断章保持者(トラウマ持ち)でもヒーローになれますか?   作:カナーさん

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オリジナル作品は口調を気にしないで楽…いやまあ、私が友達だったら大丈夫か、と聞きますけど。


断章保持者(トラウマ持ち)、ほんの昔

 ピチャッと水滴の音がした。

 その音を拾うと目の前が真っ暗で自分は目を閉じているのに気が付いた。

 なのでゆっくりと瞼を上げる。そこに意味なんてなかった。閉じているなら開かなくては、という熱い物を触ったら体が勝手に離す、反射のようなものだった。

 

 瞳に映るのは知らない場所。記憶にない部屋。

 しかもおかしな事に自分は()に寝ていた。

 宇宙ステーションのような直立ではない。体の一部が無機質なコンクリートの壁に埋まっていた(・・・・・・)。左腕は完全に埋まり指だけが不気味に残され、両足はくるぶしから膝まで埋まっており、左足に至っては腿まで皮膚が埋められていた。

 右腕はなにもされていなかった。

 

 グッと力を入れて見るが動く気配がない。とはいえ感覚はある。左腕の指は思い道理に操作できるため融合しているのではなく、本当に埋められているようだ。

 足は靴ごと埋められたのか足首からしたは少しだけうごかせた。

 だがそんなことがわかったからといって根本的な解決には繋がらなかった。

 わかったのは右手以外完全に拘束されているという絶望的な状況だけ。

 

 どうしたものかと部屋に目を向けると、天井に二台、黒いレンズを光らせたカメラがこちらを覗いていた。

 

 そしてその下に、両開きの灰色の扉が鎮座していた。なんの装飾のない扉に黄金色の取手が目立つ無機質な扉だった。

 

 

 

 

 

 「___それが俺の"個性"。物と者を繋げるっていうのが俺の個性だ。まあ、物と物、者と者もいけるが。

 

あぁ安心してくれ。君に傷は付いていないよ。

正確には傷付いたけど治ったね。

 

気になるかい?さっきまで其処に点滴があったんだ。君の血を採取するための、ね。

 

必要量は一先ず取れたから片付けたんだ。

 

いやはや驚いたよ。成分自体は変わりないのに輸血した人間が突然、体の不調を訴えて、そのまま体が変異したんだから。鱗が生え、皮膚の下から魚が押し上げる、なんてね。君はなんなんだい?

 鱗が生えるのはわかる。過去魚系統の個性の血を輸血したら体が変異した事例は少ないけどある。体内から魚が食い破って来るのも血を作り変えたなら、まだ説明が付く。そういう個性ならね。でも君はそのどれでもない。個性が魚類系統でもないし、ましては個性でなにかを作ることさえ出来やしない。

 

 個性"自傷"。これは嘘だ。

 

 なんせ、これだけ話しているのに君は驚いたり表情を変えたりせず淡々と話を聞いているだけだ。

 つまり識っていた。個性がそんな不出来なものではないと。もっと悍ましいものだと。

 

 実際に試して見たんだよ。君が寝コケている間にね。カッターナイフで切っても、鋏を握らしても何ら変化はなかった。これで発動系の個性だと考えたがすぐに間違いだと気付いたよ。傷は再生はした。本人に意識がないのにも関わらず。

 

 発動型の個性ってのはね一定の動作や決まりで発動するものもあれば、本人の意思によって有無を決めてるものもある。

 まあ、複合型なんてものもあるがそれでも君は異質過ぎた___」

 

 

 

 そいつは扉をハリウッド映画ばりに蹴破り、一直線にやってきて自己紹介に始まり、ペラペラと一方的に私に言葉をぶつけてくるだけだった。最初は私のこの状況に茶化しながら何をしても無駄だと回りくどく大袈裟に語っていた。

 そして、唐突に私の身体の安全性に語りだし、それが個性の話に繋がった。

 ここまで自身を狂人と探求者だと押し出してくる輩も珍しい。

 話が学生の雑談のようにコロコロと脈絡なく変わり続け、なおかつそれを自慢するように語る彼は実に活き活きしていた。

 

