英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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今までで一番長くなりました。


鳥籠

キリコたちはボート小屋で体を休ませながら、互いに自己紹介をした。

 

そしてエマが伝承にある魔女であることを知った。

 

「そ、それじゃあエマさんは魔女なんですか!?」

 

「ええ、正確には魔女の卷族(ヘクセンブリード)の一人ですね」

 

エマは黒猫の方に目をやる。

 

「この子はセリーヌ。私の卷族であり、家族でもあります」

 

「まぁ、使い魔って方が通りがいいかもしれないわね。とりあえずヨロシク。別にヨロシクしないでいいけど」

 

「………………(パクパク)」

 

「……どれだけなんですか、旧Ⅶ組メンバーというのは」

 

「正直、私も同感です」

 

(ラインフォルト社の令嬢に帝都知事の息子、そして魔女に化け猫か……)

 

「ちょっと、アンタ!今化け猫って思ったでしょ!」

 

「…………」

 

「フーーーッ!」

 

セリーヌはキリコに怒りの態度を見せたが、キリコはどこ吹く風だった。

 

「はは……。でも良かったのか?魔女のことを明かしても」

 

「はぁ…はぁ…はぁ…。まぁそっちの黒兎にはもう知られちゃってるしね」

 

「ふふっ、それに皆さんにも知っていてもらいたかったんです。同じⅦ組としてただ隠して遠ざけるのではなく、この世に裏の世界が実在し、時に問題を起こすことを」

 

「裏の世界?」

 

「はい。皆さんのような普通の人々が暮らす部分を表とするなら、私たち魔女や幻獣に魔煌兵といった知られざる部分を裏とします」

 

「そして系統は違うが結社も裏の存在だ」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「君たちも先月、神機や人形兵器を見ただろう?あれは全て表では造ることは不可能に近いんだ」

 

「だから博士が人形兵器を再現した時、教官は驚いてらしたんですね」

 

「何してんのよ、あの人間は………」

 

セリーヌは驚きと呆れの両方が浮かんだ。

 

「ていうか、キリコ君は知らなかったの?」

 

「俺はあくまでも実験用機甲兵のテストと整備が主だからな。それ以外は関わっていない」

 

(ドライねぇ……)

 

 

 

「それよりさっきの奴は何者だ?」

 

キリコはエマに問いかける。

 

「ああっ、そういえば!」

 

「少年のような声でしたが……」

 

「間違いなく結社の執行者でしょう。それも有名な存在だと思います」

 

「霊脈を活性化させて幻獣を呼び出したようだが、そんなことが可能なのか?」

 

「霊脈そのものに訴えかけるには相当魔術に精通してないとダメね。あのアマもそうだけど、さっきのもエマ以上に魔術に精通しているわ」

 

「アマ………蒼の深淵ですか」

 

(相変わらずクロチルダさんには辛辣だな……セリーヌは)

 

(クルト君……ついて行けてる?)

 

(いや、さっぱりだ)

 

(キリコ君は?)

 

(知らん)

 

 

 

「そういえば、これで今日の特務活動は終了だな」

 

リィンの一言に新Ⅶ組はハッとする。

 

「そういえば……!」

 

「忘れていましたね」

 

「なかなか濃い一日だったな」

 

「後は視察団の警護とやらか」

 

「まあ、あくまでもそれは晩餐会の時だけだろうな」

 

「晩餐会か~。なんだか堅苦しそうよね~。」

 

「堅苦しい?」

 

「ほら、色々あるじゃない。ナイフとフォークがどうたらこうたら……」

 

「ああ、テーブルマナーか」

 

「人間ってめんどくさいわよね」

 

「セリーヌさんと一緒にされても……」

 

「ふむ……」

 

リィンは顎に手をやる。

 

「リィンさん?」

 

「いや、実は先日、トワ先輩からテーブルマナー講習の話を聞かされたのを思い出してな」

 

「テーブルマナーですか?」

 

「ああ、社会人になって恥をかかないために講習をやっておこうということなんだ。最近では企業でもそういった講習を行っているらしいな」

 

「そういえば、アリサさんも仰ってました」

 

「確かに覚えておいて損はないですね」

 

「公的な場では必要不可欠ですので」

 

「そうだな。演習地に戻ったら先輩と検討してみるか」

 

「…………ちなみにみんなはできるの?」

 

ユウナは不安そうに聞いた。

 

「まあ……実家で叩き込まれたけど」

 

「最低限のことは知っていますが」

 

「人並みにはな」

 

「ううう……あたしだけか………」

 

ユウナはガックリと肩を落とす。

 

「でもいい機会だと思うぞ?分校長やセレスタンさんに頼めば講師を引き受けてくれるかもしれないしな」

 

「確かに分校長は伯爵位ですからね」

 

「そういった公的な場にはよく招かれるかもしれないからな」

 

「俺たちにはわからないものがあるんだろうな」

 

「ハァ~。仕方ないか~」

 

 

 

「さて、そろそろ行くか」

 

「ただいま~」

 

振り返るとケネスが釣竿を手に戻って来た。

 

「あっ、リィン君にエマ君たち。もう行くのかい?」

 

「ああ。今日の演習もこれで終了だからな」

 

「そういえばルーグマン教授はどちらへ?」

 

「バスの時間が近いからってついさっき帰ったよ」

 

「そうですか。ろくに挨拶もできませんでしたが」

 

「ああそうだ、セリーヌ君にお土産だよ」

 

そう言ってケネスは大きな魚を取り出した。

 

