パルムで準備をすませた一行はパルム間道に出る。
「残る謎の魔獣の情報はこの間道の先になる。ロクに手掛かりもない以上、一通り調べる必要がありそうだ。立て続けになるが4人とも、大丈夫か?」
「も、もちろん!気遣いは無用です!」
「夕方までに片付けるんでしょう?ならば、全力を尽くすまでです」
「はは、その意気だ。あまり無理しないようにな」
「……教官に言われたくはありませんが」
「全くだな……(それにしてもあの力……やはり異能か?俺ともミュゼとも違うようだが……)」
Ⅶ組が間道を捜索していると、何やら釣りをしている女性を発見した。
「あれ、あんな所で釣りをしている人がいるけど……」
(? どこかで見たような……)
「あら……?貴方はもしかして、リィン・シュバルツァーさんではありませんこと?」
「もしかして……アナベルさんですか!?」
「うふふ、やっぱり!ご無沙汰していますわ!」
「教官、この方は?」
「も、もしかしてまた教官の同窓生ですか?」
「いや、こちらの人は趣味の釣り仲間の一人でね。それよりアナベルさんはどうしてこんな所に?」
「実はわたくし、栄えある《釣皇倶楽部》に正式に加入することになりましたの。プロアングラーの端くれとして帝国一周・釣り行脚の真っ最中ですのよ」
「帝国一周・釣り行脚ですか」
(……単なる暇人か……相当の命知らずのどちらかだな)
釣りにほとんど興味がないキリコにしてみれば、こんな場所で釣りをするアナベルの考えが理解出来なかった。
「はは、相変わらず逞しいというか。でも今日はあまり釣れていないみたいですね?」
「ええ……実は全くのボウズで」
リィンの指摘にアナベルは悲しそうに目を伏せる。
「きっとさっきの"不気味な音"に魚が怯えてしまったんですわ~……」
『ッ!』
リィンたちはアナベルのぼやきに反応した。
「"不気味な音"……ですか?」
「それはどんな?」
「ええ~っと……カタカタとかギュルギュルとか、妙に金属的で不快な音と言いますか……」
「それはどこから聞こえましたか?」
「たしか、あちらにある高台の方からみたいでしたわ」
「教官」
「ああ、急いだ方がよさそうだ。ではアナベルさん、我々はこれで」
「はい。何なのかはわかりませんが、お気を付けて~」
来た道を引き返すと、古いコンテナが道を塞いでいた。
リィンが他に上がれそうな場所を探そうとするが、アルティナがクラウ=ソラスのブリューナクでコンテナを跡形もなく破壊。
あまりに力ずくなやり方にユウナとクルトは苦言を呈し、キリコも思わずため息をついたが、当のアルティナは時間の無駄を省いたと取り合う様子もない。
(やれやれ、こういう所はミリアムに似てるのかもな)
[キリコ side]
坂道を登った先には厳重に施錠された門があった。
「……なにこれ。ずいぶん思わせ振りな感じだけど」
「これは山中に続いているのか?」
「地図ではどうなっている?」
「……? 地図には何もありませんね。この門も、その先の道も」
(ただの廃道か……?いや、それにしては物々しすぎる)
門の所には崖崩れとあるが、それでは説明がつかない。まるで、この先の道を隠しているようだ。
「クルト君、こんな場所があるって知ってた?」
「いや……聞いた事もないな」
地元のクルトでも知らないか……。
「いずれにせよ、人形兵器が目撃された場所ではなさそうですね」
「ああ、見たところ相当、頑丈に施錠されているようだ。地面が荒らされた跡もないし、別の場所を──」
その瞬間、教官の顔つきが変わる。
「──戦闘準備。ちょうど向こうから来てくれたみたいだぞ?」
来たか。
林の向こうから機械音が響き、俺も見たことのない人形兵器が二体やって来た。
「な、な、な………」
「これも……人形兵器なんですか!?」
「ああ……!かなり特殊なタイプだ!」
「奇襲・暗殺用の特殊機──《バランシングクラウン》です!」
奇襲・暗殺用か……。なら内戦で見たことがないわけだ。
あの二人なら間違ってもこんなものは使わない。
むしろ発見し次第、即座に破壊するだろう。
「くっ……こいつら、本当に人形なの!?」
「いいだろう……返り討ちにしてくれる!」
「ギミック攻撃に気をつけろ!毒や麻痺が仕込んであるぞ!」
「──来ます!」
バランシングクラウンは奇襲・暗殺用だけあって、遠距離攻撃に特化した機体らしい。
まるで玉乗りをする道化師のデザインとは裏腹に、毒や痺れ薬を仕込んだ鎌や鋼線を飛ばしてくる凶悪な機体だ。
しかも厄介なことに、ゼフィランサス同様、接近戦対策も万全に作られている。
「はあ…はあ……くっ……」
「これを使え」
教官はクルトに解毒薬を渡す。
「すみません、それにしてもなんて厄介な機体だ」
「このままじゃ埒があかないわね……」
「防御力そのものはゼフィランサスが上ですが、その分スピードがあります。何とか接近しないとこのままではジリ貧です」
「それはわかってるんだが……どうしたら……」
「………………」
俺はバランシングクラウンの動きを見ながら作戦を立てる。
(昼間の人形兵器と同じタイプなら接近戦を仕掛けるべきだが……あの攻撃が厄介だな。ならば……!)
