戦姫絶唱シンフォギアDAL   作:援道未知

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 お待たせしましたー!
 試験が終わり、意外と簡単だったからちょいちょい書き続けてもう少しで投稿できるところまできたものの、感想で指摘されたことを踏まえて見直してみたら「直そう」ということになって結局試験終了から結構時間経ってから投稿できました!
 ……いや、本当にお待たせしてごめんなさい。まさかたった四話でUA10000を越え、お気に入り登録も五百に迫っているのに、本当にごめんなさいです( ノ;_ _)ノ

 それと、最近思い知ったのですが、どうやら僕はデアラとシンフォギアについての知識が不足していたようです。悔しい。゚(゚´Д`゚)゚。 特にシンフォギアの方は。なので、両原作と異なる部分を発見された場合は、オブラートに包んで教えてくださると幸いです(ノ;_ _)ノ
 ……正直、今回出来に不安しか感じていません。どこかに矛盾が生じていないかびくびくしています。発見されたら教えてください。早急に修正いたします。

 それでは、久しぶりに本編をどうぞ。


あなたが初めて

 ファミレスから出た響と声繋は、一先ず歩くことにした。元々、声繋の予期せぬ登場から始まったデートであるが故に、プランなどは存在しない。今はただ、声繋が興味を引かれるものを探している最中なのだ。

 

「どう? 何か気になるものはある?」

 

「……それがさ、俺が眠る前と比べて、建物とかが凄い発展してるからさ。どれも気になって迷っているところだよ」

 

「だったら、全部回ろうよ! 声繋が見たい所、全部!」

 

「バーカ、そんなに歩き回れるかっての。下手に長時間彷徨いてたら、俺を狙ってる奴らに見つかるかも知れないし、響だって門限があるだろ? 女子高生なんだし」

 

「声繋にまでバカって言われた……。やっぱり、わたし呪われてるかも……」

 

 歩きながらも、会話を挟むことを止めない二人。最初は男子とのデートということで、緊張していた響だったが、この状況にも徐々に慣れ始めていた。

 

「響は呪われてないよ。俺が保証する」

 

「何でそんなことが言えるの?」

 

「だって、響には沢山友達がいるじゃないか。響にとっては当たり前のことだろうけど、そういうのって凄く恵まれてると思うぜ、俺は」

 

「あ……」

 

 友達。そう呼ぶに値する人物達は、確かに響には存在する。

 親友、クラスメイト、そして仲間。声繋が言った友達とは、その内の仲間を指している。

 今、響はその仲間達と離れている。方針の違いによって生じた亀裂によって、響は仲間達と引き裂かれた。

 その事を思い出して、響は胸に鋭い痛みのようなものを感じた。

 

「…………っ!」

 

 その痛みにうちひしがれないように、響は顔を振ってごまかした。

 今は、声繋とのデートの真っ最中。元より慣れないことをしているというのに、他のことに気を配っていられる余裕はないのだ。

 

「響……?」

 

 声繋も響の様子がおかしいことに気付いたのか、心配の眼差しを送ってくる。

 

「ううん。何でもないよ!」

 

「本当か? もしかして、どこか具合が悪いとか……」

 

「もう、心配性だな~……」

 

 声繋に心配は無用だと、その場で軽やかに動き回って証明してみせた。

 

「ね? 大丈……」

 

 夫、と言いかけて、響は体の動きと言葉を止めた。

 視界の先に、見覚えのある顔を見掛けたからだ。

 黒髪ショートの、大きな白いリボンでハーフアップにした、響と同い年くらいの少女である。

 

「……未来?」

 

 その少女の名は小日向未来。響の親友にして、同じ寮に住むルームメイトである。

 彼女が何故、街中にいるのか。今日は休日で、響と違って未来は余所行きの私服。響の知らぬ間に友達と出掛ける約束でもしていたのかと思ったが、どうも様子がおかしい。響の目に見える未来は、数人の男性に囲まれており、何やら戸惑ったような表情を浮かべていた。

 

「おーい、未来ー!」

 

 何か困っているのかと思い、響は彼女の名を呼んだ。すると、未来は響の声に気付いたのか、焦ったような表情でこっちに向かって何かを叫ぶように口を動かした。

 

「え? なに―――」

 

「……―――〈颶風騎士(ラファエル)〉」

 