「にゃっ!?」

 

「デカッ!」

 

「もしかして僕たちが話している間に釣り上げたんですか!?」

 

「ハハ、さすがケネスだな」

 

ケネスはふふっと笑い、魚を皿にのせ、セリーヌの前に置いた。

 

「な、なによ………あ、あたしをそこら辺の野良猫と一緒にしな………」

 

セリーヌは何とか理性を保ったが───

 

「みゃあ~~♥️♥️」

 

本能には勝てなかった。

 

結果、リィンたちはセリーヌが満腹になるまでボート小屋に留まった。

 

 

 

リィンたちはエマと動けないセリーヌとともにクロスベル市に向けて導力バイクを走らせていた。

 

「ゲプッ……もう少しゆっくり走らせなさいよぉ……」

 

「全く、食べ過ぎよ。リィンさん、ごめんなさい。文句を言っても無視してくださいね」

 

「あはは、やっぱりネコなのね……」

 

「猫まっしぐらというやつですか」

 

「まあ、本能には勝てないんだろう」

 

「卷属とか使い魔とからしいけど、構える必要はないみたいね」

 

「そうだな」

 

「そうですね」

 

「……………」

 

(魔女か………。エマ・ミルスティンが言う裏の力なら何かしら得られるかもしれないな。おそらくミュゼの言う異能に詳しい人物とは魔女のことだろう。裏の力なら消せるかもしれない。俺の中の異能生存体を)

 

(俺が第Ⅱ分校に入ったのは異能生存体を消すためのヒントを得るためだった。曰く付きの場所なら何かしらのヒントがあると思った。実際、結社の力は想像をはるかに超えていた。裏の力なら上手くいくかもしれない。今度こそフィアナの元へ逝くために。だが───)

 

キリコは前にいるユウナたちを見た。

 

(だが誤算があった。Ⅶ組に入り教官、ユウナ、クルト、アルティナに出会った。この1ヶ月を過ごした俺は前世と同じようなやすらぎを得た。俺の目的はフィアナの元へ逝く、人間として死ぬことだ。だが……あいつらと一緒にこのまま学生として過ごすのも悪くないと感じている。フィアナ……お前ならなんと言うだろうな……)

 

「キリコ君?」

 

「どうかしましたか?」

 

「なんでもない。少し疲れただけだ」

 

「確かに、今日だけで魔煌兵1体に幻獣2体と戦ったからな」

 

「ゲフッ……なかなかハードねぇ……」

 

「ふふっ、お疲れ様です」

 

「とりあえず、晩餐会までは時間があるから演習地に戻ってレポートを書き上げてから休むといい」

 

「お、鬼~~!」

 

「鬼畜ですね」

 

「……どこで覚えたんだ?そんな言葉……」

 

「………とりあえず、帰ったらコーヒーを頼む」

 

「わかった──」

 

「!?みんな止まれ!」

 

突然リィンが止まるよう指示を出す。ユウナたちは慌てて停車した。

 

「な、なんですか、いきなり!」

 

「あれを見ろ」

 

リィンの指さす方向から軍用の貨物列車が走って来た。

 

「あ、あれって……!?」

 

「列車砲か……!」

 

「サイズやデザインも前に見たものとは違う。おそらく後継機といった所か」

 

「しかも一台だけではないようです」

 

アルティナの言うように複数の列車砲が続々と国境方面に向かって行く。

 

「な、なんであんなに……」

 

「対共和国のためだろうな」

 

「共和国軍の侵攻に備えてか………」

 

「だとしても、正気とは思えません」

 

「いったいこの地で何が起ころうとしてるワケ……?」

 

(…………)

 

 

 

エマたちと龍老飯店で別れた後、一旦演習地に戻ったⅦ組は速攻でレポートを仕上げ、改めてオルキスタワーへとやって来た。

 

分校生徒の前にはルーファス総督と視察団全員が立っていた。

 

「第Ⅱ分校の諸君。わざわざのご足労、大義だった。晩餐会の警備についてはこの後説明させてもらうが、その前に視察団の方々を君たちに紹介させてもらおう」

 

「はじめまして、諸君。帝都ヘイムダルを預かるカール・レーグニッツという者だ。リーヴスは帝都の近郊とは言え、今まで縁がなかったのは残念だが今回は良い機会と言えるだろう」

 

レーグニッツ知事は笑みをまじえながら挨拶をした。

 

「イリーナ・ラインフォルト。お初にお目にかかるわね。ARCUSⅡにデアフリンガー号、機甲兵に各種設備などの面で間接的に付き合いがあるわね。レポートなども拝見しているし、期待させてもらってるわ」

 

イリーナ会長は表情をほとんど変えずに挨拶を済ませた。

 

「そして、こちらの方々は紹介するまでもなさそうかな?」

 

分校生徒たちに緊張が走る。

 

「はじめまして、第Ⅱ分校のみなさん。エレボニア帝国皇女、アルフィン・ライゼ・アルノールです。本当なら、もう少し早くこうした機会を持ちたくもありました──」

 

アルフィンと後ろのエリゼは後方のミュゼを見て呆気にとられるが、咳払いをした。

 

「──ですがこの時期、この地でみなさんとお会いできたのも女神の巡り合わせでしょう」

 

最後に金髪の男性が前に出る。

 

「オリヴァルト・ライゼ・アルノール。本視察団の団長を務めているが、はっきり言ってお飾りみたいなものだ」

 

オリヴァルト皇子の言葉に分校生徒たちは戸惑った。

 

