英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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再会②

[キリコ side]

 

ティオ・プラトー主任によると、クロスベル市地下のジオフロントに未確認ながら人形兵器がいるらしい。

 

このまま放置すれば生活に支障が出るばかりか、政治的圧力がかけられかねないとか。

 

クロスベルにはなんの愛着も湧かないが、見捨てるのも寝覚めが悪い。

 

中央広場で準備を済ませた後、俺たちは駅前通り近くのジオフロント入り口の前に集まった。

 

 

 

「ここですか、ティオ主任」

 

「はい。みなさん準備はよろしいですか?」

 

「バッチリです!」

 

「同じく」

 

「では参りましょう」

 

カードキーをスキャンして、中に入った。

 

ジオフロント区域はエレボニアでも見ないほど近代的な造りだった。

 

だが、植物の根のように八方に広がっている部分が目立つ。

 

これはかつて行われた場当たり的な開発がもたらした結果だという。

 

マフィアのことといいこの場所といい、俺はウドの街を思い出さずにはいられなかった。

 

「キリコさん?どうかしましたか?」

 

「いや、何でもない。それよりあれで地下に降りるのか?」

 

「はい。操作は私がやりますからみなさんは乗ってください」

 

言われるままに昇降機に乗る。

 

プラトー主任は無駄のない手際で端末を操作し、昇降機を起動させた。

 

「さすがティオ先輩ですね」

 

「大したことではありません。それよりユウナ、最後に会った時より一層明るくなりましたね」

 

「えっ?」

 

「リィンさんたちとはうまくやれてるようですね」

 

「そう……かも、しれないですね」

 

口ではああ言っても割りきれてはいないようだ。

 

 

 

ジオフロント地下は広大な造りだった。だが魔獣の気配がする。

 

「みんな、ここからが本番だ。気を抜くなよ」

 

教官も同じ考えだった。

 

「ティオ主任は下がってください」

 

「いえ、私も戦闘に参加します」

 

そう言ってティオ・プラトーは背中から杖のようなものを取り出した。

 

「それは……」

 

「魔導杖(オーバルスタッフ)ですか」

 

「はい、先日アップデートしたので。援護くらいなら問題なく行えます」

 

「わかりました。背中はお任せします」

 

「承りました」

 

「ではこれより、探索を開始する」

 

「はいっ」

 

 

 

「はぁ~~~。なんで月に何度も……」

 

「ユウナさん進んでください」

 

「後がつかえてるので」

 

「うぅぅ……」

 

「………………」

 

探索はスムーズとは言えなかった。

 

ジオフロント区域内は迷路のようにいりくんでおり、装置の端末を探すにも骨が折れた。

 

無論、魔獣もすみついていて何度も戦闘になった。中には廃棄された工業製品が暴走したものもあった。

 

プラトー主任の持つ魔導杖は大したものだった。

 

一振りで放たれる物質の一つ一つがアーツと同様なので、ドローメのような物理攻撃が通じない相手には最適だ。

 

射程は銃より短いが欠点とは呼べるものでもない。

 

また、こういった場所は普通の道がないことが多い。

 

だからダクトを潜り抜けるしかない。

 

ユウナは最後まで抵抗していたが、プラトー主任に説得されてようやく折れた。

 

ダクトの中は埃っぽくカビ臭く、触れると油のような触感でベタつく。

 

決して短くないダクトを全員が潜り抜ける頃には、制服が汚れていた。

 

ウドの街での酸の雨に比べればこの程度の汚れは大分マシだ。

 

だがユウナたちからすればたまったものではないだろう。

 

「ふう。全員いるな?」

 

「うぅ~………もういや……」

 

「さすがに汚れてしまったな」

 

「なんとなく臭いますね」

 

「………………」

 

「地上に戻ったら着替えましょう」

 

「そうですね。では探索ペースを上げましょう。ティオ主任、大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

探索を再開した。

 

 

 

仕掛けを解除し、進んで行くと昇降機があった。

 

「これは……」

 

「どうかしましたか?」

 

「どうやらこことそこの端末室の2箇所から操作しないと動かない仕組みになっているようです」

 

防犯か何かのためだろう。

 

