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4月21日 午後 6:30
分校の生徒全員が併設された列車のホームで慌ただしく最終準備をしていた。
「やはり間に合いませんでしたか……」
「そうだな」
キリコとティータはシュミット博士から実験用機甲兵《フルメタルドッグ》の搬入が遅れていることを聞いた。
本来なら今日搬入されるはずだったが他の列車のトラブルのあおりをくらい、間に合わなかった。
「演習の2日目に搬入できるように手配した。全く、人の足を引っ張りおって」
「まあまあ、そこまで深刻なものではないですし……」
「これでは機体の運用データが取れないだろう。何のための実験用機甲兵だ」
「は、博士~」
(マッドサイエンティスト……ユウナの気持ちがわかるな)
「すまない、キリコ。こっちを少し手伝ってくれないか?」
振り向くとスタークとウェインが手を振っていた。
「あっ、スタークさんにウェインさん」
「すまないがキリコを借りるぞ。それにしてもこんなに薬が備蓄されているとはな」
「俺たち主計科は特務科、戦術科と違って戦闘には直接関わらない。そのサポートが役目だからね。みんながケガした時の対策はきっちりしておかないとね」
「そうですね!他にも各方面への連絡や物資の補給、機甲兵の整備がお仕事ですからね」
「大変なんだな……。もしかしたら戦術科が…いや、大変なのはどこも同じか」
「ハハハ、わかってるじゃねぇか」
ランドルフがそう言ってウェインの肩を叩く。
「きょ、教官!?」
「いいかウェイン、俺たち戦術科は機甲兵の運用だけじゃねぇ。戦闘になったらいの一番で現場に駆けつけなきゃならねぇ。ハッキリ言って負傷する確率が3クラスの中で一番高ぇんだ。この演習が終わったら今月よりビシバシ鍛えてやるから覚悟しとけよ?」
「イ、イエッサー……」
「ラ、ランドルフ教官……」
「ウェインが青ざめているな……」
(戦術科と主計科の意義はわかった。だが俺たち特務科は……)
「進んでるか?キリコ」
「みんな、サボッちゃダメだよ。あっ、ティータちゃんにスターク君。備蓄のリストは上がってる?」
リィンとトワがやってきた。
「あっ、はい。出来ています」
「問題ありません」
「わかった。後で回してね」
「そうだキリコ、実験用機甲兵が遅れるそうだな?」
「はい」
「どうした?何かあるのか?」
「いえ……」
「あの、教官。特務科はどんなことをするんですか?」
キリコが作業に戻ろうとすると、ティータがリィンに質問した。
「そうだな……詳しくは演習開始と共に発表されるそうだ」
「教官もご存じないんですか?」
「すまない。だがもし、本校の特科クラス Ⅶ組のやり方だったら帝国の"壁"を知ることかな」
「"壁"?」
「この帝国は内戦以来大きく変わろうとしている。内戦以前は貴族派と革新派の争いを筆頭に国家や人種、文化、宗教といったあくまで帝国内部に存在する壁だったが、現在はそれらに加えて国外のこともある。それらの壁を知ることが目的だ」
「俺も本校時代に今の君たちと同じように帝国各地に実習しに行ったことがあるんだ。そこでは先ほど挙げた問題と何度も直面した。当時の仲間たちと共に乗り越えていくたびに考えさせられたよ、この帝国で生きていくためにあらゆる固定観念を取り去れってね」
「リィン君……」
(特務支援課みたいなことやってたんだな)
(固定観念……)
「そしてそれこそが実習立案者の真の狙いだったんだ。『帝国に吹く第三の風になってくれ』ってね」
「リィン教官!もしかしてその人は……」
「ああ、ティータは知っているんだな。あの……」
「お前たち、いつまで油を売っている!!」
リィンがその名を言おうとした瞬間、ミハイルの雷が落ちた。
「教官ともあろう者が生徒と一緒になってはしゃいでどうする!特にシュバルツァー教官!君はもっと毅然としていなければならないのではないのかね?」
