戦姫絶唱シンフォギアDAL   作:援道未知

11 / 15
 皆さん。ようやく、ようやく第一章が終わりを迎える時来ました! え? 五話くらいで完結させるんじゃなかったのかって? ハハハ、何のことごめんなさい完全に計算ミスです。

 今回はラストとエピローグに分けました。文字数多くなっただけだろとか言わないでくださいね。
 それでは、本編どう……ん? あれは……?


調律させる声

 目を開けると、空が赤かった。

 その色が、今の空本来の色でないことは、今が夕刻でないことを思い出してから気付いた。確か、今はもう夜だったはず。

 では、何故空が赤く見えるのか。

 

(……嗚呼、私は、負けたのだな……)

 

 抉れ、焼け跡の残る大地に倒れ、天を眺めながら。

 翼はぼんやりと現実を受け止めながら、再び目を閉じた。

 

 

 

 

 

「翼!」

 

 マリアは土煙が蔓延する中、地面に横たわる翼の元に急いだ。

 絶唱の使用は、装者に多大な負担を与える諸刃の剣。ただし、ギアとの適合係数が高ければ負担を軽減でき、翼はそれだけの力を持っている。

 しかし、体力が限界に達し、バイタルが低下していた翼の適合係数は、それに比例して僅かながらも低下していたかもしれない。それによってどれだけの負担が架かるかは分からないが、そもそもマリアに絶唱を使用した装者の身を案じないという選択肢はない。

 土煙が晴れ、翼の姿を視認したマリアは、彼女の元へ急いだ。

 ところが。

 

「……ッ! 『アーリーデウス』!」

 

 マリアよりも一足早く、彼が横たわる翼の側で、戦闘時にも使用していた歩兵銃の銃口を翼に向けていた。

 

「止めろぉぉおおおおおおーーーッッ!!」

 

 それを確認するや否や、マリアは叫び、僅かに回復していた体力を全て使い、地面を蹴った。シンフォギアの力と、火事場の馬鹿力とも言える何かによって強化された脚力で、マリアは二人との距離を一瞬で縮めた。

 間に合った、そう思った時。

 

「……え?」

 

 マリアの視界から、二人の姿が消えた。

『アーリーデウス』に飛びかかる勢いで跳んだマリアは、その勢いのまま地面に飛び込んだ。

 同時に、間を開けて鳴り響いた二つの銃声が、マリアの鼓膜を打った。

 

「…………あ」

 

 瞬間、地面に激突した痛みが感じられなくなった。

 ほとんど無意識に銃声が聞こえた方向、背後を見れば、ほんの二メートル先に、先程と同じ光景が見える。

 直後、その光景は、『アーリーデウス』が短銃を消したことで一変した。

 

「……あ、あぁ…………」

 

 その意味を理解したマリアの心は、激しい後悔の念に塗り潰された。

 止めるべきだった。

 翼の思いなど気に止めず、ただ彼女の命を優先すべきだった。

 あんな化け物を相手に二人で挑もうなど、考えるべきではなかったのだ。

 だが、全てが遅すぎた。彼と戦うと決めた時点で、全て手遅れだったのだ。こんなことなら、響の言葉に賛同し、対話の道を選んだ方が良かった。

 どうして、こんな道を選んでしまったのか……。

 そうやって、悔恨にうちひしがれるマリアに、

 

「……あの、大丈夫ですか?」

 

 

 

 

 

 彼女の全てを込めた剣を己の本気で斬り伏せた声繋は、未だに土煙の収まらない中をさまよっていた。

 

「おーい、大丈夫ですかー?」

 

 彼が何をしているのかというと、先程まで自分に剣を向けていた翼を探しているのだ。

 絶唱と〈最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)〉の衝突による衝撃と、それを征した〈最後の剣〉が大地を斬り裂いたことで、草原には新たなクレーターと巨大な斬り傷が刻まれていた。紛うことなき環境破壊である。

 後で元に戻すことを誓いながら、声繋は翼を発見した。が、

 

「これは……」

 

