《不定期更新》男性アイドルは超満員の中音楽なしで一人歌うことができるだろうか 作:星燕
なにも言えない。
こんなに遅れたのは全部新しく買った小説のせいだ。
そしてさらに言えない。
この期間の間にお気に入りも評価も減ってたなんて。
恥ずかしくて口が裂けても言えない。
拝啓、我らが自慢の息子よ。
お前ならやれると信じている。
契約内容は多少改善した。
もう一度言う。信じているぞ。
決して困ってるお前が面白いから契約内容の改悪なんてしていない。安心して契約内容に目を通さず仕事に邁進してくれ。
PS.私たちは二人で『弦巻グループが送る世界三周ツアー』に参加するのでしばらく帰りません。もともと一人暮らしなお前には関係ないが一年と半年ほど家にはいないので。
君の両親、模武と佐嫵子より。
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「あいつらぁぁぁぁあ!」
「うわっ、なによ。いきなりでかい声出さないでよ。」
「あ、わりぃ千聖。でもな、これはしょうがないんだ。」
説明しなければなるまい!
アフレコが終わってラジオ収録に行く道すがら、音楽を聴こうとスマホを出すためバックを開けたら手紙が入っていた。宛名も差出人も書いてなかったけど気になったから開けたんだよ。そしたらあれだよ。あ、一番上でもう一度見ることを推奨。俺がどれだけ怒ってるか少しは理解できるかもよ!
「
「ああ、そういう…。」
千聖が同情的な視線を寄越してくる。やめろください。心が折れます。
「それにしても…久しぶりに弦巻グループの力の強さを感じる事案ね。」
「もうこれ俺が総理大臣になるくらいしか逃げ切れる可能性がないんだが。」
「あなたには無理だと思うわ。」
「ん辛辣ゥ。」
「その喋り方やめないなら公の場で豚って呼ぶわよ。」
「そんなことできるならやってみ「この豚が。恥を知りなさい。」…すみません。ほんと、生きててすみません。」
冷たい視線が突き刺さる。千聖の視線と蘭のボディーは絶対くらっちゃいけないってはっきりわかんだね。
「あ、でもそういえばトゥイッターでお前のつぶやきにリプライ来てたよな。」
「たくさんくるからどれかわからないわ。」
「えーっと…『千聖様に豚と呼ばれたい件について』と、『寧ろ蔑んだ目で踏んでほしい件について』、あとは『ここはあえて東郷さんに豚って呼ばれてほしい』…さらにあんなことやこんなことやそんなことまで。」
「明らかにラジオのせいじゃない。」
「おいおい千聖、流石にそれはあからさまな誘導すぎるだろ。」
「なにを言ってるの?」
「引っかかるぞ?」
「なにに?」
「利用規約。」
「なにを言ってるのって何度言わせるつもり?」
たしかに。俺はなにを言ってるんだ?え?
「そんなつれない千聖もかわい、グリゴッ!?」
「なにか?」
「ぐ、グーは良くない。あ、ちがう。パー推奨とかじゃない。やめろ、構えるな、やめ、やめてください、やめっ、ニビタジっ!?」
数分後、トゥイッターで鉄仮面な千聖と並んで歩く紅葉が綺麗な東郷さんが急上昇ランキングに浮上したそうな。
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俺たちは勉強をするために羽沢珈琲店に訪れていた。ここのコーヒーはとても美味しいしケーキも美味しい。パスタも美味しかったしカレーやハヤシライスも美味しかった。なぜかある味噌汁だけは、恐怖がはるかに上回り未だに頼むことができていない。
閑話休題
「ここの動いた点pはこことここの間で動くから…」
「じゃあ…こうかしら?」
「そーそー、正解。うん、動き出す点pも大丈夫そうかな。じゃあ次は…」
最近、勉強を教えながら千聖とお茶したり食事したりすることが増えてきた。こちらとしても一人で食べるより二人で食べる方が楽しいので全く問題ないし、やる気のある千聖と一緒に勉強すると自分のモチベーションも上がるというものだ。
そして、その日も始まりはやる気のある生徒だった。
しかし、変なのだ。途中からそわそわと落ち着かない。仕事中の集中力と比べればお前誰状態だった。
先手は千聖だった。会話を始める。
「ああ、そうだ。私この前国語でもわからないところがあって」
「へえ、珍しいな。千聖が国語でつまずくなんて。」
