ゼロの使い魔 -KING OF VAMPIRE-   作:歌音

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第3話/人は誰でも心に音楽を…

「ん……はぁ~、朝か…」

 

この世界での初めての朝がやってきて、渡は目を覚ます。

 

基本的に規則正しい生活をしていた渡は体内時計もちゃんとしている。

 

「よう、起きたか」

 

「おはようキバット…ルイズちゃんは?」

 

「ペタンコならまだ寝てるぜ」

 

「ねぇ、そのペタンコって何?」

 

「あん?見ろよあの胸、無いに等しいぜ」

 

キバットの発言にとりあえず黙っておく渡。

 

「確か、学校なんだよねココ」

 

「おう、朝の散歩に回ってきたが、中々立派な学校だったぜ」

 

「じゃあ、授業があるだろうから、ルイズちゃんを起こさなきゃ」

 

昨日説明を受けた通り、クローゼットからルイズの衣類を取り出す。

 

「まったく、渡に床で寝かせるとは、一度ガツンといわなきゃな」

 

「僕は大丈夫だよキバット」

 

「なー、渡。キャッスルドランの方へ行こうぜ。あそこの天守ならフカフカのベットもあるし」

 

「ルイズちゃんがいいって言ったらね」

 

「か~、渡!何でこのペタンコに従ってんだよ!」

 

「だって僕ルイズちゃんの使い魔だし」

 

「……渡、お前は嫌がるかもしれないんだけどな。曲がりなりにもお前は『王』なんだぜ」

 

「…………」

 

渡はキバットの言葉に困った顔をして、ルイズのベットに近づいた。

 

「ルイズちゃん、朝だよ。起きて」

 

「う~……」

 

「コラッ!」

 

ゲシッ(キバットキック)

 

「キャンッ!」

 

ドスンッ……(ちょっと威力があったのか、ベットに落ちるルイズ)

 

「起きろペタンコ!学校があるんだろ!」

 

「こ、この蝙蝠…いい加減にしなさいよ、あんた!伯爵の分際で公爵に歯向かうき!」

 

「へへ~んだ!公爵本人ならともかく、半人前のペタンコにはコレでいいんだよ」

 

「き~!いったわね~!」

 

昨日と同じく口論を始める二人。

 

「二人とも仲がいいね」

 

『どこが!』

 

「はい、ルイズちゃん。着替え」

 

渡にニッコリ笑われて、渋々ルイズは従う。

 

「着替えさせて」

 

「ブッ!」

 

驚いたのはキバットだった。渡は言われたとおりルイズの服を脱がし始めている。

 

「テメェ!年頃の娘が男に着替えさせるなんて何考えてんだ、尻軽ペタンコ!」

 

「何言ってんのよ!使い魔は役に立つのが仕事じゃない!それに使い魔を『男』と認識する分けないじゃない!」

 

「渡!お前もなんか言ってやれ!」

 

「いいじゃないか。ルイズちゃんはまだ『女の子』なんだし」

 

そう、手際良く着替えさせていく渡。

 

「…なるほど」

 

「ちょっと。どういう意味よ」

 

「渡もお前の事を『女』と認識してないんだよ」

 

「はい、できたよ。ルイズちゃん」

 

理不尽なパンチが渡を襲った。

 

 

 

「いたた…もう、いきなり何するんだか」

 

渡とキバットは一足先に部屋を出ていた。ルイズは軽く化粧をするらしい。

 

「女の子も大変だね」

 

「ああ、ペタンコの前であまりそれいうなよ。案外凶暴なんだから」

 

「……あら?あなた誰?」

 

一人と一匹が話していると誰かが声をかけてきた。

 

声の先には

 

「おお、ペタンコとは違って、グラマラスで首がいい感じのネーチャン!」

 

髪の毛は朱に燃えているような赤。

 

肌の色は赤が強い褐色。

 

体型は…服の着こなしが示す様に胸が強調された感じが強い。

 

そして…

 

(『音』も結構激しいな…健吾さんに似てるけどちょっと違うな)

 

「僕はワタル・クレナイ。こっちは…」

 

「キバットバット三世です。美しき女(ヒト)よ、良ければお名前を」

 

「あら、お上手な蝙蝠さんね。私はキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。よろしくね」

 

「こちらこそ」

 

「ルイズの部屋の前にいるって事は、あなたがもしかしてルイズの使い魔?話とは違うわね」

 

