文化祭で配布する文集の小説の執筆による、こっちの小説の執筆期間の延長。
延長した時間の中で、生まれ続ける新たなアイディア達。
どれが一番面白くなるかの葛藤。
デアラ原作最新巻に打ちのめされ、その内容も少し取り入れようと無茶を決行。
そして、一番難しかったあとがきコント。
以上の要因により、ここまで遅れました。
ホント、すいませんでしたああああああああああッッッッ!!!!
「ママーーーーッ!!」
五歳くらいの男の子が、母親と思われる女性に向かって駆け出していく。
「小太郎!」
母親はその男の子―――小太郎をしっかりと抱き止めた。親子は抱き合いながら、人目もはばからず泣き続ける。小太郎は母親の胸に顔を埋めながら泣き叫び、母親はひたすら小太郎に謝り続けながら泣き続けた。
ひとしきり泣き終えたのか、母親は小太郎の後ろにいる二人の若い男女の元へ、小太郎と共に向かった。
「ありがとうございます! 息子を助けていただいて!」
「いえいえ。小さい子どもを見捨てることなんてできないように生きてきましたから!」
「お母さんが見つかって良かったです。もう手を離さないであげてくださいね」
「はい……っ! それはもう、二度と……っ」
母親は二人の男女―――声繋と響に深く頭を下げる。
親子はその後も何度となく二人に感謝を述べた後、しっかりと手を繋いで歩いていった。声繋と響はその姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。
「良かったね。お母さんと会えて」
「ああ。助けることができて良かった」
声繋がそう言う。すると、響はパアッと明るい表情を浮かべた。
「何だよ? 急に笑って……」
「だって、声繋が良い人だって分かったんだもん。困ってる人を助けたいって思える人は、絶対に良い人だよ!」
「その理屈を否定するつもりはないけどさ、自画自賛になってるぞ」
「わたしのことを良い人って思ってくれるの!?」
「当たり前だろ。それより、ちょっと休憩しよう。歩き回り過ぎて疲れた……」
「あっ。待ってよー!」
などと、下らない会話を繰り広げる二人。
映画を観に来たはずの二人がどうしてこうなったのか。それを語るには、今から二時間前までさかのぼることとなる。
ショッピングモールにたどり着いた二人は、それまでの勢いのまま、映画館がある四階へと向かうエレベーターに直行した。
一階に降りてきたエレベーターから出てくる人々を待ってから、二人がエレベーターに乗った(何故か声繋は一瞬渋った)時。そこで、二人の運命は決まってしまった。
エレベーターの中に、一人の男の子、小太郎が取り残されていたのだ。
先程エレベーターから降りた人達の誰かの連れ子だと判断した二人は、映画を後回しにして小太郎の保護者探しを開始した。……その頃にはエレベーターは発進し、四階に到着していたが。
一階に戻った一行は、早速行動を開始。チラ見程度の記憶を頼りに、エレベーターを降りた人達が歩いていった方向をたどった。
向こうも気付いて来た道を戻っていた。なんて都合の良い話はなかった。駐車場まで行ってみたが、それらしき人物は見当たらず、結局モール内をしらみ潰しに捜索することとなった。途中、小太郎の親に会えない寂しさが限界に達して大声で泣き出した時、声繋がどこから取り出したのか、右目部分に眼帯を付けたウサギのパペットによる腹話術を披露して事なきを得るという寸劇もあったが。
そんなこんなな出来事が続き、捜索開始からきっかり二時間後。ついに小太郎の母親を発見した。
こうして、二人は二度の映画鑑賞のチャンスを代償に、一人の小さな男の子を助けることに成功したのであった。
モール内を歩き回って疲れた二人は、ベンチに腰掛けていた。
「疲れたな……」
「うん……。まさか、こんなに時間がかかるとは思わなかったよ……」
元々、ここに来るまで全速力で走ってきたのだ。日々身体を鍛えている響でも、シンフォギアを纏っていない状態では辛い運動だった。それは声繋も同じようで、左手にパペットを付けたままぐったりしていた。
本来の予定であった映画は、事実上の中止となっていた。本日の上映スケジュールでは、七時頃にもう一度上映のチャンスがあるが、それでは響の門限を過ぎてしまう。
響自身はそれでも良いと言った。しかし、声繋が「これ以上響に迷惑は掛けられない」と言って拒否。途中から観るのも気が乗らない。結果として、映画を観るには足りない微妙な時間が余ってしまった、という訳だ。
