ゼロの使い魔 -KING OF VAMPIRE-   作:歌音

9 / 25
メイドと3魔騎士 第2話/3魔騎士、大暴れ

チェス盤の上に載っている駒が動き、狼のような口を開け、目の前にある駒に齧り付き、飲み込む。

 

「やった!僕の勝ち!」

 

「むっ!」

 

「また、負、けた」

 

「二人とも頭脳プレーがなってないよ」

 

三人はいつも通りゲームを興じて、時間を潰している。

 

今回のチェスの勝利者は、幼い顔をしているが、3人の中でも一番の頭脳派のラモンだ。

 

こういったゲームでは二人はなかなかラモンには勝てない。

 

「そろそろだな」

 

「うん、シエスタがそろそろご飯持って来る時間だね」

 

三人は別の小さなテーブルの上に置いてある、箱を見る。

 

「気に、入ると、いいな」

 

「でもいいのかな?キャッスルドランの宝物庫から勝手に持ち出して」

 

そう、実はキャッスルドランにも宝物庫があり、その中には美術品・宝石・金塊・魔宝具・高額紙幣が詰まっている。

 

そのどれもが売れば一財産になるモノばかりだ。

 

これが渡とキバットがずっと暮らしていけた理由でもあった。

 

なんでも母のヘソクリだったそうだ。

 

「渡の許可は貰っている。どうせ放りっ放しのまんまだ。今度街に買い物に行く時に宝物庫のモノを2、3個売ろう。そこそこの金にはなるだろ」

 

完璧にキャッスルドランの宝物庫のモノを私物化している三人はそろそろ食事を配膳するシエスタを待っている。

 

ガチャッ…

 

「あ、シエスタ。いら…あれ?」

 

「あの、ジロウ様、リキ様、ラモン様のお部屋はこちらでよろしいでしょうか?」

 

やってきたのはシエスタではなく、知らないメイドだった。

 

腕にはなんとシエスタに渡した鍵代わりの腕輪をつけている。

 

「…シエスタはどうした」

 

次狼がメイドに尋ねる。

 

その威圧的な視線にメイドはビクッとなる。

 

「あ、あの私今日からシエスタの変わりに…」

 

「シエスタはどうしたの」

 

「で、ですから…」

 

「シエスタ、どう、した」

 

「あ、あの実は…」

 

3人の圧倒的な威圧にメイドは耐え切れず、シエスタに口止めされていた事を話し始めた。

 

 

 

 

コンコンコンコンッ…

 

「はい、どちら様ですか?」

 

「ワタル様という方はこちらにいらっしゃいますか?」

 

「ぼく?どうしたんだろ」

 

渡は扉を開けてみる。

 

いたのは一人のメイドさんだった。

 

「あ、あのワタル様ですか?」

 

「そうだけど」

 

「じ、実はジロウ様達からの伝言で『ちょっと出かけてくる』だそうです」

 

「次狼さん達が?どこにいったのかわかる?」

 

「じ、実は…」

 

メイドは次狼達に話した事を渡に話した。

 

すると渡は珍しく血相を変えて、

 

「ルイズ!僕も出かけてくる!キバットいくよ!」

 

「おうよ!」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!モット伯の屋敷の道わかるの!?」

 

と渡達も城の外に停めていたマシンキバーで次狼達の目的地へ向かった。

 

 

 

 

 

モット領の屋敷の地下に存在する豪奢な浴槽。

 

平民では決して浸かることが出来ないであろう湯船の中にいながら、しかしシエスタの顔には曇りがあった。

 

モット伯が自分を屋敷に来るように名指しでしたのか、その理由の検討くらいついている。

 

そしてこれから、自分が何をすることになるのかも。それを思うと、自然とシエスタの瞳には涙が溢れ、身を閉じる。

 

平民とは、貴族の下に位置する者だ。平民は貴族に逆らえない。

 

その真理をシエスタは強く自覚している。

 

その最大の要因となっているのは、言うまでもなく魔法。

 

平民は貴族に従う…その認識が、このハルゲギニアでの正しき法だ。

 

シエスタは湯船から上がり、体を拭いて、モット伯の寝室に向かう。

 

(そういえば、あの方達はどうしてるかしら…?)