「―――うわっ!?」

 

 しかし、声繋の呟きと共に運悪く吹いた風により、未来の声は遮られてしまう。目にゴミが入るかもしれないと、思わず目を瞑ってしまう響。

 やがて風は収まり、響は再び目を開ける。

 

「未来! 今なんて…………」

 

 未来が何を言ったのか、それを確認しようとした響だったが、その声は次第に口すぼみになっていった。

 ほんの数瞬前まで、隣にいたはずの声繋が、未来と未来を囲う男達の間に立っていたからだ。

 

 

 

 小日向未来は、後輩である暁切歌からの二つ目のメッセージに記載されていた内容を読み、焦りに焦っていた。

 

『響先輩がデートしている相手は、クリス先輩より青っぽい銀髪で、琥珀色の綺麗な目をした男の人デス! 因みに年は響先輩と同じくらいデス! 見た感じはイケメンって程じゃないデスけど、響先輩とご飯を食べている様は優男って感じだったデス! これから二人で街をぶらつくみたいデスから、アタシと調は尾行を開始するデス!

 

 P.S サポートの方法は皆さんにお任せするデス!』

 

 などという、文面においてもハイテンションな彼女のメールは、未来に焦燥感を抱かせるには十分な内容を孕んでいた。

 響が男とデートをしている。それだけで、未来は天変地異の前触れを予感した。

 幼い頃からの付き合いである未来には分かる。その相手の男性とは、例によって例の如く、響が手を掴もうとしている相手なのだと。

 これまで何度も繰り返してきた、立花響の人助け。

 今回の相手は、同い年の異性。

 

(そんなの、響一人でどうにかなる訳ないじゃない!)

 

 未来は、この人助けの失敗を確信していた。数瞬の躊躇いもなく、確信した。

 立花響が恋愛経験皆無であることは、周知の事実である。元より活発で、女の子らしく振る舞うことを度外視し、ご飯&ご飯を好む残念美少女。それが、彼女の周りが抱く立花響への、女性としての評価である。

 そんな彼女が、異性とデートをしている。

 はっきり言って、そこから想像ができない。一体全体どんな事件が起き、どんな急展開が発生し、どんなイベントを乗り越えたらそんなことが起こるというのだろうか。

 切歌と調は何か知ってそうだが、恐らく他の友人達においそれと話して良いことではないのだろう。何せ、出動要請が掛かった昨日の今日だ。昨日の一件が尾を引いているのだろうということは、容易に想像ができた。ついでに、クリスには内緒という部分で、響が何らかの理由で仲間達と別れて行動していることも。

 とにかく、昨日事件があった翌日に、響が異性とデート(有り得ないこと)をしているということは、そのデートは事件に何らかの形で影響を及ぼす可能性があると未来は読んだ。そんな大役を、響一人に、恋愛ド素人に任せるのは極めて危険である。

 未来が不安に思っているのは、親友に女性として先を越されることではない。まして、同性恋愛に目覚めているからでもない。

 親友が、その相手の男性に粗相を働かないか、ということである。

 既に、食事という、響が一番女の子らしさを失っている行事を終えた後とのこと。相手の男性は優男的対応をしたらしいが、そんなのは切歌の主観。内面ではどう思っているか分からない。

 ともかく、未来は一刻も早く、響達と接触する必要があった。

 

(今度、響と見に行こうと手に入れた映画のチケット。これを使えば……)

 

「きゃっ!?」

 

 ポケットに入れてきたチケットの存在を確かめながら走っていると、未来は誰かと正面からぶつかり、尻餅を着いてしまう。

 迂闊だった。こんな街中を前も見ずに走っていたら、誰かとぶつかるのは容易に想像できたはずなのに。

 

「ご、ごめんなさい! 私急いでて!」

 

 慌てて起き上がり、未来はぶつかった相手に謝罪する。

 その時、初めて相手の姿が明らかになった。

 袖がギザギザの革ジャンと膝部分に穴が開いたジーパンで身を固め、耳と鼻にピアス、垂れサングラスを掛け、髪は金髪のモヒカンという、世紀末かと言った風貌の柄の悪い男が立っていた。しかも、両隣には同じ格好をした男が二人、真ん中の男に付き添うように立っていた。

 一目で分かる。怒らせたら大変なことになる人種だと。

 

「……あ、あの……」

 