しかし、時間が余ったからといって、今すぐに何をするか思い付く訳でもない。取り敢えず、今は休憩ついでに世間話でもすることにした。
「ねぇ、そのパペット何?」
響は、それとなく気になったことを聞く。
「ああ、これか? これは子どもの頃、母さんが俺の為に作ってくれたんだ。名前は『よしのんゼロ』」
「名前まであるんだ……。て言うかゼロってなに? ゼロじゃない『よしのん』もいるってこと?」
「お、そこに気付くか。実は、『よしのん』は両親の友達の女の子のお母さんが、身体の弱い娘さんの為に自分の分身として作ったんだ。『よしのん』という名前は娘さんの名前から取ったらしい」
「娘さんから? その娘のお母さんの名前じゃなくて?」
「そっちの方が可愛いからだってさ。で、『よしのんゼロ』は俺の母さんが『よしのん』を気に入って、『よしのん』シリーズの一体として生み出された。つまり、俺の母さんの分身だ」
「『ゼロ』の意味は?」
「母さんの名前に『
「じゃあじゃあ、『よしのん』シリーズって?」
「娘さんが作った『よしのん』の量産型だよ。『よしのんジュニア』に始まり、『よしのん二世』、『よしのんサマー』、『よしのんフラワー』、『よしのんダイヤ』等々……」
「す、すごい……。そんなにいっぱいあるんだ……。でも、何で右目が眼帯なの?」
「母さん曰く、この眼帯の裏にはかつての戦いで付けられた傷があって、その際呪いを植え付けられたことで恐ろしい力が目覚め、それを封印する為に付けたという……」
「な、なんか、壮大な設定だね……」
「……のは、母さんが材料が足らなくなったことを誤魔化す為に苦し紛れに吐いた嘘設定だった」
響はベンチからずり落ちた。
「う、嘘……?」
「ああ。嘘なんてろくすっぽついたことない人だったから、すぐに分かったよ。実際、嘘にすらなってない言い回しだったし」
声繋の母親、どうやら大層愉快な女性のようだ。なんて考えていると、声繋があせあせと目に見えて落ち着きがなくなった。
「声繋?」
「……その、今の、俺がついた嘘ってことにはならないよな?」
「え?」
何を言い出すのかと思えば、そんなことだった。
「そんな、気にすることないよ。そういうのは話を盛り上げるジョークってことになるから」
「けど、俺の名前は『声繋』……『声』の字が入ってるだろ? 嘘をつくのは、自分で自分を偽っているようで……その……嫌だ」
「…………っ!」
その言葉で、響は胸の内が暖かくなった。
自分が与えた名前を、声繋は大切にしてくれている。正直なところ、頭の出来を自慢できない自分が無理に拘って考えたものだから、自信満々に言った割には内心不安だった。
だが、そんな不安も今となっては消え失せた。声繋は響が与えた名前を気に入ってくれている。名付け親としては、それだけで充分に嬉しかった。
「…………あれ?」
とそこで、響は思った。
声繋は、両親のことを覚えている。話の内容から察するに、母親との仲良好だったと伺える。
では、何故、声繋には名前がなかった?
記憶喪失。その言葉が浮かんだが、それなら母親のことも覚えていないはずだ。その可能性はない。
親に名前を付けられなかった。これも曖昧だ。可能性で言えば前者よりも高いが、声繋の話から考えれば、その可能性も微々たるものでしかない。
では、声繋は何故、名前を持っていなかったのか。記憶喪失以外の要因があるとすれば、響に思い付くのは一つ。
声繋が名前を持っていないと嘘をついた、だ。
「……響?」
急に言葉を発さなくなった響を不思議に思ったのか、声繋が声をかけてきた。
「……あ。ごめんごめん! ちょっとボーッとしちゃって……」
「……そうだな。お互い初デートだもんな。体力以前に、精神的に疲れるよな」
「う、うん……」
それきり、声繋は静かになった。響に気を遣ったのか、自分も同じ理由で疲れたのかは不明だが、響にとってはありがたかった。
響は悩んでいた。声繋の秘密に迫るべきかどうか。
元より、このデートは声繋と友好な関係築き、声繋の秘密も知ることを目的としていた。そして、あわよくばS.O.N.Gとも友好的な関係になれればと。
声繋が響を信用しているかどうかは、現状判断がつかない。昨日の約束を今日果たすあたり、ある程度の信用は得ていると見て良いだろう。