「実は君たちとはちょっとした縁があってね。前年度までトールズの本校で理事長をやらせてもらってたのさ。遅まきながら、入学おめでとう。激動の時代にあっても青春を謳歌し、"世の礎"たる自分を見つけて欲しい!」

 

オリヴァルト皇子の挨拶に全員が拍手した。

 

その後、ミハイルの指示で分校生徒たちは所定の場所に移動した。

 

 

 

[キリコ side]

 

俺たちⅦ組とティータは視察団に挨拶することになった。

 

最初はレーグニッツ帝都知事とイリーナ会長に会うことになった。

 

「やあ、よく来てくれたね」

 

部屋の中にはレーグニッツ知事とイリーナ会長とシャロンがいた。

 

「忙しいのに急に呼びつけてすまなかったね」

 

「いえ、せっかくの機会ですし。改めてお久しぶりです。レーグニッツ閣下、イリーナ会長」

 

「特務活動については聞いているわ。まずはお疲れ様と言っておきましょう」

 

その直後、イリーナ会長は俺たちを見た。

 

「そちらが新Ⅶ組に、エリカ博士の娘さんかしら?」

 

どうやらティータのことも知っているらしい。話を聞く限り、相当な人物のようだな。

 

「そしてあなたがキリコ・キュービィー君ね?」

 

「はい」

 

「レポート読ませてもらったわ。なかなかの出来ね」

 

「いえ……」

 

ラインフォルトにも流れているのか?

 

「あなた、ウチに来る気はない?」

 

いきなりだな。

 

「イリーナ会長、今はその話はいいじゃありませんか?」

 

「お言葉ですが、彼のような人材を見逃すような悪手は打ちませんわ。もちろん、最終的判断は彼の一存ですが」

 

「む……」

 

「まあ、たしかに時間も余りあるわけではありませんしね。シャロン、みなさんにお茶を」

 

「かしこまりました」

 

軍隊の女将校に見えてきたな。

 

 

 

ソファーに座り、お茶を飲みながら俺たちはレーグニッツ知事から《新帝国八大都市構想》というものの説明を受けた。

 

なんでも、帝国5大都市である帝都ヘイムダル、オルディス、バリアハート、ルーレ、セントアークにジュライ特区、ノーザンブリア州都であったハリアスク、そしてクロスベルを加えた8都市を新たな帝国の中核とするものだという。

 

一番の目的は税制の統一。

 

というのも、エレボニアでは領邦ごとに税制が異なっており、特に企業にとっては面倒この上ない。

 

ならば一つにまとめてしまえば良いということなのだろう。

 

クルトの言うとおり合理的だ。

 

だがリィン教官の言うように各地の貴族にとっては大変革だろう。

 

まあ、貴族だとか革新だとかはどうでもいいのだが。

 

 

 

また、イリーナ会長は俺たちが見た新型列車砲についても説明してくれた。

 

あれはドラグノフ級と言って、従来型に匹敵する火力を保持したまま移動性を向上させたものだという。

 

クルトやティータ、特にユウナにとっては衝撃な話だろう。

 

だが軍も兵器会社もそれ自体意思を持っているわけではない。

 

必要だからこそ動く、それだけのことだ。

 

レーグニッツ知事曰く、俺たちにこんな話を聞かせたのは、帝国とクロスベルが置かれた状況──将来の可能性と厳しい現実の双方を示すためだという。

 

色々と考えさせられそうだが、今はいい。

 

レーグニッツ知事たちとの面会を終え、俺たちは皇族と面会することになった。

 

 

 

「兄様……!」

 

「ふふ、ようこそいらっしゃいました」

 

俺たちが入ると、アルフィン皇女とエリゼが出迎えた。

 

「エリゼ……アルフィン殿下もお久しぶりです」

 

「ええ、本当に。去年の年末以来になりますね」

 

「ご無沙汰しています、兄様」

 

「エリゼったら、こういう時くらいお兄様に抱きついて甘えたらどうかしら?」

 

「も、もう姫様……!」

 

「はは……相変わらず仲が良くて何よりだ」

 

「フッ、よく来てくれたね。リィン君」

 

部屋の奥からオリヴァルト皇子がやって来る。

 

リィン教官はオリヴァルト皇子と言葉を交わした。その後、俺たちを見た。

 

「フフ、そしてそちらが新Ⅶ組とかつての小さな戦友どの……。クルトも久しぶりだが、ティータ君は3年ぶりになるかな?」

 

「はいっ!お久しぶりです!」

 

「フフフ、再会を祝して一曲……」

 

そしてオリヴァルト皇子は楽器を取り出した。

 

「えいっ」

 

「あたっ!」

 

見計らったようにアルフィン皇女がオリヴァルト皇子の頭を紙をたたんだものではたく。

 

俺とユウナ以外はどうやら見知っているらしく、苦笑いを浮かべている。

 

なるほど、"放蕩皇子"か………。

 

 

 

オリヴァルト皇子たちととりとめのない話の後、オリヴァルト皇子たちは俺たち一人一人に話かける。

 

そして最後に俺の方を見た。

 

「君がキリコ君か。君とはお礼も兼ねて一度会って話をしてみたかったんだ」

 

「お礼?」

 

「ああ。一つはアルフィンのわがままに付き合ってもらったことだ。ティータ君もすまなかったね」

 

「いえいえ、とっても楽しかったです!」

 

アルフィン皇女は微笑んでいるが、エリゼは気が気でないようだな。

 

まあ、リィン教官が騎神で乗り込んで来るとなれば当然か。

 

