英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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サザーラント篇はこれで最後です。


絆②

リィンたちの絆の前にアイオーンtype-γⅡは敗れた。

 

「やったぁぁぁっ!」

 

「機能停止を確認。やりましたね」

 

「……ヘッ………」

 

「ふふふ、大勝利、ですね」

 

新Ⅶ組は歓喜する。

 

「フフ、見事だ」

 

「ぶい、だね」

 

「新Ⅶ組。いいクラスだね」

 

「ったく、大した連中だ」

 

ラウラたちも新Ⅶ組の活躍を褒め讃える。

 

【クルトにキリコ、お疲れだったな】

 

【はい!】

 

【…………】

 

【どうした、キリコ?】

 

【まさか……傷が……!】

 

「ああっ!?そういえば!」

 

「あの野郎、そういや死にかけだったな」

 

「キリコさん!」

 

新Ⅶ組がかけよる。

 

フルメタルドッグは膝をつくような体勢をとり、キリコはコックピットから降りる。

 

降りてきたキリコは頭と上半身に包帯を巻き、制服の上着を肩にかけたままのラフな格好だった。

 

【キリコ!ケガはないか?】

 

「ええ」

 

「キリコさん、本当に大丈夫なんですね?」

 

「問題ない」

 

「ったく、マジで不死身かよ……」

 

「……………」

 

「それにしても、機甲兵がボロボロですね」

 

フルメタルドッグはあちこちから煙を吹いており、とっくに限界を超えているのは誰の目にも明らかだった。

 

「おそらく、ここに来るまでの魔獣との戦闘。そしてあの神機とやらとの戦闘でボロボロになっていたんだろう(試作のミッションディスクも焼きついているしな)」

 

「こんなになるまで」

 

「フフ、大したものだ」

 

「お疲れ様」

 

「ホント、無茶しすぎよ」

 

「…………」

 

仲間たちの心配をよそに、キリコは停止したアイオーンtype-γⅡを見つめていた。

 

 

 

「そんな……至宝の力を得ていないとはいえ、神機が敗れるなんて」

 

「あの力は想定外だね。でもこれで実験は完了じゃないの?」

 

「くっ……それはそうですが……」

 

【さて……】

 

リィンはゼムリアストーン製の太刀をデュバリィたちに向ける。

 

【デュバリィさん、戦いは決した。ここまできたら話してもらいますよ。1年半の沈黙を破り、結社が何をしようとしているのかを】

 

「そ、それがあったわね」

 

「くっ……」

 

「遊撃士協会の名の下にてめぇらを拘束する。これ以上抵抗するなら……わかってるよな?」

 

「あはは、どうなるのかな?」

 

「…………」

 

フィーはシャーリィに狙いを定め、斬りかかるが……

 

「!?」

 

何かに気づき、その手前でブレーキをかける。足元には銃弾が撃ち込まれる。

 

【なっ!?】

 

「星座のスナイパーか!」

 

「方向は……あそこです!」

 

クラウ=ソラスの指す方向には、赤い戦闘服を着た狙撃兵がいた。

 

「あははは、来たんだ?」

 

「団長のご命令ですので。それと、負傷した件について、心配しておりました」

 

「パパも心配性だなぁ。で?そっちも動くの?」

 

「え?」

 

すると、ユウナたちの近くに数本の矢が撃ち込まれ、斬撃が飛ぶ。

 

「くっ、新手か……」

 

ラウラが見つめる先には、デュバリィと似たような甲冑を身につけた二人の女性がいた。

 

一人はハルバードを構え、もう一人は弓を携えていた。

 

「デュバリィ、助けに来たわよ」

 

「もしやと思ったがな」

 

【教官、もしかして……】

 

【ああ、残りの鉄機隊のメンバーだろう】

 

「フフ、お初にお目にかかる。我は《剛毅》のアイネス。名高き灰色の騎士にアルゼイド流の伝承者にお会いできて光栄だ」

 

「初めまして。私は《魔弓》のエンネア。デュバリィが世話になったみたいね?」

 

するとデュバリィは彼女たちの前に転移する。

 

「こ、子ども扱いするんじゃありませんわ!だいたい、貴女たちは別の場所にいるはずでしょう。後、アルゼイドの娘に礼儀など不要です」

 

