戦姫絶唱シンフォギアDAL   作:援道未知

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 お待たせしました。第三話です。
 今回もまた、翼達に嫌な役を押し付けてしまいました。でも仕方ないよね。だってあの娘防人なんだもの。

 で、一つ思ったのですが。

 この小説のオリ主、あんまり主人公らしいことしてない。


君の名前は……

「我々はあの少年、識別名『アーリーデウス』を討伐する」

 

 潜水艇に戻ってきた六人に告げられたのは。

 かつてないほどに緊迫した、弦十朗の命令だった。

 

「……冗談ですよね? あの人を討伐って……」

 

「冗談なものか。これは先程、各国首脳と話し合い、満場一致で決定したことだ。もう覆すことはできん」

 

「……ちょっと、待ってください」

 

 震える声で、響が言う。

 

「わたしは、あの人とお話しようって約束したんです……」

 

「せっかく交渉の機会を持ち帰って来てくれたところすまないが、その約束はなかったことにしてくれないか?」

 

「どうして―――」

 

「そりゃそうだろ」

 

 弦十朗に詰め寄ろうとする響を、クリスが遮る。

 

「あたしらが一方的にやられる相手だぞ。今までどんな相手だって倒してきたシンフォギアが、全く通用しなかった。こんなの、どう考えてもおかしいだろ!」

 

 クリスの言葉は、驕りなどではない。

 シンフォギア。聖遺物の欠片の力を歌によって増幅し、鎧として纏うことで、人に超常的力を与える最強の武器。

 これまで、幾度となく世界を救ってきたシンフォギアが、手も足も出なかった。

 この事実は、シンフォギアを扱う装者達のみならず、それによって救われてきた人々にとっても、楽観視していられることではないのだ。

 

「クリス君の言う通りだ。今しがた完敗してきた君達には酷かもしれないが、現状最も戦闘能力が高いシンフォギアでしか、アーリーデウスには太刀打ちできないだろう」

 

「ですが、彼の戦力はある程度把握できています。

 天羽々斬に匹敵する剣、サンダルフォン。

 対象を凍り付かせるほどの冷気を放つ兎の人形、ザドキエル。

 撃った対象の動きを封じる銃、ザフキエル。

 そして、傷を回復する炎、カマエル。

 これら四つの武器を攻略できれば、勝利の糸口は見えてくるはずです」

 

「いずれも強力な力を秘めていることは確かだが、弱点がないということはないはずだ。そこをお前達の全力で突けば、あるいは……」

 

「私達は負けません。これまでも、勝てないかもしれないと考えた相手に勝利してきました」

 

「さっきは煮え湯を飲まされたけど、次こそは……!」

 

「……ふっ。良い心がけだ。では、早速対策会議と行くとするか」

 

『『『はい!』』』

 

「…………」

 

 皆が、少年―――『アーリーデウス』との戦いに乗り気になっている。

 世界に破壊をもたらす怪物と戦う。自分達の守りたいものの為に。

 それが、今彼女達が掲げるべき目標なのだ。

 

「…………どうして」

 

 その中で一人。

 立花響だけが、それを持とうとしなかった。

 

「みんな、どうしてわからないの!?」

 

 気が付けば叫んでいた。

『アーリーデウス』と戦う準備を始めようとしていた装者達が、一斉に響の方を向く。

 

「あの人は、危険な存在なんかじゃない! わたしの言葉を聞いてくれて、わたしを守ってくれて、わたしと次に合う約束までしてくれたのに! みんなに怪我を負わせるつもりもなかったのに! アームドギアだけを破壊して、戦闘力を削ぐことだけを考えてたのに!