「よぉお嬢ちゃん。よそ見して人にぶつかったんだ。何かすること、あるよな?」

 

 テンプレ極まるセリフだが、生憎と未来はこういうことに関しては未経験。柄の悪い男数人に睨み付けられて、少し怯んでしまう。

 しかし、その程度で未来は屈したりしない。響と違って普通の女子高生である彼女だが、仮にもS.O.N.Gの外部協力者として、幾度となく響の戦いを見守ってきた。響が戦っている時に感じているであろう苦しみを思えば、こんな恐怖など、どうということはない。

 

「……私が不注意でした。本当にごめんなさい」

 

「そうじゃねぇよなぁ? 当たり所によっちゃぁ、重症になってたかもしれねぇのによぉ?」

 

「…………ッ」

 

 分かっていた。こういう如何にも悪そうな人間は、ただ謝ったくらいでは退いたりしない。色々と勿体つけて、無茶な要求をしてくることくらい、分かっていた。

 そして、それは未来も同じである。こんな所で時間を食っている場合ではない。親友のデートをサポートするという目的の為にも、立ち止まっている暇はないのだ。

 この際、無理矢理にでも通してもらおうと、勢いに任せて突破しようとした、その時。

 

「……響?」

 

 少し離れた場所に、探し求めていた親友の姿を見つけた。

 

「響!」

 

「おい! 今はこっちと話してる最中だろうが!」

 

 未来は彼女に呼び掛ける。デートはどうなっているのか。相手の男性とは上手くいっているのか。確認したいことは山程あった。男に阻まれても、あまり気にならない程に。

 やがて、響の視線がこちらを向いた。響は何かを言おうとして、しかし突然吹いた風が、響の声を掻き消した。

 その風は、未来の元にも吹いた。まるで、駅のプラットホームで感じる、電車が高速で過ぎ去った後に吹き荒れる風のような。

 思わず瞑っていた目を開けた時、未来は状況が変化していることに気付いた。

 

「―――〈破軍歌姫(ガブリエル)〉」

 

 自分と男達の間に、一人の少年が立っていた。その少年はこちらに背を向けており、表情は伺えない。ただ、未来を隠すように右腕を広げ、男達と真正面から向き合っていた。

 

『止めろよ。この娘、嫌がってるだろ。さっさとここから立ち去れ』

 

 その少年は、明らかに自分より強いはずの男達に向けてそう言い放つ。恐れを感じさせないその勇気に、未来は賞賛したいところだが、それだけで相手が退くとは思えなかった。

 ところが。

 

「……ちっ! 分かったよ。行くぞお前ら!」

 

 意外なことに、男達は呆気なく立ち去って行った。大人の小言程度では動じそうにもない男達が、少年のたった一言で。

 余りにもあっさり解決して、かえって理解が追い付かない未来。そんな彼女に、少年は振り返り。

 

「大丈夫か? 何もされてないよな?」

 

「……は、はい……」

 

「そっか……。なら良かった」

 

「…………」

 

 目の前で優しく微笑む少年を見て、未来は何故か、既視感を覚えた。

 似ているのだ。彼の笑顔が、自分の親友に。

 

「……? 俺の顔にゴミでも付いてるのか?」

 

 彼に言われて、未来は跳ね上がってしまう。

 思わずぼーっとしていたが、助けてもらったからには、言わなければならない言葉がある。

 

「た、助けてくれてありがとう! ごめんね。ちょっとぼーっとしちゃって……」

 

「別にいいよ。じゃあ、待たせてる人がいるから、これで―――」

 

「声繋! 未来!」

 

 少年が手を振って立ち去ろうとすると、二人の下に響がやって来た。

 

「「響?」」

 

 未来と少年―――声繋の声が重なる。そのことに気付いて、二人は顔を見合せる。

 

「君、響の知り合いなの?」

 

「きみの方こそ……まさか、俺を狙う響の仲間か!?」

 

「え?」

 

「違う違う! この娘はわたしの友達の小日向未来! 昨日声繋が戦った人達とは違って、シンフォギア装者でも何でもないの!」

 

 急に身構えた声繋を見て、響はすかさず弁解する。

 その光景を見て、未来は悟った。

 

「そっか。君が響のデート相手なんだね」

 

「え? 未来、何でそのことを?」

 