「何、こちらは予定より早く片付いてな。こうして加勢に来たのだ」

 

「それが余計だと言ってるのです!」

 

「でも彼女もやられて、戦力をダウンしてるじゃない。まさか学生さんだとは思わなかったけど。おまけに神機も負けたんじゃ四の五の言ってられないでしょう?」

 

「ぐぐぐ………」

 

二人の指摘にデュバリィは歯ぎしりする。

 

「それより私たちの目的だったわね」

 

「幻焔計画の奪還。それが我らの最終目標。この地の実験はその手段でしかない」

 

「ちょっと!何親切に話しているんですの!」

 

「別にいいじゃない。ここまで来たご褒美ってことで♪」

 

「知ったところで何もできやしまい」

 

【くっ……】

 

「バカにして……」

 

「…………………」

 

「しかし、やべぇなこりゃあ……」

 

【鉄機隊全員に星座のスナイパー。数はこちらが有利ですが……】

 

「うむ。油断するな。新Ⅶ組、そなたらは少し下がれ。我らが時を稼ぐ間に体勢を立て直せ」

 

「は、はいっ!」

 

すると………

 

 

 

「追いついたぜ!シャーリィ!」

 

 

 

廃道の方から、ヘクトル弐型に乗るランドルフに率いられたⅧ組戦術科が駆けつけて来た。

 

「あっ、ランディ先輩!」

 

「あいつらも来やがったのかよ」

 

【ランドルフさん、来てくれたんですね】

 

【すまねぇ、魔獣どもに手間取って遅くなっちまった。シャーリィ、おいたはそこまでにしてもらおうか!】

 

「あっははは、ランディ兄、来たんだ?」

 

【ガレスも来てたとはな。叔父貴の命令か?】

 

「お久しぶりです、若。ええ、団長のご命令です」

 

【ランドルフさん、あのスナイパーのこともご存知なんですね?】

 

【ああ。あいつは《閃撃》のガレス。かつて親父の部隊にいた奴だ。闘神の右腕とも言われている】

 

「闘神の……」

 

「気をつけて。あの狙撃で団が手酷くやられたことがある」

 

「それはこちらも同じだ、妖精。お前の裏工作で何度も窮地に立たされた」

 

「フィ、フィーさんって猟兵だったんですか?」

 

「そう言えば言ってなかったね。わたしはかつて西風の旅団にいた。そこで西風の妖精(シルフィード)って呼ばれてた」

 

【なっ……!】

 

「シルフィード、ですか」

 

「聞いたことあんな」

 

「もしかして、ランディ先輩がフィーさんのことを妖精って呼ぶのって……」

 

【まあ、それなりの付き合いだがな】

 

【昨日、猟兵には色々なタイプがいるって言った理由がわかったか?もちろん俺たちも最初は驚いたさ。だが、過去はどうにせよ君たちの先輩であるには変わらない】

 

「い、いえいえ!確かに驚きましたけど、フィーさんは頼りになる先輩ですから!」

 

ユウナは笑顔で答える。

 

「ふふ、ありがとう、ユウナ」

 

「ならば、我らも少しは魅せないとな。そうだろう、エリオット?」

 

「あははは、そうだね」

 

【皆さん】

 

「ちったぁ動揺しろよ」

 

「うふふ。そういうアッシュさんも嬉しそうですが」

 

【ハハッ……。さて、おしゃべりはここまでだ。お前らを拘束させてもらうぜ!】

 

ランドルフの乗るヘクトル弐型はスタンハルバードを構える。

 

「あははは。いいねぇ、ぞくぞくして来ちゃったよ。でもサプライズゲストはまだいるよ。そうだよね?

