断章保持者(トラウマ持ち)でもヒーローになれますか?   作:カナーさん

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 可哀想な子。
 あの子の狂気の一旦を垣間見てしまったのね。
 でもそれはあなたが招いたことなのよ。
 サーチして、それで留まっていればあの子が抑えて内に留めていた惨憺なモノを見なくてすんだのに。
 好奇心は猫を殺す。
 あなたは案山子を突っいただけのつもりなのでしょうけど触れたのは地獄の魔女窯。
 あなたはその表面を扉にこびり付いた汚れしか見ていないのよ。
 あなたはまだその染み付いた恐怖と絶叫と__〈悪夢〉を扉越しに曝されただけなのよ。

 でも無意味ではなかった。これで長年謎だったあの子の"個性"がわかったんですもの。

 代償はあなたが火葬場の葬列になることだけど。




断章保持者の血

 

 時槻雪乃の個性_"悪夢"

 抱えている悪夢を共有し、それを泡として汲み取り、意識より現実へと浮かび上がらせる。

 

 能力だけを見るなら架空の存在すら、彼女の知識にある超人、人外すらも現実に呼ぶことができる。

 

 だがそれは彼女に知識にあった強大で規格外な悪夢を彼女が知っていたため、この世界で"それ"を知覚してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうしたんですか皆さん集まって」

 

 この男に連れられるまま玩具のように引っ張られて職員室のようなこの場の大人が集まっていた所まで連行された。

 

 彼女が未だに彼の説明に納得がいってないようで私のほうから彼女の方に説明してほしいと頼まれここまで来たが…なんだ、この夏休み最終日に宿題が真っ白のような空気の重さは。

 

 「満さん…明日の強化合宿の打ち合わせをしようと思ってただけど…」

 

 「そういえばラグドールさんと虎さんがお見えにならないですね…」

 

 「虎にはラグドールの様子を見てもらっている」

 

 「…なるほど大体わかりました。いいんですよ生徒がいるからって詳しいことを避けながら話さなくとも。ラグドールさんがどうしてそうなったのか、その原因がこの生徒なんですから」

 

 こいつ…通常は私のことそういう風に言っているのか。出来ればその風体のままを維持してほしいわ。

 

 それであんたのせいで私に視線が集まっているのだけど。

 

 「そういえばどうしてもその子がここに?」

 

 「ピクシーボブの誤解を解いてもらおうと連行してきました」

 

 「半ば強制的ですね。といっても一週間近くお世話になるので、誤解はないほうがいいと思ったので今回は付いてきました」

 

 "今回は"ね。

 

 「それでその子が原因ってどういうこと?」

 

 「確かラグドールさんの個性"サーチ"は個性に関する情報も見れましたよね?なら簡単です彼女の個性を見てしまった。たったそれだけです」

 

 明らかに全員の目の色が変わった。物理的じゃなくて目に灯った思いが一気に暗くなった。

 

 「先に明言しておきますが私は彼女の個性は知らない。けれど彼女が起こしてきた超常は嫌というほど身を持って体験しました。だから断言できます。ラグドールは彼女の異常性を見てしまったっと」

 

 「私以外の可能性を考慮してくれないかしら」

 

 「私はあなたの核の一端に触れた。もしあの生徒達の中にあなた以上の逸材がいるならこの世はとっくに滅びてた…あなたならラグドールの狂気を取り除けますか雪乃さん」

 

 ここで私に振る?狂気ね…昔、"心を読む"個性の子供が私を見てしまって発狂していたけど〈食害〉で一応なんとかなった。ただその日から悪夢に魘されるいるようだったから恐らく心に欠片が残ってしまう。〈断章〉の、欠片の欠片が。

 

 「…狂気だけ、というのは無理よ。起きている時は問題ないけど一度夢に潜ってしまえば何度でも_」

 

 「出来ない訳ではないんですね?」

 

 「確証はないわ。後遺症もないけど」

 

 「ならお願いします。いいですねマンダレイ」

 

 そう言って赤い服のマンダレイの手を握る。アレは…なるほど個性と合わせれば会話できるのか私に聞こえず。

 

 …いいわ。話されて困ることなんてあり過ぎてどれを横流しされても痛くないもの。

 

 「但し、私達の目の前で行ってもらうわ」

 

 会話が抜けているからわからないけど別にいいわ。見えるのはあの男くらいなのだから。

 

 

 

 

 …なるほど言葉を発することがない上、自ら動こうとしない…失語と脱力かしら。というか私を見ても反応ないから欠落?