「違う。強いていうなら、私めはこちらの渡の使い魔です。ルイズ嬢の使い魔は……不本意ながら我が主人でございます」

 

「あら、へぇ~」

 

キュルケは渡をマジマジ見る。

 

「な、なんですか?」

 

「本当にルイズは人間を召喚したのね。ふふ、でも中々いい男じゃない」

 

キュルケはマジマジ見る。

 

「それにしても、使い魔が使い魔を持っているなんて不思議ね」

 

「キミの使い魔はその赤いの?」

 

「ふふ、そうよ。おいでフレイム」

 

キュルケの後ろから歩いてきたのは、虎みたいに大きなトカゲ。

 

赤に彩られた巨体。そしてその尾は炎。

 

口蓋よりは火が舌の代わりに姿を見せる。

 

その存在があるだけで周囲に熱を撒き散らしていた。

 

「私の使い魔、サラマンダーのフレイムよ」

 

「おお、サラマンダー。俺達の世界にいたのとは結構違うな」

 

キュルケは自慢げに胸を張っている。

 

渡はフレイムに

 

「よろしく、フレイム」

 

と触れようとした瞬間、

 

『きゅ、きゅ~!』

 

フレイムは恐れるようにキュルケの後ろに回った。

 

「…………」

 

「ど、どうしたのフレイム」

 

フレイムは小刻みに震えている。

 

それを見つめる渡は

 

(そうか…僕がどういった存在かわかるんだ)

 

渡は少し悲しそうな顔をする。それをみたキュルケは…

 

(あら…本当にいい男じゃない。なんていうか…なんだろ?初めて見るタイプだわ)

 

ガチャッ…

 

「……お待たせ。ワタル、蝙蝠……って、キュルケ?」

「あら、ルイズ」

 

二人はお互いを確認すると

方や笑みを浮かべて挑発的に。方や忌々しげに眉根を顰めながら。

 

「おはよう。ルイズ」

 

「おはよう、キュルケ。私の使い魔に何してんのよ」

 

「別に~。ただ挨拶しただけよ。それじゃまたね、ワタル、キバット」

 

「うん、またね」

 

「まったね~♪」

 

挨拶を済ませた渡はルイズを見ると後ずさりをした。その顔が凄まじい仏頂面だったからだ。

 

「……行きましょ?朝の食堂は混むから」

 

「う、うん」

 

☆★☆★☆★

 

「……豪華な食堂だね」

 

「ああ、無駄に豪華だな」

 

「ふふ。凄いでしょ?トリステイン魔法学院は貴族の為の学院でもあるのよ。メイジに成る者はほとんどが貴族。『貴族は魔法を持ってその精神となす』をモットーに貴族たるべき教育を受けるの」

 

だからといってココまで華美にする必要は無いと思う。

 

さらに驚いたのが、食事が出てきた時だ。

 

 

「大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうた事を感謝いたします」

 

「なにこれ?」

 

「?何って、朝食じゃない」

 

「なんだよ!朝からコレステロールたっぷりじゃねぇか!横に肥んぞペタンコ!」

 

「い、いきなり何を…」

 

「いや、キバットの言うとおりだと思う」

 

毎日の食事を作っていた渡はいつもより確信を持って断言した。

 

「ワ、ワタルまで」

 

「それに周りの皆、早く食べてる。あれじゃ消化によくないよ。ルイズちゃんだってきついでしょ。かして」

 

渡はそういうとパンをナイフで切り、そこに野菜やハムを挟む。

 

手際よく自分とルイズとキバットの分のサンドイッチを完成させる。

 

「さ、ルイズちゃんぐらいの歳ならコレを全部食べれば大丈夫。牛乳とこの…ジュースとあわせて食べて」

 

「う、うん……なんか手馴れてるわね」

 

「向こうの世界では自分の分の食事は全部自分で作ってたからね。コレぐらいはできるよ。余った分は…キバット。『みんな』に差し入れしておいて」

 

「あいよ。まあ、『あいつら』ならゲームのつまみに全部食べんだろ」

 

「さっ、食べて授業に行こう」

 

「う、うん」

 

そこで三人は食事を再開した。

 

 

渡達は食事の後、教室に移動した。

 

その造りは渡が知っている『高校』の教室とは違ったが、キバットに『大学はこんなかんじだ』と教えられて成程と頷いた。

 

階段状に設置された石造りの机。その最下部に教卓と黒板。

 

