6月13日
キリコとティータは機甲兵の最終チェックに追われていた。
「ヘクトル弐型、問題ありません。キリコさん、そちらはどうですか?」
「ケストレルβ、問題ない」
「分かりました。ふう、やっと終わりましたね」
「ああ」
「それにしても、どうしたんでしょうね?いつもより念入りにやれって」
「さあな(ろくでもないことになりそうだが)」
キリコは残っていた缶コーヒーを飲み干す。
「それにしても壮観ですね。ドラッケンⅡ、シュピーゲルS、ヘクトル弐型、ケストレルβ。今日はこれ全部に乗るんですよね」
「各々の適性を測るらしいな」
「ちなみにキリコさんは?」
「俺はこれも込みでだ」
キリコは改修されたフルメタルドッグに目をやる。
「見た目は変わっていないんですね」
「ローラーダッシュ、ターンピック、アームパンチ、ターレットスコープの見直しをやったそうだ。フレームと装甲も多少マシになったようだ」
「なるほど……」
「よっ、精が出るな」
「二人とも、終わったのか?」
振り向くと、ランディとリィンがやって来た。
「あっ、教官」
「最終チェックは終わりました」
「そうか。しかし、ここも賑やかになったよな」
「そうですね。っと、そろそろ時間だ。キリコ、運び出すのを手伝ってくれ。ティータは主計科と合流してデータを頼む」
「了解」
「了解しました!」
キリコとティータはそれぞれの行動を開始した。
[キリコ side]
【チッ、踏ん張りやがらねぇ】
【うう、こんなに重いだなんて……】
今回の機甲兵教練では、機甲兵の適性を見ることが主だ。機甲兵は人間が扱う以上、当然向き不向きがある。
現在、アッシュとミュゼが動かしているが、結果はこのとおりだ。
パワータイプのアッシュは地に足を付けた接近戦を得意とする。そのため重装甲のヘクトル弐型は適しているが、戦場を縦横無尽に撹乱するように動くケストレルβとの相性は最悪なのだろう。
ミュゼはその逆と言ってもいい。元々女兵士が扱うための機体であるから軽い操作で動く。また、遠距離からの狙撃を得意とするミュゼにはうってつけと言える。だが、彼女の細腕ではヘクトル弐型は手に余るだろう。
「うーん。やっぱりドラッケンⅡがいいかな。扱いやすいし」
「僕もシュピーゲルSが合ってるな。まあ、乗り慣れているっていうのもあるんだけどね」
「私はどれも不向きです………」
後ろの方でユウナたちが感想を言い合っている。
ユウナもクルトもアッシュ同様、接近戦を得意とする。だが二人の運用法は異なる。
ユウナは打撃と銃撃を切り換えて戦うスタイルだ。
戦場においてその切り換えのタイムラグはスムーズでなくてはならない。なので扱いやすいドラッケンⅡを選ぶのは正しい選択だ。
クルトは剣術一本で戦う。
フレームや駆動がドラッケンⅡ以上性能を持つシュピーゲルSはクルト向きと言える。またリアクティブアーマー機能があるので、損傷率は比較的低い。無論、相応の技量が要求されるが。
アルティナに関してはわからない。
本人曰く、クラウ=ソラスを動かしてきたクセがついていると言う。残るはあれしかないが、それはさすがに無理だろう。
ちなみに俺は全て乗れるが、実験用機体以外の中では強いて言うならドラッケンⅡだ。
高速戦闘が主の俺は扱い易さを重視する。シュピーゲルSも悪くないが、カスタム性が低い。ケストレルβは軽すぎて逆にバランスが悪い。ヘクトル弐型は完全に論外だ。
乗り終えた二人が戻って来た。
「お疲れ、二人とも」
「どうだった?」
「やっぱヘクトル弐型だな」
「私もケストレルβが合っていますね」
「そっか。まあ、全部乗れる人もいるけど」
そう言ってユウナたちは俺を見る。
「…………」
「さすがはキリコさんですね♪」
