英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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連続の一万字超え。多分来年から投稿ペースが落ちると思います。それでも頑張りますのでよろしくお願いします。

少し加筆しました。


遭遇②

リィンたちはユーシスとミリアムと共に海岸道を歩いていた。

 

「じゃあ、ユーシスも会議に出席するんだな」

 

「ああ。父上は既に領主は解任されているからな。領主代行とはいえ、これも役目だからな」

 

「そういや聞いた話なんだが、アルバレアっつうのはてめぇんとこの領地を領民ごと焼き払ったそうじゃねぇか?」

 

「……………」

 

ユーシスは黙り込んだ。

 

「ちょっと!アッシュ!」

 

「……いい。アッシュの言うとおりだ。内戦の時、我が父、ヘルムート・アルバレアがケルディックを焼き払ったのは事実だからな」

 

「ユーシス……」

 

「そしてこれは我がアルバレア家が永劫背負っていく罪と罰だ。そして、ユウナ」

 

「はい?」

 

「クロスベルでのことは聞いている。兄上がとんでもないことをしたそうだな。許してくれとは言わないが、申し訳ないことをした」

 

ユーシスは愛馬から降りて謝罪した。

 

「い、いえいえ!ユーシスさんが謝ることじゃありませんよ!それにあたしがここにいられるのはⅦ組の先輩方がクロスベルを守ってくださったおかげなんですから」

 

「ボクたちがガレリア要塞にいた時だね」

 

「列車砲発射を食い止めたそうですが?」

 

「何度聞いても、すごいと思います」

 

「すまん……」

 

ユーシスはもう一度頭を下げた。

 

 

 

ユーシスの謝罪の後、一行はカイエン公爵家城館へと戻って来た。

 

すると奥から豪奢な装いをした、老貴族が歩いて来た。

 

「おお……アルバレア家の。よくぞ参られた。領邦会議は今回が初めてだったかな?」

 

「はい、バラッド侯。至らぬ点はどうかご容赦ください」

 

「いやいや、若いのに大したものだ。しっかりと勉強してかれることですな」

 

「……ええ、勉強させていただきます」

 

ユーシスは苛立ちをおくびにも出さずに答える。

 

「む?そなたはどこかで見覚えがあるな?」

 

「はじめまして、リィン・シュバルツァーと申します」

 

「シュバルツァー………。おおっ、灰色の騎士か。そなたの活躍は聞いておる」

 

「ありがとうございます」

 

「ふうむ。貴族とはいえ、田舎の出では色々と不足であろう。この次期カイエン公たるこのわしが直々に手ほどきをしてやっても構わんぞ」

 

「……もったいないことです」

 

リィンは澄まし顔で一礼した。

 

「そなたの後ろにいるのは?」

 

「申し遅れました。こちらにいるのはトールズ第Ⅱ分校の生徒で私の教え子たちです」

 

「ほう、そうであったか。曰く付きらしいが灰色の騎士がいるとなれば箔がつくか。ファッファッファ」

 

(な、何よこのオジサン……!)

 

(ユウナ!態度に出すな!)

 

(ここはこらえましょう)

 

(……ケッ………)

 

(………………)

 

(まったく……)

 

ミュゼは顔をしかめた。

 

「バラッド侯。そのくらいにしてください。いくら貴方でも見過ごすことはできません」

 

「フン、わしは事実を言っているに過ぎん。それとも次期カイエン公たるわしに意見するつもりか?」

 

「いえ。ですが、カイエン公爵は四大名門の筆頭格。貴族の手本となるべきかと」

 

「貴族の手本。そんなものはどうでもよい。重要なのはこの地をいかにして繁栄させることだ」

 

「繁栄……?」

 

(他の貴族を没落させてでも繁栄させる。ある意味為政者としてそれは正しいのかもしれないな)

 

バラッド侯爵はリィンたちに聞かせるように両手を広げる。

 

 

 

「わしは愚かな甥とは違う!やつは権威にすがり、身を滅ぼした。そしてすり寄って来た愚か者どもも潰れていった。凝り固まった姿勢こそが悪なのだよ。わしを見るがいい。やつの時とは比べ物にならぬほどの繁栄ぶりを実現した。そのためならば他の貴族が没落しようと知ったことではない」

 

 

 

「バラッド侯……!」

 

「い、いい加減に……!」

 

「──その辺りにしておかれた方がよろしいかと存じます」

 