「切歌ちゃんから教えてもらったの。響が男の子とデートしてるって」

 

「切歌ちゃんが!?」

 

 響は信じられないといった様子で驚いている。

 未来は自分の予想が的中していたことを確信した。やはり、今の響は単独で行動している。理由は不明だが、響が切歌が自分を支援していることを意外に思うのはおかしいだろう。

 未来は響の耳元に口を寄せると、

 

「……何があったのかはこの際聞かないけど、少なくとも、私と切歌ちゃんと調ちゃん、それから創世ちゃん達は響の味方だよ」

 

「……未来」

 

 そのまま、未来は続ける。

 

「皆が背中を押してくれてるんだから、二度と来ないかもしれないこのチャンス、絶対に掴むんだよ?」

 

「へ……?」

 

 それだけ言い終えると、未来は今度は声繋の方に向き直った。

 

「せつな君、だったよね?」

 

「ああ。響が付けてくれた名前だ。声を繋げると書いて声繋」

 

「響にしてはセンスあるね。私は小日向未来。早速なんだけど、声繋君は響のどこが気に入ったの?」

 

「え?」

 

「ちょっと未来!?」

 

「響って、今までモテた試しがないから、男の子とデートするなんて想像できなくて。だから、どうしてデートしてるのかなって」

 

「酷い!?」

 

 未来の容赦のない言葉にうちひしがれる響は放って置いて、未来は声繋の答えを待つ。

 顎に手を当ててしばらく考えていた声繋は、答えるのかと思いきや、響に近づいて耳を借りた。

 

「……なぁ、この娘と悠長に話し合ってて良いのか?」

 

「……え? ……まぁ、未来は私の組織の外部協力者って立場だけど、戦う力があるわけじゃないし、声繋と戦うことはないから良いと思うよ」

 

「……けど、響の組織が彼女を送ってきたってことも……」

 

「……未来はそんなことに協力しない。私が保証するよ」

 

「……根拠は?」

 

「……親友だから」

 

「……じゃあ信じる」

 

 ものの数秒でひそひそ話は終わった。

 声繋は未来に向き直り、改めて質問の答えを述べた。

 

「どうして響とデートしてるのか、だったよな? それは……」

 

「それは……?」

 

「……そ、それは……えっと……」

 

 何故か、言葉に詰まる声繋。

 何があったのだろうか。自信満々に答えようとしていた割には、随分と萎縮してしまっているように見える。

 やがて、何やら口元を両手で覆いながら、声繋は答えた。

 

「……最初に見た時、可愛いと思ったから」

 

「かわ……っっ!?」

 

 何という大胆な発言。普通なら恥ずかしさで言えたものではないだろうに、声繋は言ってのけてしまった。

 何という勇ましさだろう。口元を覆う指の隙間から、通常の三倍赤くなった頬が見え隠れしていなければ。

 その時、未来の中にある女子高生魂が擽られた。

 

「他には?」

 

「他!?」

 

 追い討ちを掛ける未来。若干、その目が恐ろしいくらいキラキラと輝いていた。

 

「……俺、あんまり人のことを信じられないんだけど、響のことは信じてみたいって思えたんだ。今は……最初のデート相手が響で良かったって思えるくらい、かな」

 

「…………っ!」

 

 これまた大胆な発言。声繋の正直さはどれほどだというのだろうか。耳まで赤くさせる程だというのだろうか。

 

「それで? 他にはないの? 響がシンフォギアを纏ってる時に出会ったんだよね? だったら体のラインとか丸わかりで―――」

 

「もう止めてよ未来! 今日どうしたの!? いつもの優しい未来はどこに行ったの!?」

 

 際どい話を持ち出し始めた未来。堪らず響は涙目になりながら彼女を止めた。

 

「……あ。ご、ごめん! こういう話って全然縁がなかったから、ついつい楽しくなっちゃって……」

 

「声繋も正直に答えなくて良いんだよ!? わたしまで恥ずかしくなるだけだから!」

 

「…………女子高生って、恐いな」

 

 声繋の心に、女子高生に対する恐怖が刻まれた瞬間であった。シンフォギアを圧倒する力を持つ声繋に恐怖を植え付けるとは、女子高生というのは恐ろしい存在である。

 その後、十分程かけて声繋の調子が戻ったところで、未来は本題に入った。

 

「そうそう。これを渡しに来たの」

 

