4月15日
キリコが入学してから2週間が経過した。
[ユウナ side]
「ハァ~……」
本当に何なのよ~。そりゃあたしだって警察学校とは畑違いだから仕方ないとは思っていたけど………何で他はあんなにデキルのよ~!?
アルティナは元情報局らしいしあたしよりも知識はあると思ってたけど、納得いかないのはクルト君とキリコ君が受け答えがスラスラできるってこと。
一度何でなのか聞いてみたら、クルト君は分かりやすいから、(これはいいとして)キリコ君はただ糞真面目に復習をしているから(ケンカ売ってんの!?)。
でも、一番悔しいのはリィン教官の歴史学。
メチャクチャ分かりやすく、驚くほど頭に入ってくる。
一度答えに詰まった時には「慌てずに一度落ち着くんだ」とかいっちゃって。
ああもう、絶対に帝国人には負けないんだから!
「ハァ~」
「ユウナさん、さっきからため息が止まりません」
「きっと、疲れてるんだろう」
「……………」
見当違いなこと言ってんじゃないわよ。後キリコ君、何かリアクションして!
まぁ、この前の実力テスト以来、みんなとは話すようになったし、今朝もクルト君と仲直りも出来たし、よかったかな。
それにキリコ君もああ見えていい所もあるし、アルティナのこともなんだかほっとけないし。
今度"アル"って呼んでみようかな。
[ユウナ side out]
[クルト side]
ふむ、この第Ⅱ分校に入ってそれそれなりに経つがなかなかのレベルだ。周りとも上手くやってるし、大きなトラブルもない。だが、やはり違う。
僕の実家、ヴァンダール家は代々皇族アルノール家の守護を生業としてきた家柄でドライケルス大帝の親友だったロラン・ヴァンダールがそのルーツとなっている。
腹違いの兄、ミュラーがオリヴァルト皇子殿下に付いてるように、僕もセドリック皇太子殿下に当然のように付くはずだった。
それなのに政府の「ヴァンダール家を皇族守護の任から解く」という理不尽極まりない決定によりトールズ本校に入学出来なくなってしまった。
自暴自棄になっていた僕は兄ミュラーから第Ⅱ分校を紹介され、妥協する形でここに来たというわけだ。
そこで僕は《灰色の騎士》リィン・シュバルツァーが教官を務めるⅦ組 特務科に所属することになった。
他にも、クロスベルから来たユウナ、情報局のアルティナ、そして分校長の推薦を受けた男キリコとクラスメイトになった。
クラスの仲は悪くはないと思う。
ユウナとアルティナとキリコの4人での登校が僕らの日常になっている。
それにユウナとは今朝和解することができた。
教官のことは兄上から聞いてはいるが、正直大したことない。やはり"騎神頼みの英雄"か………。
[クルト side out]
[アルティナ side]
入学から14日、リィン教官の動きに問題なし。
特に不埒な行動は無し。
私は第Ⅱ分校の生徒ですが同時にリィン教官の監視が任務です。
教官が何かおかしな行動をすれば直ちに報告しなくてはいけません。ですが……。
2週間前のテストの際、自分の意志を示せと言われた時は困惑しました。
私は任務が最優先事項。自分の意志なんて必要ありません。
しかし、所属できなければ任務に支障をきたします。
私はおそらく初めて、思ったことを言いました。
教官はそれでいいと言ってくれました。
問題はそのことです。
あの後私は胸に違和感を感じました。
一応上司のアランドール少佐に報告したらなぜか笑いながら「そいつは直す必要ねぇよ。というか直せねぇよ。俺やオッサンでもな」と言いました。
このもやもやはいったい何でしょう?
