英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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中盤から後半はほとんどオリジナルです。




襲撃

午後 8:00

 

Ⅶ組が演習拠点に戻ると、他のクラスは夜営の準備を進めていた。

 

夕食を取り、レポートを仕上げたキリコたちはそれぞれ自由行動を取っていた。

 

「…………」

 

「キリコさん?どうかしましたか?」

 

食堂のカウンターで何かに気づいた素振りを見せるキリコに隣に座っていたミュゼが話しかける。

 

「…………」

 

キリコは何も言わず、格納庫へと向かった。

 

「………………」

 

「ミュゼちゃん……どうかしたの?」

 

いつになく真剣な表情のミュゼに心配になったティータが話しかける。

 

「あっ、ティータさん。いえ、キリコさんが行ってしまわれたので」

 

「う、うん。何だかおもいつめていたけど……」

 

(……キリコさん。気づかれたようですね。あの方々が間に合えばよいのですが)

 

 

 

一方のキリコは格納庫で銃の手入れをしていた。

 

(敵地同然であるにもかかわらず、ピリついた雰囲気はない。他の生徒は皆、遠足気分で浮かれていた。こういう時は経験上、襲撃にはまたとない好機だ。だが、俺が先ほど感じた妙な気配に気づいた者はいないようだ)

 

(偶然か、異能が引き寄せるのかはわからない。わかっていることはひとつ。生きている限り、戦いから逃れることができない)

 

キリコの眼に暗いものが宿る。

 

 

 

「なるほど…… 演習初日はそれなりに順調だったようだ」

 

ブリーフィングルームでは、教官たちが演習初日の報告会をしていた。

 

「Ⅷ組、Ⅸ組共に予定していたカリキュラムは終了……Ⅶ組の特務活動にしても一定の成果を上げたと言えるだろう」

 

「ふふっ、そうですね」

 

「は~、しっかしマジでどこかで聞いた活動みたいだな」

 

「生徒たち4人もよくやってくれたと思います。思いがけない手助けがあったというのもありますが」

 

「ふふっ、まさかエリオット君だけじゃなくて、ラウラちゃんまでサザーラントに来ていたなんて。ちょっと心強いね」

 

「フン、あまり慣れ合わないようにはしてもらいたいものだがな」

 

「まあまあ、そのくらいは構わないんじゃないっッスか?」

 

「……ただでさえキナ臭い気配がしてるみたいだし」

 

「ええ……」

 

リィンはミハイルに向き直る。

 

「3箇所での人形兵器の出現──特殊なタイプまで含まれています。サザーラント州以外を狙った陽動の可能性もあるでしょうが……念のため各方面に要請して危機に備えた方がいいのでは?」

 

「ふむ……」

 

「通信網の構築も完了しました。今なら各方面にも要請できます」

 

「TMP以外だと、現地の領邦軍に帝国正規軍の指令部あたりか。遊撃士協会が機能してりゃあ連携のしようもあるんだけどな」

 

「フン……ギルドはともかく」

 

「放たれていた人形兵器も少数──大規模に運用されている気配もない」

 

「各方面への要請はしているし、本格的な要請の必要はないだろう」

 

「で、ですが……」

 

「そのための第Ⅱであるというのも弁えてもらいたい」

 

トワの説得も切って捨てた。

 

「ったく、御説ごもっともではあるが……」

 

「……現時点の状況なら第Ⅱが備えるだけでも十分だと?」

 

「専用の装甲列車と機甲兵を擁し、こうして演習地まで構築している。新兵ばかりとはいえ、中隊以上の戦力はあるだろう。国際的な規模とはいえ、相手は所詮、犯罪組織風情──何とでも対処できるはずだ。それに──」

 

 

 

「アハハ、それはどうかなぁ?」

 

 

 

突然声が車内に響いた。

 

「なに……!?」

 

「せ、生徒の声じゃないみたいですけど……」

 

「この声は──!」

 

すると、爆発音が響く。

 

「これは──!」

 

「対戦車砲(パンツァーファウスト)だ!」

 

 

 

[キリコ side]

 

俺が外に出ると、機甲兵が2機やられていた。

 

(対戦車砲か……厄介なものを持ち込んできたな。それにしても……)

 

(わかりきっていたとはいえ、まずいな。全員、呑まれている)

 

俺が周りを見渡すと、第Ⅱの生徒ほぼ全員が呆然としていた。

 

それが悪いとは言わない。誰だって戦場に直面すればこうなる。むしろ冷静でいられる俺が異常なのだろう。

 

