リィンたちⅦ組とパトリックは導力バイクに乗り、海都オルディスを目指していた。
「ふむ、初めて乗ったが悪くないな」
「ははっ。まあ、普段は乗らないよな」
「潮風が気持ちいい~~!」
「僕も海は初めてだな。アルティナ、揺れるかい?」
「いえ。ユウナさんより安全です」
「ふぁ~っ……なかなか運転が上手ぇじゃねぇか」
「操作自体は簡単だからな。コツさえ掴めれば誰でも扱える」
(キリコさんの背中。大きくて暖かいです。お父様を思い出してしまいますね……ううん。キリコさんはキリコさんです)
ミュゼは生前の父の面影をキリコに見ようとして、止めた。
「そういえば、パトリックさんは教官と同窓だそうですが……」
「ああ、そうだよ」
「その……失礼ながら……」
「どうしてリィンと友人になれたか……かな?」
「あ……はい……」
クルトは申し訳なさそうに返事した。
「……最初にリィンと、いやⅦ組と出会った時はこんなに親しくなんてなかった。むしろ見下していた」
「えっ!?」
「当時の僕は悪い意味で誇りを持っていた。貴族生徒で構成されたⅠ組Ⅱ組こそ至高であり、身分に関係なく集められたⅦ組を寄せ集めだと公言していたんだ」
「身分に関係なく?」
「Ⅶ組発足以前のトールズ本校では貴族の方と平民の方とでクラスが分けられていたと聞いたことがあります」
「そうなんだ……」
「まあ……当時はいろんな意味で目立っていたよ。期待もあればやっかみも受けることもあった」
「それだけならいざ知らず、事ある事に絡んでいった。終いには、罵詈雑言を浴びせてしまったことさえある」
「あの……もしかして、侯爵さんが言っていた無礼って……」
ユウナが恐る恐る聞いた。
「……ああ。武術教練でⅠ組とⅦ組とで行った模擬戦のことだろう。敗北したにもかかわらず、それを認めないばかりかリィンやⅦ組を侮辱してしまったんだ」
「そんなことが……」
「意外です……」
「ハッ、みっともねぇな」
「アッシュ!」
「いや、君の言うとおりだ。僕は無意味なプライドにすがって人として大事なものを見失っていたんだ」
「パトリック……」
「それからは少しずつ歩み寄って行き、学院祭や内戦を経て完全に和解したんだ」
「良かったですね」
「ああ。あの一件がなかったら、今の僕はなかったと心から思うよ」
一行はオルディスに到着した。
「ここがオルディス……」
「紺碧の海都とは言ったものですね」
「ここに来るのは内戦以来ですか」
「ハッ。相変わらず着飾った連中が多いな」
ユウナたちがオルディスの風景に見とれている横で、ミュゼは大きな建物を見つめていた。
「……………」
「気になるか?」
「……はい。一応、実家ですから」
「あまり気負うな」
キリコはそれだけ言って離れた。
(……そうですね。今はⅦ組ですから)
ミュゼは気持ちを切り替えた。
「教官、パトリックさん。あの大きな建物が公爵さんの家なんですか?」
ユウナはリィンとパトリックに聞いた。
「ああ、そうだな。パトリック、これからあの城館に?」
「ああ。それじゃ、僕についてきてくれ」
パトリックを先頭にⅦ組は貴族街へと向かった。
Ⅶ組は貴族街でも一際大きく、豪奢な城館へとやって来た。だが──
「不在!?そのような予定はなかったはずだ!」
「申し訳ありません。どうしても出かけると言って……」
肝心のバラッド侯爵はいなかった。
「お戻りになるのは何時だ!」
「お、おそらく……昼前には……」
パトリックの剣幕に使用人も狼狽えるばかりだった。
「運がないわね。出かけてるなんて」
「そういや聞いたことあんな。バラッド侯ってのはラクウェルの劇場や高級クラブに入り浸ってるってな」
「何!?」
アッシュの言葉にクルトは驚きを隠せなかった。
(公務そっちのけで遊び呆けているというわけか)