 

いつも笑顔で迎えてくれる少年。

 

自分が重い物を運ぶ時にわざわざ手伝ってくれる片言の男性。

 

少し怖いが、自分の煎れたコーヒーを美味いといってくれる男性。

 

陽気な蝙蝠さん。

 

そして彼等がいる部屋の主である笑顔が優しい男性。

 

(きっと、私の事なんてすぐに忘れる。私なんて、所詮は平民なんだし…)

 

何も言わなかったが、きっと彼等は貴族なのだろう。

 

雰囲気が平民なんかとはまったく違った。

 

(でも…)

 

いつも自分を気遣ってくれていた。

 

いつも断っていたが、給金を与えようとしてくれた。

 

一度だけ私が作った『ヨシェナヴェ』を三人とも『美味い美味い』といって喧嘩になるくらい食べてくれた。

 

(楽しかったな…)

 

寝室に入ると、モット伯が待っていた。

 

自分の体をじっとりと見ながら何か言っている。

 

シエスタはモット伯に呼ばれ寝台に近づく。

 

この後、自分が自由の身になっても彼等とは会いたくなかった。

 

今日、自分はどんな理由であれ汚される。

 

汚された自分を彼等に見られたくはなかった。

 

だから自分がいなくなっても大丈夫なように同僚のメイドにメモを渡している。

 

あの人達が好きなクッキーの焼き方、好きな料理、コーヒーの淹れ方…そして頂いた腕輪も渡している。

 

そう、彼等の事は忘れるんだ…忘れなきゃ、ツライだけだ…そうシエスタが決心した瞬間…

 

 

ドガァァァァァァァァァァッ!

 

 

屋敷が地震のように揺れた。

 

 

 

 

 

 

魔法学院から徒歩一時間ほどの距離にあるモット領の屋敷。

 

二人の門番が退屈そうにしていると、三つの人影が現れた。

 

徒歩で来ているが、その立派な服装から、門番達はモット伯への客人の貴族だろうと当たりをつけた。

 

「お停まりください。ここはジュール・ド・モット伯爵の屋敷です。例え貴族の方といえど、無断での立ち入りは認められません」

 

門番が、近づく三人にそう声をかける。

 

「モット伯への面会をご希望ですか?これより話を通してまいりますので、失礼ですがお名前を…」

 

「邪魔だ。退け」

 

 

ドガッ!…ドサッ!

 

 

と一人の男が近づいてきた門番を蹴り飛ばす。門番はそのまま吹っ飛び、起き上がらない。

 

「なっ!?貴様なにを…」

 

「うるさい!」

 

少年がもう一人の門番を殴る。

 

信じられないことに体格のいい男が少年のパンチで吹っ飛んだ。

 

三人は邪魔者がいなくなった事を確認すると、

 

「リッキー、容赦するな」

 

「思いっきり、派手にね!?」

 

「ま、かせ、ろ」

 

門の前に立った男…力は全身に力を込め、

 

「うおあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

頭を抱えて叫ぶ!

 

バチッ!バチチッ!

 

力の体に紫の電撃が迸る!

 

バチンッ!

 

電撃の光が収まった時、恐ろしい異形の存在がいた。

 

力の姿は深厚な闇の色である暗い紫を纏わせ、人間の何倍もある豪腕はそれだけで力の塊だと認識できる。

 

リキのこの異形の姿・『ドッガ』…かの名高き『フランケンシュタインの人造人間』を祖とする『フランケン族』最後の一人である。

 

その力は…

 

「ふん、がぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

ドゴンッ!ドガァァァァァァァァァァッ!