 

 なんでもいいか。やることは変わらない。既に記憶を食らっているけど、私も自身の情報は欲しい。なので〈名無し〉を使って一部を揉み消してみる。使い方はよくわからない。なんとなくの感覚で……………こんなものか。

 

 割と適当にやっているとズキっと下瞼の下。頬の上辺りが急に痛みだした。

 

 〈黄泉戸契〉の副作用とでもいえばいいのか自分の意思に関係なく体が勝手に作り変わっているのだ。

 以前気になった私はどうせ治るからいいやとこの突然起こった不可解な痛みを感じる部分を抉ったことがある。

 そこに埋まっていたのは小さい、BB弾のような丸いなにかと、その丸いなにかから飛び出した幼魚。

 

 思考が停止した。

 寄生虫のような埋め込まれた丸いもの。それがなにか一瞬で理解してしまった。

 

 その時は反射的に拒絶したので〈アリス〉によってそれらは一瞬で活動を停めたが、しこりのような違和感を体中から感じた。

 麻酔を射たれたような体の感覚の一部が消失した。

 

 その日は体中から丸い卵と魚の死骸を体から掘り起こしていた。

 

 傷は治るがこの孵化は月一ほどの感覚で起こる。その時期がちょうど重なったのだろう。けれどこのタイミングは悪かった。

 

 教師陣にはこの〈食害〉の蟲は見えないので、ただ彼女の頭に触れているようにしか見えてない。そんな中で急に眉をひそめたらあまりいい状態とは思えないだろう。

 

 「…これで多分大丈夫だと思います……個性の副作用で体が痛いので休ませてもらいます」

 

 なにかしら声を掛けられた気がするが聞き取る余裕はなかった。さっと部屋を出る。

 気分はリゾット戦のドッピオ。

 殻を破った魚はそのまま辺りの筋肉を喰らい、ずぶっと皮膚を喰い破りその頭を覗かせピチピチと蠢く。

 

 それを乱暴に掴み引っ張るとブチブチと中で筋肉が引っ張られ千切れる音が体内を通して聞こえた。

 恐らくまだ、他の無事な筋肉と癒着していて根のように絡み合い抜け出すの阻止していた。

 

 「…………」

 

 それでも一切加減せず辺りの筋肉や神経を巻き込みながらブチッと手の平より少し大きいサイズの魚とそれに巻き付いた自身の肉であったであろうものが絡まった網のようにゴミみたいに付いていた。

 

 それでもまだ皮膚と筋肉の間に針金を無理矢理通されたような違和感を抱きながら皆とは違う寝床に向かう。

 

 

 

 

 「恐らくラグドールさんが見たのは死亡回数や蘇生回数などの彼女に刻まれた傷の数々でしょう。

 雪乃さんの場合、個性に関する情報全てを網羅したならそれは人の皮で作った悍ましい魔導書に匹敵する。そう彼女が言ってましたし、その一端を私も体験しましたがアレは人の狂気の集約と言っても過言ではないです。ラグドールさん彼女はどういう"個性"だったんですか?」

 

 「…"悪夢"。悪夢。他人の恐怖を共有してそれを現実に顕現させる。それが例え空想の生物でも」

 

 「…なるほどやはりそういう類ですか。…相澤さん彼女が…………。…………………………!!

 ガブッ!アッグア!」

 

 「満!?」

 


 

「………なぜ私があなたに大人しく従っていたと思う?