声のする方を向くと、ハイアームズ侯爵が立っていた。

 

「おお、ハイアームズ侯。ようおいでくださった」

 

「お久しぶりです、バラッド侯。先ほどの話を聞かせていただきましたが、若者に聞かせるのは少々憚られるように思えます」

 

「む……」

 

バラッド侯爵はハイアームズ侯爵の言葉に詰まる。

 

「パトリック、後は頼む」

 

「わかりました、父上」

 

ハイアームズ侯爵はバラッド侯爵とともに立ち去ろうとした。

 

「む?そこの、お前だ」

 

「……何か?」

 

「いや、イーグレット伯爵家に出入りするネズミの噂を聞いたのでな。まあ人違いか」

 

「……………」

 

「バラッド侯……!」

 

「フン……」

 

バラッド侯爵は鼻を鳴らし、去っていった。

 

 

 

「な、な、な、何なのよ、あのオジサン!!」

 

ユウナの我慢も限界だった。

 

「ユウナさん、さすがに失礼かと……」

 

「知ったこっちゃないわよ!ユーシスさん!パトリックさん!あのオジサンを辞めさせる方法はないんですか!?」

 

「…………現実的には不可能だ」

 

「言動や素行はともかく、実績があるからね。それに情けないが、年若い僕たちでは太刀打ちはできない」

 

「そんな!?」

 

「下手をすれば、実家や領地に悪影響が出るおそれもある。それを考えれば容易に手出しはできん」

 

「でも……!」

 

「ユウナ、そこまでにするんだ。納得はできないだろうが、これが貴族というものなんだ」

 

「そうでなくとも、バラッド侯は前カイエン公の親類に当たる人物です。カイエン公は家族を持たなかったので、バラッド侯が次期カイエン公の継承権一位を持っているとか」

 

「なるほど。よほどのことがない限り、継承権は不動というわけか」

 

「…………」

 

ユウナは拳を握りしめた。

 

「キリコ君も悔しくないの!?」

 

「見聞はどうあれ、イーグレット伯爵の世話になっていたのは事実だからな」

 

「キリコ……」

 

(フフフフ………大叔父様……。叔父のことはどうでもいいですが、Ⅶ組の皆さんや教官。何よりキリコさんを侮辱したツケ。きっちりと支払ってもらいますから)

 

ミュゼの両目に静かな怒りが宿った。

 

 

 

ユーシスたちと別れ城館を出た後、Ⅶ組は北区の食堂でランチを取りながら、午後の予定を立てていた。

 

「午後は西ラマール峡谷道をから西ランドック峡谷道を通って歓楽街ラクウェルに行こう。そこで依頼と武装集団の調査を行って一日目を終える。それでいこうと思うんだが……」

 

リィンは説明しながらチラリとユウナを見る。そのユウナはというと──

 

「バクバク……モグモグ……ムシャ……ゴクン……」

 

オムライスとサラダとパスタを猛然と食べていた。

 

「ユウナ……」

 

「明らかに食べ過ぎのやけ食いかと……」

 

クルトはスープパスタ、アルティナはパンケーキを食べながら、苦言を呈した。

 

「太っても知らねぇぞ」

 

アッシュはハンバーガーを囓りながらジト目を向ける。

 

「う、うるさいわねぇ!運動するから平気よ!」

 

「ユウナさん?世界中の乙女を敵に回すおつもりですか?」

 

「うっ……」

 

アルティナ同様パンケーキを食べていたミュゼの言葉にユウナの食べるスピードが落ちた。

 

「ゴメン……」

 

「……落ち着きましたか?」

 

「うん。貴族の人たちって、いろんなしがらみがあるんですね」

 

「ユーシスはそのしがらみが降りかかるのを承知で領主代行になったそうだ。それでいて、自らの宿命に立ち向かおうとな」

 

「ご立派な方ですね」

 

「アルバレア公爵家も大変だとか?」

 

「ああ。カイエン公同様、内戦の主導権を握っていたわけだからな。汚名をすすごうと頑張ってるみたいだ」

 

「上手くいくといいですね」

 

「ああ、そうだな。っと、話が大分それたな。先ほどのことだが……」

 

リィンは再び説明した。

 

「あたしはそれでいいと思います」

 

「僕も異存はありません」

 

「同じく」

 

「私もです」

 

「問題ない」

 

