感想をくれた方達、ありがとうございます。
思った以上に好評を頂けて驚いています。
これからも頑張りますので、よろしくお願いします。
今回はバトルなしの日常回。
それでは第2話をご覧下さい。
ミノタウロスを倒してホッとしたのも束の間、ジンはベル以外の視線を感じて振り返った。
「───!?」
そこには女神と見紛うばかりに美しい少女がこちらをジッと見つめていた。
流れるような美しい金色の長髪と同色の瞳。白い肌と整った容貌は彼女の無表情さも相俟って、まるで最高級品の人形のようだ。ジンと同様スピードを重視するタイプなのか軽装鎧を身に付けているが、それでも出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでる見事なプロポーションをしているのが分かる。自分と同年代の、独特の魅力を醸し出す美少女だった。
だが、只の美少女ではない。ジンは彼女が腰に吊った剣を確認していた。
(───冒険者!? )
今の自分は冒険者ではない。本来『
今のジンに出来る事は彼女に今見た事を誰にも話さないでいてくれるよう説得するか、とっとと逃げるかの二つだけだった。
「やべっ!」
「え? あの、ちょっと・・・・」
ジンは後者を選択した。
金色の少女の声を無視して、こちらを見上げて呆けている血塗れのベルの襟首をひっ掴むと、ジンは一目散に逃走した。
「逃げるぞ、ベル!」
「ちょっと待ってジンさん!首、締まってるから! グエエエエーーーーッ!!」
分かってはいたが我慢して貰う。彼女は相当な実力者だ。雰囲気で分かる。一瞬でも躊躇すればあっという間に追い付かれ、色々と詰問されるかもしれない。
途中、何人かの冒険者とすれ違ったが、このスピードなら「何か通ったか?」程度の認識ですむだろう。
1階層に到達すると、ジンはようやく走るのを止めた。
「フウ、ここまで来ればもう平気だろう。大丈夫かベル。・・・・ベル?」
返事が無いのを不吉に思い、そっとベルの様子を伺うジン。果たしてベルは全身を返り血で真っ赤に染めながら、真っ青な顔をするという器用な状態で口から泡を吹いて倒れていた。
「うわあっ!? す、すまん! しっかりしろ、ベルーーーッ!?」
ダンジョン内にジンの悲鳴が木霊した。
「・・・・チッ、何だ、ありゃあ」
誰かが猛スピードで駆け抜けていった。黒髪褐色と白髪の
大方自分が追っていたミノタウロスでも目撃して慌てて逃げ出したのだろう。とすれば、ミノタウロスはこの先にいる筈。だが白髪のガキが血塗れだった事を考えれば、既に仲間が退治したのかもしれない。
「チッ、カスが。よえー癖にダンジョンに来るんじゃねーよ」
男は悪態を吐きつつ歩みを進める。と、その先で見知った少女を見付けた。案の定ミノタウロスは少女により既に退治されたのか、やや大きめの魔石が少女の手にあった。
「何だよ、先を越されたか。そいつで最後だよな、アイズ」
「・・・・ベートさん」
男──ロキ・ファミリア所属、レベル5冒険者ベート・ローガの問い掛けに、少女──ロキ・ファミリア所属、レベル5冒険者アイズ・ヴァレンシュタインはこくりと頷いた。
「まあミノタウロスなんぞ俺らにかかればチョロいもんだがな。行くぜ、フィン達と合流すんぞ」
踵を返して歩き出すベートの耳にアイズの呟きが聞こえた。
「・・・・私じゃない」
「あ?」
「ミノタウロスを倒したのは私じゃないです」
アイズの言葉に歩みを止めたベートは訝しげに振り向いた。
「あ? 何言ってんだ。お前じゃなかったら誰が倒したってんだ?」
「さっきまでいたんです。私を見て逃げちゃったけど、蹴りの一撃でミノタウロスを倒したんです」
「はああ!?」
アイズが嘘を吐くとは思わないが、とても信じられる事じゃない。
ミノタウロスはレベル2相当のモンスター。だがそれはレベル2の冒険者がパーティを組んで倒せるとギルドが判断した基準で、
そんな事が出来る冒険者なら必ず名前が知られている筈。だがそんな冒険者の存在は聞いた事がない。