 なのにどうして、あの人を殺そうとか考えるんですか!?」

 

 響の声は、明らかに怒声と取れる音量を持っていた。

 事実として、響には自分が皆に対して、本気で怒りをぶつけている自覚があった。それは一重に、今のS.O.N.Gのやり方に疑問を抱いてのことである。

 S.O.N.Gはこれまで、様々な敵と戦ってきた。

 超先史文明期の巫女フィーネ。

 武装テロ組織「フィーネ」。

 錬金術士キャロル・マールス・ディーンハイム。

 錬金術士組織、「パヴァリア光明結社」。

 いずれの敵や組織の構成員も、異質な存在であろうとも人間に違いはなかった。それでも戦ってこられたのは、守りたいものがあり、相手にも譲れないものがあったからだ。

 だが、アーリーデウス―――あの少年は違う。ほんの少し、言葉を交わした程度でも、これだけは響に理解できた。

 彼には最初、響達と戦う理由がなかった。彼が装者達と戦ったのは、目覚めて間もなく装者達から攻撃を受けたせい。自己防衛の為だった。しかもその戦闘では、装者達を直接狙わず、アームドギアを破壊するだけに止めていた。あの爆発も、彼が起こしたものだと証明できるものは少ない。爆発の中心部分にいたからと言って、装者達が駆け付けるまで眠っていた彼に、あの爆発を発生させることができただろうか。

 これだけ揃えば、彼が危険分子と断定されるのは早計だ。例え、どんなに強大な力を持っていようとも、本人に悪用する意思がないのであれば、少なくとも討伐対象にされる謂れはないはずだ。

 しかし、人類を護る防人は、そんな響の意思を真っ向から否定した。

 

「確証はない! アームドギアだけを破壊したのは、彼が目覚めて間もなく、存分に力を発揮できなかったからという可能性もある!」

 

「じゃあ、どうしてあの人はわたしのことを助けてくれたんですか!? 倒すことはできなくても、見捨てることはできたはずですよね!?」

 

「それは、お前を落とし込むための手段だ! 自分は味方だと思い込ませ、お前からこちらの情報を聞き出すための!」

 

「そんなの、翼さんが悪いように捉え過ぎているだけです! 翼さんだって、あの人と刃を交えたんですよね? あの人の剣からは、何も感じなかったんですか!?」

 

「それは……ッ!」

 

 響の言葉に、翼は一瞬息を詰まらせる。

 確かに、翼はあの少年と刃を交えた。そして感じた、違和感を。

 あの違和感の正体が何だったのか、翼にもわかっていない。だが、何故か感じていたくなかった。あれを感じ続けていては、自分がどうにかなってしまいそうだった。

 だから、翼は彼を拒絶した。

 剣として鍛えた自分を、見失わないように。

 

「……感じたさ」

 

「なら―――」

 

「私という存在を塗り潰すかのような、おぞましいものをな」

 

「…………ッ!」

 

 翼の、獲物を仕留める狩人のような瞳と共に放たれた言葉は、響を絶句させた。

 

「『アーリーデウス』から感じた『何か』は、剣としての私を否定するもの。つまり奴は、私を戦士とすら思っていなかったということだ! 私にとって、屈辱以外の何物でもない!」

 

「……な、なんで…………」

 

 響は訳がわからなかった。

 どうして、翼はそのように捉えるのか。どうして、少年から感じた『何か』の正体を、自分にとって都合の悪い方向へと解釈してしまうのか。

 戦士だから? 敵かもしれない相手の行動を、都合良く捉える訳にはいかないから?

 

「……いで……さい」

 

 だとしたら、そんなのは翼の都合でしかない。翼が言っているのは、自分はこうだからという理由で、相手の存在を否定するということに他ならない。

 そんなことを、認める訳にはいかなかった。

 

「ふざけないでくださいッ!!」

 

 激情。

 あまりの理不尽を前にした響が、仲間に向けた感情がそれだった。

 

「そんなッ、自分達の勝手な都合で、相手のことなんて何も知らないのに、あの人は危険だって決め付けるなんて間違ってます!」

 

「甘ったれるな! 立花、お前はこれまでどれだけの戦場を駆け抜けてきた!? 今更そんな言葉が通用すると思うな!」

 

「だけど……ッ!」

 

「いい加減にしろッ!!」

 

