英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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取引①

4月27日 演習2日目

 

襲撃から一夜明け、分校生徒たちはキリコ蘇生のニュースに驚きつつも、演習地の復興を始めていた。

 

「あ、悪夢や………」

 

装甲列車には昨夜の爪痕が生々しく残り、特に鉄道ファンであるパブロの落ち込みようは激しく、半分死んだような顔になっていた。

 

 

 

「よかった。フレームは損傷してないみたい。エンジンも稼働良好。みなさん、お昼頃までに修理を済ませましょう」

 

「オー!」

 

「機体の制御バランサー良好。関節部分も問題なし。ドラ君も小破程度ですんだとはいえ、さすがティータちゃんだね」

 

「ドラ君……?ああ、ドラッケンⅡですね」

 

機甲兵は対戦車砲による損害を受けたが、小破程度で済んだのでティータをリーダーとした整備班と助っ人のミントが着々と修理を進めていった。

 

 

 

「ウェイン、その……大丈夫なのか?辛かったら……」

 

「大丈夫だスターク。キリコに比べたら……こんなの……っ」

 

「ウェイン………」

 

昨夜の襲撃で負傷した者はいたが、大きなケガを負った者はキリコを除いていない。

 

だが心に傷を負った者が多く、満足に眠れた者は一人もいなかった。

 

 

 

「そんな!ダメなんですか!」

 

「うん。キリコ君は絶対安静だから、例えユウナちゃんたちでも許可することはできないの」

 

(キリコ……)

 

「……………」

 

キリコは面会謝絶となり、見舞いに行くことはⅦ組特務科でさえ許されなかった。

 

 

 

「本当に、よかった……」

 

目にできたくまをこすり、通信状態のチェックをしながら、ミュゼは呟いた。

 

ミュゼはキリコの負傷は自分のせいだと責め続けていた。

 

だが、キリコが蘇生したことを聞いてようやく立ち直れた。

 

(こんなんじゃいけませんね。いずれこれ以上の悲しみを背負わなければならないのに)

 

(でも……今は………いいですよね………)

 

ミュゼは熱くなる目頭をこすりながら、作業に戻った。

 

 

 

「昨夜はとんだ目に遭ったな」

 

連絡を受けてやって来た帝国軍情報将校レクター・アランドール少佐がリィンたち教官陣を労う。

 

「まさか結社の連中が直接乗り込んでくるたぁな」

 

「……言いたいことは色々ありますが、連絡していた件はどうなりましたか?」

 

「それなんだが……どうも鉄道憲兵隊が動けなくなってな」

 

「ど、どうして!?」

 

「……諸般の事情でな」

 

「ま、帝国の東側で面倒な事件が起こってな。こっちに戦力を割いてる余裕がないってことだ」

 

「……おいおい、ふざけんなよ」

 

ランドルフは静かに怒気を放つ。

 

「結社の執行者に鉄機隊──しかもあのシャーリィまでが来ている。下手したらサザーラント州が火に包まれてもおかしくねぇぞ」

 

「……それは………」

 

「しかもこっちはキリコもやられてるんだ。もう余裕ないだとか言ってられねえんじゃねぇのか?」

 

「……………」

 

「……ランドルフさん。あの、シャーリィという娘は?」

 

「ああ……身内の恥にはなるが俺の従妹になる」

 

「大陸最強の猟兵団の一つ、《赤い星座》の大隊長…… いや、叔父貴が団長になったからあいつは今や副団長か……」

 

「赤い星座……聞いたことがあります」

 

「クロスベルの異変で暗躍していた最強の猟兵団。ランドルフさんが所属していた部署に阻止されたんでしたね」

 

「阻止っつーか、何とかして退かせたってだけなんだが」

 

ランドルフは頭をかくとすぐに真顔に戻る。

 

「問題はあの人喰い虎が結社にスカウトされたってことだ」

 

「しかも赤い星座に所属したままな」

 

「それは………」

 

「……赤い星座の本隊が控えているっていう事ですよね。それと鉄機隊という部隊も……」

 

「──それなんだが、赤い星座の本隊の方は帝国には入っていないみたいだな」

 

「なに……!?」

 

レクター少佐の言葉にランドルフは驚きを隠せなかった。

 

「元々、結社の傘下じゃないし、別のヤマをやってるみたいだぜ?」

 

「分隊は知らんが、アンタが想像する最悪の状況にはなってないってことだ」

 

「………その意味で、現状の危機度はそこまでではないという判断だ。連中の狙いが分かるまであくまで第Ⅱのみで備えておく。無論、サザーラント領邦軍には治安維持をしてもらうつもりだが」

 