「クルト、アーツで援護してくれ」
「え……?」
「キリコ君……!?」
「俺が接近する。その間やつの注意をそらしてくれ」
「危険です……!」
「ならば他に手は?」
「……………」
「わかった、だが囮の役は俺がやる。クルト、君はユウナとアルティナと共に援護をしてくれ。キリコ、君はとどめを頼む!」
「了解」
「わかりました!ガンナーで援護します!」
「了解しました、アーツで援護します。クルトさんもいいですね?」
「あ、ああ……」
クルトは何か納得がいかなそうだが、今は気にしてられない。
「用意、3、2、1……仕掛ける!」
教官の合図と共に、作戦を開始する。
まず教官がクラフト技弧月一閃で切りかかる。
相手が教官に狙いを定めた瞬間、ユウナのクラフト技ジェミニブラストとクルトとアルティナのアーツで視線を反らす。
ようやく隙ができた。
「これで……!」
俺はアーマーマグナムのリミッターを外し、威力を上げたクラフト技アーマーブレイクでとどめを刺す。
まともにくらった人形兵器は火花が散り、煙を吹いた。どうやら行動不可になったらしい。
俺たちはそのままもう一体も同じ作戦で撃破した。
[キリコ side out]
「はあはあ…………た、倒せた……」
「……邪道を使う人形……どこまでだ、結社というのは……」
「……さすがに体力も限界近くかもしれません」
(……場数を踏んでいるとはいえ、やはり今日一日の連戦は堪えるようだな……)
「……ふふ………」
リィンは太刀を納めるて生徒たちを労おうとしたが………
「まずいな、少し読み違えたみたいだ」
「へ……」
「……!」
「反対から──」
「増援か……!」
「ああ……しかも数が多い!」
林の奥から四体のバランシングクラウンが立ちはだかる。
「っ、退路を……!」
「僕たちを弄るつもりか……」
「ほ、ほんと性格悪すぎない!?」
「そうプログラミングされているんだろう」
そう言ってキリコは再び得物を構える。
「ちょ、ちょっと!」
「この状況がわかってるのか!?」
「戦場ではこういった事は畳み掛けるのが常だ。泣き言を言う前に、この状況を何とかしたいとは思わないのか?」
「グッ………!」
「っ~……清々しいくらいに上からね!?」
「やはり経験者は違いますね」
「…………………」
その時、リィンが前に出る。
「──すまない、4人とも無理をさせすぎたみたいだ。キリコ、銃をしまってくれ。この場は俺に任せてくれ」
「え……」
そう言うとリィンから黒いオーラのようなものが噴き上がる。
「コオオオオオオオッ………!」
「ま、まさか──」
「駄目です、リィンさん……!」
「神気合………
「──その必要はない」
声のする方には大剣を携え、凛とした雰囲気の青い髪の女性が立っていた。
青い髪の女性は大剣を正眼に構え、バランシングクラウンたちに切りかかる。
「あ……」
「貴女は……」
「まさか──!」
「?」
Ⅶ組の内、ユウナとキリコ以外は青い髪の女剣士に見覚えがあるらしい。
「笑止──」
青い髪の女剣士は横薙ぎ、逆袈裟、袈裟斬りと人形兵器を一撃で仕留めていく。
「……ぁ…………」
「ええっ!?」
(全て一撃か……)
「喰らうがよい!」
そして青い髪の女剣士は飛び上がり最後の人形兵器を、一刀両断にした。
「……………(パクパク)」
「アルゼイドの絶技……」
「……戦闘力が以前とまるで違うような」
(クルトとアルティナは知っているようだな。そして教官も……)
「はは………"凄腕の臨時師範代"──予想してしかるべきだったな。まさかエリオットに続いて君ともここで再会できるなんて」
「フフ……」
青い髪の女剣士は微笑みながら、リィンを抱きしめる。
「って──」
