英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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バトリング

4月17日 早朝

 

機甲兵教練の日がやって来た。

 

キリコは他の生徒たちと指定の教室で待機していた。すると隣から誰かが話しかけてきた。

 

「キリコさん、いよいよですね」

 

「上手くサポートできるか不安ですわ」

 

ティータとミュゼだった。

 

「……………」

 

(キリコさんって、緊張しないのかな?)

 

(うーん……どうなんでしょう?少なくとも機甲兵には乗った事はあるそうですが……)

 

二人はひそひそと話していた。

 

(ちょっとちょっと、キリコ君ってミュゼって娘だけじゃなくてあのティータにも手を出したの!?)

 

(いや……飛躍し過ぎだから。どう見てもそんな雰囲気じゃないだろう)

 

(キリコさんに何らかの興味を示しているようですね)

 

「オイそこ、何こそこそやってんだ?」

 

Ⅶ組の後ろから茶金髪の生徒、アッシュ・カーバイドが絡んできた。

 

「ヘッ、英雄のクラスってのはゴシップが好きなんだな?」

 

「だ、誰がゴシップ好きよ!あんたこそ首突っ込んでんじゃないわよ!」

 

「あらあら……私たちの事、もう噂になってますね。どうしましょう、キリコさん♥️」

 

「ミュ、ミュゼちゃん!?」

 

「…………………」

 

(キリコ……本気で煩わしそうだな……)

 

(よく怒り出しませんね。いえ、これはもう諦めている?)

 

アッシュの挑発にユウナが突っかかり、ミュゼは頬を染め、ティータはおろおろし、クルトとアルティナが呆れている横でキリコはというと、

 

(機甲兵教練……おそらくこれもオーレリアの言う捨て石の役割を俺たちに全うさせるための手段だろう。銃を撃った事のない者たちにどう教えるのか分からんが、祿なことにならないだろう。それに今朝のオーレリアのあの目、奴と同じ目だ。俺との決着に執心した奴の目に……)

 

かつての強敵の事を思い出していた。

 

その後、教官たちが入って来たところで全員がモニターに注目した。

 

モニターに写し出される機甲兵の全貌にある者は顔を引き締め、ある者は複雑そうな表情を浮かべ、またある者はすでに覚悟を済ませていた。

 

 

[キリコ side]

 

機甲兵教練は予想した通り、ほとんどの者が扱いきれていなかった。

 

クルトや戦術科のゼシカのような武術に秀でている者はすぐにとは言わないが乗りこなせていたが、大半はシドニーのように移動もスムーズに行えていなかった。

 

ちなみに俺はリィン教官の言うままに大人しく機甲兵を動かしていた。

 

全員が乗り終わって、俺たちⅦ組は話し合っていた。

 

「はぁ、本当に機甲兵に乗るハメになったなんて……。クロスベルの人たちに申し訳ないっていうか…なんていうか……」

 

「その割はノリノリで基本操縦はクリアしていたみたいですが」

 

「ああ、僕よりも早く慣れていたくらいだったな」

 

「少なくとも素質はあるようだな」

 

「もしかして乗った経験が?」

 

「ううん、でも警察学校で導力車の運転はしてたから。一度掴んだらスムーズに動かせちゃったというか……」

 

「なるほど、運転感覚の延長か……」

 

(天性のカンということか……)

 

「私は若干つまずいたので素直にうらやましいです。どうもクラウ=ソラスと比較してしまうみたいで……」

 

「へぇ、そういうものなんだ?───じゃなくて!慣れたくないんだってば!」

 

クロスベル出身のユウナからすれば、故郷を奪った敵そのものというわけか。

 

「ていうかキリコ君?君、機甲兵は慣れてるんでしょ?その割に大人しかったけど?」

 

「悪目立ちするつもりはない」

 

「だが、キリコの動きはここの誰よりもスムーズだった。もう模擬戦じゃなく実戦でいけるんじゃないか?」

 

「そういう意味では既に目立っていると思います」

 

「…………」

 

(チッ……)

 

(フフフ、さすがですね)

 

(このデータ……やっぱりすごい………)

 

すると、リィン教官とランドルフ教官が簡単な模擬戦を行うと言い出した。

 

内容は教官二人のどちらかと俺たち2名によるものだ。まずはクルトとユウナがリィン教官に呼ばれた。

 