「これって……この前一緒に見に行こうって言ってた映画のチケット?」

 

「そ。聞いた話だと、このデートって全部響持ちなんでしょ?」

 

「……みっともない話だけど、な」

 

「まあまあ、事情は大体分かるから。それで、少しでも響の負担を減らせれば良いなって思って」

 

「けど、それって二人で行こうとしてたんじゃ……」

 

「分かってないな~……」

 

「え?」

 

 声繋は遠慮しようとしたが、未来は何故か妙に得意気な表情を浮かべた。

 

「声繋君。さっき言ったし本人からも聞いてると思うけど、響ってね、本っ当にモテた試しがないの」

 

「そんなしっかり言い直すことないよね!?」

 

「十七年だよ十七年! 顔は悪くないし人当たりも良いし明るいし、本当なら一度や二度告白されててもおかしくないのに男性経験ゼロなんだよ!?」

 

「お、おう……」

 

「あれ? わたし、褒められてるの? 貶されてるの?」

 

「そんな響が、やっと男の子とデートできるんだよ!? もう二度と来ないチャンスかもしれないの! 私は響の将来の為なら、映画くらい犠牲にしても良いの!」

 

「二度と……来ない……」

 

「きみら本当に親友か!? さっきから言葉に仲良し成分を感じないんだが!?」

 

 声繋は堪らず叫んだ。先程から、未来の口から出てくる言葉には、響の汚点が多々含まれている。叫びたくなるのも無理はないだろう。

 しかし、これでも本当に親友なのである。普段ならこうはならないのだが、今は親友が異性とデートをしているという、女子高生魂を起動させるエネルギーが溢れている最中。それだけならどうということはないが、これまで全くそんな話がなかっただけに、未来の女子高生魂は初起動で抑えが効かない状態となり、それによって未来のテンションはおかしな方向に振り切れてしまっているのだ。

 

「とにかく! 響に少しでも気があるなら行ってきて! 響のチャンスになってあげて! そしてその手を響に差し出して!」

 

「わ、分かった! 分かったから! 小日向さんの必死さは伝わったから! ありがたく受け取るから!」

 

 未来のテンションに耐えられず、声繋は折れてチケットを貰う。

 

「……未来、今日は何だか本当に変だよ。いつもわたしを温めてくれる陽だまりはどこに……?」

 

 未来のテンションに耐えられなかった人物が、もう一人いたことは、今の未来には認知できなかった。

 

 

 

 未来と別れた二人は、早速映画館に向かっていた。調べたところ、今から向かえばかなり余裕のある時間に着くようだが、ノープランで行動している以上、早く行動した方が良い。

 隣り合って歩きながら、響はふと、声繋の方を見る。

 

(……最初に見た時、可愛いと思ったから)

 

(……俺、あんまり人のことを信じられないんだけど、響のことは信じてみたいって思えたんだ。今は……最初のデート相手が響で良かったって思えるくらい、かな)

 

「…………っっ!」

 

 先程の声繋の発言を思い出して、響は自分の顔が熱くなるのを感じた。

 未来が言った通り、響は異性から女性として見られた経験がない。単に、響に自覚がないだけで、そういったことはあったのかもしれないが、少なくとも耐性があった訳ではない。

 だからか、声繋が自分に女性としての魅力を感じてくれたことに、嬉しさ半分、申し訳なさも生まれてしまう。

 

(……本当に、わたしで良かったのかな……? 最初に会ったってだけの私で……)

 

 ほんの少しの距離の違い。

 声繋が目覚めて最初に出会えた相手が響だったのは、誰の意図も関与していない偶然だった。

 響が最初にあのクレーターにたどり着き、最初に目と目が合い、最初に声繋と言葉を交わしただけのこと。それだけなのに、声繋はそれら全てを受け入れ、さもそれが自分にとっての幸運だったと考えている。

 本当に、それで良かったのだろうか。自分は、声繋の可能性を奪ってしまったのではないか。自分より可愛いと感じる人がいたのではないか。自分より最初のデート相手に相応しい人がいたのではないか。

 考え出したら止まらない。

 元より、女性としての立ち振舞いにはそれほど感心を持たない響。異性に良く見られようなどと考えたファッションなどして来なかったし、そもそも異性と恋仲になること自体、想像もしたことがなかった。声繋とはそういう関係ではないが、そういう関係の入り口に立ちかけているこの状況が、響に思考させた。

