英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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仲間③

その夜

 

[ミュゼ side]

 

今夜、エリゼ先輩は学生寮に泊まっていかれることになりました。

 

本当なら最終列車で帝都に戻られるはずでしたが、リィン教官の強い反対と分校長の勧めに折れる形になったそうです。

 

まあ、リィン教官がヴァリマールで飛んで行こうとしたのを止めたらしいです。

 

また、エリゼ先輩の歓迎会が開かれることになりました。

 

料理研究会やユウナさんたちが腕を振るった結果、先月のオルキスタワーで供されたメニューに勝るとも劣らない豪華さになりました。

 

更に、事前に近隣の方々にもお声をかけておいたので、先輩の歓迎会はとてもにぎやかなものになりました。

 

夕食の後、私とユウナさん、アルティナさん、ティータさんとトワ教官で学生寮のお風呂に入ることに。

 

なお、気を使ってくださったのか、殿方の皆さんはお風呂に近づいたりはしませんでした。

 

シドニーさんはこっそり近づこうとしたみたいでしたが、レオノーラさんとマヤさんとゼシカさんに折檻されてました。

 

ちなみにキリコさんは食堂でコーヒーの仕込みをしていました。

 

 

 

「はぁ~、いいお湯」

 

「ええ、気持ちいいですね」

 

「先輩、ユミルと比べていかがですか?」

 

「ユミル?」

 

「ユウナさんはご存知ありませんでしたか」

 

「ユミルはノルティア州北方にある所で私と兄の故郷なんです」

 

「リィン君とエリゼちゃんのお父さんであるシュバルツァー男爵閣下が治めていて、温泉地として有名なんだよ」

 

「へえ………って男爵?」

 

「リィン教官って貴族の方だったんですか?」

 

「え、ええ。もしかしてご存知なかったんですか?」

 

「だ、だってそんなこと一言も言ってなかったし……」

 

「そうですか。まったく……」

 

そういえばリィン教官はご自分のことを話しているところを見たことないですね。

 

確かエリゼ先輩とリィン教官は血のつながりがなく、シュバルツァー男爵閣下もリィン教官を養子にしたことで叔父を含む一部の貴族から言われなきバッシングを受けて社交界に姿を見せなくなったそうですが。

 

以前、エリゼ先輩がトールズ士官学院に行かれた際、リィン教官に男爵家を継がないと言われ、暴言を吐いてしまったことを後悔なされていました。

 

もしかすると、そのお考えは今も変わらないのでしょうか。

 

「そ、それよりユミルのことだったよね。さっきも言ったけど、温泉地としても有名なんだよ。確か、皇室とも関係があるんでしょ?」

 

「え!?」

 

「なんでも、ユミルにある鳳翼館は時の皇帝に下賜されたとか?」

 

「すご……!」

 

ユウナさんは目を見開いていました。

 

「アルティナさんは一度いらしたことがありましたね」

 

「はい、任務で」

 

確か姫様とエリゼ先輩を拐ったとか。

 

 

 

「そういえばティータちゃんの地元にも温泉地があるんだよね?」

 

「はい。エルモ村といってツァイス地方にあるんです。お爺ちゃんとよくお風呂に入りに行きました。マオお婆ちゃん、元気かなぁ」

 

「東方の方なんですか?」

 

「うん。ツァイス地方には共和国からの移民の人たちが多いんだよ」

 

「へえ。でもいいなぁ。あたし、温泉なんて行ったことないもん」

 

「みんなで温泉とか行ってみたいよねぇ」

 

トワ教官がそんなことを言いました。私もおじいさまとおばあさまとセツナさんの4人で行ってみたいです。

 

できれば……キリコさんとも………。

 

 

 

そろそろ聞いてみましょうか。

 

「そういえばエリゼ先輩?リィン教官とお二人でお風呂にはいってらしたとか?それも仲睦まじく♥️」

 

「!?」

 

ユウナさんが仰天しました。

 

「な、な、な……!」

 

「ふむ……」

 

慌てるエリゼ先輩の横でアルティナが興味深そうにしています。

 

「エ、エ、エリゼさん!?」

 

「いやあの……ミュ~ゼ~!」

 

「ふふ、エリゼお姉様、綺麗なお顔が台無しですわ」

 

「お姉様!?」

 

「あ、貴女、お姉様なんて言ったことないでしょう!」

 

「ふふ、バレました♪」

 

