「ここは…どこでしょう…?」
トリステイン学園で働くメイド・シエスタは迷っていた。
普段なら学園内で迷う事は無い。しかしここは…
「こんな所、学園になかったのに…」
そうここは学園とはまったく違った空間だった。
使われている材質から装飾まで何もかも。
「あっ…」
そこで初めて灯りが漏れている扉を見つける。
シエスタはそこで道を聞く事にした。
中にいるのが貴族である生徒でない事を祈って…
キィィィィ…
「すいません…」
扉を開けて入ると、自分に三組の視線が向かった。
部屋の中央に3人の男性が座っている。
一人はタキシードを着た男性。
一人は燕尾服を着た男性。
一人はセーラー服を着た少年だ。
三人はどうやらカードゲームをいそしんでいたようだ。
「あー、珍しいお客さんだ」
少年が自分に近づいてくる。
「こんばんわ、お姉さん」
「や、夜分遅くに申し訳ありません」
「いいのいいの。ほら次狼、リキ。お客さんだよ」
「ん、メイドか?」
「メ、イドだな」
「うん、可愛いメイドさんだよ」
シエスタでもわかるくらい、彼らはどこか独特の存在感を出している。
(もしかして、貴族の方々なのかしら?)
「メイド」
「は、はい!」
「そこの給仕室にコーヒー豆がある。淹れてくれ」
「は、はい!」
「次狼も好きだね。あっ、僕オレンジジュース」
「こ、うちゃ」
「は、はい!ただいま!」
言われるまま、シエスタは給仕室に行き、3人に言われた物を用意し始めた。
「お、お待たせいたしました」
三人にそれぞれのカップがいきわたる。
「わぁい♪」
「いただき、もす」
「ふん…ん?」
クンクン
「ん、んん、うんん?」
クンクンクンクンクン…
「あ、あの、何か…」
次郎が執拗に匂いを嗅いでいるのを見て、自分に粗相があったのかと思ってしまう。
カッ!
眼を見開く次狼そのまま一気に、
ゴクゴクゴクゴク…
「ハァ~…」
次狼の顔には確かな満足感が浮かんでいた。
バッ!
次狼は勢い良く席を立ち、
バァンッ!
強く扉を開けて、部屋を出た。
「あ、あの!私何か粗相を……!?」
「ちがう、ちがう」
「スゴイねお姉さん。次狼をあんなにするなんて」
バァンッ!
強い扉が開く音を聞いて、シエスタはまたビクッと驚く。
入ってきたのは次狼だ。手には…
「釣りはいらねぇ」
ズシッ!
「えっ?」
確かな重みを手に感じる。シエスタの手に渡されたのは、純金の延べ棒だった。
「『こっち』の金はまだ用意できてねぇ。これで我慢しろ」
「こ、こんなものもい、いただけません!」
「もう、次狼。宝石の方がいいって。エメラルドのいいのあったじゃん」
「いや、サファイアの方が、に、にあう」
「そうではなくて!只のメイドである私がこんなにいただけません。給金もちゃんといただいております!」
それを聞いて三人は顔を合わせる。
(どうする?いい人だよ、この娘)
(どう、する?)
(決まっている)
「おい、メイド。名前は?」
「は、はい。シエスタと申します」
「ここはお前が働いている所と別の場所だ。明日からコーヒーを淹れに来い。それは給金の前渡だ」
「え、ええ?でも…?」
「ねぇ、来てよシエスタお姉さん」
「きて、くれ」
シエスタは暫く考えて、答えをだした。
「わかりました。明日からよろしくお願いします」
先程の自分のコーヒーをがぶ飲みした次狼を思い出して、決めた。
「よし」
次狼はシエスタの手をとる。シエスタは少しドキッとするが、気付くと自分の手に腕輪が嵌められていた。
「それがあればここに入れる。楽しみにしているからな」
「明日も来てね」
「また、ね」
「はい、わかりました…あれ?」
いつの間にかシエスタは学園の廊下にいた。辺りを見ても確かに学園の廊下だ。
さっきのは夢だと思ったが、手に持った金塊と腕輪が夢じゃない事を告げていた。
「よかったね、次狼。美味しいコーヒーを淹れられる人が見つかって」
「そうだな。ふん、あの娘の淹れるのはマスター以来のものだ」
「ごきげ、ん、だな」
三人はカードゲーム…トランプを再開している。
部屋の灯りが彼らの影を映す。
シエスタは気付かなかった。
灯りに照らされた3人の影が、人間のモノではない事に…