 思わず口元を手で覆ってしまう。

 発見した翼は、目と鼻と口から血を流して倒れていた。絶唱を打ち破った後、彼女に当たる直前で剣の軌道を変えた為、外傷は衝撃波によるかすり傷程度だ。しかし、顔中から血を流している状態から見るに、異常は体内にあると考えられる。

 

「―――〈囁告篇帙(ラジエル)〉」

 

〈囁告篇帙〉、顕現。全てを知る力で、彼女の身体の異常に関する情報を検索する。

 情報を閲覧し終えた声繋は、僅かに顔をしかめた。

 

「〈贋造魔女(ハニエル)〉じゃ無理、か……」

 

 翼の身体は、声繋が想像していた以上にボロボロだった。

 内臓の損傷が複雑過ぎる。単純に臓器一つの範囲で留まっていれば、〈贋造魔女〉一つで何とかなる。しかし、今の翼は内臓が連鎖的に損傷しており、医療技術のない声繋には下手に手が出せない状態だった。

 尤も、傷を治す力を持つ天使が、〈贋造魔女〉のみであればだが。

 

「仕方ない、―――〈刻々帝(ザフキエル)〉」

 

 声繋はもう一つの天使、〈刻々帝〉を顕現させた。

 短銃を握り、銃口に影が吸い込まれたと同時、翼に向けてそれを発砲―――しようとした時にマリアがこちらに向かって飛んできたので、〈封解主(ミカエル)〉で飛んできた道を戻ってもらった。

 そして、声繋は短銃の引き金を引いた。

 

四の弾(ダレット)

 

 銃声が鳴り響き、影の銃弾が翼に撃ち込まれる。しかし、銃弾を撃ち込まれた箇所には弾痕がなく、翼も撃たれたことに気が付いていないかのように横たわったままだった。

 直後、翼の身体に異変が起きる。

 顔中から流れていた血が、重力に逆らうどころか、流れた軌跡を辿るようにして翼の体内に戻り、更には僅かなかすり傷も全て消え失せ、全く傷が付いていない翼がそこに現れた。まるで、声繋との戦闘がなかったかのようである。

 

「良し。これでもう大丈夫だな。後は……」

 

 翼の身体から傷が消えたことを確認した声繋は、荒れ果てた草原に同じ銃弾を撃ち込む。草原は翼の傷と同様、昨日できたクレーターまでも消え、草花が風に揺れる穏やかな草原に戻っていた。

 

「ふう……」

 

 一息吐いて、声繋は〈刻々帝〉を消した。

 一先ず、今やらなければならないことは粗方片付いた。後は、彼女達次第である。

 

「この人、俺との約束守ってくれるかな?」

 

 翼を見て、声繋は呟く。

 思わず勢いで言ってしまったが、正直公平な条件とは言い難かった。勝てば何でも言うことを聞くという約束だったが、翼からして見れば、勝利=要求みたいなものだったはずだ。彼女にとって、この勝負はメリットが存在しなかったのではないだろうか。

 

「……ま、なるようになるか」

 

 今更考えても仕方ない。とにかく、しばらくは声繋にできることは―――

 

「あ、ヤバ!」

 

 ―――まだあった。

 先程蹴り飛ばしたマリアの無事を確かめねばならない。恐らく怪我はしていないだろうが、念のためである。

 マリアの下へ向かった声繋は、何故か項垂れているマリアが心配になって、声をかけた。

 

「……あの、大丈夫ですか?」

 

 その声に反応し、マリアは頭を上げた。途端、

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

 彼女の悲哀に満ち満ちた面を見て、声繋はより焦燥を感じた。心配になり、思わず肩を掴んでしまう。

 

「……い、嫌! イヤアアアアッ!!」

 

「……え?」

 

 拒絶の反応。それほど力を入れていなかった為、声繋の手は容易に振り払われてしまう。

 その反応に、声繋は疑問を抱かずにはいられなかった。先程まで果敢に自分に向かって挑んできたマリアが、まるで声繋がトラウマであるかのように拒絶している。

 

(……あ)

 

 と、声繋はそれだけ考えて答えにたどり着いた。

 いや、考えるまでもなかった。何故なら、マリアのこの反応は、声繋が幾度となく見てきたものなのだから。

 

(や、やっちまったぁぁああああーーーーッッ!!)

