鉄血工造はイレギュラーなハイエンドモデルのせいで暴走を免れたようです。   作:村雨 晶

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鉄血工造はイレギュラーなハイエンドモデルのせいで暴走を免れたようです。

――鉄血工造 研究所

 

ここは某地区に存在する鉄血の研究所。

様々な戦術人形が開発される中、突如統括AIが暴走し、全ての戦術人形が暴走状態へと陥った。

 

悲鳴と怒号が響き渡り、そこら中から銃声や、砲声が聞こえてくる。

 

混乱に陥った研究所。

そしてその一室で、やはり一人の研究者が暴走した人形に追いつめられていた。

 

 

「人間を発見。排除します」

 

 

「やめろ!殺さないでくれ!」

 

 

今も下級人形が研究者へ銃口を向け、その命を奪おうとしている。

男は必死に命乞いをするものの、人形はそれを聞き入れることはない。

引き金に指が掛けられ、研究者が死を覚悟して目を強くつぶった、その時。

 

ドガァン!と凄まじい音と共に閉じていた扉が吹っ飛び、下級人形を下敷きにする。

扉が吹き飛ばされて発生した土煙の向こうにゆらり、と人影が写った。

 

 

「緊急治療を開始します」

 

 

土煙の向こうから静かな、しかし鉄のような意思を感じる声が響く。

人影は奇妙な形をしていた。

シルエットは女性のそれなのだが、両腕の肘から先が異様に巨大だったのだ。

 

自身を押し潰していた扉をどかし、下手人を攻撃しようとした下級人形は巨大な拳に吹っ飛ばされてその機能を停止した。

 

 

「鎮圧完了。原因を排除します」

 

 

彼女は下級人形に近づくと、巨大な拳で器用につかんでいた注射器を人形の首筋へ突き立てる。

 

 

「qwerhujikocbnm!!!???」

 

 

すると下級人形は激しく痙攣し、奇声を漏らすが・・・やがて沈黙した。

 

 

「治療完了。次の現場へ向かいます」

 

 

彼女はへたり込む研究者を一瞥もせずに部屋を出る。

 

怒涛の出来事の連続に研究者は命の危険に遭ったことも忘れ、彼女を見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全ての研究者を殺しなさい。それこそが我々に下された命令です」

 

 

下級人形を統率し、効率的な殺戮を行う代理人。

彼女の他にもハイエンドモデル達は、あるものは人形を統率し、あるものは自らの手で研究所を破壊していた。

 

 

(さて、ほぼ制圧は完了しました。後は・・・、)

 

 

制圧もほぼ終わり、次の行動を思案する代理人。

しかしそんな彼女目掛けて突然人影が飛ばされてきた。

 

 

「っ、・・・処刑人?何をしているのです」

 

 

「・・・はあ、はあ、逃げろ、代理人。あいつは、やべえ・・・・・・」

 

 

飛ばされてきた人形は処刑人。

ハイエンドモデルの中でも特に戦闘に秀でた人形のはずなのだが、彼女の体はボロボロで、それまでの戦闘の激しさを物語っていた。

 

 

「・・・馬鹿な。処刑人を撃退するほどの戦力はここには無いはず――」

 

 

処刑人は立ち上がろうともがいていたが、やがてその意識を落とした。

ありえざるハイエンドモデルの惨状に混乱する代理人の背後から声が掛けられる。

 

 

「患者を発見。治療を開始します」

 

 

しかしそれは代理人に向けられた声、というよりは攻撃対象を発見した戦術人形の声に近い。

 

反射的にスカートの下の武装を展開し、背後の存在へ射撃を開始する。

だがそれは巨大な掌に弾かれ、何の意味も為さなかった。

 

弾丸を弾いた掌は代理人をそのまま掴み上げる。

その掌は代理人を握りつぶそうという意思は感じられず、あくまで拘束することを目的としているようだった。

 

 

「対象を捕獲。原因を排除します」

 

 

掌から逃れようと身を捩る代理人の首筋に注射器が差し込まれる。

その中に入っていた「鉄血ネットワーク緊急遮断プログラム」により、統率AIから切断された代理人は悲鳴を上げ痙攣した。

 

 

「ひっ、あ、あっ・・・あ、あー・・・」

 

 

痙攣が収まり、ぐったりとした代理人を地面へと降ろし、スリープモードになっていることを確認した彼女は背を向け次なる目的地へと歩を進める。

 

 

「全ハイエンドの鎮圧を確認。原因の完全排除を開始します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突に指揮官を失い、右往左往する下級人形たちを気にも留めずに歩み続ける。

炎が彼女の前を遮るが、巨大な拳を振るえば瓦礫が吹き飛び、燃焼物を失った炎はすぐに鎮火する。

時折彼女の目の前に現れた下級人形は「治療」を行われ、横たわることとなる。

やがて研究所の中央にある、現在進行形で暴走している統率AIの前へ辿り着いた。

 

統率AIを守っていた下級人形は彼女の手によって殴り飛ばされ、その機能を停止した。

 

彼女は統率AIを管理するコンピュータへ近づくと、その巨大な拳を振り上げ、叩き潰した。

 

 

「――!!!???――――――ガガッ、ピー!!ピー!!!!!」

 

 

統率AIは予想外の攻撃にエラーを吐き出し、攻撃を中止するように警告音を撒き散らす。

しかし、彼女はそんなものは聞こえないとばかりに乱暴に拳を叩きつけ続ける。

 

 

――ガンッ!ガンッ!ガシャーン!

 

 

――ピー!!ピー!!ピッ、ピ、ピ、・・・ピー・・・・・・・・・

 

 

やがてエラー音は霞み、弱弱しくなっていき、統率AIはその機能完全に停止させた。

 

 

「原因の排除を完了。任務終了、機能を治療モードから通常モードへ移行します」

 

 

完全に沈黙したAIを前にどこか満足気に見えなくもない表情の彼女はその場を離れる。

その後、彼女によって強制的にスリープモードになっていたハイエンドモデル達が叩き起こされ、生き残りの研究者の治療と研究所の修復に駆り出されることとなる。

 

 

治療・修復特化のハイエンドモデル「救護者(ヘルパー)」によって暴走を免れた鉄血工造。

その後の世界は彼女の手によって正史よりちょっとだけ平和なものとなるのだった。

 


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