「──あそこだ!」

 

教官の言う方に目を向けると、そこには昼間街で会った赤毛の女と騎士を思わせる女がいた。

 

ランドルフ教官のことを「ランディ兄」と言うから親戚か何かだろう。

 

「身喰らう蛇の第七柱直属、鉄機隊筆頭隊士のデュバリィです。短い付き合いとは思いますが第Ⅱとやらに挨拶に来ましたわ」

 

「執行者No.ⅩⅦ──《紅の戦鬼》シャーリィ・オルランド。よろしくね、トールズ第Ⅱのみんな♥️」

 

オルランド……まさかあんなのがランドルフ教官の身内とはな……。

 

「執行者に鉄機隊筆頭……予想以上の死地だったみたいだな」

 

「問答無用の奇襲──いったいどういうつもりだ!?」

 

「ふふっ、決まってるじゃん」

 

パンツァーファウストを捨てたシャーリーは背中からライフルとチェーンソーが合体したような武器を取り出した。

 

あれは《テスタロッサ》というらしい。

 

もう一人のデュバリィも剣と盾を取り出した。

 

「勘違いしないでください。わたくし達が出るまでもありませんわ。ここに来たのは挨拶と警告──」

 

(警告?)

 

「貴方がたに"身の程"というものを思い知らせるためですわ!」

 

そう言ったデュバリィが剣を掲げると、大量の人形兵器が顕れた。

 

「きゃあっ……!?」

 

演習地の入口からも人形兵器がなだれ込むとタチアナが悲鳴を上げる。

 

数はこちらより多いようだ。

 

「あはは、それじゃあ歓迎パーティーを始めよっか!」

 

「我等からのもてなし、せいぜい楽しむといいですわ!」

 

 

 

「狼狽えんな!」

 

ランドルフ教官の激が飛ぶ。

 

「Ⅷ組戦術科、迎撃準備!機甲兵は狙われるから乗り込むな!」

 

「イ、イエス・サー!」

 

まだ硬いが、ものにはなりそうだな。

 

「Ⅸ組は後ろに下がって!」

 

「戦術科が討ち洩らした敵に対処!医療班は待機、通信班は緊急連絡を!」

 

「イ、イエス・マム!」

 

主計科も落ち着きを取り戻している。

 

俺もそろそろ──

 

 

 

「あはは、みぃ~つけた!」

 

 

 

突然後ろから何かが突進してくる。

 

そいつをかわすと、そこにはシャーリィがいた。

 

「……俺に用か?」

 

「あはは、いいねぇいいねぇ。普通なら何かしらリアクションするもんだけど……君あたしを恐れないんだねぇ」

 

「お前に構ってる暇はない」

 

「あはっ、つれないなぁ。でも君強いねぇ。軍人っていうよりあたしたちに近いカンジ。それに強い人独特の気配を持ってるし。昼間見かけたけど、はっきり言って君が一番強いでしょ?もーホントに楽しみだったんだから!」

 

「………………」

 

「もしかして、余計なおしゃべりは嫌い?ホント、気が合いそう♥️」

 

シャーリィは殺気を剥き出しにしながら、テスタロッサを構える。

 

(やるしかないか)

 

俺もアーマーマグナムの銃口をシャーリィに向ける。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「ちょ、ちょっと!何勝手なことしてるんですの!?」

 

デュバリィは思わず頭を抱える。

 

本来なら第Ⅱの対処は人形兵器に任せて、自分たちは高見を決めるつもりだった。

 

しかし、肝心のシャーリィは青髪の生徒の元へ行ってしまった。

 

カッコつけた手前、いたたまれない気持ちになった。

 

「まあ、いいでしょう。可哀想ですがあの雛鳥もせいぜい身の程を思い知るといいですわ」

 

デュバリィは青髪の生徒──キリコから目を離す。

 

それが彼女の最大の過ちであることに気づかず……。

 

 

 

「リィン教官……!」

 

「僕たちはどうすれば!?」

 

「Ⅶ組は遊撃だ!Ⅷ組・Ⅸ組をフォローする」

 

「了解です。ってキリコさんは?」

 

「そ、そういえば……」

 

「!? あそこだ!」

 

「え!?」

 

クルトの指さす方ではキリコとシャーリィが対峙していた。

 

「キ、キリコ君……!?」

 

「まずいな……。相手は執行者。いくらキリコでも……」

 

「フォローに回りますか?」

 

「ああ!人形兵器を蹴散らしつつ、キリコを助けるぞ!」

 