「す、すいません。ミハイル教官……」
「いやぁ~、俺はただかわいい教え子への……」
「言い訳は無用!特別列車が来たら私の所へ来るように!」
リィンとランドルフは出頭命令が出た。
ちなみにキリコたちはリィンたちが庇ったため、お咎めはなかった。
そうこうしているうちに、列車の警笛が聞こえる。
「おっしゃあ、来たでぇ~!」
パブロ一人が盛り上がるなか、生徒全員が列車を見つめる。
第Ⅱ分校専用、特別列車 《デアフリンガー号》
「…キレイ……!」
「銀色の列車か……」
(あの色……以前にも見たことがある。確かクメンに向かう前……」
銀色に磨きあげられた車体のカラーリングにキリコが前世の記憶を辿っていると、中から作業員らしき男たちが出てきた。
そして最後に出てきたのは水色の髪の軍人だった。
「え──」
「あれっ……!」
「フン、来たか」
「ええっ……!」
「オイオイ、マジかよ」
それぞれが驚くなか、女性軍人は微笑み、
「初めまして。第Ⅱ分校の生徒と教官の皆さん。鉄道憲兵隊少佐、クレア・リーヴェルトといいます」と敬礼をして挨拶をした。
「第Ⅱ分校専用、特別装甲列車、《デアフリンガー号》をお渡しします」
(《氷の乙女》に特別装甲列車…… 政府の差し金というわけか……)
キリコは至れり尽くせりの状況に不信感を抱いた。
物資の搬入が完了する頃にはすでに出発時間も近くなっていた。
キリコはなぜかリィンとランドルフとユウナと共にクレア少佐と話をしていた。
「ユウナと知り合いだったんですか?」
「去年、クロスベルの軍警学校で臨時教官を務めたことがありまして。その時からのご縁ですね」
「はい、クレア教官には色々とお世話になりましたっ! あの時も助けられちゃって……」
「あの時……?」
リィンの疑問にユウナは突然赤面した。
「な、なんでもないですっ!乙女の過去を詮索するなんてヤラしいですよ!?キリコ君みたいにただ聞いていればいいんです!」
「……………………」
「おーい、ユウ坊。キリコはガチで興味なさそうだぞ~」
「うぬぬ……!そういう態度も腹立つんですけど!?」
「ふふっ、まあまあ」
怒りの矛先がキリコに向くとクレア少佐はユウナを宥める。
「……元気そうですね。制服、とても似合っていますよ」
「あはは、どうも。ちょっとだけ複雑ですけど」
ユウナの言葉にリィン教官が頬をかく。
「──オルランド中尉は3ヶ月ぶりくらいでしょうか。第Ⅱ分校への協力、本当にありがとうございました」
「ま、半ば強制だったけどな。心配せずとも、振られた仕事はきっちりこなすつもりだぜ」
そしてランドルフは「アンタらがあんまり悪辣なことをしない限りはな」と付け加えた。
「ええ……肝に命じます」
「……?」
ユウナは知らないようだが教官二人は何か知っているようだ。
「──初めまして。貴方がキリコ・キュービィーさんですね」
「ああ」
今度はキリコに話が振られた。
「噂は聞いています。オーレリア閣下の推薦で第Ⅱ分校に入られていたのですね。」
「…………」
「内戦のことはそれなりに調べさせてもらいました。あの時、我々が間に合ってい……「間に合っていれば救えたか?」……え……?」
「人の過去をほじくりかえすのが趣味のようだな」
「ごめんなさい。そういうつもりでは……」
「精鋭を謳いながらもやっていることは人の粗探し、情報局とつながりがあるからできるんだろうが、貴族連合軍の連中が悪し様に言うのも無理もないな」
「……ッ!」
「ちょっとキリコ君!?さすがに言い過ぎよ!」
「いえ、いいんです。すみませんでした。貴方の事情を無視して……」
「クレア少佐……」
(キリコも色々あるみてぇだな……)
「──ここにいたか。リーヴェルト少佐」
不意にミハイルの声が聞こえる。振り返るとミハイルとトワがいた。
「……アーヴィング少佐、お役目、ご苦労様です。トワさんも本当にお久しぶりですね」
