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6月16日
分校生徒たちはデアフリンガー号に乗り、ラマール州に築かれた演習地を目指していた。
先々月のサザーラント州よりも広大なラマール州とあって、生徒たちの気合いは十分だった。
そんな中でも、キリコはいつもと変わらずに列車格納庫で作業していた。
[キリコ side]
「……………」
「キリコさん、大丈夫ですか?」
「問題ない」
ティータが心配そうに声をかけてくる。
「博士のことは……その……いつものことですから」
「わかっている」
俺はフルメタルドッグを見つめた。
先日の機甲兵教練でフルメタルドッグはボロボロになり、予備の機体を持ってくることになった。
その際に博士から「もう少し上手くできんのか?」と言われた。
無茶を言ってくれるが、俺の操縦技術がいたらなかったと言えばそれまでだ。
一応、戦闘データを見せたのでそれ以上の追及はなかったが、ティータの言うとおりいつものことだと思えばいい。
だがティータから見れば俺が落ち込んでいるように見えたのかもしれない。無論、落ち込んでなどいない。
「それより他の機体データはあるのか?」
「あっ、はい!こちらです」
ティータが端末を寄越してきた。俺はそのデータをまとめる。
「それにしても博士はどうしたんでしょうね。出発前でもあまり話さなかったですけど」
「何か企んでいるんだろう」
「ふう……あっ!すみません、キリコさん。そろそろ食堂車に行きますね。夕食はサラダとチキンソテーです」
「わかった。こちらはやっておく」
ティータが出ていった後、コーヒーの飲みながら作業を進めていく。
[キリコ side out]
夕食を終えた後、ブリーフィングルームでは教官たちが演習について話し合っていた。
「Ⅷ組は機甲兵運用と戦術訓練。Ⅸ組は通信、補給、整備等の実習。Ⅶ組は広域哨戒と現地貢献。これを三日間行ってもらう」
「了解しました」
「了解」
「分かりました」
「今回、ラマール州で帝国領邦会議が開かれる以上、分校長にも来ていただけると見込んでいるが、もはや期待はすまい」
ミハイルは開き直った口調で言った。
「あ、あはは……」
「まっ、いいんじゃないでしょうか」
(帝国領邦会議。ユーシスも来るんだろうな。それにハイアームズ侯爵閣下も来られるはずだ。でも、ログナー侯爵家からは誰が来るんだ?)
「リィン君?どうしたの?」
「何か気になることでもあんのか?」
「いえ、結社も来ているんだろうかって思っただけです」
「それは……」
「来てるだろうな」
「それについては抜かりない。既に鉄道憲兵隊を配置させてある。また、ウォレス少将率いる統合地方軍もオルディス近郊に常駐している」
「あのウォレス少将ですか」
「確か……黒旋風だったか。相当の凄腕らしいが」
「ええ。リィン君は知ってるんだよね?」
「はい。バルディアス流槍術の達人にして、サザーラント領邦軍司令官です。武術の腕は分校長は勿論、アルゼイド子爵閣下やクルトの父親や叔父であるマテウス・ヴァンダール氏にゼクス将軍に匹敵するとか」
「マジか……」
ランディは嘆息した。
「武術云々はともかく……」
ミハイルが口を挟む。
「それだけの面子を揃えているとはいえ、用心するに越したことはない。仮に帝国領邦会議が潰れるとなればこちらにも責任が及ぶ。そのことをしっかりと自覚してもらいたい」
「っ!分かりました」
「こりゃ、難題だな」
「生徒たちにもしっかり通達します」
「よろしく頼む」
「ではシュバルツァー。Ⅶ組は明日、ラマール州現地統括責任者に会って演習開始を報告してもらいたい」
「そのことなんですが、いったいどなたが統括責任者なんですか?」
「そういや、カイエン公爵ってのは逮捕されたんだろ?皇帝を監禁してたってことで」
「え、ええ……」
「……現在、ラマール州はヴィルヘルム・バラッド侯爵が現地統括責任者ということになっている」
