断章保持者(トラウマ持ち)でもヒーローになれますか?   作:カナーさん

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今回は文字数が7000以上で長い。


断章保持者(かのじょ)がいたからこそ

 事態は急変した。

 

 それは下校中。緑谷を保健室に運ぶ者もいれば、この後の予定を組み立てる者。

 

 ただ総じてヒーロー科A組は皆一同にスマホと携帯に目線を向けていた。

 

 そこにはただ一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 助けて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった一言。蛙吹からの一斉メールだった。

 過去緑谷のメールの件も有り行動は迅速だった。

 

 

 

 

 集まれる者は皆蛙吹を囲むように下駄箱に集まっていた。

 他のクラスはそんなの彼等を怪訝そうに見つめるが関わろうとする者はおらず、街なかのティッシュ配りを避けるように退けて歩いていた。

 

 蛙吹は膝を抱えて、顔を埋めていた。発見したのは芦戸だった。

 

 そこから女子が先に集まり、ほどなくして男子が集まった。ここに居ないのは緑谷と飯田、麗日だけだった。

 

 芦戸や葉隠は蛙吹の背中を擦ったりしているが、他はいたたまれない空気だった。

 というのも蛙吹は見えた限りだが、怪我を負っている様子はないのだ。

 精神的なものかと思ったが、蛙吹と別れたのはついさっきなのだ。さっきまで普通に談笑していたし、変わった様子も見受けられなかったのだ。

 

 「み…みんなには見えないて……ない…の?」

 

 それは短い言葉だったが、蛙吹はそれを噛み締めるように呟いた。

 病人のように弱々しく腕を上げ、震えながら校門を指差した。

 

 何の変哲のない何時もの校門だ。過去マスコミが詰め寄り、ヴィランが破壊した校門。

 修繕されたそれを生徒達は普段通りに通っている。先程怪訝そうな表情をした生徒も同様だ。そこに不自然な所は見つけられない。

 

 「見えて…いないのね……」

 

 ポタポタと雫がスカートに落ちる。

 初めてだった。あの蛙吹がポタポタと涙を溢れさせて、頬を引き攣り、口は痙攣して小刻みに震えていた。

 極端に居うと…絶望したように顔を蒼白にさせていた。

 

 

 

 

 皆の瞳には映らない、ラグドールのサーチでも捉えられないモノをこの場で蛙吹だけが認識できていた。

 

 校門の柱にゴミのように黒い塊が置かれていた。その物体を薄っすらと注視しないわからないほど、全体を包むように燃えていた。

 

 そして注視してわかった。その塊は蠢いていた。カサカサと表面を大量の生き物が這いずり回っていたのだ。死骸に群がる蟻のように。

 それだけなら蛙吹は動揺しなかっただろう。

 

 その(たか)られていた塊は虚ろな表情をした時槻でなければ蛙吹はここまで動揺することはなかった。

 

 その蟲が時槻の耳から這い出て、時槻自身を喰らって居なければ、恐怖に顔を染めることもなかった。

 

 ポトッと時槻の小指が落ちた。ガサガサと蟲が騒がしくなる。蟲は落ちてきた指をあっという間に覆い、爪を剥がし、皮膚を剥がし、筋肉を剥がしながら骨をさらに寸断し、解体していく。そして解体された部位はバラバラになりながらものっそりの一点を目指して運ばれて行く____()へ。

 

 心が絶叫を上げた。

 人が蟲に解体され、その部位が体内に運ばれて行く。

 あっと言う間に手は蟲に喰われ、喰われた断面から骨が見え、そこを切り拓くように蟲が体内に侵入していく。

 

 また、彼女が喰われている(・・・・・・・・・)

 

 ポロポロと大粒の涙が溢れ落ちる。顔は青ざめ、バイブのように震える体を必死に抱き締める。それでも震えも涙も止まらなかった。口からはごめんなさいごめんなさいごめんなさい、と壊れたレコーダーのように溢していた。

 

 謝罪の言葉を怨念のように呟き始めた蛙吹の様子に流石にこのまま落ち着くまで寄り添う事は出来ず、無理矢理でも保健室へ連れて行こうとする。生徒の手にあまる事態であったし、この場に蛙吹に精神攻撃をしている個性がいるなら離れさえすれば解けるというのもあった。

 

 だが蛙吹は自身に蟲が纏わり付いたわけでもないのに連れて行こうとする手を引き剥がそうとする。

 異形型、常人の筋力では敵わない故に生徒達は個性を使って拘束して連行しようとするがあらゆる手段を使って抵抗する。

 

