「カイト君が12歳の頃。屋上で君と出会ったんだ」
(あの日、君が保健室に訪れた日のこと・・・覚えていますよ)
私がそう言うとカイトは黙ってしまった。
「すいません。覚えていないのだから、仕方ないのに・・・」
でもカイトは「教えて」と言う。
私は、辛い気持ちをぐっと堪え、出会った日の事を話始めた。
「保健室に初めて来たときのカイト君は、何だか今よりも、悲しげで、冷たい表情をしていました」
『おはよう』
『・・・はよ・・ざ、います』
「声も小さく、あまり話すこともありませんでした」
『どうした?』
『この猫、足、怪我。血、出てる』
「そんなとき、怪我をした一匹の猫を連れてきました。カイト君は心配そうな表情をしていました。初めてみた、違う表情。あのときは嬉しかったです」
そこでカイトが口を開いた。
「猫・・・保健室の・・・猫・・・。それ・・・覚えてる」
カイトがそう呟いた言葉を、私は聞き逃さなかった。
「覚えていますか」
「夏の日、の、夕方」
(そう、茜がかった、夕暮れ)
「保健室の・・・猫・・・」
この会話を聞いていたレイスは、私に言った。
「リオ・・・もしかしたら、カイト君の記憶は、消えているのではなく封印されているのでは」
封印が解ければ思い出してくれる。私の事を、思い出してくれる。
そう考えると、なんだか嬉しくなった。
「私の解除では、解ききれないほどの封印がされていると、思います。ですから・・・リオ」
(いつかに見た表情・・・)
「これは貴方にしか解けません・・・」
レイスの真面目な顔から、意味を悟った。
「・・・カイト君」
昨日の解除で、痛みを知ってしまった。きっと怖いだろう。
(無理強いはしたくない・・・)
仕方ないと私は、カイトの方を見た。
「大丈夫です。僕は、貴方の記憶を取り戻したい。貴方との時間を思い出したい」
その言葉を聞いて、笑顔を作ったはずの顔から、知らず間に涙が頬を伝った。
「では、我降神わこうじんの間へ行きましょう」
「今、から・・・?」
カイトが少し震えた声で言った。
(怖い・・・ですよね)
「明日にしましょう。ね、レイス」
そう言った時レイスが口角を上げニヤリと笑った。
「じゃあ、部屋で私がリオの面白い話をしてあげましょう」
見た目とは間逆の華奢なキラキラな笑顔。
不安や恐怖が入れ混ざって、何か分からない汗が頬を流れた。
(ひいっ・・・)
階段を降りている途中で部屋へ戻るリストと会った。
「すいません。部屋、お借りしてました」
リストは「構わないよ」と笑って言ってくれる。
「でも、明日は色々あるから・・・ねぇ・・・」
「・・・あ、女神で遊ばないで下さいよ!!」
「良いじゃないか~別に~」
「よくありませんよ!!」
リストは女たらしで、女性好き。
(こんな人が国王・・・)
でも、術は素晴らしい。
陣、能力を最大限に活かす戦い方。
どちらも完璧で、欠けているところなんてない。
「リスト様」
(リスト様に頼めば・・・)
「カイト君の記憶の封印・・・解いてくださらないでしょうか」
「・・・駄目だよ~」
(・・・・・へ?)
「男と契約なんか嫌だよ~~だから頑張、って・・・って、その子!?」
(え・・・っと)
「・・・はい?」
リストはカイトに近づくと顎を上げさせ、じっと見つめた。
「可愛いな・・・さすが、我が息子~っ」
カイトはガタガタと震え、固まっていた。
「仕方ない、解いてあげよう!!」
ぐっと、親指を立て私達の方に向ける。
(任せなさいと親指から聴こえた気がする、気のせいかな)
レイスの方を見ると、私と同じような顔をしていた。
答えも聞かず、おいでとカイトの手を引いて、行ってしまった。
その時、レイスが耳元で言った。
「話がある」