都内のストリートコートに響くはボールの弾む音と、それを一心不乱に追いかける者たちが駆け抜ける足音。
その足音の中で一際力強く地面を蹴り、自身に付いたマークを華麗なドリブル捌きで引き剥がし、コートを突き進む三峰。
そしてその勢いを切らさず攻める――ことは出来ない。
あらかじめ三峰の動きを予測し、インラインに素早く移動したディフェンス二人にオフェンスの機能は停止させられた。
だけど、これでいい。攻撃一人に対し、防御二人を消費させる意味合いは大きい。
「良介!!」
エンドラインの少し前で待機していた自分に、パスが回る。
ノーマークの自分にパスが来ることを予測していた俺は、片手でキャッチすると同時にがら空きの左サイドへ高速のドライブを仕掛ける。
それにいち早く反応したディフェンスの一人が、ツーポイントライン前に立ちはだかるがこの間合いなら問題ない――瞬間的にそう判断し、マークについた相手に近づく際、ドリブルの強さを一段階上げる。
地についたボールは先程よりも強く跳ね上がり、自分の手に戻ってくる間隔が早い分コントロールは難しくなるが、スティール対策と、フェイントを看破できない状態を作りだす。
『止めろっ!』『奪え!』などの、相手チームから発せられる声で眼前に存在するディフェンスは目の色を変え、相対する俺の一挙手一投足を見逃すまいと注意を払う。
「(上等!)」
目線を右奥のゴール下へと向け、右足で一歩踏み出す。
俺に対し集中力を研ぎ澄ませ注目していた長身の男が、同じ方向に動き出そうとしたことを確信した瞬間――軸足で小さくステップを入れ、左に切り返す。
「っ……! もう後がねぇぞ!! 当たれ!!」
クロスオーバーで相手ディフェンダーを抜き去り、ハイスピードでゴール下へと向かう。
抜かれた男が放った大声に反応し、右から二人の相手が迫るがそれを無視してレイアップシュートを打つ。
「三峰!」
――フリをする。ゴール前でシュートを妨害しようと大きく跳んだ二人から視線を外さずに、右手で持ったボールを真後ろで待っているであろう人物にパス。
ツーポイントラインから少し後ろに下がった位置で、大胆不敵な笑みを浮かべた三峰がボールをキャッチするとゴールのみを見据え、お手本のような綺麗なシュートフォームからボールを放つ。
弧を描くように飛んで行ったボールはネットをくぐり、ツーポイントシュートを見事決める。後ろを振り返ると、ドヤ顔の三峰が俺に向けて笑顔でサムズアップしていた。
*****
「二人ともお疲れ~、それとマジサンキュね!」
ストリートバスケでの試合を終えた俺たちに労いの言葉とスポーツドリンクを手渡してくれる和泉。アンティーカのリリースイベントが始まる前に、バスケをするなんて思ってもみなかった。こっちは自分と三峰だけだったし結構疲れたぞ……。
「気にすることないぜ! 体も充分あったまってリリイベ前のいい準備運動になったよな、良介!」
「黙れ体力馬鹿、そして抱き着こうとするな」
汗を拭いたタオルをこちらに向かって来た三峰に投げ付ける。すると、ふざけている雰囲気が一変――この世の終わりのような表情になり、慌てふためきながらもタオルを無事キャッチする。
「良介キサマァ! 女神に対しこのような無礼な仕打ち……万死に値するぞっ!!」
突発的に行われた試合のため、掻いた汗を拭くものなどせいぜいハンカチぐらいと思っていた時に三峰から差し出されたのは、常日頃持ち歩いていると言うお気に入りの、高垣楓のタオル。
346プロに所属するアイドルで、過去にシンデレラガール総選挙と呼ばれる『W.I.N.G.』とは別のアイドルの祭典で見事一位に輝き、今や人気アイドルの一角を担う存在。
そしてその女神のタオルで俺が汗を拭くのはいいのか……?