「2箇所からですか」

 

「しかも同時に操作しなければならないため、誰か一人残らなくてはなりません」

 

なら問題はない。

 

「他にルートは?」

 

「ないこともないですが、遠回りになりますね」

 

「どうするんですか?」

 

「時間もありません」

 

「決断を急ぐべきかと」

 

「俺が操作する」

 

「キリコ君!?」

 

「いや、キリコなら可能かもしれないが……」

 

「大丈夫なんですか?」

 

「問題ない」

 

「待てキリコ。君の技能は知っているが、危険過ぎる。ここは多少遠回りでも……」

 

「時間は限られています。急がないと面倒なことになりますが?」

 

「いや、しかし…!」

 

「まあまあ。少しお待ちください」

 

プラトー主任は魔導杖を掲げた。

 

「エイオンシステム、アクセス」

 

プラトー主任から何かの波動を感じる。

 

「これは……!」

 

「導力波による探索?いえ、精神感能を増幅させてそれを導力波で流している?」

 

「そんなことができるのか……!?」

 

おそらく彼女が被っているあれが装置なんだろう。デザインはともかく、なかなかすごいな。

 

だが、普通の人間にできることじゃない。

 

リーヴェルト少佐といい彼女といい、この世界は異能としか思えないものを持っているやつが多い。

 

俺が転生したのはこのためか?

 

「どうかしましたか?」

 

「なんでもない」

 

「キリコ君って時々あんな感じになるよね」

 

「きっと、どう動くべきか考えてるんだろう」

 

「不言実行がキリコさんですから」

 

「なるほど。あっ、探索の結果ですが、どうやら脅威になるような魔獣はいないようです」

 

「わかりました。キリコ、任せていいんだな?」

 

「はい」

 

「何かあったら無理せず連絡してくれ。無用な戦闘も避けるようにな」

 

「了解」

 

俺は端末室に入った。

 

プロテクトがかけられているが、1分もかからないだろう。いくつか操作すると昇降機が起動した。

 

ARCUSⅡに通信が入る。無事に着いたようだ。

 

俺も行動を開始する。

 

 

 

端末室を出て、指定のルートを通る。

 

特に複雑な構造ではないから急げば間に合いそうだ。

 

灯りが消えかけているのが気になるが。

 

すると───

 

「!?」

 

俺の目の前でキラリと何かが光った。

 

おそるおそる触れてみると痛みが走り、指から血が流れた。どうやら鋼線のようだ。

 

どうやら俺たち以外の何者かが罠を仕掛けているらしい。

 

俺は歩みを止め、全神経を集中させる。

 

すると奥に気配を感じる。人数は一人。今なら殺れる。

 

俺は得物を構え、忍び足で近づく。

 

ヒュンッ!!

 

突如、背後から鞭のような風斬り音が鳴る。こっちか!

 

なんとか鋼線をかわし、アーマーマグナムを撃ち込むもかわされる。

 

「………なかなかやりますね」

 

暗闇から女の声が響く。

 

どうやら俺はやつらの罠にかかったらしい。

 

一人を囮に獲物がかかるのを待ち、背後から暗殺する。

 

「よくできた仕掛けだな」

 

「何を仰っているのかわかりませんが、葬らせていただきます」

 

「なら返り討ちにするまでだ」

 

謎の暗殺者と戦闘になってしまった。

 

もう片方も気になるが、本命はこちらだろう。

 

教官たちのこともある。邪魔をするなら殺すまでだ。

 

 

 

うっすらとだが、相手の姿がわかってきた。

 

薄紫色の髪にメイドを思わせる服装。カムフラージュか何かだろう。

 

得物は鋼線。おそらくやつは2種類使っている。

 

一つは相手を切り刻むための殺傷性の高い細い鋼線。先ほどのトラップに使われたやつだ。

 

もう一つは相手を縛るための非殺傷性の太い鋼線。おかげでサバイバルナイフを掠め取られてしまった。

 

しかも、暗殺者故か暗闇の戦いでは向こうに分があるらしく、こちらの動きは筒抜けのようだ。

 

また、気配を消す術に長けている。

 

俺は物陰に隠れて作戦を練る。

 

(残りの弾が2発。フラッシュグレネードが一つ。だがこれだけでやつに致命傷を与えることはできない。何か策は……ん?これは……)

 

俺の右手に何が当たる。

 

これなら……!