「為政者として大きく欠けていますね」
「ア、アル……!」
「アルティナ、もう少し言葉を慎むようにな」
リィンがアルティナを窘める。
すると、パトリックが封筒を持ってやって来た。先ほどと違い、疲れきったような表情だった。
「あ………」
「すまない、待たせた」
「……バラッド侯はかなり問題のある方なんだな」
「そう思ってもらって構わない。事実、大事な会議の直前にラクウェルに行っていたなんてこともザラさ」
(はぁ……。相変わらずですね……)
ミュゼは心の中でため息をついた。
「その……頑張ってくれ」
「ああ、そのつもりさ。おっと、これが君たちに渡す書類だ。受け取ってくれ」
リィンはパトリックから封筒を受け取った。
「確かに。トールズ第Ⅱ分校、演習開始を報告します」
「承った。それじゃ、僕はここで。演習の成功を祈ってるよ」
「ありがとう、パトリック」
「ありがとうございました」
「ああ、君たちも頑張ってくれ」
Ⅶ組はパトリックと別れた。
「はぁ~~大きい屋敷だったわねぇ。維持費だけでも何億もかかっているんじゃない?」
「それくらいの価値はするだろう。カイエン公爵家は四大名門の筆頭格だからね」
「資産だけでもクロスベルの年間予算並みににあるでしょうね」
「はぁ……言葉が出ないわよ……。そういえばキリコ君とミュゼは来たことあるの?」
「あるわけないだろう」
「伯爵家といえども、そう簡単には来られませんから」
「とりあえず、依頼を見てみよう」
ユウナたちはリィンの前に集まった。リィンは封筒から書類を取り出した。
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船舶の立ち入り検査補助 (任意)
夏至祭の準備(任意)
アウロス海岸道の手配魔獣(必須)
スターサフィールの捜索 (任意)
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「結構あるわね」
「任意が三つに必須が一つか……」
「はん、ラクウェルにもあるたぁな」
「午前をオルディス周辺。午後をラクウェルということか」
「そうだな。その方が効率的か」
「もうひとつは何ですか?」
「ああ。見てみよう」
リィンはもう一枚の書類を取り出した。
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ラマール州内で複数の武装集団が確認されている。Ⅶ組特務科はこれを調査すること。
また、武装集団は以下の場所で目撃されている。
アウロス海岸道東
西ランドック峡谷道・ロック=パティオ
北ランドック峡谷道
西ラマール街道北東
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「これは……」
「州内に複数の武装集団!?」
「西ラマール街道ってさっき通って来たとこじゃない!」
「教官、これは……」
「いや、結社と決めつけるのは早計だ。とにかく、依頼をこなしつつ、探ってみよう」
リィンの言葉に全員が頷く。
「では、私がオルディスの案内を努めさせていただきますね」
ミュゼが挙手をし、案内役をかって出た。
「キリコ君じゃないんだ?」
「ああ。オルディスにいた頃はほとんど外に出なかったからな」
「デートの時に海岸に行ったくらいですよね♥️」
「へえ……?」
アッシュはニヤニヤした。
「真相は?」
「武装の訓練だ」
「そんなことだろうと思ったわよ……」
キリコの語る真実にユウナは呆れた。
「やれやれ。とにかく、頼むよ」
「お任せください♪」
ミュゼを先頭にⅦ組は一旦、商業区へと向かった。
[ミュゼ side] [夏至祭の準備]
私たちは情報収集を兼ねてオルディス各区域を周りつつ依頼をこなすことにしました。