 私は弱っている奴には優しいことは知っているだろう。昔のお前はそうだった。油断だったとはいえお前は私の同属になったのだから。私がいたせいで。お前は望んでいた力とは真逆のものを取り込んでしまった。私の責任だ。だから私は世話をしたのだ。

 何度コンクリと融合しようが。何度人体を粘土のように捏ねくり回されようが私は投げ出さなかった。お前が世間一般でいう普通の生活が送れるまで。

 

 では今のお前はどうだ?食事にありつけ、就職でき、彼女もいる。これを弱っているとは考えない。むしろ充実しているくらいだ。

 そんなお前になぜ私がまるで弱っていた頃のお前ぐらいの接客をしていると思う?

 

 

 

 

 …簡単よ。お前の意識が持つ最期の日(・・・・)くらい充実させてあげようという私の慈悲、餞別。

 言ったでしょう。私は弱い奴には優しい。今のお前にその優しさは施しようがないから前借りさせてもらったけどね。

 

 〈アンデルセンの棺〉は死体になりそうな者がいるならば問答無用で私を呼び寄せ、そこに閉じ込める。

 〈アンデルセンの棺〉は今日お前の死ぬことを教えてくれたよ。私でさえ知らなかったビンの崩壊を。生きる屍と化すお前のことを。

 

 あの時、あのタイミングは絶妙だった。部屋を出る体裁になったし、あの時でなければ私もあの部屋ごと閉じ込められていただろう。私がいる目の前で。私の話をしている目の前で。私がお前を口封じするか如く個性を使い異形にしたとな。"悪夢"ならそれも出来るだろう。そう思われて仕方のない状況だった。

 だがそうはならなかった。私はここにいる。タイミングかま良かった。お前には前々から消えて欲しいと考えていた所に。

 

 

 ……そしてお前はあろうことか私のことを喋ろうとした。お前ほど私のことを知っている者はいない。私に見殺しにする権利を与えてしまった。

 

 "雪乃"のことを知っているのはお前だけだ。

 だからお前さえ消えてくれれば_」

 

 『ゔぎのざ_』

 

 「_私の血が詰まったビンは既に破壊されている。もう救えないな」

 

 チミチミと皮膚の、人体の強度に耐え切れず体内(なか)から溢れ出す、脂と筋肉と臓器と血の混ざった河。それ泳ぐ魚の群れ。その音が屋根にいる私には響いてきた。

 

 「…悍ましいな。いつかああなると思うと昔は怖気づいたものだが…なにも感じないな。とりあえず〈食害〉の展開と屍の回収…久しぶりに〈葬儀屋〉を使うわね。

ええっとバケツと灘を準備しないと…バケツは"創造"してもらおうかしら。なにかしら理由がいるわね…それと想起しないように注意しないと。最近〈断章〉が暴走気味だからね…」

 

 

 

 その日、あの男の身体と記憶は彼女達から消え去った。

 

 

 

 

 しかしどうやってこの屍を処理しようかしら。

 運んでいる側から再生しだすからもう〈アリス〉で拒絶したいのだけど。それするとこの男の力の源である私にも影響がでるのよね。

 ただでさえ最近〈断章〉が安定していないのに安易に拒絶して暴発しないだろうか。

 

 周囲が『森』だからというのもあるけどね。

 

 ……こうなんか煙草が吸いたい気分。気を紛らわせるモノがほしい。ないな。なら適当に言葉を放てばいいか。

 

 「_心せよ亡霊を装ひて戯れなば、亡霊となるべし」

 

 どこの言葉だったか。

 

 「群青なる世界は決して朱に染まることはなかった。その輝きは蛍火のように儚い煌めき…なんの言葉…ないのかな。世界にない言葉。私だけの言葉…でも言葉すらも私のじゃないのよね。私は時槻雪乃なのだから」

 

 

 

 「本当の私はなんだ?私の好きにすればいい。私の本当の形は私しか知らない。誰も私の形を縛ってなんかいない。変われ――――変えてくれないかな。誰でもいいから__縛ってくれないかな。

 

 

 

 

 

 

 ……なにかしら姉さん。首に腕を絡めてきて」

 

 『__私に触れられるはあなただけよ雪乃』

 

 「…………?そうね。亡霊なのに体温を感じるし感触もある。霊の定義を見直したいわね」

 