「バラッド侯爵……ですか?」
「聞いたことがあります。かなりのやり手だとか」
「逮捕されたカイエン公の叔父にあたる人物で、その地盤を引き継ぐ形でオルディスの暫定統括者になっている。シュバルツァーの言うとおり、かなりのやり手だと聞いている」
「暫定?ってことは公爵さんじゃねぇのか?」
「カイエン公爵と言えば、四大名門の筆頭です。おいそれと簡単に決めていいものじゃないと思います」
「そうだ。おそらく、今回の会議でも次期カイエン公を決めることも議題に挙がっているだろう」
「貴族ってのは面倒くさいんだな」
「…………」
ランディの一言にミハイルは顔をしかめる。
「ま、まあ家格が上がるにつれ、様々なしきたりもあったりしますから」
「とにかく、生徒たちにも責任がかかっていることをしっかりと伝えるように。他に何か質問は?」
「いえ」
「特には」
「こちらもありません」
「よろしい。では、解散」
ミハイルがブリーフィングルームから出ていった。
「リィン君」
「なんですか、先輩」
「さっき、ユーシス君のこと考えてたでしょ?」
「あはは、わかりますか」
「知り合いか?」
「ええ。ユーシス・アルバレア。俺と同じⅦ組の出身です」
「へぇ……って、アルバレアって総督の?」
「はい。ルーファスさんの弟です。また、クロイツェン州の領主代行を務めています」
「マジかよ。Ⅶ組ってのはホントにスゲェな……」
ランディは二度目の嘆息を吐いた。
「ええ。偶然とはいえ、本当にすごいメンバーが集まりました」
「ふふ。でもそっか、ユーシス君もアルバレア公爵代行として来るんだ」
「おそらくは。ただ、ログナー侯爵家はどうなるのか分かりませんが」
「あ………」
「確か謹慎してんだよな」
「はい。一応、アンちゃんが次期当主なんですが……」
「卒業後は導力バイクで大陸一周の旅に出ているんです」
「オイオイ、ずいぶんとファンキーだな。いいとこのお嬢様なんだろ?」
「そのいいとこのお嬢様が鉄鉱山で身分隠してアルバイトをしますか?」
「………………しねぇな」
リィンの言葉にランディは同調した。
「あ、あはは……」
トワは頬をかいた。
「まあ、会議のことは頭に入れておいてもいいでしょう。俺たちは出来ることをやりましょう」
「だな!」
「そうだね」
「では、俺は見回りに行って来ます」
「おう。俺は訓練のプランをまとめとく」
「私は明日の予定のチェックと通信班の子たちの様子を見てくるね」
リィンたちはそれぞれの行動をとった。
「精が出るな……ってキリコ一人か」
見回りと同時に教え子たちと言葉を交わしたリィンは、作業をしていたキリコに話しかけた。
「お疲れ様です」
「ああ。お疲れ。ミッションディスクの調整か?」
「はい」
「……………」
「……………」
二人の間に沈黙が流れる。
「オルディスに住んでいたんだろう。懐かしいんじゃないのか?」
「それなりにですが」
キリコは手を止めずに答えた。
「あまりそうは思ってないみたいだな?」
「どちらかといえば、帝都での暮らしが長かったので」
「孤児院にいたんだったか」
「……………」
「すまない。どうも君とは距離が掴めなくてな」
「そうですか。ただ……」
「?」
「俺は過去を掘り起こされるのは好まないので」
「そうか。すまなかったな」
「いえ」
キリコはカウンターに置いていたコーヒーの飲んだ。
「そういえば、フルメタルドッグの予備が搬入されたんだな」
「一応、この間と同等のスペックです」
「そうか。今回も運用で抜けるかもしれないんだな?」
「いえ、それなんですが」
「何かあるのか?」
「今回は結社の神機のデータを録ってこいとのことです」
「そうなのか。わかった、力を貸してもらうよ」
「ユウナたちには?」
「彼らにはいずれ話す。まあ、何も起こらないのに越したことはないんだがな」
「……そうですね」
キリコは再び端末と向き合った。
(少しは距離を縮められたかな?)