商業区へと戻った私たちは二つの商会を覗いてみることにしました。
一つはオルディスに古くからある老舗商会のリヴィエラスコート。
お値段は多少張りますが、品質の良いものが手に入ります。ただ、最近は新しい商会の進出で客足が減りつつあるそうです。
それがもうひとつのクライストモールです。
帝国内に多くの支店を持つクライスト商会が経営する商店で、薄利多売をモットーとした手法でオルディス市民の心を掴んでいるようです。
また、支社長のヒューゴ・クライスト氏は教官の同窓生でベッキーさんのライバルだとか。
次に貴族街に来ました。
貴族街はその名の通り貴族の方々が住んでいます。
内戦以前は幅を利かせる方が多かったそうですが、今は帝国政府と大叔父の改革により、肩身の狭い思いをされる方々が多いそうです。
「あら?もしかしてリィンさん?」
「ああっ!フェリスじゃないか!」
そんな時、私たちはフロラルド伯爵家のご令嬢のフェリスさんにお会いしました。
フェリスさんはパトリックさんと同じトールズ本校Ⅰ組に在籍されていた方で、アリサさんとはラクロス部のライバルだったそうです。
また、リヴィエラスコートの経営者の一人でもあります。
ちなみに私も一度お会いしています。
フェリスさんと情報交換した後、オルディス大聖堂でお祈りしました。
ただ、キリコさんは気が進まなそうでした。
思えばキリコさんは神様というものを信じていらっしゃらないようです。
次に港湾区地区に来ました。
ここは商業船や観光船など、たくさんの船が停泊しています。
演習範囲に含まれているブリオニア島へ行くにもここから出ます。
港湾地区では、たくさんの労働者の方々が働いています。
あの方たちがいてこそ、私たち貴族の暮らしが成り立っているんです。
また、船員酒場にはレオノーラさんを知る方が多くいました。レオノーラさんも暇をみて来ると言ってました。
最後に、北区に来ました。
ここは私の家族が住んでいて、私もお嬢様なんて呼ばれてます。
おじいさまは元々身分など気になさらないので、住民の方との仲は良好で、特に近くの食堂は古くからの行きつけになってます。
(若もお元気そうでなによりですなあ)
(公爵家も安泰だね♪)
また、屋台のバルトロさんや花屋さんのグリシーヌさんはキリコさんのことを若、もしくは若旦那なんて呼びます。一応私だけに聞こえるように配慮してくれましたが、面と向かって言われると………恥ずかしいです。
私はなんとか平静を保って依頼人のシュトラウスさんの元へと向かいます。
「ほう。青坊主にイーグレットの嬢ちゃんか」
シュトラウスさんはなぜかキリコさんを青坊主と呼びます。
「……………」
「お久しぶりです、シュトラウスさん」
「ククク……青坊主たぁ上手いこと言うな、じいさん」
「確かにキリコさんは短髪で髪の色はブルーですが」
「アル、そういうストレートな意味じゃないと思うわよ……」
「ミュゼ、こちらが依頼人のシュトラウスさんか?」
「はい。とても腕の良い職人さんで、皇帝陛下から黄綬勲章を授かったこともあるんですよ」
「それはすごいな……!」
「黄綬勲章?」
「優れた職人に授与されるものだよ。いわば、皇帝陛下も認める職人さんということなんだ」
「そ、そうなの!?」
クルトさんの説明でユウナさんもピンときたようです。
「フン、少しはものがわかりそうな客だな。権力と人の器を履き違えたどこぞの阿呆とは大違いだな」
「お、親方……」
シュトラウスさんをお孫さんのルーサーさんが諌めます。
「ずいぶんと偏屈なじいさんだな」
「それだけ誇りを持っているんだろう」
シュトラウスさんは職人さんをないがしろにするような方を嫌っていますが、おじいさまのように職人さんを大事にする人には素直に応える方です。