 

 声繋は己の不器用さを呪った。

 マリアがこうなってしまったのは、恐らく〈最後の剣〉で絶唱を返り討ちにしたこと、そして先程翼に〈四の弾〉を撃ち込んだことが原因だろう。

 自分達の奥の手を打ち破っただけでなく、更には仲間に止めを刺された(ように見えた)のだ。いくら彼女が戦士と言えど、心が折れる可能性は充分にある。

 

(どうするどうするどうするどうする!? 組織の人達にはこの状況が筒抜けになってるだろうから、下手すりゃ完全に危険生命体扱いされるぞ! その通りだけど!)

 

 声繋が戦闘に応じたのには、様々な理由が存在するが、主に彼女達への誠意があったからだ。

 だが、これでは完全に逆効果である。翼は殺されたように映り、マリアは心が折れてしまった。声繋の立場は、間違いなく最悪なものとなっているだろう。

 しかし、逆転の手がない訳ではない。

 

(そうだ! あの人が起きてくれれば!)

 

 それに気付いた声繋の行動は迅速だった。未だ横たわる翼の下へ戻り、彼女を抱えて直ぐ様マリアの下へとUターンする。

 

「ちょっと! お姉さん!」

 

「イヤッ! 来ないで!」

 

「良く見てください! この人生きてますから!」

 

「嘘よ! だってさっき、銃弾を撃ち込まれてたじゃない!」

 

「あれはこの人の傷を治す治療行為です!」

 

「銃弾を撃たれて傷が治る訳ないわ!」

 

(ごもっとも……ッ!)

 

 言われてみなくともその通りである。おかしいのは声繋、そして〈刻々帝(ザフキエル)〉なのである。

 

「とにかく、見るだけ見てください! ちゃんと生きてますから!」

 

 最早強引に、声繋は両腕で抱える翼をマリアに見せる。流石に観念したのか、マリアは恐る恐る翼を見た。

 そして。

 

「……いやッ! 翼ぁぁああああッ!!」

 

(あれぇッ!?)

 

 何故か、顔を覆って泣き喚くマリア。一体どうしたのかと、声繋は翼を見る。そして、原因が知れた。

 

(く、首が変な方向にィ!?)

 

 あろうことか、翼の頭は有らぬ方向へと向いていた。

 現在、翼の格好はシンフォギアが解かれ、変身前の私服に戻っていた。声繋は今しがた、私服姿の翼を抱えたまま超スピードで移動した。その時に発生した負荷に、シンフォギアを纏っていない翼の身体が耐えられなかったのだ。

 こんな状態の翼を見れば、血が流れていなくとも、今のマリアには死んでいるように見えてもおかしくない。というか、現にそうなっている。

 

(ヤバいヤバいヤバいヤバい!! 早く治さないと!)

 

 とにかく、早急に対処しなければならない。このままでは、声繋は危険生命体以前に、女性を懲らしめ泣かせる最悪漢となってしまう。

 声繋は再び〈刻々帝〉を顕現。〈四の弾〉を装填し、翼の首に銃口を突き付け発砲する。目の前でマリアが絶望的な表情を浮かべているが、この際、証拠を見せつける絶好の機会だと開き直っておく。

 

(くぅ……今日どんだけ時間使えば気が済むんだよ……。ほとんど自業自得だけど……)

 

 心中で悔いながら、声繋は回復した翼を起こそうと頬を軽く叩く。それが通じたのか、翼は僅かに瞼を開いた。

 

「うぅ……」

 

「つ、翼……?」

 

 意識を取り戻した翼を見て、マリアは信じられないものを見たような表情を浮かべる。

 

「……マ、リア?」

 

「翼……! 大丈夫なの!? 身体は……!?」

 

「……妙だ。絶唱を唄ったというのに、身体は戦う前より良好だ……」

 

