『……リの………in…tion~』
「………ん」
携帯の大きなアラーム音で、ぼんやりとした意識が少しずつ覚醒していく。
……そうだ、今日は摩美々がこっちで一緒に朝食を取るから、いつもより早めにセットしたっけ………。
特別朝が弱いわけではないが、普段より早めに起きようとすると眠気も段違いだな。
そんなことを考えつつ、ベッドから体を動かそうとして違和感に気付く。
何かが自分の上に乗りかかっているような重さを感じる……。
「………」
盛り上がっている掛け布団は、誰かが俺のベッドに潜り込んでいる明らかな証拠。
いや、まあ犯人は一人しかいないのだけれども。と言うかあの子、いつスペアキーを返してくれるんだ?
問題の人物を叱る前に、まずは心を落ち着かせる。
正直、昨日の間接キス以上にタチの悪いイタズラだろう。健全な男子高校生にはきつい。
ちなみにきつい理由は言わずもがな、いろいろと当たっているから。
「ふふー、おはよーございまぁす」
一気に掛け布団をめくり上げると、そこには居たのは制服姿に着替えた幼馴染み。
ドッキリが成功した仕掛け人のような笑みを浮かべ挨拶をする。
まったく、この子は……
「なるほど、摩美々は朝からお小言を聞きたいわけか」
「えー、可愛いまみみにこんな起こされ方されたらぁ、フツー喜ぶと思うんだケド」
本当は嬉しいけど、そのまま伝えるわけにはいかないな。
「喜ぶかどうかはまた別の話。とにかく、早くどきなさい」
「ふわぁ~、なんだか眠くなってきましたー」
わざとらしいあくびと共に、全身をすり寄せてくる摩美々。
と言うか本当にやめてくれ!理性を保つにも限度があるんだから!
「こ、こらっ! いい加減にしなさい!」
女子高生特有の説明出来ない程のいい匂いと、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる整ったスタイル。
そんな凶器を押し付けられながらも邪念を払う。
ついでに自分の体に抱きついていた摩美々のことも振り払う。
振り払われ再びベッドに舞い戻る幼馴染み。
そのまま仰向けに寝転がると未だに音が鳴っている自分の携帯をぼーっと凝視している。
アラームを止めようとスマホに手を伸ばすと同時に、今流れているアラーム音が設定しているものと違うことに気付く。
いつもは機械的な電子音が鳴り響く簡素なものだったはずだが、今流れているのは歌。
「(確か曲名は……ヒカリのdestinationだったな)」
再びサビの部分がループする前に音楽を止める。
自分のスマホにこの歌を入れた記憶もないし、この歌で目覚ましをセットした覚えもない。
基本的に毎日同じ時間に設定してあるので、そもそもいじらない。
とくればこんなことをする人間の候補で思い浮かぶのは、ただ一人。
今回に至っては摩美々ではなく、クラスメイトのアイドルオタクの仕業。
「……良介って、アイドルとか興味あったっけー?」
「言っておくが、俺が設定したんじゃないぞ」
その言葉を聞くとベッドの上で『うーん?』と気だるげな表情で思案する。
「あー………、三峰ー?」
「正解。とりあえず着替えるから、下のリビングで待っててくれ」
「ふふー、まみみはこのままでも大丈夫なんでー」
「で て い き な さ い」
少し強めの口調で言うとそのまま強制的に摩美々を部屋の外へと追い出す。
ベッドに潜り込まれる悪戯は何度か経験しているが未だに慣れない。
「はぁ……、朝から寿命が減るような悪戯は勘弁してくれ……」
*****
「ほら摩美々、用意できたぞ」
二人分の朝食を作り終え、出来上がった物をダイニングテーブルに並べる。
今日のメニューは焼き鮭とだし巻き卵、そして味噌汁にご飯の和食テイスト。
ソファでスマホをいじりながら猫のようにごろごろしていた摩美々は『んー……』と気だるい返事と共に起き上がると、こちらまで来てイスに座る。
「フツーの朝食ですねー」
「なに面白さを期待しているんだ、お前は……」
摩美々らしい感想が一言漏れる。