「それで、依頼内容とは?」
「夏至祭の飾り細工をこしらえる材料を取って来てもらおうか」
「材料?」
「ああ、ヒスイ貝のことですね?」
ヒスイ貝はオルディスの夏至祭で飾り細工として古くから用いられています。
私たちはヒスイ貝を探しにアウロス海岸へと向かうことに。
「わあっ……!」
「これはすごいな……」
「広いです……」
ユウナさんとクルトさんとアルティナさんは目を丸くしています。
「オイ、とっとと済ませちまおうぜ」
「気持ちは分からんでもないが、今は演習中だ」
逆に見慣れているアッシュさんとキリコさんはユウナさんたちを諌めます。
ユウナさんたちが戻ったところで捜索開始です。
「確かシュトラウスさんは大きくて光沢のあるものと言っていたな」
「はい。ヒスイ貝は大きいものほど光沢を増します。なるべく大きいものを探しましょう。また、鮮やかなヒスイ貝はもちろんですが、立派なヒスイ貝もあれば手に入れましょ
その後、私たちは魔獣に気をつけながらヒスイ貝を探しました。
また、手配魔獣は指定の場所にはいないようなので放っておいてよさそうです。
三十分後、私たちは大きなヒスイ貝を集めることができました。
「大きいですね」
「これならシュトラウスさんも満足してくれるだろう」
「それじゃ、早く届けてあげようよ」
私たちはオルディスに戻り、ヒスイ貝をシュトラウスさんに渡しました。
シュトラウスさんはそれほど期待してなかったようで、驚いていました。
何はともあれ、依頼達成ですね。
[夏至祭の準備] 達成
[ミュゼ side out]
[キリコ side] [船舶の検査補助]
シュトラウスの依頼の後、俺たちは港湾地区に来た。
ここオルディスにはボートのような小型船からクルーザーのような大型船まで停泊している。
真っ当に扱うならいいが、中には闇取引に使うやつもいるらしい。
また、停泊料金を過少申告したり踏み倒す馬鹿もいたそうだ。
係員のエストンは俺たちに現時点で停泊している船を一つ一つ見て回り、書類と異なる船舶を発見し次第、持ち主に修正させる手伝いをしてほしいとのこと。
最初に俺たちは準中型船を見つけた。船体にステッカーが見当たらないので持ち主を呼び出し、処理を行う。
次に中型船を見つけた。
これは停泊料金を払っていないらしい。持ち主を呼び出すと、貴族らしき男が来た。
要領よくしろと言われたが、そんな取引に応じられるわけもなく、最後には料金を払わせた。
最後に準大型船を見つけた。
だがどうみても大型船だ。持ち主を呼び出すと、先ほどの男より上の貴族が来た。
こいつがくせ者だった。何を言っても平民の分際でと聞く耳を持たず、挙げ句に政府やバラッド侯のせいにしていた。
激昂しかけたユウナをミュゼが押さえ、リィン教官が詐欺行為であるとしてTMPに連絡するようにエストンに言ったことでようやく観念した。
ユウナは納得していないようだが、依頼人が十分というので口を挟むことはない。
依頼はこれで達成だろう。
[船舶の検査補助] 達成
[キリコ side out]
「これでオルディス内での依頼は終了だな」
「そうですね」
「とりあえずどこかで休憩しません?」
「なら商業区だな」
「あの~、でしたら……」
ミュゼが挙手をした。
「私の実家に行きませんか?」
リィンたちは北区のイーグレット伯爵家の前にやって来た。
「ここがミュゼの実家なんだ?」
「さすがに大きいですね」
「そういや、お前はここにいたんだろ?」
「ああ、帝都近くの仮設住宅から移ってきた。第Ⅱ分校を受験するまで住まわせてもらった」
「キリコさんがいらしたのは四月半ばでしたから一年近くですね」
「なるほどな」
すると、門が開いて中からメイドが現れた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。キリコ様もお久しゅうございます」