「で、でも……」

 

「ならば帝国正規軍には?ドレックノール要塞──サザーラントの北端ですよね」

 

「………正規軍は正規軍で忙しい。煩わせたくないとの判断だ」

 

「繰り返しになるが……今回の件は、現地領邦軍と第Ⅱの現有戦力に対処してもらう」

 

「これが現時点での決定事項だ。──エレボニア帝国政府の」

 

「そ、それって……」

 

「帝国政府……ってことは"あの"────」

 

「………………」

 

「それとキュービィーについては蘇生が確認されているため問題はない。演習から離脱することになるが、むしろ独断先行で処罰されないだけありがたく思いたまえ」

 

「そんな……」

 

「チッ……」

 

「……そういう事ですか。だったら話は早い」

 

リィンはレクター少佐がいることにようやく納得した。

 

「今朝、貴方がタイミングよく来ている時点で気付くべきでした。昨年以来の"儀式"──早くやっていただきましょうか?」

 

「あ………」

 

「………?」

 

「ハハッ……」

 

「───いいんだな?北方戦役で懲りたと思ったが」

 

「俺が貴方たちのやり方に納得することはないでしょう。だが、そこに危機が迫り、何とかする力があるなら……」

 

リィンはレクター少佐の目を見る。

 

「トールズ出身者として、Ⅶ組に名を連ねた者として俺は見過ごすことはできません」

 

「……上等だ」

 

レクター少佐はニヤリと笑い、持っていた封筒から一枚の書類を取り出す。

 

『《灰色の騎士》リィン・シュバルツァー殿───帝国政府の要請を伝える』

 

『サザーラント州にて進行する結社の目的を暴き、これを阻止せよ』

 

「……!」

 

「政府からの要請……灰色の騎士を動かす唯一の」

 

リィンは書類を受け取り、胸に手をあてる。

 

「その要請───しかと承りました」

 

英雄という名の籠の鳥。それが今のリィン・シュバルツァーだった。

 

 

 

「……なるほど。そういうカラクリか」

 

「はい、請けざるを得ない状況をいつも突き付けられて……」

 

「ならばその要請、我等も手伝わせてもらおう」

 

ブリーフィングルームに3人が入って来た。

 

「ラウラ……フィーにエリオットも」

 

「待て、部外者は遠慮してもらおうか……!」

 

「政府からの要請は一教官へのものじゃない筈。リィン個人への要請だったらわたしたちも無関係じゃない」

 

「どうやら何らかの思惑で正規軍も動かしたくない様子…… リィンも 動きにくいでしょうし、僕たちがサポートしますよ」

 

「ああ、何を言っても無駄だぞ?我等はみな、政府からのしがらみを受けぬ者ばかり…… その意味で、TMPと情報局に行動を制限される謂れはないからな」

 

「いくら帝国政府でも帝国民の善意を妨げていい法律はないよね?」

 

「……ぐっ……………」

 

ラウラたちの言葉にミハイルは詰まってしまう。

 

「確かに止められる権限はカケラも持っちゃいないなぁ」

 

「はは……」

 

「ラウラちゃん、フィーちゃん、エリオット君も……」

 

「3人とも………その、いいのか?」

 

「あはは、なに言ってるんだか」

 

不安がるリィンをエリオットは笑い飛ばす。

 

「どうして僕たちがこのタイミングでこの地方に来たと思ってるのさ?」

 

「え……」

 

「皆、学院に残ったそなたのことをずっと気にかけていたのだ。理不尽で、しかし為さねば誰かが傷付くような要請。それを独りで成し遂げてきたかけがえのないⅦ組の仲間を」

 

「………ぁ……………」

 

「約束もあったし一石二鳥」

 

「ちなみに第Ⅱの演習地と日程はとある筋に教えてもらった。それで来られそうなメンバーが集まったっていうカラクリ」

 

「ふふ、アリサとかマキアスなんか物凄く悔しがってたよね?」

 

「…………………」

 

リィンは胸が一杯になった。

 

「……えへへ………」

 

「………ったく。正直、予想外っつーか……」

 

「……なるほど。あの方からの手回しか」

 

「ったく、翼をもがれながら色々とやってくれるぜ」

 

ミハイルとレクター少佐はカラクリの真相に気づいた。

 

「──ありがとう。ラウラ、フィー、エリオット」

 

リィンは仲間たちに礼を言い、顔を引き締める。

 

「灰色の騎士への要請、それはヴァリマールを動かす可能性すらあり得るほどの案件だ。どうか3人の力を貸してくれ!」

 

「うんっ!/ああっ!/……ん!」

 

 

 

「教官……!」

 