「こればかりは勝てないな」
「ちなみにキリコさんは選ぶならどれを選びますか?」
「フルメタルドッグ以外ならドラッケンⅡだな。高速戦闘を多用する場合、いかに速く動けるかが要だな」
「だったらケストレルが良いんじゃねぇのか?」
「ケストレルでは軽い分、逆にバランスが悪い。空中戦闘も視野に入れると、効率も良くないしな」
「なるほどな……」
「地に足を付けて戦うってことよね」
「そうだ」
「あっ、皆さん。お疲れ様でした」
ティータが端末を持ってやって来た。
「ティータ!」
「ご苦労様。データが取れたのかい?」
「はい。皆さんのデータをすりあわせて最適なメンテナンスを行えるようにするんです」
「へー、そんな事も出来るんだ?」
「メカニックであるティータさんならではですね」
「……………」
ティータが話している間、俺は格納庫を見ていた。先ほど、分校長と博士が入って行くのを見た。
予感は確信へと変わった。
すると、リィン教官が集まるように指示を出した。
「よし、全員乗ったな。ではこれより模擬戦闘を行う。ケストレルβは一機、シュピーゲルSは二機しかないから適宜交換しながらな。ではまず──」
【その提案、待ってもらおう】
「え?」
声のする方を見ると、格納庫から金色のシュピーゲルSが歩行してきた。
「ええっ!?」
「あれは……!」
「金色のシュピーゲル!?」
「な、な、な……!」
分校生徒たちは言葉を失った。
それはそうだろう。この第Ⅱ分校で金色といえば一人しかいない。
リィン教官は呆然としていたが、我に返りシュピーゲルSに駆け寄る。
「分校長!?これは一体……」
【なに、たまには動かさぬと錆びが浮くのでな。先ほどの言葉だが、生徒たちの模擬戦闘の相手を私が務めよう】
「はあああっ!?」
「ぶ、分校長!?良いんですか、ミハイル教官?」
「私に聞くな!」
さしものミハイル教官も相当堪えているようだな。
(知っていたのか?)
(……ごめんなさい)
ミュゼが小声で謝る。
「まさか分校長が相手だなんて……」
「何だよ、ビビってんのか?」
「あの黄金の羅刹だからな。だが、今の僕たちなら多少なりとも食い下がれるはずだ」
「へぇ、お坊ちゃんが言うじゃねぇか」
「お坊ちゃんって言うな。ユウナとミュゼはどうする?」
「そうね、避けては通れないもんね」
「微力ながら、私も頑張らせていただきます」
二人の気合いも十分のようだな。
「キュービィーもやるんだろうな」
「ああ」
分校長──オーレリアとは内戦で散々殺り合った。今更決着などと言うつもりはないが、全力でいかせてもらう。
[キリコ side out]
【はあっ!】
【ぐわっ!?】
【遅い!実戦ならば命はないと知れ!】
【イ、イエス・マム!】
【次!】
オーレリアの駆るシュピーゲルSの剣技に分校生徒たちの機甲兵は次々に膝をついていった。
オーレリアのシュピーゲルS一機に対して、生徒側は複数というハンデにもかかわらず、オーレリアは全て返り討ちにしただけでなく、何が悪かったのか解説までする余裕すらうかがえた。
数少ない例として、ゼシカとマヤのチームがなんとか食らいついていったが、オーレリアの返し技で敗れた。
【くっ!】
【届きませんでしたか……】
【フフ、シュライデン流の槍技、見せてもらった。そなたの狙撃も悪くない。このまま精進するがよい】
【【は、はいっ!】】
「おい、ヴァンダール。てめえ、食い下がれるって言ったよな?」
「………すまない。自信がなくなってきた」
クルトの闘志は早くも折れかける。
「ゼシカでもダメだなんて……」
「キリコさんはあの人と戦い抜いたことがあるんですよね?」
「ああ。さすがに大分手加減しているがな。模擬戦なら当然だろうが」
「マジかよ……」