「お久しぶりです、セツナさん」
「どうも」
ミュゼは微笑み、キリコはやや素っ気なく返す。
「皆様もようこそいらっしゃいました。私は当家に仕えるメイドのセツナと申します」
「これはご丁寧に。わざわざすみません」
「では皆様、こちらへどうぞ」
リィンたちはセツナについていった。
リィンたちは応接間に通された。そこにはイーグレット伯爵とシュザンヌ婦人が待っていた。
「おお……。ミュゼ、久しぶりじゃな」
「お帰りなさい、ミュゼ」
「ただいま戻りました。おじいさま、おばあさま」
「キリコ君もしばらくぶりじゃな」
「お久しぶりです」
「ふうむ……一段と凛々しくなったようじゃの。さぞモテモテなんじゃろ?ん?」
「………………」
「あなた、お客様もいらっしゃるんですよ。ごめんなさいね」
「いえ、お構い無く……」
(この方がミュゼさんのお爺さんですか……)
(カイエン公の相談役だったそうだが)
(なんか、想像してたより親しみやすい人ね)
(食えねぇじいさんだな)
ユウナたちはイーグレット伯爵とミュゼのやり方を眺めていた。
「おっと、自己紹介がまだじゃったな。わしはセオドア・イーグレット。ミュゼの祖父じゃよ」
「ミュゼの祖母で妻のシュザンヌです」
「お初にお目にかかります。Ⅶ組特務科教官のリィン・シュバルツァーです」
「ユウナ・クロフォードです」
「クルト・ヴァンダールです、お見知りおきを」
「アルティナ・オライオンです。はじめまして」
「アッシュ・カーバイドだ」
それぞれが自己紹介をした。
「君たちのことはミュゼからの手紙で知っておったが、なかなか見所のある子たちじゃの」
「ありがとうございます」
「まさか、あの灰色の騎士殿が教官だとは思わなんだ 。リィンさん、孫娘をよろしくお願いしますぞ」
「わかりました」
リィンと握手を交わしたイーグレット伯爵は手をパンッと叩いた。
「さて、堅苦しい話はこれくらいにしよう。セツナさん、準備はできているかの?」
「はい。ちょうどスコーンが焼き上がりました」
「セツナさんのスコーンは絶品なんですよ」
「そういえば良い匂いがするわね」
「食べてみたいです」
「ははは。それじゃ、ご相伴に預かろうか」
「皆さん、座ってくださいな。キリコさんはコーヒーだったわね」
「ありがとうございます」
リィンたちは運ばれてきたスコーンなどのお菓子を紅茶やコーヒーとともにいただいた。
イーグレット伯爵とのとりとめのない会話を楽しんだⅦ組は再び演習へと戻っていった。
「はぁ~~、美味しかった~~」
「ミュゼさんの言うとおり絶品でしたね」
「ふふ、私も久々にいただきました」
「お前らそればっかだな」
「まあ、いいんじゃないか」
呆れるアッシュをクルトが諌める。
「次は手配魔獣か」
「(こっちは相変わらずだな)……ああ、そうだな。三人とも、そろそろ切り替えてくれ」
「い、言われなくても!」
「そうですね」
「次の手配魔獣はアウロス海岸でしたね」
「ああ。それに、こっちのこともある」
リィンは重要書類を取り出した。
「それがありましたね」
「複数の武装集団だったか」
「いったい何なのかしら」
「それはわからない。Ⅶ組特務科は手配魔獣を倒した後、目撃された場所を調査する」
「わかりました」
「んじゃ、とっとと行こうぜ」
「あんたが仕切んないの!」
Ⅶ組は手配魔獣のいる場所へとやって来た。
「いた……!」
「あの虫みてぇなやつか」
「外殻は堅そうですね」
「アーツで崩すしかなさそうだな」
「そうだな。では前衛を俺、クルト、アッシュ、キリコ。後衛をユウナ、アルティナ、ミュゼでいこう。総員、戦闘準備」
『イエス・サー』
(ここは思い出の場所。取り除かせてもらいます!)