 

 

 

《猟兵王》!」

 

 

 

「ハハッ、気づいてやがったか」

 

【なにっ………!】

 

「え…………」

 

高台から3人の男たちが姿を現した。

 

「あ、あのオジサン……!」

 

【昨日会った】

 

「で、でも今、《猟兵王》って……」

 

「確か、フィーの育ての親の……」

 

【西風の旅団の団長か……!】

 

「罠使いに破壊獣もいますね」

 

「ははは、久しぶりやな。ボンに黒兎」

 

「1年半ぶりか」

 

罠使いゼノと破壊獣レオニダスはリィンとアルティナに声をかける。

 

【あんたたちも久しぶりだな】

 

【そういや、旧Ⅶ組は内戦で連中とやり合っているんだったか】

 

「そっちも久しぶりやな、闘神の息子」

 

「そちらは6年ぶりだったか」

 

【その名で呼ぶんじゃねぇ。それより、あんたは!】

 

「そりゃ驚くよね~。────まさかホントに生きてるなんてさぁ!バルデル叔父さんと相討ちになったのこの目で見たのにさぁ!」

 

「ははは、まぁそれについては後で話すとして……」

 

猟兵王はリィンたちの方を向く。

 

「西風の団長のルトガーだ。お前さんたちとは昨日ぶりだな、トールズ第Ⅱ。フィー、少し伸びたか?」

 

「どうして生きてるの?」

 

フィーは震えながらルトガーに問う。

 

「団長が死んだのは確認した。お墓もみんなで作った。ゼノ、レオ、どういうこと……!?」

 

「いや、別にお前を騙しとったわけやないで?」

 

「ある理由があってな。内戦時からの"真の雇い主"のオーダーに応えるためにな。結果的にお前を置いていくことになってしまったが」

 

【真の雇い主!?】

 

「あの内戦で貴族連合軍以外に西風の旅団を雇っている者がいたとは」

 

「まあ、そういうことだ。それにしてもフィー、成長したな。遊撃士ってのもヤクザな商売だが、猟兵よかはるかにマシだろう。紫電の嬢ちゃんにゃ感謝しねぇとな」

 

「思えば団長は最後までフィーの入団に反対しとったな」

 

「まあ、そうだろう。どうすればフィーが足を洗えるか常々考えていたからな」

 

「………………」

 

「フィー………」

 

【それについては後回しだ。今更のこのこと何の用だ?】

 

「サラへの伝言は言付かっておく。遊撃士協会としても色々と話を聞かせてもらおうじゃねぇか」

 

ランドルフとアガットはそれぞれの得物をルトガーに向ける。

 

「ああ、別にお前さんたちとやり合おうってわけじゃねぇし、ギルドと構えるつもりもねぇ。ちょいと目的があってな、一つは………」

 

ルトガーはキリコの方を向く。

 

「お前さんを団に誘おうと思ってな」

 

「え?」

 

【はぁぁぁっ!?】

 

「キリコさんを?」

 

「相変わらずだねぇ。こんなところで勧誘なんてさ」

 

「な、何を考えてるんですの!?」

 

「おい、オッサン!なめてんのか!」

 

「ククク………俺ぁ本気だぜ?キリコ・キュービィー、お前さんのことは調べさせてもらったぜ」

 

ルトガーは葉巻に火をつける。

 

「あの内戦で第九機甲師団に入って、機甲兵で戦場を暴れ回り、その活躍は他の師団を軽く凌駕したとか。特に内戦末期の第九機甲師団による強襲作戦では、30機近くの機甲兵を叩き潰し、いくつもの屍の山を築いたそうじゃねぇか。しかもたった一機でな」

 

『ッ!?』

 

ルトガーの話にその場に居た者全員が動けなくなった。

 

「嘘…………でしょ………!」

 

【たった一機で………】

 

「噂では聞いたことがあります。ですが……」

 

「………………」

 

(キリコさん………)

 

「だが……オーレリア将軍やウォレス准将らがいたはずだが」

 

「ああ、何か偶々離れていたらしいな。その隙をつかれたって話だが」

 

【もしかして……俺たちがレグラムに行った時じゃないか?】

 

「そう言えば、レグラムに来てたって聞いたけど」

 

「あの時か……確か、ユーシスの兄君が迎えていたな」

 

ユウナたちは言葉を無くし、リィンたちはレグラムでのやり取りを思い出す。

 

「あ、ありえませんわ!そんなの、でたらめに決まってます!」

 

「いや、本当にでたらめならば戦鬼に重傷を負わせることなど叶うまい。ましてや神機に挑み、生き残るなど」

 