 二人の論争が加速する中、その加速を止めたのは、弦十朗の野太い一喝だった。

 

「二人共頭を冷やせ! 怒鳴り合うだけでは、結論は得られんぞ!」

 

「「…………」」

 

 弦十朗に怒鳴られ、押し黙る二人。

 一喝した弦十朗は、一息吐いてから、冷静な声で、

 

「……響君、きみが『アーリーデウス』と戦うことを望んでいないのはわかった」

 

「じゃあ……」

 

 自分の意思を汲み取ってくれたのか。

 そう思った響の心は、次の瞬間地の底にまで叩き落とされた。

 

「君は、今回の事件に関与することを禁ずる」

 

 

 

 

 まさか、封印が解かれるなんて……。

 もう、俺はあの世界にいたくなかったのに。いてはならなかったのに。

 何が原因だ? あの世界で俺のことを知っている奴なんていないはず。俺を狙っていた奴らも、もう生きていないはず。

 ―――教えてくれ、―――〈囁告篇帙(ラジエル)〉。

 何があったのか、今すぐ『識る』必要がある。

 彼女達の為にも。

 

 

 

 

 

 翌日。

 昨日、学校帰りにヘリに乗せられた響は、制服姿で街中を歩いていた。今日は土曜日、つまり休日なので、制服姿の彼女は街中では少しばかり異質な存在となっている。

 特に行く宛てはない。普段なら親友と一緒に出かけているところだが、心ここにあらずの状態だった響は、何も考えずに外に出ていた。

 

「…………はぁ……」

 

 力なくため息を吐く。何もできず、ただこうして歩いているだけの自分に嫌気がさして。

 

『今回の事件に関与することを禁ずる』

 

 昨日、弦十朗から告げられた言葉が、今も響の脳裏に響いている。自分に戦い方を教えてくれた恩師から告げられた、突き放すような言葉が、響の心を苦しめていた。

 あの後、響は作戦に参加できなくなったことで、S.O.N.Gから支給されていた品を全て返却することとなった。無論、ガングニールも例外ではない。響と共に戦場を駆けてきた相棒は、今は響の手元にない。つまり、およそ一年と半年ぶりに、響は完全に普通の女子高生として存在していたのである。

 だからといって、響の胸中は雨雲が燻っていることに変わりはない。既に、戦士としての自分が板に貼り付いていた響にとって、この状況で普通の女子高生らしいことをしようという気は起きず、ただ無駄に時間を食い潰しているだけ。世界が再び危機に陥るかも知れないこの状況で、何もできないことに歯痒さを感じているだけであった。

 そして、あの少年とも会えない。

 その事実を自覚した時、響の胸に得体の知れない痛みが走った。

 

(……わたし、どうしちゃったんだろう……?)

 

 痛む胸を押さえながら、響は考える。

 あの少年と会えなくなるだけで、こんなにも苦しくなるものなのだろうか? 

 昨日会ったばかりの、自分と同い年くらいの少年。

 接点など殆どない。強いて言えば、最初は眠っていたところに偶然居合わせ、彼が目覚めて最初に出会った人物に自分がなって、彼にいくつか質問をされて、彼の圧倒的な戦いぶりを見て、彼に「殺しに来たんだろ?」と剣を向けられながら問われて、「そんなわけない」と自分が答えて、味方の攻撃から守ってもらって、話をしようと約束をした程度だ。

 事細かに並べてみれば、意外と多くの思い出がある気がするが、親友や仲間との付き合いには遠く及ばないのは確かだ。

 なのに、どうしてこんなにも、彼の存在を欲しているのか。

 

「はぁ……」

 

 またため息が漏れる。

 考えても答えは得られない。元より、響はそんなに頭の出来がよくない。ましてや、今までろくに考えなかった同年代の少年についてなど、わかる訳もなかった。

 

「翼さん達はあの人と戦うつもりだったし……」

 

 各国首脳が決定し、『アーリーデウス』の危険性を目の当たりにした以上、響を除く装者達が彼に敵対心を抱くのは当たり前だ。そして、昨日彼が言った言葉。

 

