アニメぢゃないっ!!   作:@さう

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宇宙旅行

0007宇宙旅行

 

 

 サイから色々な条件が出された。

 この「スサノオ」フレームは日本国内、出雲でしか製造しない事。

 他所で製造してもこの力は発揮されない事。

 初号機であるこの「スサノオ」にちなんで、今後はスサノオフレームや実機の名称にスサノオを入れる事など。

 

 いちパイロットであるはずのサイ少年から提示される条件に、いちいち上と連絡を取っている受注元からの使い。

 それは不思議な光景だった。

 

 まして、ここには阿部総理や麻宗大臣もいるのだ。

 開発チームは、二人の来訪でこれが国家主導の計画だったと知ったが、そこは薄々気付いていたのであまり驚きはなかった。

 しかし、このサイ少年が、確かに礼儀はあるものの、この二人に条件を出している光景は異様だった。

 

 

 

 ・・・・・

 

 

 新幹線の中での事である。

「あのパイロットの少年、サイってやつな。出身どこだったと思う?」

 麻宗の言葉に、

「川島研究所の職員と資料には書かれていましたが」

 サイは未成年であるため、職員というのも名目上の事であったが。

「うちのに調べさせた。あいつ宮内庁勤めだったぜ。皇族付きの能力衛兵だ」

「宮内庁…… という事は……」

「ああ、そうだろうよ。上から連絡があるとすりゃまずあの方だ。混乱を避けるために誰にも言わず、御心の内に留めておられたんだろう」

 

 かくしてサイは、極秘で使命を授けられ、パイロットとして紛れ込んだ。

 

 とはいえ、サイ自身も実は事情をほとんど知らされていない。

 ただ、ゲヒルンフレームを信じる事、そしてスサノオの名を使う事を命じられただけだ。

 宇宙人が来たという話は、この後、二人が工場に着いてから語れて大いに驚く事になる。

 

「いつの間にそんなおおごとに……」

「ま、いいじゃねぇか。こっちにもそのうち使いが来るんじゃねぇか?」

 頭を抱える阿部総理。麻宗が笑って肩を叩く。

 

 

 

 ・・・・・

 

 

 

「え? それマジですか?」

 サイは、宇宙人が来たという話を聞いた時以上に驚いていた。

「ああ、おめぇには宇宙に行ってもらう。人類初の偉業だぜ? 他所の星を救うなんてな」

「えっ、でも僕……」

「宮内庁には了解を取ってある。近々勅令が降りるだろう」

「なんだ…… バレちゃってたんですね。でも宇宙人の事だったなんて知らなかったなぁ」

 

 サイ少年は夜が訪れようとしている暗い空を見上げた。

 気の早いいくつかの星達がキラキラと輝いている。

 

 

 

 たった一機で太陽系の千倍の直径をもつブラックホールを押し返せるか、または消滅させられるかについて、サイは笑顔で「大丈夫だと思いますよ」と答え、技術者達は「もしかすると……大丈夫かも……」と微妙な返答をした。

 

 計算上の出力を完全に上回っているばかりか、上限値が全くわからないのだ。

 願えばそれだけ力が出て来る。

 得体が知れない。

 その仕組みを察しているのは、3人だけである。

 

 

 

 ・・・・・

 

 

 

 メルオル船長が手配した輸送船は、気付いたらそこにあった。

 近畿地方の山奥に、大きな学校の体育館程の大きさの箱が鎮座している。

 ウグイス型ドローンに「来ました。あちらに」と言われ、振り返ったらそこにあるのである。

 音も光も遮蔽、またはカモフラージュしている。

 ここに集まった人類は、宇宙人の技術ヤベェと舌を巻いた。

「いえいえ。何に特化しているかという事だと思います。この惑星にはまだ恒星間航行の技術は無いですが、ゲヒルンフレーム……いえ、スサノオ骨格があるじゃないですか」

 

 

 12月も半ば。

 