 『_こうやってあなたに抱きつけるのも私だけ。実体をもたない私じゃ不服かしら』

 

 「………………えっ慰めてくれてるの?」

 

 

 

 

 次の日は肝試しが行われるまで〈名無し〉の練習も兼ねて姿を消していた。

 

 "サーチ"という個性は雪乃を相当悩ませ結局そのままでいいか、と達観して早数時間。

 

 "サーチ"の個性を持つラグドールが離れるまでずっと姿を晦ましていた。その間、誰一人として時槻雪乃の名前を口にした者はいない。〈名無し〉の能力だ。

 

 ちょうど緑谷がペアがおらず確認のためもう一度数え直しているときに彼女が姿を現したものだから彼は大声を上げて腰を抜かすほど驚いていた。

 

 「ペアがいないのなら私と組まない?」

 

 緑谷にそう提案したら葡萄頭がまた騒ぎ出したが「次の行事の時にペアをお願いするわ」と呟いたら引いてくれた。

 なお緑谷のことは意識になかった。余り者に人権がないという何処で身につけたかわからない染み付いた考えの元、行動していたからOK以外は考えてすらなかった。ウズウズというかモジモジしていたがそんな奇行はそれほど気にならなかった。

 

 「その、時槻さん。よろしければ私とペアになりませんか?」

 

 「どうしてかしら八百万さん。ペアの人が嫌いなの?」

 

 「いえそういう訳ではなく」

 

 「ならいいじゃない。私は余っていたから彼とペアを組んだの。例えそれが爆豪君や相澤先生…満でも私は一向に構わないわよ。今回は彼だったというだけ」

 

 「みつる…?」

 

 ピクシーボブがその言葉に反応した。

 

 どうやら彼女さんは引っかかってるみたいよ。流石じゃない。深い思いでもない限り〈名無し〉の影響を受けた者は違和感すら持たれず忘れられるのに…どうやら彼女は本気でお前のことを好いていたようだよ。

 

「それにあなたのペアの人が可哀想でしょ。嫌ってないならそのままが一番よ。それに言うじゃない。余り物には福があるって」

 

 

 

 梅雨ちゃんと麗日さんペアが出発して少しした後、バッと体操服をあのゴシックロリータの服に一瞬で変え、時槻さんはそのまま森へ走り出してしまった。突然のことだった。

 

 すぐ追い掛けようとするも時槻さんの姿は急に消えて見えなくなってしまい、時槻さんと入れ替わるように焦げ臭い匂いが鼻孔を擦った。

 

 そして、ピクシーボブが見えない手に引っ張られるように飛ばされ__長い夜が始まった。

 

 

 

 …感じる。悍ましい気配が動いているのを。

 …感じる。解体したあの男の同じ空気を纏っているのを。

 

 一瞬だけ木の影に〈軍勢〉の亡霊が現れた。

 ならば奴がいる。この〈軍勢〉から逃れた霧のヴィランが。そして指が指した方向は今まさに向かっている方向と一致する。

 

 いた。オールマイトのような皮膚を越しあげるような筋肉と太い腕。全身が黒く、頭には脳が覗いてしまっている。

 

 ブワッと足元から風が脳天まで突き抜けた。パサァとスカートが靡く。凍り付いた風が釘のように肌を突き刺す。懐かしい感覚。

 

 「霧のヴィランに、異界の空気を纏ったこの場所。そこに立つ明らかに人間を辞めた生物。

 

 

 

 一体何処でその遺品を見つけたっ!!

 何故私の心臓がそこにあるんだっ!!?

 

 答えろ化も_」

 

 グシャっと時槻の頭上から脳無の拳が叩きつけられ、時槻は電車に轢かれたように体が損壊した。

 

 頭はひしゃげ、体は地面と拳にサンドされ、収まりきらなかった部位は衝撃で滅茶苦茶に折れ曲がり、臓器を撒き散らし、血の臭いが熱さに膨張したように一瞬で周囲に充満した。

 

 

 

 

 

 

個性で普遍性の泡を呼び、それを個々の悪夢の形に変えていく。個性は蛇口。水が泡の原料。




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