リィンたちが列車を出ると、ユウナたちが駆けつけて来た。

 

「い、いまトワ教官から聞いたんですけど本当ですか!?」

 

「帝国政府からの要請で教官は別行動になるって──!」

 

「それは………」

 

「アランドール少佐が来ていたのはこのためですか」

 

「それで──どうなんですか?」

 

リィンは一呼吸おいて告げる。

 

「本当だ──特務活動は昨日で終了とする。本日はⅧ組・Ⅸ組と合同でカリキュラムに当たってくれ」

 

「……………………」

 

「そ、そんな……!」

 

「了解しました。ではわたしだけでも──」

 

「──例外はない。君も同じだ、アルティナ」

 

「え」

 

「……ですがわたしは教官をサポートするため──」

 

「……経緯はどうあれ、今の君は第Ⅱに所属する生徒だ。一生徒を俺の個人的な用事に付き合わせるわけにはいかない。レクター少佐も了解している」

 

「……………………」

 

「これも良い機会だと思う。ユウナやクルトと行動してくれ。キリコのことは残念だが、彼は演習から離脱することが決定した。彼も一応承諾している」

 

「でも、わたしは……………」

 

アルティナはこれ以上言葉を継げなかった。

 

「……一つだけ聞かせてください」

 

「? ……なんだ?」

 

クルトがリィンに問いかける。

 

「見れば、アルゼイド流の皆伝者を協力者として見込んだ様子…… ヴァンダール流では──いや、僕の剣では不足ですか?」

 

「……………………」

 

リィンはクルトを見据えながら告げる。

 

「ああ──不足だな」

 

「……何が……違うって言うんですか……」

 

「?」

 

「僕とキリコと……何が違うって言うんですか!」

 

「………」

 

「現時点で言うなら、君よりもキリコの方が上だ」

 

リィンは「生徒だからとは別にして」と切り出し、クルトに告げる。

 

「いくら才に恵まれていようが、その歳で中伝に至っていようが…… 半端な人間を"死地"に連れて行くわけにはいかない」

 

「っ……失礼します──!」

 

クルトは行ってしまった。

 

「ちょ、クルト君……!?ああもう………アルも一緒に来て!」

 

「……何よ、ちょっとは見直しかけてたのに」

 

ユウナはアルティナの手を引いてクルトの後を追いかける。

 

「ふう……」

 

「リィン……さすがに厳しすぎるのではないか?」

 

「ツンデレすぎ」

 

「はは、まあリィンも不器用な所があるしね。けっこう苦労してるでしょ?」

 

「ああ………苦労の連続だよ」

 

「今になってサラ教官の凄さが身に染みるくらいだ」

 

「それは………どうなのであろうな?」

 

リィンの言葉にラウラたちは苦笑いを浮かべる。

 

「サラは絶対深く考えていないと思う」

 

「うん………でもリィンは少し真面目すぎるのかもね」

 

「ああ、不真面目なくらいが時にいいこともあると思う。でも、これも性分だからな。……あの子たちとどう接するか俺なりに今後も考えていきたい」

 

「──何とかこの危機を乗り越えることが出来たなら」

 

「……そうだな」

 

「"死地"か……たしかに連れていけないね」

 

「ふふ、僕なんかよりも戦闘力は高いと思うけど……やっぱり経験ってあるよねぇ」

 

「出発しよう。時間は有効に使いたい。とりあえず情報を集めたいがなにかアイデアはないか?」

 

「それならまずはセントアークに移動しよう。情報整理ができそうな場所にリィンたちを案内する」

 

「え、それって……」

 

「フフ、そなたの新たな就職先に関わる場所か」

 

「なるほど、期待できそうだな」

 

「ま、お楽しみに。馬は使えるんだっけ?」

 

「ああ、準備を済ませたら演習地を出て向かおう」

 

 

 

「ふふ、それにしてもみんな頼もしくなったというか……」

 

トワはかつての後輩たちを見渡す。

 

「もしかしてフィーちゃんはまた背が伸びた?」

 

「ま、他にも色々と微妙に育ってはいるけど……会長の方は相変わらずだね」

 

「そ、そんなことは…… 確かに背はちょこっとしか伸びてないけど」

 

「ふふ、冗談。ずいぶん見違えたと思う」

 

「え……」

 

フィーの言葉にトワは目を丸くする。

 

「ええ、衣装も相まって大人の女性としての魅力が増したというか」

 

「そ、そうかな。ふふ、でもそう言われると自信になるかな。二人ともありがとう」

 

(ふふ、女子ならではのトークって感じだね)

 

(ああ、微妙に入れないな)

 