「あははー……でもうちのせいでゴメンね。おな中の友達だからほっとけなくてさー」
「気にしなくていいって、どう見ても悪いのは向こうなんだから」
少し気まずそうにしている和泉だが『負けたらどいてやる』と言って、公共の場で順番も守らずにプレーを続ける方がおかしい。ただ、相手は口先だけかと思いきや、一応そこそこの実力を持っているようで、中学時代の女友達以外に順番待ちしていた数グループが相手の売り言葉を買い3on3の勝負を挑んだものの全員敗北。
それを見かねた友達思いの和泉が割って入り、俺と三峰の二人で三人を相手する2on3での勝負が始まる。余裕と言うより完全に舐めきった雰囲気の相手チームだが、俺からしてみれば所詮少し強い程度なので人数不足は全く問題なかった。
味方の三峰に関しては、どんなスポーツでも平均以上を叩き出す万能キャラだし。
勝負の結果は21-2の大差で圧勝。一試合10分と言う設定された時間よりも早く、21点を先取してノックアウトさせた。それにしても……
「(なまった……)」
直前に見ていた他グループとの試合内容から、1点も取らせることなく決めるつもりでいたしそれが出来ると判断したんだけど……自分のパスミスでボールをとられてたら世話ないか。
「ホント、助けてくれてマジ感謝してる! ってか、良介も三峰もヤバくね?! ちょースゴいスーパープレイ観てる感じだったし、マジすっげー!!」
「単に相手との実力差があるからそう見えただけだよ。本当にヤバいのは、本格的なバスケをしたことがないのに、経験者並みの動きと力を出せる三峰の運動神経」
「あっはは~、それ言えてる。――と、そういやあの子、良介の知り合いなん? うちは試合途中で気づいたんだけどさー、ずっと良介のこと見てる系だし?」
言われた人物がいる場所へ目を向けると、学校指定制服であろう灰色のブレザーとミニスカートを着こなし、近寄り難いクールな雰囲気を身にまとう女子高生――風野灯織が自分、と言うよりストリートコートをじっと見つめていた。
*****
「良介!!」
味方からのパスを受けて、左サイドに攻め込む先輩。
その動きに気づいて一人マークが付いたけれど、もう遅いと思う。先輩のバスケは先読みやフェイントといった頭脳を駆使するプレースタイル、今も抜けると確信したからこそ動いたんだ。
試合を見る限り、2対3とはいえ先輩側と相手側とで実力が大きく開いている。
味方の人も経験者……なんだろうか?どの道、少し強い程度なら勝てない。私たちが通っていた中学校のバスケ部は、全国上位と言う好成績を毎年収めている。そんな強豪校で主将を務め、エース級の活躍を見せていたのが先輩なのだから。
「三峰!」
レイアップを打つと見せかけたフェイントに騙され、これから決まるシュートを讃えるような姿で相手二人が跳躍する。そして跳んだ相手が地に足をつけた瞬間、三峰と呼ばれた人が放ったボールがゴールネットをくぐり、21-2というスコアで幕を閉じた。
「(……よかった。先輩、バスケを続けてるんだ)」
試合終了と同時に、いつの間にか集まっていた多くのギャラリーは、先輩チームのプレーを誉めたたえる。周りがざわざわと騒ぎだす中、私は心から『よかった』と安堵する。
そういえば今日の星座占い、魚座の運勢は一位で『長年気になっていた悩みが解消されるでしょう』って………当たったんだ。
「(……でも)」
さっきのプレーからは、あの頃の、バスケが『大好き』な気持ちは伝わってこなかった。
私が先輩に憧れ、興味を惹かれた一番の理由は、バスケが好きで楽しいという先輩の感情がたまたま観戦していた私に移ってしまうほどすごかったからなのに……。
入学当初は今以上に自分のことが大嫌いだった。けど先輩のバスケをプレーする姿を観て、どうしたらあんな風に何かを好きになれるんだろうと、自分でも気づかないうちに考え始めていた。今思えば、学園祭に来たアイドルの人たちとあの時の先輩は似ている。
ステージ上のアイドルも、コート上の先輩も、お互いキラキラ輝いていて、見ている人みんなを楽しませ笑顔にするくらいのパフォーマンスやプレーを魅せる。アイドルも先輩も当時の私とは対極に位置する存在で……だからこそ、私は惹かれたんだろう。
「今の先輩は――」
「俺がどうかした?」
「きゃっ!?」
唐突に声をかけられ『びくっ!』っと反応する。聞き覚えのある声が発せられた後方を振り返ると、そこには今考えていた人物が立っていた。……あ、メガネをかけてない先輩、久しぶりに見た。
「あっ……あのっ、バスケの試合、すごかったです!」
