英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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再起

演習地に戻ったリィンたちはさっそくミハイルたちに報告した。

 

「………………」

 

「え、えっと………」

 

「お気持ちはわかりますが……」

 

予想だにしなかった人物の登場にミハイルは気を失いかけるが何とか持ち直した。

 

「殿下……どうか考え直してはいただけませんか?」

 

「レクター君にも言ったが、けじめをつけるには身軽な方が何かと都合がいいんだ。それにあの道化師君には因縁があるしね」

 

「だからこそ、我々第Ⅱがいるのです」

 

「勘違いしないでほしいんだが、僕は君たちを信頼していないわけではないよ。信頼しているからこそ僕が動くのさ。第Ⅱの諸君がいるからこそ、背中を任せられるんだ」

 

「殿下……!」

 

「ハハ、すいませんね」

 

「そう言われたら引き下がるのが賢明じゃない?」

 

「………………」

 

「まあまあ」

 

肩を落とすミハイルをトワがとりなしていた。

 

 

 

「それで───」

 

ミハイルは毅然とした態度でリィンたちに告げる。

 

「シュバルツァーたちは星見の塔を目指すのだな?」

 

「ええ。ティオ主任からの情報だと、ここが有力だそうです」

 

「同感だな。月の僧院も太陽の砦も規模はデカいが、あの神機を置いとくなら塔が一番だ」

 

「なるほど……」

 

「そうか。シュバルツァーたちは殿下とともに星見の塔を調査。戦術科は連絡がくるまで待機。主計科は機甲兵の整備を急がせろ。以上だ」

 

「殿下も、御身のこともお考えください」

 

「ああ。肝に銘じておくよ」

 

ミハイルは一礼して、ブリーフィングルームを出て行った。

 

「気をつけろよ。あの鳥みてぇな神機は翼から追尾レーザーを撃って来るからな。灰の騎神だけじゃキツいだろうが、何とか踏ん張ってくれ」

 

「わかりました」

 

「リィン君にみんなも気をつけてね。殿下も御武運をお祈りします」

 

「ありがとう、トワ君」

 

「行って参ります、トワ会長」

 

 

 

「オリヴァルト殿下……!」

 

クルトとアルティナはオリビエの姿を見て駆けつけて来た。

 

「やあ、クルト。アルティナ君も昨日ぶりだね」

 

「なぜこちらに?」

 

「クロスベルを愛する人々の想いに正面から向き合うためにね」

 

「正面から?」

 

「クロスベルのこの状況の是非を述べられる立場に僕はない。だからこそ今回だけは自分の身体を張る必要があるんだ」

 

「でもよく出てこられましたね」

 

「情報局には(一応)筋は通したからね。それに今回はクルトの兄上もいないし」

 

「はは……」

 

クルトは苦笑いを浮かべた。

 

「そこまで言われれば納得せざるを得ませんね」

 

「ところで、ユウナ君はどうしてる?」

 

「………」

 

クルトとアルティナは表情を暗くする。

 

「ユウナさん……」

 

「完全に心が折れてるってわけね」

 

「セリーヌ!」

 

エマがセリーヌを一喝した。

 

「今朝も閉じこもったままです」

 

「このままではユウナが参ってしまうかもしれません」

 

「……正直、一時帰宅させるつもりだった」

 

リィンが口を開く。

 

「リィン……」

 

「だが、こんな時だからこそ彼女自身に気づいてほしかった。第Ⅱ分校生として、クロスベルを愛する者として今、何をすべきなのかを」

 

「教官……」

 

「俺たちはこれから結社のアジトへ向かう。ユウナが立ち直ったら……どうか4人揃って追いかけて来てほしい」

 

「「!」」

 

クルトとアルティナが顔を上げた。

 

「ですが、結社のアジトというのがどこなのかは分かりかねます」

 

「それは───」

 

「星見の塔とやらだろう」

 

全員が振り向くとキリコが立っていた。

 