「それと、案内役をアッシュに頼みたいんだが」

 

「メンドくせぇなぁ。なんで俺なんだよ」

 

「ランディさんによると、君はラクウェルの出身だとか?」

 

「そうなの?」

 

「チッ。オルランドの野郎……。わーったよ、案内してやるよ」

 

アッシュは渋々ながら了承した。

 

「決まりね。じゃあ、これ食べたら出発しましょ!」

 

「……そうですね」

 

「というか、キリコさんはそれだけでいいんですか?」

 

「十分だ」

 

キリコはホットサンドを食べ終え、コーヒーを啜っていた。

 

(どこでもブレないな……)

 

(コイツ、カフェイン中毒なんじゃねぇか?)

 

(仮にカフェイン中毒ならキリコさんは落ち着いていられないはずですが)

 

 

 

リィンたちはラクウェルを目指して西ラマール峡谷道を導力バイクで走っていた。

 

途中、武装集団が目撃された場所に降り立った。

 

「ここね」

 

「総員、警戒を怠るな。奇襲に注意しろ」

 

リィンの指示で辺りを見回すも、気配は感じなかった。

 

「気配はありませんね」

 

「既に移動しているんでしょうか?」

 

「かもしれないな。ミリアムからの情報だと、猟兵らしいのが二つあったらしい」

 

「一つは僕たちが遭遇した紫の猟兵ですか」

 

「おそらくな。ただ、一つだけ猟兵ではない武装集団がいたそうだ」

 

「猟兵ではない?」

 

「山賊か野盗じゃねぇか?」

 

「そ、そんなのいるの?」

 

「いるに決まってんだろ。内戦の時なんかやたら出たぜ」

 

「どさくさ紛れの火事場泥棒というわけですか」

 

「卑劣な……!」

 

クルトは怒りを露にした。

 

「とにかく、何が起きてもいいように気を配ってくれ。とりあえず出発しよう」

 

「こっからは山ん中だからな。事故んなよ」

 

一行は再び走り始めた。

 

 

 

西ランドック峡谷道の舗装された道路を通り、一行はラクウェルに到着した。

 

「ここがラクウェルですか」

 

「クロスベルの歓楽街みたいね」

 

「ククク、そっちよりスリリングだろ」

 

アッシュは辺りを見回しながら言った。

 

「スリやカツアゲなんかはよく見るしな」

 

「確かに危険な匂いがしますね。キリコさん、守ってくださいね♥️」

 

「はいそこ離れるー」

 

ユウナがミュゼをひっぺがした。

 

「やれやれ。とりあえずラクウェルで情報収集しながら依頼をこなす。それでどうだろう」

 

「異存はありません」

 

「効率的に行いましょう」

 

「アッシュ、案内は任せるぞ」

 

「しゃあねえな。はぐれんじゃねぇぞ」

 

 

 

[アッシュ side] [スターサフィールの捜索]

 

とりあえず、まずは食堂だな。ここの女将ならなんか知ってんだろ。

 

入ると相変わらず賑わってた。まっ、ここのメシはうめぇからな。

 

女将によるとここ最近、物騒な雰囲気の連中を見かけるらしい。ただ猟兵かどうかまでは知らねぇそうだ。

 

 

 

次に向かいのイカロスマートに来た。

 

店員によると、先日に大量の食料を買い込んでいった客がいた。どうみてもカタギじゃねぇ人相だったらしいな。

 

後、リーファのやつを見かけたが、なんかキュービィーにだけよそよそしいが、なんだ?

 

 

 

気は進まねぇが次は質屋のジジイの店だな。

 

ジジイによると黒い鎧を着た連中を見たとか。ジジイの情報なら信憑性はあるかもな。

 

なんかシュバルツァーも心当たりがあるみてえだしな。

 

だがこのジジイ、こいつらに俺が愚連隊まがいをやってた時のことをバラシやがった。油断ならねぇ妖怪だぜ。

 

後帰り際にジジイがキュービィーにアーマーマグナム用のサイレンサーを売りつけやがった。

 

出所は聞くなっつってたがどっから流れてきたのやら。

 

 

 

次は教会だな。

 

ここにはギャンブルで大勝できますようになんてやつらが毎日来る。

 

おかげで俺が街を出るまで神父が5、6人は代わったな。神頼みなんざ当てにならねぇよ。

 

ここのシスターは相変わらず口うるせー。余計なお世話だろ。

 

だからナメられんだろって言ったら分かりやすいくらい落ち込んだ。とりあえずメンタル鍛えろや。

 

 

 

次はバーだな。

 

ここのバーテンはお袋と幼馴染らしいからさっきのシスターより口うるせー。心配しなくてもやってるよ。

 

バーテンによると妙に肩肘張った茶髪の女が来店したらしい。サザーラントでかち合ったあの女か?

