『頼む良介! 一生のお願いだ!!』
通話中のスマホから聞こえるは、必死に助けを求める親友の声。
別に助けなくても、三峰になにか起きるわけじゃないから問題ないのだけども。
「……今月に入ってこれで三回目、お前の中で一生のお願いは何回あるんだ?」
『この世に存在するアイドルちゃんの数だけあるに決まってるぜ!』
「分かった、それじゃあな」
『ウソウソ、冗談だから切るなって! 今回の時限ゲリラはレア系のドロ率三倍で、運がよければ普段落ちない伝説級のアイテムも手に入るんだよ!』
三峰の一生のお願いとは、十六時より始まるスマホゲームのゲリライベントに参加しろと言うもの。このスマホゲーム、元を辿れば今流行りの大人気オンラインゲームから派生した物で、通称記憶ゲーと呼ばれている。
アプリでは、大元のオンラインゲームを有利に進められるアイテムが手に入るため、オンラインゲームユーザーは勿論のこと『記憶力が楽しく鍛えられる』等の理由から、普段ゲームをしない人もプレイするほど。
俺がプレイしている理由は、記憶力の良さを三峰姉弟に狙われた――この一点に尽きる。
まあゲーム自体は一人でもみんなでも面白いし、隙間時間を潰せたりするから何気に重宝しているけどさ。
「はいはい……一時間拘束されてくればいいんだろ?」
『わっほ~い! 良介愛してる! これで心置きなくリリイベを楽しむことができるぜ!!』
電話越しながら、隠し切れない喜びの気持ちが言葉の端々から伝わってくる。
三峰がゲリラに参加できない理由はもちろんアイドル関係で、十六時より始まるリリースイベントの方を優先しているから。
CD発売に併せて行われる、この販促イベントは今の時期が最も苛烈を極める。
理由は言わずもがな『W.I.N.G.』が関係していて、リリイベのアイドルたちもほとんどが新人アイドル。
「(……アンティーカのリリースイベントは、確か5月31日だったな)」
イルミネーションスターズと放課後クライマックスガールズの二ユニットは既に終わっている。アルストロメリアは今週で、アンティーカがトリを飾る。
「……あ、あの………」
通話が終了したあと、うちの事務所のリリースイベントを考えている自分に弱々しい声が掛けられる。電話中、事務所のソファに腰かけスマホをいじっていたアルストロメリアのメンバー――大崎甜花が背後でまごまごしていた。
「えっと、もしかしてうるさかったかな? そうだったら、ごめんね」
「その、違くて……ゲームのことで……」
「ああ、電話で話していたこのスマホゲームのこと?」
「そ、そう……! 良介さんも……プレイしてるの……?」
「オンラインゲームの方は手を付けてないけど、こっちはそこそこやっているよ」
甜花の趣味は、お昼寝・ネットサーフィン・アニメ・ゲームとインドア系な趣味が多かったはず。それなら当然、流行りの大人気オンラインゲームもプレイしているか。
「甜花はどっちもプレイしてて……それで、その……四時から……ゲリラ………」
発した言葉は文末に向かうにつれ、だんだんと小さくなっていくがなんとか聞き取れた。
さすがに一人+CPUでクエストに挑戦するのは骨が折れるし、やり込んでいそうな甜花なら戦力として申し分ない――と言うか絶対強そう。
加えてあのフレンド二人がログインしてくれていれば、まず負けることはないだろう。
出来れば居てくれて欲しいけれど……最悪二人でもなんとかなるかな?
