英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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急遽、タイトルを修正します。


けじめ①

5月 21日 午前 7:30

 

演習地は暗く沈んでいた。

 

分校生徒の誰もがユウナの悲痛の叫びを聞き、気持ちの整理がつかなかった。

 

あの後、ユウナはランディに連れられ演習地に帰還。部屋に閉じこもった。同室の者たちは誰かに言われるでもなく、食堂車で一夜を過ごした。

 

朝食の際も、皆ぼそぼそと食べていた。中には全く手をつけない者もいたが、さすがにトワから雷が落ちた。

 

 

 

「ユウナ……」

 

ユウナの部屋の前にはクルト、アルティナのⅦ組とアッシュとミュゼがいた。

 

「ユウナさん。何か召し上がってください。せめてお水だけでも……」

 

「………………………」

 

「ったく、あのじゃじゃ馬が」

 

「相当のショックだったのでしょう。でもこのままでは……」

 

「ああ。いずれ参ってしまうだろう」

 

「ところで、キリコさんは?」

 

「格納庫にいましたが」

 

「ケッ、あのスカシ野郎が」

 

(キリコさん……)

 

「ここにいたか……」

 

列車に何人か入って来た。

 

「みなさん……」

 

「旧Ⅶ組の………」

 

朝にもかかわらず、アリサ、マキアス、エマが駆けつけた。

 

「その……ユウナさんは……」

 

「……………」

 

クルトは目を伏せる。

 

「そうか……」

 

「トワ教官が言うには、やはりショックが強すぎたとか」

 

「無理もないですね……」

 

「そういえば、リィンは?」

 

マキアスは思い出したようにクルトに聞く。

 

「ブリーフィングルームに。情報局少佐もいらっしゃいます」

 

「わかったわ」

 

「その……みなさん……」

 

「なんでしょう?」

 

「教官をよろしくお願いします」

 

「私たちはここにいるので」

 

「がり勉パイセン、頼むぜ?」

 

「きちんと名前をいいたまえ……!」

 

マキアスは憮然としながらブリーフィングルームへ向かい、アリサとエマもそれに続いた。

 

 

 

「よお、なかなかスリリングな展開になってきたじゃねぇの」

 

「無駄話は不要です。さっさと済ませてください」

 

リィンは苛立ちを隠さずに促す。

 

「リィン君……」

 

「……チッ…………」

 

「………………」

 

だがそれを咎める者はいなかった。

 

「わーったよ、そんじゃ──」

 

レクター少佐は肩を竦めながら、封筒から書類を取り出す。

 

『灰色の騎士、リィン・シュバルツァー殿。──帝国政府の要請を伝える。結社の狙いを見極め、クロスベルの混乱を回復せよ』

 

「その要請、しかと承りました」

 

「リィン君……」

 

「クソッ……!」

 

ランディは拳を握りしめる。

 

「ならば、僕たちの出番ですね」

 

ブリーフィングルームにマキアスたちが入ってくる。

 

「マキアス君、アリサちゃんにエマちゃん」

 

「みんな……」

 

「何も仰らないでください」

 

「貴方がどれだけ悔しい思いをしてるか、わかってるから」

 

「さっき彼らから君のことを頼まれたんだ。僕たちも力になるぞ」

 

「あ……」

 

「ちょい待ち。お前さん、司法監察官だろ?職務を逸脱してねぇか?」

 

レクター少佐がニヤニヤしながらマキアスに問う。

 

「フフ、サービス残業ですよ。仕事は最後までこなすのが社会人として当たり前じゃないですか?レクター・アランドール少佐?」

 

マキアスは眼鏡のブリッジを上げる。

 

「ハハハ、耳が痛いな。わかったよ、俺は何も見てねぇ。ご苦労さん、マキアス・レーグニッツ監察官殿」

 

「少佐……!」

 

ミハイルはレクター少佐を睨む。

 

「すまない、みんな……」

 

「だから何も言わないで。私たちは貴方に感謝してるんだから」

 

「え?」

 

「旧Ⅶ組の重心たる君はいつだって僕たちを引っ張って行ってくれたんだ」

 

「今度は私たちの番です」

 

「……ぁ………」

 

リィンに熱いものが溢れる。

 

