《不定期更新》男性アイドルは超満員の中音楽なしで一人歌うことができるだろうか   作:星燕

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はぁ。俺はなにをしているんだろう(悟り)

こうなったのが二話連続投稿直後。その後数日を経てまたもや性懲りも無く本編ではないところを進めていく星燕。恐ろしい子!

今回の話では家庭教師は全く関係ないです。ただただ、大人が主人公の力を過大評価し、主人公は相手が何でこんなことしてくるのかわからない。所謂勘違いネタです。

いやー、勘違いネタは書いてて楽しいです。勘違いして勝手に怖がる大人と、勘違いされて嫌がらせとしか思えないことをされて、それの対抗策がさらに勘違いを生む主人公。
ああ、ラノベみたいなファンタジーの勘違いものが書きたい。




家庭教師のアイツは、何かにつけて新しい職を見つける。

 

 

拝啓、お父様お母様。

 

ご両名にいたしましては御体の不調なども無いようで息子としても、また一人の人としても我が身のことのように嬉しい限りです。

 

大げさ?いいえ、そんなことはありません。だって、家族のことを慮り、家族のことを慈しみ、家族のことを助ける。それが当たり前の家族のカタチではありませんか。

 

先ほどした話とは全くーーええ、全く。ーー関係ないのですが、俺は今とても辛い状況に立っています。なんなら数日前から体調不良ですが、仕事に忙殺され治すどころではありません。

そこで、御両名には契約書の破棄をお願いしたく存じます。

決してーーいいですか?決して仕事が嫌になったわけではありません。ただ、仕事を選びたいというだけなのです。その自由すら与えられないとしたならばそれは芸をするだけの奴隷か、権力の傀儡と同じではないのでしょうか?

是非ご一考を。

引き続きお身体には気をつけて。

 

ーー両名の息子、必殺仕事人(物理)東郷啓斗より。

 

 

____________________________________

 

「敬具…っと。こんな感じで合ってんのかねぇ。」

 

「ああ。大方それで大丈夫。それに我々のように現代の一般家庭に生まれたならその程度の誤差は考えるだけ無駄だ。」

 

書き終えた手紙を光にかざし、達成感と高揚感、それとひとつまみの不安をこぼせばすぐさまそこにいた着物の男性が返答する。

 

「手紙の書き方を教えてもらって、わざわざお茶まで頂いて。ありがとうございます。」

 

「なに、気にするな。君には無償で娘に勉強を教えてもらっていると聞く。娘の成績を見たら給金を渡さなければいけないのではないかと悩むほどだよ。」

 

丁寧にお茶とお茶請けを並べた男性こそ、娘を愛するあまりにしばしば衝突し、その度に俺を中間役として散々働かせてくれた蘭'sふぁざー。通称《蘭のお父さん》だ。

家が華道の家元だけあってお茶を入れる抹茶碗や中に入った抹茶は和を感じるし、お茶請けの華々しさとそれが乗る木製の小皿のコントラストも美しい。

 

…僅かに主張する紅葉が蘭のように見えたのはおそらく気のせいだろう。

 

作法に則りお茶を飲み進める俺を見て蘭のお父さん…長いな。らんぱぱは驚いたように目を目開く。

 

「あの…どうかしたんですか?」

 

「いや、なに、気にしないでほしい。ただ、最近の高校生などが茶の作法を知っていたものだから、つい驚いてしまった。」

 

それは、高校生だからそんなものをわかるはずもない、と思われていたということだろうか。

 

「いや、気を悪くしたなら謝ろう。なにぶん最近の若いのはこうした遊びが出来ないもので…交流もできないからどうにかしたかったのだ。」

 

「ああ、なるほど。なら俺で良ければお茶の席くらいはお付き合いしますよ?」

 

「ほぅ…それはなんとも、魅力的な提案だ。」

 

俺の言葉に途端に目を少年のようにキラキラと輝かせたらんぱぱは、うんうんと確かめるようにうなづいてから立ち上がり上機嫌で部屋を出てしまった。

 

あれ?らんぱぱどこいったの?へやにひとり。おれがひとり。飲みかけの抹茶と手付かずのお茶請け。そこにあるのはじゃぱにーずブシドー…

 

 

はっ!?いかんいかん。途中から何かに取り憑かれたように思考が傾いてしまった。フィンランド生まれの侍が頭をよぎったがきっと関係ないだろう。

 

「ーうだ。そこに置いてくれ。ああ、ーーやはり部屋のーーで実際につけてもらおう。」

 

「ですが、これはーーーのものでは?」

 

「気にするな。ーーからしてーーば安物だーーー。」

 

「は?」

 

「ん?知らーーか。あのーー最近噂の政治ーー御用達のレーーランの総ーーーその人だよ。」

 

「…は?」

 

んん?ところどころしか聞こえないな。なんか俺のことを話してそうなのはなんとなくわかったぞ!