手配魔獣はその鈍重な見た目とは裏腹に動きは速かった。
また、凍結状態をひきおこす技を多用してくるのでリィンたちは苦戦を強いられた。
だが数の利もあり、リィンたちは徐々に劣勢を覆し、最後はⅦ組全員のバースト攻撃で手配魔獣を討伐に成功した。
リィンたちは休憩がてら、ビーチを眺めていた。
「気持ちいいわね……」
「ああ。こんな場所があるなんてな」
「天然のプライベートビーチですね」
「水着持ってくればよかったかも……」
「へぇ?際どいやつか?」
「紐ですか?それともスケスケ?」
「普通のよ!」
ユウナは真っ赤になって叫んだ。
「ほら。そろそろ行くぞ」
リィンが全員に集合するよう声をかけた。
「……………」
「ミュゼ?どうかしたの?」
「いえ、なんでもありません」
「そう?ならいいけど」
ユウナはリィンの元へと向かった。
(お父様とお母様が生きていた頃の大切な思い出の場所。また来れてよかった)
ミュゼはもう一度ビーチを見て、歩き出した。
「さて、もうひとつの方の調査を始める」
リィンの言葉に全員が頭を切り替える。
「複数の武装集団……」
「やっぱり結社なんじゃないんですか?」
「どっかのアホが猟兵団でも雇ったんじゃねぇか?」
「ですが、何のために?」
「……おそらく会議だろうな」
「領邦会議を狙って……?」
「とにかく……」
リィンはパンッと手を叩く。
「現時点では何だって疑える。真実を見極めるためにも、慎重に調査するぞ」
「わかりました」
「戦闘も予想されます。準備は大丈夫ですね」
「そんじゃ、行くか」
「ええ」
「……………」
ユウナたちが気合いをいれる中、キリコはアーマーマグナムの弾丸は補充した。
リィンたちは慎重に武装集団が目撃された場所へと近づいた。
(教官!あそこ……紫色の……)
(ああ。だがあの装束は……)
(猟兵……ですね……)
(大剣が三人、ライフルが一人か)
(やるなら今だな)
(どうしますか?)
(総員、武器を出しておいてくれ。油断するなよ)
リィンたちは紫の猟兵たちの前に出ていった。
「なっ!?」
「お前たちは……!?」
「トールズ第Ⅱ分校・Ⅶ組特務科だ」
「トールズ……Ⅶ組だと……?」
「あんたたちは猟兵だな。ここで何をしているのか教えてもらおうか」
「何だと!」
「待て……こいつは……」
「まさか、灰色の騎士か!」
紫の猟兵たちはリィンに驚くも、口元に笑みが浮かぶ。
「まさか我らにとって因縁の相手と遭遇するとはな」
「だが、我らの邪魔はさせぬ」
「後ろの学生共々散ってもらおうか!」
紫の猟兵たちはそれぞれの得物を構えた。
「来やがれ!」
「先ほどと同じフォーメーションで攻めましょう!」
「数は上だが、油断はしない!」
「Ⅶ組特務科。これより、武装集団との戦闘を開始する!」
『イエス・サー!』
紫の猟兵たちは数こそ少ないが、経験ではⅦ組に勝っていた。
ARCUSⅡの戦術リンクに頼らずとも、高い連携力を見せた。
反対にⅦ組はこれまで培ってきた連携力と数の利を生かして、食らいついていった。
大剣を持った猟兵がアルティナのアーツで体勢を崩した。
「フレア・デスペラード」
間髪入れず放ったキリコのSクラフトで紫の猟兵たちは膝をついた。
「なかなかやるな」
「ただの学生と思ったのは間違いか」
「やっと気づきやがったか」
「ああ。だから本気でいかせてもらう」
「何?」
紫の猟兵の一人が笛を吹いた。
「笛?」
「まさか……!」
「しまった!」
リィンたちの背後から増援が駆けつけて来た。
中には武装した猫型魔獣もいる。
「形成逆転だな」
「頑張ったがここまでだ」
