断章保持者(トラウマ持ち)でもヒーローになれますか?   作:カナーさん

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断章保持者(トラウマ持ち)、仮染めの家族

 見慣れた玄関が開かれる。

 

 全体的に古びたマンションは比較的一般家庭よりも玄関は広く、キャリーバッグが置かれていても不自由しない広さが取られていた。

 

 しんっと葬式のような静けさが玄関から室内へ入った瞬間包まれた。

 

 こげ茶のフローリングは埃はなく、最初の頃に見た傷もないことから掃除と整備はしっかりと行われていることがわかる。

 

 男性はそのままリビングへと進む。

 ぎぃとフローリングが男性と私の体重で音を立てる。そしてリビングには行かずある扉の前に立つ。

 

 その扉は歪んでいた。内側から車がぶつかったように外側へ凹み、廊下から窺うことをができていた。

 

 垣間見える中はあまりに狭いものだったが玄関と比べると杜撰だった。

 

 ひしゃげて倒れた棚。シロアリ喰われたりような床。

 それらが薄い光に照らされ、たった今"事"が起こったような緊張感を孕んでいた。

 

 けれどもそれに怯える人物はここには居ない。

 

 ___ぎぃ

 

ゆっくりとドアノブを回し、押すと軋む音を立ててゆっくりと慎重に開かれた。

 

 中は悲惨だった。

 ライオンでも放ったような抉れた傷痕がところ(せま)しと刻まれている。窓にはダンボールが貼り付けられ、壁には穴が穿たれ、クローゼットはサンドバッグにされたのか壁と同様に穴が穿たれ、枠は外れて歪みに歪みまくっていた。

 

 そして壁に打ち付けられた、大きなごつい鉤《かぎ》とそれに縛られた黄色と黒色の警戒色のロープが部屋の中心へ伸びていた。

 

 中心にポツンと座る少女へ腰を一周するようにきつく結ばれていた。

 

 少女は入ってきた私達を虚ろな表情で見上げていた。

 なんの感情も窺えないワンピースを着た人形のような死体。

 

 「今日は服は乱れてないのね」

 

 「えぇ、最近は暴れることも少なくなってきまして…」

 

 「いい傾向よ」

 

 俯きながら受け答えする男にそう告げるとバッと驚いたように顔を上げる。

 

 「…本当ですか?」

 

 ほそぼそと縋り付くようなかろうじて聞き取れるような絞り出した声。今まで私が"彼女"の状態に「そう」と済ましていたからこそ疑問を口にしたのかもしれない。

 

 「私はむやみに希望を与えたりしないわ。そうね、あと数年したら会話と行かずとも…最低でも彼女からなにかしらのアクションはしてくれるんじゃないかしら。彼女の意志でね」

 

 診ているから行ってきなさいな、と教えてやると男は慎重に開けなければならない歪んだ扉を乱暴押してリビングへ転がった。

 

 男にああ言ったのも話を円滑に進めるためとかではなく(ならしないほうが楽)、単純の彼女の状態がいいものと判断したからだ。といってもこの世界で会話が成立するとこまで到った例がないため手探りなのだが可南子さんを例にして判断している。

 

 戸塚 可南子

 〈葬儀屋〉の助手というような立場の女性。主に意思疎通が困難な〈葬儀屋〉に変わって彼女が受け答えする。ネタバレになるが彼女は"死体"だ。だがそれをあの普通をこよなく愛する蒼衣君が気づかないほど、平然と、平凡としていた。正直彼女を"死体"と見抜ける人はいないと思う。そんな彼女は最低でも五年はかかっている、と言っていた。

 彼女の場合でも数カ月に一度フラッシュバックが起きているようだった。

 

 意思疎通できる例が彼女しかおらず、他は動物のようだったり、発狂こそしていないようだったが返事が期待できなかったり、参考になるのが可南子さんしかいない。

 

 だから手探り状態が続いている。私は知識はあるが経験がない。故に制御しきれない〈断章〉もあるし___

 

「あう?」

 

 ___これが本当に良好なのか判断できない。ただ前に進めていることは確かなのだろう。

 

 息を呑むようなハッと緊張を孕んだ空気を後ろから感じる。

 後ろへ顔だけを向けるとこの少女の母親である女が口に手を当て、体はプルプルと震えているのを男に支えてもらって、口元に持ってきた手の甲に涙が伝っていく。

 

 何度も「今喋りましたよね!!?」と言おうとしているがどもってしまってい、いとかしゃ、しゃべっ、で止まっているので

 

 「喋りましたよ」と告げて私は立ち上がって扉へ向かう。それと同時両親が少女へ駆けていく。

 

 歪んだ扉をゆっくりと音をたてないように閉めて料理が並べられたリビングへ向かう。

 

 

 

 

 「…すみません。女房と一緒に出迎えなくちゃいけないのに」

 

 「気にしなくていいわ。舞い上がっているんですものしょうがないわ。それでなのだけど」

 

 「あ、あぁ…それについては話は通してあります」

 

 「ならよかったわ。よろしくね」

 

 「あぁ、あ、いえ。はい…お願いします」

 

 引き気味の男。まあ無理もない。

 

 私のお願いというのが数週間私を匿ってほしいというものなのだから。

 昔の感覚なら…そうね。有名人がお泊りにくる感じかしら。

 

 …あの霧のヴィラン共々建物事焼き払ったけれどおそらくは逃げられた。

 そしてそれが意味することはまた、私に接触してくるっということ。

 ヒーローがヴィランと関わりもっちゃ不味いでしょ…確かに最近ヒーローという職業に〈断章〉が使える、しか利点がなくて魅力を感じなくなってきた。なんならヴィランのほうが楽そう、とまで思い始めてくる始末。

 

 それでも関わりを持つならせめて私がヴィランになると決めた後にしてほしいわね。

 

 そんな訳で私の住処は特定されているものと考えてここに邪魔になることにした。

 過度に干渉しないし、姿は隠しながら通学する予定なので大丈夫だと思うが…。

 

 …黙らせるためにヴィランになるのも本格的に視野に入れようかしら。そのためにヒーローになるのもよし。そのままヒーローになるもよし、スパイとしてヴィランになるもよし。うん。これで行こう。

 

 翌日、相澤先生にヒーロー科への転入の返事をした。

 クラスはAらしい。

 …私を御せると思っているのかしら。個性がなければただの少女だと。なめられたものね。

 AとBなら確かに私でもAを選択するけど、それは私だから。奴らはおそらく"抹消"という点のみだろう。もしくは彼の人を見る目かしら。

 

 『うふふ。そんな回りくどいことなんて考えなくていいのに。そんなもの関係ないでしょう?害するものは魔女の窯に放り込めばいいのよ。自分達がなにを突いているのか思い知らしめてあげましょう?』

 

 関係ないってことだけは同意しとくわ。

 

 

 




次回からはA組に。
ヒーロー殺しとはどう関わるんだろう。
…血舐めるなよ
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