断章保持者(トラウマ持ち)でもヒーローになれますか? 作:カナーさん
誰一人として絶叫はしなかった。
事態を飲み込めず身体が息を止めた。事態に付いて行けず肺が麻痺したように動かず、臭いと蠢く"死体"にむせそうエクッとえずいていた。
それでも"死体"は動くのをやめない。
落としたコンタクトを探しているように這いずりながらドス黒い血液を垂れ流しにしていた。だがその血は底が尽きたのか滴る音が少なくなりやがて聞こえなくなった。
違った。そうではなかった。
尽きたのではなく、絨毛のような突起が生えた断面が血を啜るように吸い取っていた。
這いずっていたのは、掃除機のように口をつけて犬のようにすすり上げていたのだ。頸の断面へ口からすするように吸い込んでいた。
無音で、ドクッと脈打ちしながら断面に吸われるときにこぽっと沸騰しているように泡立ちながら呑み込んでいた。
「……………………………………………………………………………っ!!!」
やがて蟻が虫の死骸を巣へ運んでいくように、吸い込まれていく血液に流されるように頭部がゆっくりと断面へ引かれていく。
繊維のように細い筋が絡み、みちみちと筋肉が千切れる音。絨毛のような突起が頭を捉え、引き摺り混んでいた。
突起が頭を、頭が突起を交互に引き摺り、啜り合いながら蛸のように絡み合っていく。
気づくとそこにはちょこんと地面に座り込んでいる少女が一人。
頭が落ちてからこの状態になるまで数分もかからなかった。
ゆらっと少女が身じろぐ。病床から立ち上がるように時槻がゆっくりと立ち上がった。
首に力を入れゆったりと顔を上げ、髪の間から垣間見える目を見た。
魚のような虚ろな瞳。脳無のような瞳。死んだような…瞳。
ぞわっと冷水を浴びさせられたように体に悪寒が駆けた。
死んだような瞳に血色の良くない死体のような肌。それが先程の光景に重なった。
心が悲鳴を上げた。
さっきの光景は幻でも何でもなく現実だと嫌でも認識させられる。
よろめいて現れた、まだ血色が良かった彼女。
ステインに串刺しにされ、落とされる頭。
犬のように血を啜る、悍ましい何か。
脳無のような感情を感じさせない、戻された頭。
連想が連鎖をうみ、もうグチャグチャで脳の整理が追い付いていなかった。
ただこれだけはなぜか唯一確固たる考えがあった。
なぜか戻された頭を見ても彼女が死体であるという認識が頭から離れなかった。
それが肌のせいなのか表情から感じるのかはわからなかった。
辿々しく動いている彼女を見ても頑として
そんな混乱をしている間にステインは動き出した。
個性を発動しようと刀を口に近付けてそこで一瞬止まった。明らかに不自然な挙動に全員の視線がステインに向いていた。ステインの視線は刀に向いている。そちらに向くと…なかった。
一滴や痕跡ですら形も残っていなかった。荒れに荒れギザギザと欠けている刀には一切の血液が付着していなかった。
ステインは更に付着している筈の返り血が自身に一切ないことに気付いた。首を斬ったのに、地面に拡がる鮮血を踏んだのに、どこにも汚れていなかった。
疑問、考察、把握。
その隙を彼女は見逃さない。
元々忍ばせておいたポケットの物を右手から引き摺り出すと同時にステインのいる位置にその
カツンっと何かが落ちた音がした。
✟✛
緑谷達はその後、自分達同じように倒れていたステインを発見。その時に出血が多かったため応急処置も含め轟の氷結とその辺のゴミを使い拘束。
その後無事サイドキックが到着。ひと悶着…脳無とステインに若干弄されたが警察へ引き渡すことができた。
そのまま病院へ搬送されることになった。一つの違和感を残した次の日。
「なあ、緑谷。それに飯田も。思い出したか?倒れる前の記憶を」
昨日から何度か交わされた質問。そうなのだ。飯田、緑谷、轟はステインと対峙していた記憶がある時からプツっと途切れていた。下手なカット編集のように飛ばされていた。
とはいえそこ以外ではとくに記憶の錯誤は見られず病院でも極度の緊張によるものと考えられていた。
「ごめん。なにひとつ」
「すまない。僕もなにも思い出せない」
「いや、いいんだ。俺もなにも覚えてねぇから」
ただ僕らはそんな考えは持っていなかった。
歯に挟まった野菜のように胸の奥に違和感がずっと残っていた。
警察も捜査をしているみたいだが、めぼしい成果はなかった。
この記憶を消す個性の持ち主はステインと対峙して倒した可能性が高く、また周辺に記憶に関する個性がいなかったことを考えるに新規のヴィランの可能性もあった。
ただ、なぜステインと戦ったのか、なぜ僕達は転がされているだけで放置されたのか、疑問は残るばかりだった。
✟
「あの狂人め…無駄に抵抗しやがって」
口調が荒々しい。雪乃には気遣わしくないな。でも愚痴が溢れる溢れる。
「第一あの小僧…なんで私の脚を凍らせてんの。お陰で無駄に疲れたし皮膚が剥がれるし」
冗談抜きで数日バックれてようかな…。
それでも全てが全て悪いことでもなかった。
正直な所、私は近接戦が苦手だ。針にしろ炎にしろほとんどが中距離の〈断章〉で近距離となると鋏と亡霊になんとかしてもらうしかない。
それに〈断章〉は基本、目標を定めないといけない。近距離パワー型の敵…オールマイトが一番わかりやすいか。ああいう目で追えない敵に対しては無力だ。
…まあ、目標を定めないならいくらでも方法があるがそれは(主に私の)被害が大きすぎる。
予想はしていたが、〈聖女ギヨティーヌ〉は近接戦で力を発揮するが封殺はできないかった。
〈聖女ギヨティーヌ〉
能力は単純。相手を切断する。
そのためには鋏の刃先を相手に向けなくてはならない。
ステイン戦では一発目は成功したがそれ以降は素早いので効力を発揮できなかった。近くに人間がいたのも大きかったけれど、さすが鋏を持った途端の出来事だから警戒させていたのだろう。
無闇矢鱈にこの〈断章〉を使うと
ので四人を処理しても良かったのだが、後片付けは結局私がするので面倒だったのでやめた。そうなると手段が限られるので、あの四人に刃先が向かないように注意しながらとにかく鋏を振り回してみた。
〈断章〉とは本人の悪夢。なら別に私自身が認識してなくとも私が持ってさえいればが鋏を持っていれば惨劇は作れるだろうと思い…結果は予測通りで出鱈目でも〈断章〉は効力を発揮した。
これがオールマイトレベルだとおそらく躱されていた。それでもそんなレベルはそうそういないから〈聖女ギヨティーヌ〉で今後も近接は対応しよう。私が視認できる範囲なら充分なはず。ステインのおかげで心配事がひとつ消えたのはよかった。…そこしか良くなかったけど。
…オールマイトレベルかぁ。それはもう亡霊になんとかしてもらうしかない。数発は食らう覚悟さえあれば問題はないだろう。持久戦は…肉体的には得意だ。
それよりも学校の用意をしないといけないわね。職場体験の後に教室が変わるのだから今の内に接し方を考えて置かないと。席も…名前順は面倒でしかないから後ろの空いている場所にしましょ。
…そういえばコスチュームの案を提出しないといけないだっけ?もちろんあの服なんだけど…耐熱性とかどのレベルまでなのだろう?
ただでさえ面倒なことがまさか同時期に重なるなんて…遅れた理由はそれです。
予定が合えば今週にもう一話かけるかも…(なお一文字も書いてない)。