「それならあと少しで始まるイベント、手伝ってもらえないかな? 自分は一時間丸々やるけれど、出来る範囲でいいからさ」
「あ……! 甜花も終わるまでやるつもり……なーちゃんが戻ってくるの、五時過ぎだから……」
表情がパァっと明るく変化したところを見ると、甜花も協力相手を探していたんだな。
アプリを起動すると、まずはお互いのキャラクターのステータスを確認する。
えっと……『Devi_Taro』が甜花のキャラ名か。ジョブは見た目が可愛いデフォルメキャラの悪魔妖精。このキャラ、どことなくデビ太郎に似ているんだよな……。
付けられたキャラ名からして、甜花も大好きなデビ太郎に近いから使用しているんだろう。特徴は……確か、魔法特化で特に闇属性が得意、HPが減ると魔法威力も上がるキャラクターか。そして予想通りレベル・ステータス共に最大、装着アビリティにも無駄がない。
「……良介さんは、付与術師……なんだ……」
自キャラの『Ryo』は主にバフがメインの付与術師。このゲーム、上級までならゴリ押しすることは可能だが、超級と伝説級(ゲリラ時限定)はバフ・デバフのサポートなくしてクリアは不可。更に敵の行動に合わせたバフやデバフをピンポイントでかける必要性が、記憶ゲーと呼ばれる所以である。
「敵の行動パターンは頭に入ってるからね。みんなをサポートする役が一番適任ってよく言われるよ」
「すごい……! 甜花、攻略サイトで行動パターンを見ながらやってる……でも、スキル決定までの制限時間が短いから……よく時間切れで負ける……」
いいアイテムを入手するには超級を回すのが一番手っ取り早い。ただし超級以上は先ほど言ったようにバフ・デバフのサポートが前提になっている難易度。
そしてある程度、敵の行動パターンを読む必要があるので攻略サイトを見ながらやろうと思っても、スキル入力までの時間が短く間に合わないこともあり、超級以上はそのミスで負けるパターンが多い。
Lily knightさんがログインしました。
vivid rabbitさんがログインしました。
甜花とお互いのキャラクターを確認していたところ、自画面にシステムメッセージが表示される。三峰姉弟と並ぶ最強格のフレンドと言っていいこの二人は『vivid_rabbit』と『lilyknight』。
Lily knight:Ryoさんこんにちわー!
vivid rabbit:こんにちわ~o(^▽^)o
「良介さん……この人たちは、フレンド……?」
「そうだよ。何度かパーティーを組んで超級や伝説級を回ったけど、二人とも強くて頼りになるんだ。ちょっと待って……今誘ってみるから」
Ryo:こんにちわ。四時からゲリラいけますか?
Lily knight:大丈夫です!私たちもそれ目当てで来たので!
vivid rabbit:一時間丸々、ビビッと付き合うよー!
よし、この四人でパーティーを組めば負けることはないだろう。
そう思い声をかけようとしたが、甜花のどことなく不安そうな表情が気になる。
「どうした、甜花? なにか気になることでもあった?」
「えっと……甜花がパーティーに参加しても、大丈夫……?」
「大丈夫だよ。lilyknightとvivid_rabbitはいい人たちだから、すぐに仲良くなれるんじゃないかな?」
「わかった……甜花、頑張る……!」
ネット上とは言え、人見知りで会話自体苦手な甜花にとってはチャットも大変なんだろう。クエストが始まったらそこまで話すことはないだろうけど……二人と仲良くなれるように会話のサポートもしてあげた方がよさそうだな。
Ryo:ありがとうございます!もうパーティー組んでいるので、申請送ってください!
Lily knightさんからパーティー申請がきました。
vivid rabbitさんからパーティー申請がきました。
申請を承認すると、自分と甜花のパーティーに二人が加わる。
クエストは最大四人まで。これで準備が整いあとは開始時間を待つのみ。
「あ、あいさつしないと……!」
Devi Taro:こんにちわ
Lily knight:初めましてDevi Taroさん!よろしくお願いします!
vivid rabbit:( `・∀・´)ノヨロシク!
Ryo:Devi Taroはちょっとチャット慣れしてないから、シンプルな文面になっちゃうけどゴメンね
Lily knight:了解です!
vivid rabbit:Devi Taroさんのアビすごい!最強クラスの物が何個かある!オンラインの方から送った奴?
Devi Taro:うん、雷系の奴がそう。サンドラ倒した時に手に入ったよ
Lily knight:サンドラって雷鳴竜サンダードラゴン?でもアビ系のアイテムなんてドロップしたっけ?
vivid rabbit:ソロ討伐限定で雷鳴竜のウロコと一緒に落ちるよ~\_(*・ω・)ココ重要!
