英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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クロスベル篇最終回です。


誓い

新旧Ⅶ組により、神機アイオーンtype-βⅡは敗れた。

 

【倒せた……】

 

【ああ!僕たちの勝利だ】

 

「なかなか強敵でしたね」

 

「てこずらせやがって」

 

「ですが、なんとか倒せましたね」

 

「みんな、お疲れ様!」

 

「君たちの勇姿、見させてもらったよ」

 

「怪我をされたなら言ってくださいね」

 

勝利に湧く新Ⅶ組を旧Ⅶ組が労う。

 

「やるじゃない」

 

「ハハハ、さすがⅦ組だね。さてと──」

 

オリビエは真顔に戻り、執行者たちと向き合う。

 

「見ての通り、神機は敗れた。本来ならこれで勝利だろうが、先月の報告では神機の破壊を平然と見ていたという。つまり君たちの言う実験とは神機の運用ではないということになる」

 

「……………」

 

「道化師君に改めて聞く。実験とは何だ?そしてなぜクロスベルでなければならない?」

 

「え?」

 

「クロスベルでなければ……?」

 

オリビエの質問に新旧Ⅶ組は戸惑った。

 

(確かに運用そのものなら此所じゃなくてもいい。1年半前の騒動では裏の力とやらが関わっていたというが……)

 

キリコはこれまでの事から結社の実験の意義の推察を試みる。

 

「う~~ん、さすがに話せないなあ」

 

「だったら……腕ずくで聞き出すまでよ!」

 

ユウナは得物を構えた。

 

「勇ましいのはいいけど、さすがに相手が悪すぎない?」

 

「確かに一人なら無謀だわ。でも……!」

 

「みんなならどうですか?」

 

アルティナ、クルト、アッシュ、ミュゼ、キリコが得物を構える。

 

「みんな……」

 

「僕たちは仲間だからな」

 

「しゃあねぇ、最後までつき合ってやるよ」

 

「一応、貴族の端くれですので♥️」

 

「戦いはまだ終わっていない」

 

新Ⅶ組の闘志に火がついた。だが、カンパネルラは臆するどころか微笑んだ。

 

「いいねぇ、これなら実験は上手くいきそう♪」

 

「まっ、上々じゃねぇの?」

 

「上手くいきそう?」

 

「わ、わけがわからないぞ」

 

カンパネルラたちの言葉にアリサとマキアスが戸惑った。

 

(やはり神機そのものではないのか)

 

 

 

「フフ、それよりいつまで隠れてるのさ?蒼の深淵?」

 

 

 

「えっ!?」

 

「フフフ、気づいていたくせに……」

 

振り返ると、蒼いドレスを纏った女が姿を現した。

 

「姉さん……!」

 

「アンタ……!」

 

エマは言葉を無くし、セリーヌは怒りを露にした。

 

「初めての顔もいるわね。元結社蛇の使徒(アンギス)第二柱《蒼の深淵》ヴィータ・クロチルダよ」

 

「綺麗……」

 

「ヴィータ・クロチルダ!?《蒼の歌姫(ディーバ)》と呼ばれたあの!?」

 

「表向きはオペラ女優だったそうですね」

 

「ハン……」

 

(クロチルダさん……)

 

「…………………」

 

新Ⅶ組はそれぞれリアクションをとる中、キリコは犯人だと確信する。

 

「リィン君たちも久しぶりね」

 

「え、ええ……」

 

「やはり来てらしたんですね……」

 

「アーベントタイムの事とか色々聞きたいことがありますが、今はいいでしょう」

 

「ああ、ラジオ放送の。因果を操作してあたかも目の前で話しているようにしているんだっけ?」

 

「本当に何してんのよ……!」

 

セリーヌの表情に呆れと怒りがいり混じった。

 

「そんなことより、姉さんは何をやっていたんですか!」

 

エマはクロチルダに問う。

 

「内戦が終わってから里にも戻らないで。私やお婆ちゃんがどれだけ心配したと思ってるの!?」

 

「フフ、いろいろなあるのよ」

 

「ふざけないで!」

 

「婆様に伝えておいて。元気にやってるって。エマ、あなたも私を追うのも止めなさい。婆様からも言われたでしょう?」

 

「アンタ……!」

 

「知っているはずよ。私が禁忌を犯したことくらい」

 

「……………」

 

「エマ……」

 

アリサが俯くエマを慰めるように支える。

 

「それより、あなたはいつまで見ているつもりなのかしら?」

 

『!?』

 

「ほう、気づいたか。魔女よ」

 

 

 

声のする方を向くと、仮面を被った男がいた。

 

「か、仮面……?」

 

「いつの間に……」

 

「ハン……?」

 

「え……」

 

(アルティナ?)