「おいおい、何かの間違いじゃねーのか? そんな奴がいるなんて聞いた事ねーぞ?」
「・・・・でもいたんです。間違いなく」
あのアイズがここまでハッキリと言い切るなら、間違いないのかもしれない。だが、
「まあ、フィンに報告してみな。信じて貰えないとは思うがな。そら行くぞ!」
そこら辺の判断は
「でも
アイズは自分の瞳に焼き付いた、あの鮮烈な光景を思い浮かべながら、ベートの後に続いた。
「ジンさーん、お待たせしましたーー!!」
ギルドのロビーにベルの声が響く。あの後シャワーを浴びて血を洗い流したので、ベルの白髪は輝きを取り戻していた。
「ご苦労さんベル。どうだった?」
ギルドのロビーで待っていたジンはベルに戦果を訊ねた。
「はい!これだけになりました」
ベルは魔石を換金した
「一回でこんなに稼げたのは始めてです。これもジンさんのお陰です!」
「いや、俺が手を出したのは始めの方だけで、後半はほとんどベルが一人でやったんじゃないか。大袈裟だよ」
ジンはそう言うと、硬貨の山から一部を手に取る。金額にして1000ヴァリス位だろうか。
「じゃあ取り分としてこれだけ貰うな」
ベルはジンの取り分が随分少ない事に驚きの声を上げる。
「え!? でもジンさん、それじゃあ少なすぎませんか?」
「いや、働きからすればこんなモンだって。それじゃあ今日はありがとう。縁があったらまた会おう」
ジンはそう言ってベルの元から去ろうとしたが、その腕をベルがしっかり掴んでいた。
「ベル?」
ベルは咄嗟にジンの腕を掴んでいた。
「あの、じ、じゃあ打ち上げしませんか? ちょうど行きたいお店があったんですけど、一人じゃ入りづらくて。だから、その、どうですか・・・・?」
必死に引き留めるベルに微笑ましさを感じて、ジンは苦笑を洩らす。
「そうだな。じゃあ案内頼むよ、ベル」
「はい!!」
ベルは嬉しそうに声を上げた。
「豊穣の女主人」亭。
西のメインストリートに位置する酒場で、値段は高いが、味とボリュームのある料理に定評のある冒険者に人気の酒場である。
「へえ~、ここが」
「はい。『豊穣の女主人』です」
ジンとベルの二人は「豊穣の女主人」亭の前にいた。
あれから二人は一旦別れて、ベルはファミリアの主神に報告へ、ジンは今夜の宿を取りに行き、ギルド前で再度合流して、ここ「豊穣の女主人」亭にやって来た所だ。
二人が扉の前でポケ~っとしていると、扉が開いて中から一人のウェイトレスが出て来た。
「あ、こんばんはシルさん!」
「あら? まあベルさん、来てくれたんですね♪」
どうやらベルとは顔見知りらしい。可愛らしいウェイトレス姿をした灰色の髪の可愛らしい少女だ。随分と仲良さげに二人で話をしている。
「あ、それとこれ、ごちそう様でした」
ベルは空のバスケットを彼女──シルに差し出した。
「あ、はい・・・・その、いかがでしたか?」
「はい。とても美味しかったです!」
ベルがそう言うと、シルは嬉しそうに微笑んだ。その笑顔にピーンと来たジンはベルの肩に手を置いた。
「ベルぅ~、お前も隅に置けないなあ♪ こんなに可愛い彼女がいたなんて、なあ?」
「な、何言ってるのジンさん!? シルさんは僕の彼女なんかじゃないよ!」
ベルは顔を真っ赤にして否定する。
「なんて否定してるけど、本当の所はどうなのかな、シルさんとやら?」
「そうですねえ・・・・今はまだ、という感じでしょうか?」
シルはジンの質問に頬を赤らめ、恥ずかしそうに身体をくねらせる。
「シルさん!?」
どうやらこのシルという少女、かなりノリがいいようだ。ジンがベルを揶揄うのに便乗して楽しんでいる。
「君とは仲良くなれそうだ。俺はジン・ラグナ。よろしく」
「同感です。私はシル・フローヴァと言います。よろしくお願いします、ジンさん」
ジンとシルはガッシリと握手を交わす。
「いや、二人共何で仲良くなってるの!?」
「うふふ、大変失礼しました」
「ホントですよ!」
「まあまあ、そう言うなってベル」
ベルを揶揄うのも一段落して、二人はシルに案内され、店内のカウンター席に座っていた。