 

 

 

依頼は後回しで次はカジノだ。

 

入ろうとしたらシュバルツァーの野郎が止めやがった。そんなんじゃこのラクウェルに来た意味ねぇだろが。

 

しゃあねえからバニーガールに聞いた。

 

なんか北ランドック街道に没落貴族みたいなのが出入りしてるらしい。なんか臭うな。

 

 

 

一応、高級クラブの前に来た。ここは噂じゃ赤い星座が資金源としてやってるとか。

 

店の前にいた支配人によるととっくに経営権は手放してるらしいな。

 

もっと知りたきゃ、夜に来いとぬかしやがった。ちゃっかりしてるぜ。

 

 

 

「とりあえずこんなもんだろ」

 

「私たちが戦った紫の猟兵に緑っぽい鎧を着た人たちですか」

 

「間違いなく猟兵ね」

 

「やはり北ランドック街道とこのロック=パティオという場所が怪しいな」

 

「このロック=パティオとはどんな場所なんだ?」

 

「西ランドック街道の旧道の外れにあんだ。魔獣も湧いてて住民も近づかねぇ」

 

「武装集団にとっては絶好の場所ってわけね」

 

 

 

「そういえば、さっきのあの女の子、キリコ君にだけよそよそしい感じがしたけど……」

 

「あいつはリーファっつってな、母親がどっかの貴族の家に勤めてたんだが、暇出されたらしくてな。見習いとしてイカロスマートで働いてんだ(ただ、あんな人見知りするやつじゃなかったはずだが)」

 

「リーファさんでしたか。変わった顔立ちをされてますね」

 

「確か母親が東方人らしいな」

 

「へぇ、マヤみたいね」

 

「まあ、今はいいだろ。それより猟兵を追うとしようぜ」

 

「その前に依頼を終わらせるぞ」

 

チッ。

 

 

 

バーの二階に依頼人のガスパールっつうオッサンがいた。オッサンによるとスターサフィールっつう宝石が盗まれたらしい。

 

どう考えてスられたんだろうが、じゃじゃ馬が受けちまった以上、やるしかねぇ。

 

つーか不始末の責任を八つ当たりすんじゃねぇよ。じゃじゃ馬がキレかけてメンドくせぇだろうが。

 

オッサンは昨日、駅に行って仕事してそこの小劇場でステージを観劇。その後宿に戻ってそこで初めてなくなっていることに気づいたっと。

 

とりあえずオッサンの行動を当たってみることにした。

 

駅員に話を聞くとオッサンは宝石を見せびらかしてたらしい。

 

それじゃ盗んでくれって言ってるようなモンだろ。ヴァンダールも頭抱えてるしよ。

 

次に小劇場の支配人に聞いた。

 

オッサンは居合わせた客に宝石を見せびらかしてたらしいが、その客ってのはオルディスの名家だったらしく、オッサンより宝石を持ってたそうだ。ざまぁみやがれ。

 

捜索が行き詰まりそうになったが、キュービィーが質屋に行くと言い出した。

 

なるほどな、あのジジイの店なら盗品が流れてそうだしな。

 

行ってみるとスターサフィールの買い取り値段を聞きに来たやつがいた。

 

買い取り値段を聞いてビビったらしく、プロのスリじゃなく、魔が差した素人かもしれねぇ。

 

犯人の名はジョゼフっつうヨソ者でバーで飲んだくれてる野郎らしい。

 

バーで問い詰めてみると、よっぽど焦ったのかてめえで自白しやがった。多少ゴネたが、最後は観念して出した。

 

しかし"娘"か。なん引っかかるな。

 

オッサンに返した後シュバルツァーが説教して終わった。疲れたぜ。

 

「スターサフィールの捜索] 達成

 

[アッシュ side out]

 

 

 

依頼を終わらせたリィンたちは噴水の前で集めた情報を整理していた。

 

「とりあえず一通り回れたけど……」

 

