英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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再会③

「ひゃっほー!!気持ちいい~!!」

 

「だからちゃんと前を向いてくれ!」

 

「………………」

 

「………………」

 

「雲泥の差ですね」

 

「クラス仲は悪いところは全くないんですが……」

 

リィンたちⅦ組はアリサから譲り受けた導力バイクでウルスラ間道の海岸を目指していた。

 

 

 

「アリサさん、どうしてあんなことを?」

 

「ええ、そうね」

 

ティータはフルメタルドッグを最低と言ったことが気になっていた。

 

「多分あの機体、乗り手のことを全く考えていない設計ね」

 

「ええっ!?」

 

「機甲兵じゃなくても普通、人間が入ることを想定している場合頑丈に造るはずなの。でもフルメタルドッグはそれに当てはまらないのよ」

 

「そ、それって……!」

 

「ええ、おそらく全体の強度は高くないでしょう。それだけ生産性重視なんでしょうけど、限度があるわ」

 

「どういうことですか?」

 

「この機体の運用法はおそらく使い捨て。その証拠に費用にしてもドラッケンⅡ一機分で二機は造れるわ」

 

「ええっ!?」

 

「それに実験用と言ってたけど、完成度はほとんど正規の機甲兵と遜色ないわ。ただし──」

 

「機体のスペックが低過ぎる。ドラッケンⅡが最高水準に思えるほどに」

 

「そんな……!」

 

ティータはアリサの推測に驚嘆するしかない。

 

「でも、フルメタルドッグって確か……」

 

「確かにドラッケンⅡをベースにしたみたいだけど、ほとんど別物ね。素材やフレームを見ても、投入した金額と同等。嫌味なほど安定したコストパフォーマンスね」

 

アリサは皮肉を言わずにはいられなかった。

 

「なぜ博士がこれの開発に踏みきったのかはわからないわ。でも、ラインフォルトの人間としてこの機体は認められない。たとえ私のエゴだとわかっててもね」

 

「アリサさん……だから……」

 

プルルルルルルルル…プルルルルルルルル…

 

「あら?」

 

アリサはARCUSⅡの通信に出る。

 

「私よ。……うん。………わかった、すぐに戻るわね」

 

アリサは通信を切る。

 

「どうかしましたか?」

 

「実はこの後、会議なんだけど、予定を少し繰り上げるってことになったの。それと今夜の懇談会なんだけど、私も出席することになったわ。どうやら、オリヴァルト殿下が働きかけてくださったみたい」

 

「オリビエさんが……」

 

「ティータさん、また会いましょうね」

 

「はい!アリサさんも」

 

アリサはラインフォルト社ロゴの入った貨物列車に乗った。

 

(シャロンもいるから大丈夫だと思うけど……。リィン、気をつけてね)

 

 

 

一方新Ⅶ組は指定の場所に着いた。

 

「着きましたね」

 

「ええ、それよりクルト、大丈夫か?」

 

「なんとか………」

 

クルトの顔色は悪かった。

 

「この先か」

 

「地図だとあの侵食洞の奥ですね」

 

(この二人に心配は無用だな……)

 

「教官、早く行きましょう」

 

「ああ、わかった」

 

ユウナに急かされリィンたちは岩場の奥に足を踏み入れる。

 

 

 

「あれは花か?」

 

クルトの視線の先には紅い花が咲いていた。

 

「もしかして、あれがプレロマ草?」

 

「多分ね……」

 

(不自然な色だな……。アルティナの情報では蒼だというが、これは紅だ。どっちにしろ、嫌な感じだがな)

 

「皆さま、お気をつけください」

 

「ッ!来るぞ!」

 

その瞬間、空間が大きく歪み氷でできたような巨大な幻獣が顕れた。

 

「なっ……!?」

 

「顕れました!」

 

「これが……幻獣!?」

 

(妙な光に包まれている。なるほど、普通の魔獣とは違うようだな)

 

「全員、気をつけろ!こいつは手強いぞ!」

 

「なおさらここで倒す」

 