 

アルティナの思考が止まる。

 

「う、嘘よ………」

 

「まさか……そんな……」

 

「どうして………」

 

「…………………」

 

(旧Ⅶ組も知っているようだが、何だ?まるで死人でも見たかのような反応は?)

 

キリコは旧Ⅶのリアクションに疑問を覚えた。

 

「フフ、来てたんだ?」

 

「やっと出て来やがったか」

 

マクバーンは右手に焔を顕現させる。

 

「殿下、彼が……」

 

「あ、ああ。結社と対立しているという存在だろう。だが………」

 

オリビエも言いづらそうにクルトの問いかけに答える。

 

「………何で」

 

リィンが声を絞り出す。

 

「……何で……そこにいるんだ」

 

「えっ……?」

 

「教官……?」

 

ユウナとクルトはリィンの疑問に混乱した。

 

 

 

「何で、生きているんだ!クロウ!!」

 

 

 

リィンは仮面の男に向かって叫んだ。

 

「クロウ?誰だそれは」

 

仮面の男は淡々と否定した。

 

「私は蒼のジークフリード。地精の代理人でもある」

 

「ち、地精?」

 

「数百年前、私たち魔女の倦族と袂を分かった一族だと聞いたことがあります。ですが……」

 

「あ、あの仮面はその地精何ですか?」

 

「それは違う!あいつは……」

 

クルトの疑問にリィンは昂然と否定する。

 

「やつが何者かはどうでもいい」

 

キリコは蒼のジークフリードに得物を向ける。

 

「お前は俺たちの敵か?」

 

「ならばどうする?」

 

「殺すだけだ」

 

「そいつは勘弁だな……!?私は今何を……」

 

蒼のジークフリードは自分の口調に動揺した。

 

(何だ、こいつは)

 

キリコはさらに警戒を強めた。

 

「今の口調……」

 

「やっぱりクロウなのか……?」

 

「姉さん!何か知っているの!?」

 

「さすがに驚いてるわ。地精の代理人って言ったけど、それはいつから?」

 

「さあな。それは問題ではない。それより──」

 

蒼のジークフリードはキリコを見据える。

 

「お前は何だ?」

 

「質問の意味がわからないな」

 

「お前は人間なのかと聞いている」

 

「………………………」

 

キリコは無表情を装った。

 

「な、なんなの……?」

 

「キリコが人間なのかどうか?」

 

「理解不能です」

 

「っけわかんねぇ」

 

(キリコさん……?)

 

ミュゼは何か引っかかるものを感じた。

 

「まあいい。私は見届け人に過ぎない。今日の所は退こう」

 

「何!?」

 

蒼のジークフリードは塔から飛び降りた。

 

「ええっ!」

 

「飛び降りた?」

 

「待て、何か聴こえないか?」

 

「こいつは……」

 

「風斬り音?」

 

すると、蒼い影が姿を現した。

 

「なっ!?」

 

「あれって……!」

 

「さらばだ」

 

蒼い影は飛んで行った。

 

 

 

『……………』

 

リィンたちは突然の出来事に呆然とした。

 

「さてと、僕たちもそろそろお暇しようかな」

 

「ま、待ちなさいよ!」

 

ユウナがくってかかる。

 

「鳥籠は……先輩たちはどうなるの!?」

 

「ああ。僕たちが去ったら解けるんじゃない?」

 

カンパネルラはいつもの調子を崩さずに答える。すると──

 

 

 

「リィン! ユウ坊!無事か!」

 

 

 

ランディ率いる戦術科が駆けつけて来た。

 

「ランディさん!」

 

「ウェインたちも一緒か」

 

「遅ぇよ、ランドルフ」

 