「武装集団の名前などの情報はありませんね」

 

「もともとこの街は猟兵の出入りが多いからな。多少増えてもそれほど気にならねぇってトコだろ」

 

「……なるほどな」

 

「とすると、調査はここまででしょうか?」

 

「ここまで来たんだ。何かしらの成果は出したいところだが……」

 

「……クク、そんなアンタたちに耳寄りな情報があるぜぇ?」

 

振り返ると、帽子を目深にかぶった怪しげな男がいた。

 

「……ハッ。アンタか、ミゲル」

 

「よお、アッシュ。帰ってきてたんだなぁ」

 

「……アッシュ。知り合いか」

 

「一応な。噂話だの裏話だのをかき集めてメシの種にしてる胡散臭いオヤジだ」

 

「情報屋か」

 

「まあな。灰色の騎士様にトールズ第Ⅱの坊っちゃん、嬢ちゃんたちもようこそ、ラクウェルへ」

 

「へっ……」

 

「さて、アンタたち、武装集団についての情報が欲しいんじゃないのか?」

 

「僕たちがそれを探っていることまで……」

 

「じゃあ、耳寄りな情報って……」

 

「おおっと、ここからは取引だ」

 

情報屋ミゲルはリィンたちに掌を向ける。

 

「まあアッシュとは顔馴染みだ。特別価格でいいぜ?」

 

「ええっ……?」

 

「当然、タダではなさそうですね」

 

「さて、どうするよ」

 

「……気にならないと言えば嘘になるな」

 

「だが、必要はなさそうだな」

 

「へ」

 

キリコの言葉に情報屋ミゲルは呆然とする。

 

「あくまでこれは士官学院の演習だからな。情報収集にミラは使えない。それに──」

 

「そ、それに?」

 

「あんたの情報には信頼性があるのかどうかもわからない。そんなもののためにミラは払えない。悪いが、この話はなかったことに……」

 

「まっ、待った!」

 

情報屋ミゲルがたまらずキリコの話を遮る。

 

「なんだ?」

 

「へ、へへ……お前さん、なかなか世慣れしてんじゃねぇか」

 

「あんた以上のタヌキを知っているからな」

 

「な、なるほどな……」

 

(キリコ君……?)

 

(へぇ?)

 

(……相手が悪すぎましたね)

 

やり取りを見ていたユウナたちは唖然とした。

 

「あ~もうしょうがねぇっ!特別にタダで教えてやらぁ!」

 

「へっ……」

 

「………?」

 

「………………」

 

「西の峡谷道にロック=パティオって地元ので呼ばれる場所があってな。そこにゃ、猟兵団らしいのが出入りしてるみてえなんだ」

 

「そこまではわかっている。肝心なのはそいつらの正体だ」

 

「まあ聞きな。俺も又聞きなんだが、そいつらは竜のマークがあったそうだ」

 

「竜のマーク?」

 

「それと、サービスで教えてやる。北ランドック峡谷道にゃ猟兵とは別の連中がいるらしいぜ」

 

「野盗か何かか?」

 

「そこまでは俺でもわからねぇ。ただ、気をつけなよ」

 

「ハッ、アンタにしちゃやけに太っ腹じゃねぇか?」

 

「アッシュに久しぶりに会ったしな。それにお前さんの度胸に免じてだ。そんじゃ、頑張れよな~!」

 

情報屋ミゲルは去って行った。

 

「へえ……なんか顔に似合わず親切なオジサンねぇ。それにしてもキリコ君ってすごいね!」

 

「大した交渉力ですね」

 

「いったいどこでそんなものを覚えたんだ?」

 

「……知り合いにやり手の商人がいた」

 

「商人?」

 

「酒に酔って色々な話を聞かされたことがある。交渉のコツなんかも勝手に喋っていたな」

 

「なるほどな……」

 

「それより、どうしますか?」

 

「ロック=パティオですね」

 

「竜のマークの猟兵か」

 

「お心当たりは?」

 

「さすがにそれだけじゃ絞り込めないな。とにかく、これはあくまで特務活動だ。偶然手に入れた情報をどう活かすかは考えてみてくれ」

 

「ああん……?」

 

リィンの言葉にアッシュは怪訝な顔をした。

 

そしてリィンの言葉を聞いたユウナたちは話し合い、ロック=パティオの調査を行うことを決めた。

 

「てめえ……意外と人が悪いな」

 

