鉄血工造はイレギュラーなハイエンドモデルのせいで暴走を免れたようです。 作:村雨 晶
救護者出すと根こそぎ空気を持っていくから出すのが難しくなるとは…このリハクの目をもってしても(ry
「ん、んー…」
カーテン越しの日差しを感じて目を覚ます。
落ちそうになる瞼をこすって伸びをした。
「く、ふぅ…」
救護者が作った疑似睡眠プログラムはいつ感じても素晴らしい。
私達戦術人形は睡眠をしない。あくまでメンタルモデルがスリープモードに移行するだけだ。
再起動時の処理が眠そうに見える、というだけだったのだが救護者は「人形にも睡眠欲が必要です。厳密には娯楽に値する欲求であり、娯楽とはすなわち精神の健康に…」と論文でも書けそうな説明を人形の開発部門とI.O.Pに行い、結果的に『人間の快適な睡眠と同じような精神状況を再現する』プログロムを開発した。
被検体となった某秘密部隊のARがもうこれ以上寝たくないと泣き言をこぼすほどに試行錯誤を重ねたと聞いている。
最低限の身嗜みを整え、部屋を出る。
するとふわりとベーコンを焼くいい香りが鼻を擽った。
「ん?おう、起きたかハンター。朝飯出来てるぜ」
料理のために髪を後ろで括った処刑人が笑いかけてきた。
「ああ、おはよう。処刑人。救護者が作った睡眠プログロムが心地よくて非番の日はつい寝てしまう」
「分かるぜ。俺も朝飯の準備が無かったらもう少し寝てたかったくらいだ。救護者は普段ぶっ飛んでるが、たまにマジでいいのを開発するよな」
処刑人はフライパンからベーコンをさらに移すと既にできていた料理と一緒にテーブルへと並べる。
焼いたベーコンと目玉焼き、トーストにマーガリン。そしてサラダ。
簡単なものだが処刑人が作ったものは格別だ。
「いただきます。…うん、やっぱり処刑人が作った料理は美味いな」
「よせよ、照れるじゃねーか」
「それにこの目玉焼き、半熟だ。私がこれを好きなのを知って焼いてくれたんだろう?嬉しいよ、処刑人」
「…うるせー」
顔を赤くして顔を背ける処刑人に思わず笑みがこぼれる。
普段の所作は荒いくせにこういうふとした仕草が可愛いのが好きなのだ。
「なんでこんな朝っぱらから甘々な空気を吸わなくちゃならないのかしら」
「そう言うな、デストロイヤー。仲がいいのはいいことだろう?」
ふと気が付くとデストロイヤーとアルケミストが私の後ろに立っていた。
デストロイヤーは若干不機嫌そうな顔をしており、アルケミストはそんな彼女の頭を撫でて宥めている。
「おはよう、二人とも。今日は早いな」
「ああ、おはようハンター。少し用があってな。なんでも開発部門が新しいハイエンドモデルを完成させたらしく、その子の様子を見に行くのさ」
「私はドリーマーの様子を見に。部屋を見たけど帰ってきてないみたいだし、また徹夜で作業してるに決まってるわ」
彼女達が椅子に座ると処刑人が料理を持ってくるために席を立つ。
その時の顔が若干赤かったのは先程のやり取りを見られたからだろう。
処刑人が離れるとアルケミストが身を乗り出す。
「で?処刑人とはどこまで行ったんだ、ハンター。さすがにキス位はしたよな?」
「てゆーか、あんたらイチャイチャするなら別の所住みなさいよ。アーキテクトとゲーガーみたいに」
「てめーら!俺たちはそういう仲じゃないって何度言えば分かるんだ!」
乱暴に皿を置いて二人を威嚇する処刑人。実際私達は『そういう』行為をしたことはないので助かった。
「なんだ、まだなのか?処刑人、早めに囲わないとどこぞの奴にハンターを取られかねんぞ?こいつはただでさえ鈍感なのだからな」
「そうよそうよ、処刑人貰ってくれる変わり者なんかハンターくらいしかいないもの」
「お前ら好き勝手言いやがって…!大体、デストロイヤー!お前はドリーマーとどうなんだよ!」
「は!?ど、ドリーマーは今関係ないでしょう!?」
途端に騒がしくなった食卓を尻目に食後のコーヒーを流し込む。
皿を重ね、調理場へ置く。
「処刑人、私は今日、E地区へ作戦行動予定だ。お前は?」
「あ?あー…おれはG地区だ。警護任務だがな」
「そうか。…じゃあ午後7時に待ち合わせをしよう。F地区でいいレストランを見つけたんだ。ディナーにでも行こうじゃないか」
「は!?お、おい、ハンター、それって…」
「デート、というやつだ。…ふふ、改めて誘うのは気恥ずかしいな?」
処刑人の次の言葉を待たずに扉を閉める。
赤くなった顔を見られるのは流石に恥ずかしかったからだ。
今までちょうどよい距離に甘んじていたが、一歩踏み出すのも悪くない。
ドア越しに聞こえる様々な声をBGMに私は任務に向かうために歩みだした。