キリコは臆することなく得物を構える。

 

 

 

[キリコ side]

 

教官によると、この幻獣はアンスルトというらしい。

 

その見た目どおりに、氷の技でこちらを凍結させてくるが、偶々手に入れたフレイムジッポーや多目に買っておいた解凍カイロが役にたった。

 

また、弱点の土属性アーツを適宜放つことで確実に削れていく。

 

とはいっても巨体ゆえにタフネスでは完全に向こうが上だ。

 

俺たちは徐々に疲弊しつつあった。

 

 

 

「グオォォォォッ!」

 

アンスルトの巨体が光る。高揚のようなものか。

 

「くっ!」

 

「回復もしたようです」

 

「ああもう!しつこいわねぇ!」

 

「それだけ言えれば上出来だ。ユウナ、オーダーを頼む!」

 

「了解!」

 

ユウナのブレイブオーダーでパワーを上げ、再び攻勢に入る。

 

その時、ユウナが前に出る。

 

 

 

「これで決める!やあぁぁっ!もう一丁!止めよ、エクセルブレイカー!!」

 

 

 

ユウナのSクラフトが決定打となり、遂にアンスルトを消滅させた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ……や、やった………」

 

「か……硬すぎでしょ………!」

 

「…………………」

 

(さすがに消耗したな)

 

「皆さま、お疲れ様でした」

 

「でも、まだやることがあるだろう?」

 

プレロマ草の駆除が残っていた。

 

アルティナが写真を撮った後、俺はナイフで近くのプレロマ草をつついてみる。すると、プレロマ草は消滅した。

 

「き、消えた?」

 

「幻獣が消えたからでしょうか?」

 

わけがわからないが、俺が気になるのはそこではない。

 

「教官、なぜ幻獣のことを?」

 

「あっ、そうそう!なんで知ってるんですか!?」

 

「ああ、それはな───」

 

 

 

教官によると、学生時代に今の本校にある旧校舎の調査で戦ったそうだ。

 

トールズ創設者のドライケルス大帝の時代から現存する旧校舎には不可思議な出来事が多々起こっており、教官を含めた旧Ⅶ組が当時の学院長ヴァンダイクの依頼で調査していたとのこと。

 

その過程で旧Ⅶ組はいくつもの試しを突破し、旧校舎の調査を終わらせた。

 

「そして最下層に到達した俺たちはヴァリマールを発見したんだ」

 

「ヴァリマールを!?」

 

「なんでもドライケルス大帝が封印したそうだが……」

 

「まっ、待ってください!ドライケルス大帝と何の関係が?」

 

クルトはそこが気になるらしい。

 

「そう言えばアルティナにも言ってなかったな。ヴァリマールの前の起動者はドライケルス大帝だ」

 

「「「!?」」」

 

クルトたちは絶句している。もちろん俺も初耳だ。

 

「ドライケルス大帝が前の起動者!?」

 

「初耳です……」

 

「てか、なんでわかるんですか!?」

 

「ヴァリマールから聞いたんだ。彼によると泰然自若かつ豪放磊落な性格だが、時折子どものように輝いた目をする人物だったそうだ」

 

「へ、へぇ……」

 

「意外ですね……」

 

「書物によると、ロラン・ヴァンダールは相当振り回されたそうですが……」

 

大帝と言えど、人の子らしいな。

 

「さて、そろそろ移動を……まずいな、話し込みすぎたようだな」

 

海に近いせいか、魚型の魔獣の群れがやって来た。数は十。

 

こちらが不利だが、やるしかない。

 

「皆さま、ここは私にお任せください」

 

クルーガーが前に出る。

 

 

 

「死線の由来、とくとご覧あれ。はっ!失礼、ですが、もう逃げられませんわ。秘技 死縛葬送!」

 

 

 

クルーガーのSクラフトが魔獣の群れを殲滅する。

 

それにしても凄まじい威力だ。受けていれば俺でも危なかったな。

 

「な…な…な……」

 

「これは……!」

 

「『死線』…………」

 

