がってしまった呪われた姿。

 

心が闇に堕ちた者の姿…

 

仮面ライダーキバの闇の姿、『ヴラドフォーム』。

 

闇は…全てを滅する。

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