酒場とは言え、場末のうす汚れた感じは一切なく、多くの照明に照らされた明るい店内は掃除が行き届いていて、清潔そうに見える。
その明るい雰囲気に華を添えるのが可愛らしいエプロンドレスに身を包んだウェイトレス達だった。
「中々いい店だな」
「うふふ、ありがとうございます」
ジンが素直に称賛すると、シルが嬉しそうに応えた。それだけで彼女がこの店を好きなのが良く分かる。
「ああ、俺の故郷にもここと似たような酒場があったから懐かしく思えるよ」
クルダにも可愛い服を着た娘が給仕する店があったが、大人気の為、支店が既に5店舗はあった筈。社長が自分と同年代の少女だったのをジンは思い出していた。
「へえ~、そんな店があるのかい。どこにでも似たような事を考えるのはいるんだねえ」
「あ、母さん」
その声に振り向くと、カウンターの奥から丈はベルの倍、幅はベルの数倍はありそうなドワーフの女将が現れた。
その迫力にベルはただ驚くばかりだったが、ジンは彼女が相当の実力者である事を見抜いていた。
(へえ、こいつは驚いた)
ジンはクルダの傭兵だ。傭兵ならば相手の実力を瞬時に見抜けなければ命に関わる。そういう目で視れば、ここのウェイトレス達はシルを除いてどの娘もかなりの実力者であると分かる。特にヤバそうなのが、無表情に給仕をしているエルフだった。
(とんでもない店だな。ここでは下手な事は出来ないな)
ジンは内心、苦笑を浮かべた。
「みたいだね。その店は可愛いウェイトレスだけじゃなくて、酒も料理も美味かったけど、この店はどうなんだい?」
「ハハハ、言ってくれるねえ。待ってな。今持って来てやるよ!」
女将は上機嫌に笑いながら、厨房へと消えて行った。
「・・・・驚きました。ミア母さんがあんなに機嫌がいいのは珍しいです」
「ミア母さん?」
「はい。ミア・グランド。元冒険者でこの店の女将です。私達この店の従業員は彼女の事を親しみを込めて『ミア母さん』と呼ぶんです」
「へえ、いいですね。まるでファミリアみたいだ」
「そうですね・・・・確かに私にとってこの店の皆は
そう言ったシルのどこか誇らしげな笑顔を、未だ家族と呼べるのが
「よし! それじゃあ乾杯しようぜ、ベル」
そんなベルの様子を察したのか、意識を切り替えるようにジンが言った。その時ちょうどミアがエールの入ったジョッキを二つカウンターに置いた。
「女将さん。まだ注文してないけど、奢りかい?」
ジンが冗談半分に訊くと、ミアは豪快に笑いながら言った。
「馬鹿をお言いでないよ。ジャンジャン食って、ジャンジャン飲んで、ジャンジャン金を落としていきな!」
「ちぇ、ちゃっかりしてるなあ」
そう苦笑しつつジョッキを取るジン。一方のベルは、
「い、いいんでしょうか? 僕エールなんて・・・・」
と初めての飲酒に些か気後れしていた。
「飲んだ事ないのか?」
「はあ、まあ」
「なら飲めるようにはなった方がいいぞ。酒ってのは傭兵や冒険者とは切っても切れない間柄だからな」
「そういう物ですか?」
「そういう物です。さあ、乾杯しよう」
そこまで言われて、ベルも苦笑しつつジョッキを取る。
「何に乾杯しますか?」
「そうだなあ・・・・月並みだが、今日の冒険の成功にって事でいいんじゃないか?」
「クスッ そうですね。それじゃあ、今日の冒険の成功に」
「ああ、成功に」
「「乾杯!!」」
それからミアはピザにパスタ、フライドポテトにフライドチキン等々言った通りジャンジャン持って来た。
「うん、美味い!」
「本当だ。凄く美味しい!」
ミアの料理は味、量共に申し分なかった。ジンもベルも料理に舌鼓を打ちつつ、次々と平らげ、大いに飲み食いした。
「もう駄目。入らないです・・・・」
ベルが膨らんだお腹を擦りながら呟く。元々食べる方じゃないベルにしては頑張った方だが、流石に量が多すぎたようだ。
「何だ、もうダウンかベル。冒険者たる者、食べられる時に食べといた方がいいぞ。次はいつ食事にありつけるか分からないからな」
一方のジンはまだ余裕の表情で、残った料理を平らげる。