「そう言ってもらえるとありがたい。そしてもう一つの方なんだが……」

 

オリヴァルト皇子の声色が変わった。

 

「先日、セドリックが君や第Ⅱ分校に迷惑をかけてしまったようだね」

 

「その件なら既にカタがついています。取り巻き連中はともかく、皇太子自身は内容にも納得しているようですが」

 

やはり叩きのめしたことは問題らしい。

 

そう思っていると、オリヴァルト皇子は俺の考えを悟ったのか、笑っていた。

 

「いや、君を責めているわけではないよ。あの日以来、セドリックは変わったんだ。成長したと言ってもいいくらいにね」

 

「殿下が?」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。元々彼はオズボーン宰相の熱心なファンでね。特に力強さに影響されていたようなんだ。もちろんそれが悪いというわけではない。むしろ個人的には感謝してるくらいさ。セドリックが元気を取り戻し、逞しく成長したきっかけになったわけだからね」

 

どうやら心から感謝しているわけではなさそうだな。

 

「急に背も伸びて、逞しくなって……。それだけなら良かったのですが、強引なところが目立つようになって……」

 

「その変わりようには、私やアルフィンはもちろん、母上も心配なさっていたんだ」

 

あの時言っていた"あの方"というのは宰相のことだったか。

 

「だが、彼は変わった。あの日以来、オズボーン宰相のことは口にしなくなった。今は君に勝つことだけを考えているようだ」

 

「そんなことが……」

 

リィン教官はそこが気になるようだな。

 

「皇族ではなく、セドリックの兄として礼を言わせてほしい。キリコ君、ありがとう」

 

オリヴァルト皇子は立ち上がり、俺に頭を下げる。

 

「私からもお礼をさせてください。キリコさん、ありがとうございました」

 

アルフィン皇女もそれに倣う。

 

「殿下……」

 

「なっ……!?」

 

「アルフィン殿下まで……」

 

「はわわっ!」

 

「お気持ちだけで結構です」

 

皇族に頭を下げられる日が来るとはな。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「それにしてもキリコさんとはつくづくご縁がありますね」

 

「そのようだな」

 

「キリコ……」

 

「なんで君は堂々としていられるんだ……」

 

「もうつっこむのも疲れたわ……」

 

「さすがに不敬かと……」

 

リィンたちは平常運転のキリコに頭痛を覚えた。

 

「ふふっ、別に構いませんわ。変にかしずかれるよりずっといいですもの」

 

「そもそも、キリコさんがかしずくお姿が想像できませんね」

 

「あはは、言えてるかも……」

 

「ハハ、なかなか面白い子たちのようだね?」

 

「ええ、毎日が大変ですよ。でも……」

 

リィンは一度言葉を切る。

 

「やりがいはあります。彼らなら自分たちとは違うⅦ組を作ってくれるでしょうから」

 

「教官……」

 

「それでいい。私が君たちに求めるのはたった一つだ。激動の時代を迎えようとするこの帝国において、世の礎たる心構え。それだけだ。君たちならきっと成し遂げられると思っているよ」

 

「過分なお言葉、ありがとうございます」

 

「精進します」

 

「はい」

 

リィンたちの心にオリヴァルト皇子の言葉が刻み込まれた。

 

 

 

オリヴァルト皇子との面会の直後、リィンはルーファス総督に呼ばれた。

 

ユウナたちは廊下で待つように言われ、顔を寄せあっていた。

 

数分後、微笑みながら出てきたルーファス総督とは逆に、リィンは浮かない顔で出てきた。

 

何かあったのかと問うも、リィンは「大丈夫」の一点張りだったためユウナたちはそう信じることにした。

 

その後、リィンたちは他の分校生徒たちのいる場所へ向かった。

 

 

 

「キリコ君、ちょっといいかな?」

 

あの後、キリコたちは晩餐会の警備をこなした後、視察団メンバーを迎賓館に送る準備が整うまでしばらく待機することになった。

 

キリコは料理を少しばかり口にし、廊下に出てクロスベルの夜景を眺めていた。

 

そんな時、キリコはトワに声をかけられた。

 

「なんですか?」

 

「ミュゼちゃんを探してるんだけど、見当たらないの。少し手伝ってほしいんだけど……」

 

「なぜ俺が?」

 

「キリコ君がちょっと手持ちぶさたに見えたからかな?リィン君には上手く言っておくから頼まれてくれるとありがたいんだけど」

 

「………わかりました」

 

「後、アルフィン殿下とエリゼちゃんも見かけたら戻るように伝えてほしいんだけど……」

 

「………はい」

 

キリコはため息をつき、ミュゼを探しに行った。

 

 

 

非常階段の場所で話し声が聞こえ、キリコは近づいた。

 

「それはそうと、あなたは気になる殿方はいないの?」

 

「ふふ、どうでしょう?それより姫様ですわ。お噂ではリィン教官だとお聞きしていますが♥️」

 

「そ、それはマスコミが言っているだけよ!」

 

「ああ、そうでしたね。リィン教官はエリゼ先輩でしたね♥️」

 

「なっ……!?」

 

ミュゼは蠱惑的な笑みを浮かべ、アルフィンとエリゼは狼狽えた。

 

「ミ、ミルディーヌ~……」

 

「ふふっ、ごめんあそばせ」

 

「本当にいないの?あなたにとって気になる方は」

 

「そうですね、それは───」

 

「おい」

 

「ひゃあ!?キ、キ、キリコさん!?」

 