「しゃあねぇだろ。殿下もご無事っすか?」

 

「ああ、問題ない」

 

「そうすか。っと、もう終盤みてぇだな?」

 

「フフ、君も久しぶりだね。赤い死神君、いや、戦鬼のお兄さん」

 

「ああ、あの跳ねっ返りの兄貴か」

 

「兄貴じゃねぇよ!」

 

ランディはマクバーンにつっこんだ。

 

「まあいいや。そろそろお暇させてもらうね」

 

「何だと?」

 

「さすがにこの人数は手に余るからね。それよりⅦ組のケアでもしてあげたら?」

 

「それには及ばない」

 

リィンは再び太刀を構える。

 

「リィン……」

 

「どうする?」

 

「別にいいわ」

 

マクバーンは怠そうに欠伸をした。

 

「フラフラのてめえを殺ったってつまんねえ。万全の状態でかかってこいよ」

 

「くっ……!」

 

「それなら仕方ないね。でもその前に───」

 

カンパネルラからのアイコンタクトを受けたマクバーンは大火力の焔で神機を焼きつくした。

 

神機アイオーンtype-βⅡは一部を除き、溶解した。

 

「ああっ!」

 

「しまった!」

 

「やれやれ、証拠隠滅にしてはやり過ぎなんじゃないかい?」

 

「第Ⅱにはあの博士がいるんでしょ。これくらいやらないと」

 

カンパネルラは肩を竦めた。

 

「私もそろそろ行くわね」

 

「姉さん!?」

 

エマはクロチルダを引き止めようとした。

 

「エマ、リィン君。これから何が起こっても自分を見失っちゃだめよ」

 

「え?」

 

「それじゃ、またね──」

 

「待て」

 

今度はキリコが引き止める。

 

「あら?何かしら?」

 

「落書きを消して行け」

 

キリコはフルメタルドッグを指さす。

 

「フフフ、その落書きが役に立ったんじゃなくって?」

 

「………………」

 

(ああもう……!)

 

ミュゼは頭を抱えたくなった。

 

「それじゃあ、ごきげんよう」

 

クロチルダはどこかへ転移して行った。

 

「姉さん……」

 

「エマ……」

 

エマはうつむいた。

 

「それじゃ、僕もお暇させてもらうよ」

 

「じゃあな」

 

カンパネルラとマクバーンは転移していった。

 

 

 

その後、遅れて来た主計科を含めた三クラス合同で調査を開始した。

 

神機はマクバーンの焔により原型を留めておらず、せいぜい装甲の素材しか突き止められなかった。

 

なお、結社が去ったことで、近いうちに鳥籠は解除されるとミハイルから告げられた。

 

そして──

 

「クロウ君が………?」

 

「はい。もっとも、彼は蒼のジークフリードと名乗りましたが」

 

「………………」

 

トワは呆然とした。

 

(なあ、そのクロウってのは?)

 

(僕たちの先輩だった人です。ですが……)

 

マキアスは拳を握りしめる。

 

「…………クロウは内戦で命を落としました」

 

「えっ!?」

 

ランディは驚きを隠せなかった。

 

「クロウ・アームブラスト。シュバルツァー同様、騎神の乗り手であり……」

 

ミハイルは一呼吸置く。

 

「帝国解放戦線のリーダーだった男だ」

 

「ちょっと待て。帝国解放解放戦線っていやぁ……」

 

「ああ、テロ組織だ」

 

「なんでそんな奴が旧Ⅶ組やトワちゃんと知り合いなんだよ?」

 

「……クロウ君は、私の友人だったんです」

 

「えっ?」

 

「リィン君たちⅦ組を設立するにあたって、トワ君を含めた何人かに試金石になってもらったんだ。クロウ君もその一人だ」

 

「つまり、そいつは……」

 

「私たちの先輩だったんです」

 

「そうだったのか……」

 

ランディは頭を振って納得する。

 

「その……何だ、あいつが死んだってのは……」

 

「帝都での最終決戦で俺とクロウで決着を着けたんです。でもその後、緋の騎神に胸を……貫かれて……」

 

「そう……か………」

 

ランディはいたたまれなくなった。

 