 

 

 

「観念したようですね」

 

「………………」

 

「ですが、見逃すわけには参りません」

 

女は鋼線を構えた。今だ!

 

俺はやつの横を駆け抜けようと走り出す。

 

「愚かな……」

 

女は殺傷性のある細い鋼線を放つ。

 

作戦通りだ。

 

俺は体勢を低くし、フラッシュグレネードを使った。

 

「うっ…!」

 

女の動きが止まる。そこを狙い撃つが外した。

 

「惜しかったですわね」

 

「いや……予定通りだ」

 

「なっ!?」

 

突然女の背後から蒸気が吹き出る。

 

俺が狙ったのは女ではなく後ろの循環パイプだった。

 

蒸気で怯んだ瞬間を狙いさっき拾ったドライバーを投げナイフ代わりに投げつける。

 

「くっ……!」

 

女は隠し持っていたダガーでドライバーを叩き落とす。

 

無論、こんなもので殺せるとは思っていない。あくまで隙を出させるのが狙いだ。

 

ドライバーを叩き落としたことで体が開く。

 

「仕留める」

 

急所に狙いを定め、アーマーマグナムの引き金に指をかける。すると───

 

「!?」

 

突如明かりが灯り、俺と女の間に矢がとんできた。

 

一旦下がってとんできた方向を見ると、金髪の女が弓を構えていた。

 

「シャロン!大丈夫!?」

 

「お嬢様、ええ!私は平気です」

 

俺の相手はシャロンというらしい。

 

「悪いけどここまでよ!大人しく観念しなさ………え?」

 

「あら?」

 

「?」

 

金髪の女から戦意が消える。

 

シャロンと呼ばれた女からも殺気が鳴りを潜める。

 

「その制服って………」

 

「もしや……リィン様の?」

 

教官の知り合いのようだ。

 

 

 

「本当にごめんなさい!!」

 

「真に申し訳ありませんでした」

 

「…………………」

 

戦闘を中止し、訳を話すと俺がリィン教官の教え子であり、Ⅶ組特務科に所属することが分かると二人は必死に謝ってきた。

 

「まさかリィンの教え子だなんて……」

 

「このシャロン、一生の不覚です……」

 

「もういい。それよりあんたは旧Ⅶ組か?」

 

「ええ、そうよ」

 

金髪の女は髪をかきあげ、自己紹介をした。

 

「私はアリサ・ラインフォルトよ。こっちはメイドのシャロン・クルーガー」

 

「そして私はあなたの言うようにⅦ組に所属してたわ」

 

「ラインフォルト家のメイド、シャロン・クルーガーと申します。先ほどは大変失礼いたしました」

 

(ラインフォルト……帝国最大の重工業メーカーの。なるほど、さっきお嬢様と言ったのは間違いではなかったか)

 

「えっと……あなたは?」

 

「キリコ・キュービィー」

 

「キリコね。本当にごめんなさい。てっきり、連中かと思って」

 

「連中?」

 

「キリコ様はルーレで最近起きた事件をご存知でしょうか?」

 

「ルーレ………公文書偽造事件か?」

 

確か大貴族もかかわっていたらしいが。

 

「ええ……。とある理由で一部の貴族から恨まれているの。刺客を送りこんできたこともあったのよ」

 

俺を刺客だと思ったわけか。

 

「………そういえば聞きたいことがある」

 

「何かしら?」

 

「ラインフォルトは暗殺者を雇っているのか?」

 

「うっ……そう言われても仕方ないわね」

 

(あのシャーリィ並みの強さ。おそらくこのシャロンとは………)

 

「? いかがなされました?」

 

「なんでもない。それより行かせてもらう。教官たちが先にいるからな」

 

「でしたら、私たちも同行します」

 

「何?」

 

「先ほどの償いも兼ねてですが」

 

「ええ。お詫びにもならないでしょうけど、私たちもリィンに用があるから」

 

「………わかった」

 