リィンは相棒と話すために最後尾の車両へと入って行った。
6月17日
雨の時期にもかかわらず、晴天に恵まれた。
デアフリンガー号はオルディス南方に築かれた演習地に停車した。
生徒たちは慣れた手つきで演習地にテントなどを設営した。
その後朝食を取り、各クラスはそれぞれの持ち場に付いた。
Ⅶ組特務科もブリーフィングルームに集められていた。
「ではⅦ組特務科。君たちはこれからオルディスの現地統括責任者に会って演習開始の報告をしてきてもらい、広域哨戒と現地貢献をこなしてもらいたい」
「質問があります。オルディスの統括責任者とは?」
「とっつかまって今はいないはずだよな」
「勝手に囀ずるな。統括責任者の名はヴィルヘルム・バラッド侯爵だ」
ミハイルはアッシュを窘めつつ、クルトの質問答える。
「バラッド侯爵?」
(確かそいつは……)
「どんな人なの?」
「カイエン公爵が逮捕された後、その地盤をそのまま引き継ぐ形で統括責任者になった方です。利権に目ざとく、強引な手腕でラマール州を動かしているとか」
「また、次期カイエン公爵とも噂されている方ですね」
「な、なんかクセがありそうな人ね……」
(クセがあるだけなら良いんだがな)
「とはいえ、バラッド侯爵も多忙を極めているらしく、我々だけでは会うことも難しい」
(多忙?)
(バラッド侯──大叔父はオリヴァルト殿下とは違い、悪い意味での放蕩ぶりを発揮なさっているそうです)
キリコとミュゼは周囲に聞こえないように小声で話していた。
「では、どうすれば?」
「……渡りをつける役を買って出てくれた人物が来られている。どうぞ」
「失礼する」
ブリーフィングルームに一人の青年が入って来た。
「パトリック!」
「久しぶりだな、リィン。3ヶ月前の列車以来だな」
パトリックと呼ばれた青年とリィンは固い握手を交わした。
(あっ、あの人って……)
(ハイアームズ侯爵の三男にあたる……)
(教官の同窓だとか……)
「む、リィン、そちらが?」
「ああ。新しいⅦ組だ」
青年はユウナたちの方に向き直る。
「僕はパトリック・T・ハイアームズ。見知りおき願おう、新しいⅦ組の諸君」
「は、はじめまして!ユウナ・クロフォードです!」
「クルト・ヴァンダールです。お見知りおきを」
「アルティナ・オライオンです。きちんと話すのは初めてですね」
「どうも、アッシュ・カーバイドっす」
「キリコ・キュービィーです」
「うん、みんなよろしく頼む。ん?、そちらは……」
「ミュゼ・イーグレットです。お久しぶりですね、パトリックさん」
「あ、ああ……。イーグレット伯爵閣下のお孫さんか。久しぶりだね。伯爵閣下はお元気かな?」
「はい。おじいさまもおばあさまも元気でいらっしゃいます」
(な、なんかスゴい会話……)
(貴族同士の会話か)
(ミュゼさんも貴族ですからね)
(ハッ、そういやそうだな)
(……………)
ユウナたちはパトリックとミュゼの会話に入れずにいた。
「ゴホン。そろそろよろしいですかな?」
「おっと。そうだったな。リィンに新Ⅶ組諸君。これからバラッド侯にお会いするにあたって、僕が渡りをつけることになったんだ」
「良いのか?」
「ああ。僕は今回の会議の世話役だからね」
「わかった。ただ、少し、準備をしてから出発したいんだが……」
「ああ、勿論だ。じゃあ、僕はあの導力バイクの所で待っているから。では失礼する」
パトリックはそう言って出ていった。
「まさかパトリックが来ていたとは思いませんでした」
「彼は今回の帝国領邦会議の世話役だからな。そろそろ私も原隊と連絡を取らねばならん。何か質問は?」
ミハイルの問いにリィンたちは無いことを示す。
「よろしい。では行きたまえ」
Ⅶ組特務科はブリーフィングルームを出た。
「いらっしゃいませ。薬が必要ですか?」
Ⅶ組はパトリックの元に向かう前にカイリたちから補給を得ていた。
「絶縁テープが無くなりそうだから多めに。後、気付け薬も頼む」
「ご利用ありがとうございます」
「リィン教官にⅦ組のみんな。新しい武器入荷してまっせ!」
「わかった。リストを見せてくれ。後スターク。アクセサリも見せてくれるか?」
「了解しました。こちらがリストです」
「あっ、皆さん。これから出発ですか?」
「お、お疲れ様です……」