「とにかく、彼が何者なのかはわかりません。たまたま似ているだけかもしれませんしね」

 

「そうね。そうよね」

 

「彼のお葬式もみんなでやったしな」

 

リィンたちは無理やり納得した。

 

 

 

5月 22日

 

第Ⅱ分校生徒たちが帰る日が来た。

 

見送りには、アリサ、マキアス、エマら旧Ⅶ組。ユウナの家族。ティオ主任。ベッキーとリンデのトールズOG。なぜか来たレクター少佐。そしてオリヴァルトたち皇族だった。

 

「うぅ……グスッ……」

 

「お姉ちゃん、行かないで……」

 

「ケン……ナナ……」

 

「二人とも、わがまま言わないの。大丈夫よ、もう会えないわけじゃないもの」

 

「ッ……お母さん……」

 

「ユウナ、あなたはお母さんたちの誇りよ。いつでもユウナの事を思ってるわ」

 

「うん……うん!」

 

 

 

「姫様、エリゼ先輩。会えて良かったです」

 

「ええ、私もよ」

 

「ちゃんとお手紙を書いてくださいね」

 

「はい、もちろんです」

 

「それはそうと、ミュゼ?」

 

「なんでしょう?」

 

アルフィンは声のボリュームを下げた。

 

(キリコさんとはどういう仲なのかしら?)

 

(………………はい?)

 

(どう見ても貴女とキリコさんはお友だちというわけじゃなさそうだけど?ね?エリゼ)

 

(え、ええ……。あんなに狼狽えるミュゼは初めて見たから……)

 

(え、ええっと……な、何か……か、勘違いを……)

 

(ふふ、私の知っているミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンなら毅然と否定するものだけど?)

 

「知りません!」

 

ミュゼはスタスタと列車の中に入って行った。

 

 

 

「リィン君たち。今回は本当に世話になってしまったよ」

 

「いえ、殿下こそ、本当にありがとうございました」

 

リィンたちはオリヴァルト皇子に頭を下げる。

 

「キリコ君。君とももう少し喋ってみたかったよ」

 

「ええ」

 

「だから何で堂々としていられるんだ……」

 

クルトは何度目かわからないため息をついた。

 

「ハハ、別に問題ないよ。むしろこれくらい肝が据わっている方がこちらとしても話しやすいからね」

 

(キリコさんには何かあるみたいですね)

 

(そうみたいだな)

 

 

 

「よう」

 

「アンタか」

 

「今回は便所掃除はないんだな?」

 

「ぶん殴るぞてめえ……」

 

「オーケーオーケー、その右手を下げようか」

 

「チッ……」

 

「それで、なんかあったのか?」

 

「いや。まあクロスベルなんざ思い入れもねぇからな」

 

「そうか」

 

レクター少佐は満足げに笑った。

 

 

 

「それじゃ、このままクロチルダさんを追うんだな?」

 

「ええ、あくまで帝国各地の史跡を回りながらですが」

 

「そっか。私はクロスベルで業務を続けるわ」

 

「僕はこれから山のような案件と戦うつもりだ」

 

「分かった。三人とも体には気をつけてくれ」

 

「「「………………」」」

 

「な、何だ?」

 

「ふう。君が言うか……」

 

「トワ会長から聞きましたよ。リィンさん、あまり休めてないそうじゃありませんか」

 

「そんな貴方に気をつけてと言われてもね」

 

アリサたちは呆れながら言った。

 

「ふふ、リィン君。帰りぐらいしっかり休んでね」

 

「ハハ、いい仲間じゃねぇか」

 

トワとランディが微笑んだ。

 

「ありがとうございます。それにしても、いいのか?セリーヌをこっちに寄越して」

 

「いいのよ。エマにとっても修行にもなるし」

 

「そうか。セリーヌ、ありがとうな」

 

「アンタ、放っといたらまた無茶するのが目に見えているからね」

 

「ははは……」

 

リィンは苦笑いを浮かべた。

 

「っと、そろそろ時間だぜ」

 

ランディが時計を見ながら行った。

 

「アリサ、マキアス、エマ、また会おう」

 

「ええ!」

 

「いずれな」

 

「セリーヌ、リィンさんをお願いね」

 

「任せなさい」

 