「……………」

 

キリコはオリビエを見た。

 

「なぜ皇族がここに?」

 

「フフ……僕は漂泊の詩人、オリビエ・レンハイムさ。よろしく、キリコ・キュービィー君」

 

「……………ふざけているわけではなさそうですね」

 

「キ、キリコ……!」

 

「キリコさん……」

 

キリコの発言にクルトは狼狽え、アルティナは呆れた。

 

「ハッハッハ、なかなか率直だねぇ。ふざけてるもなにもこれが素の僕さ。言ってみれば昨日のはビジネス用と言った所かな?」

 

オリビエは意にも介さず笑っていた。

 

「ゴホン。キリコ、どうして星見の塔だと思ったんだ?」

 

リィンは咳払いをして促す。

 

「昨夜、神機は南西に飛びさって行ったので。オルキスタワーを中心に考えれば、ここが有力なのは明白かと」

 

地図を出し、淡々と説明をするキリコにリィンたちは感心した。

 

「驚きました……!」

 

「大した洞察力だな……」

 

「ええ。ラウラたちから聞いていた以上ね……」

 

「なるほど。それでキリコ君はどうするんだい?」

 

「一応、演習と実験用機甲兵のテストは別系統なので向かうつもりでしたが………」

 

「キリコ?」

 

「どうかしましたか?」

 

「駆動系に不具合が確認されたのでもう一度メンテを行っています」

 

「不具合?珍しいな」

 

「おそらく外部からによるものかと」

 

「何!?」

 

「その報告に行くつもりでしたが……」

 

「僕たちと鉢合わせたというわけか」

 

「ああ」

 

「キリコ、メンテが終わるのにどれくらいかかる?」

 

「アップデートだけなので遅くとも40分ほどでしょう」

 

「わかった。ただ、今はユウナについていてやってくれないか?」

 

「わかりました」

 

「え?」

 

キリコがすんなり了承したことにマキアスは驚いた。

 

「マキアスさん、キリコはこういう人間ですから」

 

「人付き合いを否定しているわけではないようです」

 

「なるほど……」

 

クルトとアルティナの言葉にマキアスは納得した。

 

「やはり面白い子たちだね」

 

「ええ」

 

 

 

「クルト、アルティナ、キリコ」

 

リィンはクルトたちを改めて呼び止めた。

 

「何でしょう?」

 

「すまないが、伝言を頼まれてくれないか?」

 

「もちろんです」

 

「了解」

 

「それでなんだか……」

 

リィンはARCUSⅡを取り出した。

 

 

 

「少々強引過ぎませんか?」

 

ミュゼは列車の陰で蒼いドレスの女性と会話していた。だが、その様子に気づく者はいなかった。

 

「バレる心配はなさそうだけど?」

 

「あの人の勘の良さは貴女の想像以上です。秘術で書き換えて、しかも術式の刻印まで付けるなんて……」

 

「なかなか面白そうだからちょっとしたサービスよ」

 

「はぁ……怒られるのは私なんですよ」

 

「あら?貴女、彼のことは見えないんじゃなかったの?」

 

「あの人――キリコさんは私と貴女との繋がりに気づいているフシがあります」

 

「なるほど、手強いわね……」

 

蒼いドレスの女性は頷いた。

 

「それにしても彼、なかなか美男子ね?貴女が気になるのも分かるわ」

 

「…………何を仰っているのか分かりませんが」

 

「今の間は何かしら?」

 

「とにかく」

 

ミュゼは強引に話を進める。

 

「彼らが動き出すのは2ヶ月後です。それまで気取られないよう注意してください」

 

「ええ、わかったわ。そちらの羅刹殿にもよろしく伝えてね」

 

「わかりました」

 

「そろそろ行くわね。不可視の術も解けそうだし」

 

「そうですか。ではまた」

 

「あっ、後一つだけ」

 

「何でしょう?」

 