ただ、やはり全面的にとはいかないのが、異なる者同士の接触というもの。今回のデートを通しても、響は声繋のことを分かりきれていない。善人らしい振る舞いが強く目立つが、それだけということはないだろう。響個人としてはそれで良いのだが、響以外もとなれば話は違ってくる。声繋が人類に危害を加えるような存在ではないと証明できなければ、誰も声繋のことを認めてはくれないのだから。
それを証明するためにも、響は声繋のことをもっと知る必要がある。そしてそれは、なるべく早い方が良い。
(迷ってる場合じゃない。声繋が悪い人じゃないって証明するためにも、早く……)
「あっ!」
「わっ!?」
響が一人で考えていると、突然声繋が声を上げ、それにびっくりして響も思わず声を上げてしまった。
「ど、どうしたの?」
「……ヤバい。俺、名前がないなんて言っておいて、両親のことは覚えてるなんて言った……」
「……へ?」
「ごめん! 嘘つくのは嫌的なこと言ったくせに、おもいっきり矛盾したこと言ってた! こんなことなら名前がないとか言うんじゃなかった……」
「………………」
慌てふためく声繋を見て、響は妙な感覚を覚えた。
何だか、馬鹿馬鹿しくなってきた。
こんな単純な少年を相手に、バカのくせに難しく考えることが。
「…………ふ、ふふっ」
「響?」
「あははっ、あーははははっ!」
「な、何だよ? 急に笑い出して……」
唐突に声を上げて笑い出した響に、声繋は若干退き気味な反応を見せた。
「ご、ごめんっ。声繋が正直過ぎて……っ」
「しょ、正直のどこが悪いんだよ!? 確かに、色々損するかもしれないけど……」
「違う違う……っ。わたし、声繋と仲良くなろうと思って色々考えてたんだけど、声繋が警戒心なさすぎて、難しく考えるのが馬鹿馬鹿しくなって、それで……っ」
「それ、結局俺が単純な性格って思ってるだけだろ! やっぱりバカにしてるだろ!」
「大丈夫! わたしもバカだから!」
「何も大丈夫じゃねぇよ! 認めてるし! バカなやつにバカって言われたことになってるじゃねぇか!」
余程バカにされたと思っているのか、声繋は響に猛抗議する。
その様子すら、響には可笑しく思えてしまう。あれだけ強大な力を持っているというのに、声繋からはそれに見合う雰囲気というか、威厳を感じない。
元より、声繋は今までの敵とはどこか違っていた。響がこれまで戦ってきた敵達は皆、強い志と野望を胸に抱き、世界と戦うことも厭わない心の強さを持っていた。
だが、声繋からはそれらを一切感じなかった。だからといって、彼が弱々しいという訳では決してない。
響自身、自分と同い年の少年との接触は少ないが、少なくとも声繋からは、街中でたまに見かける、どこにでもいる普通の少年らしさを強く感じさせられた。
声繋が本当にそんな少年ならば、彼と分かり合うのに急ぐ必要はない。今日の自分達のように、すぐに打ち解けることができるはずだから。
それでもし、声繋が不幸になるならば。
(わたしが、ずっと味方でいてあげれば良いんだ)
その時は、唐突にやって来た。
響達がいたショッピングモールの四階で、大きな爆発が起こった。
「……そうか、分かった。引き続き、彼の追跡を頼む」
『了解しました』
東京湾の港に停船している潜水艦の発令所で、弦十郎は翼からの定時報告を聞き終えた。
『アーリーデウス』の発見から、およそ十五分。最初の反応以来、彼が力を行使した様子は見受けられず、現在は街中を歩き回る『アーリーデウス』を、装者達が追跡している状態である。
その間、発令所にいる弦十郎達は、衛星カメラで『アーリーデウス』を監視しながら、彼がいる街をモニタリングしている。やや過度な警戒態勢を敷いている気がしないでもないが、相手の正体も目的も不明である以上、用心するに越したことはない。
現在、モニターに映る『アーリーデウス』は、特にどこかに立ち寄るわけでもなく、街中を歩き回っているだけであった。
「……それにしても、『アーリーデウス』は何が目的なんでしょうか?」
ふと、藤尭が疑問を漏らす。
それに同調したのは、自分の席で別の作業をしていた友里だった。
「確かに、行動が謎過ぎますよね。昨日はあんな大きな爆発を起こしておいて、戦闘では装者達を一切傷つけず、あまつさえ響ちゃんを身を呈して守ったりして」
「今は街中で一度力を使ったきり、人混みの中を歩き回っている、か」
「何にせよ、我々のやることは変わらない。というより、変えられないと言うべきだな」