『お前も俺を殺しに来たんだろ? だから、殺されないように戦った』

 

 それは、自分に敵意を持つ者と戦うことを躊躇わない、ということを意味しているのだろう。再び翼達が彼に攻撃を仕掛ければ、彼は圧倒的な力で持って戦うことだろう。彼は装者達に怪我を負わせるつもりはないだろうが、あまりしつこく戦い続ければ、どうなることかわかったものではない。ただでさえ力量差が違い過ぎているというのに、彼が本気になる姿など想像もしたくない。

 更に言えば、現在、響とS.O.N.Gの間には、小さくない溝が生まれてしまっている。

 昨日、翼と仲違いとも言える口論の後に、弦十朗からの突き放すような命令。互いに譲れないものがあるが故に、この不協和音状態が生まれてしまったのだ。

 要するに、現在の状況は響にとって、最悪の一歩手前の最悪も最悪だった。

 

「……私、どうしたら…………」

 

「どうしたらって、俺と話をするんじゃなかったのか?」

 

「そうだけど、わたしはあの人と関われないし……」

 

「じゃあ、俺から関わるのは良いってことか」

 

「そういう問題じゃ………………え?」

 

 いつの間にか、自分の独り言に誰かが受け答えをしていること気付いた響。

 声が聞こえた方に振り向く。そこには、下はチノパン、上は青いTシャツの上にグレーのパーカーを着た、青銀色の髪と琥珀色の瞳を持つ少年が立っていた。

 格好こそ違うが、間違いなかった。

 その少年こそ、先日、ユーラシア大陸中央で発生した爆発を引き起こした容疑をかけられ、シンフォギアを圧倒する力を持つ少年、識別名『アーリーデウス』本人であった。

 

「よっ、昨日ぶりだな」

 

「……え、ええええええええーーーーッッ!!??」

 

「うおっ!? そ、そんなに驚くか!? いくらなんでもオーバーリアクションだろ!」

 

「いやいやいやいや! これ結構普通だと思うよ!? だって、昨日あんなことした人が普通の格好して普通に街中を歩いてるんだよ!?」

 

「うっ……! た、確かに、言われてみれば……」

 

 響に言われて初めて気付いたのか、やってしまったと言わんばかりの表情を浮かべるアーリーデウス。彼の知らないところだが、響に言われて気付いたことが彼女の知人に知られた場合、かなりバカにされることだろう。

 

「て言うか、なんで君がここにいるの!? 昨日消えた後どうしたの!? その服はどうやって手に入れたの!?」

 

「いっぺんに聞くな! ちゃんと説明するから!」

 

 掴みかかりそうな勢いで吹き荒れる質問の嵐。これだけで、響がどれだけ動揺しているのか理解できる。

 説明を開始しようとした少年だが、街中ではまずいということで、二人は場所を移すことにした。

 響の案内でやって来たのは、響が通う私立リディアン音楽院の校舎付近にある路地裏。今は休日の昼前ということで、人通りも少なく、デリケートな話をするにはうってつけの場所である。……響本人は、明るい場所が良かったらしいが。

 

「……それじゃ、答えた方が良いやつから答えるぞ」

 

「うん……」

 

 それから、彼の説明が始まった。

 まずは、彼の格好の説明から始まった。

 彼が今着ている服は、彼の力である霊力(れいりょく)で形成したものらしく、適当に目にした物を模倣したという。

 次に、昨日の後のこと。

 

「俺は、この世界とは違う世界、隣界に戻ったんだ」

 

「違う世界……そんなのがあるんだ」

 

「何もないところだけどな。まぁ、そのおかげで、俺は力を封印しておくことができたんだけど」

 

「封印……? なんでそんなことを?」

 

「…………」

 

 響が問うと、少年は複雑そうな、何かを嘆くような、悲痛な表情を浮かべた。

 響は覚えている。それは、昨日翼達と戦った彼が浮かべていた、響も知っている表情だ。

 その表情を見て、響は慌てて謝罪する。

 

