断章保持者(トラウマ持ち)でもヒーローになれますか?   作:カナーさん

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断章保持者(トラウマ持ち)、うつつを抜かす

 

 

 …………………………。

 

 『あら、可愛らしい』

 

 いつの間にか現れた、私の使っている学校机の端に腰掛けて座っている風乃の姿。

 幻影のように体を透かせ、慈愛に満ちた様な笑みを浮かべて、それにもかかわらず産毛が逆立つような強烈で冷たい存在感を放って囁いている。

 

 『ふふ、でもだめね。この子は私のなの』

 

 風乃の視線の先には隣の席の子が行儀よく座っていたが風乃はその子を見てはなかった。

 そう。私達以外には知覚することすらできない亡霊にその言葉を向けていた。

 

 机と机の間にできる小さな通路。普段ならそこには机を中心として子供達がわらわらと集まっているような場所に、西瓜を叩き割られたように頭の割れた女の子が立っていた。

 叩き割られた影響からか目玉が漫画のように飛び出そうと盛り上がり、口などの穴から潰されたレモンのように鮮血を撒き散らしていた。割られたであろう頭はぱっくりと開き、その中身を露出させていた。

 

 「…………………………」

 

 姉さんは〈軍勢(レギオン)〉の亡霊達とこうやって、私にはわからないが会話しているように見える。

 

 クラスメイトを迎え入れようとする亡霊を抑えているっていう希望観測はしない。

 

 タイミングか…。

 

 そうなのだろう。でも…雪乃じゃない私はそんな彼女を愛おしく思ってしまう。恐怖の対象であることに変わりない。

 その姿を見ているとあの赤い光景(・・・・)を思い出してしまうことも変わらない。

 

 

 

 紅魔館と見間違えるほどの赤い床に壁にドアノブに照明。

 

 子供が虫の体を引き千切った遊んだように欠損し、壊れた二体の玩具がリビングに投げ捨てられたように、飛び散っていた。

 

 ペットボトルのポイ捨てのように鎮座する、腕時計をした腕。

 (セミ)の抜け殻のように落ちた、結婚指輪が薬指にはめられたままの指。

 服が雨に濡れたような感触の真っ赤の絨毯(じゅうたん)

 使い終わってそのまま放置されたように置かれた(のこぎり)、包丁、(はさみ)、カッターナイフ。

 

 そのどの道具にも刃が欠け、血と脂が付着しており、この解体ショーに本来の用途ではない無理な方法で使用されたことがいやでも認識させられる。

 

 極めつけは解体された者の血で描かれた壁を埋め尽くす、大きな魔法円のような図形とそれを背に座る雪乃によく似た(かお)の少女_風乃が部屋の一部のように血と脂で汚れていた。

 

 風乃語る真髄。

 

 そして

 

 ポトッと風乃の手元からこぼれた小さなマッチの火は消えることなく、その役割を十全に果たした。血に混じった灯油へ火種は落とされた。

 

 

 痛々しい彼女ではあるが…いつ途切れてしまうかわからない糸のような儚い女の子だけど、なんといえばいいのか…ほっとけない?そうほっとけないのだ。

 

 …蒼衣君の気持ちがわかる…えっまさか蒼衣君の__いや、ないよね?混ざりあった結果が私だってこと…うん。ないよ…こんな〈断章〉を抱えているのに蒼衣のいた普通(・・)の生活を送れているなんて…ねえ。

 いやまあ、〈断章〉のインパクトで薄れたり、〈断章〉に喰われたり、削られたりしているからもう過去の…いや前世か。前世の記憶はないんだよなぁ。

 

 弾丸(言魂)を打ち出して論破するゲームとか知ってるし…それ関係で洗脳されたときのグルグル目になってないよね?輪廻眼みたいなあれ。

 

 そういう知識はあるから他人であるのは確定なんだけど…じゃあ私は誰なんだろう。誰だったんだろう。

 

 教えてくれる人はいないでしょうし、この問題は忘れよう。忘れることは大得意だし〈食害〉さまさまだなぁHAHA。

 

 脳内が鬩ぎ合っているがそんなことをおくびにも見せず、あくまで平然に振る舞う。

 意識を入れ替えようとゆっくりと息を吐き出して、そこで風乃が私を見ていることに気付く。

 

 「…………なによ」

 

 『……………』

 

 風乃はなにも語らない。

 普段にしては温い悪意と狂気を含んだ笑みを浮かべて、ただ佇むだけだった。 

 

 …本当にグルグル目になってないよね?

 …いや精神的にはめっさグルグル目ですけど。

 輪廻眼も驚きの波紋を描いてますよ?

 パッチールより渦巻いていますよ?