アルティナの呟きから確信に至る。やはり結社の執行者か。

 

だが教官はとっくに知っているらしく、目で伝えてくる。もっとも、だから何だとしか思わないが。

 

また、クルトはほとんど確信している。

 

これ以上ここにいるメリットはない。俺たちはまっすぐクロスベル市を目指して走り出した。

 

[キリコ side out]

 

 

 

キリコたちの様子を見ていた者がいた。

 

「……ふわあぁっ…………」

 

「灰の小僧にクルーガー……まあ、悪くはねぇんだが。にしてもあの青髪の小僧、妙な気配がすんな」

 

「まあ、今は"標的"探しの方に集中しておくか」

 

男は髪をかきながら、怠そうな視線をクロスベル市に送る。

 

「めんどくせぇ実験はアイツに任せるとして……。仮面どもが動き出してくれりゃあちったぁ面白くなるんだが」

 

男は焔が描かれた魔法陣でどこかへと転移して行った。

 

 

 

その後、IBCビルの前でシャロンと別れた一行はクロスベル市港湾区のベンチで休んでいた。

 

「んぐっ、んぐっ、んぐっ……ぷはぁー!」

 

ユウナは腰に手をあて、缶ジュースを一気に飲みほす。

 

「………………」

 

「………………」

 

「ユウナさん、オジサンくさいです……」

 

「もう少し人目を気にしたら?」

 

「いいじゃないのよ~~。それにしても、すごいわね。町中が視察団の話題で持ちきりよ」

 

「セドリック殿下に次ぐ皇位継承者であるアルフィン殿下にオリヴァルト殿下。レーグニッツ帝都知事閣下にイリーナ会長。これほどの顔ぶれは夏至祭以来だからな」

 

「ええ、僕も驚いています。もっとも、兄の姿が見えないのは残念ですが……」

 

「クルト君……」

 

(クルトの兄は第七機甲師団だったか。たしかノルド高原に配置転換されたらしいが)

 

 

 

話題は幻獣についてになった。

 

「まさかあんなのがクロスベルにいるなんて……」

 

「ああ……。こうなってくると、残りの場所にも幻獣が出ると考えるべきだろうな」

 

「憂鬱ですね……」

 

「さすがに同じ幻獣は出ないだろう。いや、だからこそ厄介なのか……」

 

「ああ、おそらく全く別物が顕れるだろうな」

 

「そうだな。さて、そろそろ行くか──」

 

「すみません、よろしいでしょうか?」

 

 

 

声のする方を向くと、眼鏡をかけた男が立っていた。

 

「あなたは……!?」

 

「ユウナ?」

 

ユウナの緊張が走る。

 

「?」

 

「……黒月貿易公司支社長のツァオ・リーさんですね?」

 

「はい、はじめましてリィン・シュバルツァーさん。そしてⅦ組特務科のみなさん」

 

「!?」

 

「僕たちのことを……それに黒月とは……!」

 

「ええ、マフィアよ」

 

「ふふ、そうとも言いますね」

 

「隠す気もありませんか」

 

(随分と余裕だな)

 

キリコは左手をホルスターにかける。

 

「おっと、別に戦いに来たわけではありませんよ?キリコ・キュービィーさん?」

 

「キリコ君のことまで……!」

 

(情報戦は向こうが上か)

 

キリコは左手を引っ込める。

 

「さて、実はみなさんに頼みたいことがありまして、引き受けてくださいますか?」

 

「勝手に進めないでください。非合法な依頼なら受けるわけにはいきません」

 

「ああ、これは失礼いたしました。どうも仕事柄、相手のペースを考えない癖がついてしまいまして。誠にすみません」

 

ツァオ・リーは恭しく謝罪する。

 

「グッ……!」

 

「マフィアならではというわけですか」

 

(慇懃無礼。こいつや総督のためにある言葉だな)

 

「………謝罪は結構。それで依頼とは?」

 

リィンは強気に出る。

 

「詳しいことは社にお越しください。無論、無視してくださっても構いません。なにやらお忙しいご様子ですので。では、これにて」

 