「……あっ、そうだ。会長、これ彼に渡しといて」

 

「? これは?」

 

「体力増強の薬。後、鎮静剤」

 

「もしかして、キリコにか?」

 

「うん、シャーリィと相討ちに持ち込むなんて誰にでもできることじゃないから」

 

(やっぱりそうなのか。キリコ……)

 

「ありがとうフィーちゃん。ぜひ使わせてもらうね」

 

「ん」

 

 

 

「よっ。お前さんたちも出発か?」

 

「はい、ランドルフさんたちは機甲兵教練でしたか?」

 

「ああ、正直変更も考えていたんだが、見ての通り無事だ。あのミントって娘、大したモンだな」

 

「あはは、さすがミントだね」

 

エリオットは遠くでピースサインをするミントを見ながら答える。

 

「政府からの要請、か。お前さんもよくやるというか。ずいぶんといい仲間に恵まれたみたいだな?」

 

「ええ……本当に。みんなには感謝してもしきれません」

 

「フフ、それは我等も同じだがな」

 

「うんうん、困った時はお互い様ってね」

 

「ランディ、そっちも仲間に恵まれたみたいだね」

 

「それを言うなら妖精、お前さんもな」

 

ランドルフは腕を組み、昔を思い出す。

 

「前に戦場で見かけた時からずいぶん経つが……今じゃ遊撃士だなんてな」

 

「ま、たしかに」

 

「赤い星座と西風の旅団……面識があるのも当然でしたか」

 

「ハハ、なんせ因果な商売だからな」

 

「とにかく、こっちのことはトワちゃんや俺たちに任せときな」

 

そしてランドルフはリィンに頭を下げる。

 

「……つうか、不肖の従妹がとんでもねぇことしちまってマジで面目ねぇ」

 

「ランドルフさん………」

 

「ブラッディ(血染めの)・シャーリィ………!」

 

「えっと……昨日の人だよね?」

 

「相当の手練れとみたが……」

 

「うん、わたしでさえ勝ったことがない」

 

「そ、そうなの!?」

 

「あれ?一度だけおしいところまでいかなかったか?」

 

「…………ゼノのトラップが不発にならなければ。後レオが撤退しなければ………」

 

「あはは、あの2人か……」

 

「罠使い(トラップマスター)に破壊獣(ベヒモス)か……会いたくねぇなぁ……」

 

「聞けば聞くほど、彼女を退けたキリコというのは大したものだな」

 

「ああ、彼がどこでああなったのかは俺にもわからない。一つ言えることは戦闘経験は俺よりも上だ」

 

「フィー、そなたは見覚えはないのか?」

 

「うん……というより猟兵にはあんまりいないタイプかな」

 

「? どういうこと?」

 

「いくら猟兵がミラと戦いが全てと言っても、基本的には"命あっての物種"だから。死力を尽くして戦うことは本当に稀」

 

「そ、そうなんだ」

 

「まあ……西風はそんな感じだな。それにひきかえ赤い星座は……」

 

「うん……基本的に星座は戦闘狂揃い。ランディだって昔は凄かったって聞いたことある」

 

「頼むから掘り返さないでくれ……」

 

「あはは……」

 

「ま、こっちはこっちで任せて」

 

「ああ……頼むぜ」

 

 

 

最後にリィンたちはヴァリマールの元へと足を運んだ。

 

「リィン、それにおぬしらか。──フフ、久しぶりだな」

 

「ヴァリマール、久しぶり!あはは、話には聞いていたけど」

 

「フフ、見違えるほど言葉が流暢になっているな?」

 

「そだね。もう人間と変わらないかも」

 

「はは、元々あった言語機能がようやく戻っただけらしいが」

 

「うむ、これが本来の口調で性格と言えよう。それはそうと──昨夜は危なかったようだな」

 

「ああ、あのまま押し込まれたら本当にヴァリマールを呼んでいただろうな」

 

「……まあ、デュバリィさんを本気にさせた可能性もありそうだが」

 

「ん、その可能性はありそう」

 

「結社かぁ……本当、危ない人たちだよねぇ」

 

「政府の要請も出たのだろう。いざとなれば遠慮なく私を呼ぶといい」

 

「ただ、この地を訪れて以来、どうも地脈に妙な気配を感じる。くれぐれも使い所は見極めることだ」

 

「ああ、もちろんだ」

 

「フフ……では行ってくる」

 

 

 

リィンたちが出ていった後、ヴァリマールは独り考えていた。

 

(リィンには言わなかったが、あのキリコとやら……妙な気配を感じる。まるで"あやつ"のような……)

 

(いや、"あやつ"とは違う。だが……似ている)

 

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