渡はルイズの背後につき、教室の扉をくぐった。

 

瞬間、先に教室の中に居た者達の視線が渡とルイズ、キバットに集中する。

 

忍び笑い、嘲笑が聞こえる。

 

ただ、中には警戒の目を向けるものもいた。

 

自分の使い魔の反応を見て、警戒する者もいた。

 

ここにいる使い魔達は、本能的に察知しているようだ。

 

…渡という存在が自分達など簡単に絶滅させてしまう存在だという事を…

 

「変わった動物がいっぱいいるね」

 

「…そんなに珍しいの?幻獣が」

 

「うん。僕の世界では滅多に見ないね。キャッスルドランぐらいしか僕見たことないし」

 

「ねえ、気になってたんだけど…昨日そのこうも「キバットだよ。そろそろそう呼んであげて」…キバットが言ってる『きゃっするどらん』ってなに?」

 

「あれ?ルイズちゃんも見てなかった?僕の今の家みたいなものかな」

 

「…!まさかあの…!!」

 

「あっ、先生かな?来たよルイズちゃん」

 

扉を開け教室内に入ってきたのは中年の女性。

 

体型的にはふくよかと言う印象を受ける。

 

「ポテパラ先生と呼ぼう…(ボソ)」

 

「失礼だよ(ボソ)」

 

「皆さん、おはよう。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、この春の新学期にさまざまな使い魔を見ることが楽しみなのですよ」

 

シュヴルーズを名乗った先生は周囲を見渡しながら微笑を浮かべそんなことを言った。

 

そしてその視線がルイズの後ろに立つ渡に止まる。

 

「ミス・ヴァリエール?こちらの方は?」

 

「…わたしの使い魔です。ミセス・シュヴルーズ」

 

(チョイ、カプ…)

 

「?…使い魔…って!?」

 

その目が見開かれる。

 

キバットが軽く渡を噛んだ直後、渡の体にほんの一瞬だけ、『魔皇力』が漲る。

 

ほんの一瞬であったが、とてつもない強大な魔力をみたシュヴルーズは声を震わせながら

 

「…こ、これはずいぶん変わった使い魔ですね?」

 

「含む所があるようですが…一応、褒め言葉として受け取っておきます」

 

(キバット…!何するんだよ!)

 

(いいんだよ!またペタンコ…ルイズがバカにされるとこ見たいのか?)

 

(それはそうだけど…でも)

 

渡とキバットが周りを見る。使い魔達が少し騒ぎ出していて、それを各主人達は諌めていた。

 

(みんな怖がってるじゃないか)

 

(…すまんね、諸君)

 

「…はいっ!皆さん。使い魔達が落ち着いたら授業を開始しますよ!」

 

 

 

ミセス・シュヴルーズの授業を渡は結構真剣に聞いたが、結構わからないところもある。

 

元々、普通の現代人の生活をしていた渡には少し理解できないところもあった。

 

(兄さんなら…理解できたのかな)

 

「キバット、面白い?」

 

「ああ、面白いぜ。そうかスクウェアクラスになれば金が作れるのか。昔サンジェルマンのおっちゃんに作ってる所見せてもらったけど、俺もこっちで真剣に勉強しようかな」

 

それは渡にもわかった。

属性の単位は【ドット・ライン・トライアングル・スクウェア】と言うものらしい。

 

一系統をドット。二系統でライン。このように増えるもので、同一属性の相乗もこれで表現するらしい

 

つまり『たくさん使えるほど強い』ということだ。

 

「渡…それは何でも端折り過ぎだ」

 

「大丈夫だよ。ノートとってるから後で読み返そう」

 

「…という訳です。では、誰か【錬金】を試みてもらいましょう…そうですね。ミス・ヴァリエール。貴女にお願いしましょうか」

 

シュヴルーズがその言を告げた瞬間、室内の空気が凍った。

 

「ミス・シュヴルーズ。あのもしかしてルイズの事……知らないんですか?」

 

金髪の巻き髪をした少女が挙手をし発言する。

 

「何をですか?ミス・モンモランシ」

 

「…危険です。ルイズに魔法を使わせるのは賛成できかねます」

 

それを見た渡とキバットは

 

「どういうことだろうね」

 

「わかるのはとんでもなくヤバイって事だ」

 

「…わかりました。ミス・シュヴルーズ。やります」

 

私の声をきっかけにしてルイズが席を立ち教壇に向かう。

 

周囲が騒然とする。

 

「よろしい。では、ミス・ヴァリエール。錬金したい金属のイメージを強く心に浮べてください」

 

その言に応じてルイズが呪文の詠唱を開始する。

 

「キバット、行って」

 

「あいよ!」

 

そして最後の呪言が放たれた瞬間。

 

ドガァァァァァァァァァァァァンッ!