 やはり得体の知れない力が働き、僅か二週間でゲヒルンフレーム改め「スサノオ七七式初号機」は鎧でその身を包んで完成していた。

 その姿はまさに鎧武者だった。

 鎧はメルオル船長が提供してくれた。

 設計をメルオル船長に送ったら宇宙用の様々な修正を加えられ、製造されて、月にいるらしい母艦から地上に降ろされた。もちろんこれも気付いたらそこにあった。

 謎の素材で作られたとんでもなく精度が良いその鎧は、しばらく職人達にベタベタ触られていた。時折職人達のうめき声が響き、サイ少年などは怖がって近付けなかった。

 

 鎧は外注になったが、スサノオ骨格は問題なく稼働した。

 

 輸送船にスサノオごと乗り込んだサイ少年は

「いってきまーす」

 と外部スピーカーで元気な声を聞かせてくれた。

 

 これから日本人初、どころか地球人初の太陽系外惑星への旅が始まる。

 というのに、気の抜けた少年の声と、むさいおっさんどものキラキラした瞳。

 どこかに色気は無いものかと若い職人達は思った。

 

 皆んなに見送られて、輸送船は少し浮かび上がって、するすると消えていった。

 

 

 ・・・・・

 

 

 メルオル船長が言うには「三度の潜行で母星に着きます」との事。

 地球時間でおよそ5日間の旅らしい。

 やはり正確な母星の位置は知らされていない。

 メルオル船長は教えても良いと言っていたが、阿部総理がそれを拒否した。

 何事も余計な事は知らない方が良い。

 

 ブラックホール彗星の速度は知らないが、地球へ1000年かかる距離。

 現在全く観測できないのだが、この話を聞いた開発チームは、妙な事に気付いてしまった。

 この天の川銀河の直径はおよそ10万光年である。

 光の速さで端から端まで10万年かかる。

 メルオル船長によれば、彼らの母星は天の川銀河では無いらしい。

 太陽系は天の川銀河の端なのでブラックホール彗星に真っ先に直撃する可能性はあるが、それでも最寄りのアンドロメダ銀河まで250万光年ある。

 彼らの母星はもっと遠いらしい。

 

 だとすれば、ブラックホール彗星は光速を超えている事になる。

 

 果たしてメルオル船長の話は本当なのか。

 今の人類にそれを確かめる術はない。

 

 

 

 メルオル船長から提供された技術を研究していけば、やがて人類も星の海に旅立てるだろう。

 異星人の存在を認識した。

 それも、この銀河系だけで多くの文明が存在しているらしい。

 やがて彼らと友になる時のために、人類は変わらなければならない。

 

 日本政府が何かやっていたというのは既に米国にバレていた。

 しかし、さすがに宇宙人とは思われなかった。

 スサノオ骨格のデータがあったので、起動実験までのデータを丸々送りつけたら「アニメーションを実現させようなんて日本人は本当にクレイジーだな」という評価を頂いた。

 スサノオ骨格を秘密裏に開発していて、失敗した。そういう事になった。

 アニメの技術をやろうというのだから、さすがに恥ずかしくて隠していた。そう思われた。

 空を飛ぶスサノオ骨格が偵察衛星に捉えられてないかとヒヤヒヤしたが、「なぜか」偵察衛星はその時全く使用されていなかった。

 その日米軍内でちょっとした事件が起こっており、それによって日本のトイレ機器メーカーに幾つかの損害賠償請求がきた。

 

 

 

 スサノオ骨格の量産はしない事が決定された。

 日本で、職人さん達が全力を尽くして、スサノオの名を付けると不思議パワーが発生するという得体の知れないものであるし、操縦者が限られている、そして、今の日本にとって、オーバースペック、もとい、オーパーツ過ぎた。

 分かっている者たちには、神の力をおいそれと使う訳にはいかないという思いがある。

 

 

 

 ・・・・・

 

 

「やっと帰ってくれたか。あっち行ってる間にサイのやつにちゃんと人類の事を伝えてもらわねぇと」

「そうですね」

 ロケットの様に空に飛び立ったわけではないが、なんとなく二人は空を見上げていた。

「全く。宇宙人は危なっかしい。地球人類に滅ぼされかねないぜ」

 

 メルオル船長と交換条件を話した際、お金について話をした。

 地球にとって貴重な幾つかの技術と、何か金銭的な価値のある物品。

 その様に要求してみた。

 宇宙の美術品などに興味があったからだが、メルオル船長に「地球で言うところの貨幣経済は存在しません」と返された。

 そして、黄金1000tをポンっと渡された。

 