「多対一と言えど、本気なら1分も持たないだろうからな」
「一番聞きたくなかったわよ……」
ユウナは耳を防いだ。
「……本気の分校長とは戦ったことはあるのか?」
「何度もある。いずれも撤退させられたがな」
「聞けば聞くほどすごいな、キリコは」
「必死だっただけだ」
キリコは表情を変えずに言った。
「必死、ですか」
「……本気の命の奪り合いだからな。お前たちが経験した修羅場すら比べ物にならないほどのな」
『……ッ!』
ユウナたちはそう語るキリコの目を見て何も言えなくなった。
「! すまない、困らせるつもりはなかった」
「う、うん……」
「……僕たちには想像も出来ない経験をしてきたんだな」
「私も様々な任務に就いていましたが……」
「……………」
(キリコさん……)
「コラ、何一丁前にしょぼくれてやがんだ?」
見かねたランディがやって来た。
「ランディ先輩」
「まっ、確かにキリコはお前らよりも戦場ってモンを知ってるだろうよ。でもよ、今更って感じだろ」
「え……」
「特にユウ坊にクルトにアルきちはそうだろ?キリコが軍隊にいたって知ってから態度を変えたか?」
「あっ!」
「言われてみればそうですね」
「まっ、確かに今更だな」
「キリコさんはキリコさんです」
「つーか、あのバケモンとまともに殺り合ってたってだけでも大したモンだけどよ」
【聞こえているぞ、オルランド。次は貴様だ】
「あら~、聞こえてましたか……」
【返事は?】
「イエス・マム!」
ランディは直立不動で返事した。
【よろしい。後、Ⅶ組特務科との模擬戦は街道にて行う】
「街道ですか?」
「お前たちは他より経験がある。少なくともここより動き易かろう】
「お、お待ちください!街道でやるとなると諸々の手続きが……」
【それならば問題ない。既に手を回してある。それに町長殿からも許可をいただいてある】
「ぐっ……!」
オーレリアの手回しの良さにミハイルは閉口した。
「やってくれるぜ」
「上等じゃない!」
「……気を引き締めておけ」
「え?」
「分校長はなぜ街道を選んだ?」
「なぜって、動き易くするためでしょ?」
「動き易くなるのは俺たちだけか?」
「だけって……あ!」
ユウナはキリコの言わんとしたことに気がついた。
「おそらく、多少本気で来る。そういうことか」
「ハッ、なら遠慮なくブチのめさせてもらうか」
「私たちなら片膝をつかせることはできるかもしれません」
「やってみなくてはわかりません」
「………ああ。そうだな!」
「そうね。こうなったら何でも来いよ!」
(やる気は十分のようだな)
キリコはユウナたちの様子を見ながら、自身も覚悟を決めた。
戦術科とランディの模擬戦闘を終えたオーレリアはリーヴス東の街道に出た。
街道には既にリーヴスの住民が集まっていた。
「うわ~~。集まってるわねぇ」
「お祭り騒ぎだな……」
「………理解不能です」
「良いだろ、別に」
「ギャラリーがいようといまいと、することは変わりませんから」
(もはやバトリングだな。いや、あれとは違う。殺伐さは微塵もない。住民にとっても余興でしかないのだろう)
「キリコ君?」
「ん?どうした?」
「えっと……どうかしたのかなって」
「いや、何でもない。それより、組み合わせは決めたのか?」
「ああ。僕とミュゼとアッシュでいかせてもらいたくてね」
「なら俺はユウナとか」
「それなんですが、ドラッケンⅡの具合があまりよろしくないみたいなんです」
「そうか(ドラッケンⅡは分校生徒のほとんどが乗っている。つまり必然的に消耗が一番早い。ましてやオーレリアが相手なら当然か……)」
キリコは原因に検討をつける。
「つーわけで、先に行かせてもらうぜ」
「気をつけろ」
