戦姫絶唱シンフォギアDAL   作:援道未知

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 どうも。以前別アカウントで書いてたけどパスワードを無くして別アカを作ってもうずっと前から書きたいと思ってたものを投稿することにした援道未知です。

 ぶっちゃけ、ほとんど書きたいという気持ちだけで書いてます。小説を書くのも久々なので、拙い部分も多いと思われます。
 それでも良いという方は、下スクロールどうぞ!


声繋シンフォニー
名無しの少年


 それは、『いつ』の時代の話だっただろうか。

 誰の記憶にも、どの記録にも残っていない、災厄の物語。

 

 世界は、災厄に見舞われていた。

 触れるだけで人を炭に変えてしまう化け物達が、地球に現れた。

 奴らに対抗しようと、一人の女が十の力を生み出した。

 女はその十の力を、自分の息子である少年に託した。

 力を託された少年は、それまでの自分を失う代償として、人を超える力、人々を救う災厄の力を手にした。

 少年は次々と化け物達を討ち滅ぼし、やがて人々から『救世の災厄』と崇められる存在となり、化け物達を根絶した。

 

 ある日、少年の力を手に入れようと考える者達が現れた。

 彼らは少年の力を手に入れるため、少年を殺そうとした。

 少年は悲しんだ。自分が守ってきた人々とは、こんな輩達だったのかと。

 少年は選んだ。この者達に、力を奪われてはいけない。誰の記憶にも残らないよう、この力は封印しなければならないと。

 そして、力を封印するために、世界から力に関する記録を抹消した。人々の記憶にも、残らないように。

 少年も、力と共に深い眠りにつくことにした。力を常に封印しておくには、その力を扱う者も共に封印され、力の監視をしなければならなかった。

 少年は、世界に対する絶望を抱きながら、深い眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 そして、長い長い時を経て。

 

 災厄は、再び生まれた。

 

 

 

 ある日のことだった。

 タスクフォース『S.O.N.G』。世界で巻き起こる特異災害の鎮静化を目指す、国連直轄の組織。彼らはある特殊な力を用いて、日々世界の平和のために活動していた。

 とは言え、この世界は日常的に災害にさらされている訳ではない。本日の世界は至って平和で、残暑のあるポカポカとした晴れ日より。万が一に備え、職場である潜水艦で待機している彼らも、災害が起こりえない限りは平和な日々を過ごしていた。

 

 はずだった。

 

 突如、潜水艦内にけたたましいアラート音が鳴り響いた。

 

「どうした!? 何が起こった!?」

 

 潜水艦の中心部と言える発令所。そこで誰よりも高い位置で状況の解析を求めるのは、赤いシャツとネクタイ、白いズボンで逞しい筋肉質な体を包んだ大柄な男性。『S.O.N.G』の司令官、風鳴弦十郎(かざなりげんじゅうろう)

 彼の勇ましくも野太い声に最初に答えるのは、弦十郎の席よりも下にある席で状況解析を行っていた男性オペレーター、藤尭朔也(ふじたかさくや)

 

「わかりません! ですが、これは……」

 

「さっさと言う!」

 

 言い淀んだ朔也を叱咤する声が響く。その声の主は、朔也の隣の席で同じくオペレーターを勤める女性、友里(ともさと)あおい。

 

「はいぃ! ユーラシア大陸中央部の上空に、濃密なエネルギーの収束を確認!」

 

「エネルギーの収束だと!? 映像は!?」

 

「出ます!」

 

 あおいがコンソールを操作し、ユーラシア上空を映すカメラの映像をメインモニターに映し出す。

 飛び込んできた映像には、一面緑の大草原と、僅かに雲が浮かぶ青空が映っていた。一瞬、それらが持つ大自然の穏やかさに、アラートによって早鐘を打っていた心臓が鎮まりそうになる。

 だが、次の瞬間。

 草原を謎の光が波紋のように駆け抜け、青空に浮かぶ雲が渦を巻いた瞬間、全員の背筋を何かが駆けた。

 渦巻く空から、やがて何かが絞り出るように落ちてくる。それ(・・)の先端が草原に触れると、そこから黒い何かが生まれ、それは大きく、大きく膨らんでいき―――、

 

 草原を、大地を凪いでいった。

 

「こ、これは……!」

 