 

(ああ、失敗した…)

 

それだけはしっかりとわかった。

 

いつもの事だ。四大元素の魔法に失敗したときのいつもの結果。

 

ルイズは目をつむり、次の瞬間に来る衝撃に備える。

 

でも、いつまで経っても衝撃は来なかった。

 

ルイズは恐る恐る眼を開ける。

 

「ふぃ~、間一髪…」

 

「き、キバット?」

 

「おう、大丈夫かルイズ」

 

見ると自分の周りにガラスのようなモノが光っている。

 

それが自分を守ったようだ。

 

「これ…あんたが?」

 

「おうよ、コレでも俺、結構優秀なのよ」

 

ウインクで返事をするキバット。

 

「あっ、ありがとう…」

 

「ま、でもこりゃ…」

 

キバットは周りの惨劇を見て…

 

「片づけが大変だな」

 

 

 

 

「ふぃ~、なんとか目処がつきそうだね」

 

「おーい、直りそうにねーもんは捨てて来たぞ。それと、持って来たぞ」

 

「ご苦労様」

 

キバットが扉から戻って来たキバットは口に何かを咥えていた。

 

渡は箒を置いて、それを受け取る。

 

「ルイズちゃん、終ったよ」

 

「…………」

 

「ルイズちゃん?」

 

「……これでわかったでしょ。私がゼロって呼ばれてる理由が」

 

魔法成功率ゼロ…それが彼女の名前の由来だということ。

 

「次があるじゃないか。次はきっと成功するよ」

 

「うるさい!あんたに何がわかるのよ!」

 

ルイズは渡を睨みつけて叫ぶ。

 

「こんなに失敗続きで落ち込まない人間の方がどうかしてるわ!私だって……私だって頑張ってるわよ!努力してるわよ!授業だって誰よりも真面目に聞いてるし、筆記試験じゃトップクラスなんだから!でも、でも……!」

 

涙目になりながらルイズは俯く。魔法が使えない…それはルイズの心を傷つけていた。

 

未だに自分の属性が分からない。

 

火、水、風、土、どれも全てがダメだった。

 

基本的なコモンマジックすらもできない。

 

「私だって…私だって…」

 

『♪~♪♪~♪』

 

突然音色が聞こえた。

 

ルイズが顔を上げると、渡がバイオリンを弾いていた。

 

先程キバットが持ってきたものはアレなのだろう。

 

紡がれる旋律…ルイズの心はその旋律に奪われていく。

 

(なんて…なんて素敵な音色なの…)

 

ルイズも公爵家の令嬢だ。本当に素晴らしい楽団の音楽も聞いた事がある。

 

でも、そんなものすらを凌駕する音を、目の前の自分の使い魔は奏でていた。

 

『ポロンッ♪』

 

「落ち着いた?」

 

「あ……あ、うん」

 

「ルイズちゃん。これはね、父さんの言葉…まあ、僕も父さんからの直接じゃなくて、違う人から聞いた言葉なんだけれど…」

 

渡は諭すようにルイズに話す。

 

「人はね、みんなそれぞれ音楽を奏でているんだ。知らず知らずの内にね。その音楽は、人それぞれもちろん違うんだけど…」

 

渡はニッコリ笑って

 

「安心して。ルイズちゃんはとても素敵な音楽を奏でているから。今僕が引いた音なんかよりね。ルイズちゃんはルイズちゃんの音楽を奏でるんだ。誰にも真似出来きない、キミにしか奏でられない音楽をね」

 

その時ルイズは気付く。渡の顔がとても悲しい表情をしていることに。

 

まるでそれは…

 

「…ふん。いいわ、私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!見てなさい!あんたが聞いた事がないような最高の音楽を奏でてみせるわ!」

 

「その意気だよ、ルイズちゃん。じゃっ、僕はコレを片付けてくるから」

 

「おっ、待てよ渡」

 

そういって渡とキバットは外に出てしまった。

 

ルイズはその後ろ姿を見て

 