報告ついでに、今朝ユウナさんとクルトさんの関係性が進歩したようです。
ですがユウナさんはなぜか否定します。
[アルティナ side out]
HR前
「あぁ~、やっと終わった~」
「あぁ、お疲れ」
「お疲れ様です」
机に突っ伏すユウナをクルトとアルティナが労う。
「キリコ君は疲れてなさそうね?」
「そうだな」
「ハァ、キリコ君は平常運転でいいわね。士官学校がこんなにハードル高いなんて思わなかったなぁ。訓練や実習はともかく、数学や歴史に芸術まであるんだもの」
「帝国は文武両道が伝統だからね。ドライケルス大帝ゆかりの伝統的な名門のトールズはなおさらだろう。例えそれが分校だろうとね」
「むしろ今年からは本校の方が大きく変わっているようですが」
「それは……」
(軍学校としての色を強めることが政府の決定らしいからな)
「とにかく、ここでやって行くって決めた以上、負けるつもりはないわ。絶対に見返してやるんだから!」
ユウナの決意を聞いた後、彼らは今日の授業について振り返ることにした。
「1限のミハイル教官の数学、みんな分かった?」
「あれはどちらかと言えば軍事学の応用に近いからな。」
「狙撃手や砲撃手辺りにはもってこいだろうな」
「少なくとも、本物の戦場で役に立つかは不明ですが」
(………身も蓋も無いな)
「むむむ、じゃあ2限のトワ教官の政経は?」
「僕は帝都出身だから、馴染みの法律が出てきたな」
「情報局のレクチャーで習いました」
「予習しておいた」
「何よもう!なら言わせてもらうけど3限のランディ先輩の行軍訓練はあたし頑張ったんだからね!」
「いや、あれは………」
「ユウナさんとキリコさん以外、脱落したからかと……」
三限の主計科と合同での行軍訓練は、ただ歩く。
それだけだがその距離の長さと武装したまま一糸乱れぬ行軍という条件の下、一人また一人と脱落していった。
訓練が終わる頃には、根性で残ったユウナと額にわずかに汗をかくキリコの二人しか立っていなかった。
ちなみに、アルティナは15分でクラウ=ソラスを使おうとして失格、クルトは40分で息も絶え絶えになっていた。
「当分、歩きたくないです……」
「はは……お疲れ様」
「それにしても、キリコ君って体力あるのね?」
「大したことじゃない。それに今後はさらに装備が増えるはずだ」
「…………………………………………」
「その………アルティナ……変なオーラが出てるわよ」
「ま、まぁいきなり重装備ということはないだろう。それに二人が特別だったんだろうから………」
「ちょっとクルト君!?それどういう意味!?」
「い、いや別に他意はないんだが……」
「ユウナさんがうらやましいです……」
「もう!アルティナまで!」
(忙しい毎日を共に過ごして二週間。ゴウト、バニラ、ココナ、シャッコ、そしてフィアナ。アストラギウスであいつらと過ごした時と同じような暖かさがここにはある。彼らと出会わなければ今の俺はないだろう)
キリコはユウナたちのやり取りがかつての仲間たちの姿を思い越させた。
「それはそうと……キリコは何か苦労はないのか?」
「そうそう。さっきから黙っちゃってどうしたの?」
「いや、何でもない。それと苦労というなら芸術だな。よくわからない」
「ああ~分かる。絵画とか音楽はあたしもサッパリ……」
「しかも、分校長の授業だからな。一瞬も気が抜けない」
「さすがのあの人もちゃんと出ているくらいですから」
「あの人……?ああ!!今朝のあの失礼なやつ!」
「Ⅷ組 戦術科の……」
「?」
「ああ、キリコさんはいなかったんですね。実は…」
それは今朝のこと。
偶々キリコは早くに寮を出たため三人で登校していたら……
「ハッ──選抜エリートが仲良く登校かよ」
と茶金髪の生徒に絡まれた。
「あなたは──」
「えっと、確かⅧ組 戦術科の……」
「おはよう……僕たちに何か用件か?」
「クク……いや、別に?ただ、噂の英雄のクラスってのはどんなモンなのか興味があってなァ」
「Ⅶ組 特務科──さぞ充実した毎日なんじゃねぇか?」
「……………」
「悪いが、入ったばかりで毎日大変なのはそちらと同じさ」
「そうね、あの人のクラスだからって今の所カリキュラムは同じなんだし」
「だったらどうして、わざわざ別に少人数のクラスなんざ作ったんだ?」
「明らかに歳がおかしいガキもいるし、毛並みの良すぎるお坊ちゃんもいる。曰く付きの場所から来たジャジャ馬の留学生もいるしなァ。おっと悪い。"留学生"じゃなかったか?」
「………っ……」
「極めつけは分校長の推薦もらったっつうあいつだ。そんな大層なヤツにはみえねぇんだがなァ?」