 画面に映る、現在進行形で起こっている超爆発に、弦十郎は驚きと困惑を隠せなかった。

 あまりに強大。現実のラインを過ぎた現象。これまでにも、『S.O.N.G』は非現実的な事態を解決してきた。

 月が破壊されようと、海中から古代遺跡が浮かび上がろうと、世界が光によって分断されようと、巨大な怪物によって街が破壊されようと。彼らは幾度となく、世界の危機を救ってきた。

 だが、今回は違う。今まではそれを巻き起こす敵がいて、それを巻き起こすために必要な準備を行っていた。その間、『S.O.N.G』も対策を考慮し、ある程度の備えができていたのだ。しかし、今回の事態は、何の前触れも、敵の存在も、手掛かりもない状況から生じた。ぶっつけ本番は何度も経験があったが、これはその経験によって拡張された許容範囲を超越している。

 故に、この映像を見ていた者達には、この事態が、かつてない脅威の前触れであると、信じざるを得ないのである。

 しかし、いつまでも固まっているほど、『S.O.N.G 』は根性無しの集まりではない。いつの間にか消えていたカメラの映像を、朔也が衛星映像に切り替えた。

 

「映像、切り替えました!」

 

「よし。爆発が収まり次第、直ちに爆心地の解析を開始しろ!」

 

「了解!」

 

 尚も爆発が続く映像を見ながら、各々が自分の仕事に専念する。伊達に災害対策本部を名乗ってはいない。どれだけ異常であろうと、その災害によって悲しむ人々がいるのであれば、その涙を拭うために行動する。それが『S.O.N.G』である。

 約一分後、黒い爆発はようやく収まり、爆風によって巻き上げられた土煙が晴れた頃、爆心地の全貌が露見した。

 そこにはもう、一分ほど前に見た大草原の姿はなかった。大地はアイスクリームを掬ったように抉られ、青空を際立たせるように煙っていた雲は爆心地を中心にほとんど吹き飛んでいた。

 心中穏やかになれない映像を見た後にも関わらず、朔也とあおいは爆心地の解析を開始した。

 映像を拡大し、ユーラシア大陸の中央に、爆発によって生まれた巨大なクレーターを検査していく。爆発のシーンはおよそ頭から見ていたが、エネルギーが収束した原因だけでもわかればめっけもの。そこから何かしら手掛かりを見つけることができるのだから。

 しばらくして、あおいが操作するコンソールの画面が、検査機が何かを探知した知らせを告げる音声が鳴る。

 

「司令! 爆心地の中心に反応が……えっ?」

 

「何だ? 爆発を引き起こしたマシンの破片でも見つかったか?」

 

「いえ……これは……人影?」

 

「何?」

 

「映像、拡大します」

 

 朔也がメインモニターに映る爆心地の映像を拡大する。人が少し高い所に立って見下ろす程度にまで拡大されると、クレーターの中心に何かがいることがわかった。

 朔也は映像の画質を上げ、中心にいる何かが鮮明に見えるようにした。そして、それの登頂部と思われる部分が、弦十郎にもわかるようになった時、彼は叫んでいた。

 

「……少年、だとォッ!?」

 

 

 

 そこには、何もなかった。

 いや、『何も』というのは語弊があった。

 俺がいた。

 元々、ここには何もなかった。

 俺はここの支配者ではない。

 俺が世界に絶望した時、勝手に逃げ込んだだけ。

 何もないというのは、寂しくもあるけれど、自分にとっては都合がよかった。

 もう誰とも関わる訳にはいかない。自分が持つ()を、知られる訳にはいかない。

 

 もう俺は、あの世界に必要ない。

 

 そう思っていた、時。

 

 ――――――――――――ッッ!!。

 

 手。

 それは、まるでこの世界から俺を引き出そうとするかのように、俺を手繰り寄せた。

 抗おうとして、でも身動きが取れなくて、俺はその手に飲まれた。

 

 ―――ダメだ! このままあの世界に出ては!

 

 俺の力は、あの世界で存在するには大きすぎた。このまま引かれるままに外に出ては、何が起きるかわからない。

 

 ―――せめて、誰もいない場所へ……!