「「……………………」」
「……何だ?」
最後の言葉を発した弦十郎に、藤尭と友里から痛い視線が送られた。
「まるで、変えたいとでも言いたげなセリフですね」
「……何のことだ?」
「響ちゃんを今回の件から除名した時点で、おかしいところだらけですよ」
「何故そう思う?」
「司令のお人好しな性格から考えれば、弟子の響さんを突き放すのは不自然です」
「作戦実行に不必要と判断したまでだ」
「はい、それもおかしいです。それなりに長い付き合いですが、司令がそのような言葉を発した記憶はありません」
「……人の気まぐれをナメるなよ」
「気まぐれを理由にするなら、思い付きを数字で語れるようになってからにしてください」
「…………」
二人からの揚げ足取り攻撃に、弦十郎は遂に押し黙った。
大きくため息を吐くと、諦めたような口調で言葉を溢し出した。
「……響君の意見も、翼の意見も、俺にはどちらか一方を選ぶことはできなかった。各国首脳からの命令もあり、結果的には翼の方を選ぶことになってしまったが……」
「まぁ、それは私達も同じです」
「結局、僕らは上からの命令に逆らえない。サラリーマンと同じですね」
「おい、サラリーマンに失礼だぞ。俺達は仮にも一つの命を殺せと命じられて動いているんだからな」
「ぼ、僕らはサラリーマン以下ですか……。やってられねぇ……」
「で、響ちゃんを除名したのは、彼女を何のしがらみもなく『アーリーデウス』と自由に接触させる為、ですね」
「……そこまで分かっているのか」
「そりゃ、今回の司令はおかしいところだらけですから」
部下の察しの良さに、弦十郎は頭を抱えることしかできない。
全て、二人が言った通りであった。弦十郎が響を除名したのは、『アーリーデウス』への敵対心が皆無だったからではない。『アーリーデウス』と対話するという、弟子の無茶な願望を叶えてやる為の後押しだった。
弦十郎自身は、『アーリーデウス』を危険な存在だと思っている。シンフォギアという、世界最強の武力を擁する組織のトップとして、そのシンフォギアを意に返さない戦いぶりを見せた彼を野放しにしておくことはできないという考えだった。
彼が響を守るまでは。
正直に驚いた。彼は自身を狙ったクリスの不意討ちが響にも及ぶことに気が付き、逃げるどころか自身の身を盾にして響を守った。戦闘中に見せた彼の速度を考えれば、着弾前であれば回避できたはず。自己回復能力があるとはいえ、初対面の響にそこまでする理由は限られるだろう。翼はそれを、響を利用する為に行ったことだと言ったが、利用するにしても相手のことをろくに知らない状態で、そんな判断ができるものなのだろうか。少なくとも、弦十郎にはできない。そもそも、彼が誰かを利用するほど余裕がないとは思えなかった。
そんな考えもあって、弦十郎は響の言葉を無下にすることができなかった。無論、自分の立場を理解している弦十郎は、翼の考えの方が現実的だと判断し、装者達に『アーリーデウス』の討伐命令を下した。しかしその裏では、対話の為に響のサポートをする方法を考えていたのだ。
とはいえ、未だ明確な方法を思い付くには至っていない。何しろ、これまで敵対してきた相手と話し合いで解決できたことなど、ほとんどないのだから。
弦十郎にできたのは、自分を悪役に仕立て上げることで、響にS.O.N.Gには頼れないと思い込ませ、彼女に単独行動をさせる状況を作ることだけであった。
結果、響を縛るものは事実上無くなり、彼女はいつでもどこでも『アーリーデウス』と接触できるようになったということだ。彼女のS.O.N.Gへの信用と引き換えに。
「やれやれ……。慣れないことはするもんじゃないな」
「しかし、かなり危険ではないですか?」
「確かに。ギアを持たない状態でアーリーデウスと接触するとなると……」
「それについては、頃合いを見計らって響君に返すつもりだ。未来君に頼んで、こっそり持ち出してきた体を装ってもらってな」
「今回の司令、考え方がセコいです」
「というか、それで今日会いに来てたらどうするつもりだったんですか……」
「ん? 次に会う約束というのは、翌日を指定するものなのか?」
「それは人それぞれだと思いますが、『アーリーデウス』は今日現れています」
「……………………」
弦十郎が無言になった。
―――もしや、とんでもないミスを犯してしまったのではないか?