「イエス・サー!」

 

 

 

[キリコ side]

 

テスタロッサという武器は見た目どおりライフルとチェーンソーが合体したような武器だが近くで見ると、どうやら火炎放射器が搭載されているらしい。

 

(昔の……レッドショルダーに入った頃の俺なら発狂していたな……)

 

俺はかつて、レッドショルダー創設者のヨラン・ペールゼン大佐の実験で全身を火炎放射器で焼かれたことがある。

 

第三次サンサ攻略戦で記憶を取り戻す前まで俺はひどい神経発作に悩まされていたが、作戦中に記憶を取り戻して克服した。

 

炎に関しては他にもトラウマがあるが、今はどうでもいい。目の前のコイツを倒すだけだ。

 

 

 

「さぁ~て。どんな風に殺られたい?」

 

「俺は簡単には死なない」

 

「ふ~ん。じゃあ、滅殺してあげるよ♪」

 

どうやらただの挑発にしかならなかったようだ。

 

テスタロッサの銃撃をかわし、アーマーマグナムを撃ち込む。

 

「おっと、へぇ~アーマーマグナムなんてしゃれたモノ使ってるねぇ」

 

「あたしのテスタロッサとどっちが強いか……な!」

 

「チッ」

 

俺の放った弾丸はギリギリでかわされる。

 

(銃では埒があかないか……)

 

俺は他の生徒から距離を取る。

 

「逃がさないよ?」

 

シャーリィはテスタロッサのチェーンソーを起動させ、斬りかかる。

 

俺は転がるように回避し、スタングレネードを起爆。

 

「ウッ!?」

 

シャーリィは思わず目を手で覆う。

 

そして、持っていたダガーをチェーンソーの機構部分に突き立て、チェーンソーの回転を止める。

 

「ウソッ!?」

 

想定外の行動に動揺したのか、隙ができる。俺は相手の腹に蹴りを叩き込む。

 

「ウグッ……!」

 

吹き飛ばされてもなお、得物を離さないのはさすが猟兵というべきか……。

 

俺が一度距離を取ると、突然シャーリィは笑い出した。

 

「…フフ……ウフフ……」

 

「?」

 

「アーハッハッハ!いいねぇ……こんなにゾクゾクしたのはクロスベル以来だよ……!」

 

「……………」

 

「もう手加減なんてしないよ。君はシャーリィが確実にちゃ~んと……

 

 

 

殺してあげるよ♥️」

 

 

 

「ッ!」

 

どうやらここからが本番らしい。

 

シャーリィの言葉どおり、先ほどよりも苛烈な攻撃が襲いかかる。

 

俺は懸命にかわすが、無傷ではいられなかった。

 

リィン教官たちの方を見るが、あちらもバランシングクラウンにてこずっているようだ。

 

だがここで倒れるわけにはいかない。

 

俺は再び立ち上がった。

 

「キリコさん、下がって!」

 

すると、俺の後ろから弾丸が飛ぶ。

 

思わず振り返ると、ミュゼたちが援護してくれたようだ。

 

だが、このタイミングは……

 

「邪魔しないでくれるかなぁ……。せっかくいいところなのにさぁ!」

 

不味い!

 

シャーリィは俺からミュゼに狙いを変える。いや、周りを巻き込みつつ殲滅するようだ。

 

(させるか!)

 

俺はミュゼたちを庇うように前に出る。

 

その瞬間…………

 

 

 

俺の体を弾丸が貫通し、血が吹き出す。

 

 

 

「え……」

 

その瞬間、戦場の時が止まる。

 

「いや……いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ミュゼか誰かはわからないが、悲鳴が響く。

 

それが影響したかはわからないが、俺に意識が戻った。

 

(今…だ……)

 

俺は倒れる寸前にアーマーマグナムの引き金を引く。

 

放たれた弾丸は偶々シャーリィの側に転がっていた人形兵器の残骸に弾かれ、シャーリィの腹部を貫く。

 

「ッ!?………カハッ……!」

 

シャーリィは血を吐き、膝をついた。

 

俺はそれを見届けると、意識を失った。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「………嘘………………」

 

「え……………?」

 

「キリコ………さん……?」

 

ユウナたちは先ほどの出来事が信じられなかった。

 

跳弾で敵を倒す。そんな奇跡とも言える勝利。

 

だが彼女たちに喜びはない。

 

分校の仲間たちを助けるために敵の銃弾から身を呈して守り、最後に放った一発がシャーリィを貫き相討ちに持ち込む。

 