俺はアリサ・ラインフォルトとシャロン・クルーガーとともに行くことになった。

 

すると───奥から何かを叩きつけたような轟音が響く。

 

「!?」

 

「これは……!」

 

「大物らしいな」

 

「急ぎましょう!」

 

「かしこまりました!」

 

「了解」

 

[キリコ side out]

 

 

 

キリコたちが駆けつけると、そこには鎖付き鉄球を持った魔煌兵と対峙するリィンたちがいた。

 

「魔煌兵!?こんな所にいるなんて」

 

「それにリィン様もあの力を……」

 

「初弾は俺がやる。追撃を頼む」

 

「わかったわ。シャロン、続いて」

 

「かしこまりました、お嬢様、キリコ様」

 

キリコは制服の中に隠し持っていた対機甲兵用地雷のピンを外し、円盤投げの要領で魔煌兵に投げつける。

 

ぶつかった衝撃で地雷は爆破。

 

続けざまにシャロンが鋼線で縛り上げ、アリサが弓矢で致命傷を与える。

 

魔煌兵は膝をつき、消滅した。

 

「間一髪か」

 

「キリコ!」

 

「無事だったのね!」

 

「助かりました」

 

「ナイスタイミングです。それに……」

 

プラトー主任が二人を見る。

 

「アリサさんにシャロンさんも来てましたか」

 

「ご無事ですか?ティオ主任」

 

「わぁっ、綺麗な人……♥️」

 

「ユウナさん、目がハートになってます」

 

「だが……確かに見惚れてしまうな………」

 

ユウナたちがみとれている横でアリサはリィンを抱きしめる。

 

「「!?」」

 

「……ハァ………」

 

「おぉー……」

 

「ア、アリサ……!?」

 

「ごめんなさい、今だけこうさせて。会いたかったわ、リィン」

 

「俺もさ、アリサ………」

 

リィンもアリサを抱きしめる。

 

「なっ、なななな!?」

 

(目のやり場に困るな……)

 

(なんでしょう……この感じ………)

 

「………………」

 

「……ちょっとラブラブすぎません?」

 

「フフフ、ではお熱いベーゼでも………」

 

「しないからっ!!」

 

アリサは我に返りリィンから離れた。

 

 

 

アリサとシャロンは新Ⅶ組に自己紹介をした。

 

「ラインフォルトの……そうだったんですか」

 

「お二人とも、素敵でした!」

 

「ふふ、ありがとう。ユウナにクルト、よろしくね。アルティナは久しぶりね」

 

「お久しぶりです」

 

「それにしても、僕たちの先輩方というのはスゴい人ばかりなんだな。アリサさんといいマキアスさんといい。そう言えばマキアスさんが言っていた協力者とはお二人のことですか?」

 

「ううん、シャロンは違うわ。後一人来ているのよ」

 

「へぇ、誰だろうな」

 

「それにしてもリィン様も凛々しくなられましたね。このシャロン、何時でも"旦那様"とお呼びする準備は整ってますわ♥️」

 

「だ、誰のよ、誰の!!」

 

「それはもちろん……♥️」

 

「いい加減にしなさ~い!!」

 

アリサは真っ赤になりシャロンを叱る。

 

「相変わらずですね、シャロンさんは。それより、キリコと一緒だったとは思いませんでした」

 

「ええ、先ほどお会いしました」

 

「そういえばキリコさんが来た所には魔獣はいないはずなんですが、何かあったんですか?戦闘の後というか……」

 

「……………」

 

「ふふ………」

 

アリサそっぽを向き、シャロンは微笑みを浮かべる。

 

「………キリコ。何があったのか説明してくれ」

 

「………はい」

 

キリコは先ほどの出来事をリィンに説明した。

 

『………………』

 

リィンたちは絶句した。

 

「シャロンさんと………戦った……?」

 

リィンは呆然となった。

 

「はい」

 

「ええと……本当ですか?」

 

「はい、お嬢様がお止めくださらなかったら、命を落としていたかもしれません」

 

「ラウラとフィーが言ってたけど、シャロンと互角だなんて思いもしなかったわ」

 

(クルト君、シャロンさんって何者?)