 

「待たせたね、啓斗くん。」

 

「いえ、そんなことは全く。」

 

実際は15分ほど待ったがそれをいうのは野暮だろう。

 

「ところで、だ。着物は好きかね。」

 

「着物、ですか?」

 

ふむ。唐突な話のフリだ。だが、そんな唐突な話なだけに深く考えることもなく返してもいいだろう。

 

「そうですね。去年の花火大会で浴衣を着てから気に入ってしまって。最近は自分で仕立て屋さんに行ったんですけどね。とても綺麗な着物ばかりで目移りしてしまって結局買えずじまいでした。」

 

ははは、と和やかに笑い合う。うん、華道の家元だけあって和装をすることは多いだろうし、恐らく幼少からそういったものに触れ合ってきた人だ。きっと着物が好きなのだろう。

 

和やかな笑いもひと段落、というところでらんぱぱが動き出した。

 

「よかった。用意したものが無駄にならなくてすみそうだ。」

 

ここで俺は不審な空気を感じた。俺の体に謎の不安と緊張が走る。

 

「さあ、入れてくれ。」

 

ザッと音を立てて障子が開け放たれる。そこにいたのは三人ほどのーー恐らく四十代前半ほどのーー男女。誰も彼も豪奢ではないもののとても美しい和装に身を包んでいる。そしてその足元には立派な桐箱が六つ。

 

「ささ、是非見てくれたまえ。」

 

「はい。」

 

そこにあったのはそれは立派な着物ばかり。先程話に出した仕立て屋の着物を三つは買える値段のものが、六つだ。俺が思うに、日本というものは不可思議だ。なにせ、どこをどう弄ったのか、このように厳かな雰囲気を感じる家があればどう文化が発達したのか不明なほどに毛色の違う娯楽がゴロゴロと。それはもう溢れかえっている。

 

閑話休題(それはさておき)

 

なにしろ百万はするであろう着物が六つ。一滴の汚れも落としてはならない。主に弁償代的な面で。この妙齢のらんぱぱは何か勘違いしているようだが、俺は流石にこんなものをぽんぽん買えるほど余裕があるわけではない。なに?一着くらいならどうか?

 

ーーまぁ、気にいるものがあれば、とだけ言わせていただこう。

 

とにかく、まるでつつけば壊れる硝子を触るように、触れれば消えそうな柔肌を撫でるように、今にも倒れそうな城に恐る恐る近づくように。そんな風に手を伸ばしたわけだ。

そうして手に取ると、確かにわかるそのものの良さを感じて思わずほぅ、と息を吐く。

 

「いや、わかるか、そのものの価値を、その歳で見抜くか。いやはや、素晴らしい。」

 

なにやら琴線に触れたようだ。えらく喜んでいるのを隠そうとしているがもにゅもにゅと忙しなく動く口元はニヨニヨとした笑いを隠しきれない。

 

「それはね、右の半分が私が生地を選んで仕立てさせたものだ。そして、もう半分が蘭が選んだものなんだ。」

 

なるほど。どうりで左の半分には淡い橙や濃紺が使われているわけだ。そう思うとこの着物にすら蘭が居る気がしてつい頰が緩む。心がポカポカするのに伴い抹茶を口へ運ぶ。

 

「総額にして…ー千ーー百万くらいかね。」

 

「せっ!?」

 

あてがわれた抹茶を吹き出すのをどうにかこらえて、そして大きな声で「は!?」と言うのをこらえて俺は踏みとどまった。いやいや、なにを驚くことがある。家元だぞ?当主だぞ?そのくらい当然…当然、だよね?

 

だが、そんな的外れな思考ができたのもそれまでだった。

 

「それで、だ。これを全て君に譲ろうと思う。」

 

「ブフッ!…はっ!?」

 

今度こそ俺は抹茶を噴いた。全てが湯のみに戻ったからよかったが、着物に落ちていたらと思うと心臓が縮む思いである。

ーーいやいや、流石に冗談だろう。今日はきっとエイプリルフールか何かなんだ。部屋の隅に置かれたカレンダーを何度見ても今日は七月も暮れだが、きっと三、四ヶ月越しにイタズラでも仕掛けたくなったのだろう。まったく、お茶目な御人である。

 

「ゆくゆくはそれを着て私と生け花でも楽しもうではないか。」

 

「っ…。」

 

もはや言もない。八方塞がり、万事休す、四面楚歌の孤立無援。確かに俺はお茶会ならば顔を出すといった。しかし、華道の集まりまで首を突っ込む気は無い。なにしろ俺には美的センスがかけらもない。もちろん、蘭の近くで作業をする勇気と忍耐力、理性もない。

 

「そんな!出来ません!」

 

そんな俺の魂の叫びは、

 

「いや、大丈夫。もし多少の失敗があっても私と君と、居れば蘭の三人で膝を合わせ、額を擦ってゆるりと楽しむだけのものだ。どうだろう、私も蘭と膝を付き合わせて話がしたいんだ。ここはひとつ、親子を助けると思って受けてくれないだろうか。」

 

この言葉で打ち消された。これは、俺が論戦に敗したのみだ。決して、二人が話してるところが面白そうで見たいとかそう言うことではない。違うったら違うんだい!






らんぱぱだーいしゅき!

はい。渋めで強面でメガネな和装のオジ様。カッコいいです。
でも、そんなあの人も一人の父親。主人公の前では無条件に蘭を褒め倒してデレて惚気て蘭が外で聞いてて羞恥で顔が真っ赤になったらそれはもうおいしくてたまりません。

これからも蘭の羞恥と凶行を見たくなったら安易に登場させます。ついでに、主人公には六着の着物が来たので六回活用できるように頑張ります。

高評価、感想、日常のネタからクロスオーバーさせたい作品(登場人物が学生か主人公と共通する職種であるものが好ましい。)をどしどし送ってください。

ヒロイン総選挙in令和元年・夏

  • 千聖こそ正妻
  • リサ姉まじ天使・RMT
  • 蘭のツンデレ最高
  • 紗夜さん愛してます
  • その他(感想欄にて受け付けます。)

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