ツァオ・リーは近くの支社へと戻って行った。

 

「はぁ~~~!」

 

「終始ペースを取られたな……」

 

「あれが《白蘭竜》ツァオ・リーですか」

 

「ああ、臨時武官時に聞いたことがある。有能すぎて敵味方両方から警戒されているとか」

 

「でもなんでマフィアが白昼堂々といるんだ?」

 

「大方、裏取引だろうな」

 

「裏取引?」

 

「総督府に付く代わりに存続が認められた、そんなところだろう(おそらく俺たちのことも総督府経由で伝わっているはずだ)」

 

「そんな!」

 

「アプローチは強引ですが、大体合っているでしょうね」

 

「…………」

 

キリコの推測にユウナは憤慨し、クルトの不信感は高まる。

 

「それで、受けるんですか?」

 

キリコは冷静に促す。

 

「みんなはどう思う?」

 

「…………受けた……方がいいと思います…………」

 

「ユウナ?」

 

「もちろん、本心ではいやです。でも、ここで逃げたくないんです。マフィアなんかに」

 

「ユウナさん……」

 

「決まりだな」

 

「ああ。行ってみよう。もし、非合法ならその時はきっぱりと断ろう。みんな、警戒を解くなよ」

 

「はい!」

 

「了解です」

 

「同じく」

 

「私も」

 

リィンたちは黒月貿易公司に入った。

 

 

 

[アルティナ side] [黒いアタッシュケースの回収]

 

私たちが入ると、黒いソファーにはツァオ・リーさんと黒髪の男の子が座ってました。

 

「いやー、お待ちしてましたよ、Ⅶ組特務科のみなさん」

 

………キリコさんが顔をしかめるのも無理ないですね。

 

「……ツァオ、こいつらがお前の言う助っ人か?」

 

「ええ、シン様。灰色の騎士リィン・シュバルツァーさんとトールズ第Ⅱ分校Ⅶ組特務科の方々です」

 

「灰色の騎士か……。まさか敵国の英雄が来るとは思わなかったな」

 

やはりカルバード人からすると教官は敵なんですね。

 

「ツァオさん、こちらは?」

 

「こちらは我らが黒月の長老のお孫さんのシン様です。将来の長老候補でもあります」

 

どうやらシンさんは裏のVIPのようです。

 

「よろしく頼む。さっそくだが、頼みを聞いてほしい」

 

 

 

シンさんの頼みとは、黒いアタッシュケースの回収でした。

 

 

なんでも、今日の午前にミシュラムからの遊覧船から川に落としてしまい、その捜索と回収をお願いしたいそうです。

 

ツァオさん曰く、誓って違法性はないとのこと。なお、回収の際に中を確認しても良いと言いました。

 

教官は悩んだ末、引き受けることにしたようです。

 

肝心のアタッシュケースはおそらくウルスラ間道に流れ着いたとのこと。

 

というのも、アタッシュケースは防水性で水に浮かぶ特殊仕様になっており、川の流れからウルスラ間道の岸辺あたりと推測しているようです。

 

ここまでわかっているなら自分たちで回収すれば良いと思いますが。

 

 

 

ウルスラ間道に出た私たちは岸辺を捜索しました。

 

クロスベル市の近くという話なので湖畔まで行く必要はなさそうです。

 

捜索の結果、黒いアタッシュケースを発見しました。

 

ですが、教官の言うとおりアタッシュケースの上にいるカニが邪魔です。

 

教官がカニを釣り上げようという案を出しましたが、ユウナさんがやると名乗り出ました。

 

なにやらこだわりがあるようです。教官もクルトさんもキリコさんも反対しませんでした。

 

数分ほど格闘し、カニを釣り上げました。なかなかお見事です。

 

続けてアタッシュケースを釣り針で引っかけて回収に成功。

 

黒月貿易公司でアタッシュケースの中身を確認すると、手紙が入っていました。

 

何やら色々とあるようですが、ここは教官の言うとおりにするしかありません。

 

とりあえず、依頼達成です。

 