 上半身だけを起こした翼は、身体の状態を確かめるように首や腕を動かして、そう呟いた。

 

「……本当に、あの銃弾のおかげなの……?」

 

「はい。〈刻々帝〉は時間を操る力。銃弾によってその効果が違うんです。さっきその人に撃ったのは、四番目の弾〈四の弾(ダレット)〉。撃った対象の時間を巻き戻す力があるんです」

 

 ここぞとばかりに説明する声繋。その甲斐あってか、回復した翼を見て、マリアは平静を取り戻したらしい。

 

「……時間?」

 

「分かりやすく言うと、身体の状態を戦う前の状態(・・・・・・)に戻したんです」

 

「…………?」

 

 まだ理解しきれていないようで、二人は首を傾げるばかりだった。しかし、どうにか落ち着いてもらえたようで、これなら話が通じそうである。

 

「……ま、良いか。ところで―――」

 

 と、そこで声繋は言葉を止めた。

 遥か上空。視界に、ある物を捉えた。

 

「……ミサイル?」

 

 それは、知る人ぞ知る爆撃兵器の代表各、ミサイルであった。

 そのミサイルは、この場所、というより声繋に向かって飛来していた。もしや、自分を狙うどこかの国か組織が寄越したのだろうかと思い、声繋は迎撃の為〈鏖殺皇(サンダルフォン)〉を顕現する。

 そのミサイルを一刀両断しようと振り上げた、その時。

 

「え?」

 

 そのミサイルの側面が開き、中から戦装束を纏った四人の少女達が飛び出した。

 

「クリスさん!? それに、黒髪の娘と金髪の娘と……響!」

 

 その四人は、声繋の知るシンフォギア装者達だった。彼女達は声繋の前に降り立つと、

 

「おいお前! あたしと手組んだ直後にこんな仕出かしやがって!」

 

「あ痛っ!?」

 

 クリスが率先して、声繋の頭をしばいた。

 

「つーかさっきの剣はなんだ!? あんなモン片手で振り上げやがって! テメーはどんだけ自分を危険物扱いさせてぇんだよ!?」

 

「す、すみません! これには色々と事情が……」

 

「問答無用だこのバカツナ!」

 

「バカツナ!?」

 

 いつの間にか作られていた明らかな蔑称に、声繋はショックを受ける。その隙に、クリスは声繋の首に腕を回して締め付ける。

 

「ちょっ、ギブギブ! 締まる締まる!」

 

「オラ! 参ったかこのバカツナ!」

 

「クリスさんヤメ、止めてマジでお願いだからーーーッ!!」

 

 世界最強の鎧と言えど、首まで守る力はない。

 それを立証して見せたのは、不器用な少年に対する仕置きであった。

 

 

 

 

 

 翼は、目の前の状況に着いて行けなかった。

 再び目が覚めれば、空の色は暗く、身体の痛みは無く、自分の後輩が自分が手も足も出なかった相手の首を締めていた。

 

「……訳が分からない」

 

「右に同じよ……」

 

 マリアも翼と同じ思いであった。最早、恐怖など忘れ去ってしまっていた。

 そんな二人に、切歌達が駆け寄ってきた。

 

「翼さん、大丈夫なんデスか!? 絶唱を唄ったデスよね!?」

 

「あ、あぁ。どういう訳か、何とも……」

 

「ほ、本当に大丈夫なの? 未だに信じられないんだけど……」

 

「治療行為までできるなんて、やっぱり声繋さんは凄い……」

 

「……まぁ、治療って訳じゃないんだけどね」

 

「……ッ」

 

 最後の呟きに、翼はやや過剰に反応する。

 

「立花……」

 

「翼さん……」

 

 対面した二人の間に、気まずい雰囲気が発生する。

 つい昨日、この二人は声繋への対処法で意見が割れ、激しい口論を交わし、仲に亀裂が生じたままである。

 翼は、自分の言葉に間違いがあったとは思っていない。それは響も同じであろう。だが、響がシンフォギアを纏ってここにいるということは、弦十郎が彼女の意見に賛同したということ。突き詰めれば、弦十郎に『アーリーデウス』を信じたいと思わせるだけの出来事があったということである。