「……グスッ…………」

 

「ったく、ジンときちまったじゃねぇか。リィン、それに旧Ⅶ組。俺たちの代わりにクロスベルのことは頼んだぜ!」

 

『はいっ!』

 

「全く、どいつもこいつも……」

 

ミハイルはぶつぶつ呟いていた。

 

 

 

リィンたちは格納庫にやって来た。

 

「リィンの仲間たちか……」

 

「久しぶりね、ヴァリマール」

 

「うむ、リィンとコックピットに入った娘か……」

 

「ええっ!?」

 

「君たちは………」

 

エマは驚き、マキアスは呆れ果てた。

 

「よ、余計な事言わないでちょうだい!ああもう、リィン!貴方のせいだからね!」

 

「お、俺のせいか!?」

 

アリサは真っ赤になり、半ば八つ当たりのようにリィンを責める。

 

「それにしても、喋りに淀みがないわね」

 

セリーヌがヴァリマールの肩に乗る。

 

「ああ、違和感が全然無いな」

 

「普通の人間と遜色ないですね」

 

「言語機能が完全に修復されたらしいんだ」

 

「へえ、なかなか武人肌というか……」

 

「それよりリィンよ、何やら不可思議な流れを感じるな」

 

「ああ、幻獣や先月の神機がこの地に顕れたんだ。多分そのせいだと思う」

 

「どうりで霊脈の流れが荒い。私を呼ぶ時はいつでも呼ぶがいい」

 

「ああ、もちろんだ」

 

リィンたちはヴァリマールと別れた。

 

 

 

「あ、アリサさん……」

 

「ティータさん。おはよう……」

 

「キリコもここにいたのか……」

 

「…………」

 

ティータは何かの装置を、キリコはフルメタルドッグの調整を行っていた。

 

「キリコ、ユウナが心配じゃないのか?」

 

「今のユウナには何を言っても動かない。帝国人である俺たちの言葉なら尚更でしょう」

 

「………………」

 

「無理をすれば今度こそ壊れる。最悪、帝国への復讐にのりだすと考えるべきかと」

 

「……ッ!」

 

「ユウナさん……」

 

キリコの推測にリィンたちは口をつぐむ。

 

「俺にできる事は備えることだけだ。先月同様、連中はろくでもない何かを計画しているようだからな」

 

「あ、あの!キリコさんは……」

 

「わかってる。キリコだって本当は気にしてるんだろう?」

 

「…………」

 

キリコは作業に集中する。

 

「全く、素直じゃないわね」

 

「セリーヌが言わないの」

 

「それにしても、これがリィンの言ってた実験用機甲兵か……」

 

「……………」

 

マキアスが目を丸くする横でアリサはムスッとしていた。

 

「あんたが最低と言う気持ちもわからなくはない」

 

「えっ………」

 

「俺自身、博士の研究に手を貸しているのに過ぎないからな」

 

キリコはアリサの目を見て続ける。

 

「俺は途中で投げ出すつもりはない」

 

「キリコ……」

 

「……ごめんなさい。あなたにはあなたの事情があるものね」

 

「気にしていない」

 

「なかなか見上げたものだな」

 

「ふふっ、キリコさんはこういう人ですから」

 

「そういえばティータ。それはなんだ?」

 

「機甲兵のユニットです。どんなものか楽しみにしててください」

 

「わかった。それとキリコ」

 

「はい」

 

「勝手に動くなよ」

 

「………はい」

 

(多分、動くんだろうな……)

 

リィンは一種の諦観を覚えた。

 

 

 

その後、主計科の元で補給を済ませ、リィンたちは導力バイクの前でこれからのことを話し合う。

 

「さて、これからクロスベル市に行くわけだが……」

 

「どこかで情報を集めないとね」

 

「でも……そんな都合の良い場所があるんでしょうか?」

 

「………………」

 

マキアスは何やら考えこんでいた。

 

「マキアス?」

 

「どうかなさったんですか?」

 

「ああ……一つだけ心当たりがあってね。クロスベル市中央広場に行ってみようと思うんだ」

 

「中央広場ですか?」

 

(もしかして……)

 

「リィン?どうかしたの?」

 