 蛙吹にとって目の前の光景は自身にとっての悪夢ではあったがそこからまた(・・)逃げるのはどうしても嫌だった。忌むべき記憶だが逃れたい記憶ではないのだ。

思い出しからこそ手放したくないのだ。それが自身を喰い尽くす蟲であっても、命の恩人を見捨てたくない。

 

 「うぅ〜駄目!全然駄目!浮かせても引っ張ってもびくともしないよ!」

 

 強靭な舌を柱に巻き付けているので引っ張り過ぎると千切れてしまう可能性もあったので生徒達は加減に気を取られて内心ヒヤヒヤだった。

 

 「なあ、蛙吹はこれだけ引き剥がそうとしても俺達に目線すら向けねえ。ずっと同じ所を凝視してる」

 

 「それがどうした轟!お前も引き剥がすの手伝ってくれよ!」

 

 「もし、敵の個性が目線を合わした相手を操る個性なら、敵はずっとそこ其処にいることになるよな。蛙吹は遮蔽物があっても視線は変わらなかった」

 

 ボッとコンロから火を吹くように掌から火が吹き上がる。

 

 「_______________っ!!」

 

 それがいけなかった。

 轟は時槻が炎にトラウマを持っていることを知らなかった。ここで轟が炎ではなく氷結なら事態はより悪化しなかったがそれは後の祭りだった。

 

 ガシャッ!と雄英バリアが誰も近付いていないのにも関わらず作動した。

 A組の生徒達が奮闘しているた間に人は疎らになっていたので奇跡的に誰も巻き込まれる事はなかった。

 

 だが轟達の動きを止めるには充分だった。

 

 誰一人状況が理解出来なかった。誤作動など天下の雄英ではありえない。だが目の前では今なおバリアが戻らず無人の門を閉ざしている。

 

 「雪乃ちゃん…」

 

 蛙吹はただ一人この状況が見えていた。

 

 時槻を覆っていた蟲が更に増えサァーと風呂の湯が溢れるように蟲が土砂崩れのように流れ出していた。

 

 ユラユラと陽炎のように淡かった炎は轟の炎に呼応するように勢いを増し、時槻を薪にして燃え盛っていた。

 ガシッと取り合うように虚空から伸ばされた手が首を足を腕を時槻を掴む。万力に匹敵する力で牛裂きのように引っ張られるが時槻は気付いていないように、処刑を待つ罪人のように成されるがままだ。

 

 そこで生徒達も空気の変化に気付いた。血管が凍りつくような、ケツに氷柱を突っ込まれるような、辺りを包む異常を感じ取った。

 

 同じ場所なのになぜか違和感が拭えない。否、本当に同じ場所なのだろうか?疎らにいた他の組の生徒達が一人も見えない。

 

 ぎちぎちと鳴き声のような不可解な音が木霊する。

 

 緊張に包まれるA組。全方位に蛙吹を守るように並ぶ。皆視線を忙しなく動かしている。敵の奇襲を警戒しているのだろうがそれは無駄なことだ。蛙吹の目にはくっきりと白い眼が蟲に包まれた時槻から覗いているのが見えていた。その眼が轟を炎を捉えているのも。

 

 「轟ちゃん炎を消して。じゃないと時槻ちゃんが保たない」

 

 「あっ?なんでそこで時槻の名前が_」

 

 「いいから早く!」

 

 普段では想像できないような感情の籠もった強い物言い。

 

 それに若干威圧されてスッと炎を鎮める。

 

 炎が消えたのを確認すると蛙吹は轟から目線を外し時槻へ向け、轟もそれにつられるように見てしまった。

 

 「_____っ!?」

 

 運河のように鳴動する蟲の群れを。

 

 いつのまに、なぜ、さっきまでいなかった、なんのこせいだ、頭が疑問と覚えのある恐怖に埋め尽くされる。

 

 ゴォーと機械が動く音が門の方から聞こえてくる。

 その音が響き渡ると運河は羊の群れのように一点を目指して逆流していく。それと共にこの場所が孕んでいた違和感が小さくなっていく。異常な空気も薄まるように翳っていた明度を上げていく。

 

 そこに残ったのは通常の夕暮れの紅い空と門の柱に蹲る、大粒の汗を流しながら呼吸を整えている時槻とA組だけだった。

 

 

 

 