[黒いアタッシュケースの回収] 達成

 

[アルティナ side out]

 

 

 

黒月貿易公司から出たリィンたちは東クロスベル街道近いに出た。

 

「巨大な魔獣の情報があるのは街道外れの沼地だったな」

 

「一応、プラトー主任から以前顕れた幻獣のデータも貰いました」

 

「先輩たちが戦った、食虫植物みたいな幻獣か……」

 

「いずれにしろ、厄介だな」

 

「油断は禁物だな」

 

「ああ」

 

リィンたちは街道の周辺状況も確かめながら指定の場所へと向かった。

 

 

 

途中で一行は遠目からタングラム門を発見した。

 

「な、何よ、アレ……?」

 

「何って、あれがタングラム門じゃないのか?」

 

「想定より規模が大きいな。何か工事でもしているようだが」

 

「し、知らないよ、あんなの!どうして門があった場所にあんなものがあるわけ!?」

 

「共和国方面の国境門の大規模改築──情報通りですね。完成後はガレリア要塞に迫る規模になると聞いていますが」

 

「なっ……!?」

 

「あの帝国最大規模の要塞に並ぶって言うのか……?」

 

「……ユウナでも知らないとなるとここ数ヶ月の話みたいだな。どうやらかなり急ピッチで進められているようだが……」

 

(視察団とやらの訪問と関係がありそうだな)

 

「……ホント、なんなのよもう」

 

ユウナが呟いた。

 

「他人の故郷で好き勝手してくれて……」

 

「ユウナ……」

 

(やはり……同じか……)

 

キリコは既視感を覚えた。

 

「……行きましょう、ユウナさん?」

 

「……うん、わかった。いちいち落ち込んでられない……。今は頑張らなくっちゃね!」

 

「ユウナ……」

 

(明らかに無理をしている。いや、当然か……)

 

(暴発するのも近いか)

 

リィンとキリコはユウナの限界を予感していた。

 

 

 

地図を頼りに進むと、ボート小屋があった。入ってみると、のんびりした声が響く。

 

「やあ、またお客さんかな?」

 

「ああっ!?もしかして──ケネスか!?」

 

「リィン君じゃないか。あはは、久しぶりだね~」

 

「教官?」

 

「もしかしてこの方も?」

 

「ああ、トールズの同窓生さ」

 

「僕はケネス・レイクロード。よろしくね~」

 

「レイクロード……もしかして高級釣具メーカーの?」

 

「そうだ。しかし、まさかケネスと再会するなんてな」

 

「うん。このクロスベルには兄さんが一時期滞在していてね。なかなかいい釣り場なんだよ」

 

(暇人の類か……)

 

「そういえばリィン君たちはどうしてここに?もしかして君たちも調べ物かい?」

 

「ああ、実は──って、君たちも?」

 

「おや、お客さんかな?」

 

 

 

ボート小屋の奥から出てきた人物はルーグマンと名乗った。

 

「あの帝国学術院で教鞭を……!?」

 

「ああ、専攻は地質学になるね」

 

「……えっと、学術院ってそんなに有名な大学なの?」

 

「有名も有名さ。帝国におけるアカデミズムの最高峰とすら言われているんだ」

 

「高名な学者、研究者なども数多く輩出しているとか」

 

(ギデオン──Gと呼ばれたあの男がかつて在籍していた大学だったな)

 

リィンはかつての敵対者のことを思い出した。

 

「そんな凄い大学の教授ってことは結構有名な先生だったりするんですか?」

 

「いや、そんなことはないさ。しがない客員教授だからね。私としては君たちの特務活動の方が興味深い」

 

「え?」

 

「士官学校としても異例だが──まさかあの不思議な植物が幻獣なんてものに関係してる事まで突き止めてしまうなんてね」

 

「ええ、断定は出来ませんが、その緋色の花はこの沼地の奥で見つけたんですね?」

 

「ああ、今日の午前中、地質調査に行った折にね。私は植物学者ではないが、見たことのない形状と淡く光る様子にどうしても気になってしまってね。土壌の性質とも関係があるかもしれないからもう一度調べに行こうとしてたところだったわけさ」