 

(わたしより可愛くて綺麗な人なんて、いくらでもいるのに……)

 

「…………き」

 

(最初の相手なんて、わたしじゃなくても良かったはずなのに……)

 

「……びき」

 

(……やっぱり、わたしなんかが―――)

 

「響!」

 

「うわっひゃあ!?」

 

 大声で名前を呼ばれて、響は思わず飛び上がる。

 今まで気付かなかったが、声繋が響と目線を合わせて、彼女の顔を心配そうに覗き込んでいた。

 

「さっきから何度呼んでも返事がなかったけど……、何かあったのか?」

 

「……あ、ご、ごめん! ちょっと考えごとしてて……」

 

 声繋が心配していたと思い、響は慌てて弁解する。

 しかし、声繋は安心するどころか、余計に思い詰めたような表情を浮かべた。

 

「……やっぱり、小日向さんと行きたかったよな」

 

「え……?」

 

「俺みたいなぽっと出の部外者が、響達の約束を取り消させてしまったから……」

 

「ちょちょ、ちょっと待って! 大丈夫だよ。未来とは沢山一緒に出かけるし、映画ならまた今度行けば良いだけだもん!」

 

 声繋が重大な勘違いをしていることに気付いた響は、慌てて訂正する。

 確かに、未来との約束は響にとって大切なものだが、必ずしも今日でなくてはいけない内容の約束ではない。だから、声繋が責任を感じる必要はないのだが。

 

「けど……俺は……」

 

 声繋の表情は晴れない。それどころか、その表情は昨日、翼達と戦った時に浮かべていた、悲しげなものとなっていた。

 

「声繋……?」

 

 一体どうしたというのだろうか。先程まで、どこにでもいる普通の少年のように、楽しげな笑顔を浮かべていたというのに。

 何か気に障ったのかと思い、響は声繋に声をかけようとした。

 その時。

 

「……ごめん、響。さっきのチケット、やっぱり小日向さんと使ってくれないか?」

 

「え……?」

 

 突如、真剣な表情で、声繋はそう告げた。

 その言葉の意味を理解した途端、響の思考は焦りで埋め尽くされた。

 

「そ、そんな! まだ一緒にご飯を食べただけなのに、もうデートは終わりなの!?」

 

「残念だけど、俺はこれ以上、響と一緒にはいられない。そういう状況になってしまったんだ」

 

「そういう状況……?」

 

 どういうことなのだろうか。まさか、未来との約束を邪魔したことに負い目を感じてのことだというのだろうか。

 そういう意味を込めての響の問いかけに、声繋は答える。

 

「さっき、小日向さんを助ける時、俺は天使を使ったんだ」

 

「天使って……!」

 

 その名が鼓膜を打った時、響は戦慄を覚えた。

 天使。それは、昨日の戦いで声繋が振るった力の総称。シンフォギアを瞬く間に無力化して見せた、恐ろしい力。

 それを、声繋は使ったと言ったのだ。

 昨日の戦いで、S.O.N.Gは声繋の持つ力の反応を探知できるようになっている。現在、声繋は力をおおっぴらに使用してはいない為、探知はされないのだろうが、一度天使の力を使ってしまえば、彼の存在は高速で察知されてしまう。

 つまり、先程天使の力を使ったということは、もう間もなく翼達が声繋を狙ってやって来るということだ。

 

「けど、天使って……声繋が昨日使った武器は何も……」

 

「昨日見せたのとは違う天使を使ったからな」

 

「……へ?」

 

「さっき使ったのは、風の天使〈颶風騎士〉と、音の天使〈破軍歌姫〉」

 

「天使って他にもあるの!?」

 

「あるよ。俺は十の天使を持っている。それぞれが異なる力を持っていて、昨日見せたやつの能力は全部でざっと三割くらいしか使ってないよ」

 

「三!?」

 

 驚愕の事実の波状攻撃に、響はただ叫ぶことしかできない。

 ただでさえ、曰く三割でもシンフォギアを圧倒せしめる程の力。それが他にもあるというのだ。響が驚くことを責める権利は、誰にもないだろう。

 

「……まあ、そんな訳だから、デートはもう終わりだ。小日向さんには、せっかく貰ったのに悪かったって伝えといてくれ」

 

「………………」

 

 声繋は響に背を向け、ここから立ち去ろうと歩み出した。

 翼達から逃げる為か、こことは別の場所で迎え撃つ為か。いずれにせよ、デートは終わりを告げようとしていた。

 

(……このままで、良いのかな……?)