 時槻雪乃は通りをゆっくりと歩いていた。

 

 彼女は八百万を振り撒くとあの場所まで歩き、そのまま先の異常が収まるまで〈食害〉を展開しながら柱にもたれ掛かっていた。

 

 それ故誰にも気付かれることなく〈断章〉が安定するまで休んでいるつもりだった。しかし〈雪の女王〉は暴発に感化されほかの〈断章〉までもが暴走していた。

 

 彼女はしっかりと自身を体が解体されていくのを認識していた。その〈断章〉の名前や〈効果〉を把握していなかったが何に使われていたかは覚えていた。それは〈葬儀屋〉と同じく猟奇的な手段で殺された、脳にこびりつくような死体を処理するために使われていた。

 

 おそらく、このまま〈断章〉が自身を処理し尽くされるのだろうが彼女は〈断章〉によって死ぬことが出来ないので落ち着くまで堪えるしかなかった。

 

 意識があるうちに解体されるなどそれほど珍しいものでもなかった、というのもある。

 

 彼女の頭にあったのは〈断章〉による恐怖と〈断章〉によって被害を出さないように気を引き締めることだけだった。

 

 〈食害〉を展開していた彼女は、まさかその悲惨な状態を見られるなど思ってもいなかったのだ。 

 

 それに加え、自身に向けて炎を向けられることを予想していなかった。

 

 動揺に、〈断章〉を刺激する炎。

 

 もし、あの時で早急火が消えなければ…。それは考えたくない現実だ。彼女が意識を失っている間に世界は混沌に堕ちていただろう。シャボン玉が弾けるように世界は破滅しただろう。

 

 …それも悪くないかも知れない。

 

 何十年と悪夢に身を削り続けた彼女は限界を迎えていた。今回がそのいい例だろう。比較的安全な〈食害〉すらも他の〈断章〉と複合して暴走した。一時的とはいえ現実を侵食して異界化したのだ。

 

 世界を巻き込んで自殺するのも悪くないかも知れない。

 

 そんな考えが過った。少なくともこんなありさまが日常なのは彼女ぐらいだろう。

 

 彼女が足を進める。すると左足から濡れた靴下のような音がした。上半分が皮膚が硬く膨らんだケロイド状になっていたおり、下半分がそれをより酷くし原型を留めていなかった。

 一歩進むと辛うじて繋がっている肉が地面に引きずられる背筋が凍る感触と引っ張れる痛みが雪乃を燃やす。

 

 ずる、ずる…ずる…

 

 「雪乃ちゃん」

 

 残骸を破壊し、ベルトサンダーで削られるような痛みに堪えながら、歩いていると声を掛けられた。

 自分のことを雪乃ちゃんなどと気安く呼ぶのは覚えている限り一名しかいない。

 

 「丁度よかったわ…蛙吹梅雨」

 

 ぎちぎちとカッターナイフを取り出し目一杯刃を伸ばす。

 

 「見えているのでしょう?この〈食害〉が。ならあなたも私と同じ溢れる〈断章(あくむ)〉を持っているということ…。よくノコノコと私の前に出て来れたわね」

 

 雪乃はすでに戦闘態勢をとっている。

 雪乃にはすでに蛙吹梅雨を殺す気でいた。彼女を見ていると憎悪と嫌悪が渦巻き、感情に歯止めが効きにくくなり、共鳴するように神狩屋の感情が露見してくる。

 

 

 神狩屋

 雪乃の死ねない〈断章〉の発現者。

 恋人を〈泡禍〉で亡くしており、誰よりも〈泡禍〉を憎んでいる、人間として欠如してしまった人魚。

 〈泡禍〉を憎んでいるというよりは神を憎んでようだが雪乃には喰い荒らされ過ぎたせいで違いの区別がつかない故、この〈泡禍〉に対する強い憎悪は神狩屋の感情だと思い込んでいる。

 

 「…見せなさい、あなたの〈断章(きず)〉を」

 

 梅雨から感じた感情はそれだったのだ。彼女が自身が気付かないほど呪い憎んでいる〈断章〉の気配だったのだ。蟲に喰い荒らされた中残った彼女の彼女だけの思い。彼女の残滓。

 

 「………私の傷は………。…………傷はあなたを置いてってしまったこと。残して……逃げたこと」

 

 「…なんの話」

 

 「あなたの顔を、もっというならあの決勝戦を見たときからずっとしこりが残っていたわ。私はあの服と炎を知っている…距離からして聞こえない筈のぎちぎちってカッターナイフの刃が押される音が耳に残ったの」