突然現れた先輩に驚きつつも、試合の感想を素直に伝えていく。
ただ、感想が先に進むにつれ私の悪い部分が出て――
「あの場面で、どうしてパスを出さないんですか?」
「いや、三峰とアイコンタクトで通じるほどの連係は……」
「パスミスでボールをとられた理由は、相手の動きが読めなかったからですよね?」
「それは相手がたまたまイレギュラーな行動を、とって……」
「先輩、中学の時はもっと出来ていたと思うけど……」
「……はい。その通りです……」
気遣いのない冷たくキツイ言動で、結論だけを相手に伝えてしまう。
私にとってこんな話し方は本意じゃない、でも言葉選びが苦手でうまく喋れないから口数も少なくなって……その結果、良くも悪くも要点のみをストレートな物言いで話す。そんな自分が嫌いだ……。
「――あ! す、すみません、先輩! 私また――」
「……っぷ、くくっ……」
自分自身の言葉を省みて慌てふためく私の姿を見た瞬間、こらえきれずに思わず笑いだす先輩。そんな先輩のことを、私はムッとした顔つきで見つめる。
「はは……ごめん、灯織。なんだかこういうやり取り、ずいぶん久しぶりだなと思ってさ」
馬鹿にした笑いとは違う、どこか嬉しそうな笑み。
知り合って間もない頃の私は、もっと酷かったような……
『まずは書記の仕事をお願いしようかな。風野さんは話の内容をまとめたり、記録するのが得意みたいだし』
『あの……まだお互い親しくもないのに、少し見ただけでわかるんですか?』
『風野さん、とりあえず今自分が言った案をまとめてもらえるかな?』
『会長、これが生徒会活動に役立つとは思えません。もっと、建設的な意見を出してほしいです』
『……ん? もしかして帳簿の金額と残高が合わなかったりするかな? 一人じゃ大変だろうし手伝うよ』
『必要ありません。会長は自分の仕事を進めてください』
うん……今の自分も嫌いだけど、あの頃の自分は大嫌い。過去の恥ずかしい出来事を思い出して死にたくなる気持ちって、こういうことを言うのかな……?
「……駄目だ、思い出したら懐かしくて余計に……」
「先輩……笑いすぎです。これ以上は……お、怒りますよ?」
「ごめんごめん、今の灯織を見てたら嬉しくて……調子に乗り過ぎたよ。灯織は学校の帰り?」
「はい、先輩は――」
「オレたちはこれからアンティーカのリリイベに行くところっす!!」
私の言葉を遮るように、またも背後から声をかけられる。慌てて後ろを確認するとバスケの試合で先輩の味方だった人物――三峰って呼ばれていた人が、目をギラギラさせながら近づいてくるから思わず先輩の背中に隠れてしまった……こ、こわい………。
「ちょっ、ストップ三峰! アイドルに会えたからって暴走しすぎっしょ! おりゃ!」
男の人を追いかけてきたのは、スタイルのいい褐色肌の女性。さっきも二人と気さくに話していたし、友達で間違いないと思う。……たった今、三峰という人の頭を500mlのペットボトルで勢いよく叩いていたけれど、そういうことが出来るほど親しい仲なんだろう、きっと。
「オレのこと殺す気かぁ、和泉ィ! けど……一瞬、子豚ちゃんになって聖母に可愛がられる自分が見れたことは嬉しかったぜ! サンキュー和泉!」
「これ怒られてる系か感謝されてる系か、どっちなん? つか、いきなし子豚ちゃんとか聖母って……三峰どしたん、良介?」
「『叩かれたショックで765プロ所属アイドルに会えました、ありがとう和泉』ってことを言いたいんだろ。ほら三峰、結華さんに報告されたくないならいつもの調子に戻れって。灯織も恐がっているんだから」
そういえばこの人、私たちイルミネーションスターズのリリースイベントに来てたような……それに今、先輩が結華さんって言ったし……もしかして――
「あの、この前のリリースイベントで会いました……よね? 結華さんのご兄弟の方、なんですか?」
「そうなんすよ!! オレのこと覚えてもらえてるなんてマジ感動っす!! あと、もし迷惑じゃなければサインお願いしてもいいすか?!」
「は、はい、大丈夫です……」
手渡された色紙にサインペンを使って、自分の名前を書く。
風の『几(かぜがまえ)』の部分を長く伸ばしただけの、捻りのないサインだけれど……。
「はっはっはっ! うらやましいだろ、良介! さっき女神のタオルに無礼を働いたことを詫びれば、色紙を分け与えることも――」
「はいはい、サインは大丈夫。それ受け取ったらイベント会場に向かうから、忘れ物ないようにな」
サインを書き終えたところで、心の中がちょっとだけ曇る。
大丈夫って、先輩は私のサイン……欲しくないってことなの、かな………?