「このくらいは我慢するがよい。文のやり取りがあったとはいえ、顔を合わせるのは久しいのだから。しかしそなた、背が伸びたな?正直見違えてしまったぞ」
「はは……ラウラこそ」
そう言ってリィンはラウラと呼んだ青い髪の女剣士を抱きしめる。
「1年ちょっととは思えないほど凛として、眩しいほど綺麗になった」
「フフ、世辞はよせ。そちらの修行はまだまだだ」
「え、えっと……」
「お久しぶりです」
「……お噂はかねがね」
(教官と知り合いということは……)
「ふふ、見た顔もいるが改めて名乗らせてもらおう」
「レグラムの子爵家が息女、ラウラ・S・アルゼイドという者だ」
「トールズ《旧Ⅶ組》の出身でもある。見知りおき願おうか───後輩殿たち」
ラウラと共にパルムに戻ったⅦ組は、ヴァンダールの道場に寄り、彼女と話をしていた。
「そうか……子爵閣下から」
「うん、免許皆伝に至った後、師範代の資格も与えられてな。こうして各地を回りながら備えてほしいと頼まれていたのだ」
「ラウラさんの剣術……《アルゼイド流》でしたっけ……帝国では物凄く有名な流派なんですよね?」
「帝国では《ヴァンダール流》と双璧と言われているみたいですね」
「ああ、規模も格式も互角……どちらも軍の武術師範を務めているくらいだ」
「それは……」
「フフ、面映いがそう呼ばれることは多いな」
ラウラは次にクルトに向き直った。
「マテウス・ヴァンダール閣下── お父上からそなたの話も聞いている。ヴァンダールには類稀なる双剣術の使い手──会えて光栄だ」
「そんな──滅相もありません!」
クルトはユウナたちが見たことのないほど狼狽えていた。
「自分など、未熟の極みで……父や兄の足元すら見えぬくらいです。ましてや、その歳で皆伝に至った貴女と比べるなど──」
「ふむ……?」
クルトの言葉にラウラは眉をひそめる。
(クルト君……?)
(どうしたんでしょう)
「…………………」
「………剣の道は果てない。皆伝など通過点に過ぎぬであろ。此の身は未だ修行中……精々リィンと同じくらいの立場だ」
「いや、さすがにラウラと俺を一緒にするのは無理があるぞ」
リィンは頭をかきながらそう返す。
「フフ、謙遜はやめるがいい。それに世には真の天才もいる。そなたらの分校の責任者のように」
「ああ、まあ……確かに」
「天才というより化物ですね」
「えっと……あの人、そんなに凄いの?」
ユウナにはイマイチ伝わらなかったようだ。
「ラウラさんのアルゼイド流と僕の家のヴァンダール流のそのどちらの免許皆伝も受けている……と言ったら分かるだろう?」
「って、聞くだけで滅茶苦茶凄そうなんだけど……」
「フフ、しかし此の地にオーレリア将軍が来ておらぬのはさぞ見込み違いであっただろうな」
「……ああ。政府側の意向ではなさそうだ」
「ていうか、キリコ君はよく知ってるんじゃないの?」
ユウナは黙っていたキリコに話を振る。
「俺が知ってるのはあくまで機甲兵戦術だけだ。それ以外は知らない」
「でも……キリコ君はあの人と互角に戦ったんだよね?」
「何?」
ユウナの発言にラウラが反応する。
「そなた、キリコと言ったな。そなたはオーレリア殿と戦ったことがあるのか?」
(……どう答えたものか)
キリコとしては過去を繰り返されることは好まない。
余計な詮索も干渉もキリコが最も嫌うことだからだ。
転生して、やや丸くなったかもしれないが、基本的にキリコはそれほど変わっていない。
だが状況も状況。このまま黙っていても埒があかない。キリコは素直に「ああ……」と答えるしかなかった。
キリコは仕方なく、内戦の出来事をかいつまんで話した。
「………………」
ラウラは信じられないといった顔をしたが、徐々に落ち着いていった。