「いや、なんでもない。それより行くなら行こう。こうしてる間にも、結社の計画は進んでいるだろうからな」

 

「そうだな」

 

「急ぎましょう」

 

リィンたちの乗せた導力バイクは走り出した。

 

 

 

「行ったみてぇだな」

 

「ええ」

 

ランディとトワは計画表を見ながらリィンたちの出発を見届けた。

 

「ランディさん、Ⅶ組特務科は……」

 

「しゃあねぇな。まあ、他の連中も納得してるし、あいつらもついてた方が安心だしな」

 

「全く、本来なら認められんというのに……」

 

「まあまあ、中途半端よか良いんじゃねぇの?」

 

ぼやくミハイルをレクター少佐が諫める。

 

「……で?あんたはいつまでここにいるんだよ」

 

「ああ、そろそろ行くぜ。そんじゃ、演習の成功を祈ってるぜ」

 

レクター少佐は手を振りながら演習地を出た。

 

ランディはシッシッと振り払うような仕草をしてミハイルとトワに咎められた。

 

「ったく、相変わらず人を食った野郎だな」

 

「それについては反論はせん。それより本当に特務科は放っておくのか?」

 

「そうするしかねぇでしょう」

 

「無理をすれば本当に立ち直れなくなる恐れがあります」

 

「チッ、仕方ない。ではⅧ組戦術科とⅨ組主計科は予定通りに。後、キュービィーに備えておけと………」

 

「できています」

 

「ぬおっ!?いつの間に……!」

 

「で、できているって……」

 

「それならばいい」

 

キリコの言葉を聞き、ミハイルはブリーフィングルームに戻った。

 

「ねぇ、キリコ君。ユウナちゃんのことが心配じゃないの?」

 

「帝国人の俺が何か言ってもユウナの心は動かないでしょう」

 

「それは………」

 

「そうだけどよ……」

 

「今の俺にできる事は備える事だけです。連中が何か仕掛けてくるなら、全力で立ち向かう。それだけだ」

 

「…………」

 

「それに、落ち着いたようなので後はユウナ次第でしょう」

 

「まあ、な……」

 

「失礼します」

 

キリコは二人と別れ、格納庫に戻って行った。

 

「キリコ君……」

 

「大丈夫だろ。結構怒ってるぜ、あの無表情の下は……」

 

ランディはキリコの静かな怒りを見抜いた。

 

 

 

(昨夜のユウナとサンサのゾフィー。彼女たちの思いにどれ程の違いがある。ユウナの叫びが俺の怒りを呼び覚ました。理不尽に奪われる痛みは十分に知っていたはずだ。にもかかわらず、見ているしかできなかった自分が腹立たしい)

 

(道化師に刧炎。おそらく連中は俺が戦ってきた中でも最強だろう。だが……)

 

キリコの目に昏いものが宿る。

 

 

 

一方、リィンたちは近くにバイクを停め、目的地にやって来た。

 

「ここですか?」

 

「ああ。間違いない」

 

「…………………」

 

「リィン?」

 

「ああ、なんでもない。それじゃ……?気配がするな」

 

「何?」

 

「確かにいるわね。っと、出てきたわよ」

 

「皆さん、お待ちしてました」

 

寂れたビルからティオ主任が出てきた。

 

「ティオ主任!?」

 

「どうしてここに……。というか、鍵は?」

 

「ここはかつての職場だったので、合鍵を持ってるんです。さあ、どうぞ」

 

ティオ主任に勧められるまま、リィンたちは特務支援課ビルに入っていった。

 

 

 

カタカタ……カタカタ……

 

ティオ主任は導力ネットの端末を操作し、情報を精査していく。

 

「これを見る限り、鳥籠は大分前から計画されていたようですね」

 

「そんなことまで分かるんですね」

 

「大したものよね」

 

「……………」

 

エマとセリーヌが感心する横で、リィンは暗い顔をしていた。

 

「リィン、本当に貴方変よ。どうしたの?」

 

「リィン、もしかして……」

 

「……………」

 

ティオ主任は端末の操作を中断する。

 

「……リィンさんがロイドさんと戦ったことは知ってます。同時にリィンさんが無茶な要請で活動してた事も」

 

「え?」

 