 

 俺を掴む手に抗い、俺は自分の望む場所へ、誰もいない場所へ、誰も傷付かない場所へと、顕れた。

 

 

 

 女子高生、立花響は、下校中にヘリに乗せられた。

 文面だけを見れば、花の女子高生が何者かに誘拐されたようにしか見えないが、この展開は彼女にとって、誘拐よりも身を引き締めることを強いられるトリガーである。

 その先に待ち受ける事件に、彼女は必要な存在だから。

 

『響君! 聞こえているか!?』

 

「はい! 師匠!」

 

 携帯していた通信機から聞こえてくる弦十朗の声に、響は元気良く応える。

 

『つい先刻方、ユーラシア中央で原因不明の爆発が発生した』

 

「はい。知ってます。学校でも思いっきり大騒ぎになってました!」

 

『幸い完全な無人地帯で、死者も出なかった。しかし、その爆発が起こった中心地点に、少年のような人影を確認した』

 

「まさか、その人が……?」

 

「確証はないが、状況から見てその可能性は高い」

 

 ユーラシアで発生した爆発は、現代兵器に勝るとも劣らない破壊力を持っていた。それが自然に発生したとはまず考えられない。その仮説の上に、爆発の直後にできたクレーターの中心部に誰かがいたとなれば、その人物が爆発に何らかの形で関与しているのは、ほぼ確定していると言っても過言ではないだろう。

 

『現在、他の装者達も召集しているところだ。響君は先行して、爆心地で待機していてくれ』

 

「了解!」

 

『それから、その少年にはくれぐれも用心しろよ。未だ動きはないが、観測結果からその少年は絶大なエネルギーを有していることが判明した。一体どんな力を持っているのか、想像もつかん』

 

「大丈夫です! いざとなったらお話でもなんでもします!」

 

『フッ……。それで済むのなら、それが一番なんだろうがな』

 

 そう言い残して、弦十朗は通信は終了した。

 途中、ヘリから戦闘機に乗り換えた響は、コックピット内で悶々と考えてしまう。

 

(……もし、その男の子が、誰かを傷つける人なら……)

 

 戦うしかない。

 わかってはいても、やはり抵抗を覚えてしまう。響は元来、人と争うことを嫌う優しい少女である。これまで、戦場に身を投じることになってから、響は幾度となく人と拳を交えてきた。その結果、その者達と分かり合うこともできたし、できなかったことだってある。

 今度の相手は、今までにない相手。単純な強さの程は、今は知り得ないが、響にとっては、その少年がどのような人物であるのかという一点に考えが傾く。

 その少年と拳を交え、分かり合うことはできるのか。爆発の原因が彼ならば、どうして爆発などを起こしたのか。彼には一体どんな思惑があるのか。

 相手と争うよりも、手を取り合うことが大切な響は、少年の人物像に対する疑問で一杯であった。

 

『そろそろ目標地点に着きます!』

 

 響が学校の授業中でも滅多に使わない脳回転させていると、響の前の座席に座るパイロットから知らせが届いた。

 コックピットから外を見てみると、下は既に、響が先程まで立っていた日本の大地とは異なる地形となっていた。少し前に視線を向ければ、そこには大地が抉り取られたような跡が見える。

 あれこそ、今回発生した爆発の跡。直径にして、百メートルを越える範囲の地面が吹き飛ばされている。

 

「こんな大きな爆発が……」

 

 あまりに巨大な跡を目にした響は呆然と呟く。

 これまでの経験から、響は爆発に対する耐性が図らずも強くなっていた。しかし、いきなり何の前触れもなく発生し、こんな巨大なクレーターを目にすれば、流石に動揺してしまう。

 もし、こんなクレーターがまた生まれるようなことになれば、今度こそ誰かが命を落としかねない。それだけは、何としても防がねばならない。

 そのために、響は―――。

 

「降ります! ありがとうございました!」

 

『御武運を!』

 

 パイロットの返礼の後、戦闘機のキャノビーが開かれ、響はコックピットから身を乗り出して飛び降りた。

 そして、響は歌う。

 人々を守る力を、纏う歌を。

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

 

 空中に鳴り響く歌。

 その歌が止んだ刹那、響は光に包まれた。

 

 響の身体を、五線譜のようなベールがすり抜けていく。ベールが通った後には、響の身体をピッチリとした白、オレンジ、黒、灰色のボディスーツと黄色い宝石の欠片のようなものが纏われていた。響の全身がスーツに覆われた時、欠片はその形を鎧のパーツへと変え、ボディスーツに装着されていく。脚甲、籠手、ヘッドギアが纏われ、最後に首の装甲から一本のマフラーが伸びた。

 シンフォギア。古代の遺物『聖遺物』の欠片を用い、歌によってその真価を発揮する、『S.O.N.G』が保有する主戦力にして、世界の災害から人々を救うための力。

 そのうちの一つ。響が誰かの手を掴むための、彼女の手となる、拳の形を持った槍、『撃槍 ガングニール』。

 シンフォギアを纏った響が、クレーターの付近の大地に降り立った。

 