自分の計画に穴があったことに気付いた弦十郎は一転して、顔が青ざめていった。
「マズイ!」
言って、弦十郎は無線機を取り出し、未来にコールを掛ける。ほんの二秒の間を置いて、未来は通信に応じてくれた。
『はい?』
「未来君か!? 今すぐこっちに来てくれ!」
『弦十郎さん? どうかしたんですか?』
「詳しい説明は後でする! 車を寄越すから、とにかく来てくれ! 頼む!」
『は、はい!』
まくし立てるような説明を終え、弦十郎は大きなため息を吐いて額に手を当てた。
「はぁ……。俺としたことが、こんな初歩的なミスを犯すとは……」
「本当、慣れないことはするものじゃないですよ。せめて、私達に一言かけるべきです」
「そうですよ。僕達は、司令と響さんの人を見る目を信じてますから。多少フィルターがかかってはいますが」
「………………」
何と言うか、本当に、慣れないことはするものじゃない。そう思わされる。
というか、先程からトントン拍子に話が進んでいっているが、二人から『アーリーデウス』との対話に関しての反論が出てこない。内心ストライキを覚悟していた弦十郎にとっては、意外も意外だった。
「……お前達、彼との対話に賛同するつもりか?」
「状況によって変化するやもしれませんが、少なくとも、今は響ちゃんを助けてくれた借りを返したい気持ちが強いです」
「『アーリーデウス』を生かすにしても、殺すにしても、彼の情報を得てからでも遅くはないでしょう」
どうやら、二人共響に協力するつもり満々のようだ。
「分かっているのか? 『アーリーデウス』の討伐は、世界中の総意だ。これに逆らえば……」
「じゃあ聞きますが、司令と響さんだけで、『アーリーデウス』を説得できますか?」
「それは……」
それは、現実的に考えて不可能だった。
元より、S.O.N.Gは敵対勢力を打ち払うのが主な仕事。対話は専門外である。時間をかけて策を練ろうにも、相手がどれだけ待ってくれるかも分からない以上、悠長なことは言ってられない。いくら響のコミュニケーション能力が高かろうと、無策で初対面の相手の懐まで手を伸ばすのは厳しいだろう。
現状、響と弦十郎だけでは、『アーリーデウス』の説得は無理に等しかった。
「そんな訳で、私達も気持ちが変わるまでは協力します」
「年頃の男子を懐柔する方法なら、僕の意見が役立つはずです。司令は『
「お前達……」
二人の頼り甲斐のある言葉に、弦十郎は感銘を受けた。
今までも、こういう状況においては、二人の頼もしさが如実に現れてくる。
そうだ。いつ如何なる時も、弦十郎の下には彼らがいた。彼らがいたから、今までの事件を解決してこれたのだ。そんな彼らに頼ってようやく事件を解決できる未熟者が、よくもまぁいけしゃあしゃあと憎まれ役を買って出たものだ。
「……すまん」
何とも格好がつかなくなった弦十郎は、一言謝ることしかできなかった。
その時。
「司令! 翼さん達がいる街のショッピングモールで、原因不明の爆発事故が発生しました!」
「何だと!?」
「………………うぅっ」
気絶し、倒れていた声繋は、僅かな灼熱感を感じながら目を覚ました。
「な、なんだ……?」
唐突に爆音が聞こえてからの記憶がない。状況を確認する為、声繋は周囲を見渡そうと首を持ち上げた。
「……こ、これは…………」
最初に目に飛び込んできたのは、積み重なった瓦礫の山。そして、燃え盛る炎。
それらを見て、声繋は先程の音が爆発音だったことに今更ながら気がついた。何が原因かは
「響! どこだ!?」
ついさっきまで、自分のことを笑っていた彼女の安否。ずっと隣にいた彼女は、今は隣にいなかった。
彼女の返事を期待して、声繋は名前を呼び続ける。
「響! ひび―――」
探していた彼女は、すぐに見つかった。
声繋が丁度後ろを向いた時。ほとんど同じような景色の中で、彼女は目立つ状況にあった。
彼女は、腹部から下が瓦礫の下敷きになっていた。
それを確認した時、声繋は突発的に駆け寄っていた。
「響! 大丈夫か!? 響! 響!」
気を失っている様子の響に向け、声繋は大声で彼女の名を呼び続ける。
それが届いたのか、響は呻き声を上げながら、首を動かして声繋の方を向いた。
「……せ……つ、な……?」
「大丈夫か!? 待ってろ、すぐに瓦礫をどけてやるからな!」