「彼、なかなかの牙城よ?貴女に攻略できるのかしら?」

 

「い・い・か・げ・ん・にしてください?」

 

ミュゼは微笑むが、目は笑っていなかった。

 

「フフフ、ごきげんよう」

 

蒼いドレスの女性はコロコロ笑いながら去って行った。

 

「………………」

 

残されたミュゼはおもいつめた顔をしていた。

 

(何なんですかいったい。私は……キリコさんのことなんて……)

 

ミュゼは痛む胸を押さえた。

 

 

 

「いや、これは旨い」

 

リィンたちは食堂車で小休止を取っていた。

 

その際、マキアスはキリコの淹れたコーヒーに舌鼓を打っていた。

 

「良い豆だな。産地はリベール辺りか?」

 

「ああ」

 

「焙煎度はおそらく中煎り。苦味とコクの中に酸味もわずかに残っているから、フルシティローストかな?淹れる寸前に挽いているから香りも良い」

 

「まさかこの二人の気が合うなんてな」

 

「コーヒーは苦手なのでよく分かりませんが………」

 

「コーヒーに拘る人って意外と多いのよね」

 

リィンとエマとアリサはサンディの淹れた紅茶を飲みながらキリコのコーヒーを絶賛するマキアスを眺めていた。

 

「マキアスさんもコーヒー党みたいだな」

 

「盛り上がってますね。9:1でマキアスさんが」

 

アルティナはマキアスの様子を分析していた。

 

(久しぶりだね、サンディ君)

 

(お、お久しぶりです。オリヴァルト殿下)

 

(ご両親はご健在なのかな?)

 

(はい。父も母も元気です)

 

(それは良かった)

 

オリビエとサンディが何か話している横で、キリコはカウンターを出た。

 

「ユウナの所へか?」

 

「はい」

 

「クルトもアルティナ君もわざわざ済まなかったね」

 

「いえ、殿下もお気をつけください」

 

「失礼します」

 

キリコたちは4号車へと向かった。

 

「さて、僕たちも向かうとしようか」

 

紅茶を飲み終えたオリビエが立ち上がる。

 

「そうですね」

 

「リィン、本当にいいの?」

 

「ユウナの事は彼らに任せよう。きっと、立ち直ってくれる」

 

「リィンさん……」

 

「信じているんだな?」

 

「ああ!」

 

 

 

「……どうして……」

 

「3人ともどうして教官に付いて行かなかったのよ……」

 

リィンたちが演習地を出た後、キリコ、クルト、アルティナはユウナの部屋にいた。

 

「行きたかったんでしょ……?」

 

「そりゃあね。でも君を置いて行くのは違うと思ったんだ」

 

「………………」

 

「もう知っているだろうけど僕は本当はトールズ本校に入学するはずだった」

 

「セドリック皇太子殿下のお付きでですね」

 

「だが……去年の秋、政府の決定でヴァンダール家の役目は解かれた。皇族の守護という栄誉を一貴族だけに独占させるべきではない、とね」

 

「そして兄は第七機甲師団共々ノルド高原に飛ばされ、父や叔父たちも軍務に封じられ、僕自身も殿下の護衛を禁じられた」

 

「ゼクス将軍とは何度かお会いした事があります」

 

(第九の葬儀でも来ていたらしいが)

 

「……要するにただの自棄だったんだ。ここを選んだのは。その自棄で仲間を危険に晒してしまったが」

 

「………………」

 

「クルトさん………」

 

「もう気にしていない」

 

キリコは壁に寄りかかりながら答える。

 

「正直、クロスベルについては伝聞程度しか知らなかった。大国であるエレボニアに併合されることでむしろ安心だとすら思っていた」

 

(結果的に共和国からの脅威を防いだ形になったわけだからな。だが──)

 

「でも──人の誇りというものはそんな単純なものじゃないんだよな」

 

クルトは自嘲という笑みを浮かべた。

 

「クロスベルが味わっている気持ちに比べたら僕の悩みなんて、何てちっぽけなものなんだろう、そんな風に思ったらとても君の事を放ってはおけなかった」

 

「………………」

 

「……わたしは、ユウナさんが何故そこまで落ち込むのか分かりません」

 

アルティナが口を開く。

 

「故郷などはありませんし、生物学的な親からも生まれていません」

 

(何?)