「どうやら信じるしかないようね。ただの学生さんだと甘く見たこちらに非があるわね」

 

デュバリィは認めることができずにいたが、アイネスとエンネアは素直に認めた。

 

「知らないのも無理はねぇ。どういう訳か、お前さんの戦闘を含めた記録は全部破棄されていたらしいからな。まぁ、想像はつくが」

 

「政府の介入を避けるためか?」

 

「おそらくはそうなのだろう」

 

「…………」

 

ルトガーは葉巻を燻らせる。

 

「なんとも恐ろしい相手ですな。お嬢に怪我を負わせただけはある。……?お嬢?」

 

「うふふふ、スッゴいなぁ~。やっぱあたしの目に狂いはなかったなぁ。決めた!キリコはあたしの獲物だよ。結社だろうとパパだろうと渡さないんだから!でも……どうやって誘えばいいんだろ?」

 

「お、お嬢!?」

 

シャーリィの宣言にガレスはうろたえるしかなかった。

 

 

 

「それで、返事は……」

 

「断る」

 

キリコはきっぱりと断る。

 

【キリコ……】

 

「ごろつきに興味はない」

 

「なっ……なんやと!」

 

「ふむ………」

 

ゼノとレオニダスは怒りを顕にするが……

 

「ガッハッハ。いや、気にいったぜ、こりゃおもしれぇ。オレらをごろつきだとよ!」

 

ルトガーは腹を抱えて大笑いした。

 

「団長、笑ってる場合ちゃうで!」

 

「さすがに見過ごせん」

 

「バカ野郎、お前らだって似たようなもんじゃねぇか」

 

「「グッ………」」

 

ルトガーの指摘に二人は黙るしかなかった。

 

【まあ……ごろつきって言い方はともかく、あんたら西風は曲者揃いだからなぁ】

 

【そうなんですか?】

 

【確かにフィーは戦闘以外にも潜入や裏工作に長けていますからね】

 

「スペシャリストってやつだな」

 

「だが……いいのか?第Ⅱの連中を見たが、お前さんだけだぜ?炎と硝煙と死臭、戦場の匂いがプンプンするのは。それもかなりのな」

 

ルトガーの表情が険しくなる。

 

「…………」

 

「今は知られてねぇが、周りの連中はいずれ違和感が拭えなくなる。人間ってのは違和感を感じりゃ飲み込めなくなるもんだ。その時お前さんはどうなるのかねぇ?」

 

「ふざけんじゃないわよ!」

 

ユウナが前に出る。

 

「何を勝手なこといってんのよ!そりゃあたしだって信じられないけど、それが何よ!本当にキリコ君がそんな人間ならケガをおしてまでここまでこないでしょ!」

 

【ユウナの言うとおりだ。確かに最初はキリコが異質だと感じていた。だが、キリコは行動で示した。だから僕はキリコを信じることにしたんだ】

 

「少なくとも、あなたよりキリコさんのことを理解しています」

 

「そいつはムカつくが、ごろつきにするにゃもったいねぇ」

 

「まあ、キリコさんが望むとは到底思えませんが」

 

「みんな……」

 

「そうとも、大事なのはその者が何かではない。その者が何をするかだ。そうだろう、フィー」

 

「……うん!」

 

【ええ。それに彼は俺の教え子です。教え子を安易に差し出すわけにはいきません】

 

「………………」

 

ルトガーは呆気にとられるが、すぐに笑みを浮かべる。

 

「ククク………俺の負けだな。しゃあねぇ、勧誘はあきらめるしかねぇか。それじゃ、もう一つの目的をやっちまうとするか」

 

「何?」

 

【そいつがあったな】

 

「面白いもんを見せてやるよ」

 

ルトガーはそう言うと、高台の奥に戻る。

 

「団長!」

 

【お、おい!】

 

【追いますか?教官】

 

【待て!何か来る……】

 

「この音は……!」

 

すると、高台の奥から、駆動音が聞こえてきた。すると、紫色の影が飛んできた。

 

【なっ……!?】

 

「なにあれ!」

 

紫色の影は手に持った武器を動かなくなったアイオーンtype-γⅡに振り下ろす。

 

「あははは、容赦ないね♪」

 

「迅い!」

 