 「話は聴き飽きたわ。それでなに?」

 

 容赦無く長文に疑問の一文を捩じ込んだ。それに彼はピタッと不調を起こしたように停まり

 

 「あぁそうだった」

 

 と薄い笑みを浮かべた。

 

 「なんてことはない、ただの取引だよ。

  君は身体を、僕はそれ以外を

  ね?なんてことないでしょ?」

 

 それは破錠した理屈だった。取引が通ることを疑わない、自己完結した彼の中では正当な取引だった。

言葉足らずに、抽象的な表現。

 

 それを聞いていた身体は至って無音だった。

 熱くなるような激情もなく、芯から凍える冷たさもなく、波立つことのない水面のような、無色で寂しい、ただの無。何一つ響かなかった。

 

 そんな内心を知らず悩んでいると勘違いをしたのか彼はまた繋げた口を開く。

 

 「あぁ!それ以外の例がありませんでしたね!生きていく上での最小限ならいくらでも提供しますよ。個性に関連するなら制限はありません」

 

 〈アリス〉は言葉の端々から意図を正確に汲み取っていた。取れていなければ今頃、彼との会話を諦めていただろう。

 

 それは死亡しない程度の飢餓状態の生命の提供。

 個性が安定して扱える環境の提供。

 それがどんな生活か想像は難しくない。

 彼はその環境に糞尿が撒き散らされていても構わないと言っているのだ。ただ死なず、ただ個性の提供。それだけを彼は欲していた。それ以外を求めていなかった。

 

 「狂っているわね」

 

 「それほどでも。あなたほどじゃないですよ」

 

 沈黙が流れる。それは友達との間に流れる心地良い沈黙だった。彼女は〈アリス〉で理解し、彼は直感で内包されたモノを察し、垣間見た。

 

 __こいつは同類だ。

 

 そんな思いが二人には宿っていた。だからかお互いにあまり見せない、素の自分らしさを偽ることなく対峙していた。

 

 だからお互い、先は見据えていた。

 

 動き出したのは彼女の方が圧倒的に素早かった。

 

 「〈焼け〉っ!」

 

 轟!っと火焔が彼を瞬くに舐める。

 髪と脂が瞬時に焦げ、強烈な臭いと炎が部屋を焼いた。炎は瞬く間に男に舐め、体中を真っ黒に染め上げた。

 

 炭のように黒くなった男の体を見て、スッ目線を逸らす。すると陽炎のように炎は消え、そこには彼の焼死体だけが残った。…彼女はそう思いどうやって抜け出そうかと考えようとして

 

 ガリッ

 

 という掻き毟る音に逸していた視線を急いで戻す。

 

 「驚いた、リストカットするのが発動条件と思っていましたが実際は単語を口にするのが本命だったって訳ですか」

 

 んなわけないでしょっと内心はがみする。彼は燃えていた。だが燃えきっていなかった。燃えていたのは男から離れた皮膚だった。

 

 「そっちも嘘を教えたわね」

 

 「いえ、私は皮膚と炎を繋げたまでのこと。あなたのように嘘に塗れてないですから」

 

 なるほど、繋げる方にも干渉できる訳ね。つまり炎と繋げたのは皮膚数ミリ何センチってとこでそれ以上とは独立させられるわけね…。

 

 「なら何度も消し炭にしてあげるわ」

 

 「怖いなあ。でもそれも無意味だよ」

 

 手を見せびらかすように掲げた。炎を受け止めた腕は筋肉が見えていたがグチュグチュと肉も咀嚼するような音がしていた。

 それは彼女にも身に覚えがあった。肉ほどなく内側から迫り上がって腕は肌色を取り戻した。

 

 「あなた、まさかっ!?」

 

 「初めて君の驚いた顔を拝見したよ。そうさ君の血を取り込んだ。凄まじいよこいつはぁ」

 

 彼から感じた同類の香り。

 同類も同類だった。理由がはっきりした。こいつは私になっていた。

 

 「はは、どうだい?君はこの体を燃やし尽くすことが出来るのかな?どうしたんだい?じゃないと家畜のそれ以下に成り下がりますよ!」

 