 

キリコは引っかかるものを覚えた。

 

「そもそも必要なく感情が動くように"造られて"はいないと思うので……」

 

「なっ……!?」

 

「………………ぇ……………………」

 

(まさか……こいつは…………)

 

クルトが混乱する横で、キリコはあるものを想像した。

 

「でも昨夜、ユウナさんの叫びを聞いて……なんだか胸がモヤモヤしました」

 

「わたしがここに残っている理由はそのくらいです」

 

アルティナが胸に手を当てながらユウナに告げる。

 

「………………」

 

「………俺はクロスベルなどどうでもよかった」

 

「!」

 

キリコの言葉にユウナは一瞬硬直する。

 

「そもそも俺は果たしたい目的があったからこの分校に来た。ただそれだけだった。だが──」

 

キリコはユウナの背中を見つめた。

 

「ユウナ、お前の気持ちはよく分かる」

 

「俺も大事なものを理不尽に奪われたことがある」

 

「……ぇ………」

 

「キリコ……」

 

「大事なもの……ですか」

 

「ああ」

 

「奪われる気持ちは十分に知っているはずだったんだがな」

 

キリコはかつて唯一愛した女性を思い浮かべた。

 

「ただそれだけのことだ(お前なら助けてあげてと言う、そうだろう?フィアナ)」

 

「…………………」

 

「……強いね……キリコ君は………」

 

ユウナは起き上がった。

 

「あたしだって……本当は分かってるんだ。どうしようもない現実があっても……歯を食いしばって頑張るしかないんだって……」

 

「あたしはみんなみたいに……何かがあるわけじゃない……」

 

「あたしのは……ただの我儘だよ……」

 

ユウナはうつむきながら、口を開いた。

 

 

 

一方、リィンたちは星見の塔に到着した。

 

「ここですね」

 

「大きいな」

 

「屋上に嫌な気配を感じるわね」

 

屋上から青い光が僅かに見えた。

 

「霊脈の流れも活発です、急ぎましょう……って、リィンさん?」

 

「………………」

 

リィンは演習地の方角を見ていた。

 

「リィン……」

 

「やはり彼女が心配か……」

 

「リィン君だけでも待機しているかい?」

 

「大丈夫ですよ。彼女は強い心を持っています。きっと立ち直ってくれるでしょう」

 

リィンはもう一度演習地を振り返り、オリビエに告げた。

 

 

 

「……1年半前、帝国軍がクロスベルを無血占領した後、もう一つの宗主国であるカルバード共和国は当然黙っていなかった」

 

「帝国軍に匹敵する兵力と、機動性の高い戦車と軍用艇組み合わせた『空挺機甲師団』……それをもってクロスベルに侵攻して帝国軍を追い出そうとしたの」

 

(世に言う、クロスベル戦役か)

 

「帝国軍も戦車と機甲兵の師団で何とか迎撃しようとしたけど……開戦当初は共和国軍の軍用艇に何度も前線を突破されたみたいだった」

 

(帝国時報で読んだことがある。情けないが、当時は「ああ、そうか……」ぐらいにしか思わなかった……)

 

(教官とわたしが赴く以前は劣勢だったとか)

 

「……当時のクロスベルは占領直後の混乱で多くの人たちが動揺していて、市街からアルモリカ村や鉱山町に疎開する市民も多かった。ウチも、せめてケンとナナだけでもアルモリカ村に逃がそうとして、警察学校から戻ったあたしが知り合いの人の運搬車に付き添って2人を送って行くことになったの……」

 

「それが、あの日だった」

 