 

 

ドッガは力任せに強固な門を殴る。

 

普通なら何を馬鹿な事を思うが、ドッガの力は尋常なものではなく、吹っ飛んだ門の残骸はそのまま屋敷に直撃した。

 

「よし」

 

「ナイス!」

 

「ふん!」

 

流石にその轟音に何事かと衛兵達が集まる。

 

「な、なんだありゃあ!?」

 

「オーク鬼か!?」

 

「なんでオーク鬼がこんなところに!?」

 

数は結構なものだ。

 

しかし、次狼達は落ち着いている。

 

「やれやれ、おいラモン。お前シエスタを探しておけ。ここは俺とリッキーで片付ける」

 

「うん、わかった」

 

「さあて、殺さないように加減しなきゃな…リッキー、お前は特に気をつけろよ」

 

「わ、かっている」

 

突如次狼の体から青い気が噴出す。

 

「アオォォォォォォォォォォォォォォォンッ!」

 

次狼は狼のように吠える。

 

すると次狼の体が見る見るうちに変わり、青い狼男・ガルルに変体を終えた。

 

「シャァァァァァッ!」

 

ガルルは狼男の種族の中で、最も誇り高く、最も戦士として特化していた『ウルフェン族』最後の生き残りであり、種族一の戦士。

 

ガルルはありえないスピードで衛兵に駆け寄り、次々襲っていく。

 

二人が衛兵達をなぎ倒してる中、ラモンは屋敷の中に入っていった。

 

 

 

 

 

その襲撃は、あまりに突然だった。

 

魔法学院より気に入った侍女の娘を見繕い、さあお楽しみの時間だと息巻いていた矢先、屋敷が揺れ、モットは窓から門へと目を向けた。

 

二匹の化け物が衛兵達を次々となぎ倒している。

 

このままでは屋敷に侵入される。

 

すぐさま護身用の杖を手にして、モットは寝室より出ようとしたが、

 

 

ドンッ!

 

 

扉が乱暴に開く。

 

「見つけた!シエスタ、大丈夫?」

 

「ラ、ラモン様!?」

 

「大丈夫?」

 

「は、はい」

 

ラモンはモット伯の事を無視してシエスタに声をかける。

 

「貴様か!?外の化け物を操っているのは!私が誰だか分かっているのか!?トリステイン王宮に仕えるこのジュール・ド・モット伯爵にこのような真似をして、タダで済むと思っているのかっ!!」

 

「うん」

 

ラモンは笑って返す。

 

あまりの簡単な物言いにモット伯は一瞬呆気に取られたが、すぐに我を返して

 

「ななななんっだと!!このクソガキ!死ね!」

 

モットが再び杖を振るう。

 

瞬間、備え付けられていた部屋中の花瓶の水が、まるで意思を得たかのようにうねり、ラモンの身体を飲み込んだ。

 

「ラモン様!?」

 

「ハハハァッ!油断したな。私は『波濤』のモット。水のトライアングルメイジだ」

 

高笑いして、モットは杖を片手に勝利を確信する。

 

「このまま水圧で、押し潰してくれるわぁ!!私に逆らったことを後…か、い?」

 

ラモンを包む水の檻に向けて、モット伯の声が落ちていく。

 

それは信じられない光景をみたからだ。

 

自分が魔法で操った水は量の割りにかなりの水圧をかけている。

 

普通なら骨も肉もぐしゃぐしゃになっていく。

 

なのに…

 

「わ~、気持ちいい!やっぱ水は良いな~」

 

ラモンは快適に泳いでいるのだ。

 

「水を操る勝負だね。負けないぞ~」

 

『!?』

 

なんとラモンの姿が変わっていく。

 

モット伯もシエスタも驚愕する。

 

今のラモンは緑の化け物・バッシャーとなっていた。

 

バッシャーは『マーマン族』の生き残り。

 

マーマン族は『水の支配者』といわれ、水を自在に操った。

 

バッシャーは簡単に水の中から出てきて、水を一掴みする。

 

その水は球体となり、そのままモット伯に投げつける。

 

ドゴッ!

 

「フゴッ!」

 

見事、胴体にヒット!

 

モット伯は吹っ飛ばされる。

 

そのまま水のコントロールも失い、地面に叩き落ちる。

 

「もうお終い?」

 

「な、なめるな!」

 

モット伯は再び杖を振ろうとしたが、

 

ぷく~、シュッ!バキッ!

 

「なっ!?」

 

「杖がないと何もできないんだよね」

 

バッシャーはフーセンガムようなもの膨らませ、そのまま炸裂水弾を発射し、杖だけを叩き折った。

 

「ここか!匂いがする!」

 

入口からいきなりガルルが現れ、

 

 

ドゴォォォンッ!

