断章保持者(トラウマ持ち)でもヒーローになれますか? 作:カナーさん
編入はどうやら職業体験の後のようでまだこのクラスでやるようだ。
そうそう。指名してきた事務所は跳ね除けた。本来のヒーロー事務所なら問題なかったがそれが私のトラウマ…〈断章〉を刺激するものだったので個性の関係で無理です、と断った。
なので普通科と同じ待遇を受けると思ったのだが…どうやらそこはヒーロー科と同じ扱いだった。
で、ここどこ。
ビルのように断崖絶壁のように反り立つ建物に囲まれ、日がほとんど遮られた意図的に行動を制限するような上空から見れば実に滑稽な場所。
この感覚だとおそらくは〈アンデルセンの棺〉。どうやら上等な死体が生まれそうだから私ごと仕舞おうとしているようだ。
で、どこの路地裏よここ。
それにこのどんよりとした空k__
ピキピキッ
____えっ。
✟
その頃、緑谷達はステインと交戦中だった。
初撃の轟の氷結を回避したステインとそのまま戦闘は続行していた。だが
ピキッ
回避され標的をなくした氷はステインがいた地点より奥の場所まで届いていた。その氷から突如罅割れるような音が一つ聞こえると
ピキピキビキビキバリバリ
とそれを火切りに氷に限界を迎えたように線が走っていく。遠足で木の葉を踏み続けられるように音は途切れず、流石に両者とも動きを止めた。
それでも動きは止まろうとも氷からの亀裂音は止まらず、と思えばジェンガのように支えがなくなったように氷は崩れ去った。粉々になった氷塊がボロボロと落ちる。
それはボロボロと落ちる氷の中に氷の中から現れた。細長い樹木だ。細長い樹木が生えていた。
だがよく見るとそれは違うことがわかる。樹木の枝はまち針のように細くて、光沢もあり、何より先端が尖っていた。それは間違いなく針の樹木だった。
針の樹木が氷の中から生えていた。
針の樹木が建物の壁から毛のように生えていた。
理解すると一瞬、思考の停止した。その悍ましさに。あれが氷でなく人体なら、と。あの氷を破壊する針の枝なら容易に人体を刺すこともできるだろう。
だがそれも一瞬のこと。
物の正体はわかった。出現地も。なら次、
流石は、ヒーローの卵とヒーロー殺し。即座に復帰し情報を整理して該当する人物がいないのを突き止めると次の介入に周りへ注意を向ける。
するとコツッという小さなブーツの足音が耳に届く。
足音はゆっくりとだがこちらに近付いるのにようやく気付いた。戦闘に掻き消されていた小さな足音。
__あの位置から届くのかよ。
それは誰の呟きだったか。足音はステインの後ろの二つある路地裏の道の一つで曲がり角であるためステインにも緑谷達にも、もちろん見えない位置だ。
だが樹木が生えているのはその道からは見えない場所だった。
つまり位置の把握も出来るということだ。
轟には無理だった。伝わせ氷結させるのは他愛もないことだが、それが何一つ情報がない状態で見えない位置に正確に、というのは技術がまだなかった。
足音が大きくなる。後数歩でこの状況を作った本人が現れる。
実力は未知数。クラスメイトの可能性もあったが緑谷に今の個性に心当たりはなかった。故に敵かの判断も出来ない。
コツンッ
……………。
それは黒だった。
薄暗い路地裏よりも黒い衣装に身を包んだ少女。
少女が左腕を抑えながら、左足を引き摺るようにゆっくりとのっそりとこの場所に現れた。抑えられた左腕には見え隠れする包帯が覗いていた。
この少女をステインは知らなかったが緑谷達には覚えがあった。
「時槻さん!?」
それは緑谷達に大きな驚きと印象を残した少女だった。例年ヒーロー科同士が戦う場で決勝戦まで勝ち抜いた普通科。その美貌と周りを近付けさせない空気。そしてその衣装。黒いゴシックロリータの服。決勝戦前の試合では着用していなかったその服を見たとき会場の客と同じように唖然としたのを覚えていた。
「…………………………」
呼ばれた時槻はまるでそんな声は聞こえてないようにユラユラと幽鬼ように現れた場所から動かず佇んでいた。立地上光が少なく、さらに髪に隠れて時槻の顔色は窺えない。
とても助けに来たという雰囲気ではなかった。
だがステインにはそんなことは関係ない。
緑谷が彼女の名を呼び、それが仲間だと認識すると瞬時にナイフを時槻目掛けて投擲した。
それらは寸分違わずステインが狙った髪を掻き分け左目へと。繊維を断ちながら右足、右肩に吸い込まれるように深々と突き刺さった。
ステインはそれだけに終わらず、ナイフが刺さったことによって少し後ろへ退けずる時槻の無防備な首へその得物を滑らした。
ゴロッ
まるでボウリング玉のように地面に重い物が落ちて鈍い湿った音が緑谷達に届く。
一拍後に変化に気付いたように体が倒れる。
水の入ったバケツを倒すように玉と体から地面が真っ赤に濡れていく。
煙のように立ち昇る血の臭い。
「…………!!?」
顔見知りでもなんでもなかったが、それでも関わりがなかったとしても、知っていた人が目の前で殺された。
この事実に緑谷達は大きな動揺が巡る。
そのままステインのペースに呑まれるだろう__だがそんなことは起こらなかった。
ズルッ
直後、乾いた音を晒した頭に自身の血で真っ赤に濡れた手が磁石に吸い込まれるように伸びて、血に染まった髪を鷲掴みした。他でもない彼女自身の手だ。頭を切り落とされた時槻の、頭がない首なし体。その体から伸ばされた、地面に打ち捨てられた死体の血で染まった腕だった。
「…………………………っ!!」
誰もが目を見開いて凍りついた。触角を失った蟻のように這いずる四肢。小腸の絨毛のような突起物が切り落とされた首の断面からニュルニュルと蠢いていた。
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