ユウナは膝を抱えた。

 

「……村に向かう途中の街道で共和国軍の軍用艇と遭遇したの。帝国軍の迎撃で被弾して操縦士も恐慌状態だったのかな……どう考えても軍用車両には見えない運搬車を狙って攻撃してきた……」

 

「なっ!?」

 

クルトは愕然とした。

 

「……運転手のおじさんは必死で操縦したけど、軍用艇から逃げ切れるわけなくて……」

 

「運搬車は吹き飛ばされて……あたしたち姉弟は地面に投げ出された」

 

「…………………」

 

「悔しかった……何であたしはこんなにも無力なんだろうって。入ったばかりの警察学校の訓練は何の役にも立たなくて……。せめてこの子たちだけでもってケンとナナの上に覆い被さった……その時だった」

 

「市街から飛んで来たのは灰色の影……工芸品みたいな騎士人形だった」

 

「………」

 

「暴走してた軍用艇のローターを一刀で斬り落として、不時着させて……あたしたちの命を掬い上げてくれた」

 

「手を差し伸べてくれる人形からは若い男の人の声が聞こえてきたの……」

 

「まさか……」

 

「そういうことか」

 

「……それが……後に灰色の騎士って呼ばれるあの人の初陣だった……」

 

「……報告書で拝見しました。農村付近で市民が命の危機にさらされたと。ユウナさんもその場におられたんですね」

 

「本当は……助けてもらったお礼をずっとあの人に言いたかった……!でも……悔しくて……あの時何も出来なかった自分が惨めで、反発するしかできなかった……」

 

「今、こうしているのだってそうだよ……!」

 

ユウナから嗚咽が聞こえる。

 

「……そうだったのか……」

 

「……やっと判りました」

 

クルトとアルティナは腑に落ちた。

 

「認めてほしかったんだな?リィン教官に」

 

「………っ……………」

 

キリコの言葉にユウナは膝を強く抱えた。

 

「わたしも同じみたいです。以前、教官の任務に同行し、監視とサポートをしていた時……子供扱いされて守ってもらったり、何も相談してくれないことにモヤモヤした気分になりました」

 

「……僕も同じだ。僕自身のヴァンダールの剣をあの人に認めてもらいたかった。そして──まだまだ至らないけどサザーラントの演習で少しは変われたんじゃないかと思う」

 

「ユウナ、君の踏ん張りどころは"ここ"じゃないのか?」

 

クルトはユウナの隣に座り、肩に優しく触れる。

 

「…………ぁ……………」

 

「アルティナ」

 

「はい」

 

キリコから促されたアルティナはARCUSⅡを取り出した。

 

「教官からの伝言を再生します」

 

ARCUSⅡを操作し、ユウナに向ける。

 

『ユウナ──確かに特務支援課は英雄だろう。彼も含めて、聞けば聞くほど凄い連中だと思わずにはいられない』

 

『だが、彼らに憧れるだけでいいのか?彼らが鳥籠に囚われている今──他の誰でもない、クロスベルの意地を示せるのは誰なんだ?』

 

伝言はここで終わった。

 

「……本当に……あの人は、いつもいつも……」

 

 

 

「そんな事を……言われなくても、判ってるんだから!」

 

 

 

ユウナは立ち上がり、叫んだ。

 

(これで……)

 

(ええ……)

 

クルトとアルティナは互いに頷いた。

 

「問題はないな?」

 

「うん。それと……キリコ君……」

 

ユウナはキリコに向かって頭を下げた。

 

「本当に……ごめんなさい!キリコ君の気持ちも何もかも無視して……」

 

「気にするな」

 

「キリコさん……」

 

「じゃあさっそく、教官たちを追おう。急げば間に合うかもしれない」

 

「でも、どこなの?」

 

「星見の塔という場所だそうですよ?」

 

「フン、グズグズしてんなら勝手に行かせてもらうぜ?」

 

「へ………」

 