ミュゼは心臓が飛び出たような錯覚を覚えた。

 

「あら?キリコさん」

 

「どうされたんですか?」

 

「トワ教官の集合がかかっている。そっちの二人も戻れだそうだ」

 

「あら、もうそんな時間ね」

 

「わざわざ探しに来てくれたんですか?」

 

「成り行きだ」

 

「あ、あの!キリコさん!」

 

「なんだ?」

 

「さ、先ほどの話は………」

 

「何の話だ?」

 

「い、いえその……あの………」

 

「? まあいい、とっとと行くぞ」

 

「は、はい~……」

 

ミュゼはキリコの後をついて行った。

 

「「……………」」

 

アルフィンとエリゼは呆然としたが、すぐに正気に戻った。

 

「………今の見た?」

 

「ええ……はっきりと」

 

「間違いないわね。あの子、キリコさんが気になるようね。いえ、恋しているわ」

 

「そこまではわかりませんが。でもあんなミルディーヌ、初めて見ました」

 

「とりあえず、続きは部屋でね」

 

「ええ、参りましょう」

 

二人はキリコたちの後を追った。

 

 

 

(ううう……まさかこんな不意討ちをされるなんて……)

 

(さっきの話、絶対聞かれましたよね?リィン教官辺りならともかく、よりによってキリコさんが来るなんて。どれだけ私を惑わせれば気が済むんですか……)

 

キリコにしてみれば見当違いも甚だしいのだが、今のミュゼにはそこまで考えが及ばなかった。

 

(きっと姫様やエリゼ先輩から言われるんでしょうね。どうやら色々と話されているみたいですし。でも……どうしてきっぱり否定する気になれないのでしょう?)

 

 

 

キリコたちはもといた場所に戻った。

 

「あれ?どっか行ってたの?」

 

「……風に当たりにな」

 

「そうか、あんまり無理はしないようにな。トワ先輩も顔色が悪そうだと言ってたからな」

 

「……………」

 

「まあ、仕方ないな。先月よりはるかにハードだったからな」

 

「このまま帰って寝たいです」

 

 

 

「フフ、それはまだ早いんじゃないかなぁ?」

 

 

 

『!?』

 

キリコたちは一斉に顔を上げる。

 

「この声!?」

 

「沼地の時の……!」

 

(あいつか………)

 

その直後、遠くからドゴォォンという音が響いた。

 

「これって……」

 

「爆発音!?」

 

(屋上か?)

 

キリコは音と振動から震源は屋上だと推測する。

 

「出ました!タワーの屋上の映像です!」

 

端末に映っていたのは沼地で見た少年とメッシュの入った男だった。

 

「No.1──《刧炎》」

 

「そ、それって……!」

 

「結社の執行者……!」

 

「お出ましというわけか」

 

「トワ先輩、ランディさん!生徒たちと視察団の安全確保を!ミハイル少佐は警備隊との連絡をお願いします!」

 

リィンは3人に指示を飛ばし、屋上に向かう。

 

すると追いかけるようにユウナ、クルト、アルティナが部屋を飛び出た。

 

「こら待て、お前ら!」

 

(あいつら、先月のことは懲りてないらしいな)

 

キリコも追いかけようとしたが──

 

「待てよ」

 

アッシュがキリコを引き留めた。

 

「なんだ」

 

「俺も行くぜ。あいつら連れ戻しに行くんだろ?」

 

「ああ」

 

「では、私も。すぐに戻って来ますから」

 

ミュゼも名乗り出る。

 

そして3人は頷き会い、部屋を出る。

 

 

 

追いかけた先にはユウナ、クルト、アルティナが人形兵器と対峙していた。

 

「キリコ君!それにアッシュにミュゼ!?」

 

「お前たちは無謀という言葉を知らないのか?」

 

「くっ、だが……」

 

「まあいい、まずは片付けてからだ」

 

キリコは得物を構える。

 

「毎度毎度、てめぇらだけにオイシイ思いをさせてたまるかよ!」

 

「ふふっ、今回もお手伝いさせて頂きます♥️」

 

アッシュはヴァリアブルアクス、ミュゼは魔導騎銃を構え、戦闘を開始した。

 

 

 

その頃、リィンはシャロンとともに屋上に到達した。

 

「ふああっ……遅かったじゃねぇか」

 

「うふふ、君たちが一緒に来るとはね」

 

「その声は……」

 

「……最悪の組み合わせ、ですわね」

 

「刧炎はともかくあちらの少年も?」

 

「ええ、刧炎については説明は不要でしょう。問題はあちらの方です」

 

「エマによると、執行者の中では有名だとか」

 

「悪い意味で、ですが」

 

「うふふ……灰のお兄さんははじめまして。執行者No.0《道化師》カンパネルラさ」

 

「この場所にも現れるとは……。視察団の方々を狙うつもりか?」

 

「フフ、実験のついでにちょっと挨拶に来ただけさ。お望みならこのタワーを灰に出来るけど?───彼がね」

 

「って人任せかよ」

 

刧炎──マクバーンはカンパネルラにつっこんだ。

 

「………………」

 

「フフ、クルーガー。怖い顔をしないでおくれよ。4年ぶりじゃないか。って、今はシャロンって呼ぶんだっけ」

 

「どちらでもお好きなように。4年前に、貴方からの要請でサラ様を足止めした時以来ですね」

 

「え……!?」

 

リィンは驚きを隠せなかった。

 