Lily knight:雷鳴竜をソロ?!Devi Taroさんすごいっ!どうやって攻略したんですか?
Devi Taro:えっと……やり方は――
甜花の使用キャラ――Devi_Taroの装着アビリティが切っ掛けで、三人の会話内容が広がっていく。lilyknightとvivid_rabbitもオンライン版をプレイしているため、話が合うんだろうな。……俺はまったくついていけてないけれども。
ゲーム雑談が盛り上がりを見せる中、ゲリライベントの開始時刻になると当初の予定通り、イベント終了まで伝説級クエストをひたすら周回した。
パーティー構成は闇魔法特化の悪魔妖精Devi_Taro、聖剣を使用し光物理特化で攻める勇者vivid_rabbit、風属性の専用サポート・アタックスキル持ちでアシスト性能抜群な風の戦士lilyknight、そしてバフ・デバフで的確にサポートを行う付与術師の自キャラRyo
結果は負けなし。加えて伝説級のアイテムが手に入ったことを考えれば大勝利と言っていいだろう。ただ最後の相手……炎狼ヘルフレイムと雷鳴竜サンダードラゴンだけならまだしも、蒼龍エアリアルが出てきた時点でリタイア確定だろう……三人は挑戦すると意気込んでいたけど、俺は勝てる気がしなかったぞ?
「にへへ……レアアイテム……たくさん……」
ゲリライベントが終わり、パーティーを解散したあとはずっとあの調子で、スマホ画面に映るドロップしたアイテムを恍惚とした表情で眺めていた。
「お疲れさま、甜花。その様子だとお目当ての物が手に入ったみたいだね」
一息つくために淹れてきた二人分のココアをテーブルに置きながら尋ねる。
「これ……雷鳴竜のキバ……! ウロコよりレアで、欲しかった素材……!」
「……ん? でも三峰は『キバを材料にして作られるのはハズレ装備!』とか言ってたような」
「みんなはウロコが欲しいと思う……クリティカル2倍、最強装備の、スターライトイヤリングが作れるから……。キバで作る、ダークライトイヤリングは、受けるダメージが増える……」
スターライトイヤリング、lilyknightが装備していた奴か。確かに攻撃回数の多い風の戦士との相性は抜群だった。一発の最大火力は特化の二人には及ばないが、攻撃した分のダメージを合計すればそこまで変わらないだろうし。
「でも……甜花のキャラ、HPが減るほど強くなるから……」
「なるほど。今から作ろうとしているその装備が、悪魔妖精Devi_Taroと相性最高ってわけだね?」
「そう……! にへへ………」
「よかったな。あの二人とも仲良くなれたみたいだし……それに今度オンラインの方で遊ぶ予定なんだって?」
「うん……えっと、良介さん………」
と――それまで楽しそうに話していた甜花の表情が若干曇る。
「あの、今日は誘ってくれて……ありがとう、ございます……」
「いやいや、お礼を言うのは自分の方だよ。今回のクエストは強力な敵ばかりと出くわすし、甜花のHP1状態からの最大魔法に何度助けられたことか……本当、ありがとう」
「……甜花、ここに入る前は、ひとりでできるゲームばっかりで……オンラインもソロでプレイしてたから……。でも、なーちゃんや、千雪さんや、みんなと遊んで楽しかった……だから、その……また甜花と一緒に、ゲームしてくだしゃい!」
最後に可愛く噛んでしまった甜花は、顔を赤くして俯いてしまう。
恥ずかしがる甜花の問いに対する回答は、もちろん決まっている――
「こちらこそ、自分でよければ喜んで」
・大崎 甜花(おおさき てんか)
大崎姉妹の双子の姉。お姉ちゃんではあるが、同じアイドルの妹が自分から進んで面倒を見る(食事・歯磨き・着替え等)。
今回はまみみなしの、タイトル詐欺回でごめんなさい……。