「ぼ、僕は…紅…『紅 渡(くれない わたる』…」
「なんであんたみたいなのがここにいるのよ!」
「えっ、そんな…僕は、確か…」
ルイズは渡に大声で詰め寄る。小柄なルイズにいとも簡単に圧倒される渡。
「おいおいペタンコネーチャン!そりゃないだろ!渡を喚び出したのはアンタだろ!」
「えっ!」
「このキバットバットⅢ世様をなめんなよ!魔力の流れ方からわかるぜ!どんな術式を使ったか知らんが渡をここに呼び寄せたのは間違いなくペタンコネーチャンだ!」
キバットの言葉にルイズは目の前が真っ白になる。
キバットはその隙に渡の耳元による。
「おい、気をつけろよ渡」
「何を?」
「ここは、俺達のいた『世界』じゃない。まったく別次元の世界だ」
「ええっ!なんでわかるの!?」
「伊達に『魔皇力』を操作してないって。世界から感じる『魔力』でわかる。この世界は魔力に満ちている。多くの人間が『魔法』を使える位にな」
渡は以前キバットに聞いた事を思い出した。
人間が魔法を使うには『儀式』をする必要がある。
それこそ大量の物質、時には生け贄を用意しなければならない。
だから、人間の魔法は廃れ、錬金術を経て、科学技術に頼るようになったのだと。
「それに、このペタンコネーチャンは『お前』を喚んだんだぜ。しかも次元を超えてだ」
「………」
「ははっ!おかしいと思ったんだ!ルイズがあんな竜を召喚できるわけが無い!」
「たまたまあの竜は通りかかったんだろうよ!」
「しかも平民と変な蝙蝠を召喚してどうするんだ?」
「なっ!こ、これは何かの間違えただけよ!」
ルイズは反論する。自分には確信があった。絶対に『最高の使い魔』を喚び出せる確信が。
それは理屈じゃない。あの、『王』を思い出したからだ。
「間違いって、ルイズのそれはいつもの事だしなぁ」
「さすがは『ゼロ』のルイズ。はずすべき所は抑えてるか」
「しかもそいつ全然役に立ちそうに無いじゃないか」
周りから雑踏が聞こえる。
「…本当に、彼女が僕を?」
「ちょっと、自信ないな」
ルイズはコルベールに嘆願する。
「!…ミスタ・コルベール! あの、もう一回で良いんです。もう一度だけ召喚させて下さい」
「それは駄目だ。許可できないよ。ミス・ヴァリエール」
「そんなっ。どうしてですか!」
「決まりなんだよ。二年生に進級する際に君たちは『使い魔』を召喚する。それによって現れた『使い魔』で今後の属性を固定して専門課程に進むんだ。そして、現れた『使い魔』を変更することは出来ない。変更するというのは神聖な儀式に対する冒涜だ。好む好まざる『彼』を使い魔にするしかないんだよ」
「どういう事、キバット」
「どうやら、渡を『使い魔』にするつもりらしい。なんて贅沢な」
「でも…でもですよ。平民を使い魔にするなんて訊いたことがありません!?」
「平民?」
「ああ、話した感じじゃこの世界『王制』か明確な『貴族階級』があるみたいだぞ」
「…キバットは頭いいね」
「えっへん!」
「そうはそうだが…しかしだね、ミス・ヴァリエール。彼は確かにただの平民かもしれない。だがね、君が彼を召喚(よ)んだ以上は、君の使い魔にしなければならない。それに君も識ってるだろう?春の使い魔召喚の儀式のルールは、あらゆるルールに優先されるんだ」
「…だけど!」
「ミス・ヴァリエール、早く儀式を続けなさい。君は召喚に時間を掛けすぎた。次の授業が始まってしまう。何回も失敗してようやく呼び出せたんだ」
「…はい」
少女は渡に振り返り、睨みつける。
「アナタ、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、普通は一生ないんだから」
「おいおい!何すんだペタンコネーチャン」
「うるさい!」
ベシッ!
「あてっ!」
ルイズはキバットを杖で叩いてから、膝を曲げて地面に座ると目を瞑った。
そして渡の頭上で杖を振るう。
「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与えて、我の使い魔とせよ」
「えっ、え、え…」
少しずつ近づいいて来た彼女の唇と、渡の唇が重なった。
「ああっ!お前なんて事!」
キバットの絶叫が聞こえる!
当たった唇は、とても柔らかい。
その柔らかい唇が重なっている時間は数秒だった。
だけどその数秒が渡にはとても長い時間に感じられた。
「…終わりました。ミスタ・コルベール」
「うむ。『サモン・サーヴァント』は失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』は成功したようだな」
「あ、ああ…」
「こら~!いきなり何してんだ!俺が蝶よ花よと育てた渡になんて事を!首と胸が育ってからおとといきやがれ!」
「うっさいわね!あんたこそさっきから貴族に対して無礼な口を聞いてるんじゃないわよ!」
ルイズとキバットが言い合いを始める中、周りからまた聞こえる。
「相手がただの平民だから簡単に『契約』出来たんだよ」
「はは。ゼロのルイズには平民がお似合いだ」
それを聞いて渡は顔を顰める。
(なんか、やだな…!?)
全身に熱い感覚が襲う。痛みと熱が渡を襲ってくる。
「が、あ、あぁぁぁ…」
「渡!どうした渡!おいペタンコネーチャン!渡に何をした!」
「ペタンコペタンコってさっきからうるさいのよ!直ぐに終わるわよ。『使い魔のルーン』が刻まれてるだけだから…え?」
ルイズは顔を驚かせる。それはコルベールも一緒だった。
「う、う、うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
渡の顔にステンドグラスのような紋様が現れる。
ドゴンッ!
「ガァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
渡の体から強力な魔力…『魔皇力』が噴出す。
「やべえっ!」
(暴走してやがる!クソッ!ホントに何しやがった!)
キバットはすばやく近づき、渡の手を
『ガブッ!』
と噛んだ。
「アアアアアァァァァァァ…ああ、ああっ…」
すると渡の体から魔皇力の暴走が静まってゆく。
「大丈夫か、渡?」
「キバット…ゴメン。ちょっと…」
「ああ、休め。お前は俺が守っててやる」
「うん…」
バサッ
そのまま渡は倒れてしまった。
「あ、ちょっと大丈夫…」
「大丈夫なわけあるか!とっとと渡を休める所まで連れて行け!」
「むっ!何で私が平民なんかの為に…」
「それ以上言ったら俺はお前を貴族だとは認めねぇ!」
「……!?」
「不本意だが渡はお前の『使い魔』になった!つまりお前は主だ!従者の一人守れない者を、ましてや自己の虚栄の為に見捨てる者を、同じ貴族として俺は認めない!」
「うっ…」
「ミス・ヴァリエール、彼の言うとおりだ。今日の授業はもう出なくていいから、彼を休める所に連れて行ってあげなさい」
「…わかりました」
「うん」
コルベールは渡の手を見る。使い魔の紋章が刻まれているが…
「この紋章…どこかで…」
それは、蝙蝠の形に似た紋章だった。
「…ん、んん…」
「デタラメ言ってんじゃないわよ!」
「なんだと!人が正直に話してんのにその口はなんだ!」
「キバット?」
「おお!気がついたか渡!」
起きた渡にキバットが近づく。
「なんともないか?」
「うん…気のせいか調子がいいくらい」
「そうか、よかった~!」
「ちょっと!私を無視しないでよ!」
「キミは…ルイズ、ちゃん?だっけ」
「そうよ。あんたのご主人様よ」
「あ、はい。どうも」
渡はペコリと頭を下げる。
「コラ渡!素直に頭下げんな!」
「ちょっと聞きたいんだけど。あんたの使い魔…まあ、使い魔が使い魔を使うなんて聞いたことないんだけと…変なこといってんのよ。自分達は別の世界から来たなんて…」
「キバットがそういうなら、そうだと思うよ」
「…なんですって?」
「だから言ってるだろ!さっきからアンタに話していたのは、俺達の世界の国や、言語だよ。ここは間違いなく俺達とは別の世界だ」
「私はアンタに聞いてるんじゃないの!自分の使い魔に聞いてんのよ!」
「ああっ!このペタンコネーチャンは!渡!コレを見てから答えてみろ!」
キバットは窓のカーテンを開けた。辺りはもう夜になっている。
自分はかなり長く寝ていたみたいだ。そして渡は確信して答えた。
「うん、間違いないよルイズちゃん。僕達は違う世界から来たんだ」
その夜は月が『ふたつ』存在した。
「なに~!元の世界に戻る方法はない~!フザケルナ~!」
「仕方ないじゃない!メイジと使い魔との契約は絶対だもの…一生のパートナーを、送り返す魔法なんて、無いわ」
「そんなのコッチには…」
キバットが更に言い返そうとすると
「やめよう、キバット」
「渡?」
「いいじゃないか。元の世界に戻れなくても」
(僕には…もう、居場所はないんだから…)
渡は手を握り締める。
「それにコッチでもバイオリンは作れるよ」
「でもな、『ブラッティ・ローズ』が…」
「うん、大丈夫。多分『キャッスル・ドラン』にある」
「ホントか!?」
「うん。だって…」
(感じるから…)
「ちょっと、無視して話を進めるんじゃないわよ」
ルイズが仏頂面でコッチをみている。
「ごめんなさい」
「ふん、このバカ蝙蝠とは違って素直ね。いいわ、私は寛大なの。使い魔には優しくしなくっちゃね」
「そういえば、僕はルイズちゃんの『使い魔』になったみたいだけど、その『使い魔』って何をすればいいの?」
それを聞いてルイズは渡に『使い魔』の説明をし始めた。
「まず使い魔は主人の目となり耳となる能力が与えられるわ」
「どういうこと?」
「つまり、アンタが見たものが、私にも見えるのよ」
「へぇ~、スゴイね」
「そうよ。でも…わたしは何にも見えないわ。どうやらそれは無理みたい」
「そうなんだ…次は?」
「使い魔は主人の望むものを見付けてくるの。例えば秘薬に宝石とかね」
「秘薬に宝石…?」
「特定の魔法を使うときに使用する触媒の事よ。ルビーとか、硫黄とか、コケとか…」
「僕には無理かな?キバットは?」
「まあ、多少は知ってるが持ってくるとなるとな~」
「む~…残念ね。そして最後に…ああ、これはアンタ役に立ちそうにないから言っても仕方が無いか。まったく役立たずね」
「むっ!おいペタンコ!渡を何にもしらねぇくせに何勝手に決め付けてるんだよ!このペタンコ!」
「とうとうペタンコって直接言ったわね!使い魔は、主人を護る存在でもあるの。その能力で敵から護るのが一番の役目なの。どうみったってそんなの無理そうじゃない」
それを言った時、渡の雰囲気が変わったのがルイズにもわかった。
(き、傷ついたかな?)
「僕が…キミを…?」
「そ、そうよ」
(何も護れなかった…僕が?)
『友達も、母も、兄も…最愛の人でさえ、護れなかった僕が…』
「…わかったよ」
「え?」
「渡?」
「僕は何があってもキミを護る。それが、僕とキミとの