「そうそう、リベールでの《福音計画》!あれの一環でカシウス・ブライトを誘き寄せたんだけど、最年少のA級だった紫雷にはノーザンブリアで足止めを喰らってもらったんだよね」

 

「そんなことが……」

 

「ええ……所詮、私はその程度の存在。ラインフォルト家に害がなければ古巣の悪事を手伝うような外道です。しかし──」

 

シャロンは得物を構える。

 

「このタワーにはイリーナ会長や他の方々がいます。仇なすつもりならば死線として貴方がたの前に立ち塞がりましょう」

 

「シャロンさん……」

 

「フフ……。変わったねぇ、君も」

 

カンパネルラがオーラを纏う。

 

「クク……いいだろう……」

 

マクバーンが笑みを浮かべる。

 

 

 

一方、キリコたちは人形兵器との戦闘を終えていた。

 

「な、なかなかやるわね」

 

「……機甲兵戦でもいい動きをしていたが」

 

「ミュゼさんの魔導騎銃も予想以上でしたね」

 

「ふふっ、それほどでも♥️」

 

「とにかく、教官を追いかけましょう」

 

「待て」

 

キリコは血気に逸るユウナを引き留めた。

 

「な、何よ。キリコ君」

 

「本当に行くつもりか?」

 

「あったり前じゃない!」

 

「実力差をわかっていてもか?」

 

「それでも行かなきゃダメなのよ!これ以上クロスベルを好き勝手されてたまるものですか!」

 

「さっきも言ったが無謀だ。おそらく俺たち全員がかりで挑んでも勝率は絶望的だろう。それでも──」

 

「行くのよ!行かなきゃダメなのよ!」

 

ユウナは一人で先に行った。

 

「ユウナ!……くっ、とにかく追いかける。二人も来るなら気をつけてくれ!」

 

「先に行きます」

 

クルトとアルティナはユウナを追いかける。

 

「ったく、あのじゃじゃ馬、完全に血がのぼってやがる」

 

「大丈夫です。キリコさんの優しさはわかっていますから」

 

ミュゼはキリコにそっと声をかける。

 

「お前たちも行くんだな?」

 

「とりあえずあんなんじゃ勝てるモンも勝てねぇだろ」

 

「3人より6人の方が有利ですから」

 

「……わかった。急ぐぞ」

 

「了解です」

 

「そんじゃ行くとするか」

 

 

 

[ユウナ side]

 

キリコ君の言いたいことは痛いほどわかっている。

 

あんな言い方をしたのだってあたしを止めるためだって。

 

悔しいけどキリコ君は何もかもがあたしよりも上。勉強も戦いも覚悟も。

 

でもここはあたしたちの国だから。

 

クロスベル人であるあたしがやらなきゃダメなのよ。

 

それに、この騒ぎならあの人たちも気づいてくれる。

 

ロイド先輩にエリィさん。多分、ダドリーさんにノエルさん。

 

もしかしたらアリオスさんやリーシャさんも来てくれるかもしれない。

 

あの人たちさえいればこんな騒ぎなんて解決なんだから。

 

[ユウナ side out]

 

 

 

「いた……!」

 

「追いつけたか……!」

 

「来るな!正真正銘の化け物だぞ!」

 

リィンは振り返らずにユウナたちを留まらせる。

 

「3人だけ?後一人は?」

 

「いや、後3人だ」

 

キリコたちが追いついた。

 

「ハン……?」

 

「フフ、折角だからボクが相手をしてあげようかな?」

 

カンパネルラは指を鳴らし、キリコたちの前に現れた。

 

「なっ……!」

 

「幻影……!?」

 

「よろしくね、若きⅦ組。頼むからもってくれよ?」

 

「ナメんな!」

 

アッシュが吼える。

 

「Ⅶ組総員、2方向での戦闘を開始する!死力を尽くして生き延びろ!」

 

リィンの言葉にユウナたちは覚悟を決めた。

 

 

 

「ぶちのめすぞ、クレイジーハント!」

 

アッシュがブレイブオーダーを展開、猛攻体勢に入り確実に削っていく。

 

だがキリコは高揚感はなく、むしろ不安しかなかった。

 

(さっきからおかしい。こいつはほとんど力を見せていない。シャロンと同等ならばそれなりに実力はあるはず。それにこいつの動きはなんだ?まるで道化師………ッ!まさか──)

 

「まずい、散れ!」

 

「あん?」

 

「ハハハ、遅いよ」

 

カンパネルラは風の最上級アーツ、イクシオン・ボルトを放つ。

 

ユウナたちはまともにくらい、膝をつく。

 

「まんまとのせられたというわけか」

 

キリコはかろうじて立ち上がる。

 

「フフ、なかなかの洞察力だね。まあ、これがボクの本気だよ」

 

キリコはもう一度、イクシオン・ボルトを浴びた。

 

「がああああっ!」

 

「キリコさん!」

 

全身に痛みが走る。指先も麻痺をおこしていた。

 

「…………」

 

「へえ、まだ立ってられるんだ?なら──」

 

「や、止めて……」

 

「これ以上は……!」

 

「フフ……サヨナラ♪」

 

カンパネルラは三度目のイクシオン・ボルトを放つが、外れた。

 

「え……」

 

「外……れた……?」

 

「あれれ?おかしいな。っと、もう魔力切れか。運がいいね」

 

「…………………」

 

キリコはその場に倒れこんだ。

 

カンパネルラはオーラを収め、キリコの顔をまじまじと見た。

 

「やっぱりあの時の赤ん坊か。大きくなったねぇ♪」

 