舌を出すのを忘れません。

 

 

 

「まったく、ミュゼったら……」

 

「すみません」

 

「でもいい機会かもしれません。皆さんから見て、兄はどうなんでしょうか?」

 

「リィン君を?」

 

「はい」

 

エリゼ先輩の眼差しは真っ直ぐでした。

 

「そうですね……」

 

口火を切ったのはアルティナさんでした。

 

「教官とは入学以前からの付き合いです。子ども扱いするし、無闇に頭を撫でたりすることが多かったのでなんというか、不埒な人です」

 

「あ、あはは……」

 

「でも、頼りになる人です。こんなところでしょうか」

 

「アル……」

 

「私もすごい人だと思います」

 

次にティータさんが手を挙げました。

 

「リィン教官のことはリベール通信でしか知りませんでしたが、実際に会ってみてすごい人だと思ったんです。戦いも人柄も。それにリィン教官の教え方もすごく分かりやすいので帝国史の授業もついていけてます」

 

「わかります。複雑な時代背景も一つ一つ丁寧に紐解くので、頭に入ってくるんですよね」

 

「リィン君のことは学生時代から知っているけど、真面目で責任感が強いことは確かだよ。でも、それと同じくらい無茶をしちゃうから心配なんだよね」

 

「……………」

 

ユウナさんがちょっと複雑な顔をされてます。

 

「ユウナさん?」

 

「あの、何か……」

 

「へっ?ああ、うん。なんでもないです」

 

「?」

 

「ユウナさんは教官がとても気になるようですね♥️」

 

「な、な、何言ってんのよ!あ、あたしがあの人なんかに……」

 

「あら?誰もリィン教官とは言ってませんが?」

 

「アンタねぇっ!!」

 

「何やら騒がしいな」

 

振り向くと、分校長がいらっしゃいました。

 

 

 

「ふむ、いい湯加減だな」

 

「そ、そうですね……」

 

「どうした?先ほどより静かなものだが」

 

「い、いえ……」

 

「お気になさらず……」

 

皆さん、分校長を見ていらっしゃいます。はい、惨敗です。

 

「しかし乙女らしく盛り上がっていたようだが、シュバルツァーを落とす相談でもしていたのか?」

 

「お、落とすって……」

 

「意味は分かりませんが、教官のことを話していました」

 

「フッ……」

 

分校長は微笑みながら語り始めました。

 

「あの手の者は一見八方美人に見えるが、その実一途で頑固ですらある。ならばいかに雰囲気を作って己の土俵へと引き込むかが肝要であろう」

 

「なるほど」

 

「勉強になります」

 

「己の土俵……」

 

「ふむ」

 

「はぁ~、って分校長!!」

 

トワ教官がつっこみました。

 

「フフ。まあ、あれ以上の頑固者もいるがな」

 

「へ……」

 

「頑固者?」

 

「誰なんですか?」

 

「……………」

 

私はそれが誰を指しているのか分かった気がしました。

 

 

 

お風呂から上がった後、私は分校長、もといオーレリアさんの部屋にいました。

 

「フフ、いかがしました?ミルディーヌ公女」

 

「いえ……」

 

「キュービィーのことでしょうか?」

 

「ッ!?」

 

私は口に含んだ紅茶を吹き出しそうになりました。

 

それを見たオーレリアさんが可笑しそうに笑いました。

 

「やはりそうでしたか。貴女のキュービィーに対する態度は謀略とは似て非なるものだと思いましたが、いやはや、貴女も乙女でしたか」

 

「か、からかわないでください!」

 

「からかってなどおりませぬ。次期カイエン公爵となられる貴女の幸せを願っておりますゆえ」

 

「あ、あううう…………」

 

私は顔から火が出そうになりました。

 

「しかし、キュービィーですか……」

 

突然真顔になりました。

 

「お風呂場で言ったのは、キリコさんのことですね」

 

「ええ。いや、言葉が足りませんでした。やつは頑固というより不可解なので」

 

「不可解?」

 

「ご存知のとおり、私は戦場に長く身を置いています。その過程で様々な人間の目を見てきました。怒り、悲しみ、喜び。その中でも一際異質だったのがキュービィーです」

 

「確かにキリコさんはどこか寂しそうな目をされていましたが」

 

「寂しそう?いえ、あれは喪失者の目です。まるで遠い昔に命より大事なものを喪った、そんな目です」

 