「ああ。行って来る」
「頑張ったらギュッてしてくださいね♥️できればベーゼも♥️」
「はいはい。さっさと行きなさい」
「ミュゼさんはブレませんね」
「………………」
[キリコ side]
結論から言うと、クルトたちはなんとか片膝をつかせることには成功した。
ヘクトル弐型による超接近戦で相手に張りつき、初動を封じる。
主攻のクルト機が斬りかかり、損害を与える。ケストレルβはサポートに徹し、こちらの損害は予想以上に少なかった。
最後にヘクトル弐型の連携技で勝負を決めた。
ただ、相手は黄金の羅刹。
その精神的消耗は相当なものだろう。機体から降りてきた三人はフラフラだった。
アルティナとユウナが三人を介抱する間、俺はフルメタルドッグを起動させていた。
【あの日以来だな】
【……………】
あの日──七耀暦1204年12月30日のことだろう。
俺は当時、貴族連合軍による帝都侵攻作戦を食い止めるべく、第九機甲師団別動隊に組み込まれていた。
本隊が足止めをする間、別動隊が横から奇襲をかける。
当初はそうだったが、相対するラマール領邦軍の数の多さに作戦は変更。総力戦となった。
俺は迫り来る敵機甲兵や戦車を潰していた。
無論、機体は消耗をしていく。
オーレリアと相対する時には機体は完全にガタがきていた。
【さすがは我が宿敵。だが戦いは非情なものだ。せめて我が一撃で眠らせてやる!奥義・剣乱舞踏!】
【ぐっ……!!】
シュピーゲルの剣技でドラッケンは文字通り真っ二つにされた。
だが俺も爆散する寸前にオーレリア機の頭部に最大威力の銃撃を放つ。
シュピーゲルは頭部を弾かれ、後ろに下がった。
【ぐうぅっ!やるな……!?子ども、だと!?】
【…………】
俺は爆風で意識を失った。
気がついた時には、第九機甲師団は壊滅していた。
あの後、俺やライル中尉を含む若い将兵を逃がしたゲルマック少将を初めとする上級将官はラマール領邦軍に突撃。戦死した。
その後、第九を去り、オーレリアたちに誘われ、このトールズ第Ⅱ分校に入学したというわけだ。
【決着を………と言いたいところだが、お前は一生徒だ。とはいえ、先ほどと同じとはいかぬぞ】
結局、本気で来るようだ。
【シュバルツァー、オルランド、ハーシェル、アーヴィング。生徒たちと住民を離れさせろ。巻き込むわけにはいかん】
分別はあるようだな。指示を受けた教官たちはその通りに動く。
「キリコくーん、頑張って!」
「キリコ!分校長とて消耗もあるはずだ!」
「距離を空ければ大丈夫なはずです」
「てめえ、やり口はわかってるんだろ?」
「キリコさ~ん、いけますよ~!」
Ⅶ組が応援する。いや、Ⅷ組、Ⅸ組もだ。
【フフ、そなたも手ぐらい振ったらどうだ?】
【…………】
仲間、か。やはり悪くないな。
【わかっているだろうが、出し惜しみはするなよ】
【……行くぞ】
【来い!】
双方の合意の下、勝負が始まった。
【ハアアアッ!】
シュピーゲルSの斬撃が唸る。俺はかわしつつ、機体に銃撃を放つ。
【フフ、そうこなくてはな!】
【…………】
時計回りに高速移動し、ガトリング砲と二連装対戦車ミサイルで攻撃。だがシュピーゲルSは大剣を盾にして防ぐ。
【……このままでは埒があかないか】
俺は敢えて接近した。
【フッ、その意気やよし!】
オーレリア機も剣を構え、激しい斬撃を繰り出す。無論、ただでやられるわけにはいかない。
ここだ。
【むっ!?】
俺はフルメタルドッグのターンピックを使い急ブレーキをかける。凄まじい反動がかかるが気にしてはいられない。
シュピーゲルSが一瞬硬直した瞬間を狙い、へヴィマシンガンとガトリング砲を浴びせる。
【やるな。ならば!】
シュピーゲルSからオーラのようなものが溢れ出る。あれか!