二人はドラッケンⅡに乗り込み、それぞれの得物を模した樹脂製の練習用武器を構えた。

 

リィン教官の言うとおり基本操縦はできているので模擬戦はこなせるだろう。

 

ただ、リィン教官が騎神を使わないことに不満らしい。

 

だが、俺の見立てでは騎神を用いた場合、あの二人ではまず勝てないだろう。

 

さすがに無謀と言わざるを得ない。

 

【初めに言っておくが、俺は去年、トールズ本校の機甲兵教練でさんざん乗りこなしている。はっきり言って君たち二人程度なら余裕だろうな】

 

【ぐっ……言ったわねぇ!?】

 

【……ならば存分に胸を貸してもらいましょうか!】

 

だが教官の発言に二人はカチンときたようだ。

 

士気は上がったが、冷静でないことは俺でもわかった。

 

とはいえ、俺も灰色の騎士には興味がある。

 

同じドラッケンⅡでユウナとクルト二人を相手にどこまで戦えるのか、見定める必要がある。

 

結果はユウナたちの勝利だが、教官は明らかに手加減をしていた。

 

ドラッケンⅡから下りてきた二人の顔は苦々しいものだった。

 

特にクルトは手加減されたことが気に入らないらしい。

 

だが同時に本気ならば負けていたことも理解していた。

 

だがここで波乱が起きた。

 

教官は次の相手にゼシカとアッシュを指名したが、アッシュはそれを拒否したのだった。

 

「ちょっと、貴方どういうつもり!?」

 

「ああ、お前さんとの共闘に文句があるわけじゃねぇよ。せっかく模擬戦をするなら面白い趣向がいいと思ってなあ」

 

そう言ってアッシュはランドルフ教官のヘクトルを借りた。

 

「どうせだったら一対一でシュバルツァー教官……と言いてえとこだが、オレの相手はテメェだ、キリコ・キュービィー」

 

アッシュは俺を指名した。

 

「テメェ分校長の推薦で入ったんだってな?前々から噂になってたんだが、実は裏口じゃねぇかってな」

 

ザワザワ……

 

どうやら周りもそう思っていたらしく、周囲がざわつく。

 

「ちょ、ちょっと……!?」

 

「いや、いい機会だ。キリコの本当の実力を知るためにはね」

 

「キリコさんがどの程度なのか、見極める必要があります」

 

遂にはⅦ組もざわつきだす。こうなっては仕方ない。

 

「わかった、受けよう」

 

「オイオイ、お前ら何勝手に……」

 

「いえ、やらせてみましょう。確かにこの二人ならすでに実戦レベルに相当します。それに生徒のやる気に水を差すのもなんですしね」

 

「まぁ、そう言うことならいいか」

 

リィン教官からドラッケンⅡを借り、機甲兵用機銃へヴィマシンガンを手に取る。

 

ちなみにこの銃は実験用機甲兵の武装だが、機甲兵教練に合わせてこれだけ送られてきた。

 

相手のヘクトル弐型は斧のような武器を持っている。

 

だが俺はアッシュが何か狙っているのがわかった。

 

ヘクトル弐型はドラッケンⅡの装甲の1.5倍の厚さを誇り、パワーと耐久力に勝るが、スピードはこちらに分がある。

 

キャノン砲でも付いているなら別だが、この機体とやり合うならば、ほぼ間違いなく接近戦でくる。

 

内戦時、ウォレス准将とさんざんやり合ったため、ヘクトル系との戦い方は身に染み付いている。

 

アッシュがその事を知っているかは知らないが、武器の射程などから現時点で優位なのは俺の方だ。

 

だが奴の顔はニヤニヤとしている。おそらく、あの武器に何か仕込んでいるのだろうな。

 

操縦桿を握りしめる俺の頭に内戦以来の感覚がよみがえってきた。

 

ヒリヒリするような緊張感、手足が熱く頭が冷える矛盾した感覚が。

 

俺は戦場にいるのだ。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「それにしてもなんなのよ、アイツ…… さすがに生意気すぎない!?」

 

「ユウナさんは人のことは全く言えないと思いますが」

 

「……………………」

 

ユウナがアッシュの態度に腹を立てる中、クルトはキリコの乗るドラッケンⅡを見つめていた。

 

【クク、すぐに化けの皮を剥いでやるぜ。キリコ・キュービィーさんよ】

 

アッシュは戦意を滾らせ、キリコを挑発する。

 