千聖は人の感情の機微に敏感だ。それは、子供の頃からこの世界にもまれ続けそれでもなおこの世界で生きていくために必要な技術だったからだ。それを思うたび、恩着せがましく、また、実際の痛みも知らないくせに千聖に普通の暮らしをくれてやりたいと思う。
もしも千聖がごく普通の高校生になっていたら…なんてものは想像できないが。
「昔の和歌集や近代の作者を見ている中でね。よくわからない言い回しがあったの。」
なるほど。確かに千聖は創作された小説よりも、実際にあることを理に沿って綴った論文や随筆などの方が得意なのだ。
「ふーん。で、どんなやつだ?」
「『恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす』って。どういう意味なの?」
「ああ、これはな。愛や好きだ、という軽い上部だけの気持ちを伝える人よりも心の中で深く強く想いを募らせる人の方が相手のことを好いているって意味だよ。」
「へえ、そうなの。じゃあ、『月が綺麗ですね』というのは?」
「それは有名だよな。夏目漱石が和訳をするときに『アイラブユー』を『あなたを愛しています』と翻訳した人に対して日本人はそんなことは言わない、月が綺麗ですねとでも書いておけば伝わるものだって言ってな。」
「でも、〜〜が綺麗ですね、っていうのはいろいろ聞くわよね。」
「ああ。星が綺麗ですね、はあなたは私の想いを知らないでしょうね。海が綺麗ですね、はあなたに溺れていますってな具合にな。一番ポピュラーで粋な返し方は死んでもいいわらしい。」
「…よく知ってるわね。どこかで言う機会でもあるのかしら?」
「いや、そんなものなかったよ。これでも本はよく読むんだ。今はネットで趣味で小説を書いたりただで読んだりできる時代だからな。」
意気揚々と語る俺を見る目が、疑惑から呆れに変わったのを感じる。てかなんの疑惑だよ。どこかで俺がナンパでもしてるとか?ふざけろ。
「ねえ、啓斗?」
「んー?なんだー?」
「雨が止まないから、寒いですね。」
「…千聖。お前それ、」
「あら、残念だわ。マネージャーがお店の前に車を回しているみたい。続きはまた今度聞かせてもらえるかしら?」
「…わかった。」
言うや否や千聖は勢いよく席を立つ。きっちり自分の分のお代を机に置くことも忘れないマメさだ。まったく、本当にかなわない。
「俺も、きっと…」
颯爽と吹き抜ける風に前髪をさらわれる。俺がうつむき呟きかけた言葉は、口の中でコーヒーと混ざって飲み下された。
千聖が退店したことを示すベルの音が、耳にこびりついて離れなかった。
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「って夢を見た。」
「バカじゃないの!?」
夢の舞台と同じ、羽沢珈琲店で俺たちはアフタヌーンティーを楽しんでいる。珈琲店なのに紅茶なのかって?ここはなんでも美味しいんだよ。
「そもそも、私がそんなこと言うと思う?誰よそれ!あなた誰よ!」
「落ち着け、な?ここお店だから。つぐがオロオロしてるから。」
偶然にも千聖も俺と同じ感想を抱いたようだった。いやぁ、偶然って怖いなぁ…。
「それに、私だったらそんなに回りくどく言わないわ…。」
時が止まった。ハハっ、ザ・ワールド!なんちゃって。ハハハっ!
「はぁ!?」
「な、なによ!」
「え、なに?千聖って好きな人いんの?好きな人にはストレートに言うの!?」
「ちょ、啓斗、近っ、」
「そっかぁ、そんな千聖から告白されたらきっと誰でもオーケーするよな。」
うんうんと唸る俺の周りの人が呆れた顔を向けていた。
なにも言えない。
(感想、評価、お気に入り、その他諸々待ってるよ!)
ヒロイン総選挙in令和元年・夏
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千聖こそ正妻
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リサ姉まじ天使・RMT
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蘭のツンデレ最高
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紗夜さん愛してます
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その他(感想欄にて受け付けます。)