 

 

 …そんな安心院さんみたいに座らないでよ…あのキャラクター好きだからさ…だからそんな風に教卓に座らない!好きなキャラクターと似たような動作したりしないで…なんか悲しくなるから…忘れているかも知れないキャラクターが居るかもしれないからさ…。

 

 ぶっちゃけ家族とかは完全に喰われたから一番親密な記憶がアニメなどの創作系統なんだよね。

 だからそれを侵食しないでほしい。

 絶対に似合うから。

 

 

 

 

 

 

 ガシャっという音と共に体が少し浮いた。それを縛り付けるようにシートベルトが体を押し付けて座らさせられる。

 

 …一瞬思考が止まったが瞬時にここが移動中の車の中だと把握して…急速に意識が覚醒する。

 

 ゴンッ拳を車のドアに叩きつけようとしてぶつける前に留まる。

 

 今の私には求められている自分の役割と演じなければならない職務がある。

 こんな状態で平然と寝てしまう自身の体たらくが許せなかった。何より夢うつつにほだされた、自身の油断にぐつぐつと煮えるほど腹が立った。

 

 ぎりっと噛み締める奥歯が音を立てる。

 

 「〈蘇生屋〉さん…着きましたよ」

 

 ガチャっとこちらまで男性が周ってドアを開ける。

 先程ほぐれた顔をより一層険しくさせて見つめてくる。おそらく私の顔を見て深い後悔の念にでもかられているのだろう。

 

 男性に声を掛けずに降りて、男性はドアを閉めると私を先導するように年季の入ったマンションへ歩いていく。

 

 ここはよく通っている為、わざわざ先導しなくとも良いのだが、こうでもなにかしらをしてないと落ち着かないという人はかなりいるので私は慣れっこだった。

 

 じゃないと狂乱するまで精神が安定しなかった輩が何度か居たのでこの〈蘇生屋〉を初めたと同時にそういう立場なのだと認識した。腫れ物を扱うような態度は何処も同じだがここはまだマシなのだ。

 

 顕著なのが富裕層。

 

 一例を出そう。依頼主は母親。亡くなった二人の子供の蘇生。もちろん止めようするけど、それで諦めるならそもそも依頼なんてしない。

 

 生き返らせた子供を見た母親はそれはそれは盛大な俳優なんかもびっくり来るほどの涙を流して子供のように喜んだわ。

 

 感動の再会のつかの間。用が済んだと思いそのまま帰ろうとするとその母親は、このまま娘たちの様子を見る専属になれと言ってきた。

 

 説明で定期的に様子を見なければならないと伝えていたので、赤ちゃんが産まれそうな動物の飼育員のようになれと、専属の医師になれということだった。

 

 説明の真意を知らなかったので当然といえば…当然の言葉だわ。

 

 でも私が定期的に様子を見るのはそんなちゃちな理由じゃない。

 いつその"死体"が依頼主を殺して依頼主の檻から抜け出すかを監視しているの。だから時々依頼主の様子を確認しに行っているの。"死体"の確認じゃないわ。

 

 それに考えるまでもないけど、そんなものが依頼主の手から離れてみなさい。普通のヒーローや一般人じゃ手に負えないわ。なんせ体の限界を無視して暴れるし、滅茶苦茶になっても〈葬儀屋〉の〈効果〉は継続するから簡易的な脳無ってところかしら。

 

 それを露知らない母親は様々な好待遇を引き合いに出して私を囲おうとしたけど、それでも首を縦に振らない私に、とうとう金で雇った者達で私を拉致しようとしたわ。正気じゃないわね。だって私に害を加えれば、私が娘たちをただの死体に戻すかもしれないって正気なら考え付くはずでしょう。

 

 そんな人達を〈食害〉で記憶を喰わせたのは依頼主も雇われた彼等も表の人間だったから。

 結果的に二次被害は起こらなかったから、それは正しかったと今でも思う。

 

 私に傲慢な姿勢をする輩から学んで相手の心遣いは無関心が一番だと知った。やらせたきゃやらせればいい。当初はそれが面倒だったので断っていたがその姿勢が新たな大きな面倒を呼ぶので今に落ち着いた。

 

 男性に連れられマンションが管理している花壇を通り過ぎいく。

 

 そして〈蘇生屋〉を始めるまで思い至らなかった、もう一つ学んだことがあった。

 

 花壇のどこにも花は咲いていない。私が花は嫌いだと進言したからだ。少なくともこれで〈断章〉の暴発は抑えれる。

 

 私だって嫌だわ。誕生日やお祝い事に花を贈られた人が死ぬのを目の前で見るのは。

 

 

 




皆さん、体育祭で見たい組み合わせありますか?
作者はとしては全員でも構わないのですが、これが特に見たい!というトーナメント戦があるならそちらに力を入れたいですね。
飯田と切島戦は書きやすそうと個人的に思ってます。

〈蘇生屋〉…勝手に作りました。〈葬儀屋〉は違うなと思いまして。
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