 

(わからない。相当腕が立つってことはわかるが)

 

(少なくとも私たちより強いです)

 

(その人と互角のキリコも相当だがな)

 

「とにかく、地上に出よう。依頼もなんとか達成できたしな」

 

「ええ、みなさん、お疲れ様でした」

 

 

 

その後、依頼達成を報告し、ティオはIBCビルに戻り、リィンたちⅦ組はアリサとシャロンとともに演習地へと帰還した。

 

「な、なんやあのお姉さんたちは……!」

 

「キレイな人……もしかして……」

 

「教官の恋人でしょうか?」

 

「あの人、見たことがある。確かラインフォルトの……」

 

「ハハ、やっぱり教官はモテるねぇ」

 

「チキショーッ!教官までイケメン補正かよー!」

 

「ヘッ、女侍らせて帰って来やがった」

 

「おーおー、リィンも隅におけねぇなぁ~」

 

「なぜ『死線』がここに……」

 

演習地は騒ぎになった。

 

「すっごい騒ぎね~……」

 

「まあ、無理もないが……」

 

「もう少し静かにしてほしいです……」

 

「あっ、リィン君たち、おかえりなさい」

 

「戻ったか。部外者もいるようだが」

 

トワとミハイルが出迎える。

 

「ええ、ただ今戻りました」

 

「アリサちゃんも久しぶりだね。シャロンさんもお久しぶりです」

 

「お久しぶりです、トワ会長」

 

「お久しゅうございます、トワ様」

 

「挨拶はその辺りにしてもらいたいな」

 

ミハイルが軽く咳払いをして、リィンにブリーフィングルームに来るよう命令する。

 

 

 

「なるほどな」

 

「そんなことがあったんだ」

 

「ええ、クロスベル地下のジオフロント区域で魔煌兵と戦闘になりました。こうなってくると、他の場所でも魔煌兵が顕れると考えざるをえません」

 

「ただ、幻獣って可能性もあるぜ。独立の時はあいつらに泣かされたからな」

 

「内戦でも見たことがあったよね」

 

「そうでしたね」

 

「帝国にも出たのかよ?」

 

「内戦中、帝国各地で目撃された。さすがの貴族連合軍も討伐に駆り出されたらしいが」

 

「俺たちは東部で活動してましたが、ミハイル教官は西部で戦ってらしたんですよね」

 

「ああ。貴族連合軍の主力が陣を張っていたからな。直接の戦闘というより難民保護が多かったな」

 

「結局、分校長やウォレス准将と戦うことはありませんでしたが」

 

「そんな中、第九機甲師団がラマール領邦軍を押さえ込んでいたという話を何度も耳にした。今思えば、キュービィーが前線に立っていたのだな」

 

「はは……」

 

ミハイルの言葉にランディは乾いた笑みを浮かべた。

 

「話を戻すぞ。Ⅶ組はこのまま調査に向かうんだな?」

 

「はい」

 

「わかった。Ⅷ組は機甲兵教練、Ⅸ組は実習を進めてるように。それと、全生徒は今夜の懇談会の警護についてもらう。以上、解散」

 

 

 

「そういや、あのメイドさん何者なんだ?色々と聞きてぇんだが……」

 

「え、えっと………」

 

「……トワ先輩、隠すことはないと思います。それにここにいるのは俺たちだけですから」

 

「リィン君……」

 

「なんだよ?もったいつけて」

 

「落ち着いて聞いてください。シャロンさんは……」

 

「……結社身喰らう蛇、執行者No.Ⅸ『死線』のクルーガーです」

 

「シャロンさん!?」

 

ブリーフィングルームの扉が開き、シャロンが入って来た。

 

「はあぁぁぁっ!?シャロンさんが執行者!?」

 

「本当なんです………」

 

「俺も内戦で知りました」

 

「マジかよ……!じゃあ、あのアリサってお嬢は?」

 

「ええ。アリサお嬢様の母であるイリーナ会長に雇っていただきました。執行者であることを承知の上で」

 

「でもよ、大丈夫なのか?俺らに味方して」

 