補給を終えたⅦ組にティータとタチアナが話しかけて来た。
「二人はこれから実習か?」
「はい。まだ時間があるので見送りにと思いまして」
「ありがとう、二人とも」
ユウナが二人に礼を言った。
「あの……アッシュさん。が、頑張ってください……」
「別にいつもと変わんねぇよ」
「あ、後、その……キリコさん……」
タチアナは消え入りそうな声でキリコの方を向いた。
「?」
「せ、先日は、ありがとうございました……」
「先日?何かあったのか?」
「………武器の調整の時か?」
キリコは記憶を辿り、あたりをつける。
「は……はい………」
「ふふ、タチアナちゃん、キリコさんにお礼を言いたいんだよね」
「礼を言われることじゃない」
「で、ですが……。キリコさんは私の魔導杖を細部まで見てくださったので」
「仕事だからな。どんなものであれ、手は抜けない」
「キリコさん……」
「ヴァンダールより頭固ぇな、お前」
「……その理屈だと僕が石頭だと言うことになるんだが?」
クルトはアッシュを睨んだ。
「まあまあ。でもタチアナって前よりキリコ君と喋れるようになったんじゃない?」
「確かに、タチアナさんはキリコさんを怖がってましたよね」
「そ、それはその……!キリコさんのように寡黙な方はあまりお会いしたことがなくて……って、すみません!」
「気にしなくていい」
タチアナの失言にもキリコは気にしなかった。
(ふふ。良かったですね、タチアナさん)
ミュゼは級友の進歩を祝福した。
「それで、ですね。キリコさんに、聞きたいことがありまして……」
「何だ?」
「はい、その……キリコさん。貴方は攻め手ですか?受け身ですか?」
「?」
キリコはタチアナからの質問の意図が分かりかねた。
「質問の意味がわからないが、俺は基本的にオフェンスだ」
「な、なるほど……!」
(キリコ……絶対に意味が分かっていないな……)
「そ、それでっ!お相手は……」
「ふふっ、まあいいではありませんか。それより教官、パトリックさんが待っているのでは?」
興奮するタチアナにミュゼが待ったをかける。
「そ、そうだな。すまない、二人とも」
「い、いえいえ。引き止めてすみませんでした」
Ⅶ組は二人と別れた。
(さっきの質問ってどういう意味なの?)
(ふふっ。乙女の嗜みです♥️)
(あっそ……)
(???何のことでしょう?)
(アルは知らなくて良いの)
「すまない、待たせたな」
「いや、問題ない。では出発しようか」
「そうだな。パトリックはサイドカーに乗ってくれ。アルティナはユウナとクルトの隣に乗ってくれるか?」
「分かりました」
「んじゃ、運転は頼むぜ」
アッシュはさっさとサイドカーに乗った。
「わかった。ミュゼは後ろに乗れ」
「了解しました♥️」
ミュゼはキリコの後ろに乗る。
「それじゃ、運転はあたしが──」
「クルトさん、お願いします」
「わかった」
「そんな~~!」
ユウナは渋々クルトの後ろに乗った。
「ハハ、良いクラスじゃないか」
「やれやれ。それじゃ、出発しよう」
「了解しました」
「了解」
三台の導力バイクは海都オルディスを目指して走り出した。
「フフフ、来た来た♥️」
近くの高台から三台の導力バイクを双眼鏡で見つめる者がいた。
「キリコに灰のお兄さんたち、こっちに来たんだ」
「そのようですな」
「楽しみだなぁ♪キリコ、強くなっているんだろうなぁ♪」
「お言葉ですが、我々は今回、第Ⅱ分校とは関わりが薄いそうです。キュービィーとやり合うのは望み薄かと」
「うーん、そうなんだよねぇ。前みたく味見しに行っても良いんだけど、向こうも襲撃に備えてるしねぇ。それに口煩いのがいるし」
「現時点で彼らとぶつかるメリットはありません。大人しく戻りましょう」
「うーん。でもぉ、キリコのことも気になるしぃ。ペンダントも預けてるしぃ」
「はぁ……(人食い虎がまるで猫だな……)」
「そういえば、この間パパにキリコのことを話したら何か落ち込んでたけど、どうしたのか分かる?」
「さ、さて……(やけ酒を煽るほどの衝撃だったようだが)」
「まっ!戦場で目当ての獲物に会えないってのも普通だし、今回はお預けかな?」
「では……!」
「うん、戻るよ~(な~んて、今夜辺りに会いに行っちゃおうかな?)」
数分後、高台から気配は完全に消えていた。