私はオーレリアさんが何を言っているのか理解できませんでした。

 

「で、でもキリコさんは……」

 

「ええ。内戦時にあのジギストムンドの凶行により、養父母を村ごと喪っています。ですが、それだけが理由とは思えませぬ」

 

「……貴女は何を見たんですか?」

 

「……歴戦の戦士であり、己の命さえ気にも留めない、いわば自殺志願者。そして先ほど申し上げた喪失者です」

 

「……………」

 

「戸惑うのも無理ありません。私でさえ自分の目を疑っているくらいですから。とても16歳とは思えませんでした」

 

「……………」

 

私は頭がクラクラするのが分かりました。

 

「公女殿下」

 

「………」

 

「それでも好いているのでしょう?キリコ・キュービィーを」

 

「………はい」

 

「ならば、その思いを貫き通すことです。何があろうとも、己を曲げずに」

 

「はいっ!」

 

私の両目から涙が溢れていました。オーレリアさんは隣に座り、優しく背中をさすってくれました。

 

 

 

「……落ち着きましたか?」

 

「はい。すみません、恥ずかしい所をお見せしました」

 

「なんの。それにしても巡り合わせとは残酷ですな」

 

「?」

 

「私はやつを我が婿に取るつもりでした」

 

「え?ムコ?」

 

「そう、婿です」

 

「え……」

 

「ええええええ~~~っ!?」

 

今日一番の驚きです。

 

「そんなに驚くことですか?」

 

「い、いやあの、その……。そういった話はあまり聞かなかったものですから……」

 

「フフ、私も婿取りをしなければならんので」

 

「でもどうしてキリコさんなんですか?他にもお眼鏡に叶う方はおられなかったんですか?」

 

「これまで見合いだなんだとさせられてきましたが、私を負かしてみろと剣を見せたら皆尻尾を巻いて逃げ出すような軟弱者ばかりでした」

 

「……………」

 

逃げ出すのが正解、と思う私は間違っていないはず。

 

「そんな時、内戦で敵方に凄腕の機甲兵乗りがいると噂を聞きましてな。その時は期待してませんでしたが……」

 

オーレリアさんの顔に笑みが浮かびました。

 

「それは間違いでした。機甲兵に乗って間もないとはいえ、見知らぬ相手に圧倒されました。叩きのめされ、ボロボロにされた時、私は何が起きているのか分かりませんでした。その日から数日も経たない内に今度はウォレスが敗けたことを知り、私は震えました。求めていた相手に出会えたと」

 

「そうだったんですね」

 

「それから私はあの機甲兵を討ち取るのに執念を燃やしました。ですが、討ち取るのは叶いませんでした。やつ一機にこちらは十倍以上の損害を被りましたので」

 

「………………」

 

「しかし不思議なことに、部下たちはともかく私やウォレスに憎しみは生まれませんでした。むしろ友を得たような嬉しさでした」

 

「嬉しさ……」

 

「その内に、私の心は高鳴りました。この男だ、この男こそ我が婿にふさわしいと。これまでの軟弱者どもなぞに時間を取られたのはやつに会うための試練だったと思わずにはおれませぬ」

 

オーレリアさんの頬が赤いようにも見えます。

 

ん?

 

「あの、一つよろしいですか?」

 

「何か?」

 

「キリコさんを推薦した理由というのは……まさか」

 

「フフ、さすがに分別はつきますゆえ。キュービィーを推薦したのはその力と実績ですよ。このまま政府の狗にされるくらいなら学生の方がマシでしょう」

 

「そうですね。もし、キリコさんが敵に回っていたらゾッとします」

 

「まあそれはいいでしょう。しかし、貴女がやつを好いているのは驚きましたが」

 

「うう……」

 

私の顔がまた熱くなりました。

 

「ちなみに、キュービィーのどこに惹かれたのですかな?」

 

この人は本当にストレートです。

 

「………優しさ、でしょうか」

 

「ほう?」

 

「確かにキリコさんは寡黙で無口で無愛想で、お世辞にも社交的とは言えません。でも、あの人は、優しいんです。おじいさまの家で出会ってからそれを実感しました。言葉は少ないけれど、周りを見ている人です」

 

「そして、誰かが傷つくことを、失うことを嫌がる。そんな気がするんです」

 

「ふむ」

 

オーレリアさんは何かを思案するように顎に手をやります。

 

「キュービィーとは下宿していた頃から?」

 

