キャッスルドランでいざという時の為の準備をしていたシエスタの体に『何か』が急激に襲った。
「な、なに…まさか…」
シエスタは大急ぎで大広間に向かった。
「皆様!」
「シエスタ…やはりお前も感じたか」
大広間にいた三魔騎士と自分達に渡の伝言を伝えに来たキュルケ・タバサ・ギーシュがいた。
それぞれカードを持っており、次狼がシエスタにも一枚投げる。
それを受け取り、シエスタはカードを見る。
そこには…
「わ、ワタル様…?」
「そうだ。『闇に堕ちたキバ』…『ヴラド』だ」
「ヴラド…?」
「昔、ある種族の中に初めて人間を信じ、共存しようとした『皇』がいた」
シエスタはそれを沈黙して聞く。
「しかし、その『皇』は人間に裏切られ、人間の醜さを目の当たりにして『闇』に堕ちた。その時に誕生したのがあの『ヴラド』だ」
シエスタは深く沈む。
一体彼はどれほどの絶望を味わったのだろう。
誰よりも優しくて、誰よりも強くて、誰よりもまっすぐ歩こうとしていたのに…
「ワタル様…」
シエスタはキュッとカードを持つ手を強める。
「いつでも『城』へお帰りください。私はあなたを裏切りません…
ワルドは眼の前の存在に自分の命を奪われた感覚に襲われ、自分の全身がバラバラになる錯覚を感じた。
後退りしたワルドは、慌てて自分の体を手で触る。
自分の体はなんの異常もない。
ちゃんと五体満足の状態だ。
しかし、それでも生きた心地がしない。
目の前にいる『闇』の存在に…闇の鎧・闇の外套・闇の爪…その全てが恐怖の存在だった。
(な、何なんだこいつは!?『奴』は只の魔獣使いだとしか言ってなかったぞ!)
ワルドは渡の事を『魔獣使い』だと聞いていた。
それは渡に会ってから確信することにもなる。
巨大な龍の城。
蒼き人狼。
深紫の巨人。
水緑の魚人。
人語を解する蝙蝠。
だから魔獣全てを切り離せば只の平民だと思っていた。
それが…
「お前を…許さない…」
『闇』はゆっくりと自分に近づいてくる。
その一歩一歩にワルドは恐怖する。
今までの自分の歴史も、最強の属性である風のスクウェアであることも、眼の前の『闇』の存在の前では紙切れにも等しい支えだった。
しかし、このままでは殺されると感じたワルドは歯を噛み締め、再び後退りした後、素早くある呪文を詠唱する。
詠唱はすぐに終わり、その結果も現れた。
ワルドの周りに現れたのは5人のワルドだった。
現れた5人のワルドは素早く展開し、円を描くように『闇』を包囲する。
「くく、はははっ!これが風のスクウェアスペル『遍在』だ。風は何処からでも吹き、何処からでも現れる。どれが本物かわかるまい!そして」
ワルドは再び素早く詠唱し、『偏在』を維持したまま、
「ライトニング・クラウド!!」
杖から雷を放つ。
雷鳴が礼拝堂内に轟き、大量の粉塵が上がる。
ライトニング・クラウド…風のメイジが最強といわれるもう一つの理由。
それがこのライトニング・クラウドだ。
この防御不可能な上に、体の自由を奪う事から蒸発までできる必殺の魔法の前には、どんな者でも敵う筈が無い。
今の威力は完全に丸焦げだ。
「どうだ!はははっ!やはり僕の勝ちだ!僕は全てを手に入れる。地位も名誉も誇りも…いや!いずれはハルケギニア全てを!」
高笑いをあげるワルド。
しかし、恐怖が拭えない。
在り得ない筈だ。
今のを喰らって生きている存在は…そう、在り得ない筈だった。
「は、はは…」
ワルドは粉塵の中から現れる存在にワルドは再び恐怖に支配される。
そこには無傷で悠々と歩く『闇』がいた。
「う、うそ…だ」
ワルドは恐怖に眼を開く。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
再び『偏在』で『闇』を取り囲もうとしたが、
「…ふん」
『闇』は手を少しずつあげ、手を横に振った。
たったそれだけ…それだけで…
バシュゥッ!
「ぐぎゃぁ!?」
闇色の衝撃波がワルド達を襲う。
偏在は掻き消され、ワルド本人は衝撃波で吹っ飛び、
グシャッ!ベチャッ!
