先生の後を付いていくと、扉が3つある場所へ着いた。
「ここは?」
「左から、封印の間、思案の間、心休の間です。今から入る場所は思案の間です」
「リスト・・・」
「あ、はい。居ますよ。思い出してきていますね」
僕の顔を見てそう言うと、真ん中にある扉を開いた。
すると、真っ白な部屋に、水色の髪の少年が座っていた。
「アルスト・レイス、只今戻りました」
「ご苦労様」
僕は、城(フェスト)に入ってから少し、記憶がおかしくなっている気がする。
(さっきも、思い出してきてるって言ってたし・・・)
知らないはずの先生の名前に、違和感を感じなかったり、先程の扉の時も。
名前だけで、誰がいるのか、何をする場所なのかわかった。
「カイト様に、街を案内したいのですが」
「あぁ、連れていって構わないよ。後でまた話そうか、カイト」
名前を呼ばれて、少し驚いた。
「楽しんでおいで」
「は、はい」
街へ行くと、商人の大きな声や、住人の明るい話し声が響きわたっていた。
「この人たちは?」
「皆さん、事故や病気で亡くなられた方々です」
(こんなに・・・たくさんの人が・・・)
レイスは、僕の手をとって歩き出した。
レイスは裏道に入っていく。
暗い壁の先、行き止まりだった。
「行き止まりだよ」
「今から、裏街に入ります」
いきなり、足元に紅い陣が現れ、一瞬で先程とは違う風景に変わる。
(世界がモノクロだ)
建物や、服、目に入る全てが白黒で、唯一色があるのは、唇。
濃い口紅が塗られている。
「右の白壁の店に入ります。そこで魔法石や服など身に付けるものを買います」
「あ、あぁ、分かった」
本当は何も分からない。
しかし尋ねるよりは見た方が早いと思った。
店内へ入ると、黒いマントやコート、杖や綺麗な宝石の様な物があった。
「いらっしゃい、久しぶりだな」
店の人がそう言う。レイスは前にもここに来たことがあるようだ。
「こちらがカイトさんか?」
店の人がこちらを見て訪ねてきたので、僕はコクンと頷いた。
「よく見て、自分にあったモノを選びなよ。長く使うものだからね」
僕はレイスに、今から何をするのか聞いたあと、店内を見て回った。
「まず、クリスタルを・・・って」
(何が何だか分からないよ。。。)
目の前には宝石と説明が書かれたプレートがある。
「決めましたか?」
僕は頭を左右に振って、レイスに助けを求めた。
「カイト君、これなんかどうでしょうか」
レイスの選んだモノは『クリスタルクォーツ』と書かれた透明な石だった。
「これは?」
「ギリシャ語で[氷の宝石]という意味で、石言葉は純粋(じゅんすい)、完璧」
(純粋?氷?クォーツ?っ、訳わかんないっ・・・)
「カイト君のもつ力を増強してくれますし、身の危険を察知すると身代わりになってくれます」
「あ、へぇ~、そうなんだ~」
「・・・分かってませんよね」
(バレたか・・・)
僕は何も答えず、コートなどのある場所へ向かった。
「服など、身に付けるものは全て選んであります。能力や身体も相性がいいので、あとは・・・」
「杖!!」
僕がそう言うと、レイスはバカにしたように言った。
「貴方は、何も知らないのですね」
少しだけ、ほんの少しだけ、あたまにきた。
でも、何も知らないのは本当のことだ。
とりあえず、話を聞くことにした。
「私達、聖人と呼ばれるものは、元々から高い魔力を持っています」
「うん・・・?」
(聖人?)
「なので、武器はほとんど使わないのです。術はおもに陣を使い、操り、攻撃します」
レイスが話終わると、店の人が大きな紙袋と箱を渡し僕に言った。
「カイトさんに、この国は任せたよ。最期の主人公だ、頑張りな」
「・・・はい」
(なんのことだ~っ)
僕は頭が混乱している。
(後で全部聞き出してやるっ・・・)
僕らは店を出て、寄り道をしながら城(フェスト)へ帰った。
夜になると、辺りは雪で真っ白に色付けされていた。
「くしゅっ・・・」
「寒くなりましたね」
くしゃみをした僕にそう言って、レイスの上着を着せてくれる。
「ありがと、レイスさん」
知らないうちに、レイスという名前を発する。
(どうなってるんだろう)
城に着いて僕は、レイスに全ての説明をしてほしいと頼んだ。
レイスは「はい」と言って、静睡の間へと入った。
「さぁ、こちらへ」
そう言って手招きする。
僕はレイスの前に立った。
「全記憶はここにあります」
レイスはそう言いながら僕の唇に触れた。
「封印を解くためです。我慢して下さいね」
そう言って、僕の頭に手を置いた。
痛みがつき抜け、頭がぼーっとしてくる。
息が苦しくなり、意識が薄れていく時、急に心臓近くが痛んだ。
「ふっ」
レイスが手を離したのは、僕の意識がなくなった後だった。
起きた時、僕はベッドにいた。
横を見ると、レイスが座ったまま寝ている。
「いっ・・・て」
昨日の痛みがまだ残っているらしく、心臓が握られているかのような痛みがする。
「大丈夫ですか」
さっきの僕の声で、レイスが起きた。
「まだ、痛みますか」
「・・・大丈夫です」
「では、行きましょうか」
(・・・何処へ?)
「上の部屋でリオが待っています」
「リオ?」
「・・・思い出してないのですか?」
(いや、思い出してはいる)
「自分のこと、その、リオのこと。この二人の記憶は全くない・・・と思う」
そう言うとレイスの表情が厳しくなる。
「肩貸しましょうか」
僕らはリオのいる部屋へと向かった。
扉を開けると、髪の長い人がいた。
「リオさんって女なの?」
「・・・いいえ、男性です」
二人、ひそひそと話していると、リオが尋ねる。
「カイト君・・・久しぶりだね・・・覚えてる?」
何も言葉が出ない。
何も言わない僕を不思議に思ったのかまゆを潜めた。
「カイ・・・ト、君。もしかして、記憶・・・ない、の?」
僕はコクリと頷く。
リオは、必死に説明する・・・が全く思い出せない。
リオは、黙ったあとこう言った。
「水澤李和を・・・覚えて、居ますか・・・」
リオは、泣き出しそうな顔で、震えた声で、僕に尋ねる。
「李和・・・先生。リオ・・・」
(大好きだった先生・・・なのに・・・中身だけ綺麗に抜け落ちてる・・・)
姿、形は覚えている。だが、どんな人でどんなことを話したのか、思い出だけが、消えている。
ジアナに来てからいろいろな記憶が入り込んできた。
それと同時に、今まで過ごした記憶さえもが、この短時間で抜け落ちていっている。
「覚えていないんだね、海斗」
リオは、涙を流した。
「貴方が大好きだったのに」
(僕だって、大好きだったよ・・・)
涙と、辛さと、思いで苦しい。
そんな時間、息さえ出来ない、沈黙した重たい空気だけが回り続けた。
その10分は何倍の長さを感じさせた。