「……やっぱりそういう事か」

 

「っ……」

 

「大丈夫、フォローはする。瓢箪から駒ということもあるし、アッシュも備えておいてくれ」

 

「……クソが………」

 

(わかっていて煽るか)

 

キリコはリィンの意外な腹黒さに呆れた。

 

 

 

一行がロック=パティオを訪れた。

 

「ここがロック=パティオ……」

 

「なるほど、言い得て妙ですね」

 

「ずいぶん音が響くな。各自、声を潜めて会話してくれ」

 

「ああ、ここにいる猟兵に気づかれないように、ですね」

 

「……いや、どちらかというと……」

 

「ハッ、いいから行こうぜ」

 

「現在、午後2時。探索開始、ですね」

 

 

 

「止まってくれ」

 

リィンはユウナたちに止まるよう指示した。

 

「……気配はないな」

 

「いかにも仕掛けてきそうな場所だが」

 

「ふふ、予定が外れたのか、予定が変わったのか……」

 

「…………………」

 

「……?さっきから何を……」

 

ユウナは不思議そうに聞いた。

 

「俺たちはおびき出されたということだ」

 

「あの情報屋──いや、彼を雇った何者かに」

 

「ふふ、おそらく欺瞞情報かと。私たちをこの場所に誘い込むこと自体が目的の」

 

「ハッ、さすがにてめえは端っから気付いてやがったか」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

ユウナは慌てて口を開く。

 

「だって、あのオジサン、アッシュの顔馴染みなんでしょ!?いくらなんでも──」

 

「顔見知りを売るはずがねぇ、ってか?クク、お人好しにもほどがあんだろ」

 

「俺たちを目障りだと思う連中が雇ったんだろう。人の出入りの少ないこの場所に誘い込んで一気に痛めつける、そんなところだろう」

 

「ええ、おそらくは……。私たちが行方不明になれば第Ⅱ分校や地方軍が介入してくるのは予想できているでしょうし」

 

「呆れたな……そこまで読むのか」

 

(……確かに。アッシュやキリコも勘や洞察力は鋭いが、この子は……)

 

「………………」

 

「あ、あんのオヤジ~……舐めてくれちゃって~~っ……!」

 

ユウナは怒りにふるえていた。

 

「ていうか何で気づかないのよ、あたし!?」

 

「そりゃあ、てめぇがお人好しだからだろ」

 

「うぐぐぐ……!というかキリコ君も気付いていたの!?」

 

「だいたいはな。急にタダで教えると言った時は何かあると自白しているようなものだ」

 

「教えてくれてもいいでしょ!?」

 

「ユウナさん、声が大きいです。それにどこから漏れるかわかりませんから」

 

「………そ、それよりこれからどうするんですか?現れないってことはこちらの様子を探っているとか?」

 

「いや、少なくとも現時点で俺たちを監視する者の気配はない」

 

「確かに伏兵や罠の類いは一つもありませんでしたね」

 

「おそらく奥で待ち構えているかと」

 

「なぁ、シュバルツァー。そもそも何処のどいつだと思う?情報屋使って、俺らをここでボコろうとしてたのは?」

 

「そうだな……」

 

リィンはこれまでの経緯を辿りながら黙考する。

 

「おそらく、今まで接触したことのない第四の猟兵団である可能性が高そうだ」

 

「だ、第四……!?」

 

「赤い星座も西風の旅団も僕たちの状況は把握している。海岸道で接触した連中は教官のことを知っていたようだし」

 

「知っていたら当然、こんな迂闊な手は使わない」

 

「チッ、まあ間違いないねぇだろ」

 

「考えられるとすれば、竜のマークの猟兵か……」

 

「竜のマーク……」

 

(おそらく、いや間違いなくそれは──)

 

タタン…タタン……バラララッ……

 

『!?』

 

突如、銃声が響いた。

 

「これは……!」

 

「奥からです!」

 

「状況を確認する。警戒してついてきてくれ」

 

『イエス・サー』

 

 

 

リィンたちが駆けつけると、猟兵同士が戦っていた。目の前の本物の殺し合いにユウナ拳を固く握りしめた。

 

(クク、俺らを誘いだそうとしてたのが黒い方か……)

 

(……特定しました。高位猟兵団ニーズヘッグです)

 

(大陸北西部に伝わるおとぎ話に出てくる竜の名前でしたね)

 

(なるほど……そして迂回した紫の猟兵たちの奇襲を受けたのか)

 

(ああ……。だが、戦況は互角のようだ)

 

すると、紫の猟兵たちは撤退して行き、黒い猟兵は二つに別れ、それを追って行った。

 

その内の一つがリィンたちの方へやって来た。

 

(きょ、教官!)