「我らが東部で活動していた時と同時期に西部であのお二方と戦っていたとは……」
「ああ、最初に聞いた時は俺も驚いたよ。帝国東部以上の激戦地で生き抜いてきたらしいからな」
「それでそなたは……」
「ああ、俺は分校長の推薦で第Ⅱ分校に入学した」
「なるほど、どうりで。先ほどの戦闘を見ていたが、そなたは折れることなく一人で立ち向かおうとした。一見独断に見えるがそれは仲間を思ってのことだろう?」
「俺たちの最終目的は全員無事に演習拠点へ戻ることだ」
「フフ、大した胆力だ。他の者たちもなかなか筋がいい。更なる研鑽を積むことだ」
「は、はいっ!」
「……精進します」
「そうですね」
「それにしても、どうして人形兵器があんなにいるんでしょうか?」
「やはり結社が何かしようと?」
「現時点で断言はできぬ。陽動の可能性も否定はできまい。この地に注目を集めながらまったく別の地で事を為す。そのくらいの事は平気でやりそうな連中のようだからな」
「確かに、謀略のレベルは情報局並かもしれませんね」
「って、アンタねぇ………」
「ふう……君が言うか」
(この口の軽さ……本当に諜報部員か?アイツでもここまでではなかったが……)
「はは……」
「お互い、何か判ったらすぐに連絡し合うことにしよう。エリオットもそうだが……ラウラがこの地にいてくれるのは何よりも心強いと思っている」
「まあ、女神の導きとはちょっと違う気もするけど」
「フフ、何のことかな?」
ラウラは一度はぐらかし、改めて新Ⅶ組に向き直った。
「こちらも同じだ。頼りにさせてもらうとしよう」
「トールズ第Ⅱ、そしてⅦ組の名を受け継ぎしそなたたち全員に」
そう言ってラウラは道場に入って行った。
「はぁ……なんていうかカッコよすぎるヒトだったなぁ。背が高くて凛としてて、それでいて滅茶苦茶美人だし」
「ユウナさん、目がハートになってますね」
(意外とミーハーなのかな……)
「……まさかあの方までⅦ組とは思いませんでした」
「はは、そうか」
「ラウラもエリオットも、Ⅶ組の仲間は全員、俺の誇りだ。去年、みんなそれぞれの事情で一足先に卒業することになったが……その誇りに支えられながら俺もこの春、卒業できたと思っている」
「あ……」
「………………………」
(誇り、か)
「……ミリアムさんも、ですか?」
「ああ、大切な仲間だ」
「勿論、かつてのⅦ組と新しいⅦ組は同じじゃない。君たちは君たちのⅦ組がどういうものか見出だしていくといい。初めての特務活動も無事、完了したわけだしな」
「そ、そういえば……」
「……今日中に3箇所の調査と必須の要請への対応でしたか」
「ギリギリだったが、全て終えたな」
「…正直、疲れました…」
(この子が零すなんて相当だな)
「みんな、今日はよくやってくれた。早めに帰投するとしよう。何とか日没前に演習地に戻りたいからな」
「はい!」
「了解です」
Ⅶ組一行は街道に出た。
「ここから演習地まで徒歩で2時間くらいですか」
「ああ、馬だったら30分もかからないだろう」
「日没前には戻れそうだな」
「あ~、お腹も減ってきたし今日は爆睡しちゃいそうかも」
「はは、夕食はしっかり取って今夜は早めに寝るといい。──といっても今日中に特務活動のレポートをまとめて提出してもらうつもりだが」
「って、さすがにスパルタが過ぎるんじゃないですかっ!?」
「……食事をしたらすぐに寝てしまいそうな気が」
「仕方ない……協力して手早くまとめよう。キリコ、すまないが帰ったらコーヒーを淹れてくれないか?」
「わかった」
「あ、あれはもうカンベンして~~~!!」
ユウナの叫びが街道に響きわたった。
長かったです。次回からは少し短くなります。