 

 

「シエ、スタ~!」

 

分厚い壁を破壊して、ドッガが現れた。

 

「もしかして…ジロウ様とリキ様ですか…?」

 

シエスタは呆然と二人を見た。

 

「あっ、二人とも。こいつが元凶だよ!」

 

モット伯はバッシャーに指を指されてビクッとなる。

 

「こいつか!」

 

「グゥゥゥッ!」

 

三匹の迫力と殺気にモット伯は震える。

 

しかし、すでに自分にはあがなう力が無い。

 

いや、杖を持っていたとしても勝てる姿が思い浮かばず、真の恐怖が襲っていた。

 

「た、助けてくれ!命だけは!な、何か欲しい物があるのでしょうか!?な、なんでも渡します!?だ、だから命だけは~!」

 

モット伯は必死に命乞いをする。

 

自分の命は完全に目の前の三匹に握られている。

 

だから必死だった。

 

三人は顔を見合わせ、人間体に戻った。

 

それにもモット伯は驚いたが、震えが勝っている。

 

「今回だけは命を助けてやる。条件付だがな」

 

「は、はい、ななななんでしょうか!?」

 

「一つ、今日の事は全力で揉み消せ。失敗したら殺す」

 

「はい!」

 

「二つ目、僕等を追っかけない事。軍なんか呼んだら少なくもとオジサンの命は奪うよ」

 

「肝に銘じます!」

 

「み、みっつ、シエスタ、貰う」

 

「そ、そこの平民ですね!?どうぞどうぞ!」

 

「最後に、他の女にこんなふざけたマネしてみろ。殺してやる」

 

「は、はい~…」

 

『返事がぬるい!』

 

「はい!仰せのままに!」

 

「よし…帰るか」

 

次狼がシエスタをお得意のお姫様抱っこでシエスタを抱え、三人は去っていき、モット伯だけは残された。

 

余談だが、この日を境にモット伯は女遊びをやめ、慎ましやかな人生を歩んだ。

 

 

 

 

 

「あの…このコートいいんでしょうか」

 

学園への帰りの途中、シエスタはふと呟いた。

 

随分と豪華そうなコートを着ている。裸同然の姿だったので、モット伯のところから拝借したものだ。

 

「慰謝料と思えばいい」

 

「でも、ちょっと取りすぎかと」

 

見るとラモンと力が風呂敷を担いでいる。

 

モット伯の屋敷にあった金貨と財宝を持てるだけ持った。

 

はっきり言って軍隊を呼ばれてもおかしくない盗賊ぶりである。

 

ただ、モット伯はこの三人に怯えて、本当に今回の事は『なかった事』になる。

 

「あ、ありがとうございました皆様」

 

「…怖くないのか?」

 

「え、えっと、はい。普通なら私も命乞いをしちゃいそうですけど、大丈夫です」

 

「そうか…」

 

次狼は拍子抜けした。このメイドは案外貴重なのかもしれない。

 

「えへへ、僕かっこよかった?」

 

「はいラモン様。お魚さんみたいでしたよ」

 

「む~」

 

その感想にラモンはちょっとムクれる。

 

「俺、は?」

 

「たくましかったです」

 

「むふふ」

 

力はご満悦だ。

 

力は懐に手をいれて箱を出す。

 

「持ってきてたの?」

 

「おう、これ、俺達、から」

 

「まあ、うちのメイドの証だ」

 

シエスタは手渡された箱を開けてみる。

 

「まあ…」

 

入っていたのは依然とは違った腕輪だ。

 

一番の違いは大きなルビー(キバ)、サファイア(ガルル)、エメラルド(バッシャー)、アメジスト(ドッガ)がはめ込まれている。

 

「明日からまたコーヒー煎れにこい」

 

「ご、飯も」

 

「クッキーもね」

 

「…はい!」

 

ブロロロロロッ…

 

目の前からバイクの音がする。

 

「みなさん!」

 

「お前らこんな所にいやがったのか!」

 

「ちょっとあんた等!モット伯の所に行ってなにしたのよ!?」

 

と、渡達と合流して、暫くルイズの怒りの声をあげ、渡がそれを宥めていた。

 

それをシエスタは楽しそうにみて、明るく笑った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。