続けざまに両手足を切断、残ったボディを突き刺し持ち上げる。

 

どのような原理なのか、ボディに衝撃が走り、アイオーンtype-γⅡは爆発した。

 

「きゃあぁぁぁっ!」

 

「クラウ=ソラス」

 

アルティナはクラウ=ソラスの防壁を展開。

 

【クルト、ランドルフさん!】

 

【はいっ!】

 

【おおっ!】

 

リィンたちも防御体勢をとる。

 

土煙があがると、そこには残骸しか残っていなかった。

 

「あの神機を……それにしても……」

 

「あの姿……まるで騎神ではないか」

 

「紫色の騎神……」

 

紫色の騎神?はリィンたちの方を向く。

 

【じゃあな、フィー。またどこかでな】

 

「待って!団長!」

 

フィーは追いかけるが、紫色の騎神?は飛びさっていく。ゼノとレオニダスもそれに続く。

 

「………………」

 

【フィー………】

 

「その……」

 

「大丈夫。煌魔城で言ってた、『団長を取り戻す』ってちょっとだけわかりかけたような気がするから。それに、新しい目的もできたから」

 

「そうか……」

 

フィーは新たな目標を見つけ出した。

 

 

 

「さて、わたくしたちも参りましょう」

 

「あっ、ちょっと待ってて。おーい、キリコ~!」

 

「は!?」

 

シャーリィはデュバリィが止める間もなく、キリコに近づき、話しかける。

 

「………………」

 

「てめぇ、何しに来やがった!」

 

当然ながら、ランドルフたちは警戒した。

 

「そんな顔しないでよ。別に戦いに来たんじゃないから。それよりこれ、キリコが持っててよ。大切なものだから無くさないでね」

 

キリコは左手に何かを握らされる。

 

「お、おい、シャーリィ!」

 

「えへへ、また会おうね♪」

 

シャーリィは手を振りながらガレスとともに去った。

 

「な……な……な……!」

 

「ほう………」

 

「あらあら……」

 

「ええい……!わたくしたちも行きますわよ!」

 

デュバリィたち鉄機隊も転移していった。

 

(これは……?)

 

キリコが左手を開くと、蠍座を模したペンダントがあった。

 

「これは赤い星座の紋章だね」

 

(なぜこんなものを……)

 

「あー……言いにくいんだが、あいつはキリコと決着をつけたいんだろうな。これはその証みてぇなもんだ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「あの様子だと、その……なんだ、キリコに惚れてるんじゃねぇかと……」

 

『……………』

 

ユウナたちは沈黙する。その直後……

 

 

 

『ええええええっ!?』

 

 

 

驚きの声があがる。

 

「嘘ですよね!?そんなの!」

 

「ですが…シャーリィさんはキリコさんに……」

 

「まてまて、惚れてると言っても好き嫌いとかじゃねぇだろ。大方、キリコの実力に惹かれたとかそんなもんだろ。あの戦闘狂のことだからな。………多分」

 

「なるほどな、果たし状みてぇなもんか」

 

「ちょっと!笑い事じゃないわよ!」

 

(フゥー。………あれ?どうして私はホッとしてるんでしょう。だってキリコさんはこれからの計画に必要なだけで、別にその……そういった感情はあるわけでは……。でもあの人にキリコさんが言い寄られた時は確かにムカッとして……いやいや、だからそんなんじゃ……)

 

「(ミュゼさん?)……肝心のキリコさんはかなり迷惑そうですが」

 

「確かにこれがある限り、キリコはシャーリィに狙われるからね」

 

「……………………」

 

「その……すまん」

 

ランドルフは憮然とするキリコに謝ることしかできなかった。

 

 

 

その後、遅れてやって来た主計科とミハイルとトワはリィンたちⅦ組特務科とランドルフたちⅧ組戦術科とともに、近くに自生していた山ユリを供え、祈りを捧げた。

 

墓参りの後、Ⅶ組はリィンの説教を受けた。

 

「君たちは何を考えているんだ!」

 

「君たちには特務活動は昨日で終了したと言ったはずだ!おまけに訓練からのエスケープと機甲兵の私的な利用……!」

 

「正規の軍人なら軍法会議ものだぞ!」

 