「あはは、NGO絡みだったから半年ぶりでしょうか?」
「再会の挨拶は後にしたまえ。そろそろ定刻だが……分校長や博士はどうした?見たところ彼女の専用機も積み込まれていないようだが……」
(金色のシュピーゲルか…… 確かにないな……)
「──それには及ばぬ」
後ろからオーレリアとシュミット博士がやってきた。
クレアは挨拶を済ませると、オーレリアはクレアに特別列車の引き渡しと現地まで同行について感謝を述べる。
だがミハイルの関心はそれどころではないようだ。
「そ、それよりも分校長。機体を運ばぬというのは……」
「ああ、必要なかろう?──今回の演習に私と博士は同行しないからな」
オーレリアの発言にその場にいた者全員が驚く。
「……!?」
「って、そうだったんすか?」
「て、てっきり来られると思って計画書をまとめたんですけど……」
「ま、待ってください……それでは約束が違うでしょう!?」
オーレリアの発言に思わずミハイルがくってかかる。
「現地での戦力計算には貴女の存在も見込んでいて──」
「だからこそ、だ。獅子は子を千尋の谷へとも言う。私が同行しては真の意味での成長も望めまい?既に情報局には伝えてあるが?」
「フン、地方での演習など私の研究に何の意味がある?各種運用と記録は弟子候補、実験は助手に任せた。微力を尽くしてくるがいい」
(助手とは俺のことか……)
「くっ……」
二人の言葉にミハイルは奥歯を噛み締める。
(……そろそろ定刻です。後の対応は分隊に任せて出発するしかないかと)
(……了解だ。ええい、なんと厄介な……!)
「ユウナ、キリコ。君たちも早く集合するようにな」
「い、言われなくとも!」
「了解」
午後 8:55
[キリコ side]
集合した俺たちは分校長の言葉を真剣な眼差しで聞いていた。
「──入学より3週間、いまだ浮き足立つ者もおろう。だが、先日の機甲兵教練も経てそなたらの扉はさらに開かれた」
たしかに入学直後に比べればいくらかマシになっただろう。
「そして古来より旅は人を成長させるとも言う」
旅か……。軍を脱走して以来、ウド、クメン、サンサ、クエント。
国から国、星から星への長い旅が俺を変えたのだろう。
愛、運命、縁。人間的なものがそぐわない俺。
旅を通して、数々の出会いと別れがなければ俺はどうなっていただろうな。
「そなたらが一回り大きくなって還ることを期待する──以上だ。」
『イエス・マム!』
オーレリアの締めに生徒全員が応える。
教官たちの指示で生徒たちがデアフリンガー号に乗り込んでゆく。
いよいよ始まる。
[キリコ side out]
生徒たちが全員列車に乗り込み、リィンたちも乗ろうとすると、
「ハーシェル、オルランド。雛鳥たちのことはよろしく頼む」とオーレリアから声をかけられる。
「……はい!お任せください!」
「まあ、色々ありそうだが微力は尽くさせてもらいますよ」
「──そしてシュバルツァー。北方戦役の終結から続いていた"凪"は終わった。巨いなる力を持つ者として流れを見極めてくるがいい。己の未熟さと向き合い──時に周囲に頼りながらな」
「分校長……」
「ええ──承知しました!」
リィンは大きく返事をした。
一方、列車の後方ではティータとキリコはシュミット博士と話していた。
「機甲兵の運用と整備については一通り教えた通りだ。小破程度なら何とか一人でやりきるがいい」
「ZCFの誇りに賭けてな」
「はい……!お任せくださいっ!」
「キュービィーは他のことに構わず実験用機甲兵のテストに専念しろ。多少派手にやってもかまわん。弟子候補が直すからな」
「………了解」
「あはは、お手柔らかにお願いします。」
列車の発車ベルが鳴り、動き出した。
それを見送ったオーレリアにシュミット博士は問いかける。
「フン……物は言いようだな、将軍?生徒、教官合わせて25名──何人無事に戻ってくることやら」
「フフ……」
シュミット博士の問いかけにオーレリアは微笑む。