 高揚でもしているのかやけにテンションが高い。

 

 だから私はそでの内側に留めておいた安全ピンを外して口に咥えて、そのまま刺した。〈断章詩〉とともに。

 

 「〈自由を奪うモノは檻に〉っ!!」

 

 床から生えた針が彼の靴を突き破り右足の中に潜り込んだザラザラな針は膝の関節まで一瞬で届き一気に増殖し膨れさせて、大量の針を詰め込んだ肉袋に様変わりした。

 

 彼は痛みのあまり声が出せずまた、床に縫い付けられよろけた。

 

 無数の鉄の針が彼の足の中に侵入して、樹木のように分けられながら増殖していったのだ。ふくらはぎは歪に膨れ、筋肉を血管をズタズタしながらサボテンのように針が飛び出した。挽肉に様変わりした足は激しい内出血で変色した塊となり、恐ろしいまでの激痛の熱が脳天を突いた。

 

 「ざまぁみなさい。これであなたの機動力を削いだし、痛みで真っ白でしょう?そのままでいなさい、灰になるまで何度も燃やし尽くしてやる」

 

 安全ピンを服に刺してカッターナイフに手を伸ばす。

 

 その一瞬彼から彼女は視線を外してしまった。

 

 __いっぎ………!

 

 彼は一瞬で膝下を溶かして(・・・・)針と繋げ、膝を外した。

 そのまま倒れ込むように彼女に両手を向ける。

 

 片手は首に。もう片手は壁に。

 

 そしてグチャと壁が溶け、体重が乗せられた片手に溶かされた壁に押し込まれる。

 

 彼女は完全に四肢を壁に埋められてしまった。

 

 男が手を離すと溶かされた壁は元の硬質なコンクリの壁に戻り彼女は顔と胸だけが浮き上げられていた。

 

 彼女を壁に埋めた彼は彼女の左の脇の下と胸に手を当てた。

 

 彼は息が荒い。それもそうだ、足は落としたが突かれた痛みは幻視痛のように彼を蝕んでいた。

 

 彼は先程と同じように体重を掛けるとゴポッと体が溶け、手が体内に侵入する。そのままガシッとナニカを鷲掴みにする。

 

 「うっ…あ……」

 

 ぎちぎちと感触を確かめるように何度か握りしめ、ズルッと彼はそのまま後ろに倒れた。

 

 体は彼の手が離れたことに元に戻ったが雪乃(・・)は痛みに震えていた。今まで味わったことのない、表現のしようのない痛み。

 

 「うっ……ぅぅ…………」

 

 「ハ…ハ…」

 

 呻く雪乃の違い彼は笑っていた。彼の両手にあるのは心臓と脾臓だった。どちらも血がつまった臓器だった。

 どちらも抜き取る時に管は全て繋いで塞いだので一滴も血は溢れていない。心臓はドクドクと持ち主を失ってもなお動き脈打っていた。

 

 彼はその両手収まった物を一瞬だけ見つめ意を決したように自身との体に押し当てた。

 

 ゴポッという沸騰したような音とともに手を離し、雪乃の臓器は()に完全に繋がった。それはあまりに歪で心臓が胸に露出し、心臓の動きが逐一見えていた。

 

 痛みが引いていく。もしかしてと思い、繋げた右足の断面に手を当て無理やり繋げた部分溶かして手に繋げる。すると噴火したように筋肉が溢れた。

 

 「ハ、ハハハ。これはスゴイ!凄まじすぎるぞ!」

 

 あっという間に足を形成し、感覚を確かめるようにゆっくりと男は立ち上がる。

 

 「なんだこれ!体中の痛みが魚に喰われたように痛みがなくなった」

 

 その間、雪乃の無言で虚ろな瞳で男を眺めていた。

 

 「おい反応しろよ!どうせ死んでないんだろ!」

 

 ボコッ!と動けない雪乃の顔面を力任せに殴った。

 それでも雪乃は反応しない。

 