【……………………】

 

キリコはアッシュの挑発を意に介さなかった。

 

【何だ……?ブルッちまったのか?】

 

【いいのか?】

 

【あぁ?】

 

【その機体はパワーはなかなかだが、扱えるのか?】

 

【ご忠告どーも。だが──コイツを扱うには少しパワーが必要なんでな……】

 

そう言ってヘクトル弐型は武器─ヴァリアブルアクスを振り上げる。

 

「なっ……!?」

 

「その距離では──」

 

「いや……!」

 

その瞬間、ヴァリアブルアクスの刃が開き、大鎌の形状になる。

 

それを振り下ろすと同時に刃の部分が外れ、キリコの機体に襲いかかる。

 

奇襲用のギミック。これがアッシュの狙いだった。

 

これにはランドルフも驚きを隠せなかった。

 

アッシュはこの攻撃には自信があった。

 

奇襲を皮切りに先手を取り、接近戦で仕留める。

 

これがアッシュのプランであり、成功するはずだった。

 

 

 

相手がキリコでなければ。

 

 

 

【っ!】

 

すばやく反応したキリコは操縦捍を操作した。

 

ドラッケンⅡはへヴィマシンガンで刃を撃ち落とすと、ヘクトル弐型のボディにショルダータックルをぶちかます。

 

【がああっ……!?】

 

もろに食らったヘクトル弐型はたたらを踏む。

 

その隙を逃さず、追撃を加える。

 

『!?』

 

周囲は騒然とした。

 

「う、嘘……!?」

 

「読んで……いたのか……!?」

 

「出鱈目です……」

 

「これがキリコさんの……」

 

(まさかここまでとは)

 

「オイオイオイ……」

 

「……………」

 

 

 

またグラウンドから離れた場所では──

 

「すごい………」

 

「ば、馬鹿な……」

 

「フン、これしきのことで」

 

トワとミハイルは目の前の光景が信じられなかったが、シュミット博士は何を当たり前のことをと、言わんばかりだった。

 

「フフフ、さすがはキュービィー。そうこなくてはな。だが、ここからだろう?」

 

分校長のオーレリアは沸き上がる闘志を抑えながら、キリコの真髄を見定めようとしていた。

 

 

 

ギュィ━━ン! ズガガガガッ!

 

ドラッケンⅡはローラーダッシュを巧みに使い、時計回りに銃撃を当てていく。

 

対するヘクトル弐型は耐久力とアッシュの反応でなんとか耐えているが、どちらが優位かは火を見るより明らかだった。

 

【ッ!クソが………】

 

【……………】

 

先ほどの一撃を加えようとするも、ドラッケンⅡはその隙を縫ってヘッドにパンチを一撃。

 

かといって、僅かでも下がろうものなら時計回りで背中やアームに集中砲火が襲いかかる。

 

逆にヘクトル弐型が接近すればドラッケンⅡは距離を取って回避に専念し、一撃も被弾することはなかった。

 

最も自信のあった戦法を早々に見破られ、手も足も出せず、銃撃にさらされる。

 

それはもはや、蹂躙だった。

 

ドラッケンⅡの攻撃を受け続けたヘクトル弐型は遂に背中から火花が散り、煙を吹いた。

 

 【…………………】

 

 両手をつくヘクトル弐型にドラッケンⅡは接近し、コックピット付近にヘヴィマシンガンの銃口を向ける。

 

「ッ!両者、そこまでだ!」

 

リィンの声にドラッケンⅡは元の場所に下がった。

 

【ハァ……ハァ………クソッタレが!!】

 

「そこまでにしとけ、お前よりヘクトルの方がもたねぇよ。ったく……何もここまでボロボロにしなくてもよ」

 

ランドルフがアッシュをコックピットから引っ張り出す。

 

ヘクトル弐型はドラッケンⅡの集中砲火により、エンジンが焼け、コックピット部分を除いてボロボロだった。

 

「あはは……なんて言うか……」

 

「分校長が推薦した理由がわかった。これほどの実力者を放っておくわけがないな……」

 

「情報局のデータベースと、いえ、それ以上です……」

 

(お見事です……キリコさん。やはり……貴方の協力が………)

 

「すごい……練習機とはいえドラッケンⅡの性能をここまで引き出すなんて……」

 

キリコの実力の片鱗を見たⅦ組とミュゼは複雑そうな目を向け、ティータはスペック以上のデータに驚愕する

 