だが、その代償にキリコは意識不明となり、さらにキリコを中心に血溜まりが広がる。

 

ユウナやクルトは勿論、アルティナでさえ、ここまで血で血を洗う凄惨な戦いは初めてだった。

 

今起きていることの整理が追いつかない。

 

頭がぐちゃぐちゃになり、現実逃避を始める。

 

その時──

 

「医療班、何をしている!早くキリコを運ぶんだ!」

 

リィンの激が彼女たちを現実へと引き戻す。

 

「きょ、教官……キリコ……君が………」

 

「前を見ろ!まだ人形兵器がいる。キリコは主計科に任せるんだ!」

 

「は………はい……………」

 

「了解……です………」

 

ユウナたちはなんとか前を向く。

 

(クソッ、こんな事になるなんて……キリコ!)

 

リィンは歯をくいしばり、人形兵器を切り裂く。

 

 

 

「あ…あ…あ…」

 

「ミュゼちゃん!落ち着いて!」

 

トワは必死でミュゼを落ち着かせる。

 

「医療班、とにかく応急手当てを!薬をありったけ持ってきて!ミハイル教官、その間の指揮をお願いします」!」

 

「ええい!わかっている!Ⅷ組戦術科はスリーマンセルで確実に撃破しろ!Ⅸ組主計科は援護に回れ!Ⅶ組特務科は遊撃を続行。このまま押し返すぞ!」

 

『イエス・サー!』

 

ミハイルの指揮で分校生たちに火がついた。

 

だが……

 

(私の……せいだ……。私がでしゃばったから……キリコさん……は……)

 

ミュゼは呆然とキリコを見つめることしかできなかった。

 

「ミュゼちゃん!」

 

トワはそんなミュゼを抱き締める。

 

「大丈夫だから!キリコ君は大丈夫だから!」

 

「大丈…夫…?」

 

「うん、そうだよ!」

 

「うっ……うううう……はい………!」

 

ミュゼはようやく、現実を受け入れはじめた。

 

 

 

「シャーリィ………てめぇぇぇぇ!!」

 

ランドルフは怒りのまま、シャーリィにスタンハルバードを振り下ろす。

 

だが、すんでの所でデュバリィに受け流される。

 

「どけぇぇぇっ!」

 

「クッ……」

 

デュバリィはシャーリィを抱えると、もといた場所に戻る。

 

「いったいなんなんですの!?あの雛鳥は!こんなの、聞いてませんわよ!?」

 

デュバリィはシャーリィを治療しながら、毒づく。

 

本来ならば、雛鳥たちが自分たちに逆らえないように多少なり痛め付けるつもりだった。

 

シャーリィが気まぐれで相対している学生もその内の一人でしかない。

 

だが、蓋を開けてみれば、シャーリィと互角に戦ったばかりか彼女の本気を引き出した。

 

デュバリィ自身、これで終わりだと思った。

 

しかしシャーリィは青髪と相討ちになり、重傷を負ってしまった。

 

たった一人に戦況をひっくり返されてしまった。

 

「よくも……雛鳥の分際で……!」

 

デュバリィは緊急の処置を受けるキリコに狙いを定める。

 

「よくも……我等の邪魔を……!」

 

 

 

「させん!」

「させない!」

 

 

 

「へ?」

 

突然、デュバリィの足元に銃弾が打ち込まれた。

 

思わぬ足止めを食らったデュバリィの頭上から大剣が振り下ろされる。

 

「なっ………!」

 

「あっ……」

 

「あれって……!」

 

すると、何処からか音楽が聞こえてきた。

 

その音楽を聞いた者は受けた傷が回復した。

 

「これは……」

 

「傷が癒えていく……!」

 

「みんな、大丈夫?」

 

いつの間にか列車の上に立っていた赤毛の音楽家──エリオットが呼び掛ける。

 

「魔導杖による特殊モードによる戦域全体の回復術ですか……」

 

「フフ、相変わらず見事だな」

 

デュバリィと対峙する青髪の女剣士──ラウラがエリオットの演奏を誉める。

 

「さすがエリオットだね」

 

ユウナたちと変わらない背格好の少女が剣と銃の合体した武器──双銃剣(ダブルガンソード)を構える。

 

「あの人は……!」

 

「知ってるの?」

 

「兄上に聞いたことがある……旧Ⅶ組最速と言われる……」

 

「ああ……来てくれたのか、フィー!」

 

「うん、リィンも久しぶり」

 

銀髪の少女──フィーは微笑んだ。

 