「はい…………」

 

「今回ばかりは申し開きのしようもないな」

 

「そうですね」

 

ユウナたちは目を伏せる。

 

「君もだ、キリコ!さっきも言ったが君は演習を離脱しているはずだろう。勝手に復帰することが許されないことぐらいわかるはずだ!」

 

「申し訳ありません」

 

「まあまあ、そのくらいにしておいてあげたら?」

 

「我らもかつて、命令違反は幾度もしてしまったからな」

 

「そだね、トールズ本校が機甲兵に襲われた時とか」

 

それを聞いたユウナたちは揃ってリィンにジト目を向ける。

 

「……教官?」

 

「自分たちの正当性を主張するつもりはありませんが……」

 

「なにやら聞き捨てならないことを聞いたような」

 

「……………」

 

「──それはそれ、これはこれだ。教官である以上、生徒の独断専行を評価するわけにはいかない。今回は運が良かっただけで次、無事である保障がどこにある?」

 

「今回、実験用機甲兵の運用実験を行っていたキリコが参戦する形で危機を乗り越えたが、そもそも君は前もって報告すべきだった。その時点でチームワークを軽視していると見なされてもおかしくない。これは由々しき問題だ」

 

「それは…………」

 

「……仰る通りです」

 

「……………………」

 

「………はい」

 

「───だが突入のタイミングはベストだった」

 

「え」

 

「機甲兵登場の隙を突いて時間を稼いだこと。不意を突く形で脅威となる自律型支援武装の排除と臨機応変な機甲兵の運用。授業と訓練の成果がちゃんと出ていたじゃないか?」

 

「あ………」

 

「それからクルト。いい気迫だった。君ならではのヴァンダール流の剣、しかと見届けさせてもらったよ」

 

「…………ぁ………………」

 

「どうやらわだかまりも解けたみたいだな?」

 

「教官は見抜いていたんですね……。僕がキリコに対して……」

 

「君がキリコに対して劣等感ようなものを抱いていたことはわかっていた。君とキリコでは価値観の違いがあることはある意味当然と言える。だが、もう大丈夫だな?」

 

「──はい!」

 

クルトはキリコの方を向き、頭を下げる。

 

「すまない。僕は君に……」

 

「気にしていない。頭を上げてくれ」

 

「キリコ……」

 

「これからも頼む」

 

キリコはクルトに右手を差し出す。

 

(わ、笑った!?)

 

(キリコさん、笑いましたね……ほんの少しですが……)

 

(……ある意味貴重だな)

 

「──ああっ!」

 

クルトはキリコの手を強く握った。

 

 

 

リィンの説教の後、キリコはミハイルに呼び出された。

 

「キュービィー候補生。君は演習から離脱することを承諾したはずだ。何か言うことはあるか?」

 

「いえ、ありません」

 

「そうか……」

 

「待ってください!彼には厳重に注意しますから……」

 

「ミハイル教官、どうか退学だけは………」

 

「誰が退学にすると言った?」

 

ミハイルはかなり不機嫌になり、一通の書類を出した。

 

「これは?」

 

「君に任せる」

 

ミハイルは不機嫌なまま、去っていく。

 

「教官、これは?」

 

「………どうやら分校長とシュミット博士からのものですが」

 

「なんて書いてあるんですか?」

 

「ええと……要約すると実験用機甲兵の運用実験は演習とは別系統であること、シュミット博士の特命であることから、運用データの提出を条件にキリコの自由行動の一切を保証するとあるな」

 

「えっ!?それって……」

 

「キリコの行動は正当ということですか?」

 

「そうらしいな。ただし、今回はイレギュラーだから罰則がつくことになるが、キリコ」

 

「はい」

 

「じゃあキリコさんは退学にならないんですね?」

 

「よかった~~!」

 

「ああ。だが君たちも罰則は受けてもらう。内容は帰ったら直ぐに分校の全てのトイレ掃除だ。当然、アッシュとミュゼもな」

 

「はぁぁぁっ!?」

 

「あらあら、私もですか」

 

「うへ~~。トイレ掃除かぁ~」

 

「仕方ない、帰ったら直ぐにやろう」

 