「ご、ごめん。聞いてほしくないことなんだよね……?」

 

「あぁ、いや……。ごめん、話せる時に話すってことで良いか……?」

 

「う、うん。もちろん」

 

「ありがとな。……で、なんでまたこっちの世界に来たのかというと……」

 

「というと……?」

 

「……ん」

 

「……ん?」

 

 答えを言うのかと思いきや、少年は響を指差した。

 

「……わたし?」

 

「そう。昨日、言っただろ? こっちの準備ができたら迎えに行くって」

 

「……え」

 

「俺の準備は、この世界で出歩くための服装を整えること。それができたから、きみを迎えに来たんだ」

 

「……約束、守ってくれたんだ」

 

「言っただろ? 俺は、きみの言葉を頭ごなしに否定しないって。きみを信じるかどうかは、これから次第だけどな」

 

「……ふふっ」

 

 その言葉を聞いて、響は確信した。

 

 ―――やっぱり、この人は翼さん達が言うような悪い人なんかじゃない。

 確かに、彼は恐ろしい力を持っている。その力は破壊を振り撒き、人々を悲しませるかもしれない。

 だが、彼はそんなことはしない。

 何故なら、彼にはあるのだ。

 人を思いやれる、優しい心が。

 

「なんだよ、急に笑ったりして」

 

「ううん。なんでもないよ」

 

「なんでもないことはないだろ。人を笑っておいて」

 

「ごめんごめん。でも、悪い意味じゃないから安心して」

 

「……まぁ、それなら良いけど……」

 

「ありがと! それじゃ、どこか別の場所に行かない? こんな暗い所で話すより、明るい場所の方が良いでしょ?」

 

 本題に入ったところで、響は移動を提案する。

 

「……そうだな。でも、あんまり他人に聞かれることがない所が良いな」

 

「大丈夫! 学校帰りに寄り道しまくりのわたしにかかれば、君の希望は最大限叶えられるから!」

 

「それは頼もしいな。それじゃ、エスコートを頼んでも良いか? 男の身で情けないけど」

 

「任せて! 君と行きたい所、いっぱいあるから!」

 

 響のテンションは爆上がり状態だった。

 これから始まるのは、拳を交える必要がない、純粋な話し合い。響が最も好む、相手のことを理解するための手段。

 今までは、必ずと言っても良いほど、相手と戦うことしかできなかった。だが、今回は相手から歩み寄ってくれているのだ。争うことを好まない響にとって、こんなに嬉しいことはないだろう。

 

「それじゃ行こ!」

 

「ああ。…………あっ!」

 

「わっ!? どうしたの?」

 

 急に、少年が何かを思い出したような声を上げた。

 

「そう言えば、俺たち、まだ自己紹介すらしてなかったよな?」

 

「……あぁっ!」

 

 今度は響が声を上げた。

 彼の言うとおり、二人は未だ、お互いの名前すら知らないのだ。話し合うことに夢中で、響も一番重要なことを忘れてしまっていたのだ。

 

「そ、そうだった! それじゃ、今から自己紹介ってことで!」

 

「え、ちょっ、ま―――」

 

「私は立花響! 九月十三日生まれの十七歳! 身長は157センチで、血液型はO型。体重は……男の子相手だと教えたくないかな。好きなものはご飯&ご飯! 彼氏いない歴は年齢と同じ!」

 

 彼の制止も聞かず、まくし立てるように自己紹介をする響。最後の彼氏いない歴云々の部分を聞いた時、少年は心なしか安心したように見えた。

 

「さぁ、次は君の番!」

 

「なぁ、昨日も言ったけど、俺には名前が―――」

 

「それも大丈夫! これを見て!」

 

 彼の言葉を遮って響が取り出したのは、一冊のノート。そのノートの一ページ目をめくって、少年に見せる。

 

「これは……」

 

 少年に見せられたページには、漢字二文字で『声繋』と書かれていた。

 