(な……に………)

 

「君は知らないだろうけど、ボクは君に会ったことがあるんだよ。もっとも、遠くからだし、君の本当の両親は猟兵団に殺されてるんだけどね」

 

「え!?」

 

「もちろんそう命じたわけじゃない。正規軍の目をそらせるために軽く脅しをかけてもらおうと思っただけさ。欲に駆られて暴走してくれた結果、村ごと滅びたってわけさ。もちろんおしおきはしたけどね」

 

「キリコは昔、帝都の孤児院にいたそうだが……」

 

「チッ……!」

 

「外道……これ以上はありませんね」

 

ミュゼたちは怒りを露にする。

 

「それはそうと、あっちも終わったみたいだよ?」

 

指さす方を見ると、リィンとシャロンは膝をついていた。

 

特に焔を浴びたシャロンは息も絶え絶えだった。

 

「教官!シャロンさん!」

 

「あの二人でも勝てないのか……」

 

「フン、まあこんなモンか……」

 

マクバーンは不満そうに頭をかく。

 

「思わず本気を出しちまいそうになったが……お前が本気を出さねぇんならそれはそれで面白くねぇ話だ」

 

「狂っちまえよ!小僧。一緒に月に吼えるとしようぜ?」

 

(彼を本気にさせる訳にはいかない。だが、このままでは……)

 

 

 

「そうはさせないわ!」

 

 

 

リィンたちの隣に魔法陣が顕れ、アリサ、マキアス、エマがやって来た。

 

「はああっ……!」

 

マキアスがショットガンを浴びせ、アリサが矢をカンパネルラに撃ち込む。

 

「わわっ……?」

 

「チッ……」

 

執行者たちは一旦下がる。

 

「マキアス、アリサ……!」

 

「お、お嬢様……」

 

「エマ、お願い!」

 

「はい。Lux lunae sanctam(聖なる月の光よ)」

 

エマの魔法が揚陸挺の焔を消す。

 

「ほとんど燃えていない?」

 

「幻術の焔……そんな所でしょうか」

 

「へえ、鋭いじゃない」

 

「しゃ、喋りやがった……!?」

 

「それはいいから。それよりアンタ、よく死ななかったわね」

 

セリーヌが回復の魔法陣を展開する。

 

「リィン、新Ⅶ組も無事だったか!」

 

「マキアス……アリサにエマたちも助かった」

 

「これ以上するつもりなら私がお相手します。魔女クロチルダが妹弟子にして《緋のローゼリア》の養い子……」

 

 

 

「トールズ旧Ⅶ組出身、エマ・ミルスティンが……!」

 

 

 

エマは膨大な魔力の奔流を顕現させる。

 

「へえ、深淵に届くか……。帝国の魔女の卷属、大した一族みたいだね」

 

「面白ぇ、このまま第2ラウンドでも──」

 

「そこまでだ、結社の諸君!」

 

後ろからランディ、トワ、ミハイル、オリヴァルト皇子、ルーファス総督が駆けつけた。

 

「あ……」

 

「殿下!先輩たちも……」

 

「間に合ったか」

 

「大丈夫!?リィン君にみんなも!?」

 

「すまねぇ、人形どもを片付けてたら遅くなった」

 

「マキアス君、アリサ君、エマ君たちもお疲れだった。お馴染みの道化師君に……《火焔魔人》殿だったか」

 

「クク、そういうアンタは放蕩皇子だったな。皇族のクセに妙な魔力を感じるじゃねぇか?」

 

「フフ………古のアルノールの血かな?」

 

「そしてそちらが……噂の《翡翠の城将》(ルーク・オブ・ジェイド)殿か」

 

ルーファス総督が前に出る。

 

「そちらの呼び名で呼ばれるのは新鮮だが……このタワーは現在、私の管理下にある。招待状もなしにこの振る舞い。礼儀は弁えてもらおうか、身喰らう蛇の諸君?」

 

「フフ……。それは失礼。でも、そろそろ時間切れかな?」

 

カンパネルラとマクバーンはさらに下がる。

 

「待ちたまえ」

 

オリヴァルト皇子が引き留める。

 

「折角だ、手土産の一つくらい置いていってもらおうじゃないか。情報という名のね」

 

「何が知りたいんだい?」

 

「言うまでもない。どうしてこの地に来ている魔女どのがそこにいない?」

 

「た、たしかにクロチルダさんがいないようだが」

 

「姉さんの気配は確かにこの地に在ります。それなのにこの場所に姿を見せないということは……」

 

「もしかして結社と袂を分かったとか?」

 

「アハハ、大正解!」

 

カンパネルラは拍手した。

 

「いや~使徒の間で色々とこじれちゃってね~」

 

「その結果、深淵は出奔。一応捕捉を命じられたが、面倒くさいったらありゃしねぇ」

 

「……やっぱり…………」

 

「何やってんのよ、あの女は……」

 

「……………」

 

ミュゼは顔を伏せる。

 

 

 

「そしてこれは私が掴んだことなんだが、君たちと敵対している存在がいるそうじゃないか?」

 

「へえ……?」

 

「そしてこの地でいったい何の実験をしようと言うんだい?」

 

「フフ……」

 

カンパネルラが指を鳴らすと空中に影が現れる。

 

「まさか──アルティナ……!エマにセリーヌも!」

 

「了解しました」

 

「はいっ!」

 

「わかった!」

 

防御体勢が整った瞬間、影は突っ込んで来た。

 

「こ、これは……」

 