「特務支援課リーダーのロイド・バニングス捜査官か」

 

「リィンさん、それで……」

 

「……………」

 

「リィンさんが気になさることはありません。それにロイドさんなら「互いに事情があるんだ」って言うに決まってますから」

 

ティオ主任は椅子から立ち上がる。

 

「ランディさんから聞きました。列車砲の起動を食い止めたそうですね」

 

「ガレリア要塞の時か……」

 

「あの時は無我夢中でした……」

 

「皆さんがいなかったらクロスベルも悲惨なことになっていたでしょう。私たちもここにはいなかったかもしれません。遅くなりましたが、お礼を言わせてください」

 

ティオ主任は頭を下げる。

 

「………ぁ……………」

 

「ティオ主任……」

 

「僕たちのしてきた事は間違っていなかったんだな……」

 

「はいっ!」

 

 

 

「そういえば、通商会議でノルド高原で騒動があったものの、若き獅子たちが解決に尽力したとオリヴァルト皇子が仰っていたんですが、それはリィンさんたちのことですか?」

 

「俺とアリサとエマがノルド高原に実習に行ってた時ですね」

 

「そこで帝国解放戦線の幹部と初めて戦ったのよね」

 

「……その間、僕はあの二人の仲裁か……」

 

「まあまあ……」

 

肩を落とすマキアスをエマが慰める。

 

「皆さんは色々な場所に行ってたんですね」

 

「その度に騒動に出くわしているわね……」

 

「ケルデイックで強盗騒ぎ、バリアハートでマキアスが政争に巻き込まれて拘束、ノルド高原で監視所が襲撃されて共和国と開戦寸前、帝都ではアルフィン殿下とエリゼが人質にされて、レグラムでの魔物騒動の翌日にガレリア要塞襲撃、ルーレでザクセン鉄鉱山がテロリストに占拠、ユミルに小旅行に行って怪盗Bの実験を食い止めて、学院祭の前日に旧校舎の異変が起きてヴァリマールを発見、後は……」

 

「も、もういいです……」

 

ティオ主任はお腹いっぱいになった。

 

「改めて聞くと、すさまじいわね……」

 

「これに内戦での出来事も加えると、もう言葉もないな」

 

「あはは、よく乗り越えられましたね……」

 

アリサたちも自分たちの戦歴に思わずげんなりした。

 

「でも、リィンさんは一人で乗り越えたわけではありませんよね?」

 

「ええ。みんながいたからこそ、乗り越えられました」

 

「なら、問題はありません。リィンさんたちに改めて依頼します。どうかクロスベルをお願いします」

 

「はい、わかりました!」

 

 

 

「そろそろ行こうか」

 

「そうね。ティオ主任、ありがとうございます」

 

「いえいえ。後、こちらなんですけど……」

 

ティオ主任は端末の情報をリィンたちに見せる。

 

そこには、ジオフロントの地図が載っていた。

 

「これは?」

 

「ジオフロントB区域の地図です。昨日、リィンたちⅦ組にF区域の調査をしてもらいましたが、どうやらB区域にも同じようなことになっているようなんです」

 

「まさか、魔煌兵が!?」

 

「おそらく」

 

「リィン」

 

「ああ、これは見過ごせないな」

 

「すみません。リィンさんたちに押し付けてしまって。私も監視つきなので自由に動けなくて……」

 

「やはりそうなんですね……」

 

「そういえば皆さんは導力ネットの端末を探していたようですが……」

 

「ええ。少々よろしいですか?」

 

マキアスは端末を操作し、ある情報を出した。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

東クロスベル街道の手配魔獣 [任意]

 

ジオフロントF区域の手配魔獣 [任意]

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「マキアス、これは?」

 

「監査の過程でね。これについて相談しようと思ったんだが、その必要はなさそうだな?」

 

「リィンなら全部やろうって言うでしょうからね」

 

「ふふっ、リィンさんですから」

 

「フフ、大した信頼ね?」

 

「素直に喜べないんだが……」

 

リィンは微妙な顔をした。

 

「なるほど。こうなってくると。私もどうこう言ってられませんね」

 

「大丈夫なんですか?」

 

「何かしらペナルティーが課せられるでしょうが、もう四の五の言ってられ──」

 