「──これより先は激動の時代。彼我も、邦も、老若男女の違いもなく……乗り越えられないのであらばどのみち"明日"はないでしょう」
「………キュービィーでもか?」
「無論です」
オーレリアはホームを後にした。
(虎穴入らずんば虎児を得ず……… 向こうがどのような"罠"を仕掛けてくるかはわからん。トールズの子らよ、一人も欠けることなく戻って来い……)
午後 9:37
デアフリンガー号の2号車兼ブリーフィングルームではリィンたちは今後のことを話合っていた。
「──今回の演習は3日間を想定しています。明朝、セントアーク駅到着後、近郊の演習予定地へと移動──各種設備を展開後、そのまま各クラスごとのカリキュラムを開始する運びです」
「なるほど──この列車がそのまま演習中の拠点になるわけですね」
「そのための専用装甲列車ですか……」
「まあ、合理的っちゃ合理的だな。そのための設備も整ってるみたいだし」
「各クラスのカリキュラムについては別途、手元の書類を確認してほしい」
リィンたちは手元の書類を確認すると、
「……あれ?」
リィンは首をかしげる。
Ⅶ組についての言及が書かれておらず、トワもそれに気づく。
「Ⅶ組については、少々特殊なカリキュラムが用意されている。他クラスとは独立した内容のため演習地到着後、別途ブリーフィングの時間を設けるつもりだ。その際、シュバルツァー教官に加え、Ⅶ組生徒4名にも同席してもらう」
「生徒たちと一緒にですか」
「ふーん?思わせ振りじゃねぇか」
「ふふ……あまり構えないで頂ければ。あくまで《特務科》ならではの内容だからと思ってください」
「特務科ならでは……(一体どんな内容なんだ?まさかな……)」
「いずれにしても詳しい話は明日の朝、ですか」
「ああ、サザーラント州においても不穏な兆候が現れているとの報告がある。分校長が同行しないのは誤算だが……現状の人員でなんとか回すしかあるまい。これは訓練ではない──あくまで実戦の心持ちで本演習には挑んでもらいたい」
「──了解しました」
「それとシュバルツァー教官。キュービィー候補生のことだが、くれぐれも贔屓することのないように。あくまで一学生としての評価をつけるようにな」
「勿論です」
(少佐……ミハイル兄さんにここまで言わせるなんて………)
「まあ、あいつは他のより頭一つ二つ、いや十や二十は飛び抜けてるからなぁ」
「リィン君から見てどうなの?」
「そうですね……戦闘や機甲兵戦術においては間違いなく一級品ですね。少々独断行動のきらいがありますが、クラスの和を乱すことはありませんし、態度に出さないだけで周りをきちんと見ているようです」
「なるほどな」
「たしかに、そんなタイプだね」
(兵士としてはともかく、戦士としては相当な人材というわけですか)
「でもだからといって贔屓なんてしませんよ。むしろ他の生徒よりも少し厳しく評価します。彼のためでもありますからね」
「よろしい、では本日のブリーフィングはこれまでとする。ハーシェル教官、オルランド教官は今夜中に生徒たちへの連絡を。各自休息を取り体を休めてくれたまえ──以上、解散!」
「機甲兵のチェックか?精が出るな」
ブリーフィングを終えたリィンは列車内の見回りをしていた。
ユウナ、クルト、アルティナとの会話を終えたリィンは5号車で作業していたキリコに話しかける。
「教官はなぜここに?」
「ああ、見回りを兼ねてヴァリマールの様子を見にね」
「灰の騎神ですか……」
「興味は……なさそうだな」
「ええ」
「ふう、そういうタイプではないことはわかっていたんだが……もう遅い。区切りのいいところで休むようにな?」
「はい」
他の生徒がそれぞれの想いを口にする中、ほとんど変わらないキリコにリィンは呆れながら、相棒の様子を見に行くのだった。
キリコは原作と同一の世界観の作品 機甲猟兵メロウリンク第2話の舞台のタ・ビングから傭兵の募集でクメンに行ったらしいです。