 メルオル船長の母星では、分子をある程度組み替える技術があった。

 特に黄金は素材として優秀で、合成技術が確立されているらしい。

 月の砂1000トンが黄金1000トンに化けた。

 現在の相場でおよそ4700億円である。

 阿部総理と麻宗はかなり焦った。

「今付き合うの無理だわな」

 そんなわけで、メルオル船長には、調査に来る分にはいいが、人類が自力でそっちに行くまで交流は無しにしておいてくれと頼んだ。

 詳しくはサイに聞け。と。

 

 

 こうして、得体の知れない宇宙人のとのコンタクトは一旦終わった。

 

 

 ・・・・・

 

 

 サイは、一日三時間程メルオル船長と話をする。

 もう3日目だ。

 たまにサイも知らない事を聞かれるので、持ち込んだパソコンのデータにお世話になっている。

 

 輸送船の中は、完全に四角だった。

 スサノオ七七式初号機が寝そべっている床には、持ち込んだ簡易トイレと食料コンテナ、あと、小さなコンテナを改造した個室ビデオルーム。若い職人が気を利かせてくれたらしい。映像ソフトも大量に。

 僕、未成年ですよ。

 とサイは注意したものの、寝室としては優秀で、眠る時に使わせてもらっている。輸送船の中は簡素過ぎて落ち着かないのだ。

 人工重力がある事に驚いたのも最初だけで、既に慣れ、三日目ともなると、退屈でしょうがない。

 

「スサノオ様、宇宙人ってどんな姿なんでしょうね? 見れませんか?」

「見れはするが、どうせ母星に着けば会うのであろう。面倒だ」

 スサノオ七七式初号機から、声が響いてくる。

「神様って宇宙旅行とかした事ないんですか?」

「さて。姉上や兄上は地球の周りを戯れに舞っておったが…… 上の神々は知ってはいるのだろう。しかし、神が宇宙旅行しようなどと思うかどうか」

 スサノオはだいぶ人間くさい。

 

「大丈夫ですかねぇ…… スサノオ様に強化してもらってますけど、僕自身は大した能力無いですし。生身は虚弱体質だし」

「大丈夫だ。俺がついている」

「それは頼もしいです」

「この身は分霊であるが、見たもの聞いたもの感じたもの全て高天原に届く。何柱かの神にも伝わる様になっている。滅多な事はするなよ? 特に、暴れるな。姉上は粗暴な行いを嫌う」

 スサノオ様は本当にシスコンだなぁとサイは思った。

 口には出さないが、スサノオは神であり、心を読もうと思えば読める。

 だが、スサノオも知らないふりをする。

 

 

 

 

 地球の神、そして地球の人間。

 

 メルオル船長の母星に辿り着きブラックホール彗星を消滅させると、その話を聞きつけた各文明圏から様々なお願いをされて、地球に帰るまで5年もかかってしまう事を、輸送船生活三日目の二人はまた知らない。

 

 

 

 

 

 500年後。

 純粋数学で近辺の空間を書き換えて進むという宇宙でも稀な推進方法を発明した地球人類は、とうとう天川銀河を飛び出し、宇宙の調査に乗り出した。

 

 地球人類が接触していく文化圏の幾つかに「英雄スサノオ伝説」が存在しており、考古学者達が日本神話と宇宙の繋がりについて討論を交わす事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スサノオ骨格は七七式初号機以降再び作られる事は無かった。

 予備パーツはあったが、それがスサノオとして組み上げられる事はなく、どこに行ったのかもわからない。

 

 五年後に宇宙から帰ってきたスサノオ七七式初号機は、一年程地球に居たが、再び宇宙へ旅立ち、そして帰ってこなかった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □

 

 

 

 

 2017年12月25日。

 

 ダイバーシティ東京プラザ。

 クリスマスだが、カップルよりも男組の方が多いユニコーンガン◯ム展示場。

 

 デストロイモードの輝きが夜空に立ち昇っている。

 

 その光は、まるで集まった人達の意識に反応しているかの様に、ゆらゆらと楽しそうに震え、寂しさにさめざめとこぼれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 人々は、その光が実は本物である事を知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おしまい。


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