「無用な挑発はやめて欲しいんだが。言いたいことがあるならいつでも鍛錬場に付き合うが?後、キリコを甘く見ないほうがいい」
「クク、いいねぇ。思った以上にやりそうだ。だが生憎、用があるのは──」
「うふふ、仲がよろしいですね♥️」
一触即発の空気が流れたが、女子の声で霧散した。
「あ………」
「確かⅨ組 主計科の」
「……ふん?」
緑髪の女子生徒はスカートを軽く上げ、優雅に挨拶をした。
「ふふ、おはようございます。気持ちのいい朝ですね。ですが、のんびりしていると予鈴が鳴ってしまいますよ?」
「確かに……」
「………そっちはまだ絡んでくるつもり?」
「クク……別に絡んじゃいねぇって。そんじゃあな。2限と4限にまた会おうぜ」
そう言って茶金髪の男子は行ってしまった。
「ふふ、ごきげんよう。1限、3限、4限でよろしくお願いします。それと、キリコさんによろしくお伝えください。一緒に登校しようと思ったんですが、先に行ってしまわれたんで」
ユウナたちに伝言を伝えて緑髪の女子生徒も行ってしまった。
「「「……………」」」
ユウナたちは先ほどの伝言に固まってしまう。
「ちょ、ちょっと二人とも!?」
「落ち着け。キリコの知り合いか?それにしては優雅というか………」
「とにかく本人に聞いてみましょう」
三人は茶金髪の男子の事など忘れてしまった。そして時間が迫っていることも。
キ━━━━ンコ━━━━ンカ━━━━ンコ━━━━ン
「って、ヤバ………!」
「急がないとHRに遅れそうです」
「ああ、行こう……!」
三人は走り出した。後ろでため息をつく教官二人に気づくことなく。
(そんな事があったのか……)
今朝、三人が息を切らせながら教室に入って来た理由を知り、キリコは表情を崩さず話を聞いていた。
すると不意にユウナが顔を近づける。
「………で?キリコ君、あの娘とどんな関係なの?」
(グイグイ行くな………)
(ユウナさん、パワフルですね)
「言っとくけどだんまりは無しだからね?」
「……………」
キリコは今までの事をかいつまんで説明することになった。
「へぇ……そんな事があったのか。それにしても本当に内戦に参加していたのか」
「参加といっても整備のためだ。もっとも、内戦末期には俺も出撃せざるを得なかったがな」
「それが分校長との因縁というわけですか」
「それにしても、そのジギストムンドとかいう奴許せない!ディーター元市長だってもっと人間味があったのに!」
(ディーター・クロイス、元クロスベル市長で1年半前の騒動の首謀者か………)
「なるほど、よくわかった。それであのミュゼという女子と知り合いだったのか」
「ああ」
「イーグレット伯爵家。カイエン公爵家の相談役でしたが、元カイエン公に疎まれて今はオルディスの貴族街から遠ざけられてるそうです」
「アルティナ……そう言う事を軽々しく口にするんじゃない」
リィンがそう言って入ってくる。
「そう言えば明日は自由登校日なんですよね?」
「ああ、今説明しようと思ったがまぁいい。自由登校日というのはトールズ士官学院における"授業がない自由日"のことだ。自習するも良し、訓練するも良し、自分の趣味に当ててもいい。──ただし、一つだけ条件がある。それは部活動を決めてもらおう」
部活動という言葉に全員が反応する。
「へ……」
「部活動……ですか?」
「……設立されたばかりですし部活はないと思っていましたが」
(俺には関係ないな)
「分校長からのお達しでね。トールズを名乗る以上、部活に所属するのは必須だそうだ。二名以上集めたら、どんな部活でも申請を許可して、道具や機材も揃えてくれるらしい」
「ちなみに参加しない生徒は強制的に生徒会を作らせて分校長に奉仕させると言っていたな」
これを聞いた四人の顔がひきつる(キリコは一見変わらないが)。
「……さすがにそれは抵抗がありますね」
「ていうか、あの博士といい、無茶苦茶すぎるでしょ……!」
「実質、強制ですか……… 明日中に決めろという事ですね」
(面倒なことを…… 仕方ない、気は進まないが……)
「ああ、今日の放課後からでもさっそく検討してみるといい。勿論教官陣も相談に乗る。遠慮なく声をかけてくれ」
「───それと最後に週明けの"新カリキュラム"だが」
リィンの一言に四人の顔が引き締まる。
機甲兵教練
それが新カリキュラムの名前だった。
だが本番はここからだった。
「その後は、週末に実施される特別カリキュラムについても発表されるそうだ。言っておくが教練陣もまだ詳細は知らされていない」
そして、アルティナの号令とともにHRは終了した。