ドアからミュゼとアッシュ、ゼシカとルイゼが入って来た。

 

「どうして君たちが……」

 

「ハッ、ランドルフの許可は一応もらってるからな」

 

「ふふっ、私の方もトワ教官にバックアップを任されまして」

 

二人はクルトの疑問に答える。

 

「ふう、本当だったら私が行きたかったけど……」

 

「わたしもちゃんと戦えたら付いて行きたかったのになぁ~」

 

ゼシカとルイゼは残念そうに言った。

 

クルトとアルティナが呆れていると、ユウナは小刻みに震えた。

 

「……ルイゼにゼシカはともかく……」

 

「アンタたちはどこまで話を聞いてたのよっ!?」

 

(最初からだろうな……)

 

「もしかして、キリコは気づいていたのか?」

 

「何となくはな」

 

「ええっ!?」

 

「そういえばドアの方を気にしてましたが」

 

「ドアの側に誰かがいるのは分かっていた。特にアッシュは隠そうともしないからな。こうなってくるとミュゼも同行していると考えるのは自然なことだろう」

 

「さすがにゼシカとルイゼがいるとは思わなかったが」

 

『……………』

 

その場の全員が呆然となった。

 

「マジかよ……」

 

「とりあえず暗殺される事はなさそうですね………」

 

「キリコ君って超能力者なの~?」

 

「キリコ君って本当に才能に恵まれているわね……」

 

「基本スペックは常人を凌駕しているのでは?」

 

「さすがにそれは……。まあ、僕も誰かいるなとは思ったんだが」

 

「ていうか、いるなら教えなさいよ、二人とも!」

 

(……才能だとかスペックがどうとか言っているが、そんなものを感じたことはない。気配を察知する技能も戦いの中で自然と磨かれていったものに過ぎない。だがその事を言ってもユウナたちには理解されるまい。一瞬の読み違いが死に直結する……あの百年戦争のことは)

 

キリコはそれぞれの心情を口にするユウナたちを見ながらそう思った。

 

「場所については教官から聞いたのか?」

 

「はい。ウルスラ間道南西の星見の塔だと」

 

「星見の塔って、あそこ?」

 

「ユウナさんはご存知のようですね」

 

「うん……先輩たちが何度か行ったことがあるって。何でも、魔煌兵みたいなのがいるんだって」

 

「そうなのか?」

 

「中世の錬金術による魔導ゴーレムなどが挙げられますね」

 

「ハッ、なんでもいい。何が来ようとぶちこわすまでだ」

 

「とりあえず急ぎ準備を済ませましょう。ユウナさんもお着替えしなくてはいけませんしね」

 

「……先に行っている」

 

キリコは部屋を出た。

 

「僕たちも出なきゃな。入り口で待ってるよ」

 

「遅れたら勝手に行くからな」

 

「10分で仕度するから待ってなさい!」

 

 

 

20分後、ユウナたち女子が合流した。

 

「おせーよ」

 

「アッシュさん、髪は女の命ですわ。いついかなる時も気をつかわなくては」

 

「それにユウナさん、昨夜シャワーを浴びていなかったので」

 

「あ~、そうかよ」

 

「それよりキリコ、機甲兵はどうした?」

 

「確か、外部から手を入れられたとか」

 

「アップデートが上手くいかなくてな。誰だか知らんが余計な真似をしてくれたな」

 

「……………………」

 

ミュゼは顔をそむけた。

 

「じゃあ、フルメタルドッグは出られないの?」

 

「無理をすれば出せる。だがそれであの博士が納得するはずがない」

 

「まあ……ね……」

 

「ネチネチときそうですね……」

 

クルトとアルティナはシュミット博士を瞬時に思い浮かべた。

 

「とっとと行こうぜ」

 

「アンタが仕切んないで!とにかく急ぎましょう!絶対にあの人を見返してやるんだから!」

 

ユウナたちは星見の塔を目指して出発した。

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