言って、声繋は響の上に重なる瓦礫を上からどけていく。瓦礫一つ一つの質量は、並の人間が一人で動かせるものではないが、声繋には並の人間を凌駕する腕力が備わっている。声繋にとって、この瓦礫程度なら小さいレンガのように軽く持ち上げられる。
そうやって、次々に瓦礫をどかしていく声繋。残り二枚となった、その時。
「―――ッ!」
二人のすぐ側にあった柱が、がらがらと音を立てて声繋の方に倒れてきた。
(―――大丈夫だ)
己の身にふりかかる脅威を、声繋は
声繋は一瞬で元の作業に戻る。瓦礫をどけて、響を助け出す作業に。
そうしている間に、柱は声繋の頭部に迫っていた。声繋は瓦礫をどかす傍ら、右手に少し
「声繋!」
―――ろうとした時、響が腕を伸ばして声繋を突き飛ばした。
「な―――ッ!?」
全く予想外の事態に、声繋はされるがままに後ろへ突き飛ばされた。柱は寸刻前まで声繋がいた場所に倒れ落ちた。それだけに留まらず、地面に激突した柱が砕け、瓦礫から逃れていた部分の響の身体が、新たな瓦礫の中に埋もれてしまった。
「そ、そんな……。何で……?」
地面に尻を付いたままそれを見ているしかなかった声繋は、響の行動に疑問しか浮かばなかった。
響は知っている。声繋が普通の人間より遥かに強いことを。そして、声繋には治癒能力があるということを。その説明は声繋が直々に行い、実際に回復する場面を見せた。だから、声繋の身にどんな危機がふりかかろうとも、響が身体を張る必要はないのだ。
なのに、何故。
「響! 響!」
声繋は直ぐ様、響の元へと飛び駆けた。しかし、新たな瓦礫が邪魔をして、声繋を響に近づけさせない。
「くそ! もう一度瓦礫をどかして……」
「…………せつ、な……」
「……っ! 響!? 無事なのか!?」
「……うん。大丈夫……だよ……」
瓦礫の隙間をくぐり抜けて聞こえてきた声を聞いて、声繋は響の無事を確かめた。
しかし、声繋には何よりも、響に問い質さなければならないことがあった。
何故、響が自分を助けたのか。
「お前、何で俺を助けた!? 知ってるだろ! 俺は凄く強いって! 俺は怪我をしても勝手に治るって!」
「……身体が……勝手に……動いちゃって……」
「……っざけんな! 少しは俺とお前の違いを考えろよ!」
声繋は憤っていた。
自分の命と引き換えにしてでも、声繋を助けようとした響の行動に。
他人の為に命を貼れる人間を、声繋は嫌いではない。むしろ、その心意気は共感できる。自分だってそうだったから。
だが、その『他人』が『自分』になると、無性に腹が立ってくる。
―――自分が、無力に思えてしまう。
「何で、何でなんだよ……? 何で、俺がお前に助けられなくちゃならないんだよ……?」
声繋には分からない。
どうして、この少女は、自分よりも遥かに強い相手を助けたのか。
答えは、直ぐに返ってきた。
「……違わ……ないよ……」
「え……?」
「……わたしと……声繋は……どこも……変わら、ない……。ちょっと、不思議な……力を持って、いて……人助けが……好きで……一緒に……笑える……」
「……………………」
「……声繋は……わたしに……似てるんだ……。だから……ほんの少し……デートをしただけでも……声繋のこと……たくさん、分かった……」
「…………響」
そんなこと、言われたことがなかった。
力を与えられる前も、与えられてからも。声繋には、同列の存在などいなかった。そう思ってくれる人などいなかった。
特別であったが為に、声繋は孤独だった。
だから、響が口にした全ては、声繋にとってこの世の全ての賛辞よりも、ずっと価値のあるものだった。
だが。
「……それで、全部知ったつもりかよ……っ」
足りない。
「俺はその気になれば、いつでもお前の全てを知ることができる! 響に限ったことじゃない。この世の全部を、俺は知ることができる! そんな俺に向かって、全部知ったふうな言い方するんじゃねぇっ!」
それは、ほとんど純粋な怒りだった。
響の言葉は嬉しい。響が善人であることは、力を使わなくとも分かりきったことだ。
だが、ほんの数時間共に過ごした程度で、全知の力を持つ自分の全てを知ったように言われるのは、我慢ならなかった。
プライドなどではない。『全てを知る』ということを軽視していることが、声繋は許せないのだ。