「げふっ!?」
壁に叩きつけられ、地面に落ちる。
『闇』はもがき苦しんでいるワルドに左腕を向ける。
すると『闇』の左腕が伸び、ワルドの頭を掴む。
ワルドはそのまま『闇』の元へと来る。
ワルドは恐怖と絶望で顔を染めている。
『闇』は右腕を上げ、闇の炎を纏わせ、ワルドを『処刑』しようと…
『ダメェェェェェェェェェッ!』
暗い闇の中、渡は憎悪に心を支配されていた。
目の前のワルドを見てさらに憎悪の炎を燃やす。
『なんで…なんで…』
渡は右腕を上げる。
『なんで人を苦しめるんだ…!』
人間は『弱い』…しかし、その『弱さ』こそが最高の力を生み出す。
人は自分達のような『化け物』に向かって生き残ってきた。
『団結』し支え合い、時にぶつかりあうが『信頼』して分かり合い、そして『愛』や『友情』を育んでいく。
それこそが人間の『力』…人間の『美しさ』。
『でも…目の前のコイツは…!』
渡は憎悪に任せ、右腕を振り下ろそうとした時、
『ダメェェェェェェェェェッ!』
その声は聞こえた。
気づくとルイズは大きく声を上げていた。
それは自分の心からの願いを強く叫んだ言葉。
ルイズは『キバ』をまっすぐ見る。
(ワタル…ワタルが怒ってる。ワタルが憎んでいる。ウェールズ様を殺したワルドを…)
そう、今のワルドは憎むべき敵…でも…
「お願いワタル。やめて…」
ルイズは『キバ』に近づいていく。
「ワタルに…ワタルにそんな『音楽』は似合わないわよ…」
『いつも優しかったワタル』
『自分の悩みや苦しみを正面から受け止めてくれたワタル』
『自分を…自分を守ってくれるといったワタル』
「お願い。そんな『音楽』をやめて…」
(全部を憎まないで…人間を…)
ルイズは感じている。今ここで『キバ』が憎しみのままワルドを殺してしまったら…二度と『渡』が帰ってこない気がした。
「ワタル…」
『うぁ…うぅ…』
『キバ』はワルドを手放し、頭を抱え、後ずさる。
『うぅ…うぅぅぅぅ…うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』
キュゴアァァァァァァァァァァァァァァァッ!
『キバ』は黒い『闇』を地面に叩きつける。
黒い闇は大地を走る。
その瞬間、『キバ』は渡へと戻った。
「ワタル!」
ルイズは駆け寄る。
「ワタルッ!ワタルッ!(グララッ!)…きゃっ!?」
突如大地が揺れ始める。
それと同時に礼拝堂の扉が開く。
「早くここから出ろ!」
現れたのは次狼とタバサだった。
「他の城の者は全てイーグル号に乗せて出した。後はお前達だけだ!」
タバサはシルフィードを呼び寄せる。
「ワタルは!ワタルは大丈夫なの!?」
次狼は渡を見る。
「体は大丈夫だ。力を使い過ぎただけのようだしな。それよりも急ぐぞ。もうすぐ…」
次狼は重い声で、
「この大地は崩壊する」
「え?」
その言葉と同時に大地に亀裂が入る。
「ど、どうして!?」
「渡が最後に自分の力を全て大地に流しただろう。その為大地が耐え切れず崩壊するだけだ。それに…ここは空の大陸だ。力の逃げ場がない」
「そ、そんな…どうにかならないの!?」
「『キバ』の力を止められるのは…『キバ』だけだ」
そこまで言うと次狼は渡とルイズを担いでタバサと共にシルフィードに乗った。
シルフィードはそのままキャッスルドランへと向かった。
崩壊寸前の礼拝堂に取り残されたワルドは苦しみにもがいていた。
「く、くそ…どうして…こんな…」
「いやいや、善くやってくださりましたよ。あなたは」
声が聞こえた。
「き、貴様は…!?」
「いや~、まさかここまでやってくださるとは!?人間如きがと思って貴方を舐めきっていた私としてはビックリ満開ですよ!」
ワルドが見たのは一人の男。
黒を基調とした神父服のような服を着ているが、神父服にしては豪奢すぎる彩色と装飾。
髪はオールバックに纏めており、身長も高く、顔も整っている。
しかし…
「流石は『王』!あれ程の力をお持ちとは!あれこそが我らの王の力!ん~ワンダフリャ~!」
言動と行動は異常だった。
「『ビショップ』!?貴様…何故ここに!?」
「ン~、実は結構最初から監視していましたよ。『王』の観察もかねて。それにしても…ほん~と~に、貴方は咬ませ犬としては最高でした!素晴らしいまさか『王』を覚醒していただけるとは!」
「か、咬ま…せ…犬だ…と?」
「んん~おや~、まさかあなた?自分が特別だとお思いでしたか?それはなんと大それた…」
神父服の男はワルドに顔を近づけて、その混沌の瞳を向けて、
「妄想をしたものですね」
「…!?」
「まあ、『王』を覚醒してくれたお礼に、無視しようとしていた『契約』は守りましょう。ささっ」
ドゴッ!
「ぐふぅっ!」
神父服の男はワルドの横隔膜を爪先で蹴り、気絶させた。
「しばらく寝て置いてください。おや…」
なんと大地の震動が収まっていく。
どんどん揺れはなくなり、最後には収まった。
「もう一人の『王』ですか…こちらも素晴らしそうだ」
「………」
黒い鎧に闇色のマントを纏った『キバ』が大地から手を離す。
「…大丈夫?」
「ああ、もう安心していいぞテファ」
「しかし…この力は…」
「ああ…あいつもこの世界に来ているらしい」
『キバ』は手を見る。
「しかし…」
ゆっくりとそれを握り…
「弱くなったな。渡」