(やり過ぎたか………)

 

キリコがそう思った次の瞬間────

 

「スゲェぜ!キリコってこんなにスゴかったんだな!」

 

「あのアッシュさんが手も足も出ないなんて……」

 

「ああ、凄まじいな」

 

「でもこれでハッキリしたで。キリコは裏口とかちゃう。ホンマモンの実力を持っとるんや」

 

「キリコ、ルームメイトとしてこれからもよろしく」

 

「今日は不覚を取ったが、負けないからな」

 

「ハハハ、根暗だと思ったけど見直したよ」

 

(私が戦ったとして……ダメだわ、勝てるイメージがわかない)

 

分校の生徒全員がキリコを称賛する。

 

遂にキリコがトールズ第Ⅱ分校の一員と認められた瞬間だった。

 

「オイ…」

 

キリコが振り向くと、アッシュが立っていた。

 

「この借りはいずれ返すからな」

 

「ああ」

 

「チッ…」

 

そう言ってアッシュは校舎の方へ消えていった。

 

「オイ、アッシュ・カーバイド!お前にはまだ聞きてぇことがあんだっつーの!」

 

ランドルフもその後を追いかける。

 

 

 

「ふふん、どんなもんよ。っていうか最初のあれ、さすがに汚すぎない!?」

 

「確かに、開始の前の合図の前でもありましたし」

 

「ああ……武を尊ぶ帝国人の風上にも置けないやり方だ。(だが、あの瞬発力と虚を突いた奇襲は……)」

 

「甘いな」

 

「「「え?」」」

 

「戦場ではなんでもありだということだ」

 

「し、しかし……」

 

「ていうかキリコ君はどうしてわかったの?」

 

「ヘクトルはパワーと耐久力はドラッケンよりも上だが、その分スピードが低い。さらにキャノン砲も装備しているわけでもない。となれば、あの武器が怪しいと睨んだだけだ」

 

「それだけの情報で………」

 

「戦場、というより戦闘はゲームではない。決まったルールがあるわけではないということだ」

 

「くっ……(ギリッ)!」

 

「キリコ君……」

 

「戦争における条約などではなく、戦闘にルールなど存在しない、そういうことですか……」

 

「まあ、そこまで深刻になることもないけどな」

 

リィンがクルトたちを諭すように話しかける。

 

「君たちはまだまだ学ぶ立場にある。今日の内容から自分が納得する答えを探し出せばいい。キリコは偶々、そういう答えに行き着いたがそれだけが正解とは限らないからな。」

 

「はい……」

 

「後、キリコ。あれはさすがにやり過ぎだ。コックピットを上手く外したからいいものを……。そこは反省するようにな」

 

「はい」

 

「そうだ君たち、アッシュのこと、どう思う?」

 

「………天性のバネを持っているとしか」

 

「すっごく失礼なヤツ!」

 

「素行とやり方は認められませんが、あの瞬発力はなかなかのものかと……」

 

「獰猛な獣を想像します」

 

「そうか。鍛えればものすごく伸びるな。さて、機甲兵教練はこれで一通り終了だ。昼食後、《特別カリキュラム》について説明があるから指定の教室で待機してるように」

 

Ⅶ組特務科はそこで解散した。

 

 

 

[キリコ side]

 

《特別カリキュラム》についての説明が始まった。

 

《特別カリキュラム》の内容は帝国南西サザーラント州への遠征だった。

 

周りは遠足気分に浸る者、不安な者、さっそく準備の段取りを図る者と三者三様だった。

 

「出発は金曜の夜、それまでに為すべき準備をクラスごとに決めてある!担当教官の指示に従って備え、英気を養うこと──以上だ!」

 

金曜か……確かにあまりないな。

 

「うーん、入っていきなり地方での演習だなんてねぇ」

 

「サザーラント、ここからだと列車で数時間ほどですね」

 

「サザーラントか……」

 

クロスベルのユウナはピンときていないようだが、俺は帝国西部で過ごしたため多少なりとも思い入れがある。どうやらクルトも何かあるらしい。

 

「……………………」

 

どうやら分校長は何か企みがあるようだ。

 

[キリコ side out]

 




キリコを称賛してる生徒は上から、シドニー、マヤ、グスタフ、パブロ、スターク、ウェイン、レオノーラ、ゼシカの順です。


次回から舞台がサザーラント州に移ります。
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