「名前がないって聞いてから、ずっと考えてたんだ。私の大切なものと好きなことに因んで、君にぴったりな名前を。

 私の大切なものは、歌。

 私の好きなことは、誰かと手を繋ぐこと。

 歌を歌う為に必要な『声』と、『繋ぐ』を合わせて『声繋(せつな)』。どうかな?」

 

『声繋』と綴られたページを見せながら、その名前に込められた意味を語る響。

 S.O.N.Gは識別名として『アーリーデウス』などと呼んでいたが、そんな呼び方は失礼だろう。

 何しろ、彼はこんなにも、普通の少年として存在できるのだから。

 

「……声繋、か。良いな、それ!」

 

 ほら、今も名前を貰って、母親に玩具を買ってもらった幼子のように喜んでいる。

 こんな純粋な心を持った少年が、人々を悲しませることなど、考えられない。

 

「でしょ? じゃあ早速!」

 

「ああ!」

 

 言葉も交わさず、二人は頷き合うだけで、互いの意図を読み取った。

 少年―――否、声繋は、一度深呼吸をしてから、

 

「俺の名前は声繋。八月三○日生まれの一応十七歳。身長は大体170センチで、血液型はA型。体重は58.5キロ。好きなものは……まぁ、これから見つけるよ。彼女いない歴は俺も年齢と同じだ」

 

「おお……。男の子だと体重も教えるんだね」

 

「まぁ、別に普通だからな。女の子はその辺隠したくなるんだな」

 

「そうだよ。これから女の子と話す時は、体重のことは絶対に聞いたらダメだから、その辺ちゃんと覚えておくんだよ!」

 

「オーケー。肝に命じておくよ」

 

「ふふっ。じゃあ、女の子と接する上での最低限のルールを覚えたところで、行こっか!」

 

 響は、声繋に向けて手を差し出す。

 その手を見て、ほんの一瞬だけ躊躇ったが、

 

「ああ!」

 

 声繋は、その手を掴んだ。

 

 

「さぁ、俺たちのデートを始めようか」




 両作品のキャラクター同士による会話の前に、一言。
 主人公の名前は、僕がかつてXDUで使っていた名前です。この小説の元ネタを考えていた時に思い付いた主人公の名前で、その時は流石に自画自賛しました。今思うと、結構デアラっぽい名前になったと思います。

 では、どうぞ。



翼「第三話。読了ありがとうございました。風鳴翼です」

四糸乃「……あ、ありがとう、ございました…………四糸乃です」

よしのん『どーもどーもー! デアラのマスコットのよしのんでーっす! よろしくね!』

二人「「……………………」」

よしのん『ほらほら二人ともー。もっと喋らないと。こんな機会二度とないかもしれないんだよ?』

翼「……いや、その、私の周りには、四糸乃のような大人しさと可愛らしさを併せ持った人間がいないから、どのように接したら良いのかわからなくてな……」

四糸乃「……わ、私も……翼さんみたいな綺麗で格好良い人と話すのは、初めて、です……」

翼「そ、そうか。……初めて同士、なんだな」

四糸乃「……は、はい。初めて同士、です……」

二人「「………………」」

翼「……初めて同士なら、歩み寄らなければならないわね」

四糸乃「……そう、ですね」

翼「……実は」

四糸乃「は、はい……!」

翼「さっき、私のことを格好良いって言ってくれたけど、そうでもないの」

四糸乃「……そう、なんですか?」

翼「昔、私の相棒に言われたの。泣き虫で弱虫だって」

四糸乃「……わ、私も……泣き虫で、弱虫……です」

翼「……そう。なら、きっと仲良くなれるわね。だって、私達は似ているから。少しでも似通った部分があれば、きっと……」

四糸乃「……はい! 私も……翼さんと、仲良くなりたい、です……!」

よしのん『あらあら。ようやく仲良くなれそうだねー。頑張った四糸乃には、よしよしよしのんだよー!』

声繋「……和むわー」
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