「近くで見ると本当に大きいなぁ⋯⋯」

 

 巨大なクレーターを前にして、響は呆然と呟いた。こんなものが人為的に起こされたのだと考えると、畏怖を感じずにはいられなかった。

 次いで、響はクレーターの中心部に目を向けた。弦十郎の話によれば、爆発を引き起こした張本人と推測される少年がいるはずである。先にその少年を見つけ、動向を確認しておきたかった。

 

「いた⋯⋯」

 

 聞いていた通り、クレーターの中心部に、それ(・・)はいた。

 最初に視界に飛び込んできたのは、およそ日本人が普通に生活していてはお目にかかれない物体。巨大な背もたれの上に、剣の柄のようなものが伸びた、玉座だった。そして、その腰掛に居座り、肘掛に肘を付き、頬杖を付いている少年こそ、今回の爆発を引き起こした張本人とされる少年で間違いなかった。

 

(⋯⋯どんな人なんだろ?)

 

 響がその少年に対して最初に抱いた疑問がそれだった。

 場違い甚だしいが、立花響はこれまで、恋愛とは無縁の人生を歩んできていた。在学する高校は中高一貫で女子校、友人は女子で埋められ、男性の知り合いと言えば年の離れた大人のみ。

 故に、響は同年代の異性の友人というものを持っていない。だからか、目の前に『少年』という代名詞が付けられる異性、つまりは自分と同年代かもしれない男性がいることに、少しばかり興味を抱いていた。

 

「…………ちょっとだけ」

 

 そして、活発な響はその興味に従って、その少年との接触を試みた。弦十朗からは用心しろと言われているのにも関わらず、やはり好奇心と乙女心を捨てきれない少女は、少年との接触を堪えることができなかったのだ。

 とはいえ、無論警戒はする。相手は巨大な爆発を引き起こした、言ってしまえば人間ではないかもしれない存在。好奇心に駆られての行動だが、響だって乙女の前に戦士。その辺りはわきまえているつもりだ。

 響はクレーターに足を踏み出し、中心に向かって少しずつ近づいて行った。

 そして、少し低めのボリュームで声を発しても伝わるだろう距離まで近づき、響は小さく声をかけた。

 

「……あのー」

 

「……………………」

 

 反応は、ない。少年の青銀色の髪は目元にかかるほど長く、表情を伺えないが、依然として頬杖を着き、時々首が上下に動く程度だった。

 

「……あれ? これって……」

 

 その時、響は親近感に似たような感覚を覚えた。

 目の前で玉座に座る少年の、時々首を上下に動かす動作が、自分に当てはまるような気がしたのだ。

 もしやと思い、響は多少の危険を覚悟しながら、少年の目元を隠す前髪を、ほんの少し掻き分けた。

 そうすることによって、少年の容貌が明らかになる。ずっと気になっていた目元が明らかになる。そう思っていた響の期待は、見事に裏切られることとなった。

 

 少年の瞼は伏せられていた。ついでに、微かに開いた唇からは、規則正しい息づかいが聞こえてきた。

 

(寝てるゥゥーーーー!!)

 

 響は口に出すところだった大声を寸でのところで抑え、脳内で叫ぶことに成功した。本人からすれば、『大声抑え大賞』なるものがあるならば、授与したい気分だった。

 一見馬鹿馬鹿しい欲求だが、考えてもみてほしい。直径数百メートルにも及ぶ爆発が発生し、その爆発を引き起こしたと思われる人物がその爆発跡の中心にいて、何事もなかったかのようにすやすやと眠っている。こんな非常識の極みのような状況を前にして、声を抑えることに成功した響が、全く称賛されないのはおかしいであろう。

 それはいいとして。

 全くの予想外な事態に、響はどうすべきか考える。

 

(これ、この人がやったように見えないよね……?)