「眠るのは遅くなりそうですね……」

 

「まあ、俺もだがな」

 

「教官もですか?」

 

「君たちの不始末は俺の責任でもあるからな」

 

「なら俺にも責任があるな」

 

ランドルフが笑いながらやって来た。

 

「ランディ先輩……」

 

「アッシュの奴がかなり迷惑をかけたな。俺も手伝うぜ」

 

「ミュゼちゃんのこともあるし、私も手伝うよ」

 

「ランドルフさん、トワ先輩も、すみません」

 

「気にすんなよ。ただ、この人数だとすぐ終わっちまうな。よしアッシュ、寮の便所掃除もやるぞ」

 

「何余計なこといってんだ!」

 

「アッシュ、死なば諸ともだ………」

 

「黙ってろ、ヴァンダール!」

 

「じゃあ、決まりね。帰ったら大掃除だからみんなちゃんとやること、いいね?」

 

『イエス・マム!』

 

「ふざけんな!」

 

 

 

翌日、生徒たちが分校に帰る日がきた。

 

分校生たちを見送ろうと、エリオットたち旧Ⅶ組、アガット、ハイアームズ侯爵、クレイグ将軍とナイトハルト中佐、レクター少佐、そしてライル大尉ら元第九機甲師団員が集まった。

 

「キリコ、本当に学生なんてやってたんだな」

 

「そちらも第四に編成されていたとはな。少将の遺言とやらか」

 

「まあな。教官殿、キリコをよろしくお願いします」

 

「ええ、任せてください」

 

ライル大尉の言葉にリィンは応える。

 

 

 

「そなたがマテウス殿のご子息か」

 

「はい、クルトと申します」

 

クルトはクレイグ将軍ナイトハルト中佐と話をしていた。

 

「マテウス殿とは以前、正規軍の武術教練でお会いしたことがあってな。もっとも、君の使うヴァンダール流とは異なるのだが」

 

「はい、百式軍刀術でしたか。アルゼイド流とヴァンダール流双方の流れを汲むという」

 

「うむ、私やナイトハルト、ヴァンダイク元帥閣下を含めた正規軍人は百式軍刀術の習得が必須であるからな。ヴィクター殿やそなたの父君には教官として時々来てもらってたのだ」

 

「存じております」

 

「クルト君、君のことはミュラーから聞いている。双剣術においてはヴァンダール家始まって以来の剣士になるとな」

 

「兄上が……そんなことを……」

 

「君の教官からも聞いている。精進するようにな」

 

「はい!」

 

 

 

(ハイアームズ閣下、ではいずれ)

 

(ええ、貴女も)

 

(ミュゼちゃん?)

 

「どうした?ティータ」

 

「あっ、アガットさん」

 

「いえ、別に……。それよりお疲れ様でした」

 

「ああ、別にどうってことねぇよ」

 

アガットはティータの頭を撫でる。

 

「ア、アガットさん!?」

 

「いいか、ティータ。この帝国でお前の身に危険が及ぶと判断したら即座にリベールに連れ帰るからな。俺がお前を守ってやるからな」

 

「あうう……アガットさん」

 

「ほう……これは……」

 

「ラブラブだね」

 

(サラ教官やトヴァルさんに弄られてるのがわかるな……」

 

「おい、コラ。何こそこそしてやがる?」

 

「よかったね。甘えさせてもらって」

 

「フィ、フィーさん?」

 

 

 

「いや~、お前さんも大変だったな。心配したぜ?」

 

「あんた、わざとらしいんだよ」

 

「で?何か掴めたか?」

 

「ああ、だいたいはな……」

 

「あそこにいたかもしれねぇってことと……」

 

アッシュは左目を押さえる。

 

「こいつがなんなのかってことだ」

 

「……………」

 

「まあいい、あんたの言うとおりここにいればなんとかなりそうだ。一応、感謝するぜ」

 

「礼には及ばねぇさ。それより帰ったら便所掃除だってな?がんばれよ~」

 

「てんめぇ………」

 

 

 

「ここでお別れだね、リィン」

 

「ああ。エリオットにラウラにフィー。今回は助かった。ありがとうな」

 

「気にするな。前にも言った通り、我らは皆そなたのことを気にかけているのだ」

 