「はい、執行者には自由が与えられております。たとえ結社の意に反することをしても咎められることはありません」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「はい。それに、今はラインフォルトに仕える立場です。私を拾ってくださった大切な方々をお守りすることが私の使命です」

 

「シャロンさん……」

 

「いや、疑って悪かった。あのシャーリィが執行者になったからな。ちっとばかし疑り深くなっちまった」

 

「名前は聞いたことがございます。確か血染めのシャーリィでしたか」

 

「シャロンさんもご存知でしたか」

 

「まあ、シャロンさんがそうなら言うことはねぇや。それよりシャロンさん、今度飲みに行かねぇか?静かに飲めるバーを知ってんだが」

 

「まあ!嬉しいですわ」

 

「結局そこなんですね」

 

「こんなキレイなお姉さんがいたら誘わない野郎はいないだろ」

 

「ありがとうございます。ですが、申し訳ありません。私はラインフォルトのメイド。なかなか時間が取れませんので」

 

「ガックシ……」

 

ランディはうなだれる。

 

「ですが、断るわけではありませんので。またいずれ♪」

 

「ヒュー、マジかよ♪」

 

「シャロンさん……」

 

(男の人ってこうやって誘えばいいのかな……?じゃあ……リィン君も……)

 

 

 

ブリーフィングルームでリィンたちが話し合っている頃、キリコは作業着に着替え、届けられた新たな武装をフルメタルドッグに取り付けていた。

 

「……………」

 

「これが新しい武装……」

 

「ガトリング砲と二連装対戦車ミサイルですか……」

 

「なんか凶悪ねぇ」

 

「なんでも、機体の火力を上げるためだそうです」

 

ユウナたちはフルメタルドッグの両脇に取り付けられていく武装を眺めていた。

 

「へぇ、これが実験用機甲兵ね」

 

アリサがフルメタルドッグを見上げる。

 

「あっ、アリサさん」

 

「視察ですか?」

 

「ええ。実験用機甲兵がどんなものなのかこの目で見たくてね」

 

「あ、あの!はじめまして!アリサさんですよね?」

 

「あなたがティータ・ラッセルさんね。アリサ・ラインフォルトよ、よろしくね」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

ティータは緊張した面持ちで答える。

 

「アリサさんはティータのことをご存知なんですか?」

 

「私のお祖父様がラッセル博士とご友人なのよ」

 

「もしかして、グエン・ラインフォルト氏ですか?」

 

「現会長のイリーナ・ラインフォルトさんの父親にあたる方ですね」

 

「シャロンさんも言ってましたけど、アリサさんってお嬢様なんですね」

 

「ラインフォルトと言えば帝国最大の重工業メーカーです。下手したら大貴族以上の資産をお持ちかと」

 

「ひぇ~、想像できない……」

 

「あはは。まあ、ウチが大きくなったのはお祖父様の手腕なんだけどね」

 

アリサは苦笑いを浮かべた。

 

 

 

改めて、アリサはフルメタルドッグを見上げる。

 

「でも、あれだけの装備、使いこなせるのかしら?」

 

「問題ない」

 

キリコがフルメタルドッグから降りる。

 

「僕もそう思った。いくらキリコでも扱いきれるのか?」

 

「もちろんこのままでは不可能だ。だから背中にコントロールボックスを背負わせる。火器管制はそちらで行い、俺は操縦に集中する」

 

「なるほどね……」

 

「えっと………。どういうこと?」

 

「つまり、機甲兵の操縦はキリコさんが行いますが、武装の選択等は全部あのコントロールボックスが管理するということです。

 

「パイロットの負担も減りますしね。ミッションディスクもですけど、やっぱりスゴいです」

 

「あ、あはは……。あたしにはさっぱり」

 

「僕も理解できたわけじゃないけど、フルメタルドッグはさらに手強くなったということさ」

 

「そう言えば、これはこの後動かすんですか?」

 

「最終的な調整もある。動かすのは明日だな」

 

キリコは端末を操作しながら答える。

 

「そういえば聞きたいことがあった」

 

「あら、何かしら?」

 

「フルメタルドッグの製造元はラインフォルトとは別口と聞いたのでな」

 