リィンは仲間たちと暫しの別れを告げた。

 

 

 

[キリコ side]

 

「…………………」

 

クロスベルを出発してそれなりに経った。

 

俺は蒼のジークフリードに言われた言葉を思い出していた。

 

(「お前は人間なのか?」やつの表情からは伺い知れなかったが、俺が普通の人間でないことに気づいているようだ。確かに俺は異能者だ。だがやつは地精と言った。異能者と地精。繋がりがあるとは思えないが)

 

もう一つ気になることがある。

 

(あの道化師を名乗ったやつ。心に闇を抱えている者に執行者の資格があると言っていた。確かに裏の力ならばこの忌々しい異能生存体を消せるかもしれない。だが、だから何だ。俺の望みは異能を消し去り、人間として死ぬことだ。結社なんぞに義理立てする必要はない)

 

俺はこのまま進み続ける。それだけでいい。

 

だが、最近になって考えに変化が訪れた。

 

ユウナ、クルト、アルティナ。あいつらとこのまま学生として過ごすのも悪くないと思っている。

 

ゴウト、バニラ、ココナ、シャッコ。そしてフィアナ。お前たちが今の俺を見たらなんと言うだろうな。

 

 

 

コーヒーを飲みに食堂に来ると、ミュゼが待っていた。何やら忙しなく動いている。

 

何かあるようだが気にしても仕方ない。

 

[キリコ side out]

 

 

 

[ミュゼ side]

 

(あわわわ………どうしましょう……)

 

紅茶が飲みたくなったので準備していたらキリコさんが来てしまいました。

 

いつも通り振る舞いたいですが、体が動きません。それになんだか頭がボーッとしてきました。

 

「…………」

 

キリコさんはいつも通りに無口です。こ、ここは勇気を出して……。

 

「あ、あのっ!」

 

「何だ?」

 

「コ、コーヒー、どうぞ……」

 

「……もらおう」

 

な、何とかなったようです。キリコさんは本当に見えないのでどうなるか予測がつきません。

 

その後、私は紅茶を、キリコさんはコーヒーを飲みながら、演習について話をしました。

 

「ユウナさん、立ち直られてよかったですね」

 

「ああ」

 

「………キリコさんは、わかっていたんですか?ユウナさんがショックを受けることに」

 

「予感はしていた」

 

「予感?」

 

「演習が始まる前から不安定だった。あの道化師の一言が決定打になったんだろう」

 

「そうですか……」

 

キリコさんはどこまでも冷静でした。

 

「……キリコさんは………」

 

「?」

 

「……キリコさんは、どうして冷静でいられるんですか?」

 

「なぜだろうな」

 

「キリコさんは……世界を敵にしても……冷静でいられますか?」

 

「………………」

 

「うらやましいです………その……覚悟が………」

 

気がつけば私の目に涙が溢れていました。

 

「……………」

 

「私は……どうすれば………」

 

「……………」

 

その時、キリコさんと目が合いました。

 

「お前が何を相手にしようと知ったことではないし、関わる気はない。だが──」

 

「迷いがあるなら止めることだ」

 

「だから泣くな」

 

「……ぁ………」

 

キリコさんの言葉が心に染みる感覚がしました。

 

やっと……わかりました。

 

私はただ……この人の言葉が欲しかったんです。冷たいようで、暖かい言葉を。

 

私の迷いを払い、勇気をくれる言葉を。

 

誰よりも優しい言葉を。

 

「キリコさん……」

 

「何だ」

 

「ありがとうございます」

 

「何もしていない」

 

「いいえ」

 

私はキリコさんの左手に触れました。

 

(姫様の言っていた通りね。私はキリコさんに

 

 

 

恋、していたんだ)

 

 

 

私の迷いは完全に晴れました。

 

(私はもう、迷いません。帝国に迫る呪い。それに立ち向かう者として。次期カイエン公、ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンとして)

 

(私はきっと、世界を間違った方向に動かしてしまうかもしれません。ですが、キリコさんや皆さんとなら……)

 

(きっと……乗り越えられます)

 

[ミュゼ side out]




クロスベル篇はこれで終わりです。

最後の最後にフラグは立てられました。

次回から第三章、ラマール篇が始まります。
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