「なによ。あんな素敵な音楽が出せるアンタが何であんな顔するのよ」

 

 

 

 

 

「ルイズちゃん、落ち込まなくて良かったね」

 

「そうだな、渡にしちゃよくやったな。こんなに渡が立派になるなんて…ヨヨヨッ!」

 

「泣かないでよ、キバット。あっ、さっきのメイドさんがいたよ」

 

「おーう、愛しのシエスタちゃん」

 

渡とキバットが箒を貸してくれたメイドに近づくと、

 

「ん?」

 

「どうしたんだろ?」

 

「大変だ渡。シエスタちゃんがいじめられてるぞ!」

 

 

 

 

 

「君が軽率に瓶なんかを拾い上げるおかげで、二人のレディの名誉が傷ついたじゃないか。どうしてくれるんだね?」

 

「え……も、申し訳ありませんっ!」

 

「まったく!コレだから平民は…」

 

「やいやいやい!何シエスタちゃん苛めてんだ!このヒョロ男!」

 

「な、なんだこいつ!」

 

突然飛んできたキバットに金髪の少年は驚く。

 

「どうしたのシエスタさん」

 

「あ、ワタルさん。実は…」

 

「そのメイドが二人のレディの名誉が傷けたんだよ!」

 

「どういうこと?」

 

「おい!僕が喋ってるのに何を無視してるんだ!君は誰だ!」

 

「僕は…」

 

「やいやい!伯爵に向かってなんて口を聞いてるんだ!」

 

「は、伯爵!?」

 

途端に金髪の少年は大人しくなる。それを隙にワタルはシエスタに理由を聞いてみる。

 

事の起こりは、シエスタがこの金髪の少年・ギーシュの落とした小瓶を拾った事らしい。

 

それはある女性が恋人に送る香水のビンだった。

 

それをギーシュに渡そうとするとギーシュが拒んだらしい。

 

すると一人の女性が現れて、口論になった後、ギーシュはビンタを食らい、痛みを感じている時に、もう一人の女性が現れ、ギーシュを怒鳴って去って行ったらしい。

 

「…つまり!二股かけたのがばれて修羅場に巻き込まれた…完璧オメェが悪いじゃないか、このイロガキ!」

 

「な、何を言うんだ!僕は彼女が香水の瓶を拾った時に、知らないフリをしたんだ。話を合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」

 

「それでも、シエスタちゃんを責める事にならないよ。シエスタちゃんは小瓶を拾って君に渡そうとしただけなんだから」

 

「は、伯爵まで!そんな平民をかばうんですか!」

 

「僕は伯爵じゃないよ。伯爵はキバット」

 

「へっ?」

 

「エッヘン!」

 

「僕はルイズちゃんの使い魔だよ」

 

それを聴いた瞬間ギーシュの顔つきが変わった。

 

「成程、『ゼロ』のルイズが呼びだした人間か。そうか、平民だったわけか。ならば、貴族の機転など分かるはずもないな」

 

渡が貴族でもメイジでもないと知るや否や、ギーシュの態度が一転する。

 

明らかに安堵し、強気になっている。

 

「そんな事は関係ないよ。シエスタちゃんに謝って」

 

「貴族が平民に謝れだって?……どうやら、君は貴族に対する礼を知らないようだな」

 

「人に悪いことしたら謝らなきゃならないこと位は知ってるよ。シエスタちゃんに謝って…」

 

「ふん、礼儀知らずめ。そうだ、ちょうどいい腹ごなしに君に礼儀を教えてやろう」

 

ギーシュは持っていた造花の薔薇を渡に向けて、言い放った。

 

「おっ、もしかして決闘か!?」

 

「ふん、蝙蝠も偽りとはいえ伯爵を名乗ってるから話は早い。後でヴェストリの広場に来たまえ!逃げたらお前のご主人ごと侮辱してやろう!」

 

そういってギーシュはその場を離れていった。

 

「大変な事になったね」

 

「ふん、大丈夫だ。お前なら勝てる」

 

「そうかもしれないけど…」

 

「あ…あ…わ、ワタルさん…?こ、殺されちゃいます!」

 

『…なんで?』

 

「貴族を本気で怒らせたりなんかしたら!」

 

顔色を蒼くしたシエスタに向けて、そう断言する。

 

この少女は本気で自分を心配してくれている。

 

そう感じた渡は

 

「許せないね、キバット」

 