 

 ふと、響は無意識にそんなことを考えた。

 異性との初めてのデート。人を信じない少年と分かり合おうと、響が意図せず始めたデートが、こんな形で終わってしまって良いのだろうか。

 響には、自分が声繋の最初のデート相手に相応しいと言える自信はない。これまで一度たりとも恋愛を経験してこなかった自分に、異性に好かれる努力をしてこなかった自分に、声繋を楽しませることができるのだろうか。そんな考えを抱いていた。

 はずだったのに。

 

「ちょっと待って!」

 

 気が付けば、響は声繋の手を掴んでいた。

 

「響……?」

 

「わ、わた、わたしは……!」

 

 響の行動に疑問を抱く声繋と向き合い、少しの不安と戦いながら、響は言葉を振り絞った。

 

「まだ終わりたくない! もっと、声繋とデートがしたい!」

 

「……………………」

 

 人々が闊歩する街中に、響の心の叫びが木霊した。

 瞬間、二人の間に沈黙が訪れた。周囲の音が途絶え、まるで二人のいるこの場所だけが、別世界に移動したかのように。

 やがて、その沈黙は声繋によって破られた。

 

「…………可愛い」

 

「ふぁっ!?」

 

 予想の斜め上とはこのことを言うのだろう。今の沈黙の間で、声繋は一体何を考えたのだろうか。響には到底理解できなかった。

 

「……あ、いや! 今のは忘れてくれ!」

 

「あ、う、うん! だよね! そんな恥ずかしい嘘忘れて欲しいよね!」

 

「いや、嘘じゃないけど……」

 

「またまた~。わたしなんかが男の子に可愛いなんて……」

 

「いや……まあいっか。……じゃ、行くか」

 

「え……?」

 

 響が謙遜したように言うと、声繋は何やら小さく呟いた後、響にそう言った。

 

「え、じゃねぇよ。まだまだデートしたいんだろ?」

 

「い、良いの!?」

 

「俺だって、初めてのデートを中途半端に終わらせたくないからな。それに、俺に名前を付けてくれた人の願いを無下にはできないよ」

 

「それって、私が声繋を縛ってるみたいじゃ……」

 

 響にとっては願ってもないことだが、声繋の言い分では、響が声繋を自分の人形のように扱っていると思えてしまった。

 

「……じゃあ、こう言えば納得するか?」

 

 声繋はそう言って、自身の手を掴んでいた響の手を両手で握り返し、胸の前まで持ってくる。

 それはまるで、人が人に対して大切な願い事をするようで。

 

「俺は、俺と響の初めてのデートを続けたい。お互いの最高の思い出になるような、そんなデートを君としたいんだ……!」

 

 それは、声繋の本心に違いなかった。それが分からないほど、響は鈍感ではない。

 

(……そうだ。今は相応しいかどうかじゃない)

 

 今、声繋がデートしている相手は、他ならぬ響だ。彼が本心から望んでいるのなら、響は誘った側として、最後まで彼に付き添う責任がある。

 資格など関係ない。

 彼の思いに応えたい。今はその気持ちだけで十分だ。

 

「……ありがとう。わたしも、最高のデートになるように頑張る!」

 

「決まりだな。じゃあ、気を取り直して行くか!」

 

「うん! あ、でも、翼さん達はどうするの?」

 

「それについては考えがある。その為にも……」

 

 一度言葉を区切った声繋は、真横にそびえ立つブティック―――の影から覗く三つの何かに、僅かに視線を向け、

 

「誰か、響をコーディネートしてくれる人を探さないとな」

 

「「「私達にお任せ!」」」

 

「え!?」

 

 声繋が言った瞬間、響にとって聞き慣れた複数の声が聞こえてきた。

 声が聞こえた方を向くと、響の予想通りの三人組の少女達が揃っていた。

 

「話は聞かせてもらったよ!」

 

 三人の中で一番背が高い少女、安藤創世が前に出て、

 

「私達の磨き上げたファッションセンスで!」

 