「その……恋をしていたと気づいたのは……先月の演習の帰り……です」

 

「ほうほう」

 

オーレリアさんは面白そうと言わんばかりの顔になりました。

 

「なるほど。まあ、婿は改めて探すとしましょう。ではミルディーヌ公女、そろそろ本題に入りましょう」

 

「へっ……あ、ああ、そうですね」

 

ペースに流されて忘れていました。今回、オーレリアさんの部屋に来たのは週末の演習についてでした。

 

今回の演習では、かつてない危機が訪れます。それに対抗するためにこうして相談するためです。

 

「では、今月は私も行くということで……」

 

「はい、お願いします」

 

[ミュゼ side out]

 

 

 

「キリコさん、よろしいですか?」

 

「ん?」

 

キリコがコーヒーを飲んでいると、エリゼがやって来た。

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ、あの子のことで……」

 

エリゼはキリコの前に座った。

 

「ミュゼがどうかしたのか?」

 

「はい。キリコさん、あの子とはどんなお付き合いを?」

 

「何?」

 

「その……不躾なのは百も承知ですが、あの子のことを聞けるのは、キリコさんしかいないと思ったので」

 

「……………」

 

エリゼは周りに誰もいないことを確認した。

 

「その……キリコさんはあの子の本名は……」

 

「知っている」

 

「!? ご存知でしたか」

 

「あいつが自分から言った」

 

「ミルディーヌが?」

 

「ああ」

 

「後、アルティナさんから聞きましたが、キリコさんはイーグレット伯爵のご自宅で過ごされたとか」

 

(本当に口が軽いな……)

 

「その、失礼ですけど……」

 

「………単なる下宿だ」

 

「下宿?」

 

「それより、なぜそんな事を聞く」

 

キリコはエリゼに疑いの目を向ける。

 

「す、すみません。理由も話さずに進めてしまって」

 

エリゼは謝罪の後深呼吸をした。

 

「あの子は、私が入学する以前から女学院にいました。当時、ユミルから出てきたばかりの私は心細かったのですが、幸運にもあの子や姫様と知り合うことができました」

 

「……………」

 

「ただ、あの子からはどこか壁を感じていました。まあ、年端もいかない頃から女学院にいたそうなので無理もありませんが。ですが──」

 

エリゼは一呼吸おく。

 

「先月、クロスベルで再会した際、相変わらずつかみ所がありませんでしたが、キリコさんに対してだけは違いました。私も見たことのないほどに心を開いているような感じでした」

 

「……………」

 

「あの子のことは妹のように思っています。だから──「心配だからか?」……え?」

 

「心配だからか?」

 

「あっ……はい……」

 

エリゼは頭を垂れる。

 

「俺は分校長の推薦でここに入った」

 

「え?」

 

「その時イーグレット伯爵の家に下宿していた。それだけだ」

 

「そう、なんですか……」

 

「不都合でもあるのか?」

 

「い、いえ!そうではなくってですね。安心したんです。あの子が心から笑っているのを見るのは久しぶりなので」

 

「……………」

 

キリコはコーヒーを飲み干した。

 

「もう遅い。明日は早いのか?」

 

「あっ、はい。始発に乗るつもりです」

 

「なら早く寝ることだ」

 

「そうですね。おやすみなさい」

 

「ああ」

 

キリコはぶっきらぼうに返事した。

 

 

 

(確かに寡黙で無愛想な方ですけど、私を助けてくれた時みたいに静かな優しさがありますね。いくら殿方に慣れていないとはいえ、あの子が惹かれるのも無理もないわね)

 

エリゼはベッドへと戻って行った。

 

 

 

「……………」

 

キリコはコーヒーカップを洗い、食堂を出ようとした。

 

「キリコ?ちょっといいか?」

 

扉の前にリィンが笑顔で立っていた。

 

「何か?」

 

「さっき、エリゼと二人で何やっていた?」

 

「……………」

 

「な・に・を・やっていた?」

 

リィンは凄みを纏い、笑顔でキリコに近づいた。

 

「教官のことを聞かれていました」

 

「俺の?」

 

リィンから凄みが霧散した。

 

「ええ、貴方がいかに無茶苦茶なのかを」

 

「そ、そうか……。いや待て、エリゼに怒られる未来しか見えないんだが……」

 

「そこまでは知りません」

 

キリコはうなだれるリィンには目もくれず、自室へと向かった。

 




次回、機甲兵教練です。
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