 

 

「~~♪♪♪」

 

「フフ。では、ここは僕が引き受けようじゃないか」

 

 

 

「これは、楽器でしょうか?」

 

「リュート、か?」

 

「ま、まさか……」

 

「もしかして……」

 

「いえ、もしかしなくても………」

 

「嘘でしょ……」

 

リィンたちはゆっくりと振り向く。そこには金髪の遊び人風の男がいた。

 

「やあ、はじめまして。僕はオリ──」

 

『殿下!?』

 

「グスッ……名乗らせてももらえないなんて……」

 

「す、すみません……じゃなくて!いったい何をしてるんですか!?」

 

「視察団の公務はどうしたんですか!?」

 

「リィン君にも言った通り、僕はお飾りだからね。公務の大半はアルフィンが行うことになっているんだ」

 

「ア、アルフィン殿下が……」

 

「とは言え、お飾りだと言っても僕も一応皇族だからね。帝国人の代表などとおこがましいことは言わないが、それでも何かしらのけじめをつけなきゃね」

 

「殿下……」

 

「戦闘ならば問題はないよ。銃もあるし、トヴァル君に調整してもらったコレもあるしね」

 

オリヴァルトは自前のARCUSⅡを見せる。

 

「トヴァルさんにですか?」

 

「うん。あ、後リィン君。ここにいるのはオリヴァルト・ライゼ・アルノールではないよ。漂泊の詩人、オリビエ・レンハイムだからね。呼び捨てでかまわないよ」

 

「いや!それはさすがに畏れ多いというか……」

 

「ここはオリビエさんと呼びますから……」

 

「では決まりだね。それとティオ君、久しぶりだね」

 

「お久しぶりです。以前は散々振り回してくれましたね」

 

「いやぁ、あの時は楽しかったねぇ。カジノで当てたり、飛び入りでみっしぃとダンスしたり……」

 

「最後はミュラーさんに引きずられて行きましたけど」

 

「あの後、正座で説教されたよ。ハッハッハ」

 

「笑い事じゃないでしょ……」

 

(何してるんだ、この人は……)

 

(さすが放蕩皇子……)

 

 

 

「さて、そろそろ行くとしようか」

 

「そうですね」

 

「ただ、その前に一つだけ行ってほしい所があるんだが、いいかな?」

 

「それは構いませんが……」

 

「どちらへですか?」

 

「ああ、それは───」

 

 

 

ティオ主任と別れた一行はオルキスタワーにやって来た。

 

「よろしかったんですか?わざわざ戻って来て」

 

「なんだか胸騒ぎがしてね。いや、はっきり言ってしまえばアルフィンの事なんだが……」

 

「やはりアルフィン殿下も………」

 

「ああ、相当気にしててね」

 

一行がオルキスタワーに入ると、オリビエはため息をついた。

 

「殿……オリビエさん。どうしましたか?」

 

「僕の予想通りだったようだ」

 

「あれは……」

 

エレベーターの前には聖アストライア女学院の制服を着たアルフィンとエリゼがいた。

 

「アルフィン……それにエリゼ君」

 

「ッ!?お兄様……」

 

「兄様に皆さんも………」

 

「アルフィン。そんなものを着てどこに行くつもりなんだい?」

 

「…………」

 

「殿下……」

 

「もしかして、ユウナさんのことが……?」

 

「私……何も知らなかったんです。クロスベルの人たちからどう思われているのか。それに、あんなひどい事をしていたことも……」

 

「姫様……」

 

「…………アルフィン」

 

オリビエはアルフィン皇女に語りかける。

 

「君の気持ちはよくわかった。皇族として責任を果たそうという志は立派だ。だからこそ、私に任せてほしい」

 

「お兄様……?」

 

「皇族としての責任というならば、君は視察団としての公務を全うするのが優先ではないかな。もし君に何かあれば、帝国の名に傷がつく。エリゼ君やリィン君たちにも迷惑がかかってしまう。それがわからないアルフィンじゃないだろう?」

 

「それは………」

 

「いや、偉そうな事を言ってしまった。すまない、アルフィンやセドリックに押しつけてしまって。もしかしたら、セドリックを変えてしまったのは宰相ではなく、私かもしれないな」