 

 雪乃は呑気に語り始めた梅雨を襲わなかった。なんの〈断章〉か見極める必要があった。そうしなければむやみに活性化させ、被害が拡大する恐れがあったからだ。〈アリス〉なら被害など気にせず相手を破滅させれるがその為には相手を理解せればならなかった。

 相手が〈断章〉を使えば話は速かった。記憶に同じものがないか探し、あるならば速攻でカタをつける。ないのならば〈雪の女王〉で焼き尽くすだけだ。その間に〈アリス〉で理解して不死身だったとしても完全に殺す。

 

 だが、雪乃の予想と違い相手はただ一人語りをしている。

 それが〈断章〉に必要なら理解できる、だが相手はただの言葉だ。〈アリス〉がそう理解した。

 

 「そして校門で見た炎と蟲が私の昔が封じた記憶を呼び起こしてくれた。体から漏れ出る炎と蟲を見てね」

 

 

 

 「昔、身を呈して私を護ってくれたお姉ちゃんだって…あの施設から私を助けてくれた紅いお姉ちゃんだって」

 

 「_____っ!?」

 

 雪乃が驚愕の表情に埋もれる。

 紅い、紅いと言った。記憶にあるそれは雪乃が自身の血に濡れていた時期……あの記録に残した最初のページ、拉致された研究所のことだ。

 

 

 

 

 …子供?

 

 それは一番最初の記録。雪乃が〈食害〉の少女のように忘れたくないことをメモし出すきっかけ。

 

 繋げる個性を負かし、そのまま破壊するように〈断章〉を撒き散らしながら歩いていた雪乃。悠々と歩いていた。慢心していると思われて奇襲した敵を屠るのが目的だった。経験上この手の輩は一名でも逃してはならない。一人逃せば数十人が、二人逃せば数百人が動く。そんなことを何回もこの身で体験してきたのだ。

 

 雪乃は本気だった。この研究所を異界化して逃さないようにするレベルには。

 

 そんな時だった。子供も啜り泣く音が蠢く蟲の足音に紛れ聞こえてきたのは。

 

 音のする方へ足を進めるとそう歳の変わらぬ…少女がいた。体を弄られ異形になったのかと思ったがどうやら元々が異形型のようだった。

 

 普段着を涙に濡らして息を殺して泣いている少女。

 

 〈食害〉を鎮めると少女の前に姿を見せる。

 

 コトっとブーツの音_ここの人達と同じ音に身を飛び上がらせ恐る恐る少女は顔を上げる。

 

 「…もう大丈夫よ」

 

 努めて優しい声色で語り掛ける。

 

 少女は雪乃にそのまま抱き着き、雪乃も振り払うようなことはせずにゆっくりと落ち着くことを願って撫でていた。土台無理な話だが少なくとも雪乃の指示には従って貰わなければ〈断章〉で命を落とすだろうことは目に見えていた。〈断章〉を抑えればいい話だが雪乃にそんな気はなかった。逃がすつもりなどないのだから。

 

 雪乃は少女のしたいことを暑苦しいかったが受け入れた。

 

 鼻を啜る音が少なったのを見計らって雪乃は少女を連れて歩きだした。

 少女は抵抗することなく雪乃の右手を握って付いてきた。

 

 そこからは記憶が虫食い状態で雪乃は覚えていない。

 

 

 

 

 不安からかギュっと雪乃の手に伝わる少女の力が強まり、

 


 

 ミチミチとふくらはぎが意思を持ったように勝手に動き出した。そして

 

 「_____っ!?!!?」

 

 左足のふくらはぎの筋肉は元々別の生物だったかのように完全に分離した。そのまま崩れるように倒れるが柔道で掴まれたように左肩から腕までがピンッと上に伸びていた。雪乃は力を入れていない。

 

 メリメリっと腕の筋肉が貼られた両面テープを剥がすように骨から引き剥がされていた。バナナの皮のように垂れ下がる筋肉、骨がバナナの身のようだった。そのまま骨だけを残して身を損壊されている悍ましい音と奥歯を噛み締める堪える音だけが鼓膜を震わしていた。

 

 残ったのは関節とその周辺だけを残し、辛うじてつながっている骨とホースのように噴き出す血。骨付き肉の食べ残しが雪乃の骨を繋ぎ留めていた。

 