「そうは言いますけど・・・・神様にも食べさせてあげたかったなあ」
「ベルの神様ってどんな神様なんだ?」
「ええと、僕の神様はヘスティア様と言って、とっても可愛い女神様なんです。どのファミリアにも入れて貰えなかった僕を拾ってくれた優しい方なんですよ」
「ほ~~う」
「特徴としては黒髪をツインテールで、背は僕より小さいけど、その、ある部分がとても大きいと言いますか・・・・」
「?」
急に顔を赤らめ、口ごもるベルを訝しげに思うも、ジンは「度量が大きいのかな?」と思い、さらりと流した。
「そうか・・・・いい神様と出会えて良かったな」
「はい!・・・・あの、ジンさんはファミリアを探してるんですよね?」
「ああ」
「だったらうちに、『ヘスティア・ファミリア』に入りませんか?」
ベルは姿勢を正し、ジンを真っ直ぐ見つめて言った。
「ふむ。ベルのファミリアにか・・・・」
ジンは食事の手を止めて考える。正直オラリオに来たばかりの自分には何の伝手もない。ならば今日1日一緒にいて、その為人が信頼出来るベルが慕っている神様ならいいかもしれないとジンは思った。
「そうだな。それもいいかもな」
「! じゃあ・・・・」
「取り敢えず、そのヘスティア様に会わせて貰えるか? 一度会ってみないと何とも言えないしな」
「あ、それもそうですね・・・・分かりました。じゃあ早速明日にでも会ってみますか?」
「そうだな。よろしく頼むよ」
そう言ってジンはジョッキを掲げた。
「はい!」
ベルもジョッキを掲げて杯を合わせた。そうして改めて乾杯すると、二人はまた楽しげに会話を再開した。
「お二人共楽しんでますか?」
その声に振り返ると、笑顔のシルがいた。
「やあ、シルちゃん。休憩かい?」
「はい。今は給仕の手は足りてますから少しだけ」
そう言ってシルはベルの隣の席に腰掛けた。
「そう言えばベルの弁当なんだけど俺が半分貰っちゃったんだ。ごめんな」
「まあ、そうなんですか?・・・・折角ベルさんの為に心を込めて作ったのに。他の人にあげてたなんて、私悲しいです。クスン」
「なんだって~。そんな大事な物だったなんて、知ってたら食べなかったのに。何で言ってくれなかったんだ、ベル?」
シルとジンは丸っきり棒読みのわざとらしい会話でベルを責め立てる。
「何言ってるんですか!? シルさんとは今日会ったばかりなのに僕の為にお弁当作れる訳ないでしょう!?」
「そこはそれ、愛の力で」
「ありませんよ、愛なんて!」
「まあ、私弄ばれてたなんて、よよよ」
「ダメだぞベル。男として責任は取らなきゃ」
「だ~か~ら、どうして僕を揶揄う時だけ息ピッタリなんですか~~!!」
一通りベル|で遊んだ後、ベルを宥めすかしてからシルにこの店の事を教えて貰った。
女将のミアは元冒険者と言っても半脱退状態で、主神の許しを得てこの店を経営している事。従業員は徹底して女性ばかりで、色々と訳ありな人が集まっているらしいが、そんな人でもミアは受け入れている事。そういう点もあってこの店の従業員、特にウェイトレスは並みの冒険者よりも強いという事等々。ならばシルもそうなのかと聞くと「私はお給料が良かったので」と悪戯っぽく笑っていた。
シルは人間観察が趣味らしく、この街に住む沢山の人々の話、特にこの店に来る冒険者の話なんかを聞かせて貰った。
今日この街に来たばかりのジンは勿論、まだ日の浅いベルも知らない話ばかりで大変参考になった。
その時、
バァンッ!!
と、大きな音を立てて20人前後の団体客が入って来た。
予め予約をしていたのか、店の中央のポッカリ空いていた一角にウェイトレスが案内している。
「・・・・おい」
「あん? お、いい女がいるじゃねえか!」
「馬鹿! あのエンブレムをよく見ろ!」
「・・・・げっ!」
店中の冒険者がその道化師のエンブレムを見て、羨望と畏怖の眼差しを向ける。やがてその中の一人がその名をポツリと呟いた。
「ロキ・ファミリア・・・・・・」
読んで頂きありがとうございます。
次回はジンが都市最大派閥にケンカを売る予定です。