 

 響の見解はそれだった。

 目の前で眠る少年は、見たところ異様な格好をしていた。何色も混ざっていない、透き通るような色をした硝子のような鎧、その奥に見える水色のインナー、そして、腰マントや袖口など、所々に広がる光の膜のような布。

 神秘的な格好。その代名詞であるかのような、美しさの頂点に君臨するその格好は、それを纏う少年を神のごとき存在へと至らしめていた。

 しかし、そんな格好とは裏腹に、眠っている彼から放たれている雰囲気が、こんな破壊の跡を残す存在のものとは思えなかったのだ。眠っている相手から雰囲気を感じ取れるのかどうかは知らないが、少なくとも響には、彼が好き好んで破壊を行う人物には見えなかった。

 ―――と、響がどうしたものかと足りない頭を悩ませていると。

 

「立花!」

 

 響の後方から、彼女にとって慣れ親しんだ声が聞こえてきた。

 その声が聞こえてきた方角に目を向ければ、響の予想通りの顔ぶれが揃っていた。

 一人は、先程響を呼んだ長身でスレンダーな体型の青髪の少女、青いシンフォギア『|天羽々斬〈あめのはばきり〉』を纏う風鳴翼。

 更に、赤いシンフォギア『イチイバル』を纏う銀髪の小柄な少女、雪音クリス。

 銀のシンフォギア『アガートラーム』を纏う、翼よりも更に高身長でモデル体型の女性、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 ピンクのシンフォギア『シュルシャガナ』を纏う、最年少でクリスよりも小柄なツインテールの少女、月読調。

 緑のシンフォギア『イガリマ』を纏う金髪の少女、暁切歌。

 皆、響の仲間であり、これまで幾度となく共に世界を救ってきたシンフォギア装者達。彼女達もまた、爆発の現場に馳せ参じたのだ。

 

「おい! 爆発を引き起こしたっつー悪党はどこだ!?」

 

「えーっと……ここに」

 

 クリスが普段の乱雑な口調で響に問うと、響は迷いながらも玉座で眠る少年を指差す。

 

「ちょっと響! あなた風鳴司令から用心しろって言われてないの!?」

 

「ちょっ……マリアさん! 今は大声出しちゃ……!」

 

「このバカ! 相手が男だからって興味引かれてんじゃねぇ! 彼氏いない歴イコール年齢がそんなに辛ぇのかよ!?」

 

「それは……って、だからクリスちゃん! あんまり大声出さないで! この人起きちゃうから!」

 

 響を叱責するマリアとクリス。二人の大声で少年が起きないようにと、必死に声を抑えるよう叫ぶ響。

 しかし、そんな響の努力は、火に油を注ぐ結果しか生まれない。何しろ、クリス達よりも少年の近くにいる響の声の方が、少年を起こしかねないのだから。

 そして、それは現実となる。

 

「……んぅ…………」

 

「は……っ!?」

 

 響が気付いた時には、既に手遅れであった。

 つい先程まで、玉座で静かに眠っていた少年の顔が起こされ、その瞼は開き、琥珀色の瞳が響を見つめていた。

 その琥珀色の瞳と、自分の瞳が交わった時。

 

 ―――ドクンッ!

 

「…………ッ」

 

 心臓がかつてない高鳴りを覚え、響は息を詰まらせた。

 

 ―――ドクン、ドクン、ドクンッ!

 

(……え? 何これ?)

 

 しかも、その鼓動は尚も鳴り続ける。全く未知の感覚に、響はだんだん息使いが荒くなっていった。

 だが、それを拒否しようとする感情は。

 

(何で? 苦しいのに、止まってほしいはずなのに……)

 

 響の中には、なかった。

 

(こんなに、心地良いなんて……)

 

 高鳴る鼓動を感じながら。

 響は、少年の瞳から、目が離せなかった。

 だが、やがて少年の方が、響から目を反らして辺りをキョロキョロと見渡した。

 

「あ……」

 

 その仕草に名残惜しさを感じる響。

 気が付けば、口が勝手に動いていた。

 

「あなたは……?」

 

 それは、名前を尋ねる意味を含めた問いだった。

 それが伝わったのか、少年はその物憂げで陰を帯びた表情で、再び響と向き合う。

 

「…………名前?」

 

 少年が確認するように問うてくる。響はそれに首肯するように頷いた。

 それに対し、少年は。

 

「…………そんなの、ない」

 

「…………え?」

 

 小さな、けどどこか強さを持った声で、答えた。

 

「……こっちも聞いて良いか?」

 

「え? あ……う、うん。良いけど……きゃっ!?」

 

 響の了承を得た少年は、ゆっくりと玉座から立ち上がり、響の肩を掴む。

 そして、少しばかり眠気が醒めたような表情で問うてくる。

 

「……ここは、どこだ? 爆発はどのくらいの規模だった? 巻き込まれた人は?」

 

「え、あ、あの……」

 

「響先輩!」

 