「ああ、シエスタちゃんをこんなに不安にさせたあのギーシュとかって言う小僧っ子!渡!ケチョンケチョンにしてやるぞ!あっ、シエスタちゃんも渡と俺のカッコいいとこ見に来てね」

 

「き、貴族ですよ? メイジですよ? 勝てる訳が…っ!」

 

「…う~ん多分、大丈夫」

 

「おうよ!相手が貴族なら渡はおお…フグッ!」

 

「だから心配しないで」

 

キバットの口を押さえつけながら渡はシエスタにニッコリ笑った。

 

「ところでヴェストリ広場ってどこだろ?」

 

 

 

 

 

「諸君!!決闘だ!!」

 

渡が後からやってきたギーシュの仲間に案内されるままに辿り着いたのは学園の敷地内の二つの塔『風』と『火』の間にある中庭だった。

 

立地条件はあまりよくないらしく、西側にある為か季節柄か日中においても日差しが多くない。

 

それでもこの場には多くの生徒達が集まっていた。

 

「おお、ギャラリーがたくさん!燃えるね!」

 

「……僕は恥ずかしいよ」

 

辺りを見渡すと、人が集まってきている。その中で近づいてくる人影、それは。

 

「ちょっと!!なにしてんのよアンタ!!」

 

いわずと知れた主人、ルイズだった。

 

「なんでアンタがギーシュと決闘する事になってんのよ!?」

 

「ん~、なんていうんだろ」

 

「成り行き?だな」

 

「アンタみたいな平民がギーシュに勝てるわけ無いじゃない!ギーシュはメイジなのよ!あんた殺されるじゃない!」

 

(キバット…)

 

(ああ、よっぽど、支配階級が明白してるんだな)

 

平民は貴族(メイジ)に勝てない。それが当たり前のようであった。

 

でも、渡は引くわけには行かない。

 

一つはシエスタに悪いことをしたのに謝らせること。

 

もう一つは…

 

「僕が逃げちゃうとルイズちゃんまでバカにされるみたいだから、僕頑張るね」

 

「~!」

 

話にならないと感じたルイズはギーシュに言い放つ。

 

「ギーシュ!決闘は禁止されてるじゃない!やめなさいよ!」

 

「禁止されているのは貴族同士の決闘だ!平民相手の決闘は禁止されていない!」

 

「そんな屁理屈…」

 

そこでギーシュは薔薇を振るう。

 

薔薇の花弁が地面に落ちると、突然人影が現れる。現れたのは女性型の青銅人形だった。

 

「もちろん僕はメイジだ。魔法を使わしてもらう」

 

「あんた…」

 

「ルイズちゃん下がってて」

 

「ワタル!」

 

渡は青銅人形の前に立つ。

 

「僕は大丈夫だよ」

 

「おうよ!まあ見てなルイズ!」

 

渡はギーシュに相対するようにたった。

 

「とりあえず、逃げずに来たその勇気は、褒めてやろうじゃないか」

 

「ありがとう、じゃあ僕も準備するね」

 

「…ん?」

 

「キバット!」

 

「おう!キバッていくぜ!」

 

渡はキバットを右手で掴む!

 

そのままキバットを自分の左手に近づけると

 

「ガブッ!」

 

今度は先程の『甘噛み』なんてものじゃなく、しっかりと噛んだ!

 

『!?』

 

その瞬間、ルイズやギーシュ、それどころか周りの生徒も驚きを隠せない。

 

渡の体から信じられない程の魔力…『魔皇力』が溢れ出す!

 

そして、渡の腰に(カテナ)が何重にも巻きつく。巻きついた鎖は止まり木『キバットベルト』に変化する。

 

「変身!」

 

そう叫ぶと同時に、キバットを腰の止まり木に吊るすと同時に、渡は光に包まれる。

 

そして何かが弾け飛んだ瞬間、渡は変身していた。

 

「な、なんなの、あいつ…」

 

ルイズは声をこぼす。

 

渡の姿は異形だった。

 

黄金の眼を持つ兜。赤と黒と銀を纏わせた鎧。そしてその溢れんばかりの『魔皇力』…

 

それはとある種族の王となる資格がある者だけが身に付ける事を許される『鎧』。

 

周りが許すのではなく『鎧』自体が選ぶ為、確実なる選別を行う『キバの鎧』。

 

それを身に纏うのは『大逆の王』、『仮面ライダーキバ』。

 

それが渡のもう一つの姿だった。

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