断章保持者(トラウマ持ち)でもヒーローになれますか?   作:カナーさん

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次の話、一文字も書いてない…
のにこっちは進む進む。
前回より少し加えた内容となっています。ので箸休め程度にご覧ください


番外編。崩壊ほぬたはたや

 

 

 「ふふふ…くふ……ははは」

 

 唐突だった。

 午前の学校の授業中、少しばかり小腹が空いてくる時間帯。そんな中だった。私の友人である雪乃さんが唐突に笑い始めたのは。

 あの雪乃さんが抱腹絶倒したように嘲笑っていた。

 思い出し笑いのようにいきなりで更に言えばツボったのかその笑みを必死に手で抑えているが雪乃さんの意に反して口は閉ざされることはなかった。それは心霊現象のようで電源の入れてない音の鳴る玩具が突如、鳴り騒ぐ不気味さと悪寒が体をよじ登った。

 

 「ははは、あはははははは___」

 

突如として笑い始めた雪乃さんはこれまた唐突に電池の切れた玩具のように笑い止み

 

 「__〈一緒に死のうか〉」

 

 その言葉が私が最後に聞き取った雪乃さんの言葉でした。

 

 

 

 

 それは唐突だった。A組の生徒達はプレゼント・マイクの授業を受けていたときだった。

 

 それは校舎全体が揺れるような衝撃だった。

 窓ガラスは軋み、蛍光灯は瞬き、ドアは地震にあったようにガタガタとまるで誰かが鍵が閉まっているドアを無理やり抉じ開けようと力の限り引っ張っているようだった。

 

 もちろんそんな怪奇現象とも災害とも区別がつかないものに驚き怖がる者達はいたがそこヒーロー科。絶叫は誰を口にしなかった。

 

 チカチカと瞬く電灯が不安を煽る。

 なぜか昼にも満たない時刻であるはずなのに暗かった(・・・)。今日の天気予報は曇りではなくて快晴だし先程まで電気の光すらいらないほど明るかった筈なのだ。そのせいで余計電灯の瞬きの印象を強くする。

 

 この環境に非常に似た物を彼等は体験して知っていた。

 

 USJでのあの出来事に酷く似ていた。震えるほどの悪意と突発的な異常への緊張。

 体は自然と強張っていた。

 

 プレゼント・マイクはなにも出来ないでいた。いや行動は起こそうとしているのだが、それを躊躇されられていた。

 

 ガタガタと滑りが悪いのかドアが引っ張られようとも突っ掛かったようにビクともしない。

 

 それは問題であった。

 内側から誰一人として触っていない(・・・・・・)のにも関わらずドアはひとりでに開こうと模索していかのように何度も必要に蠢いていた。

 それは建物内で火災が起きたときに防災システムによって扉が閉まったのを何度も助けを求めるような殴りつけるように何度も叩いているようにこちらに気付いてもらおうとしているようだった。

 

 迂闊に動けなかった。

 

 なんせすりガラスの向こう側には誰もいない(・・・・・)のだから。

 

 ドアの動き的にそれはあり得なかった。ドアの中心であるドア同士が重なるところからギシギシと負荷のかかる音が小さく響いていた。おかしいのだ。鍵なんてかかっていないのにそんな音がするのは。

 

 時間にして数分。だがその数分はA組の生徒達にとってはとても長い緊迫した時間だった。

 

 ピタッと音が止んだ。

 

 「………………………………………………………………………………」

 

 不気味で理解不能の現象。

 音が止んだことで今度は皆の息遣いが音の割合を締めた。過呼吸気味の子、息が荒い子、深い子、様々だ。だがそれが夏の虫の大合唱のように絶えず流れ続けた。精神を摩耗され、床が傾いているようなそんな感覚。平衡感覚すら滅茶苦茶だった。

 

 さっきまでプレゼント・マイクが授業していたとは思えない空気の変質。

 白い息が見えるんじゃないかと思ってしまうほど急激に下がった温度。太陽が隠されたように明度が(かげ)った教室。

 

次の瞬間、教室内を取り巻いていた闇が、爆発的な炎に塗り潰され、塡まっていた窓ガラスの悉くは耐えきれず破裂して砕け散った。

 

 真っ赤に照らされた暗い教室に粉々になった窓ガラスが雨のように降り注ぐ…生徒達へ。

 

 

 

 

 …数人の軽傷者を出したが全員無事のA組。

 突如噴き出した炎も轟が対処し、壁に氷を這わせることでバリケードを築いていた。

 

 だが学校の防災システムが機能していないことを見るにただの気休めでしかないのだろうことは、誰もが周知だった。

 

 ガラス片が刺さった者達は八百万の個性によって創造された包帯で処置していた。酷い怪我を負った者はいなかったのでそれで充分だった。

 上鳴のような者達は個性で連絡しようとしたり、教室の外の状況を察知しようとしたり、と奮闘していたがどれもが希望になるような成果はなかった。

 

 わかったことは現在この校舎は火災が発生しているのにも関わらずシステムは起動していないことと、かれこれ数十分以上経っている筈なのに一向に救助や人の喧騒がない(・・・・・・・)のだ。なんなら野次馬やテレビ局がヘリを飛ばしていても不思議ではないのに。

 

 救助なら声を張り上げるだろうし、野次馬も聞きつけたヒーローの声が飛び交っている筈なのに。それらが一切音沙汰ないのだ。

 

 いや、音自体はあるのだ。隣のB組からのみ。

 

 それがかえって不安の煽る。

 他の組はどうなった?他のヒーロー達は?

 そんな思考が何回も振り払っても浮かんでくる。

 

 それにB組にも疑問が残る。

 どうやら足音こそあるが壁を叩いたりといった連絡をしてこないのだ。この非常時、そういった重要な生存者の確認を取らないのは可笑しい。だが居るのは確かのようだ。障子目蔵の個性で足音があるようで焦っているように歩き回っているのではなく、今のA組のように、固まって動かず体力を温存しているような感じらしい。

 

 謎が多すぎる。そもそもあの業火をどうやって防いだのか。そしてなぜアクションを起こさない?

 本当にB組は無事なのか(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 そんな思考の海に沈んでいると__

 

 

 「……………うぐっ!?」

 

 左腕の二の腕から皮膚が剥がされる様な予期しないまち針を深く刺したような痛みが走り、抑えるように(うめ)き、右手で走った箇所を咄嗟に掴んだ。

 

 そこはガラス片で傷付いて包帯を巻いた所だ。

 

 痛みを感じ箇所に、指を這わせると指にコリッ(・・・)としこりの感触。触れた塊を爪でいじると中の塊が筋肉に引っ張り、押される痛みにピクッと腕が痙攣する。

 

__な、なにがどうなっているんだ?

 

 包帯の端を掴み、スルスルと解いていく。

 周りはそんな様子を不思議そうに眺めている。焦燥にかられ、けれどもどうすることも出来ない手持ち無沙汰の者達は少なからずいた。

 

 「…………………………」

 

 腕から何かが生えていた。

 

 理解出来なかった。頭が理解することを拒んだ。

 それでも思考は異常に回転した。

 

 死骸から生える(きのこ)のように腕から緑色の葉が開いてすらない未熟な芽が生えていた。

 

 

 




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