 

「それは違います!お兄様から押しつけられたなんて思った事はありません!」

 

「アルフィン……」

 

「それにセドリックだってそうです!昔から宰相の力強さに憧れていた節はありましたが、少しずつ前のセドリックに戻りつつあります。だからお兄様が責任を感じることなんてありません」

 

「殿下……」

 

「私こそごめんなさい。わがままを言ってしまって。リィンさんも、エリゼを巻き込んでしまって申し訳ありません」

 

「いえ、殿下のお気持ちはわかりました。エリゼもきっと同じでしょう」

 

「はい」

 

リィンの言葉にエリゼも同意する。

 

「もう、大丈夫だね?」

 

「はい!皆さん、本当にすみませんでした」

 

「どうやら、お揃いのようですな」

 

振り返ると、レーグニッツ知事が立っていた。

 

「レーグニッツ閣下……!」

 

「父さん!」

 

「アルフィン殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう。リィン君にアリサさんにエマさんもわざわざすまない。それにマキアスも一緒とはな」

 

「そして──」

 

レーグニッツ知事はオリビエを見る。

 

「お初にお目にかかります、レーグニッツ帝都知事。オリビエ・レンハイムでございます」

 

「これはこれはご丁寧に。帝都知事のカール・レーグニッツです。察するにリィン君たちの協力者といった所でしょうか」

 

(父さん……)

 

(……これは……わかりきった上でやっているんだよな……)

 

(……これも政治なんでしょうね……)

 

(ホント、めんどくさいわね……)

 

(セリーヌ、シッ!)

 

リィンたちはレーグニッツ知事とオリビエのやり取りに呆れるしかなかった。

 

「ふう、本来ならば貴方に動かれることはご遠慮願いたいのですが」

 

「一帝国人としてのけじめですよ」

 

「はぁ、仕方ありませんね。リィン君たち、よろしく頼んだよ」

 

「はい、もちろんです」

 

「ただ、マキアスは良いんだな?これは監察官の領分を越えてやしないか?」

 

「確かに逸脱しているかもしれない。だが、クロスベルに危機が迫っているのに見過ごす事はできない。それが僕の選んだ道だ。監察官としても、Ⅶ組としてもね」

 

「そうか。なら、納得するまでやりなさい。途中で投げ出すことは許さんぞ」

 

「はいっ!」

 

「リィン君たちも、愚息をよろしく頼む」

 

「わかりました」

 

「お任せください」

 

「き、君たち……」

 

マキアスは肩を竦める。

 

「アルフィン殿下もよろしいですな?」

 

「はい、ご迷惑をおかけしました」

 

「いえ、殿下の心中お察し申し上げます。私もあの作戦の全容は知らされておりませんでした」

 

「そうなのかい?」

 

「ええ、ミシュラムの封鎖までは。それ以上は……いや、これ以上は言い訳になってしまいますね……」

 

「知事閣下……」

 

「さて、そろそろ参りましょう」

 

「時間ですね」

 

「エリゼもしっかりな」

 

「はい、兄様もお気をつけて」

 

リィンたちはアルフィン皇女たちと別れた。

 

 

 

「フーーーッ」

 

「お疲れ様」

 

「すまなかったね。付き合ってもらって」

 

「お気になさらず。それよりどうしましょうか?」

 

「ああ、僕はリィン君の指示に従うよ。ただ、ティオ君の依頼と手配魔獣をこなしつつ、情報収集することは念頭におくべきかな?」

 

「そうですね。先に手配魔獣、ティオ主任の依頼はその後に行います。みんなもそれでいいか?」

 

「ああ!」

 

「異存はないわ」

 

「でしたら……リィンさん、お願いします」

 

「あんたのアレがないと始まらないでしょ」

 

「ああ、わかった」

 

リィンはアリサたちの前に出る。

 

 

 

「トールズ旧Ⅶ組!これより、クロスベルにて進行する結社の計画を阻止する!敵は結社最強の執行者。全力で立ち向かうぞ!」

 

 

 

『おおっ!』

 

「そして、オリビエさん。どうかよろしくお願いします!」

 

「任せたまえ!」

 

有角の若き獅子とその産みの親の決意がクロスベルの地に木霊する。

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