 雪乃は完全に〈断章〉を扱えていなかったため激痛が彼女を蝕んでいた。未来の雪乃は〈断章〉によって痛みすら感じなくなっていたが、〈断章〉のものによっては痛みが必要であるため切り替えを出来るようにしていた。が今の雪乃にはそれが出来なかった。

 

 少女は潜んでいた敵の人質にされ、傷から噴火する激痛に悶えていた。

 

 敵は少女を左腕で締め上げ、盾にしていた。

 


 

「私を信じて」

 

 敵の腕の中で暴れていた少女は雪乃の言葉でジタバタするのを辞めた。

 

 「よっぽどこの子供が大事なんだな。ならそれ以上近づかないことだ。近づいたら体が強張って首を圧し折ってしまうかもしれないからなぁ?」

 

 敵の言葉を聞いて雪乃は

 

 ポトッ ポタッ

 

 と出血が治まりつつある鮮血を垂らしながらゆっくりと近づいて行く。

 

 「お前話を聞いていなかったのか!?こいつを殺すぞ」

 

 「やってみなさい。私はその娘を殺してでも生かして見せる」

 

 地面を汚す水滴の音が近付いてくる。ゆっくりと、焦らせるように。

 

 「…やっと安全圏内に入った」

 

 雪乃はポケットに入っていた裁ち鋏を取り出すとそれを敵に向けて

 

 ショキッ

 

 という金属の噛み合う音。

 一泊おいて

 

 バシンッ!

 

 と音を立てて敵が盾にしていた少女諸共敵の体が切断された。

 


 

 

 

 

 覚えていない記録された少女だと最早疑いようがなかった。

 

 嫌悪を感じはずだ、憎悪が渦巻くはずだ。

 

 蛙吹梅雨は正真正銘の雪乃の同属(きず)だったのだから。

 

 「あなたに助けてもらった後、大勢のヴィランが押し寄せてきたわ。あなたはそれを私が逃げ切れるまで食い止めてくれたの」

 

 この表情を見る限り、そこまではおぼえていないようだ。

 

 「私がここに来たのはあなたにお礼を言いに来たのよ…ありがとう」

 

 「…………そうあの時の少女ね。無事で良かったわ。それじゃあね。自分の身は自分で守りなさい」

 

 雪乃は一瞬だけ小さく微笑むといつもの表情に戻る。

 会話をしている間に脚は元に戻っており、あの夫婦の元へ帰ろうする。

 

 「雪乃ちゃん!私はなにがあってもあなたの味方よ」

 

 踵を返す雪乃に梅雨は叫ぶように声を上げた。

 

 「………………いつか責任を果たすまでは信じているわよ、梅雨ちゃん(・・・・・)

 

 

 

 

 すっかり暗くなった夜を雪乃は一人で歩いている。

 雪乃は時々パトロールをしていた。〈泡禍〉が起きていないかという無意味に等しい行為を続けていた。

 

 この世界に生を受け一度たりとも、雪乃が原因を除いて起きていない。その雪乃が原因となるのも雪乃が引き起こしているのではなくて、雪乃に引き起こさせようと無理矢理させられた結果である。客観的みれば雪乃は被害者だが、事情の知らない世間から見れば雪乃はヴィランであった。

 

 「久しぶりですね、雪乃さん」

 

 物思いにふけっていると常闇から男が一人雪乃に近付く。

 

 「それ以上近付けば殺すわよ」

 

 「おお怖い怖い」

 

 ピッと止まり手を上げ降参の意を示す男。

 

 「なんの用よ」

 

 不機嫌そうな雪乃。それもそのはずで雪乃はこの男が嫌いだった。

 

 「用ってほどでもないんですが、私の近況報告です。今はサポートアイテム系で働き始めまして、真っ当な生活を送れています」

 

 「そう、良かったわね」

 

 興味がないような態度だが、しっかりと相槌打ったりしてなんだかんだでちゃんと聞いていた。

 

 「給料の少しですが…どうぞ。それでは」

 

 男は雪乃に封筒を渡すと常闇に溶けるように沈んで行った。

 

 「あの夫婦の子供に梅雨ちゃん…責任は増えていくばかりね。梅雨ちゃんに関しては身を護れるのかしら…モルモットにならないといいけど」

 

 そうして彼女もまた常闇に潜っていきながら考える。

 

 私が死ねば、彼女達も死ぬのだろうか

 

 




誤字報告ありがとうございます。
感想もありがとうございます。ニヤニヤしながら読んでます。
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