 だからと言って、そう簡単に和解できるかと言えば、そうではない。

 翼はまだ、『アーリーデウス』を信じることができない。絶唱のバックファイアから救ってくれたと言うが、それで「はいそうですか」とはならない。翼の戦士としての矜持は、そんな単純にはできていないのだ。

 

「翼さん……でしたよね?」

 

 ―――と、気まずい雰囲気の中で思考していたところへ、彼が首をさすりながら踏み込んできた。

 

「……ほんの一日足らずで、随分と私の仲間達と親しくなったようだな」

 

 皮肉たっぷりな物言いで、翼は彼に言う。無論、そこに親しい感情などは一切存在しない。何なら、いつでもシンフォギアを纏えるようにペンダントを握っていた。

 そんな態度を気にする素振りも見せず、彼は膝を折って翼と向き合った。

 

「俺との約束、覚えていますか?」

 

「……確か、勝者の言葉に服従する、だったな。それを今果たせと?」

 

「はい」

 

 少しばかり大仰な言い回しに、彼は一切の迷いも見せずに肯定する。

 

「貴様との約束を果たす義理などない」

 

「………………」

 

「……と言いたいが、乗らなくても良い賭けに乗ったのは私だ」

 

「ッ、それじゃ……」

 

「ただし、従うかどうかは私が選ぶ。もし、私の志に反する命令であれば、私は腹を切ってでも断る」

 

「……分かりました」

 

 了承すると、『アーリーデウス』は他の装者達が見守る中、一度間を置いてから内容を述べた。

 

 

 

「響と仲直りしてください」

 

 

 

「…………は?」

 

 予想の範疇には一切存在しなかった内容を言われ、虚を突かれた翼は呆けた声を発した。

 

「響とちゃんと話し合って、お互い納得できる答えを出してください。それが、俺の願いです」

 

「……ま、待て! そもそも、何故貴様が私と立花のことを……?」

 

 危うく再び思考が着いて行けなくなりかけたところで、翼は何とかして疑問を声に出した。

 

「それは……」

 

「翼、覚えてないの?」

 

 彼が答えようとして、それをマリアが遮った。

 

「マリア、どういうことだ?」

 

「私達、ショッピングモールで彼に洗脳されて、あなたと響のことを喋らされたじゃない」

 

「何だとッ!?」

 

 マリアからもたらされた事実に、翼は驚愕する。他の装者達も同様だった。

 当の本人である『アーリーデウス』は、マリアの方を見て何かを呟いた後、再び翼に向き直った。

 

「……マリアさんの言う通り、俺はあなた達二人を洗脳して、響と翼さんが俺のことで喧嘩したことを聞き出しました」

 

「……ッ! お前……ッ!」

 

「雪音ッ!」

 

 それを聞いたクリスが憤り、彼に掴み掛かろうとする。それを翼が声を上げて制止し、彼に続きを促す。

 

「俺は、俺のせいで響がみんなと離れることになったと知って、何とかしようと思ったんです」

 

「私達と戦ったのは、あの賭けを成立させる為か?」

 

「他にも色々と理由はありますけど、一番はそれです」

 

 彼の答えを聞いて、翼はようやく得心がいった。

 戦闘中は意図的に忘れていたが、彼が何故自分達と戦うことを受け入れたのか、少し疑問だったのである。他にも、昨日は徹底して相手を無力化させる戦法を採っていたというのに、今日は避け一辺倒だったことにも納得がいく。彼が本当に響を思う故の戦闘だったとすれば、下手に攻撃を加えて負傷させる事態は避けたかったはずだ。

 だが、まだ疑問は残っている。

 

「何故だ?」

 

「……何がですか?」

 

「貴様は何故、そこまで立花の為に行動した?」

 

 彼が響を思う理由。それを知らなければ、彼の言葉を信じることはできない。

 その理由を、翼が信じられる言葉で伝えられるかどうか。

 全ては、この少年次第。

 