 

「……この沼地にもあの花が咲いてたなんて」

 

「幻獣との因果関係──ますます濃厚になってきましたね」

 

「ああ、やっぱり僕たちで調べに行くべきだろう」

 

「…………そうだな」

 

ユウナたちの言葉を聞いたリィンはルーグマンに調査を任せるよう言った。

 

一方でキリコはルーグマンに何か引っかかるような感じを覚えた。

 

(何かおかしい。このルーグマンという男、真剣味が伝わってこない。教官の話もまるでどうでもいいかのように聞いている。何が目的だ?)

 

「キリコ君、行くよー」

 

「…………ああ」

 

 

 

ボート小屋の奥に木戸があり、リィンは渡された鍵で開け、沼地の最奥へとやって来た。

 

「ここか」

 

「プレロマ草もばっちり生えていますね」

 

「みんな、警戒を怠るなよ」

 

しかし、プレロマ草に近づいても幻獣は顕れなかった。

 

「……顕れませんね」

 

「必ずしも幻獣が出現する兆候じゃないということか?」

 

「確かに……独立国の時、あちこちで咲いてたし」

 

「…………出現しないならそれはそれで好都合だろう。念のため、その緋色の花も採取してから──」

 

 

 

「フフ……どうやら足りないみたいだね」

 

 

 

突然少年のような声が響いた。

 

「今のは……!?」

 

「お、男の子の声……?」

 

「……リィン教官」

 

「ああ……」

 

「トールズ士官学院、第Ⅱ分校、Ⅶ組特務科の者だ。何者だ、名乗ってもらおうか?」

 

リィンは太刀を構え、姿を現さない相手に問いかける。

 

「うふふ、はじめまして。名乗ってもいいんだけど、さすがにギャラリーが足りないかなぁ」

 

「くっ……!?」

 

「……どこからだ……!?」

 

「落ち着け。声に振り回されるな」

 

「キリコ君……」

 

「何が目的かは知らないが、狼狽えれば向こうの思うつぼだ」

 

「あ、ああ……」

 

(ナイスフォローだ、キリコ)

 

キリコの一言でユウナとクルトは冷静さを取り戻した。

 

「あはは、なかなかいい仕事するねぇ。じゃあ見せてもらおうかな?

 

 

 

ブルブランたちを退けたⅦ組と灰色の騎士の力をね!」

 

 

 

すると、背後のプレロマ草が光だした。

 

「なに……!?」

 

「霊的な力……!?」

 

「来たか」

 

空間が歪み、巨大な食虫植物のような幻獣が顕れた。

 

「これって………!?」

 

「プラトー主任からのデータと同じだが……」

 

「大きさは桁違いです!」

 

「……っ…………(ここは安全策を取る!)」

 

「来い!灰の騎神───」

 

「アハハ!それは後で見せて欲しいな!」

 

パチンと指を鳴らす音が鳴った瞬間、リィンたちと幻獣の周りを透明な壁が覆った。

 

「なっ……!?」

 

「霊的な障壁……!」

 

「フフ、思念波を遮断できる結界さ。そこまでの強度じゃあないけど騎神の助けは呼べないよ?」

 

「………………」

 

キリコは障壁に弾丸を撃ち込むが皹すら入らなかった。

 

「チッ」

 

「アーマーマグナムでも無理だなんて……」

 

「確かに繋がりを感じないな。だったら仕方ない……全力で行かせてもらおうか」

 

リィンは太刀を上に構え、集中する。すると、黒いオーラがリィンを包んだ。

 

 

 

「〈神気合一〉──!」

 

 

 

リィンの髪は黒から灰色に変色していた。

 

「………ぁ……………」

 

「……教官…………」

 

「……これが…………」

 

「奥の手か……」

 

キリコたちは言葉を失う。

 

「アハハ、いい感じじゃないか!それじゃあ見せてごらんよ!君自身の鬼の力をね!」

 