「《神機アイオーンtype-βⅡ》──かつて共和国軍を壊滅させた機体の後継機ってわけさ」

 

「ま、《至宝》の力がねぇから中途半端にしか動かせねぇけどな」

 

「それじゃあ、今夜はこれで──」

 

 

 

「──ふざけないでよ!」

 

 

 

ユウナの怒りの声に全員が振り向く。

 

「え……」

 

「ユウナさん……?」

 

(ここまでか……)

 

キリコはユウナの限界を悟る。

 

「黙って聞いていればペラペラと……。クロスベルで、あたしたちのクロスベルに来て勝手なことばかりして……!」

 

「結社だの、帝国人が寄ってたかって挙げ句にそんなデカブツまで持ち出して!」

 

「絶対に──絶対に許さないんだから!」

 

「ユウナ……」

 

「……ユウ坊」

 

「………………」

 

リィンたちは言葉を口にすることができなかった。

 

「クスクス……威勢のいいお嬢さんだなぁ。クロスベル出身みたいだけど、どう許さないっていうのさ?お仲間に頼らないで一人で立ち向かうつもりかい?」

 

「お望みなら一人でもやっててやるわよ!」

 

ユウナはガンブレイカーを構える。

 

「それに──クロスベル出身はあたしだけじゃない!特務支援課だっているんだから!」

 

「…………」

 

ランディは視線を逸らす。

 

「うふふ、特務支援課か。確かに手強い相手だけど……」

 

 

 

「そちらの総督閣下の指示で拘束されてなかったらの話かな?」

 

 

 

「え」

 

ユウナの両手がダラリと下がる。

 

「………フフ……………」

 

ルーファス総督は意味深に笑みを浮かべる。

 

「ま、まさか……ミシュラム方面の動きって……」

 

「……ミシュラムに入れないのではなく、ミシュラムから出さないための封鎖」

 

「……支援課の関係者全員をミシュラム方面に拘束したのか」

 

オリヴァルト皇子はルーファス総督に怒りの視線を浴びせたが、ルーファス総督は冷静に受け止めた。

 

「フフ……拘束している訳ではありませんが」

 

「ミシュラム一帯を鳥籠に見立ててバニングス手配犯と《零の御子》、《風の剣聖》や《銀》(イン)を閉じ込めた。ノエル少尉やセルゲイ課長など支援課に属していた軍警関係者にもミシュラムでの待機任務に付かせている。───そうだな、ミハイル少佐?」

 

「ええ……マクダエル議長やお孫さんも例外ではありません」

 

ミハイルは淡々と事実を口にした。

 

「……っ…………」

 

「なんてことを……」

 

「…………………………」

 

(どこまでも……合理的だな………)

 

回復を終えたキリコが立ち上がる。だが、それを気にする者はいなかった。

 

「ど、どうして………なんでそんな…………」

 

ユウナはなんとか言葉を絞り出す。

 

「アハハ、決まってるじゃない!」

 

カンパネルラが口をはさむ。

 

「彼らに勝手に動かれて事件を解決されないためだよ!」

 

「特務支援課なんていう過去の英雄、帝国の統治の邪魔でしかないからね!かといって下手な罪状で捕らえたら市民感情の悪化を招く!だから生かさず殺さず、徐々にフェードアウトしてもらおうと総督閣下は考えてらっしゃるのさ!」

 

「本当なら彼らごとき、"いつでも"始末できるのにね?」

 

残酷な真実を前にユウナに反論という考えは消し飛んだ。

 

ユウナは心が折れる音を聞き、へたりこむ。

 

 

 

「お兄様、皆さん……!」

 

「兄様、ご無事ですか……!?」

 

後ろからアルフィンとエリゼを先頭に分校生徒たちが駆けつけた。

 

「みんな……」

 

「……放たれた人形兵器も全て制圧できたか……」

 

「ふふっ、今度こそ幕引きかな?」

 

カンパネルラが指を鳴らし、神機とともに撤退した。

 

 

 

「さて、当面の脅威は去ったが……これは帝国の英雄に一働きしてもらう局面となったかな?」

 

「…………………」

 

「……くっ………」

 

リィンは拳を握りしめ、マキアスは歯を食いしばる。

 

「君は……」

 

「どうして……?」

 

ユウナはふらふらとリィンに近寄り、襟を掴む。

 

「ねぇ……どうしてあたしたちの誇りまで奪おうとするの……?」

 

「自治州を占領して、勝手に共和国と戦争して……」

 

「あんな列車砲まで持ち込んで……」

 

(あの目は……)

 

キリコは苦い過去を思い起こした。

 

「あたしたちの光を……たった一つの希望を……」

 

「返して……!」

 

ユウナは流れる涙とともにリィンに懇願する。

 

「あたしたちのクロスベルを!あの自由で、誰もが夢を持てた街を!」

 

 

 

「返してよおおおおッ──!!」

 

 

 

そこにいた全員が何も言えなくなった。なぜなら皆、帝国人なのだから。

 

(ゾフィー・ファダス……あんたも今のユウナと同じ目をしていたな……)

 

キリコはかつての過ちを思い浮かべた。

 

最強の名を欲しいままにし、惑星サンサを理不尽に奪い、破壊しつくした、吸血部隊。

 

第24メルキア方面軍戦略機甲歩兵団特殊任務班X━1レッドショルダー。

 

(レッドショルダーと帝国……何が違う……!)

 

キリコは涙に暮れるユウナを見続けるしかできなかった。




次回、旧Ⅶ組メインになります。
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