 少年のどこか鬼気迫る問いかけに、響は頬が熱くなり、おまけにたじろいでいると、後方から調の声が聞こえてきた。次の瞬間、響は何かに引っ張られるようにして、後ろに飛んで行った。

 

「あ……っ」

 

「…………っ」

 

 響と少年の距離が離れていく。思わず伸ばした手は、互いに触れ合うことが叶わないまま、戦場に鳴り渡る歌によって、二人は引き裂かれた。

 

 

 

「今ですクリスさん!」

 

「よっしゃ持ってけぇ!」

 

 調から響が回収された報告を受けたクリスは、シンフォギアの力を最大限に生かすため、歌を歌いながら、自身が纏うギアの腰アーマーを展開。その中には大量のミサイルが収納されており、クリスはそれらを余すことなく全て放った。

 

『MEGA DETH PARTY』

 

「ちょっ!? クリスちゃん待って!」

 

 響がそう言うが、既に遅い。仮にミサイルを発射するよりも先に彼女の言葉が聞こえていたとしても、クリスは止めるつもりはなかった。

 ずっと玉座に座っていた少年。しばらく動向を伺っていたクリス達だったが、少年が響の肩を掴んだ瞬間、クリス達は行動を開始した。最初に調がヨーヨーで響を回収、次にクリスがその火力で持って遠距離攻撃を見舞う。大量のミサイルは少年に飛来し、全てクリスの狙い通りに着弾し、爆発した。

 

「行くぞ! マリア、暁!」

 

「ええ!」

 

「合点デース!」

 

 続いて、翼、マリア、切歌の三人が、クリス達の歌に合わせ、少年に向かって接近する。クリスの放ったミサイルは、ただ少年を狙っただけではない。内数発は彼の足元を狙って撃ったものだ。近接戦闘に重きを置いている翼と切歌が突撃、それを中・近両方をこなせるマリアがサポートし、爆煙で少年の視界が奪われている隙に総攻撃を仕掛ける作戦だ。

 翼は自身のアームドギアである刀を、切歌は大鎌を、マリアは短剣を振るって空中に短剣型のビットを形成し構える。

 

「セイヤァ!」

 

 最初に突っ込んだのは翼。爆煙の中に身投じ、爆発する前に位置を特定していた目標に向かって刀を振るった。

 しかし。

 

「何!?」

 

 刀を振るった場所に、少年はいなかった。

 翼の狙いは完璧だった。最初のミサイルによる攻撃で少なからずダメージを負ったはずの少年は、確かにこの位置にいたはず。記憶だけに頼らず、気配も考慮した翼の狙いに狂いはなかったはずだった。

 

「どこに行った!?」

 

「翼! 上!」

 

 爆煙の外から聞こえたマリアの声に従い、翼は上を見上げた。

 そこには、傷一つ付いていない、依然その神々しい輝きを放つ鎧を纏う、少年が。

 玉座の背もたれの上に君臨していた。

 

「貴様……何故!」

 

 一体どういうことなのか。クリスの大量のミサイルによる攻撃を、全てかわしたというのか。それとも、その輝く鎧が、傷一つ残すことなく全て受け止めてみせたのか。

 そんな翼の疑問など露知らず。少年は背もたれから生えた柄のようなものを握ると、それをゆっくりと引き抜く。

 

「―――〈鏖殺公(サンダルフォン)〉」

 

 それは―――幅広の刃を持った、巨大な剣だった。

 虹のような、星のような幻想的な輝きを放つ、不思議な刃。

 

 その、あまりにも美しすぎる刃に、翼のみならず、それを目にした者全員が、見惚れてしまっていた。

 

「……光の、剣…………」

 

「違う」

 

 呆然と漏れた翼の言葉。それを、少年は切り払うように否定する。

 

「これは―――天使だ」




 どうでしたか? 誤字、脱字などがありましたら、遠慮なくご報告ください。

 それから、いくつかお知らせが。
 この小説、実は長続きしません。
 ほとんど短編みたいなものなので、五、六話程度で終わると思います。
 本当は全部書き終えてから順次投稿する予定だったのですが、ちょっと現在皆さんに後書きを使って聞きたいことがあったので、急遽第一話を投稿しました。

 その聞きたいこととは。

 今日(5月18日)に You tube にて配信された、シンフォギア四話。
 あのサムネイル、どう思いますか?
 僕は怖くて You tube をおいそれと開けなくなりました。あのサムネ、完全に選択ミスだと思う。

 それでは、次のストーリーが完成した頃に。

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