鉄血工造はイレギュラーなハイエンドモデルのせいで暴走を免れたようです。 作:村雨 晶
ここまでやって大丈夫だったかな…だめならいろいろさんがダメって言ってくれるよね…?
救護者はいつも通り執務室でドリーマーと共に仕事をしていた。
しかしふと、ここ最近聞きなれた不可思議な鈴の音が耳に届く。
救護者は顔を上げ、ドリーマーのほうを見るが、ドリーマーは聞こえていないのか書類と格闘していた。
救護者は小さくうなずくと席を立つ。
「ドリーマー、私は緊急の要件で出かけます。後のことは任せました」
「え、救護者!?ちょっと、そんないきなり―――」
ドリーマーの言葉に反応することなくいつもの赤い軍服のようなコートを纏い、部屋を出る救護者。
慌ててドリーマーが続けて部屋を出るが、長い廊下には見えるはずの救護者の姿はなかった。
「残りの仕事…どうするのよー!」
大量に積みあがった書類の山を見たドリーマーの悲鳴が鉄血工造中に響いたのだった。
♢
「……ふむ」
執務室の扉を潜り抜けた救護者は道のど真ん中に立っていた。
二回この世界へ来たおかげでそこがS09地区の大通りだと分かる。
「それにしても……人がいませんね」
救護者の記憶では人でごった返すほどではないにせよ活気があったはずだ。
しかし今は人が一人も見当たらず、不気味な静けさに包まれている。
「喫茶店にでも行ってみましょうか」
そうひとりごちると喫茶鉄血へと歩みを進める救護者。
しかしそれは通りにある電気屋で止まることとなる。
『現在、軍が保有する列車砲、アルゴノーツカライナ・ヴィーラ・パピスがテロリストに強奪され、そのうちカライナがS09地区に向かって接近しているという事件が発生しています。S09地区にお住まいの方はすぐに避難してください…』
いくつものテレビが置かれているディスプレイに映っているのは凄まじい速度で走っている列車。
それにより救護者はあらかたの事情を把握した。
テレビから目を離した救護者はこの世界でしか通じない番号へ電話をかける。
数秒の後、目的の人物が電話へ出た。
『はい、もしもし!鉄血工造のサクヤですけど!今ちょっと手を離せなくて後でかけなおしてもらっても……』
「久しぶりです、サクヤ」
『って、その声、救護者!?なんでいきなり!?』
「突然こちらへ飛ばされまして。テレビを見てあらかたの事情を把握しました。お手伝いできることはありますか?」
『うん!いっぱいあるよ!じゃあ避難者の誘導を……』
と、その時救護者の前を大型の先頭車両が走り抜ける。
グリフィンとも、鉄血とも書かれていないその車両は避難が済んでいるこの町ではひどく不釣り合いに映る。
「失礼、サクヤ。少し待ってもらっていいですか?」
『え?どうしたの救護者?ちょっと?』
救護者はサクヤへの電話をつなげたまま、トラックへ跳躍した。
♢
「へへっ!作戦大成功ですねアニキ!」
「ああ、ここまでうまくいくとはな…軍の連中も大したことねえなあ!」
先頭車両に乗っていた彼らはテロリストの一員。
各地で混乱を起こした後、アルゴノーツ・パピスに合流し、列車を護衛する手筈となっていた。
「ところでアニキ、パピスへはどうやって向かうんですかい?列車は移動してるんでしょう?」
「なあに、問題ないさ。このナビ通りに進めば間違いなく着くはずだ」
「さっすがアニキ!」
ギャハハ!と汚い笑い声をあげた瞬間、屋根にゴガン!という音が響き二人とも屋根を見上げる。
「なんだあ?石でもぶつかったか?」
「ここは町ん中ですよ?そんなはずは……」
そういって下っ端らしき男が窓から顔を出すと、その顔を屋根から伸びてきた手が鷲掴み、車両の外へと放り投げた。
「ぎゃああああああああああああ!!!???」
悲鳴が遠ざかっていくのを聞き、しばらく呆然とするアニキと呼ばれた男。
しかしそれも窓から入ってきた救護者によって我に返った。
「なんだてめえ!?グリフィンか!?鉄血か!?」
「降りなさい」
「んだとクソアマ!俺を誰だと…ぎゃああああああああああああ!!!!!?????」
救護者はアニキと呼ばれていた男を蹴り落とすと座席へ転がっていたナビをみやる。
そこには緑の点が地図の上を少しずつ動いているのが見えた。
「すいません、サクヤ。ちょどいい乗り物があったので私はアルゴノーツ・パピスとやらへ直行します」
『え!?う、うん……。それは助かるけど、今悲鳴が…』
「彼らは傷はついたでしょうが死にはしないですから心配せずともよろしい。現場への連絡は任せました」
『分かった!気を付けてね』
救護者は電話を切るとパピスに向かってアクセルを踏み込んだ。
♢
「おう、調子はどうだ」
「上々さ。こんな超兵器がありゃあなんだってぶっ飛ばせる」
「主砲は何故だか動かんが、副砲は動く。それでも軍の連中を吹っ飛ばすには十分だ」
計画通り三両の列車砲を強奪したテロリストはご機嫌だ。
当然だろう、軍に保管されていたそれらは一両一両が戦況を大きく変えうる超兵器だ。
これさえあれば何も怖くない、といった彼らの態度はごく普通のものだ。
――もしここへやってくる者が非常識なものでなければ、だが。
彼らが談笑していると突然列車の真ん中あたりでドグワシャアン!!という凄まじい轟音と衝撃が響く。
テロリストが一斉に警戒態勢に入ると、列車砲の副砲を制御していた男が悲鳴を上げた。
「なんだ!?突然副砲が使えなくなった!どうなってやがる!?」
『聞こえるか!?おい聞こえるか管制室!?』
男の悲鳴と重なるように無線機から怒鳴り声が響く。
「どうした、何か問題でもあったのか」
『問題どころじゃねえ!上から…上から護衛に着くはずだった車両が降ってきやがった!おかげで屋根にあった副砲もおしゃかになっちまったよ!』
「おい、待て。何を言って……」
『ひっ!?おい、誰だ!お前は誰…………』
ガシャン!という音の後、無線機からは何も聞こえなくなった。
「おい!応答しろ!おい!……くそっ!」
男は乱暴に無線機を投げ捨てると銃をひっつかむ。
そして部下に合図すると後ろの車両へ踏み込んだ。
そこには報告にあったとおり、護衛に着くはずだった車両が屋根に突き刺さっており、副砲と思われる部分が火花を散らしているのが見える。
しかし、そこで一番目についたのは後ろの車両を護衛していた部下の頭を鷲掴みにし、宙吊りにしている女の姿だった。
「緊急治療を開始します」
静かな、しかし鉄のような固さを持ったその声はひどく恐ろしげなものに、男には聞こえたのだった。