「……そう、だね……ごめん……」
「……っ、とにかく、今はここから逃げることだけ考えるんだ」
気まずそうに返しながら、声繋は瓦礫の撤去を再開した。
「……ねぇ、声繋」
「……何だよ?」
瓦礫を動かしながら、声繋は受け答える。
「…………声繋の……正直なところ……わたし……好きだよ……」
「……そりゃ、どう―――」
言いかけて、声繋はふと気付いた。
響の声が、やけに途切れ途切れだったことに。
それに気付いた途端、声繋は作業の傍ら、再び響に呼びかけた。
「なぁ、響! もしかして、瓦礫に頭をぶつけたりしてないか!?」
………………。
返事が返って来ない。
まさかと思い、声繋はより力を籠めて作業を続けた。そうして三十秒もしないうちに、柱の瓦礫を全て撤去し終えた。
再び見える響の姿。その姿は、さっきまでとは違っていた。
腕には、瓦礫の尖った部分で裂かれたような裂傷が刻まれ、頭からはおびただしい量の血が流れていた。
「……響っ!」
一目で重症と分かるその姿を捉えた瞬間、声繋は響の下半身に被さっていた瓦礫までも一気にどかし、ようやく自由になった響の身体を持ち上げて移動した。その時に分かったことだが、右脚には青い痣ができており、骨折も疑えた。
どこもかしこも炎が燃え盛っていたが、全てという訳ではない。未だ火が回っていない場所に響を寝かせ、声繋はもう一度呼びかける。
「響! しっかりしてくれ! 響!」
「……………………」
声繋が呼びかけるも、響は目を開けない。それどころか、呼吸も困難になりつつあった。
「……お前、こんな状態で喋ってたのか……。何で、そこまで……」
声繋の疑問に答える者はいない。
だが、それも当然である。このショッピングモール内にいた人達は、皆二人と同じように、この炎と瓦礫の牢獄の中に閉じ込められ、生き延びることに精一杯だったのだから。
二人がいるこの場所も、直に火が回ってくることだろう。時間が経つに連れて、逃げることが難しくなってくる。
だから、早急に何とかしなければならない。そして、何とかすることが、声繋にはできる。
だが。
「………………良いのか、本当に?」
声繋は躊躇う。
力を使えば、閉じ込められた全員の救助、怪我人の応急処置、炎の鎮火、この事故の原因の処理、全て声繋一人の力で実行、解決が可能だ。
だが、それを行えば、声繋は
誰も味方はいない。助けてくれる人などいない。
未来を助けた時とは違う。不良数人から一人の少女を守るのと、火災から何十人もの人間を一人の犠牲者も出さずに救うのとでは、世界に与える影響が決定的に違うのだ。
声繋は迷い続ける。地獄への強制片道切符を得る代わりに命を救うか、地獄から逃げる為に救える命を見捨てるか。
(…………力を)
―――使いたい。
と考え出したところで、声繋は思い止まる。
ほとんど衝動的に考えていた。一瞬、全てのリスクを忘れ去って、後者を選ぼうとしていた。
(くそっ! 何考えてんだ俺……!?)
何故そんな単純思考に陥ってしまったのか分からない。その選択を選んだ時、どんなに辛いことが待ち受けているのか、身を持って知っているというのに。
一体、何故……。
―――…………声繋の……正直なところ……わたし……好きだよ……。
「………………」
その言葉を思い出した瞬間、声繋は得心した。
「………………響、お前ってやつは……」
声繋は呆れた。
響にではない。
「……そんなこと言われたら、その通りに生きたくなるじゃねぇか」
とても単純な、自分自身に。
「―――〈
声繋がその名を唱えた時。
炎色に支配された世界を塗り潰す眩い光が、声繋から発せられた。
声繋が着ていた服が粒子となって霧散し、光が声繋の身体の各所を纏うように包み込む。声繋はその身を水色のインナーに包み、光は形を得て、硝子細工のような鎧と光の幕を形成した。
ここまでは昨日と同じ。しかし、今は寝起きでまどろんでなどいない。
全てを救う為、災厄の力を使う覚悟を決めたのだ。
ならば、それに見合う格好がある。
声繋の身体から、白、灰、黒、青、赤、黄、緑、橙、紫、水晶の輝きを放つ、十の光が飛び出した。それらは順に、声繋の頭、両耳、両肩、両腕、両脚、胸へと飛んでいき、それぞれの色のひし形の宝石が填められた追加装甲を形成し、霊装を上から鎧った。
『アーリーデウス』と呼ばれた、生きる災厄。