お互いに『いただきます』と口にしてから、料理を口に運んでいく。
「うーん……」
だし巻き卵を一切れ食べると、自分の髪をいじりながら何か考え込む幼馴染み。
「どうした? 味付けが悪かったか?」
「悪くはないケド……よく失敗しないなぁと思って。私もフツーに料理するだけなんだケド、いつも上手くいかないんだよねー」
「レシピ通りにやればそうそう失敗はしないよ。摩美々の場合、フィーリングで料理することをやめればいいと思うけど……」
「えー、感覚って大事じゃないー? ファッションもそうだしー」
「まあファッションについて、摩美々の右に出る者がそうそういないことは認めるけど、料理に関して、その感覚は役に立たないだろう?」
摩美々のファッションセンスは、同じ着こなしが上手な人と比較しても相手にならないくらい群を抜いていてすごい。
ただそのセンスが料理に方向転換された場合、至高の一品になる確率はごくごく稀。
要は普通に手順通り作った方が上手くいくと言うこと。
「たまーにスゴくおいしい物も出来るしー、失敗しても良介が喜んで食べてくれるから問題ありませんー」
幼馴染みの失敗料理は絶対に食べられないと言うほどの物ではないのだが、普通に作った場合と比べ、やはり不味い。
その不味さ加減も絶妙で、頑張れば完食できるレベル。
何回か食べた後、もしかして悪戯なんじゃないか?と思うくらいだった。
「喜んで食べていません。食材を無駄にしたくないだけです」
「マジメですねー」
そもそも君が真面目に料理を作ってくれれば全て丸く収まるのだけど、わかっているのかな?
「それよりー、なんでさっきから味噌汁に手を付けないのー?」
「どこかの誰かさんが、人の味噌汁に塩を入れていたからだ」
「えー、まみみのこと疑ってるー?」
『ふふー』と笑っている時点で、自分が犯人ですって言ってるようなものだろ……。
大体、味噌汁が出来た時だけキッチンまで来て『運ぶの手伝いますよー』なんて明らかにおかしい。幼馴染みを甘く見るなよ、摩美々!
「もし自分に味噌汁を飲んでほしかったら、まだ手を付けていない摩美々のと交換だ。ただし交換した場合、最後まで責任をもって飲むんだぞ」
「ふふー、わかりましたぁ。それでいいですよー」
なんだ?やけに素直だけど……観念したのか?
まあ、たまには自分のやった悪戯で反省してもらうのも、いい薬になるだろう。
そう思って、自分と摩美々の味噌汁を交換する。
「まったく……これに懲りたら少しは反省を――ぶふっ!」
しっ、しょっぱい!どうして俺の味噌汁が?!
「最後まで、責任をもって、飲むんですよねー」
目の前には、引っ掛かった人間を馬鹿にする小悪魔が居た。
いや、そもそもどうして俺の方に塩が入っているんだ?!
これじゃあ何も言わない場合、悪戯した味噌汁は摩美々自身が飲むことに――
「良介ならぁ、きっと交換してくれると思ってましたよー」
にやにやしながら、そんなことを言われてようやく気付く。
摩美々はわざと分かり易く悪戯して、この状況を作りだしたのだと。
味噌汁に悪戯されたと確定した自分は、それを必ず俺のところに置くだろうと言う答えを出してしまう……それを逆手に取ったのか!
仮にもし交換しなかったとしても、飲まなければいいだけだ。俺になにを言われようが、摩美々ならあの手この手でひらりと回避し、結局は飲まずに終えるからノーダメージ。
「ぐっ………」
「どうしたんですかぁ? 良介も飲みましょうよー」
その後、終始、俺を見ながらご機嫌で食事をする摩美々。
テンションが上がっていると思われる幼馴染みとは裏腹に、疲れがたまる朝のスタートを切ることになるのであった。
・三峰(みつみね)
シャニマスプレイ中の方なら、わかる人もいたと思いますが弟の方です。
(公式設定で兄と弟がおります)詳しくは次話以降で。
フェスイベント始まりましたね!
自分はあとイルミネ関連のミッションやってコンプリートです。
Voは大得意なんです!(運営さんありがとー