 

「総員、戦闘準備。ただし先に攻撃するな。アルティナは上へ!」

 

「了解」

 

アルティナはクラウ=ソラスで黒い猟兵たちの背後へ回る。

 

「こいつら……街で俺たちを探っていた……!」

 

「連中の仲間だったのか!?」

 

黒い猟兵たちは戸惑った。

 

「トールズ士官学院・第Ⅱ分校の者だ。邪魔するつもりはなかったが、少しばかり話を聞かせてもらおうか?」

 

「トールズ。内戦で邪魔してくれた連中か」

 

「待て、しかもコイツは……」

 

「灰色の騎士か……!」

 

「アンタたちはニーズヘッグだったな。ここで何をしているのか聞かせてもらえないか?」

 

「グッ…………ムッ?」

 

黒い猟兵の一人の視線がキリコに止まる。

 

「お前は……」

 

「?」

 

「キリコ……?」

 

「フッ、まさか標的の一つに巡り会うとはな」

 

『!?』

 

黒い猟兵の言葉に全員が驚く。

 

「ハアアッ!?」

 

「キリコさんが標的?」

 

「フフ、"残党"からはずいぶん恨まれているらしいな」

 

「ざ、残党……?」

 

「どういうことだ?」

 

「悪いが覚えがない」

 

キリコは即座に言った。

 

「まあいい。クライアントからは生かして連れて来いとのことだ。灰色の騎士共々痛い目に遭ってもらう」

 

「上等だ……やんのかコラ?」

 

「迎撃開始──話のつうじる相手じゃない。無力化次第、戦域を離脱する!」

 

ニーズヘッグとの戦闘が始まった。

 

 

 

ニーズヘッグは紫の猟兵たちとは異なるが、経験ではⅦ組大きく穴をあけているのに変わりはなかった。

 

それでも、Ⅶ組は戦術リンクを駆使して食らいついていった。

 

キリコは先ほどの残党という言葉が気になりつつあったが、戦闘開始の言葉で一瞬で頭の片隅に追いやった。

 

戦況が徐々にⅦ組に傾きつつあるのを肌で感じ取ったアッシュが前に出る。

 

「喰らえや!!」

 

 

 

「さぁ、派手に踊るとしようや。そらそらそらそらっ!おねんねするにはまだ早いぜ。オラァ!ベリアルレイド!いい夢は見られたか?」

 

 

 

アッシュのSクラフトがニーズヘッグに襲いかかり、猟兵たちは膝をつき、魔獣たちは消滅した。

 

 

 

「ぐっ……」

 

「さすがは灰色の騎士……内戦時より手強い」

 

「そしてキリコ・キュービィー……。内戦で敵兵をことごとく殺し尽くしただけはある。いい腕だ」

 

「…………………」

 

「キリコ……」

 

「……さて」

 

リィンは太刀を納める。

 

「アンタたちをここで拘束するつもりはない。だが聞かせてもらえないか?アンタたちと戦っていたあの紫の猟兵のことを」

 

「……っ………」

 

「貴様らに答える義理など……」

 

「……なら俺の質問に答えろ」

 

キリコは銃口を向け、黒い猟兵の一人に近づく。

 

「何?」

 

「答えろ、"残党"とはなんだ?なぜ俺を狙う」

 

「……………」

 

「そ、それがあったわね……」

 

「悪いが答えるわけにはいかん」

 

「この世界は信用が第一なんでな」

 

「拷問するなら好きにしろ。だが、死んでも答える気はない」

 

「チッ、こいつら……」

 

「さすがは高位猟兵団ですね」

 

「だが、一つ教えてやる。クライアントはお前を地獄の果てまでも追い詰めるだろう」

 

「その怨みは凄まじいものだったぞ」

 

「我らでさえ、二の句が継げなかったからな」

 

「な、なんなの……」

 

「尋常でないほどの憎悪を感じる」

 

(キリコさんをこれほどまでに怨む存在………まさか……)

 

ミュゼが核心に到達しようとした瞬間──

 