「……俺は、他人を信じることができません」

 

 彼は、ポツリと語り始めた。

 

「俺はずっと、この力で誰かを助けたいと思って行動してきました。けど、俺のこの力は、人助けだけで済ませるには強過ぎて、ただ怖がられるだけになっていました」

 

 語り出したのは、自身の過去。

 

「それでも助け続けました。拒絶されても良い。俺が誰とも繋がれないだけで、人の命が助かるなら、それでも良いって思えた。……けど」

 

 力強く、確かな想いが込められた言葉は、次第に力を失っていった。

 それに伴うように、彼の表情は、何かを噛みしめるように悲痛なものとなっていた。

 

「俺には、人の悪意を受け止め続ける強さなんてありませんでした。悪意に負けて、人を信じることを止めて、世界の弱さに挫けて、もう人を助けることも嫌になった俺は、絶対に許されない罪を犯す代わりに、もう二度と人を助けなくて済む方法を実行しました」

 

 それを聞いて、翼の中でまた一つ、疑問が解消された。

 昨日の戦闘時、彼は戦意を一切放っていなかった。それは自分達を格下だと思う故の、油断によるものだと思っていたが、それは違った。

 彼には元々、戦士としての心など、存在しなかったのだ。

 

「その方法って……?」

 

 調が遠慮がちに、彼に問う。他の装者達は話の腰を折るまいと不干渉を貫いていたが、彼が言う『二度と人を助けなくて済む方法』とやらが、どうしても気になったのだろう。誰も調を咎めようとはしなかった。

 彼は少し迷う素振りを見せた後、調の方を向いて答えた。

 

 

 

「……歴史を、書き換えた」

 

 

 

「…………………………え」

 

 彼の口からもたらされた真実を、誰の口から漏れ出たのか分からない小さな声が受け止めた。

 それを疑問として紡いだのは、マリアだった。

 

「……どういう、こと?」

 

「言葉通りの意味です。〈刻々帝〉の最後の弾、〈十二の弾(ユッド・ベート)〉には、撃ち抜いた対象を過去に飛ばす力があるんです」

 

 彼が語るその絶大過ぎる力に、少なくとも翼は理解が追い付かなかった。

 過去。人が歩んできた軌跡であり、決して触れることができない絶対的存在。個を示す証明のようなものであるそれは、例え認められないものが存在したとしても、どれだけそれを消し去りたいと願っても、何者も手を出すことはできない。それが、この世の絶対ルールであるから。

 それに干渉してしまえる力を、この少年は持っていると言ってのけた。

 

「過去に飛んで、俺はこの力が生まれるきっかけを消しました」

 

 皆が動揺する中、絶大な力の持ち主は冷静に続けた。

 

「そうすることで、俺も生まれなかったことになるはずでした。けど、俺の中にある力が、時間の力から俺を守ったことで、俺は消えませんでした」

 

 みんなが疑問に思うだろうと予測して言ったのだろうが、実際は誰もまだそこまで考えが及んでいない。

 

「もう二度と人と関わらない為に、俺はこの身を別世界に封印して、永遠の眠りに着きました。まぁ、起こされ(・・・・)ちゃいましたけどね」

 

 最後に冗談目かして言う彼。しかし、その目は全く笑っておらず、再び目覚めたことに対して良い感情を持っていないことを示していた。

 だが、そんな表情を見たおかげか、ようやくまともに頭が動くようになった。

 

「この世界で再び目覚めた時、初めて出会ったのが響でした」

 

 彼の独り語りは、次の段階へと移った。

 

「あなた達が俺を攻撃する中、響は俺に殺しに来た訳じゃないって言ってくれました。けど、人を信じられない俺は、適当な言い逃れをして逃げました。もちろん、二度とこの世界に現れるつもりはありませんでした」

 

「えっ!? そうだったの!?」

 

 ここで、響が意外そうな声を上げて驚いた。

 

「けど、隣界に戻った後、俺が目覚めた理由を知った俺は、再びこの世界に現れました」

 