「またまたぁ、意地張っちゃって……負け惜しみかぁ良介クン」
「やかましい。俺はもらえる時が決まってるからいいんだよ」
………あっ!そうだ、どうしてそんな大事なことを度忘れしてしまったんだろう。
私が先輩にサインを渡す時、それは――
『……自分が目標とする、輝けるような存在……私自身が輝くアイドルになれたその時に、受けとって……もらえますか?』
「ふふっ……」
「ん? どうした灯織?」
「いえ、なんでもありません。それより、私も勉強のためにリリースイベントを見に行く途中で……先輩方と一緒に行ってもいいですか?」
見ててくださいね、先輩。
私は……ううん、私たちイルミネーションスターズの三人で、必ず――光り輝くアイドルに、なってみせます!
*****
「みんな~、今日はありがとう~!!」
マイクを持った恋鐘さんが、この会場にいる人たちに向けて感謝の言葉を伝える。
今、行われているのはアンティーカのデビューシングル『BRILLI@NT WING-バベルシティ・グレイス-』の販促イベント。
ゴスロリテイストがベースの衣装に、メンバー全員でアレンジを加えたアンティーカのステージ衣装――シンフォニックスチームを身にまといステージに立つ五人。特徴的なのは、大きさと取りつける場所がメンバー毎に異なっている金色の歯車。
「――やけん今、うちはここで宣言するばい!! アンティーカは必ず『W.I.N.G.』に出場する!! そいでうちらアンティーカが優勝ばいただくけんね!!」
アンティーカというユニットの自己紹介から始まったメンバーのトークが終わり、リーダーの恋鐘さんが、明日から始まる『W.I.N.G.』出場をかけた戦いに向けての決意表明を声高らかに宣言する。隣にいる灯織は、それを聞いて思うところがあるのか真剣な眼差しを向けていた。
その後、ステージ上にて、五人がそれぞれの定位置につくと曲のイントロが流れ始める。
バベルシティ・グレイスは、退廃的で幻想感あふれる歌詞が紡ぎ出すシンフォニックメタル。『運命の鍵』『永久機関』と言った、新世界革命的ユニットのコンセプトともマッチしたフレーズを、五人が熱く歌い上げる。
「……………」
そして自分も、アンティーカと言う目の前のアイドルに心奪われる。
アイドルとしての歌唱力やダンスの技術は、巣立ちしていない雛鳥のようにまだまだだと思う。今の自分に深く突き刺さるほどの五人の魅力、それは――
「(みんな、楽しそう………だな)」
今この瞬間が、楽しくてたまらないという各メンバーの感情が、観ているこちら側にまで伝わるからだ。五人全員がそう思っている分、観客席にも五人のリンクした思いが鳴り響く。
自分自身が『好き』や『楽しい』と言った気持ちで物事に取り組むことができて、なおかつそれを観ている人たちにまで感染させる。そこに歌やダンスと言ったアイドルとしての技術を向上させ実力も伴えば、人気アイドルになれる……かもしれない。
「(……バスケが大好きだった頃は、俺も――)」
舞台上でキラキラ輝く五人の雰囲気に触発され、自身の楽しかった頃の記憶が一瞬頭によぎるも、すぐにそれを振り払いソロパートを歌う摩美々を見つめる。
疾走感のある激しい音楽に合わせたステップを踏み、熱さを胸の内に秘めてクールに歌い上げる。その姿からは、普段のやる気のなさなんて微塵も感じさせない。
そしていつもと違う摩美々を見たことで、先程まで考えていたバスケの記憶が上書きされる。今は自分のことより、摩美々を応援してやらないとな。
あの時、自分の大好きなバスケじゃなく、大好きな幼馴染みを選んだことに後悔はない。ステージ上の、今の摩美々を見て、はっきりとそう思える。
「(だから――)」
扉は錆びついたままでいい、それを回す運命の鍵も必要ないんだ。
すみません、また遅くなりました……
そしてまた摩美々が出ない回でごめんなさい、次はイチャラブしますので。
あと限定二連発はやめて……。摩美々300千雪さん210の合計510連……まあ一番驚いたのは全部無償石で回せたってことですね。他と比べて、本当にシャニマスはよく回せると思います。今回はさすがに石貯めてましたが……(途中で尽きて鉱脈いくつか潰したのは内緒)