「諦めろ」
『!』
この言葉にユウナたちの心は萎えるどころか、再び立ち上がらせた。
「悪いけど、それを許してくれないのよね……!」
「ああ、戦場ではこういったことはたたみかけるのが常だからね」
「泣き言を言う前にこの状況をなんとかする、です」
「悪ぃな。こっちにゃ負け戦をひっくり返しちまうようなバカがいんだよ」
「少なくとも、驚くに値しませんので♪」
「………………」
ユウナたちの言葉とキリコの視線に紫の猟兵たちはたじろいだ。
「クッ、貴様ら……」
「いいだろう。女神の元へ逝くがいい!」
「そうはいかない!」
リィンが太刀を構える。
「リィン教官……」
「教え子にここまで言われては引き下がれないからな。この地を守るためにもな!」
「ヘッ!」
「僕たちもお供します!」
「Ⅶ組ですからね!」
「数は向こうからな上ですが、全員ならば勝機はあるかと」
ユウナたちの士気がさらに上がった。すると──
「ならばその思い、我らも加えてもらおうか!」
「ボクもいるよ~~!」
突如、馬の嘶きが響く。
響いた方向から白馬に乗った金髪の青年が駆けつけて来た。
「あ……」
「あの人は……」
(間に合いましたか)
金髪の青年は左手で手綱を華麗に操り、右手に持った剣で紫の猟兵たちを蹴散らす。
「ミリアム!」
「オッケー!いっくよー!がーちゃんハンマー!」
ミリアムと呼ばれた少女が巨大なハンマーを叩きつける。叩きつけた衝撃で猫型魔獣はまとめて消滅した。
「なんだありゃ!?」
「スッゴ……!」
「ハハハ……」
紫の猟兵たちを蹴散らした二人はⅦ組の前にやって来た。
「無事のようだな。リィン、新Ⅶ組」
「みんな、久しぶりだね!」
「ユーシス、ミリアム」
リィンは二人の名前を呼んだ。
ユーシスと呼ばれた青年は紫の猟兵たちに失せるよう一喝した。
不利を悟った紫の猟兵たちはリィンを一瞥し、去っていった。
「久しぶりだな。リィン」
「ああ。だが、白馬で駆けつけて来るなんてちょっとあざとくないか?」
「間に合ったからいいだろう」
リィンは馬から降りた金髪の青年と握手した。
「教官、もしかして……」
「ミリアムさん同様……」
「ああ、察しの通りだ」
金髪の青年が前に出て胸に手を当てる。
「ユーシス・アルバレア。見知りおき願おうか、新Ⅶ組」
「は、はじめまして!ユウナ・クロフォードです!」
「お初にお目にかかります。クルト・ヴァンダールです」
「アッシュ・カーバイド。よろしくな」
「キリコ・キュービィーです」
「よろしく頼む。そちらは久しいな」
「お久しぶりです」
「お久しぶりです、ユーシスさん」
「ユーシスはミュゼのことも知っているんだな」
「イーグレット伯爵と言えば、カイエン公爵の相談役として知られている。隠居なされているとはいえ、その影響力は今なお絶大とされているからな」
「ミュゼのおじいさんってそんなすごい人だったんだ……」
ユウナが驚いている横では──
「や、やめてください……!」
「いいじゃ~~ん、久しぶりなんだから。ボクがお姉ちゃんなんだからね」
「は、離してください……。だ、だからあなたは姉では……」
「んもー。アーちゃんったら、恥ずかしがり屋なんだから~♪」
「ち、違っ……!」
アルティナとミリアムがじゃれあっていた。
「あはは……。やっぱり仲良しね」
「あのミリアムさんはアルティナさんのお姉さんなんですね」
「中身は正反対みてえだけどな」
(いや、この二人は意外と似てるかもしれないな)
リィンは心の中でそう思った。
次回、元教官と麗人が登場します。
連載開始からもう半年が経過したんですね……。