「ちょ、ちょっと待って。もしかして、わたしに会いに来たのって……」

 

「……ごめん。実は、偶然見かけただけだったんだ」

 

「えぇっ!? じゃ、じゃあ、わたしとデートしたのは……」

 

「それは本気だ。なんか、元気がないように見えて、もしかして俺のせいなんじゃないかって思って……。気が付いたらデートしてた」

 

「お前……本当にバカツナだな……」

 

 心底呆れた様子のクリスに、彼は自虐的な苦笑しかできなかった。

 しかし、何故だろうか。ほんの少し前まで壮大な話をしていたはずなのに、僅かに場が和んだ気がする。

 

「……とまぁ、そんな訳で響とデートすることになったんですけど、俺はその中で、響の優しさを知りました」

 

 ここで、彼は初めて本当の笑顔を浮かべた。

 

「こんな得体の知れない俺と、響は物怖じせずに向き合ってくれました。最初は何か裏があるんじゃないかって思ってたんですけど、デート中に出会った響の友達を見て、響には人と繋がれる力があるんだって分かったんです」

 

 それは、翼も知っていることだった。

 いつだってそうだった。響は敵であろうともその手を伸ばし、掴んできた。ここにいる者は全員、響に手を引かれて集った仲間なのだ。

 無論、翼も。

 

「何もかも壊れた世界で、自分が再び目覚めた理由(わけ)も分からないまま触れた優しさが、俺は怖かった。

 

 けど、それでも響は俺を信じて、手を伸ばして、穴の開いた心の隙間を埋めてくれたんだ!」

 

 少年は必死に伝える。

 

「俺と同じように、あなた達が繋がれたなら、その繋がりを手放してほしくない。自分の都合で過去を変え、あなた達を洗脳した罪人の俺に、こんなことを言う資格なんてないのかもしれない」

 

 それでも、と彼は言い続ける。

 

「響の優しさを、人と繋がれる力の素晴らしさを知った以上、俺のせいであなた達の繋がりが途切れそうなのを黙って見ていることはできない!」

 

 その瞳に、確かな意思を宿らせた彼は、そう叫んだ。

 

「お願いします! どうか、響と仲直りしてください! 別に俺を受け入れてくれなくても良い! あなたの考えだって、間違ってないから!」

 

「………………」

 

「それでも、俺の存在が理由で、それができないなら、俺の首を差し出したって良い!」

 

「声繋……ッ!」

 

「だからお願いします、翼さん!」

 

 最後に目一杯頭を下げ、彼は翼に懇願した。

 神々しい鎧を纏う少年が、戦装束を纏う少女達のさに見守られる中、私服姿の少女に頭を下げている。端から見れば、何とも奇妙な光景として映るだろう。

 だが、頭を下げる本人は、間違いなく真剣で、本気だった。

 それに対し、翼は、

 

「――― Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 シンフォギアを纏うという形で、答えた。

 

「……ッ! 翼さん!」

 

 それの意味を察した響が、二人の間に割り込む。

 

「聞いてください! 声繋とデートしてたのは本当です! 翼さん達が追いかけてた声繋は、声繋が作り出した分身だったんです!」

 

「………………」

 

「ショッピングモールの火災も、声繋のせいじゃないんです! 声繋はわたしのことも、他のお客さんのことも全員助けて……!」

 

「立花」

 

 響の必死の懇願を、翼は刀を二本取り出し、一本を地面に突き刺すことで遮った。

 緊張が漂う。いつその刃を声繋に向けるか分からない中、響はただ待ち構えることしかできない。マリアを除く他の装者達も、各々のアームドギアを構えていた。

 やがて、その場を支配する静寂を―――、

 

 

 

「…………すまなかった」

 

 ―――翼の静かな謝罪の言葉と、地面に突き刺した刀を斬る音が、斬り裂いた。

 

 

 

「……え?」

 

 その行為に、誰もが目を奪われた。翼の謝罪を耳にした彼も、意外そうに翼を見ている。

 

「今斬ったのは、私がお前に抱いていた憎悪と、立花との間にあったいざこざだ」

 