【奥義・剣乱舞踏!】
俺は咄嗟にアームパンチを利用し、へヴィマシンガンを質量弾にして飛ばす。次の瞬間、へヴィマシンガンは粉々になった。
【まさか、そのような方法があるとはな……】
オーレリア機の構えが解かれる。
【これで……】
大技を使い、隙が出来たシュピーゲルSにショルダータックルを食らわす。
【ぐうっ!】
【まだだ】
さらに頭部目掛けてアームパンチの連打を打ち込む。合計5発受けたシュピーゲルSは後ろへ大きく下がる。
【ふう…ふう…】
【はぁ…はぁ…はぁ…】
呼吸が荒い。先ほどの反動は想像以上に重い。
また、アームパンチの連打で右アームが動かない。
ローラーダッシュ機構も既に限界寸前だ。
そう思っているうちにシュピーゲルSが接近する。
【もらった!】
【ここだ……】
俺はシュピーゲルSの懐に飛び込み、左のアームパンチをクロスカウンターの要領で当てる。
シュピーゲルSは弾かれ、片膝をついた。倒れないのはプライド故にか。
とはいえ、こちらはもう打つ手はない。武装は使いきっている上、移動もかなり厳しい。
さて、どうするか。
すると、機体からオーレリアが降りてきた。教官たちがオーレリアの下に集まる。
「勝者、Ⅶ組特務科、キリコ・キュービィー!」
【何?】
リィン教官が俺の勝利を宣言した。
「や……やったああああっ!!」
「か、勝った……!」
「勝ちました!」
「あの野郎、やりやがった!」
後ろでユウナたちが飛び上がっており、その後ろで他のクラスやリーヴス住民が拍手していた。
俺は戦いを終えた安堵からか体の力が抜け、機体から滑り落ちた。
「ああっ!」
「キリコさん!大丈夫ですか!?」
ミュゼが真っ先に駆け寄って来た。
「汗がすごいです」
「無理もない。精神的消耗は僕たちの比じゃないだろう」
「キリコ君、本当にお疲れ様!」
「………ああ」
クルトとアッシュの肩を借り、なんとか立ち上がる。
「シュピーゲルSはほとんど限界だったようです」
アルティナの言う通り、シュピーゲルSの機体のあちこちから火花が散っている。
分校生徒たちとの模擬戦でのこれまでのダメージが蓄積していたようだ。おそらく俺との戦いで先に限界がきたのだろう。
「どうした?そなたの勝利だ。まあ、喜ぶ気力もないか」
オーレリアがやって来た。
「まだやれたはずですが?」
「最近乗っていなかったのが災いした。先にガタがきてしまったのだ」
「……………」
「フフ、さすがはキュービィー。まさかあのような手でくるとは」
「……軽蔑でもしますか?」
「まさか。戦いとは優美なものではない。勝利への飽くなき執念が強い方が勝つ。そなたたちも覚えておくようにな」
『イエス・マム!』
分校長の言葉は生徒たちの心に刻まれたようだな。
それにしても、久しぶりに疲れたな。
[キリコ side out]
「さて、これで機甲兵教練は終いだな?」
「ええ。分校長もお疲れ様でした」
「なんの。では休憩の後、演習地の発表を行う」
生徒たちの顔に戸惑いが浮かぶ。
「で、でも、キリコ君も休まないと……」
「その心配はいらんだろう。それにキュービィーは分校生徒だ。特別扱いはせぬし、そなたも望むまい?」
「……………」
キリコはオーレリアの目をまっすぐ見た。
「キリコ……」
「やれやれ。結構意地っ張りだよな」
「無理しちゃダメだからね」
「よろしい。では指定の時間に」
そう言ってオーレリアはシュピーゲルSに乗り、戻って行った。
「本当に化け物ね……」
「黄金の羅刹の名は伊達じゃないな」
「ちなみにラセツというのは、煉獄の鬼をも恐れされる存在だそうですよ」
「東方の言い伝えですか……」
「あのバケモンにピッタリだな」
「コラコラ。あまりそういう風に言うんじゃない」
リィンが生徒たちを諌める。
「とりあえず、昼休憩を挟んだら、指定の教室に集合すること。キリコは一応、医務室へ行くように。では解散」
[ミュゼ side]
休憩の後、私たちは演習地の発表を待ちました。
といっても、次の場所は知っています。
私の生まれ故郷、ラマール州です。
演習範囲は私とキリコさんが暮らしていた海都オルディスに歓楽都市ラクウェル。後、海に浮かぶブリオニア島ですね。
ただ、アラゴン鉱山やアルスター村には行かないようです。
なので、発表されても特に何もありません。
まあ、キリコさんは察しているみたいですが。
今回、オルディスで年に一度の帝国領邦会議があります。
私の計画の第一歩としてまず、あの方を引きずり降ろさなくては。
[ミュゼ side out]
スマートなのも良いですけど、泥臭いのもやはり魅力ですよね。
次回、ラマール州に向かいます。