「Ⅶ組総員、迎撃準備!目標を全力で撃破するぞ!」

 

『イエス・サー!』

 

 

 

幻獣モルドレアンは猛毒を用いて、味方を毒や混乱状態にしてくる。

 

さらに植物系の魔獣は特性として相手を取り込み、自分の養分として吸収する性質を持つものが多い。

 

だがリィンの奥の手により、ユウナたちは苦戦を強いられたものの、モルドレアンを討伐した。

 

 

 

「や、やったぁ!」

 

「こ、これでなんとか……」

 

「っ……!…………ぉぉ………………!」

 

喜びも束の間、突然リィンが苦しみ出した。

 

「きょ、教官!?どうしたんですか!?」

 

「黒いオーラが侵食しているのか……?」

 

「力の暴走です……!このままでは──」

 

「っ……そういう事か……!」

 

「アハハ、灰色の騎士ならぬ灰色の鬼ってところかな!?」

 

「!?」

 

キリコはまるで幽霊のように透明な少年と目が合い、少年の声が頭に響いた。

 

(へえ、僕を捉えるか。あれれ?君、あの時の?)

 

(何?)

 

(まあ、今回用があるのは君の教官だからねぇ)

 

(…………)

 

(フフ、霊脈を上手く誘導すればもう一体くらいは呼べるかな?さあて、何が顕れるかは───)

 

「そこまでです──!」

 

「えっ……!?」

 

「いいわエマ!思いっきりやりなさい!」

 

 

 

「Aurum Hedera(黄金のツタよ)!」

 

 

 

突然女性の声が響き、障壁を黄金のツタが覆い包み消し去った。

 

「あ………」

 

「……綺麗………」

 

(助っ人か……。それにしてもあれはなんだ?)

 

キリコたちの足元に黒い猫がかけよって来た。

 

「しっかりしなさい!力を安定させるわ!」

 

「なあっ……!?」

 

「ね、猫が喋った……!?」

 

「……ふう。貴女がたでしたか」

 

(アルティナが知っているとなると、そういう事か)

 

「……すまない……。しかし絶妙なタイミングだな……」

 

「ええい、喋ってないで心を落ち着けなさい……!」

 

黒猫が不思議な術を使っている間、キリコは少年と眼鏡の女性のやり取りを聞いていた。

 

「邪魔されちゃったか。今の力……あの人かと思っちゃったけど」

 

「やっぱり姉さんもこの地にいるんですね。結社の執行者──大人しく姿を見せてください!」

 

(やはりそうか)

 

「フフ、それは今後のお愉しみということで。そう待たせないから楽しみにするといい──じゃあね」

 

少年は焔に包まれてどこかへ転移した。

 

(奴はなんだ?俺のことを知っていたようだが……)

 

「リィン教官……!」

 

リィンからは黒いオーラが消えていた。

 

「ああ……心配かけてすまない。ヴァリマールを封じられるとは俺もちょっと迂闊だったな」

 

「ふう……」

 

「も、もう!そういう問題じゃないでしょ!」

 

「どうか……無理はしないでください」

 

キリコはリィンを立ち上がらせる。

 

「あ………」

 

「教官に倒れられるわけにはいかないので」

 

「キリコさん……」

 

「荷物が増えるからな」

 

「キリコ君!?」

 

ユウナはキリコにつっこむ。

 

「あはは、そうだな……」

 

「ふふっ……」

 

「フン、思った以上に慕われてるみたいじゃない?」

 

リィンたちの目の前には眼鏡の女性と黒猫がいた。

 

「助かったよ。それにセリーヌも抑えてくれてありがとうな」

 

「ふふっ、大したことはしてません。でも、新たに教わった術が役に立ってくれました」

 

「フフン、せいぜい恩に着なさいよね」

 

そしてリィンと眼鏡の女性は手を取り合った。

 

「やっと……やっと会えましたね、リィンさん!」

 

「ああ──久しぶりだ、エマ!」




次回、あのイベントをやります。さらにキリコが自身について自問自答します。
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