 「あぁ?なんだ心臓が個性の核だったのか?やったなぁ…でもどうでもいい!この湧き上がるような高揚感の前じゃ全てがどうでもいいことだ!」

 

 「___」

 

「あっ?」

 

 雪乃が唇を動かした。だが自身の声で雪乃の声が聞こえなかった。

 

 「なんだよ死んでねぇじゃねえか」

 

 雪乃の声を聞き取ろうと耳を近付ける。

 

 「あなたは……可哀…想にな…ぅ……わ」

 

 男は無言で雪乃を殴った。

 

 「可哀想ねぇ。そうだな、お前にいいことを教えてやる。俺はお前が心臓が抜かれようと死なねぇ事を上に報告する。これでお前は苗床決定だ、良かったな。雌として存分に働けるぞ。最悪自身の子供と目交う(まぐわる)かも知れねえが、切磋琢磨頑張ってくれ。まあ、そうなるのは今すぐって訳じゃない。そうだな一ヶ月くらいか。それも俺が報告してからだけどな。

何が言いてえかっていうとお前には産んでもらう、俺のな。お前の個性の影響か俺はお前に、そうだな…帰巣本能みたいなものか。それが溢れ出てくる。単純な興味だよ。何が起きるのか見てみたくなった」

 

 雪乃はその間黙って聞いた。グチュグチュと肉が勝手に蠢き、男が喋り終わる頃には全快していた。

 

 「おら、なんか言えよ。治ったんだろ?最後まで聞いてやるよ、意識が保てんのは今しかないだろうしな」

 

 「…………あなたを見ていると可哀想になるわ。苗床決定?そんなのよくある事よ。帰巣本能?それはもうあなたが碌でもないことになっている証拠よ。

 本当に可哀想な子。あなたはもう自由に活きることも自由に死ぬことも出来なくなったのよ。もうあなたの体はあなたの物ではなくなったわ」

 

 「…………もう終わったか?」

 

 

 

 

 

 

 「時槻さんっ!!」

 

 「っ!あっ…えっ………ふぇ……?」

 

 「時槻さん大丈夫ですか!真っ青で、涙で顔がぐちゃぐちゃですよっ!」

 

 彼女は辺りを見渡すとみなが心配そうに数名を除き見つめていた。

 八百万は心配そうに雪乃の体を支えている。

 

 「保健室まで__」

 

 「いらないわ」

 

 「でも__」

 

 「うぅぅ…」

 

 ポタッと雪乃の左腕から血の雫が机に落ちたが、次の瞬間には蒸発したように煙を上げ、血痕は表面を焦がした。

 

 「__っ!!?」

 

 「わかったんなら離しなさい。私に人殺しをさせるき?」

 

 ボソッと八百万にだけ聴こえるように雪乃は呟く。

 八百万はゆっくりと支えていた体を離した。

 

 「先生、帰宅します」

 

 

 

 

 

 帰りのSTが終了するとクラス内の話題は時槻雪乃という少女に集約された。

 

 「ヤオモモなんか言われたの?突然時槻さんを離したりしてさあ」

 

 「時槻さんは出血していたようで…その、血が机に付くと蒸発したんです。それに驚いて視線を戻したら…時槻さんは発火していました」

 

 「発火?発火って轟みたいにか?」

 

 「そうですわね。それに近いです。それに私に人殺しをさせるのか、ともおっしゃっていました」

 

 八百万はこの問題は一人で抱え込むには急を要する事態と考え皆に話をしていた。

 

 「なあ、緑谷や飯田もさっきの時槻見て…なんか胸騒ぎしないか?」

 

 「轟君もか。実は僕もだ。頭に霞かかったような…緑谷君?」

 

 ガタガタと震え顔は血の気を引いて汗をダラダラと流していた。

 

 「デク君っ!?」

 

 その後緑谷は保健室に運ばれ、雪乃の話は中途半端に終わってしまった。

 

 

 

 

 




本編が進まない?
安心してください。もうクラスに話が描かれることはないでしょう。だってこのクラスで原作の雪乃さんのクラスみたいに虐めが起きないでしょうし、風乃さんも出しづらい…口調も…今更てますけどね…。
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