その完全な姿が、顕現した瞬間である。
「―――〈
鎧を纏った感傷に浸る間もなく、声繋は右手を掲げ、その名を呼んだ。
瞬間、声繋の右手に緑色の光が集まる。それは一本の箒の姿をした天使を形作り、声繋の右手に収まる。
声繋は箒の先端を響に向ける。すると、箒が展開され、その中に収納されていた鏡が露出し、その鏡から響に向けて光が発せられた。
その光に当てられた響の身体の傷が、徐々に塞がっていく。完治しても跡が残るような傷でさえ、跡を残さず完璧に治っていった。
「―――〈
響の身体の傷が塞がったことを確認した声繋は、〈贋造魔女〉を消し、新たな天使達を呼ぶ。
光達が本の形、先端が鍵の形をした錫杖を成し、声繋の両手に収まる。声繋は本の形をした天使―――〈囁告篇帙〉を開き、そこに浮かび上がった文字を読み取った後、鍵の天使〈封解主〉の先端を空中にかざし、ひねる。
〈
すると、空中に人が二人通れそうな『孔』が開いた。声繋は響を片手お姫様抱っこで抱え上げると、その『孔』に飛び込んだ。
「……ッ!? な、何だ!?」
『孔』をくぐった先で、目の前にいた大男が驚きの声を上げた。声繋はそれを気にすることなく、『孔』と天使を消し、響を両手で抱え、目の前の大男に向き直る。
「あ、貴方は……!」
「何で……!?」
目の前の大男だけでなく、左から若い男と女の驚いた声も聞こえてきた。
声繋はそれらも無視し、目の前の大男―――弦十郎に本題を告げる。
「響をお願いします。傷は封じましたが、血が足りないんです」
「ま、待て! 状況が……」
「それと、他の装者達に伝えてください」
弦十郎の声を無視し、声繋は決意の籠った眼差しで言う。
全ての人を助ける為に。
「俺の全力を持って、全員助けます。
俺を殺したいなら、後でいくらでも相手になります。
だから、今だけは、どうか邪魔をしないでください」
七罪「……バカげてるわよ。散々投稿期間が空いたっていうのに、あとがきコントの担当が私なんて……」
奏「まあまあ。そう悲観すんなって! そんなネガティブに考えるよりさ、楽しいこと考えようぜ!」
七罪「しかも寄りにも寄って相方が奏さん!? 本当に作者バカなんじゃないの!? デアラ一の陰キャの私が、シンフォギアトップの陽キャの奏さんと上手くやれるわけないでしょ!」
奏「大丈夫だって。反対だからこそウマが合うんだろ? それに、あたしだって最初の頃は『殺す』連呼してたりとか、血まみれになったりして殺伐とした印象しかなかったぜ?」
七罪「それでも必死に生きて格好よく死んだんでしょ!? 尊いわよ! 辛い過去を背負いながらも明るく前だけ見て生きるなんて、私には絶対ムリ!」
奏「それ、別にあたし一人じゃないぞ。て言うか、シンフォギア装者は大体みんなそうだから、こっちからしたら別に特別でもないけどなー」
七罪「だ・か・らッ! 私は誰とも合わないのよ! そんな人達の巣窟とクロスオーバーさせる作者は鬼畜よ! 百合嫌い! 亀更新!」
奏「………………」
七罪「ど、どうしたのよ……? 急に黙って……」
奏「……いや、良く考えたら、さ」
七罪「……?」
奏「……あたし、四期以降は一言も喋ってないんだよな……」
七罪「え……?」
奏「……しかも、あたしのアイデンティティーの一つだった『故人キャラ』も、XDで頻繁に出てるから薄れてるし……」
七罪「ちょ、ちょっと……?」
奏「……翼も、マリアと一緒に歌ってるし、あたしの存在意義って……」
七罪「そ、そんなことないわよ! 翼さんが『奏との思い出が、今の私を作ってくれた』って言ってたって四糸乃から聞いたから!」
奏「………………」
七罪「か、奏さんは、シンフォギアの人達に大きな影響を与えた人だから、その……」
奏「……にひひっ」
七罪「か、奏さん……?」
奏「七罪。お前、良いやつだな」
七罪「は、はぁ……?」
奏「そんなふうに相手の良いところを指摘できるんだ。お前はちゃんと良いやつだよ」
七罪「奏さん……、その為にわざと……?」
奏「そろそろ終わろうぜ! もうあとがきの文字量じゃなくなってるからさ!」
七罪「………………女神はもう一人いたんだ」
声繋「因みに、今回の組み合わせは、XDでメイドギアの奏さんが必殺技の時に箒に跨がって飛んでたことから来てるんだ。単純だよな」