「みんな!」

 

「トールズ旧Ⅶ組か……!」

 

「へぇ……西風の妖精(シルフィード)までいやがるのか」

 

「くっ……現れましたわね!」

 

「久しいな、神速殿」

 

「アルゼイドの小娘が……」

 

「そなたの刃は私が受け止めさせてもらおう」

 

「くっ……生意気な!」

 

デュバリィはラウラに斬りかかるが、ラウラは大剣の腹で受け止める。

 

「なっ……!?」

 

「こちらの番だ!」

 

 

 

「奥義──『洸鳳剣』!」

 

 

 

ラウラはアルゼイドの奥義をくりだす。

 

デュバリィは盾で防御するが、押しきられてしまった。

 

「ぐう……こ、ここまでとは……」

 

「あ、貴女…アルゼイドの皆伝に至りましたわね!?」

 

「フフ、おかげさまでな。これでようやくそなたと互角に戦えるようになった」

 

「こ、小娘ぇ~!」

 

 

 

一方、フィーは旧知の仲である、ランドルフとともに、人形兵器を倒していた。

 

「相変わらず速ぇな、シルフィード」

 

「そっちも変わらないね、《闘神の息子》、それとも《赤い死神》の方がいい?」

 

「悪ぃがその名は捨てた。ここにいるのはただのランドルフだ」

 

「ふーん、わかった。よろしくね、ランディ」

 

「いきなりフレンドリーだなオイ!」

 

ランドルフは人形兵器にとどめを刺しながらフィーにつっこむ。

 

「にしても、まさかシュバルツァーと同じ学校に通ってたとはな」

 

「うん、団長が死んだ後、わたしはサラに連れられてトールズに入ったから」

 

「サラって……紫電のお姉さんかよ!?」

 

「ん」

 

「はは、すげぇな。Ⅶ組ってのは……」

 

「うん、団長やみんながいなくなった後、わたしを受け入れてくれたもうひとつの家族。絶対に守りたい」

 

「ははっ、なるほどな。なら、とっととこの場を切り抜けねぇとな!」

 

「ヤー」

 

フィーとランドルフは再び分かれて戦いはじめた。

 

 

 

第Ⅱ分校に旧Ⅶ組が加わり、戦況の立て直しが難しいと判断したデュバリィは、もといた高台に戻り、剣を収める。

 

「もはやここまでですわね。いいでしょう、この場は引いてさしあげます」

 

「ですが、我等の計画の邪魔をさせるわけには参りません。まあ……ここまで痛め付ければ十分でしょう」

 

確かに人形兵器はあらかた片付けたが、機甲兵は行動不能にされ、列車は凹み、何よりもキリコが重傷を負ってしまった。

 

デュバリィの言葉に第Ⅱ分校の生徒は顔を伏せ、唇を噛む。

 

デュバリィはシャーリィを担いで撤退した。

 

助かったと喜ぶ者は一人もいない。

 

手加減された上、引いてもらった。

 

悔しさが全身に溢れる。

 

──絶対に強くなってみせる───

 

分校生全員が心に誓った。

 

 

 

デュバリィたちが撤退し、生徒たちがケガの手当てを受けている間、リィンたちは医務室で横たわるキリコの元に集まっていた。

 

「キリコ君……」

 

「先輩、キリコの容態は……」

 

「うん……前から銃弾を4発。その内の1発は心臓を逸れてた。後1リジュでもずれていたら……」

 

「ッ!」

 

「そ、そんな……」

 

「回復の見込みは?」

 

比較的冷静だったフィーがトワにたずねる。

 

「う、うん。止血も済ませたから、早ければ、五日後には」

 

(………トクン……………)

 

「五日後か…… だがとにかくキリコは無事だと考えていいんですね?」

 

「よかったです」

 

(………トクン………トクン…………)

 

「最悪の事態にならなくてなによりだ」

 

「そう言えば、あの子は?」

 

「ミュゼちゃんのこと? なんとか立ち直りつつあるけど……」

 

(……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……)

 

「そうですか……」

 

「ミュゼ……」

 

 

 

……ピピッ……ピピッ……ピピッ……

 

 

 

「ん?」

 

「あれ?心電図……」

 

「これは……」

 

「正常値……?」

 

心電図は正常を示す。

 

その時、キリコの指がピクリと動く。

 

そして、キリコはゆっくりと………

 

 

 

目を開いた。

 

 

 

『……………………………………』

 

新旧Ⅶ組が呆然とするなか、キリコは蘇生した。

 


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