「フッ、どうやら時間のようだな」

 

「何っ!?」

 

「しまった……!」

 

奥からもう一方の黒い猟兵たちが駆けつけて来た。

 

「すまない。取り逃がした」

 

「構わん。別の標的がここにいる」

 

「何? ……ほう、これはこれは……」

 

「灰色の騎士もご一緒とは、依頼の標的には入っていないが」

 

「これ以上、首を突っ込まぬよう痛い目に遭ってもらおうか」

 

「そして、キリコ・キュービィー。生け捕りにさせてもらう」

 

猟兵たちはそれぞれの得物を構える。

 

(……教官)

 

(仕方ない。少々大人気ないが……。アルティナ、バリアで少しの間持たせてくれ)

 

(え)

 

(まさか──)

 

(了解しました)

 

アルティナはリィンの指示どおりバリアを張る。

 

「来い!灰の騎神──」

 

 

 

「はーい、ストップ!」

 

「フフ、それには及ばないよ!」

 

 

 

声のする方を見ると、崖の上に二人の女がいた。その内一人は導力バイクに乗っていた。

 

「あ……」

 

「あの人は……」

 

「ブレードに大型拳銃……」

 

「まさか、あの──」

 

黒い猟兵たちの動きが一瞬止まる。

 

「鈍いッ……!」

 

赤髪の女が隙をついて突撃する。

 

電撃を纏った弾丸と斬撃が黒い猟兵たちに襲いかかる。

 

(速い……!)

 

(クク、あの赤髪の女は……)

 

「こちらも行くよ!」

 

導力バイクに乗った女が崖を一気に下り、猟兵たちを蹴散らす。

 

「ぐはっ……!」

 

「あ、あれって導力バイク……!?」

 

(素敵です、お姉様)

 

再び膝をついた黒い猟兵は赤髪の女を見た。

 

「紫電のバレスタイン……!」

 

「それにログナー侯の息女か……!」

 

「フフ、覚えてもらって光栄ね」

 

「できれば仔猫ちゃんの方が嬉しいんだがね」

 

「クッ……!」

 

「……ギルドのA級など相手にしていられるか」

 

ニーズヘッグはそう言って去って行った。

 

 

 

「しかし君、背が伸びたわね~!大人っぽくなっちゃって、このこの!」

 

「ああ、見違えたよ」

 

「はは……本当にお久しぶりです。……お二人こそ見違えましたよ」

 

リィンの言葉に赤髪の女がビクッとした。

 

「こらこら、いきなりドキッとさせることを言うんじゃないわよ!?相変わらずの天然タラシなんだから……」

 

「ハッハッハッ、そちらの修行も積んだみたいだね」

 

「えっと……」

 

「もしかして、リィン教官の……?」

 

「フフ、といっても私はⅦ組の所属ではなかったが」

 

男装の麗人といった装いの女がユウナたちの方を言う向く。

 

「アンゼリカ・ログナー。トールズの出身で君たちの教官の一人、トワの無二の親友さ。よろしく頼むよ、仔猫ちゃんたち♥️」

 

アンゼリカのウインクにユウナたちは閉口した。

 

「ふふっ、お久しぶりです。アンゼリカお姉様」

 

「へ……お姉様?」

 

「お知り合いですか?」

 

「わりと前からね。久しぶりだね。"ミュゼ"君。殿下やエリゼ君から聞いている。いやはや、ますます可憐かつ小悪魔的になったじゃないか♥️」

 

「いえいえ、アンゼリカお姉様もますます凛々しく麗しくなられて」

 

「……………」

 

ミュゼとアンゼリカの間に入れず、ユウナたちは唖然とした。

 

「はは、二人が知り合いとは思わなかったけど」

 

「こっちにも黒兎以外に顔見知りがいるとは思わなかったけど。久しぶりね、ラクウェルの悪童」

 

「アンタもな。しかしなるほどな、アンタが旧Ⅶの教官だったのか」

 

「ええっ!?」

 

「知り合いだったんですか?」

 

「ギルド絡みでちょっとした縁があってね。それはそうと名乗っておきますか」

 

赤髪の女は腕を組んだ。

 

「サラ・バレスタイン。旧Ⅶ組の教官を務めていたわ。今は古巣である遊撃士協会に戻っているんだけど。よろしくね、新Ⅶ組のみんな♥️」




次回、最強と不死が出会う。

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