 金髪の少女、寺島詩織が創世に続き、

 

「響をアニメもびっくりな美少女に仕立て上げてみせる!」

 

 一番背が低いツインテールの少女、板場弓美が高らかに宣言した。

 

「皆! 来てくれたんだ!」

 

 妙にハイなテンションで登場した三人に、響は歓喜する。しかし、三人はそんな響をスルーし、声繋に視線を向けた。

 

「へぇー、君がビッキーの……」

 

「優しそうな殿方ですね」

 

「それにしても、あの響がねー。アニメで言ったら恋愛要素皆無な戦闘ヒロイン物の主人公みたいな響が、こんな……」

 

 三人共、声繋を見るなり、各々感想を述べていく。

 彼女達は、響と未来が学校で仲良くしている友達で、常日頃から響と未来を含めた五人で行動しているほどの仲である。

 彼女達が二人に接触したのは、未来と同じく響のサポートである。その方法は、今言った通り。

 

「じゃ、早速行こうか!」

 

「え?」

 

「男性との初デートの記念です! 私達が立花さんにぴったりのお洋服をプレゼントします!」

 

「え?」

 

「嫌とは言わせないから、さっさと連行してさっさと脱がせてさっさと着せるわよ!」

 

「ちょちょっと!? 皆テンションおかしいよ! そんなにわたしが男の子とデートするのが嬉しいの!?」

 

「「「それはもう!」」」

 

 ハイテンションの荒波。彼女達も未来と同じく、女子高生魂が振り切れてしまっていた。

 一言も言葉を発することができないまま、響はその荒波に呑み込まれていった。

 

「あんたも来なさい! 女のコーディネートにおいて男の意見は貴重なんだから!」

 

「うおわ!?」

 

 その荒波は、声繋をも呑み込んだ。

 荒波に流される中で、声繋はふと、こんなことを考えていた。

 

 ―――やっぱり、響は呪われてなんかいない。

 こんなに面白い友達が、沢山いるのだから。




切歌「戦姫絶唱シンフォギアD!」

調「ご読了ありがとうございます」

耶倶矢「今宵は我ら、八舞耶倶矢と!」

夕弦「宣言。八舞夕弦が、あとがきトークを担当します」

切歌「デース! いつもの倍の面子デスよ! これは盛り上がること間違いなしデース!」

調「その分、作者さんの負担が大変なことに……」

耶倶矢「かっかっかっ! 何を言うか調! デアラファンの作者がこの程度で音を上げる輩であるはずがなかろうて!」

夕弦「指摘。負担の一等賞が何を言っているのですか?」

切歌「あ! それはGXの時、アタシがドクターに言ったセリフのオマージュデスか!?」

夕弦「満足。一度、言ってみたかったんです」

調「凄い。シンフォギア特有の難しい言い回しをもう使いこなしてる」

耶倶矢「ねぇ、難しいと言えばさー」

切歌「あれ? 口調戻すデスか?」

耶倶矢「……ほら、よくよく考えたらさ、せっかくこんな場なんだから、自分を出していった方が良いじゃん?」

夕弦「質問。……本音は?」

耶倶矢「あのマッドサイエンティストと同じこと言われたのがキツかった」

夕弦「謝罪。ごめんなさい。さすがにあれはダメでした」

切歌「それで、難しいと言えば、なんデスか?」

耶倶矢「そうそう。切歌の技名って、日本語とアルファベットがごちゃ混ぜじゃん? あれってどうやって作ってるのかなー、って」

切歌「それは…………アタシには答えられないデス」

夕弦「注意。耶倶矢、そこは夕弦達が触れられるところではありません」

耶倶矢「えー。だって気にならない? どうやったらあんなの思い付くんだろ?」

調「あの、そろそろ終わりにしませんか? もうあとがきの文字量じゃないと思うんですけど……」

切歌「大丈夫デスよ調! あとがきの制限文字量は二万文字デス!」

耶倶矢「左様! 中々に良い気分となってきたところだ。ここからは我も存分にやらせてもらうぞ!」

夕弦「同調。夕弦も、もっと調達とお話がしたいです」

調「……じゃあ、もう少しやりましょうか」

耶倶矢「ではこれより、我ら八舞とザババの双刃による、闇の饗宴を催そうではないか!」

三人「おー!」

声繋「止めろー! これ以上は作者がー!」
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