 言い終えると、翼はシンフォギアを解く。それを見た他の装者達も、必要ないとばかりにシンフォギアを解いた。

 彼の―――声繋の言葉は、翼に届いたのだ。

 

「翼さん……」

 

「すまなかったな、立花。お前の言う通り、彼は人に危害を与える者ではなかった」

 

「そんな……ッ。わたしの方こそ、翼さんに失礼なこと言って……」

 

「気にするな。お前の気持ちを思えば、正直微笑ましいものだったからな」

 

「え……?」

 

 翼の言葉に今一つ理解が及んでいない様子の響。そんな彼女もまた、微笑ましいものだと思った翼は、今度はマリアに向き直る。

 

「マリアも、これで良いか?」

 

「ええ。あんなの見せられて、まだ戦おうなんて気は起きないわ。……まぁ、私達を洗脳したことと、私に恥をかかせたことに対する落とし前は付けてもらうけど」

 

「……そうだな。おい、分かっ―――」

 

 声繋に確認を取ろうと振り返った翼は、そこで言葉を止めさせられた。

 翼の視線の先で、鎧を解いた声繋が地面に突っ伏していたからだ。

 

「声繋……ッ!?」

 

「おい! どうしたバカツナ!?」

 

「声繋さん!?」

 

 突如として倒れた声繋に、響達が心配そうに呼び掛ける。

 

「……良かった」

 

「え?」

 

「良かった……っ、響と翼さんが仲直りできて……っ」

 

「…………」

 

 地面に顔を擦り付けながら、声繋は心底安心したように呟いていた。

 ずっと、責任を感じていたのだろう。響と翼の繋がりを壊してしまったことを知り、それをどうにかしようと不本意な戦闘まで行ったのだ。

 戦闘中に置いても、悪役であるかのように振る舞い、数々の攻撃が襲い来る中、翼とマリアに傷を負わせないように応じ、最後の大技同士の激突でも、翼に当たらないように剣の軌道を逸らすなど。終ぞ顔には出さなかったが、如何に強大な力を持っていようとも、戦士ではない彼は相当に精神を磨り減らしたはずだ。

 彼には、労いが必要である。

 

「立花」

 

「翼さん……?」

 

 しかし、それは翼の役目ではない。

 

「私達の、特に貴女の為に、彼は本当に頑張ったわ。それを労ってあげられるのは、貴女よ」

 

「……はい」

 

 翼の本心からの言葉に、響は静かに頷き、声繋の下へと歩んで行った。




セレナ「シンフォギアDAL、如何でしたか? 遂に第一章も大詰めですね。後はエピローグを残すのみ。そしてこのキャラトークも次で最後です。そんな訳で、ラスト前の担当を勤めるのは私、セレナ・カデンツァヴナ・イヴと……」

狂三「きひひ。時崎狂三ですわ。最後の前に(わたくし)を選ぶとは、作者さんも随分勿体付けますわね。これでも原作では人気トップですのに」

セレナ「確か、デートからは封印された順番に登場するシステムでしたよね? 狂三さんは最後に封印された精霊さんだとか」

狂三「ええ、まぁ。もっとも、今の私は封印前の状態ですので、左目はこの通り」

セレナ「わぁ……! 本当に金色の時計なんですね! 格好良いです!」

狂三「うふふ。照れますわね。ところで、セレナさんは原作では故人と伺っておりますが……」

セレナ「あはは……そうなんです。二期が始まってすぐに絶唱を歌って、絶唱顔で死にました」

狂三「それはまぁ、災難でしたわね……。私、人の死は数えきれないほど見てきたつもりですけど、あんな顔で死ぬ方は初めて見ましたわ」

セレナ「あ、あはは……」

狂三「……あら、今日はせっかくの記念日だと言うのに、縁起でもない話をしてしまいましたわね」

セレナ「あっ! そうだった! すみません、私もう行かないと……」

狂三「ええ。名残惜しいですけど、いずれまたゆっくりとお話しましょう、セレナさん」

セレナ「はい! 狂三さん、また!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。