[キリコ side]
「お願いします」
「ああ、構わん」
「あはは、よろしくお願いしますね」
分校長からのお達しで部活に入らなくてはならなくなり、俺はまっすぐ格納庫へ足を運んだ。
そこにいたシュミット博士とティータ・ラッセルに技術部として顧問と部員になってくれないかと直談判した所、二つ返事でOKを貰った。
シュミット博士は元々、俺を自身の研究の手伝いをさせるつもりだったらしい。
その主な内容は実験用の機甲兵の整備とテストパイロットの二つ。
これはティータに任せられないこと、俺が機甲兵の騎乗経験があるからだそうだ。
一方のティータは料理研究会とやらに入るらしいが、こちらと掛け持ちという形になる。
というのも、彼女は普段から技術棟で作業しているので部活をするには少々キツイ。
だから俺が入るのは渡りに船らしい。
本来は掛け持ちはできないらしいが、ティータの負担が減ること、作業効率が上がることから分校長の鶴の一声で許可が下りた。
これにミハイル教官が異を唱えたが分校長の屁理屈に屈したのは言うまでもない。
「改めて、リベール王国から来ました、ティータ・ラッセルです」
「キリコ・キュービィー。よろしく頼む」
「はい……!それでキリコさん、オーブメントの整備はできますか?」
「ああ、問題ない。だが第五世代はいじったことはない」
「え?えっと……オーブメントはあるんですよね?」
「これだ」
そう言って俺は中古品の戦術オーブメントを取り出した。
「ええ!?これ、相当前のモデルですよ!?」
「内戦の少し前に交換屋で手に入れた。俺はアーツは使わないから身体能力向上が目的で使っている」
「あ、そうですよね。遊撃士や軍人さんならともかく、一般の人が新型の戦術オーブメントを手に入れるのはかなり難しいですもんね」
ティータはそう言って中古品の戦術オーブメントを見つめる。
「えへへ、懐かしいなぁ。4年前の異変の時お姉ちゃんとお兄ちゃんとみんなでリベル=アークに乗り込んだことを思い出します」
「4年前……《リベールの異変》か?」
「はい、そうです!やっぱりこっちでも知られているんですね」
「あぁ………待て。4年前の異変に参加していたのか?」
「はいっ!私はまだ12歳でしたけどみんなと一緒に戦いました」
そう言って彼女は導力砲を取り出した。すると、
「お前たち、いつまで無駄話をするつもりだ。弟子候補は機甲兵の武装チェックに入れ。キュービィーは少し話がある、二階に来い」
「あっ……はい、すぐにやります」
そう言ってティータは仕事に取りかかった。
「まぁ座れ」
「話というのは他でもない。これを見ろ」
「ッ!?これは……」
格納庫の二階にあるソファーに腰を下ろした俺に博士は一枚の設計図を見せた。
「実験用機甲兵の設計図だ。ドラッケンⅡをベースにスクリーンモニターを廃止し望遠、赤外線 、魚眼レンズをそれぞれ独立させた新型スコープの採用、機体のフレームとローラーダッシュ機構のさらなる見直しにより機動力、旋回性の向上を実現、両腕に固定武装を装備することで攻撃力の増加。だが操作性の問題などからたった一機のみ製造された。キュービィー、貴様にはこれの整備とテストをやってもらおう。さらに何かアイデアを出せ。政府の連中は新型機のことしか……おい、聞いているのか?」
この時俺はもはや話を聞いていなかった。
緑に覆われたカラーリング、三つのレンズで構成されたターレットスコープ、両腕のアームパンチ機構。
それはかつて俺とともに戦場を駆け巡った鉄の棺。
人命すら軽視し、アストラギウスに戦争と地獄を与えた最高にして最悪の兵器。
AT───アーマード・トルーパー。
別名をボトムズ。
アレにあまりにもそっくりだった。
「これはあなたが?」
「いや、私ではない。私ならこんなものは作らん。出所は不明だが、ラインフォルトとは別口らしい」
こんなものを知るのはこの世界で俺だけのはずだ。
(まさか……俺以外にも転生した奴が?)
「それで?やるのか?」
「……はい。やらせてください」
「フン、いいだろう。来月までには取り寄せよう。今日はもう帰れ」
寮へと帰る俺の足取りは重かった。
まさか異能だけでなくATまで俺について回るとは夢にも思わなかった。
(あの機体、《フルメタルドッグ》と言ったか。これは偶然なのか?いや、偶然にしては出来すぎている。やはり俺以外にも転生した奴がいてそいつが糸を引いているんだろう。だが、何のために………)
[キリコ side out]
「フフフ、動き始めたか。キリコ、お前にはせいぜい踊ってもらうとしよう」
次回は機甲兵教練ではなく、自由登校に変更します。