「ええ、らしいわね。私もシャロンを使って調べさせたんだけど、分からずじまいなのよ」

 

アリサがため息混じりに答える。

 

「アリサさんでもわからないなんて」

 

「本当に誰が設計図を書いたんでしょう?」

 

「機体のコンセプトも不明なんです。普通、こんなことありえなくて……」

 

「そもそも、フルメタルドッグって何がスゴいの?」

 

「長所はカスタム性と整備性の高さ。短所は操作性の低さ、防御力の脆さだな」

 

「後、地上戦限定なら他の機甲兵を凌ぐと言ってもいい。もちろんキリコの腕があってこそだが」

 

「とんでもないわね……」

 

「でも、一つだけ言わせて」

 

「アリサさん?」

 

ユウナたちはアリサの険しい表情に戸惑う。

 

「この機体は………最低よ」

 

 

 

ブリーフィングを終えたリィンはⅦ組と合流し、これからのことを話し合っていた。

 

「さて、次はどうするかだが、演習地から程近い海岸を調査しようと思うんだが」

 

「そうですね。近い所から行った方がいいと思います」

 

「異存はありません」

 

「準備はできている」

 

「同じく」

 

「ねぇ、リィン。ちょっと待って」

 

アリサとシャロンが近づいてくる。

 

「どうしたんだ?」

 

「その調査なんだけどね、頼まれてほしいことがあるんだけど」

 

「かまわないが、何かあるのか?」

 

「うん、それは──「アリサさん!セッティング終わりました」ええ、ありがとう!百聞は一見にしかずね。とにかく見てちょうだい」

 

リィンたちは入り口に停められた自転車のようなものの前に来た。

 

「何これ?」

 

「自転車よりはるかに大きくてゴツいですね」

 

「見たことあるような?」

 

(これはバイクか?こっちの世界にもあったとはな)

 

「そうか、遂に量産できたんだな」

 

「ご存知なんですか?」

 

「ああ、これは導力バイクさ。俺の一つ上の先輩たちが作ったものをラインフォルトが採用したんだ。俺も学生の時に依頼で走行テストに参加したことがあるんだ」

 

「なんでもやっているんですね……」

 

「ちなみにその先輩方の内の一人がトワ教官だぞ」

 

「そうなんですか!?」

 

「ええ。トワ会長を含めた先輩方がそのノウハウをウチで採用することをOKしてくれてね。先月遂に発売が決定したの」

 

「すごいですね」

 

「それで頼みというのは?」

 

「ええ。この三台の導力バイクの運用を第Ⅱ分校でやってみないかしら」

 

「ええっ!?」

 

「いいんですか?」

 

「うん。オーレリア分校長に話を通したら快く承諾してくださったわ」

 

「分校長……」

 

(ミハイル教官の怒りが目に浮かぶな)

 

「キリコさんの仕事が増えましたね」

 

「問題ない。後で図面を見せてくれ」

 

「わかったわ。後で郵送するわね」

 

「その代わりと言ってはなんだけど、シャロンを連れて行ってくれないかしら?」

 

「いいのか?シャロンさんなしで」

 

「これでも室長をやっているのよ?それに今日の仕事は簡単な会議で終わりだから問題ないわ」

 

「わかった。シャロンさん、よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、皆様の足を引っ張らないよう頑張りますわ」

 

『むしろこっちが気をつけます』

 

「……………………」

 

「それで、どうやって乗るんです?」

 

「ああ、まずは……」

 

リィンは導力バイクの運転方法をユウナたちに教えた。

 

リィンたちはそれぞれ、クルトとユウナ、キリコとアルティナ、リィンとシャロンに別れてバイクとサイドカーに乗り、海岸を目指すことになった。

 

 

 

「また一人……」

 

ミュゼは髪を弄りながらキリコたちを見送る。

 

(運命の時はそこまで来ている。リィン教官を軸とした旧Ⅶ組、ユウナさんを軸とした新Ⅶ組。本来ならば彼らによって紡がれるはずでした)

 

(でもあの人の存在で新たな物語が織り成される。まるで因果をねじ曲げるかのごとく)

 

「キリコさん………」

 




委員長の登場は次回に回します。本当にすいません。
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