「それがわたしたちⅦ組だからね」

 

「うんうん。トワ会長もお元気で」

 

「うん、みんなもね」

 

「教官!」

 

ユウナたちがやって来た。

 

「君たちも頑張ってね」

 

「はいっ!」

 

「クルト、答えは出たか?」

 

「少しだけなら。ですが、一歩一歩乗り越えてみせます。このⅦ組で」

 

「そうか」

 

ラウラは満足そうに微笑む。

 

「ユウナもアルティナも頑張ってね。後、ミリアムが会いたがってたよ」

 

「ミリアムさんってアルのお姉さんよね?」

 

「この間会ったのでいいです。後、姉ではありません」

 

アルティナはそっぽを向いた。

 

「あはは。それよりもリィンいつかみんなでね」

 

「ああ、いつか、な」

 

「教官?」

 

「リィン君、それって……」

 

 

 

「ええい、いつまでそうしている気だ。定刻だぞ!」

 

 

 

ミハイルの雷が落ちた。

 

「おっと、もうそんな時間か」

 

「うむ、それではな」

 

「またね、リィン」

 

「それじゃあね」

 

リィンたちは見送りに来た者たちに別れを告げた。

 

 

 

[キリコ side]

 

列車に戻った俺は問答無用でハーシェル教官による健康チェックを受けさせられた。体力の消耗はあったがその他は問題はなかった。

 

だがハーシェル教官は最後まで疑っていた。

 

それはそうだろう。弾丸を4発も受けた人間が一日やそこらで歩き回れるはずがない。ましてや、機甲兵を乗りこなすなど異常だろう。

 

結局、ハーシェル教官はフィー・クラウゼルが渡した体力増強剤と鎮静剤がよほど効いたと結論付けた。

 

この世界では遺伝子の研究はまだまだ始まったばかりらしいので異能生存体が解明されるのは当分先のことだろう。

 

 

 

健康チェックから解放された俺を待っていたのは質問攻めだった。

 

最初はおっかなびっくりだったが、途中から熱を帯びてきて、リィン教官が止めに入るまでフルメタルドッグのことや内戦のことを聞かれた。

 

実験用機甲兵ならまだしも、内戦のことはあまり話したくない。戦争が身近でない彼らにとっては興味深い話だろうが、俺にとっては忘れたい過去だからだ。

 

 

 

質問攻めが終わり、コーヒーを飲んでいると、ミュゼが紅茶の入ったカップを持って隣に座ってきた。俺はある疑問をぶつけた。

 

「ハーメル村だったか。知っていたのか?」

 

「はい……。あの、それが何か……」

 

「ハイアームズ侯爵もクレイグ将軍も分校が入ることを許可したことだ。そのどちらかをも上回る誰かが手引きしたと考えるのが普通だろう」

 

「仰る通りです」

 

ミュゼはすんなり認めた。

 

「これも異能とやらか?」

 

「ええ……。以前も話したように、彼らが彼の地でことを起こすことはわかっていました。そしてこれは初手に過ぎません」

 

「初手だと?」

 

ならば他にも同じようなことが起きるというのか?

 

「ええ。キリコさん、お願いです。帝国に迫りつつある脅威に立ち向かう手助けをして下さい」

 

「その話なら断ったはずだ」

 

「どうしてですか……!」

 

その答えなら決まっている

 

「戦いに利用されるのはまっぴらだ」

 

「ッ!………私が無理やり従わせようとしてもですか?」

 

「……………」

 

俺はミュゼの目を見ながらはっきりと答えた。

 

 

 

「たとえ神にだって俺は従わない」

 

 

 

俺はそれだけ言って部屋に戻った。

 

[キリコ side out]

 

 

 

残されたミュゼはキリコの言葉を反芻していた。

 

「『たとえ神にだって俺は従わない』、か……。キリコさん、貴方の強さの秘密が少しわかった気がします」

 

ミュゼは紅茶の入ったカップをおいた。

 

(羨ましいです。運命をものともしないその意思が。キリコさん、貴方のことがもっと知りたいです)

 




これで第一章は終わりです。長かったような短かったような……。

次回から第二章、クロスベル篇が始まります。

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